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検索対象: SFマガジン 1978年1月号
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1. SFマガジン 1978年1月号

もわからないという危険が伴うから、覚悟がいる。ドタ・ハタをやっ て殺されたのではそのこと自体がドタ・ ( タだし、世間のもの笑いに なるたろう。・ほくは臆病たからそうするのは厭なので、ある程度控 えめにしてはいるが、もしそんなことになった時はなった時で、仕 方がないだろうと思っている」 一九七六年四月ニ十八日の日記抜萃 「たとえば、人が大勢集っているとする。小松左京がこれに興味を 億の妄想 ( 早川・日本シリーズ ) のあとがきより 持ったとする。彼はまずそれらの人が、なぜ集っているかを知ろう 「三人の恩師・ーー・それは、僕の思想の三大革命家でもある。チャー とし、さらにそれが現代の、世界にとって、どういう意味を持つか ルス・ダーウイン氏、シグムント・フロイト氏、そしてハ 1 ボ・マ を、大量の知識を動員させて考えようとする。 ルクス氏である。 ところが・ほくは、なぜ集っているかを知ろうとしない。どういう 理由で集ったことにすればいちばん面白いかを考えるためである。 霊長類南へ ( 講談社刊 ) のあとがきより むろんこれは、その意味を考えるための知識を身につけていないか を℃くら何で 「こんなに早くライフワークをやってしまったのでよ、、 らでもあろう」 男のライフワークのアイデ ( 筒井康隆の世界より ) もはすかしい。だから前言は取り消す。リ アが、今、浮かんでいる。今年中に書きはじめるつもりだ。ライフ ワークの大安売りになるかもしれないが、それでもいいと思ってい 馬の首風雲録 ( 早川文庫版 ) のあとがきより る」 「食いものの恨みは恐ろしいというが、空腹のため盗み食いをし、 それが見つかって狂気のように殴打された十二、三歳ごろの体験の メタモルフォセス群島 ( 新潮社刊 ) のこしまきより 傷痕というものは、決して浅いものではない筈である」 「一読讃嘆再読途端七転八倒言語道断的」 同じく さてと、この家はどこにありますかというと、新幹線でずーっ 「あらゆる悲劇ーーその最たるものは自分の身に起った悲劇だがー ーは、深刻であればあるほどドタバタになり得る。しかし、無責任と西明石まで来て、国鉄で三つ引き返した垂水ですわなあ ( 笑 い ) 。それで、垂水の駅を上のほうへくるとお宮さん : : : なんと にドタバタをやるのは、ある意味で命がけなのである。創価学会を いうお宮さん ? 嘲笑し、 Z をひやかし、アメリカの政策とか天皇制とか戦争と やくよ かいったものを喜劇にしてしまうには、いっ右翼などに刺されるか筒井厄除け八幡です。厄除け八幡の前の小さな道を五メートルほ 矢野徹インタビュウ〈一六頁より続く〉 たるみ

2. SFマガジン 1978年1月号

そして。 なるほど、問題のいくつかは、なるようになった。 この調査結果は、マセに、 ハムデ文明を調べることによる先住者 かっての、息つく間もない忙しさは消えている。 説得を諦めさせることになったのた。 今の彼は、全計画をにらみながら、その・ハランスを見守り、維持 がっかんだことは、古文書を裏書きするような事実ばかりするという立場になっていた。 だった。古文書がどうやら過去のあらましを語っていること : : : そ 三百九十万人を送り出したのだ。 うなればいよいよ先住者たちは、おのれの信念を固めるだけだとい 計画は予定通り進行しているのた。 うことが、たしかになったたけなのである。 かたちの上は。 そう。 これ以上の古代文明の解明は、すくなくとも先住者の退避勧誘に は何の役にも立ちそうになかった。 かたちの上は、である。 先住者は、先住者のしたいようにさせておくほかはない 、と、彼かたちの上はそうでも、無理がしだいに積み重ねられて来ている のを、彼は承知していた。 は、いやいやながら覚悟を固めはしめている。 そのどれもが、し これを、片がっこうとしていると表現すれば、そういえるのかも 、つ破綻するか知れず、どのひとつが破綻して 知れないのであった。 も、計画全体が揺れ、くつがえるおそれがあるのだ。 おそらくそれは、彼がこの計画を実施するために緊急指揮権を確 その点、移住先のノジランについての情報も、こちらに流される ・ツト・立したときに種子がまかれていたのであろう。いや、その前に、ラ ようになっていた。マセがまだ会ったことのないカテ クザーンそのものに : ・ : こういうかたちで司政官を赴任させた連邦 1 ・ライデンとその部下のあたらしいロポット官僚の司政下で、 移り住んだ人たちがとりあえす住居を得、衣食を供給されながら建経営機構のありかたそのものに、遠困があったのであろう。 設にかかっているという連絡は、きわめて公式的なありきたりのも愚痴をいってもはじまらない。 のであった。マセはそれを植民者たちに知らせながらも、どこか空 そんなことは、司政官がするべきではないのである。 ・、 0 しい気分であった。これたって、一応片がっきかけているといえ 、カ ・は、そうである。 ラックスの値打ちの下落は、止めようがなくなっていた。最初の とはいえ 植民用輸送船団出発の頃と比較しても : : : 三分の一程度になってし 彼は、中庭を歩き廻る自分の靴音が、妙に気になるのを意識しまっている。こうなるとあとは加速度的なのだ。人々がそれに対応 て、やや歩幅を大きくした。 して行動するからである。ラックスはもはや建前としての強制通貨 大きくしても、やはり、・ とこか神経にこたえるのだ。 であった。人々は移住先へ持って行くためにクレジットを手に入れ そういうことなのかも分らない。 ようとし、それが困難になって来ると、先住者たちのチェンを求め 2 っ 4

3. SFマガジン 1978年1月号

と答えてのた。書いていることがわからないのだ」 て、すべて題材は誰の『繩張り』でもない、 それならば、な。せー・ーエド・プライアント達の言う くれた」 彼はこれに続けて、 = リスンなどは一番マネしたくことを信じるならばーーー = リスンが今でも界の″ 「ストリート・ライターーの第一人者と言われている″ ない作家だ、と述べた。 のだろうか。 「エリスンをマネするなどは大間違いだ」と彼は言い 切り、「私なら、『ロウグ・「ガジン』の編集者とし「 , リスンが、そう呼ばれたが「ているからだ」とシ″ て身につけた物の見方で『ガット・ライティング』のヤーリイは書き、「それに、彼は影響力を持っている″ 定義をするような男のマネなどしない リスンの創作姿勢をマネしているわけでは 活き活きした、巧みな筆づかいで、シャーリイはエ とシャーリイは一一一一口うが、これにはかなり ~ 具中入が リスンがストリート・ライフについて何も知らないとない ドン・キホーテのごとく、この男の膨らみすぎ含まれていそうだ。エリスンの姿勢に独創的な物は何 もない。ノ 1 マン・メイラーの方が、実の所、ずっと″ た評判をパンクさせようとした。 上手にやっている。ところがグリックスンの書き方を″ 一つずつシャーリイの論点を挙げよう。 ドロップ・アウト生活に関するエリスンの知見ると、エリスンが、戦闘的で「神経を逆撫でするよ″ 識は、ストリート・。ヒープルとっきあって得たものでうな」書き方の特許を持っているかのようである。 あ「て、その一員として生活したわけではない。逆に「 = リスンは、全界でただ一人の大胆かっ断固と した人間なのだろうか」とシャーリイは疑問を投げか″ シャーリイは、そこに根ざしている。 「私は八年間というもの放浪者たった」と彼は書いけ、「ヘミングウェイとのインタヴューを読んだり、 た。彼は二十三歳である。「エリスンは私の仲間からレニー ・・フルースのお喋りを聞いたりしたことのある″ スタイルを借りた。ス トリート・。ヒープルを食い物に人なら、エリスンが誰のマネをしているかわかるはす したのだ : である」 シャーリイがコラムや創作に使う衄り口なり 彼は『ジェントルマン・ジャンキー』の中でヘロイ三 ンについて書いたが、これまで〈ロインを使ったこと衝撃的な文体なりは、エリスンが発明したものではな″ ・・フル 1 ス、一部セリーヌ もなく、明らかにこの世界をよく知らない。まるで見い。この文体は一部レニ 1 当はすれたからだ。禁断症状すら、まともに書けていの「電報文体」から発しているものである。 ない。マリファナの作用を描く時、『熱いビンクの閃「この語り口のことなら」とシャーリイは言う、「聞″ 光』だとか『患者』が性と暴力で夢中になるなどと馬いてみれば、どんな街頭の説教屋でも、強烈な 0 メデ″ 鹿な事を書いている。嘘もいい所。やったことがない ィアンでも、話し上手な語り手でも、本物の。フロの詐 物

4. SFマガジン 1978年1月号

″るのがである。 は、このカタログに記載されている最初の 一七七五年に、同じフランスの大文学者」・ラ″ というのは、一八世紀に、彗星探しの名人と天体というわけである。彼は一七五八年八月に、 ランドが提唱したもので、「農作物の番人」とい ″謳われたフランスの天文家シャルル ・メシェの頭彗星を発見したとき、おうし座の一角に、この天うのが、それである。 ″文字をと「たものだ。 体を見つけたのだが、そのときのことを、「 : ・ ケフォウス、カシオペア、きりんという秋から″ 彼は、生涯に二十一個の彗星を発見したが、こ青白く輝いて、形はロウソクの陷のようだ」と記冬にかけての三星座に囲まれた小さな星座だ。フ ″の記録は、今日まで世界のだれにも破られてはい している。が、彼が初めて観測したのではなく、 ラムスチードやポーデの星図のフランス版には、 ″ない。ところで新彗星かどうかを判断しようといすでに一七三一年に、・べヴィスが位置を決ぎよろ眼と太い鼻の、何となく番人くさいメシ ″うとき、とかく邪魔になるのは、星雲状の光斑のめ、イギリス版の星図には記載されているものだの顔や姿まで描かれた。 っこ 0 存在である。 が、その後の星座の区画整理で、消えてしまっ ″大彗星でも、遠くにあるときは、・ほんやりした メシェの関心は、もつばら彗星で、星雲状の光たのは、気の毒である。もっとも、メシェの名が、 ″小さな光のかたまりにすぎないので、間違いやす斑には、あまり興味がなか「たようだ。しかし今天上から一掃されたわけではなく、たとえば月の″ ″いのだ。そこでメシェは、一七六四年に、自分の日、銀河系内の星雲はむろんのこと、アンドロメ クレーターの一つに、彼の名はつけられている。 ″発見したもののほかに、イギリスの・ ( レーやダ大星雲 (> 引 ) やその伴星雲 (ä ) など、星 ・べヴィスらの観測した徴光天体をも加えて、雲の多くが、の文字をつけて呼ばれているの ( ″カタログを作った。 は、皮肉なことである。 メシェの名は忘れられても、このナン・ハー だけは、これからも長く使われるにちがいなし・】、 からだ。 メシェは、一七三〇年六月に、フランスのロ ーレーヌ県ドンヴィリエに生れた。二十一歳 のとき、パリに出てきて、海軍の天文官をして 雲 いた・デリールの徒弟になった。 ニ彼の仕事は、観測資料の整理が主なもので、 カ待遇はよくなかったが、間もなく望遠鏡の操作 座に熟達した。そして、彗星だけでなく、星雲、 星団なども数多く観測し、一七七四年には、 おのついた天体は一〇三に達した。 この功がたたえられて、彼の名も一度は、星 座にの・ほったことがある。 プレヤデス ー 14 6 08 ・ 00 、 ORION おうし ど・ C M ーがカニ星雲その下に ( 星 / ー 2 7

5. SFマガジン 1978年1月号

た。先住者たちは案外にも、気軽にチェンを手放すので、それが人理屈では、そうなる。 人のそういう傾向にさらに拍車をかけていた。先住者たちがそんな そうなるが : : : 実際には、それさえもうまく行っていなかった。 態度をとるのは、多分、自分たちの終りが近づいているためであろ 不満を抱く連中は、その位では辛抱しなかったのだ。 う。マセの見るところでは、先住者たちの間ででは、しだいに貨幣暴動は、相も変らず続発していた。マセが治安部隊をむしろ乱用 が使われなくなり、物々交換経済がはしまっているようであった。 といっていい程さし向けることで、小人数で出没するゲリラと化し この先住者の態度が、先住者特有のあの優しさによるものだと植民てはいるが、しよっちゅうロポット官僚や司政施設が襲われている 者らは解したようであるが : : : マセには、ことに ( ムデ文明に対すのだった。 るかれらの気持ちを知った今では、先住者たちが、心の底で人間を このしつこさには、裏がなければならない。どこかで全体的に糸 冷笑しながら、秤量貨幣である金の細片を手放しているように思えを引く者がいなければならないのだ。 るのだ。かれらは、実は貨幣経済というものに対しても、一種の蔑逮捕した暴動のリーダーに対する、例のロポット官僚による質問 視を抱いていたのかも分らないのである。 のさいげんもない繰返しと強硬手段によって、 (.nO—はその背後に それと、これは些細なことだが、植民者たちの間に、ラックスあるものをつかんでいた。ただし、それが真実であるかどうかは別 の、その補助貨幣である硬貨集めが流行しているらしいのである。 である。巧妙に嘘をつき必要なたけを喋るというやりかたで、逮捕 ラックスの下落につれて、司政庁では硬貨の鋳造を停止し、それもされたリーダーたちが、そうが結論づけるようにデータを渡 紙幣に切り換えたのたが : : とたんに、そんなことが流行しだしたしたのかも知れなかった。なぜなら、のまとめあげた結論と いうのは、到底信じられないものだったからだ。 のであった。ロポット官僚たちが探り出したところによると、それ は、ラクザーンが消減したのちに、骨董的価値が出るであろうとの は、 ( データの集積によって判断する限り ) 暴動をあやっ 思惑で収集されているようなのである。ために現在では、紙幣と硬っているのは、連邦軍たという答を出した。 貨の交換は額面では行われす、そのときどきの相場で取り引きされ連邦軍が、暴動をそそのかす : ・ るという奇妙な現象を呈していた。 暴動のたびに鎮圧を申し出て来る連邦軍が : いすれにせよ、ラックスは日ごとに落ちぶれているのだ。 何のために、そんなことをしなければならないのた ? もしも、このラックスの価値の下落が。フラスになることがあると 自分で暴動を演出し、それをあざやかに鎮圧することで、連邦軍 すれば : : : それも、マセたちにではなく、植民者たちに得になるこの勢威を誇示したいというのか ? とがあるとすれば、退避のための人頭税の納入や、司政庁に売却し それだけのために、そんな面倒な真似をするものだろうか ? その上で居住・使用している不動産の賃借料の納入が楽になるとい どっちにせよ、これは、外部に洩らすには由々しい結論であっ うたけであった。 た。へたに連邦軍をおとしめるようなことは出来ないのだ。だから 4 2

6. SFマガジン 1978年1月号

加え、その帰途、かれらの・ハギーを発見し、ペレジノイを殺したの 「ジョー、泣くのはよせ。きみは、ンギ口を斃した勇者だ」 工べレットは、サエキの背を叩いてから、声をはげまして言った。 工べレット ; 、 カ多くを説明する必要はなかった。まもなく、かれ「え、ええ。ぼくは、やつらに仕返しをしてやりたい」 らは、設営キャン。フのあったところに、さしかかったからである。 サエキは、ようやく、現実を認めたようである。 溶けくすれたハイチタン鋼の球体が、かろうじてタイムマシンの 原形を保っているばかりで、あとは、なにもなかった。半径五十メ ートルにわたって、大地が大きくえぐれていた。もちろん、積みお ろした資料の山は、消滅していた。 ドロマ〒オサウルスの集落は、犯行現場から一キロばかり行った らちがい 恐竜の戦士は、立ちすくんでいた。かれらの経験の埓外にある光ところにあった。 景なのであろう。もし、かれらに、神でも悪魔でもいい、なにかの超 工べレットは、誤解していたのである。かれらは、最初に訪れた 越者を信しる気があるなら、その所おとしか考えられないだろう。集落の住民ではなか「た。宇宙服の連中を見かけ、戦いを挑んだと 「ううつ」 きの集落の部族とは、まったく別の部族たったのである。 サキは、そこにかがみこんで、顔を覆って泣きじゃくりはじめ サエキは、生残りの戦士たちに導かれ、集落のなかに入りこむ と、元気をとりもどした。そこには、悲惨な連命を嘆くよりも、は 工ペレットは、あたりを歩きまわった。たが、なにひとっ有用なるかに価値のある研究対象が、たくさんあったからである。 ものは残っていなかった。タイムマシンは、完全にスクラップにな おおよその様子は、はしめの集落とあまり変りはない。殻からひ っていた。溶融してねしまがったドアは、・ フラブラになっていた。 きたしたアンモナイトを食っているやつもある。しかし集落のなか おそらく、不意を衝かれたのたろう。防禦スクリーンを張る暇はおに入りこんでみると、さらに発見があった。 ろか、ドアを閉める暇もなかったにちがいない。 小屋には柱があり、葉で屋根を葺いてある。しかし、つる草でし 積みおろした資材のうち、もう一台のバギーは、爆心部にあった ばりつけるというような作業は、まだ知らないらしい ため、ほとんど痕形もなくなっていた。 そこらに山盛りにしてあるものから、かれらの食性も、はっきり 工ペレットは、あらためて怒りを燃えたたせた。今は、・ ( ギーす判る。小さなトカゲやアンモナイトばかりでなく、植物もまじって らもない。謎のタイムマシンと対等にわたりあえる武器もない。だ いる。ギンナンの実や、クルミの実が、盛りあげてある。これら が、この過酷な自然のなかで、今後の一生を生きぬくことを心がけは、白亜紀に地球上にあらわれたものばかりである。 るよりも、叶わぬまでも敵の正体を確かめ、しかるのちに死にたい 道具は、骨器と木器だけしか、知らないらしい。クルミを割るの という、強烈な衝動にかられた。 に使っていたものは、そのままの自然石である。 っ 幻 4

7. SFマガジン 1978年1月号

っこ 0 五人の犠牲をだしたところで、すでに逃げさっていたはすである。 テイラノサウルスは、突如、咆哮した。それと同時に、重量感に だが、かれらには、戦士としての矜持すら備わっているかに見え あふれた体驅に似あわしからぬ敏捷な動きを見せ、移動しはじめた。この凶悪無比、貪虐兇穢な巨危を葬りさることに、決死の使命 こ。ドロマエオサウルスは、総崩れになった。踏みとどまって戦お観すら抱いているとすらいえた。 うしろから忍びよった一人が、襲ってくる尾で叩かれ、五、六メ うとする者も、たちまち鉄の顎で血祭りにあげられた。かれらの白 ートルを、はねとばされた。その隙に、前方からとびこんだ一人 骨の剣を振るう暇すらなかった。仮りに、その暇があったとして も、その脆い切先が、分厚い表皮を突きやぶれるはすもなかったろが、巨竜の腹に剣をつきたてたが、有効な打撃にはならぬまま、後 脚で踏みつぶされた。 「ヴィンス、このままでは、かれらは、全滅してしまいます」 「ヴィンス、見ていますか ? 犠牲者が五人になった」 サエキが叫んだ。 サエキが、上気した顔をむけた。 「うむ」 「ああ、一部始終を見届けるつもりだ」 工べレットは、うなすいた。 工べレットは、うなずいた。死闘を見守るうちに、 ドロマ〒オサウルスの戦士たちには、ある種の悲壮美すら感じら ドロマエオサウルスに、感情移入すらしていた。 れた。人間くらいの大きさのしなやかで優美な姿は、崇高なものに 「かれらは、可哀相だわ」 すら見えた。おそらく、かれらは、全滅するまで、戦いをやめない ジュリが呟いた。 ・こザつ、つ。 「そうです。かれらは、巨大な洞穴熊と戦うネアンデルタールみた いなものです。いや、あの敵は、かれらにとっては、洞穴熊以上の暴竜は、かれを狙う相手の数が減ったことを知り、これ見よがし ノオカテイラ / サに朝の食事にとりかかった。たったいま殺したばかりの死体を、巨 恐るべき相手だ。洞穴熊は、せいせい六メートレ。こ : 、 ウルスは : : : 」 大な顎で噛みくだき、肉をくらい血をすすった。 サエキが、興奮した声をあげた。そういえば、かれは、犠牲者が侮辱された小さな戦士たちは、猛りたって攻撃にでた。しかし、 五人と言った。あきらかに、ドロマエオサウルスに、心を奪われか数が減少した今、一糸みだれぬ統制も、威力を発揮しなかった。 工べレットの傍らから、サエキが駈けだしたのは、そのときたっ けているにちがいない。 勇敢な狩人たちは、ひるんた様子もなく、包囲の輪をつめた。実た。若い古生物学者は、まっしぐらに走りぬけ、ドロマエオサウル 際、かれらは、狩人以上のものだった。強敵をまえにしたかれらスのそばに立ちならんだ。 0 ・ 工べレットは、声をかける暇もなかった。さきほど、エベレット 0 は、捕食者としての原初的な本能のままに、行動しているのではな とジュリが、危機に陥ったときですら、サエキは、生きた標本に見 かった。もし、かれらが相手を豪勢な肉の山だと考えているなら、 、刀 いつのまに

8. SFマガジン 1978年1月号

″振り子みによって、著しく体力を削がれている。とうてい″三戦と、その男は言った。 「お友達のチャクラだな」 士″に伍しらる状態ではないといえた。 加えて、 ″三戦士″が戦いに際して、視覚、聴覚のいすれに も頼っていないということがある。ジローなどには想像も及ばぬカ 街の、汚い居酒屋た。 が、″三戦士″をして戦わせているのである。こんな敵が相手で ここまでは、祭りの喧噪も伝わってこない。祭りどころか、ここ は、ジローが習い憶えた様々なテクニックは無力でしかなかったし に集う男たちは生そのものに倦んでいるようた。 今、″三戦士〃は、ジローに対して一列に並んでいる。その頭部獣脂の眼を衝く煙りが、黒く部屋に漂っている。臓物の悪どい臭 を覆う面は、揃って″神〃の微笑みを湛え、ジローの抵抗に哀れみ いと、饐えたようなド・フロクの臭い。ここに腰を落ち着け、かっ食 を下しているように見えた。 欲を発揮するのには、そうとうに頑強な胃を必要とするようた。 ジローの裡に、かって経験したことのないような恐怖が湧き起こ チャクラは、その数少ない一人に範していた。彼は、器に盛られ ってきた。自分の剣が無力たと覚ったとき、おそらく戦士はこの世たイナゴを前に、旺盛な食欲を見せていた。すでに、牛の脛を一本 で最も弱い人間となりはてるだろう。 たいらげているほどの健啖ぶりだ。 ジローは、じりつじりつと後すさった。ジローの動きにつれ、 対するジローがはかばかしい食欲を示さないのは、必すしも店が ″三戦士″たちも前進してくる。″三戦士〃の動きには、いささか汚いからばかりではないようた。ランに対する一眼惚れから始ま の乱れも生じていなかった。まさしく、″神〃に導かれて動いてい り、″三戦士″との戦いに終った長い一日が、ジローを心身ともに るとしか思えなかった。 いたく消耗させているのである。 「なるほど : : : 」 ジローの全身の筋肉が脈打ち、悲鳴となって咽喉から迸った。ジ ついで踵を返すと、必死に ローは狂ったように剣を振り回し 冫しかにも分別ありげ 指の腹についた脂をなめながら、チャクラよ、 ″三戦士〃から逃げたした。 に頷いて見せた。 恐怖が、ジローの裡にアドレナリンを滾していた。とても、賢明「そいつはどうも、とんだことになっちまったよな」 な走法とはいえない。ジャングルを走るジローの脚は、すぐさまも「 : ジローはカなくうなたれている。 つれ、鈍さを増していった。 チャクラの、他者から昔を引き出す才能は、ここでも遺憾なく発 ふいに、傍らから腕をまれ、引き戻されるのを感した。反射的 に振りほどこうとしたジローの腕を、その手はさらに強く、確実に揮されたようだ。気がついてみると、ジローは今日一日のことの推 移をすべて打ち明けていた。本当なら、実のいとこを愛してしまっ 握りしめた。 たなど、ロが裂けても話すべきことではない筈なのだが : : : もしか 「俺たな : カルナ っ 0

9. SFマガジン 1978年1月号

には問題は苦情のことではないと分っている。やつにとって苦情な 「それじやタ ' ハコはどうだ」 ただの雇われ人にすぎん。 んか屁でもない 「すいません、タ・ハコも吸えないんです」 「ぐっと一杯いこう、レッド」とやつが言う。俺を待たずに一気に 「勝手にしやがれ」と俺。 自分のグラスを飲み干すと、また注ぐ。 「それじやどうして金がいるんた ? 」 ・パノーフが死んだそ」 「なあ、聴いてくれ、キリール かれは顔を赤くし、笑をひっこめると、消えいるような声で言 酔っぱらっている脳みそにはやつが言った意味がすぐしみこんで こなかった。あそこでだれかくたばったやつがいるんだって、くた 「それはあなたには関係のない、ぼくだけの問題たと思いますが、 ばったってー そうじゃありませんか ? 」 、、旨四本分だけグ「気にするな、そいつの魂のやすらぎのために乾杯た : : : 」 「そのとおり、まったくおおせの通りさ」と言し やつは目を丸くして俺の顔をまじましと見つめている。そのとき ラスに酒を注ぐ。言っとくが、さっきから頭がいくらかずきずきし になってやっと、俺の体の中でいきなりなにかがぶっとんたような けだるい感じがしている、完 ているが、体はえらく気持ちがいし 感じがした。すべてがのみこめた。俺はいきなり立ち上りテー・フル 全にゾーンから解放されていた。 「今、俺は酔っぱらっている」と俺。 の表面で体をつつばり、やつを見おろす。 「ご覧のとおり、息抜きをやっている。ゾーンに行ってきて、生き「キリールだと卩」目の前に銀色のクモの巣が現われる。また、そ て戻ってきたんだ。だから金もある。こういうことはそうそうあるれが破れて糸が切れる音が聞える。その不気味なクモの巣の破れる ことじゃない、生きて戻れるなんて稀れもまれ、千載一遇というや音を通してディックの声が、ほかの部屋から聞えてくるみたいに何 っさ。しかも金まであるなんてことはな。と、まあそういう訳た、 か一 = ロっている。 クソ真面目な話はあとにしようや : : : 」 「心臓発作だ。シャワールームで裸のまんまで発見されたんだ。誰 するとやつが跳びあがるようにして立ち上ると、「失礼しましにもさつばり訳がわからん。お前のことを訊かれたんで、びんびん た」と言う、ディックが戻ってくるのが目に入る。自分の席のそばしてると言っといたが : : : 」 につっ立っていて腰をおろさない、その面でなにかあったことが分「な・せ、分らんのだ、ゾーンだ : る。 「まあ坐れよ、腰をおろして飲めよ」ディックが言う。 「どうした、またお前の・ハルーンが真空に耐えられなかったとみえ 「ゾーンだ : : : 」俺は繰り返す、自分でとめられんのだ。 るな ? 」 「ゾーンだ、ゾーンだ、ゾーン : 「うん、まただ」 銀色ににぶい光を放っているクモの巣のほかはなにも目に入らな 0 腰をおろすと、自分のグラスに酒を注ぎ、俺のにも注ぎ足す。俺 1 全体がクモの巣にからまれている。人が動く、クモの巣に

10. SFマガジン 1978年1月号

船から出て手紙を読んだ。それは気違いじみた手紙で、心配するぼくらは恐れを知らぬ開拓者となり、カーニ。ハルや〈うら側〉のこ な、・ほくらはみんな大丈夫、ということが書いてあった。すっとと とを思い出すこともなくなった。事態が本当に嫌な方向へ向かい始 5 どまるつもりだ、と繰り返し、その他思い出したくもないようなこめるまでは。 とが色々と。「彼女が月面機を持って帰るように、とも書いてあっ 長し 、間、ほとんどまる一カ月というもの、・ほくらは幸せだった。 た。ぼくは母がそれを読んでいる間でさえ、後悔し続けていた。きレスターじいさんと一所懸命に働いた毎日。彼みたいな生活では仕 っと気が狂っていたに違いない。 事の尽きることは決してないんたということを学んだ。いつでもエ これだけ離れていても、母が意気消沈しているのがわかった。彼アー・ダクトは修理されねばならす、花は受粉されねば、機械は調 女はあたりを見回し、それから手旗信号をはじめた。 整されねばならない。それは原始的で、ぼくはいつも改良法を思い 「やるべきことをおやりなさい」と、彼女は送った。「理解はできついたが、決して提案しようとは思わなかった。・ほくらの気違いじ ないけれど、あなたを愛しています。あなたが心変わりした時のたみた開拓者魂に合わなかったからだろう。物事がつらくないと、ど めに、月面機は残しておきます」 うもびったりこないのだ。 いやはや。・ほくがごくりと喉を鳴らし、母の方へ行こうと半分腰 ・ほくらは映画で見たような草の差しかけ小屋を建てて、そこへ移 を浮かせたその時、ひどく驚いたことに、 ハロウが・ほくを引き戻しった。それはレスターじいさんのところから部屋をはさんだ向かい た。彼女が・ほくといっしょに来るのは、・ほくの間違いを指摘したく側で、ばかばかしいことだけど、互いに見物し合えるというわけだ ない、それだけの理由だと、・ほくは思いこんでいた。これはもとも った。そして、・ほくは罪についておもしろいことを学んだ。 と彼女の思いっきじゃない。・ほくがむりやり連れて来た時は普通の レスターじいさんは、なめし皮のような顔いつばいに、にやにや 思考状態じゃなかったのだ。けれど彼女は、何日も前に落ち着きを笑いを浮かべて、ぼくらがみす・ほらしい小屋の中で愛し合うようす 取り戻し、今では前と同じくらい冷静になっていた。そして、・ほくを見たがった。それからある日、彼は、それとなく、性行為は内密 よりもずっと、この冒険に夢中になっていたのたった。 にすべきものだとほのめかした。それを他人の前でやるのは罪であ り、見るのも罪である、と。けれど彼は、依然として覗き見るのだ 「いくじなし ! 」彼女がヘルメットをくつつけて叱った。「こんな っこ 0 ことになるんじゃないかって思ってたわ。よく考えてみなさいよ。 こんなに簡単にあきらめていいの ? また何も試していないのよ。 そこで・ほくはハロウに訓ねてみた。 彼女の顔は、その言葉ほど確信に満ちてはいなかったけれど、・ほ「彼はささいな罪を必要としてるのよ、フォックス」 「ふうん ? 」 くはとても彼女に反論できるような状態じゃなかった。そのうちカ ニバルが行ってしまし 、、・まくはほっとした。かりに、これがうま「論理的じゃないのはわかるけど、あなたも彼の信仰が完全にメチ くいかなかったとしても、とにかく逃げ道はあるわけだ。たちまちヤクチャだってことにもう気がついてなきゃいけないわ」