すてきな部屋に住んで、学業も終えることができるし、同じ年ばらくは、ここに近づいてはなりません、ジョン・リ ー。ほんのす の少年たちもほかにたくさんいるのだから。彼は、なぜスーといっ こしのあいだだけ。それが過ぎたら、問題は解決します。彼らにで 7 しょに住んではいけないかとたずねた。だが彼女は、考えられない きることは何もないのだから。愛しています。スー」 ことだと一蹴し、二度とその問題にふれようとはしなかった。 下の家に行ったが、パールも帰っていなかった。彼はドウェイン しかし、けつきよくドウェインが後見を引き受けることになり、 のアパートにもどり、しばらくテレビを見たのち、シャワーをあ ジョン・リーは、メルロールに近いビーチウッドにある、兄の小さび、べッドにはいった。二時半ごろ、ドウェインが帰ったが、彼は ートに移った。「農場の金の半分は、当然おまえのものた気づかなかった。 よードウェインは仕事に行く支度をしながら言った。「この秋から ドウ = インはいつも昼近くまで眠った。二人のあいだに共通の話 はまた学校に行くんだそ。判事にいわれたからな。それ以外には、題はなく、ドウ = インは黙っているのが好きのようだった。ジョン おれは何も干渉せん。ただ、あの女とは二度と会うな」ドウェイン ・リーはテレビを見たり映画に行ったりして時間をつぶし、スーか は、長椅子をベッドに作りかえる方法を弟に教えると、仕事に出からの連絡を待った。 けていった。彼はハイランドにある酒場の・ ーテンダーをしてお数日後、テレビの前で眠りにおちた彼は、深夜ドウ = インが帰っ り、仕事は夕方の六時から、店がしまる午前二時までたった。 た気配にめざめた。 , : 彼よ男をつれていた。ドウェインは顔をしか ジョン・リーは、メルローズとヴァインの角へ行く・ハスに乗り、 め、男は落ちつかぬ笑みをうかべた。ドウェインに何事かいった そこからハリウッドとハイランドの角へと乗りついだ。そしてタク が、彼は首をふり、男といっしょに寝室にはいり、ドアをしめた。 シイを拾い、ローレル・キャニオンの家にむかった。その日、スー ジョン・リーはべッドにはいり、男が帰ったのには気づかなかっ は留守で、パンキンの姿もなかった。三つの絵は額に入れ、壁に飾た。 られていた。破かれた絵も、修復がすんでいた。ほかの絵はどこに あくる朝、彼は寝室をのぞいた。ドウェインははだかでペッドに も見えなかった。家具はみな壁に寄せられ、フロアはほとんど空っ横たわり、眠っていた。そのわきに、なかば尻に敷かれるかたち ほになっている。むきだしの床板に青いチョークで図形を描いたよで、二十ドレし。、 ノ本カ一枚見える。ジョン・リーはドアをしめ、朝食の うすがあり、あわてて消したのだろう、ところどころ線が残ってい支度をした朝 る。部屋には変なにおいがたちこめていた。 皿を洗っているとき、ドウェインがはいってぎた。しばらくは何 キッチン・テー・フルの上で見つけた封筒には、彼の名前があつもいわず、インスタントコーヒーをいれていた。彼は下着姿のまま た。彼は、折りたたまれた便箋をぬいた。「わたしのジョン・リ テー・フルにむかうと、コーヒーをすすった。ジョン・リーは兄を無 と、それにはあった。「連中は二度と会ってはならないといっ視して、皿洗いをつづけた。やがてドウェインの視線を感じ、ふり たことでしよう。でも、あなたが来ることはわかっていました。しかえった。「おれをホモだと思うなよな」ドウェインは無感情にい
いても、わたしは驚きませんな」 家とは、なんと恵まれない一家だろう。妹は子供を八人も産みなが ら、六人も亡くしてしまった。五人は幼いころ死んで、今またウォ 「メイリーさん , 判事は不快そうに眉をひそめた。「少年の前で、 シュ・ジュニアが。 そのような話はなさらないでください」 農場のあと継ぎはウオシュ・ジュニアなので、 tL ーズおばの一家 「あの絵はご覧になったでしような ! 不潔きわまる ! 」 判事は立ちあがり、コートを着はじめた。「メイリーさん、画家はオクラホマをさがしまわった末、ようやく彼の行方をつきとめ たちはこの数千年、スードを描きつづけてきました。ヴァチカンのた。というより、彼の妻の行方を、もっと正確には、彼の以前の妻 コレクションをご覧になるとよろしいでしよう。それに、あの絵にの行方をつきとめた。ところがウオシ・ジ、ニアは、石油の掘削 は感心しました。わたし自身、ヌードを描いてもらいたいと彼女に機から落ちた。 ( イ。フで頭を砕かれ、六年前に死んでいた。妻は家族 に連絡もとらす、テキサスから来たメキシコ系の掘削技師と再婚 頼みこんだくらいです。行きましよう、ジョン。夕食に連れていっ し、今ではタルサに住んでいる。しかし薄情な女だとこ・ほして何に てあげるわ。それでは、みなさん」 なろう、どうせやくざなオデル家の娘なのだ。さいわいといえば、 ある日、ドウェインが面会に現われた。しかし彼が名乗らなけれ ・よ、ジョン・リーに見分はつかなかっただろう。七年前、陸軍に人ウオシ = ・ジ、 = アとのあいだに子供がなかったことだ。死産が三 ったときから、二人はまったく会っていなかった。ドウ = インは二回あっただけで、でなかったら今ごろは遺産相続の問題できっと面 十九歳、。ヒーコック家の男の例にもれす大柄で ( ンサムだった。彼倒なことになっている。もちろん、新しい夫とのあいたには、丸々 はジョン・リーと握手をすると、二言一一一一『〔声をかけたたけで、判事と肥えた褐色の赤ん・ほうが二人いる。しかしメキシコ人はまるで兎 みたいなものだから。 と話しあったのち帰っていった。 ドウェインに農場を継ぐ気はないようだ。売り払って、金を送っ ローズおばとその夫が、ホーリイから飛行機でかけつけた。彼女 ーの引きとり手には、やはり血 はジョン・リーにしきりにさわり、めん鳥のなくような声で話しってよこせと言っただけ。ジョン・リ づけた。それは、もうおまえを引きとりたいとは思っている。死んのつながりのいちばん濃いドウェインが順当だろう。ライラもいる だ妹の末っ子でもあるし、しかし今の状態では、乏しい稼ぎや物価が、おまえを養えるような体ではないし。もしドウ = インに引きと る力がないようだったら、自分はもう、このかわいそうな子をどう 高や何やかやで、とても養っていけそうにない。 妹をビーコック家に嫁がせてかわいそうなことをした。あんな不したらよいのかわからない、売春婦と同棲したような子を。 ローズおばとその夫は、ホーリイに帰っていった。 運続ぎの一家に。グレイス・エリザ・ヘスの夫も、彼女が埋められた 同じ日、ジョン・リ 判事はこういった。たいへんかわいそうだとは思う。しかし親族 ーが・ハスで旅立ったその日に死んた。トラクタ すき が引きとらないときには、未成年者である彼は、国家の庇護を受け 9 ーから落ち、自分の機械の犂にひかれてしまったのた。地面をはっ て家のすぐそばまで帰りついたが、出血多量で死んた。。ヒーコックることになる。といっても、これは考えるほどいやなことではな
が、答えを聞く勇気はなかった。 くなっていくんだけど、ここにいても熱くはなかったわ。そして光 「わからないのよー 。ハールの声は真剣だった。彼自身、今にもヒスが消えたときには、家もそこになかったの」 テリーの発作におそわれかねないようすだった。「火事があって : 。、 1 ルは立ちあがると、ジョン・リーに一通の封筒をわたした・ 「デッキにこれがあった。その前に、スーが投げたのね」ジョン・ 「火事 ? 」合点がいかず、たずねかえした。 リーは、自分の名前の書かれた封筒を受けとった。筆跡は彼女のも 「火事だと思う : : : 」 パ 1 ルの震える手から、プランデーのびんがのだが、ふだんよりもっと急いた感じのなぐり書きたった。彼は封 落ちた。彼は絨緞のしみに目もくれず、びんを拾いあげた。 筒をあけ、短い文面を読んだ。 「スーはどこ ? 」 その秋、彼はドウェインのア。ハートからまた学校に通いだした。 「スー : スーは家にいたわ。悲鳴が聞えた」空を見つめ、早口に呼び名をジョニーにしたのは、ジョン・リーが、カンザスの故郷と っこ。 スーのものであるからだった。狙って近づいてくる娘は多かった テートし、いっ 感情は消え失せていた。全身が凍りつき、麻痺していた。つぎのが、スーのあとでは、みんな生彩なく退屈だった。・ 瞬間、何かが噴きあげてきた。ジョン・リーは赤んぼうのように泣しょに寝ても、喜びはなかった。男がいし 、よってきても拒まないの きわめいた。すべてが終ってゆく。彼は、指の隙間からすばらし、 しで、男の数もふえた。金に関心はなかった。内に高まった欲求を解 ものがこ・ほれ落ちてゆくのを感じていた。 放してくれる相手がほしいたけだった。男でも女でもよかった。狐 ールはかたわらの革色の椅子にすわり、彼をなだめた。「今夜独な中年女のつばめにもなってみたが、求めるものは見つからなか っこ 0 スーはすっとあの家にいて、ひとりで歌っていたわ。声が聞えた。 しあわせそうだった。あたし行ってみたんだけど、スーは入れてく 十八になるころには、背はさらに二、三インチのび、肉もついて れないの。芸術家の作品は、完成するまでは見てはいけない。それおとなびてきた、彼はビーチウッドのアパート を去り、自分の住ま くらいの分別はあるでしよう、といって。あなたとスーだけのプラ いを持った。ドウェインには二度と会うことはなかった。 イベ 1 トな会だといったわ。それから歌声が聞えなくなって、今か彼の名前のある封筒は、長いあいだ持つうちに、すっかり汚れ、 らちょっと前よ、雷みたいな爆弾みたいな音がひびいたの。とびだすり切れた。彼は毎晩読んだ。「わたしのジョン・リー 」と、それ すと、明るい緑の光が家の中に見えたわ。家の中だけが光っているにはあった、「わかってください。一生懸命にやったのです、カの みたいに、火事とはちがうふうに。悲鳴が聞えた。聞いていられな かぎりに。成功したと思ったけれど、どこかが狂いはじめている。 いような、ものすごい悲鳴。ほかに別の声も聞えるの。何をいってそれがわかるの。十五のとぎのわたしを、あなたに見てもらいたか ったわ、。ンヨノ・リー るかわからないんだけど、おそろしい、何か嬉しそうな声。そのつ 。十五のわたしを、あなたに見てもらいたか ぎには、家・せんたいが同じ緑の光に輝きはじめた。光はどんどん強った。こわい」サインはなかった。 2 7
れた気ちがいじみたべッド掛けの上に、じっとすわっていた。やがろした初老の男が好きだった。両手は、永久にぬけそうもない油の て拳で涙をぬぐい、安物のトランクを持ちあげると、ミラーズ・コしみに染っている。カットサンガー氏は、くすんた赤い布きれで手 3 をふいたところだったが、それくらいで落ちるよごれではなかっ ーナーズまで一マイルの道のりを歩きだした。 こ 0 二人の兄のおさがりで、その朝の葬式にも着たよそいきのスーツ 「お母さんのことは、ほんとに気の毒だったな。お葬式には行きた は、埃りつ。ほい道をぬけるころには、袖口がすっかり白くなってい た。靴はおさがりではないが、こちらはなおさらひどかった。とびかったんたが、手が離せなくてな。知っとるだろうが、学校時代、 つきりの上等品なのに。「きっとまたとびつきりだよ、きようの暑お母さんとはずっと同じ学年だったんだよ」 さは」朝食の皿をかたづけたあと、台所の窓から見わたして、そう「ええ、知ってます。母から聞きました」 言うのが母の口癖だった。彼はガルフの給油所のべンチにすわる「ばりつとした格好のままで何をしとるんだ ? 」彼は・ほろきれをポ ーのトランクを見やった。 ケットにつつこみ、ジョン・リ と、細心の注意をもって埃りをおとした。 メスキートの茂みではセミが鳴き、そよともせぬ大気の中に、連「 ( スに乗るんですよ、カットサンガーさん」心臓がビョンとはね ノスではない。本物の・ハスなのだ。 れあいを求める執拗な歌声をひびかせている。ジョン・リーはこのた。前のようなスクール・・、 音が好きなほうだったが、母親にはうるさくてならなかったらし「どこへ行くんだ、ジョン・リー ? 」 「ハスはどこ行きなんですか ? 」 「気が狂わなかったらおかしいくらいだね」と、よくいった。 ローカスト カットサンガー氏は、ジョン・リーとならんでべンチにかけた。 彼女はそれをイナゴと呼んだ。だが本当の名前はセミであること セミのこ 0 また、聖書にある「西部方面は、ロサンジェルス行きがあと一時間もしたら通るよ。 を、彼は宀校で習っていたとをローカストともいう イナゴの災いが、ほんとうは・ ( ッタであることも知っていた。「ま東部方面は、午前中にセントルイス行きが来る。これはもう行って 「どうしてイナゴしまった」 あ、一つ勉強になったーと彼女はいったものだ。 「ロサンジェルスです。兄のドウェインが、カリフォルニアにいま が災いなのか、昔からふしぎに思ってたんたよ。茂みにとまってミ とこだろう。靴箱の中でクリスマス・カードを見て 。バッタなら、わたしだってすから」だが、・ ンミン鳴く以外、何もしてないのにさ いたが、住所までは目をとめなかったのだ。 わかるよ」そして、うれしそうに誇らしげにほほえみかける。その うず ドウェインといっし カットサンガー氏はうなずいた。「そうか、 たびに彼の喉のあたりにも、こころよい疼きがこみあげてくるのだ っこ 0 ょに暮すか、いい考えだ。こんな役立たすの農場にいても、どうに もならん。グレイス・エリザベスからも同じ話を聞いたことがあ 「やあ、ジョン・リー」 彼ははっと目を上げた。「こんにちは、カットサンガーさん。おる。お父さんはあれを売って、おまえといっしょに行くべきなん だ。しかし、どう見てもウオシュはそういう男じゃないしな」カッ 元気そうで何よりですね」彼は、母親と同い年の、このひょろひょ シカー・ダ
った。「おれは何もしないんだ。寝ているだけさ。金をくれるとい うやつがいるんだから、ことわる手はないだろう」彼はコーヒーに 目をもどした。 ジョン・リーは、ふきんをつるした。「わかってるよ」いったも のの、確信はなかった。「・ほくはかまわない」 ドウェインは無言のまま、ジョン・ ーがそこにいないかのよう にコーヒーを飲みつづけた。それ以後ジョン・リーは、兄が帰るこ ろには必ず眠っているように心がけた。 何日かたった夜、スーから連絡が来た。電話の声を聞いたことは なかったが、それにはいつもと違うひびきがあった。明るく、ハス キーな感じが薄れ、若く聞えた。「おいでなさい、 上機嫌の笑い声だった。「準備ができたの。すばらしい場面を見せ てあげるから」 ′トカー タクシーは一プロック手前で停まった。そこから先は、。、 と消防車でいつばいだったからだ。押しかけたやじ馬の中を走る途 中も、気が気ではなかった。だがスーの家にたどりついたとき、そ こには見るべきものは何もなかった。がたびしいう階段は二十フィ 1 トばかり斜面をの・ほり、中途で消失している。その先に見えるの は、かって家が存在していたことを示す、むきだしの四角い土地だ けだった。コンクリート の土台すら消えていた。 腕に手をおくものがいた。呆然としてふりかえり、そこに。ハ】ル を見た。言葉が出てこない。喉は凍りついていた。心臓は高鳴り、 満足に息もできなかった。パ 1 ルは彼の腕をとると、ハリウッドで の第一夜を過した家に連れていった。 パ 1 ルのさしだす・フランデーの一口は、喉を焼き、筋肉のこわば りをほぐした。「どういうことなんた ? スーはどこ ? 」たすねた ヒューゴー・ネビュラ両賞最多受賞に輝く ロバート・ A ・ハインライン 銀河市民 野田昌宏訳¥ 40 。 メトセラの子ら 矢野徹訳 3 7 0 〔ヒューゴー賞受賞〕 月は無慈悲な 夜の女王 矢野徹訳¥ 6 20 人形つかい 福島正実訳¥ 380 最新刊 〔ヒューゴー賞受賞〕 宇宙の戦士 矢野徹訳¥ 4 8 0 ハヤカワ文庫 7
三人の娘と二人の息子を亡くしていた。ときどき子供たちの名が思五になった、あのギラギラする十年前の夏の日、グレイス・エリザ いだせなくなることもあるが、そんなときのために名前は大きな聖ベスは息子のために死んだ。 書に書きとめられていた。 彼女は台所でタ食のあと片付けをしていた。ウオシュは畑にもど ったので、暗くならなければ帰って来ない。ジョン・リーは本をひ ジョン・リーは末っ子だった。人生の盛りを過ぎてからの子供な ので、グレイス・エリザベスには、彼はものうい月日の慰めとなつろげてキッチン・テー・フルにむかい、母親が興味を持ちそうな話題 彼女はふきんを手に、流しにもたれかかっ が、兄たちとはちがう方向に伸びてくれを読んで聞かせていた。 , こ。彼女よ、・ノョノ・リー た。そのとたん、食べたものが胃の中で宙返りするような感覚がお ることを願った。ウオシュ・ジュニアとドウェインは期待はすれだ った。まるで父親そっくり、想像力に乏しい、こっこっタイプであそった。何カ月か前から予感していたことだった。それが、ついに るばかりか、学校の成績も悪く、警察のご厄介になることまであっ来たのた。 たからだ。もちろん血を分けた息子たから、また愛してはいる。た あの子はまだ若すぎる、と彼女は思った。せめてあと二年余裕が ・、、なぜ愛さなくてはいけないのか、このごろでは理由がわからなあったら。彼女は、本に没頭する息子を見つめた。タ陽が茶色の髪 が本を読んでくれるこ くなることもあった。彼女は、ジョン・リー にちらちらと照り映えている。お父さん以上の美男子になったみた とを願った ( ああ ! 本を読まなくなってどれくらいになるだろ 、と彼女は思った。あんなにお父さん似で。でも、それは見かけ 娘時代にはいつも本ばかり読んでいたのに ) 、芸術や遠い世界だけ。見かけだけ。 について知識を広げてくれることを願った。彼女は、自分の期待が彼女はふきん掛けに布きれをひろげると、大きな古い家の中を通 大きすぎることを知っていた。だから蔭の力になるだけで、満足しりぬけた。もう長いあいだ、家を意識して見たことはなかった。彼 女に歩調を合わせるように、ゆっくりと古び、色あせてきたので、 ウオシュは、上の子供たちのときと同様、ジョン・リーにも関心 ほとんど気にもとまらなかったのた。今あらためて眺めるそれは、 を示さなかった。畑仕事の手伝いを頼むわけでもなく、手をほしが何十年か前はじめて移り住んだときの家とは似ても似つかなかっ っているようすもなかった。そんなわけで、グレイス・エリザベス た。昔の家がつなじ風で屋根をとばされたのを機会に、一九一三 は息子を自分のまわりにおき、家事を手伝わせ、話しかけ、彼が学年、ウオシ、の父親が建てたものである。それは当時の風潮になら 校で学ぶことを自分も学びとろうと努めた。彼女は与えられるかぎって、何代もの家族がいっしょに住めるよう、大きく設計された。 りを息子に与えた。暮しは楽ではなかったが、ときおり手もとに残彼女が移り住んたときには、。 ヘンキは塗りかえられたばかりで、ホ る二、三ドルは手がたく貯金にまわされた。 1 リイから八マイル、ミラーズ・コーナーズから一マイルの地に、 彼女はジョン ・丿ーをこよなく愛した。もしかしたら彼女が生涯まるで大きな白い箱のように見えたものだった。 ひとりかもしれない。だから、彼が十 に愛したのは、ジョン・リー まもなく苦しい時代が始まった。だが不況と砂塵にもめげず、ウ こ 0 6 3
ると、猫のびつくりした顔をまた見つめた。とっぜん彼女は、こらも、最後の手紙はそこからとどいたが、それは一九二七年、ウオシ えきれぬ笑いの発作におそわれ、窓べりにつつふしていた。「もど ュの母が死んだ年のことで、今では消息もわからない。グレイス・ ート・ウオン エリザベス・ウイレットは、一九三〇年の秋、デル・ハ っておいで、パンキン」と息をはずませながら、「もうおしまいよ」 ーン・。ヒーコックと結婚した。それは、父親であるウイレット 猫は疑わしげな目を向け、手すりから茂みにとびこんでいった。 老判事のすすめによるものたった。グレイス・エリザベスはどこと いって取り得のない内気な娘であり、このままでは一家のいかず小 これは同じく十年ほど前のカンザス、彼の十五の年、大気が灼け た金属のようなにおいを放ち、セミの鳴き声にふるえていた夏に始母になってしまうと、判事は心配したのだ。彼は正しかった。しか まる。それは一カ月後、彼がまだ十五のうち、ローレル・キャニオし父親の十渉さえなかったなら、彼女はもっと仕合わせな人生を送 ンの家が、熱のない、奇怪な緑の炎のなかで燃えっきるとともに終っていたことであろう。 っこ 0 ビーコック家は百年近くも前からこの土地にあり、ほどほどに栄 彼の名前は、ジョン・リー・ ビーコック。カンザス南部にはよくえていた。南北戦争、南部諸州再編入、それに続く州としての時代 ある、変りばえしない名前である。母と二人のおばとその夫たちを耐えぬいてはきたが、大不況を乗りきれるほどではなかった。ウ イレット判事にとって、ウオシュは、グレイス・エリザベスに見つ は、ジョン・リーと呼んた。学校友だちはジョニーと呼び、彼はこ けてやれる最高の伴侶たった。感じのよい青年で、想像力には欠け のほうが気にいっていた。父親から名を呼ばれたことはなかった。 彼の父親は、世の中から取り残された男だった。だが、もしそれるが、労を惜しまないという美点があった。 に気づいたとしても、べつに気にかけはしなかったろう。ウオシュ しかしビーコック家は代々、薄い不運な血筋を受けついでいた。 ・。ヒーコックは、土地にしがみつくだけが生きがいの自作農たっ子供はたくさん生まれても、育つものは少なかった。ウオシとグ た。土地は彼の寡黙な忠誠に、毎年裏切りをもって報いた。ウオシ レイス・エリザベスの夫婦にしても、それは同様たった。彼女は八 = が人生に求める楽しみは、土地を耕し、日に三度の熱い食事をと人の子供を産んだが、残ったのはそのうちのわすか三人。最初の子 り、眠り、充分に気が乗れば性交する、その四つしかなかった。子ウオシュ・ジュニアは、オデル家のやくざな娘と結婚し、油田で働 よそ 供たちはひょっこり現われる他所者であり、しばらく彼の眠りを妨くといってオクラホマに引越していった。音信が絶えて十三年にな げたのち、くすんだ家の中に、あるいはカウンティ・ライン墓地にる。三番目の子ドウェイン・エドワードは、陸軍を除隊したのちロ 消えてゆくのだった。 サンジェルスにとどまった。毎日クリスマスに送られてくるカード ーの母親は、旧姓をウイレットといった。二人のおばを、彼女はすべて大事にとっていた。娘たちが生きていれば、と思 は彼女の実の姉妹で、ローズとライラといった。ウオシュにも、べうこともあった。娘がひとりでもいたなら、きれいなドレスを作っ 5 ンシルヴェニアのどこかに弟がひとりいるはずだったーーーー少なくとてやったり、話し相手にもなってもらえただろうに。しかし彼女は
世界 S F 情報 やらソ連界に新しい動きがあるよう賞している。 ・ソ連で翻訳出版さかん だ。この版に入っている作家の顔ぶれは、 モスクワの〈ミ ール〉社は、すでに五〇・プロック、・・コーニイ、・ハ 結成したばかりのファンタジイ賞委員会 リスン、・スタージョン、・・フラッド 点近い翻訳を出している〈外国の〉 は、このほど〈フリツツ・ライ・ハ ーズに、昨年はアイザック・アシモフ ペリ、・モリソン、・スレッサー、 O ンタジイ賞〉を設立した。これは年に一度 の一九七二年の作品 "The Gods Them- ・・コーンプルース、・テン、 O ・アファンタジイの分野で活躍している作家に selves" とアーサー・ O ・クラークの一九七ンヴィル、・シルヴァー・、 ーグ、・プ与えられる賞。第一回の賞は八月十二日か 三年の作品『宀工田のランデヴー』 "Rendez ・ リッシュほかイタリア、フランス、ス。ヘイら十四日までロスで開催されるファンタジ vous With Rama" の二作を加えた。訳ンの作家。 イ・フェア大会で、当然ながら、ライ・ハー 者は英語圏の翻訳では定評のあるイ・ に与えられることになっている。 ・カザンツェフの作品集出版さる グーロワとカ・セーニンがそれそれあたっ ・「恐竜の島」の統篇完成 ている。アシモフの作品には、ソ . 連の今年から来年にかけアレクサンドル・カ 評論家の第一人者と目されるエ・・フランジザンツェフの「作品集」全三巻が〈若き親「恐竜の島」の続篇、・ハロウズ原作の映画 スがクラークの作品にはアカデミー会員の衛隊〉社から出版される。出版部数、一〇「時に忘れられた人々」 "The people エリ・プレホフスキーが詳しい解説を書い万。収録される作品は最近作が多い。全ン that Time Forgot" が四月、完成した。 ている。この二人は英米を代表する作家とコンクールで最高賞をとった初期の製作陣は前作と同じ。出演者の顔ぶれは。ハ してソ連でも人気がある。クラークには『燃える島』などは入らない。 ツングース トリック・ウェイン、ダグ・マックル 『二〇〇一年宇宙の旅』、『いるかの島』の隕石を世界的に注目させるきっかけを作っア、セアラ・ダグラス、ダナ・ジリスビー ほかに多くの短篇、アシモフには『われは た作家として著名。チェスマスターの称号など。監督も前回と同じケビン・コナー ロポット』ほか多数の露語がある。 を持ち、チェスをテーマにしたもある彼は次の作品に自分とモーリス・カーター が、「作品集」には含まれないもよう。 との共同脚本による「アトランチスの七都 ソ連では各種の年刊が出ている。中 (Z ・ ) 市」 "Seven Cities to AtIantis" を予定 でも「アンソロジイ」は、一 しているとのこと。 ・ファンタジイ賞、ニっ 九六四年の創刊以後数年、ユニークな翻訳 ・作家の近況 の紹介をしてファンの注目を集め英国ファンタジイ協会が英国ファンタジ ていたが、六七、六八年と一一年にわたってイ賞を発表している。受賞作以下のとおり。 アイザック・アシモフは五月、軽い心臓 ハインラインの作品を載せたあと七一年ま〈ノヴ = ル部門〉受賞作 ( オーガスト・ダ発作に見舞われたが、病院で快方に向って で中断したことがある。復刊後はとまどう ーレス賞 ) 『悪屯とジョージ』 "The Dra ・ いるとのこと。これからは仕事を切りつめ ほど内容が大幅に変り、翻訳を載せな gon and the George' ・ゴードン・・デることになりそうだ。 くなった。最新の七六年版は、生物学と医イクスン。 ーラン・エリスンはネビュラ賞の発表 学をテーマにした翻訳特集になってい 〈ショート・ ストーリイ部門〉受賞作『沈会場で、ドラマ部門を該当作なしとしたア る。七五年版に、ソ連のファンにとつみゆく二つの太陽』 "Two suns setting" メリカ作家協会の近視眼的姿勢とハリ ては幻の作家であったハインラインの短篇カール・エドワード・ワグナー ウッドとの関係について爆弾発言をおこな リ J 、つ が八年ぶりに紹介されたことといし この他、映画部門では「オーメン」が受 、同協会を脱退した。 幻 4 ーー