前 - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1977年9月号
220件見つかりました。

1. SFマガジン 1977年9月号

た。内部は、リ・ヘラルの商店にはいったように凉しかった。 してくるようだった。夕食の時間になり、・ハスはトウカムカリに停 ハイウェイへともどる・ハ 切符を買い、前のほうの席にすわると、 まった。朝から何も食べていす、膀胱ははちきれそうになっていた。 9 ミラーズ・コーナーズをふり スにゆられながら、窓に顔を寄せた。 どきどきしたわりに、事はすんなりと運んた。レストランには前 かえり、手をふったが、カットサンガー氏は赤い旗をおろすところにも入ったことがあるし、トイレの場所も、食事代を払う要領も、 で、こちらを見てはいなかった 9 客の動きからすぐにわかった。トウカムカリを出るころには、あた りは暗くなっていた。彼は眠って、ゆっくりした時の流れをやりす ジョン・リーはシートにもたれ、体を抱きしめた。微笑がまた浮 ごそうとした。すばらしいことが翌日あるときには、いつもそうし かぶのはどうしようもなかった。しばらくして、他の乗客を見わた す余裕ができた。数はそんなに多くなく、よそいき姿でない客も見たものた。だが例のとおり、早く眠ろうとすればするほど、目はさ えてくるのだった。 えた。それで上衣をぬぐ決心がついた。彼はシートに落ちつくと、 窓外を流れすぎてゆく、日ざしに焼かれたカンザスの田園地帯をな朝食のためにパスが停まると、彼は目をさまし、あわてて上衣を がめた。ふしぎだ、と彼は思った、スクール・・、 ノスから見ていたの膝にかぶせた。人に見られなかったろうか。客がみんな降りてしま とそっくりだぞ。微笑はそれからも、いくたびとなくこみあげ、こうと、彼は上衣で前をかくし、トイレにかけこんだ。どこにいるの らえるのに苦労した。 か、たしかなことはわからない。だが車はすべてアリゾナのナンく ・プレートをつけていた。 ・ハスはホーリイを素通りした。高い時計台のある、まっ白なロコ バスは夜になって、ロサンジェルスのターミナルにはいっこ。・こ コ風の裁判所を過ぎ、夏休み中の学校の前を通り、線路が外されて がジョン・リーにとっては、もう何時間も前から市中にいるような 久しい鉄道駅の廃屋をわきに見ながら小さな丘を越え、クルッキド 感じだった。これほどの大都会だとは夢にも思っていなかったの ・クリークの橋をわたるとそこはもう町はずれだった。 レ入ト・ストップ だ。彼は他の客の動きをながめ、彼らにならってトランクを受けと リべラルで・ハスは停まり、「休憩 ! 」と連転手が声をはりあげ っこ。 た。レスト・ストップがどういうものかわからないジョン・リー そして、ロサンジェルスに歩みでた。 は、車内に残ることにした。降りない客はほかにも何人かいた。心 両手でトランクをさげ、彼はあっけにとられて市街を歩いた。ビ 配するほどのことではないようだった。 リべラルを出ると、彼は目をきよろきよろさせ、左右の景色をい ル、光、車、人びと、ありとあらゆる人種。中国人を見るのは、映 っぺんに見るように努めた。それから先は、はしめての土地だった画は別にして、それがはじめてだった。もっとも、日本人ではない からだ。しかしオクラホマはカンザスそっくり、テキサスはオクラ と言いきってよいのか確信はなかったが。映画館もずらりと並んで ー・メキシコもテキサスと似たりよったりだ ホマそっくりで、ニュ いた。映画は好きで、ずっと昔ホーリイの劇場がつぶれる前には、 った。たた、州を一つ過ぎるたびに、景色はほんの少しずつ荒涼と土曜の午後になるとほとんど必す見に行ったものである。

2. SFマガジン 1977年9月号

「前にお会いしましたかね ? 」 「それはどうもーーではご幸運を祈ります」 「さあ、どうかなあ。もしそうならお・ほえているはずですが」 わたしは衝動的に手をさしだした。彼はその手を握って、微笑し こ 0 彼はかぶりを振った。 「鈴をかすかに鳴らして、人の考えを悩ませるというようなところ「ありがとう、ドンさん」 があるなあ」彼は言葉をついだ。「あんたはわたしの心を波立たせ 次は。次は、次は、次は : る」 デイプを動かすことはできなかった。そしてライラ・サッカレー 「それが・ほくの意図たから」 は、話すつもりだったことはすべて話してくれた。まだドンに電話 「この町にご滞在 ? 」 しても意味がない もう少しいうべきことがなければだめた。 空港への帰途、わたしは考えた。夕食前の数時間はいわば公的な 「連絡できるように電話番号を教えてもらえませんかね ? なんか立場にある人々と話し合うにはもってこいの時間だ、夜がよごれ仕 事にもっともふさわしいように。はよはたら理学的、だがいずれに 新しい考えでも浮かんだら電話しますよ」 「考えが浮かぶとおっしやるなら、いまそうしていただきたいですせよ真実。ドンに電話をする前に話しあう価値のある人間がいるな ファイルをくって らば、この日の残り時間を無駄にしたくはない。 「いや、もう少し考えなければ。どこへ連絡したらいいのかな ? 」みて、その人間がいると思った。 マニイ・ ーンズにはフィルという弟がいた。彼と話しあえばな わたしはまた部屋をとってあるセントルイスのモーテルの名前を にか役に立つかもしれないと思った。なんとか、そこそこの時間に 告げた。あそこなら定期的に電話をかけて伝言があるかどうかチェ ニュー・オーリンズに着いて、彼がなにを話してくれるかしらない ックできる。 「よろしい」彼はいった。そして受付けのそばの間仕切りのほうへが、それを聞いてから二、三の進展についてドンと話し合い、あの 船についてはどうすべきかを考えればいい。 行き、そのそばに立った。 わたしも立ちあがり彼のあとから、受付けのそばを通って、廊下空は鉛色で、いまにも雨がおちそうだ。この場所から早く逃げだ したい。で、そうすることにした。当面、これ以外になすべきこと へ出るドアの前で立ちどまった。 を思いっかなかった。 「一つだけ : : : 」わたしはいった。 空港で急いで切符を買い、またもやきわどい便に間にあった。 「もしあれがあらわれて、あなたが阻止なさったら、電話してくだ搭乗する飛行機へ急ぎながら、わたしの眼は動くエスカレーター の上で、どこかに見お・ほえのある顔とすれちがった。この種の場合 5 さいませんか ? 」 を待っていた反射作用がわたしたち二人を捕えたらしく、彼も後を 「ええ、そうしましよう」

3. SFマガジン 1977年9月号

PROFESSOR JAMESON 漑 :SPACE ADVENTURE ~ い議ー 爺ま 0 「さ 当広転 ・ R. 0 前 $ に 一九六七年にエース・ブックスが、 〈ジェイムスン教授シリーズ〉を三編す つ一冊にまとめて出したとき、表紙はグ レイ・モロウが担当した。これはぐっと 当世風である。触手がやけに長いのと、 頭の小さいのが気になるーーーといえば気 になるが : ところで先月号の始めに書いた、もと 特攻隊員の大月氏が妙に関心を示した、 その″頭のとンがった怪物″の一件であ」 あのときかれは、なにかを話そうとし て、そのまま本番に入ったのでそれきり一ゾ にな「てしま 0 たのだが、その後、例の 〈およげ ! たいやきくん〉の騒ぎなど が入って話すひまもなく、ひょいと隸い ー 0 に」 AM 3 , 0 を N す u 盟 冦飛 . 0 前 2 $ ・ om を襲物 0 、ド Book Pubtication

4. SFマガジン 1977年9月号

「あんた、サッカレー先生を待っている方 ? 」 一服しおわ 0 たところで、悪は怠惰の手に仕事を見つけてくだ「そうです」 さるのだと思い、彼の提案に感謝した。わたしは玄関のほう〈ぶら「すぐにあが 0 てくるようにい 0 てくれ 0 て」 ぶらと戻った。ガラス戸越しに、五階の住人の名を読んだ。 = レベ 「どうも」 ーターであがっていき、ドアの一つを叩いた。ドアが開く前にノー わたしはふたたび = レベーターであがり、彼女のドアの前に立っ トがよく見えるようにもちなおした。 た。ノックに答えて彼女がドアを開け、わたしを招じ入れ、居間の 「はい ? 」小柄、五十がらみ、好奇心旺盛。 むこうはしのすわり心地のよい椅子にわたしが腰をおろすのを見と 「わたくし、スティーヴン・フォスターと申しまして、グランツさどけた。 。北米消費者連盟の調査をやっておりますが。ほんの二、三分、 「コーヒーよ、 冫し力が ? 」彼女は訊いた。「いれたてよ。よぶんにい お時間をいただきまして、奥さまがお使いにな 0 ていら 0 しやる製れすぎてしま 0 て」 についての質問にお答えいただければ、謝礼をさしあげたいと存「それはけ 0 こうですね。いただきます」 しますが」 彼女はすぐに茶碗を二つもってきて、一つをわたしの前におき、 「おや , ーー・謝礼をくださるって ? 」 わたしの左側のソフアにすわった。盆の上のクリームと砂糖は無視 奥さま。十ドルです。一ダースばかりの質問で、ほんのして、「ーヒーを飲んだ。 一、二分ですみますですが」 「あなたのお話は興味があるわ」彼女はいった。「話してちょうだ 「いいわ」彼女はドアを広く開けた。「お入りにならない ? 」 「いえ、けっこうです。きわめて短いものですので、入ってもすぐ「承知しました。 ( ングマンと呼ばれているテレファクター装置、 田るようなわけになりますから。まず第一問は、洗剤の : : : 」 現在、おそらく人工知能をそなえているとおもわれるものが、地球 十分後、わたしは、経費のリストにインタビ = ー三軒分の三十ド に戻ってきたそうでーー」 ~ を書き加え、ロビイに戻ってきた。情況が予想もっかないものに 「仮説よ」彼女はいった。「わたしの知らないことをあなたが知っ ( ちみちているとき、わたしはその場しのぎのお遊びをやり、できているのでないかぎり。 ( ングマンの船が再突入し、メキシコ湾に ) かぎりたくさんの偶発的出来事をもりこむのが好きだ。 墜落したと聞きました。船になにかが乗っていたという証拠はない それからまた十五分ばかり過ぎたころ、 = レベーターが開いて一一一わ」 ( の男を吐きだした , , ー若僧、若僧、そして中年、くたけた服装「しかし論理的な結論たとおもわれますが」 何事かくすくす笑っている。 「 ( ングマンがあの船を何年も前に最後のランデ・フー地点にむかっ いちばん手前の大柄な男が、つかっかと寄ってきた。 て送りかえし、それが最近、その地点に到達し、再突入の。フログラ こ 0 4

5. SFマガジン 1977年9月号

ての楽しい闘いで、負傷者も死者も、暗くなると同時に健康そのも 問題は、もちろん、〈地獄〉では目新しいことが何も起こらない のに戻るのである。しかし、人を殺し殺されるのに、どれほどの方ということである。しばらくすると物語はすべて語り尽くされ、新 法があるというのだろう。狩りや闘いの快感ですら、ある程度の時しい物語がないのだから、語ろうにも語るような話はなくなってし 間がたっと、妙味がなくなってしまう。前にも同じことをしたようまっていた。会ったり話したりしようにも、新しい人間すらいなか な感じを抱き始めるのである。長い長い時がたっと、フィアンナのった。王国の外から、フィアンナの前なり後なりにやって来た人が いたとしても、彼らはいっさい知らなかった。フィオン・マク・ク やってきた事はすべて混ざりあって、まるで強すぎる火で長く煮込 ーメイルはさんざん知恵の親指を噛みしめた末に、こう推理した。 みすぎたアイルランド風シチューのようになってしまう。肉片もじ やがいもも野菜も個性をなくして、単なるどろどろして味もないご他の者は、〈地獄〉の中のどこか彼の知らない、行けない所にいる った煮になるのである。 ー 03

6. SFマガジン 1977年9月号

「それはおごりだよ」 いのだろうか。 「すみません、ウオレンさん」 「なんてこったー ウオレンは小声でいった。つかのま座席に沈み 「かまわんさ。うう : : 街へ来てどれくらいになるんだね ? こんだが、そこで結論に達したようたった。「そうだ、うう : 「ちょっと前に着いたばかりです。コンチネンタル・トレイルウェ 。思いだしたことがある。今夜はどうも泊めてやれそうもな イズで、カンザスのミラーズ コーナーズから」ジョン・リーに いよ。実をいうと、急がなくちゃならん。すまんな」 は、まだ自分のいる場所が信じられなかった。だから声にたして言 「いいんです、ウオレンさん。おっしやってくれただけでも感謝し った。「ロサンジェルスに来てよかったと思います」 ています」 「もう泊る場所はきめてあるのかい ? 」 「楽しかったよ。じゃあな」彼はあたふたと歩き去った。レジの前 そこまではまだ考えていなかった。「 でとまるのが見えた。男の姿が消えると、レジ係はジョン・リーに いいえ。まだです」 ウオレンはほほえみ、すこし気をゆるめたようたった。調子はむかってうなすいた。 上々だ。もっとも、この坊や、いなか臭いところをちょっとオー 「うまくいったじゃないの、ジョン・リー・ 。ヒーコック坊や」きれ 1 にやりすぎてるが。「今夜は心配しなくていい 。うちに来て、あ いな南部なまりの声が、耳もとでささやいた。ふりかえると、鼻を した、さがしに行くんだ」 ぶつけそうな近さに、にやにや笑う黒い顔があった。「タ食おごっ てもらって、おねんねしなくてもいいなんて」 「すみません、ウオレンさん。助かります」 「えっ ? 」何のことかわからない。 「いいんだよ。うう : : どうしてロサンジェルスに来たんだね ? 」 シートの背もたせの上に、また一つ、今度は白い顔が現われた。 ジョン・リーはロにほうばった食べものをのみこんだ。「おとと 「すわっていいかな ? 」ウオレン氏の口調をみごとにまねて、その ママが死んで。死ぬ前に、うちから逃げだすお金をくれたんで 顔がいった。 「ええ、 いですよ」男たちは通路をまわり、むかい側にすわっ 「しばらくボーチに坐って、休みたいの」それが最後の言葉だっ た。二人とも、カットサンガー氏に負けないくらいひょろひょろし 「ロサンジェルスとセント・ルイスのどっちかで、先に来たのがロていた。すこし変な歩き方をするのが気になった。 黒いほうがいった、「あたしパール、こちらはディジー ・メイ」 サンジェルス行きの・ハスだったから。彼は暗い思い出をわきに押し 「こんばんは」ディジー ・メイは、ありもしないガムをかんでい やった。「で、ここにいるんです ! 」 ウオレンは見つめた。その顔はもう笑っていなかった。「きみはる。 いくつなんた ? 」 「ほんと ? 」にやにやしてジョン・リ 1 はきいた。 0 、 , / 0 「一月で十五になりました」かわりにウオレン氏の年をきいてもい 「ほんとって何が ? 」とノ 3 4

7. SFマガジン 1977年9月号

・フェントリスをさがしているんですが」 街へ入っていくと、嵐の前触れの気配を感じた。黒い雲の壁が、 「わたしがディビッド・フェントリスですよ」 〔のかたに築かれつつあった。しばらくして、ディ。フが仕事をして るビルの前に立ったとき、雨がポッポッおちはじめ、汚れた煉瓦「はじめまして」いいながら、わたしは彼が立っているところへ近 づいた。「あなたが、昔、関係しておられたあるプロジェクトに関 ) 壁にぶつかってはねかえった。壁がすっかりきれいになるには、 っと降らなければためだろう、このあたりの建物はどれも。彼はする調査に協力していますが : : : 」 ) よっと前にもう来ているはずだとわたしは思ったように記憶す彼は微笑してうなすき、わたしの手を握った。 「ハングマンですな、むろん。よろしく、ドンさん」 「ええ、ノ、 、ノグマンです」わたしま、つこ。 冫しナ「目下、報告書を作成 肩をすくめて雨をはらい、中へ入った。 案内板が指示をあたえてくれ、エレベーターがわたしを上に運中でーーこ わたしの足が彼の部屋までの道をたどった。ドアをノックし「ーーそれで、あいつがいかに危険かということについてわたしの ~ 。しばらくしてもう一度ノックした。またも反応なし。ノブに手意見を聞きにきたんですな。おかけなさい」彼は、作業台のはしに ある椅子を示した。「紅茶でもどうです ? 」 かけ、ドアが開いているのを発見し、中へ入った。 ひとけ そこは人気のない狭い待ち合い室で、緑色のカーベットが敷いて「いや、けっこうです」 のる。受付の机はほこりをかぶっている。部屋を横切ってプラスチ「飲もうと思っていたところだが、 「ああ、それでしたら : : : 」 - クの間仕切りのうしろをのぞいた。 男がこちらに背を向けてすわっている。間仕切りを指関節でたた彼は別の机に近づいた。 「クリームがなくて。すみませんな」 。それを聞きつけ男が振りむく。 ハングマンに関係があるとどうしてわかっ 「かまいませんよ。 たんです ? 」 おたがいの眼があった。彼の眼は相変らず角縁でふちどられ、 彼は茶碗をわたしにさしだしながら、ニコニコ笑った。 いき輝いていた。レンズは前より厚くなり、頭髪はうすくなり、 「なぜならばあれが戻ってきたからですよ」と彼はいった。「それ はややこけていた。 に、確かにあれほど多くの関心をもってわたしが接したのはあれた 彼の疑問符は空中で震え、彼の視線は、わたしに気づいたという ハ配を見せなかった。図表の東の上にかがみこんでいるところだっけですからな」 「それについて話していただけませんか」 。金属、石英、磁器、ガラスでできた、いびつな籠が手近のテー 「ある点までなら」 - ルにのっていた。 ーしナコアイビッド 「その点とは ? 」 「・ほく、ドンです、ジョン・ドン」わたしよ、つこ。 ー 5 2

8. SFマガジン 1977年9月号

にやらごたごたのっているマントルビースがあって、そのせまい炉「木なんぞたたくのは、なんのためかね ? 」 の中で薪がじゅうしゅう、 しいながら煙を吐きたしている。わたしは わたしはニャリとした。 ビールを飲み、それらの音に耳をすませた。 「ヘンリ・メンケンご最屓のもぐり酒場に愛情を示していたところ うまいぐあいにドンがあらわれなけれ・よ、 ーしいがとわたしはなかばさ」 願っていた。春のあいだくらい生活を支えてくれるたくわえは十分「ここは、そんな昔からあるのかね ? 」 わたしはうなすいた。 にあったから、働くという気分ではじっさいなかった。ずっと北の 方で夏を過し、目下はチエサビーク湾に錨をおろしているが、これ「それでよめたそ」彼はいった。「きみは過去をなっかしんでここ からカリ・フ海にむけて航海を続けたいのだ。増してくる涼気と怒りに来たんだなーーーそれとも現在に背を向けてというべきか。どちら つ。ほい風が、これらの緯度にとどまりすぎたことを教えてくれた。 か・ほくにはわからないが」 ただし、なじみの酒場に真夜中まで居すわるたけの余裕はあった。 冫しナ「メンケンが立ち 「その両方がちょっぴりかも」わたしま、つこ。 出帆まであと二時間 よってくれたらなあ。現在についての彼の意見を聞きたいもんだよ きみはここで何をしてる ? 」 サンドイッチを食べ、ビールをもう一杯注文する。半分ばかり飲 みかけたところで、トップコートを腕にかけて、首をねじまわしな「何って ? 」 「現在。ここで。いま」 がら入口に近づいてくるドンの姿が目にとびこんできた。彼が、 「ロンー 「ああ」彼はウェイトレスをつかまえ、ビールを注文した。「商 ほんとにきみなのかい ? 」とテー・フルの横にあらわれた しナ「コンサルタントを雇うために」 用」彼はそう、つこ。 ときは、わたしもそれに釣合う量の驚きを製造した。 「ああ。商売のほうはどう ? 」 立ちあがって彼の手を握りしめた。 / しナ「こみいっている」 「アラン ! 世間は狭い、とかなんとかいうじゃないか。かけたま「こみいっていてね」彼よ、つこ。 え ! かけたまえ ! 」 わたしたちは煙草に火をつけた。しばらくして彼のビールがき た。煙草を吸い、ビールを飲み、音楽を聴く。 彼は向いの椅子に腰かけ、左手の椅子にコートをかけた。 「この町で何をしているんだ ? 」彼がきく。 わたしはあの歌を唱った、またいっか唱うだろう。この世はアッ 「ちょっと立ちょっただけ」わたしは答える。「友だちにこんにち。フテンボの音楽のよう。わたしの人生に起った数多くの変化につい はをいいに」目の前の年代物のテープルについている傷やしみをたていえば、その大半が、ここ数年間に起きているように思える。数 たいてやる。「ここが最後の寄港地なんだ。あと二、三時間で出発年前にも、そんなことが頭に浮かんだ、数年後にも同じように感し るのではないかという予感がするーーっまり、ドンの商売が、その するつもりさ」 彼はクスッと笑った。 前に、浮き世のわずらわしさやコンデンサーにわたしをまきこまず

9. SFマガジン 1977年9月号

ようにさせたからである。一同が歌ったのは昔から伝わる素晴らし頼りにしていた、賢明なる老助言者フェルガス・フィンヴェルと、 いフィアンの行進曲で、中のいくつかはフィアンそのものより古眼をつぶって頭の奥の暗闇を覗きこむと、世界中の至る所で何が起 8 く、《赤枝騎士団》の時代やク 1 フーリンの頃にまでさかの・ほ こっているか見えるという才能の持ち主デアリング・マク・ドー り、ある美しい行進曲など、五百年も前の女王マー ・モン・ルアと、そして最後に、並みの人間からは隠された事柄に精通している トの世から伝わったものだと言われていた。というのも、この頃も神官デュアナハ・マク・モーナとである。この、フェルガスとデア 現在と同じで、良い曲はいかに古くともアイルランド人には決してリングとデュアナハとの三人はずっと前に出会って、長い間ともに 忘れられないからである。 さまよい ともに語り、考えあってきて、フィオン・マク・クーメ イルとオスカ・マク・オイシンとディアールミド・ オ・デュイヴナ そこで、声の主が増えるにつれて歌声も大きく、遠くに届くよう とがたどり着いた説と同じものを結論としていたが、ただ、何より になり、一同を包んで冷たく重たくたれこめる灰色の霧を貫いて、 も哲学者たちなので、考えが深まっていた。 より大勢のさまよい人を呼び寄せることができたのである。 一曲歌い終えた折りおりに、一同は足を止め、輪をつくると外をそして、この三人が最後となった。 向き、全員が声を揃えて「おおーい」と三度叫び、返事があるかど しかし、そうとは知らぬフィアンの強者たちは進み続けた。 うかじっと耳を澄ませて待ち、答があろうものなら、大喜びするの この後、計ることはできない長い時がたち、一行が立ち止まって 「おおーい」と叫んだ時、返事の叫び声が聞こえてきた。もう一度 みなが疲れてしまうと、行進も合唱もやめてすわりこみ、お喋り叫ぶと、また返事が聞こえる。 したり物思いにふけるのである。 「いま俺に何か賭ける物があったらーー・実際そんな物ありやしない そして、そのお喋りも、昔とは違っていた。緑のアイルランド んだが」とフィオン・マク・クーメイルは言い、「賭けてもいい を、丘も谷も、牧場も森も駆けめぐっていた頃には、前の日の闘い が、聞こえた声は大勢の人間の集まりからのものだ。たぶん俺たち なり狩りなりの物語を、互いに語りあったものであった。初めのうと同じくらい大勢のな」 ちこそ多少、昔の冒険について話しもしたが、じきに昔話は語り尽ゴール・マク・モーナは澄んだ片眼で霧を見すかそうとした。 くされてしまい、みなが話すようになったのは、自分自身や他の者「敵だと思いますか」と言う。 「まあ、じきに についてどう感じ、考えるかであり、世界や大いなる宇宙について「いいや」とフィオン・マク・クーメイルは言い、 であった。一同は哲学者になった。他にすることがなかったのであわかる」そしてこう叫んだ。「どなたかな」これは大音声ではな る。そして、アイルランド人というのは、何かをしなくてはならな く、せいぜいダ・フリンからエイレンまで届くほどの、中位の叫び声 である。 いとなれば、やってのける民族なのである。 さて最後に加わった三人は、フィオン・マク・クーメイルが長年フィオン・マク・クーメイルは老賢人フェルガス・フィンヴェル

10. SFマガジン 1977年9月号

を知ったロポット官僚たちが、とりあえず近辺にいた者たちだけ不満だがという程度で抑止出来るだろうと踏んでいたのである。 で、何とかッラツリ交通のメイハーを保護したものの : : : にらみ合 いや。情勢がそのまま推移すれば、そうなっていたはすなのだ。 いになってしまったということなのである。これがまだ本格的な暴が : : : そこに新しい因子が入って来たのである。 動になっていないのは、群衆が、今の司政機構をおそれているから十日程前から、は、ツラツリ交通その他の輸送機関の能力 に過ぎない。が、それだって、時間の問題なのかも知れなかった。 が、しだいに限界に近づきつつあることを報告していた。それは数 ひとたび誰かが行動に出れば、あっという間に修羅場が現出するに 日前からさらに厳しくなりはじめていたのだ。乗客が , ーーーというよ 違いないのだ。 、乗客が携行する荷物が、ただでさえ一杯になっている輸送力を とはいうものの、こんなことがおきた本当の原因を、マセは悟っ圧迫しだしたからである。乗客たちが、やたらに大きなもの重いも ていた。 のを運ぶ傾向が顕著になって来たのだった。なぜそんな現象がおこ これはそもそも、人々が、ツラツリ交通に対して、不満を鬱積さったのか、それも判明している。きようから二十日後の、撤退期限 せていたからである。ッラツリ交通が、ちゃんと仕事をやっていな二千三百五十ルーヌ前になると、人頭税の徴収がはじまるのだ。も いという印象を、多くの人間が感じるようになりはじめていた結果ちろんその日がすべての人間にとっての納入期限ではなく、あとに なのだ。 なってーーー乗船予定日の五十ルーヌ前迄に納めればいいのだけれど ッラツリ交通側としては、あと何十日かのうちにはじまる退避者も、早く納めればそれだけ割安になるという制度のために、大多数 の植民者が自分の財産を有利な方法で金に換えようと、それそれの 輸送に備えて、車両を整備し、適当な場所に持って行っておくとい う作業に入っている。いう迄もなくその他にも、自動管制システム思惑のもとに動きだしていたからである。ただ、それが、おのれの や駅や附随設備を整えるということもやらなければならない。それ持ちもの、それもかさばる道具類や機械といったものを運び込んで 売買する市があちこちに生れ、ために、現物を自分の手で運び込む も、平常業務を遂行しながらである。その平常業務が、これ迄にく らべて運行回数の減少とかサービス低下につながるのは、やむを得という状況が出来てきたために : : : 輸送機関がパンクしかけている ないことであった。それが人々に不満をお・ほえさせるのは当然であのたった。 る。だからマセやは、それに対し、ツラツリ交通にも日常業 こんな状況は、だが、そんなに長くは続かないであろうとマセた 務への力をあまり抜いたようなかたちにしないようにと勧告し、植ちは見ていた。そういった市は間もなく至るところに成立するよう 民者たちには非常時であるという旨のイメージを繰返し訴求して来になるであろうし、この物と金、あるいは物と物との交換ラッシュ たのであった。これはひとりッラツリ交通に対してのみならす、そは、そのうちに衰えるに違いないのだ。現在のはあく迄も早期納入 れ以外の輸送機関や公共施設の全部についてもいえることなのだ。 による人頭税の割引きをもくろむプームであり、そのうちには落着 9 マセはそれで、人々が愉快がることはあり得ないとしても、不満は いて、それなりのペースが固まるはずなのである。一時は輸送力が