野郎 - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1978年1月号
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1. SFマガジン 1978年1月号

っとも、こっちにしたってアスファルトまででもたどりつけたらオ を誘うような単調なエンジンの音だけだ。陽の光があたりいつ。はい に照りつけ、熱気がたちこめている : : : ガレージの上に陽炎がたちンの字かもしれん。アスファルトの広場は平らだ、あそこは見とお 8 しがきくし、亀裂があることも分っている。ただ俺が気に人らんの の・ほっている。なにもかも正常そのものに思える、標識がひとつ、 またひとっと脇を流れるようにうしろに去っていく。テンダーは黙は、そらあそこにある隆起がいくつもあることだ。このまままっす ぐアスファルトになかって進むとすりや、いやでもちょうどあの間 これでいいんだ、あんた ったままたし、キリールも口をきかない。 たちは、ゾーンでだって息はできる、たたうまくやってくれさえすを通り抜けなきゃならん。見ろよ、あの格好を、まるで薄笑いでも ればの話だが : : : そら、あれが二十七番目の標識だーースチールのうかべてるみたいに俺たちを待ちかまえてやがる。そうはトンヤが ポールの先にと書いた丸い番号札がついている。キリールが俺のおろすかい、俺は貴様らの間なんか通らんぞ。ストーカ , 、の第二の ーシ = ーズ》が止っ誡めってやつがある、つまり、なにごとにも右か左にちゃんと百歩 ほうを見たので、うなすいてやると、《オー は距離をおくべし、てやった。そらあの左手の隆起を越えることは : もっともその先に何があるかは俺にも分らん。 これまでは序のロだ、いし よ、よこれからが本番た。この先俺たちできるたろうが : にいち・はん重要なことは、完全無欠な冷静沈着さた。いそいで行か地図の上しゃ何もないみたいたが、地図なんか信用する阿呆がどこ なきゃならん所なんかないんだ、風はなし、視界は良好、なにもか 「おい、レッド」とキリールが俺にささやく。 ″なめくし〃 も手にとるようによく見える。そら、あそこが溝た、 二十メートル上 のやつがくたばった場所た なんか派手な縞模様が見えている「いっちょう飛び越してみようじゃないか、え ? が、たぶんやつのポロ服だ。いやな野郎たった、主よ、やつの魂に昇してすぐ下降すりやガレージのところまでひと飛びで着けるそ、 どうだい ? 」 やすらぎを与えたまえ。欲の皮のつつばった、脳なしのうすぎたな い野郎だった。まあ、あの手の連中は″はげたか″のやっとつるん「黙っていろ、馬鹿野郎」と俺。 でいる、″よ十こ、 、ー・フリッジという野郎はどんな遠くからで「邪魔をせずに口を閉じていろ」 この野郎め、上昇するだと、二十メートルのところであんたはペ もよく鼻が効くやつで、ああいう連中を見分けては掻き集めて、手 しゃんこになるんだそ、骨ひとっ拾ってやれやしないんだ。それと ″なめくじ″よ、貴様がい 下にしている : : : だいたいゾーンはな、 いやっか悪いやっかなんてことはてんで気にしちゃいないんさ、だもここでどっかに《蚊の禿》でも現われてみろ、そうなりや骨どこ から結果的に言わせてもらえば、俺は、お前に礼を言わなきゃならろかなにひとっ残りやしないんた。この俺にしてからが、そいつは ん。だいたいお前は馬鹿たったよ、貴様の本当の名前を想い出してやばいと思っていると言うのに、かれはどうあってもやりたいらし い、だから一跳びしようなんていいだすんだ : : : あの隆起までどう くれるやっすらいないってのに、頭のいいやつらに、そこへ踏みこ んじゃいかん、と教えてやったんだもんな : : : そういうことた。もやってたどりつくかは、これはやりかたは分っていることたし、あ こ 0

2. SFマガジン 1978年1月号

るし : : : 」 かれはかすかに笑って、肩をすくめた。 「そんなことはかまわん。前にゾーンへ何度か入った経験もある」 7 「好きなようにしろ。お前のほうが事情に通じているんだ」 「とんでもない、たいして通じちゃいないさ。もう一人いれば格好「オ 1 ケー。じやテンダーってことにしよう」 かれはまだそこに残って地図とにらめつこをやっていたが、こっ がついたし、俺のためになにかと骨おってくれたんだ。要するに一 人は余分なんだ、二人でなら逃げ出してこれるし万事人目につかずちは腹の皮が背中にくつつきそうだったし、なにしろ一杯やっての にやれる、あんたの仕業だって見破るやつなんか一人もいるわけがどを湿したかったから〈ポルジチ〉へまっすぐすっとんで行った。 ないんだ。だからだ、俺にわかってることは、研究所員が二人でゾ うまいこといつものように朝九時までに出勤し、通行証を見せ ーンに行くなんてことはしないってことだけだ。つまり、二人が仕た。ところが通用門で警備にあたってる野郎があのノッポの軍曹た 事をやり、もう一人がそれを見張っていて、あとで説かれたら話った。昨年のことたが、やつが俺の女のグタに、酔っぱらってしつ す、これが連中のやりかたなんだ」 こくつきまとったとき、きりきりまいをさせてやった野郎だ。 だ「よう、貴様か」と軍曹。「研究所じゅうで貴様を探しまわってる 「俺個人としてはオースチンを連れて行きたい」とキリール。「こ が、たぶんお前はかれを連れていきたがらんだろう。それとも異存そ、赤毛 : : : 」 その先を言わせず、俺はやり返した。 「だめだ。オースチンだけはためた。ほかの機会にあんたがやつを「あんたから赤毛と気やすく呼ばれるいわれはない。無理して俺を ダチ扱いしないでくれ、独活の大木め」 連れていきゃい オースチンがためな野郎たと言ってるんじゃないんだ、決断力と「なにを言いたすんた、赤毛 ! 」びつくりした面をして言う。「貴 慎重さがちゃんと。 ( ランスのとれているやつだ。だが、あいつはす様のことをみながそう呼んでるそ」 でにマークされているというのが俺の意見なんだ。そんなことをキ俺はゾーンに入る前で気持がたかぶっていた。おまけにしらふだ った。やつの肩革をつかんで、やつがどういう野郎で、どういうい リールに喋りやしないが、俺には分っている。ゾーンのことならな んでも知っていて、俺にまかせておけというような面をしているやきさつでお袋の腹から生れたかことこまかにぶちまけてやった。や つは、早晩くたばるってことだ。ま、それはそっちの勝手で、どうつはべっと唾を吐くと、通行証を返してよこし、いささかの優しさ もない声でそっけなく言う。 そお好きなように。たたし、俺ぬきにしてもらいたいねえ。 「レドリック・シュハルト、たたちにヘルツオーグ大尉殿のところ 「まあいいだろう、じやテンダーはどうだ ? 」 テンダーという男はかれの第二実験助手だ。あいつならかまわんへ出頭しろ、これは命令だ」 「そうそう、その調子でやりやいいんだ。そうくりや話は別だ」 だろう、おとなしい男た。 が、腹の中では考える。こいつはまた珍しいことがあるもんだ、 「ちょっと年をくいすぎてる」と俺。「それにあの男には子供がい

3. SFマガジン 1978年1月号

ひっかかる、静かに糸が切れる音がする、まんなかにあのマルタか いにしやきっとしてる : : : 」 ら来た若者が立っている、びつくりしたような子供つぼいその表情「家へ帰ったほうがいい」アーニ 1 が友人面をして言う。 はなにも分っちゃいない。 「キリールが死んだ」俺がやつに言う。 「あのキリーレ・、 「べ 1 ビー」やつにやさしい声をかけてやる。 ノカ ? 疥癬かきの、あの男がか ? 」 「金はいくらぐらい要るんだ ? 数千ありや足りるだろう ? さ「てめえが疥癬かきのくせしやがって」と俺、「貴様のような野郎 あ、これを取っておけ、遠慮するな ! 」俺はその金をやつに押しつを千人たばにしたってキリールみたいな男一人分の値打ちもありや け、怒鳴っている。 しないんだそ。貴様は実にいやなやった。スカンクみたいにド根性 「アーネストのところへ行って、貴様はクズ野郎たと言ってやれ、 の腐った鼻もちならんド商売人だ、お前は。人が死んでも、それで 心配するな、そう言ってやるんだ ! あいつは腰抜けだ ! やつに金儲けをやりかねん野郎だからな、ド畜生め。貴様は、俺たちみん そう言ったら、すぐ駅へ行って切符を買って、まっすぐマルタへ帰なを金儲けのために買ったんだ : ・ : なんだったら、俺がこんな店、 れ ! どこでもぐずぐずするなー たった今たたきこわしてやってもいいんだそ」 そこでそれ以上何をわめいたか覚えていない。記憶していること 思いっきり手を振りあげたとたん、たちまち手を抑えられてどこ は、俺がカウンターの前へ現われると、アーネストのやつが俺の前 かへ引っぱっていかれる。もうなにも考えていないし、考えたくも へ透明な液体の入ったグラスを置いたことだ。やつが言う。 な、。訳のわからんことをわめき、足払いをくらわし、誰かをぶち 「どうやら今日はたつぶり現金をお持ちのようですな ? 」 のめす : : : 正気をとりもどした トイレットの中に坐っている。 「ああ、金ならある : : : 」 全身ずぶ濡れ、面は切れ、傷たらけ。鏡をのぞいてみたが、それが 「じゃ付けは払っていただけるんでしような ? 明日は税金を納め自分の面相だと見分けがっかない、 ほおのあたりがびくびく痙攣を なくちゃならんのでね」 起している、こんなことは今まで一度もなかった。ホールのほうか 自分の手に札束をにぎっていることに気づき、そのみどり色のら騒ぎが聞えてくる、なにかこわれる音、食器の割れる音、娘たち 札を眺めながら俺はつぶやく がぎゃあぎゃあわめく声、それにグターリンの怒声が加わる。 「すると、マルタのクレョンとかいう若僧め、受取らなかったとみ「懺悔しろ、寄生虫め ! 赤毛はどこた ? 赤毛をどこへ隠したん える、これはたまげたぜ : : : 誇り高き男、って訳か、つまりは : だ、悪魔の申し子め ! 」 そっくり残ってるのも運命のまわりあわせってやつだ」 パトカーのサイレンの遠吠えが聞える。その遠吠えを聞いたとた 「あんた、どうかしたのか ? 」親愛なるアーニーが説く。 ん俺の脳みそはたちまち水晶みたいにしやきっとした。なにもかも 「ちょっと酔いがまわりすぎたんじゃないのか ? 」 想い出した、全部覚えている、なにもかも、理解している。魂はも 「ノ 1 だね。俺は完全にまともた。たった今シャワーをあびたみた はや空つぼだった ただ氷のように冷えびえとした憎悪たけたっ キャッシュ

4. SFマガジン 1978年1月号

ろうて : : : どこのどいつが、なんのために《魔女のジェリー 》が要がしよっちゅう言ってるが、びよっとすると、本当に悪魔のものは るのか知らんが、思っただけでもキンタマが縮みあがらあ : : : 」 悪魔のためにそのままにしとくべきかもしれんぞ : ・ 「そうた、あんたの言うとおりた。だが、分ってくれ、俺の気持ち そのとき派手な襟巻をした青二才がディックの席に腰掛けた。 も。気分爽快なある朝へ 、・ツトの上で自殺してる俺の死にザマを人「シ ( ルトさんですか ? 」 に見られたくないんだ、俺は。あんたの言うとおり俺はストーカー 「それがどうかしたのか ? 」と俺。 じゃない。しかし、これでも荒つ。ほいことにかけちゃそう人にひけ「クレョンと言います、マルタから来ました」 をとらんし、俺は事務屋だ、分ってくれ、俺たって生きたいんた。 「そうかい、それでマルタじやどんな具合だ ? 」 ずいぶん生きてきたが、もう慣れつこになっていて : : : 」 「マルタは悪くありませんよ。でも、そんなことはどうでもいいん そのときアーネストが突然カウンターのむこうから怒鳴った。 です。アーネストがあなたのところへ行ってみろと言ってくれたん 「ヌ 1 ナンさん、あんたに電話だ」 「畜生 ! 」ディックが毒づく なるほどそういうことか、と俺は腹の中でつぶやく。クソ、アー 「また苦情か、どこにいても見つけだしやがる。すまん、レッド ネストの野郎、どうしようもないド畜生だ。俺がこの野郎に同情し 立ち上って電話のところへ去る。俺はグターリンとポトル一本とてやる筋合いはない。ところが現にこうしてはなたれ小僧が目の前 一緒に残された。グターリンが相手にならん以上、もつばらポトル こざっぱりとめかしこんでい にでんと構えているーー、顔の浅黒い にかかりきることになる。ゾーンの畜生め、クソくらえだ、絶対ある、おそらくまだ一度もひげなどあたったこともないんたろう、女 れから助かりつこないんた , どこでどいっと話をしても、ゾー とキスしたこともないような若僧だ。アーネストの野郎にしてみり ン、ゾーン、ゾーンた : : : そりやむろん、ゾーンから将来、恒久平や、そんなことはどうだっていいんた、一人でも多くゾーンに追い 和ときれいな空気が生れると考えるのはキリールの勝手た、キリ こめたらそれでいい、三人のうち一人、・フツを持って戻ってくりや ルか、あいつはいい男た。あの男を馬鹿呼ばわりするやつはいな ほい一丁あがり、てなもんた : 逆に才人たと言われてるくらいだからな。だが、人生ってこと「ところで、アーネスト爺さんの暮しをどう思う ? 」と詛いてみ になるとあの男もなにも分っちゃいない。ありとあらゆる山師どもる。 がゾーンをめぐってひしめきあってるということがやつには想像も 小僧はカウンターのほうを振り返って言う。 できんときてるんだから。そら、現に今だってそうだ、《魔女のジ 「悪くない暮したと思いますが、できたら代りたいくらいです」 ー》を欲しがっているやつがいる。いやいや、グターリンは飲「俺たったら願いさげだ」と俺。 んだくれで、宗教的なことで頭がちょっといかれているが、こいっ 「飲むか ? 」 のほうがまともた、ときにはまっとうなことを考えている。こいっ 「ありがとう、でも、・ほくはやりません」 ー 08

5. SFマガジン 1978年1月号

「よし、飲むそ ! 」と言ったものの、俺はむかっ腹をたてている。 「そいつが欲しがってるのは何だ ? 」と俺が訊く。 「俺の見当じゃ、《魔女のジェリ 1 》だな」とディック。そしてどどいつもこいつも俺を単細胞たとぬかしおる、畜生 ! 「おい、グ ういうつもりか変な目つきで俺の面を見つめている。 ターリン ! それだけネンネすりやじゅうぶんだ、飲もう・せ」 「なんだと ! 《魔女のジェリー 》が欲しいだと ! 」と俺。 ききめなし、グターリンは目を覚さない。黒光りする面を黒いテ 「ひょっとして《殺人灯》も要るってんしゃないだろうな ? 」 1 ・フルの上にのつけて眠っている、両手を床にとどくほどだらんと 「俺もそれは訊いてみた」 させて。グターリンぬきでディックと飲んだ。 「まあいいさ、あっちでじゃ俺は単純な男でもありや複雑な男にも 「言うまでもないだろ、要るってさ」 なる、たが、その野郎のことに関しちゃしかるべき所へすぐに知ら 「そうかい、じゃそいつに自分で盗ってこいと言ってやれ。むつかせたっていいんだそ。俺がポリ公が好きでそう言ってるんじゃな しい仕事じゃない。 《魔女のジェ 1 ) ー》はあそこの地下室にあるん い。だが、俺だってサツへ出かけていって密告するかもしれんぞ」 だ。・ハケツを持っていって汲んでくりや いい。ただし葬式代はそい 「そりやまあそうだろうが」とディック。 つもちたそ」 「でもサツで訊かれるかもしれんそ、そういうやつがなんでよりに ディックは黙って額ごしに俺を見、にこっともしない。分らん、 よってお前のところへ話を持ちこんだんだ、ってな、え、どうだ この野郎、俺を傭いたがってるんたろうか ? ようやく俺もここで 納得がいった。 俺は首を振った。 「ちょっと待て」と俺。 いい。デブ、お前はこの町へ来て三年目 「そんなことはどうだって 「そいつはいったい何者なんた ? ー》は研究所でさえ取になるが、一度もゾーンに行ったことはないし、《魔女のジェリ 扱い禁止になってるんたそ、研究も出来ん代物た : : : 」 1 》も映画で見たことがあるだけだ。見ようと思えばお前だって実 「その通り、言われるまでもない」ディックがゆっくりと言う。目物が拝めるんたそ、しかもそいつで人間がどうなるかってこともな は俺にむけたままた。 ま、あれを見たら、お前だったらションべンをもらすかもしれ 「人類にとって潜在的危険がある研究だからだろ。そいつが何者かんがな。あれはな、あんちゃんよ、おっかねえ代物よ、ゾーンから ってことはそれで分ったろう ? 」 あれを盗みだすことはでぎん相談だ : : : お前も知ってのように、ス トーカーという連中はみんな荒つ。ほい野郎ばっかしだ。それでもた 俺にはさつばり見当もっかなかった。 「訪問者たとでも言うのか ? 」と俺。 ぞ、連中に多少札束をでかくしてみたところで、あの仏様になっち まった″なめくし″だってそれにだけは手をたしやしなかったろう 0 やつは声をあげて笑いだし、俺の腕をたたいて言う。 「さあ、もっと景気よく飲もう、あんたは単純な男たぜ ! 」 ・せ。″はけたか・ハー・フリッジたってその仕事たけは引きうけんだ キャ・ヘッ

6. SFマガジン 1978年1月号

8 エド・プライアント 欺師やペ い女の子が三人、エリスンに向かって、おそる テン師で。 おそる歩いて来た。私が見ていると、エリスンは もやって 後ろに手を回してタオルの結び目に手をかけ、故 いること 意にそれを解いて、偶然のふりをしてタオルを落 とした。それから、くすぐりの対象によく見せる″ ように、ゆっくりと身にまとい、口先巧みに詫び ンの虚像 ていた。 を剥いで 実像を示 これは、シャーリイの一般的な批判と何ら関係がな″ そうとす いばかりではなく、事実の半分しか伝えていない。工 る時、批 リスンはフラッシュが閃いたのを見て、誰かが自分の 判されて , 許可を得ずに写真を撮ったと思いこみ、カメラを持っ も弁明できる所でシャーリイが留まっていればーーフた男の後を追ったのである。ただし、件のタオルは決 アンダムのエリスン派からは、それでも抗議の声がまして落ちなかった。私は知っている。その場に居あわ″ き起こっただろうがーーーすべて支障がなかったであろせたのだから。 う。ところが勇み足で悪口を言い、自分でも誹謗をしさて、シャーリイの誹謗に対する = リスンの反応は てしまったのだ。 どうだか。 エド・プライアントが日和見野郎だとほのめかしさあ、それがまた : エリスンはシャーリイの悪口雑言に対して冷静に対 玉ール・アンダースンを「悪名高い右翼野郎」で処し、君の言「ていることは大部分、文章の書き方に″ 「高級散文詐欺師」と呼んだ。 関係がないよ、と指摘してやればよかった。破格の文 以下のような中傷を書いた。 体などは、結局の所、総ての作家に認められた技術な のだ。シャーリイの中傷でエリスンの名声も多少色褪 私が初めてエリスンに会ったのはクラリオンだせたかもしれないが、その補いはつけられたはすであ ったが、彼は・ハス・タオルしか身に着けていなかる。 った。シャワーを浴びたばかりの、腰に・ハス・タ ところが、エリスンというのは、そういう人物では″ ォルを巻きつけたたけの姿で、彼は廊下を歩いてない。 , 。 彼よ自ら認める通り、いっか「やつつける」人 いた。私は彼が背を向けた廊下の隅にいた。かわ間を列挙した「憎悪」リストを持っているような人物 こ。

7. SFマガジン 1978年1月号

とをすっかりのみこんだのだ。もっとも理解できんようなことはこ かれがいきいきとして保管庫に《空罐》を押しこみ、扉をしつか り閉じ、ダイヤルを三回半まわして錠をかけると、俺たちは実験室れにはなんにもないんだから当然だが : へもどった。空つぼの《空罐》にアーネストの野郎はキャッシュで 「とんでもない野郎だな、お前ってやつは」と言ったものの、目は いいだろう、行ってみる必要はあるな。さっそく明 四百払う、あん畜生め、それが中身が詰まったやつだったら、野郎の笑っている。「 ーシューズ》を俺 ド汚ない血をやっからすっかりしぼり取ってやれるかもしれん。信日の朝でかけよう。九時に通行許可証と《オー が申請しとこう。十時にはお祈りでもとなえながら出発ってことに じようと信じまいとそれはそっちの勝手たが、俺はてんからそんな ことは考えちゃいなかった。その訳は、キリールがしやきっと元気なる。やるか ? 」 をとりもどし、また体を張りつめた絃みたいにびんびん鳴らして張「念を押されるまでないさ」と俺。「ところで、もう一人連れてい り切りたしたんた。三段跳びで階段を駆けおり、こっちにタ・ ( コをくやつは誰にする ? 」 吸うまもくれんくらいの張り切りかたたった。ざっと一通りの話を「どうして三人も要るんた ? 」 「おい、勘違いせんでくれよ、こいつは若い娘とビクニックに出か かれにしてやった。そいつがどんな代物で、どこにあり、そいつに 忍び寄るいちばんいい方法とかをだ。かれはすぐに地図を引っぱりけるんとは訳がちがうんだそ。あんたになにか事があったらどうす だしてきて、そのガレージを見つけだし、指でそれを抑えて俺の顔る ? ゾーンへ出かけるんたそ、手続きたけはきちんとふんどくべ を見た。間題ははっきりしている。かれは俺の言わんとしているこきた」 ちだし、捕えられて刑務所に入れられる。 アルカジイ & ポリス・ストルガッキーの た。彼ら兄弟が描くの世界は単純な共 グタとの間にできた娘はしだいに人間らし 産主義未来の讃歌や謳歌でない。むしろそ 比較的新しい作品「路傍の。ヒクニック」 こに展開されるグロテスクな世界は、現代さを失い、半人間の状態に変っていく経過 は、作品の発表にきわめて制約をうけてい が書かれ、昔死んだシュハルトの父親が墓 るこの作家たちにその場を提供している数社会のみごとな戯画であり、政治体制の別 なく心やましい者には己に加えられた攻撃場から生き返る。絶望した主人公は、人間 少ない文芸誌のひとつであるレニングラー の願望をかなえてくれる伝説の《黄金の ドの『オーロラ』に七二年七月から十月に ととりかねない世界である。 ソ連の名映画監督タルコフスキ 1 が、レ球》をもとめて、自分と家族のためにふた かけ、部分的に省略されて載った。ここで たびゾーンにむかう。 ムの「ソラリス」に続いてストルガッキー 品紹介した「ストーカー」はその作品の前章 この作品は「神様はつらい」以後、「収 と第一章に相当し、七三年に『世界文のこの作品を映画化したことは、この作家 容所惑星」、「トロイカのおとぎ話」など 庫』第二十五巻に転載されたものからの翻達の持っ思想に共感を覚えたからであろ と共に内外で高い評価を得た作品である。 訳である。 英語圏でのストルガッキーの作品の紹介は 社会問題や現代の世界政治に強い関心を 二章以降では、主人公レドリック・シュ ハルトがゾーンに潜人しそれまで誰も手を本号のスキャナー ( 一二二べージ ) でも触 示すを発表するようになった六〇年代 ださなかった死の《魔女のジェリ ー》を持れている。 ( 訳者 ) 後半から、海外でも注目される作家となっ 5 7

8. SFマガジン 1978年1月号

「ああ、そうだよ、で、あんたは ? 」 ねます。この町での暮しはたいへんです。権力は軍がにぎっていま 男は器用に小さなポケットから名刺を一枚抜きとって俺の前へ置す。物資の供給はよくありません。すぐそばにゾーンがあって、ま 。それに目をやると、《移民局全権代理アロイーズ・マクノ》るで火山の上で暮しているようなものです。いつなんどき突発的に と読めた。こいつのことならむろん俺は知っている。誰かれなしに伝染病が発生するとか、それよりもっと悪いことがなにか起るとか この町から立ち去れとうるさく説得してまわっている野郎た。どう ・ : お年寄りたちの気持ちは分ります。あの人達に住み慣れた土地 しても俺たちを一人残らすこの町から追っぱらいたがっているやつを立ちのけと言うのは酷です。しかし、たとえばあなたは : : : おい がいるってことだ。ハ ーモントの町の半分は昔のまんま、また俺た くつですか ? 二十二か三、それ以上の年とは思えません ちに残されているんだそ、それなのに、こうやって俺たちをこの場すか、私たちの局は慈善組織ですから、この仕事で利益を得ような 所からあっさり追っぱらってぎれいに掃除をしたがっている野郎がんて考えていません。皆さんにこの悪魔の土地から立ちのいていた いる。俺は爪先で名刺をはしぎ返して、言ってやる。 だき、本物の生活に入っていただきたいたけなんです。旅費と新し 「ご好意は誠にもってかたじけないが、ことわる。興味がないんでい土地での就労については私たちが保障しているんですよ。あなた ね。生れたとこでくたばるってのが俺の夢でねえ、分るだろ」 のような若いかたには学ぶ可能性たって保障されているんです : 「しかし、どうしてですか」勢いこんで男がく。 それでも、いやだとおっしやる理由が私には分りません ! 」 「不躾な質問で申しわけありませんが、あなたをここにとどまらせ 「するとなんだな、どいつもこいつもうんと言わんのだな ? 」 ているものはいったい何なんでしよう ? 」 、え、一人も、という訳ではありません : : : 承知してくれる人 それほど聴きたきや、なぜ俺がここにとどまっているのかその訳たちもいくらかはいます、ことに家族持ちの人たちですが。しかし を率直に言ってやろう。 : したいこの町に何があるんですか、あな 老人と若い人たちが・ 「むろん、少年時代の甘い想い出さ。シティ。ハ ークでのはじめてのたがたにとって ? ここは人里離れた僻地ですよ、たたの田舎じゃ キス、お袋さんに、親父のこと、ほかでもない、 この ' ハーで酔っぱありませんか : : : 」 らっておつばじめたひどい喧嘩、想い出すたんびに胸がきゅうと締そこで俺は男にぶちまけてやった。 めつけられるほどなっかしい分署の豚箱 : : : 」ここで俺はおもむろ「アロイーズ・マクノさんとやら、みんな今あんたが言ったとおり に鼻汁で汚れたばっちいハンカチをポケットから引っぱり出して、 さ。この俺たちのケチな町は僻地さ。ずっと今までも僻地たった 目に当てる。 し、今だってその通りよ。たたし、ここんとこがかんじんなんだ あな 「ためだ、どうあってもここは動かんそ ! 」 : 、今はこの僻地が未来につながってる穴だってことよ。この僻地 かれはそれを見て、 ーポンをひと舐めし、考えながら言う 9 を通して、あんたたちのド汚ない世界に、これからは何もかも変る 6 「ハーモントっ子といわれる皆さんが、どうしても私には理解しかんだってことを俺たちが教えてやるのよ。暮しも変る、まともにな 0 、、 0

9. SFマガジン 1978年1月号

p 穏やかに言う。 っとなればあっても一個だし、とてもかれに都合がつく額じや足り 「信じてくれるたろうが、レッド、俺は誰にも喋っちゃいないそ」るはずがない。それにかれにそんな金が都合できる訳がない。それ とも外国の専門家か、しかもロシア人から借りるつもりだろうか ? 「やめろ ! 俺はあんたのことを言ってるんじゃないんた」 「まだテンダーにだってなにも言っちゃおらんのだ。一応やつの通っぎの瞬間、火傷をしたみたいに心に激痛を感じた。ろくでなし 凵許可証も取り寄せてはおいたが、当人に行く気があるかどうかだめ、そんなことをこの野郎は考えているのかーー札東めあてで俺が この猿芝居をやってみせてると、思ってるんだな。そうだったの 一て説いちゃいないんだ : : : 」とキリール。 俺は黙ってタ・ハコを吸っている。可笑しいと言うか不幸と言う か、あんたって人はそういう人間たったのか、俺をなにと勘違いし この男はなにも分っちゃおらんのだ。 てるんだ ? 見そこなうなってんだ : : かれに思いつくかぎりの罵 「ヘルツオーグになにを言われたんだ ? 」 詈雑言をあびせかけるつもりで、今にも啖呵を切りそうになった。 「べつになにも。誰か俺をたれこんだ野郎がいるんた、それだけのが、ふと口をつぐんだ。考えてみればそれは本当のことだし、かれ さ」 が俺のことを勘違いしたって当然じゃないか、かれから見りや俺は かれはどういう訳か妙な目で俺を見、肘掛けからひょいと尻をおストーカーだ。このストーカーに少しぐらいだったら余計に払って すと、部屋の中を行ったり来たりしだした。まるで駆けまわるよやってもいい、かれは札東に命を張ってるんだから、と思ったにち これじゃ、俺は昨日釣針をたれ、今日は餌をつけ値をつ ノにして部屋の中を歩きまわっている。俺は黙ってタ・ハコを吸ってがいない た。かれが気の毒だし、むろん、こんなことになっちまったこと りあげてると思われたってしかたがない。結果的にはそうなっちま 」腹が立つ。言ってみりや、この男の憂うつ症はすっかり治ってい ってるんだ。 ~ んだ。だが、これはいったい誰の責任だ ? ほかでもないこの俺 いかに俺の舌とはいえ、そんなことは喋れなかった。かれはじっ ~ 責任がある。キャンディで子供を釣るには釣ったが、そのキャンと俺を見つめていて目をそらさない、その目に読みとれるのは軽蔑 , イは隠し場所にあって、そこにはおっかないおじさんが番をしてどころか俺にたいする理解だ。そこで俺は穏やかに打明けた。 る : : : そのとき、かれは歩きまわるのをやめ、俺のそばで立ちど「あのガレージへ通行許可証をもらって行ったやつは今までにまだ 俺と目を合さんようにして言いにくそうに説く。 一人もいないんだ。あんたも知ってのとおり、あそこまで行く経路 「なあ、レッド、 それはいくらくらいするもんだーーその中身がつはまだろくに調査されちゃいない。それなのに、俺たちが戻ってこ った《空罐》は ? 」 れたとする、するとあんたのテンダーは、俺たちがどうやってまっ 最初、俺はかれの言う意味がのみこめなかった。はじめはかれがすぐガレージへいっきに飛んで行って、必要なものを持ってすぐ戻 だどっかでそれが金を出せば買えるのをあてにしてるんだと思っ ってきたか、さっそく吹聴してまわる訳だ。ちょうど倉庫のときみ四

10. SFマガジン 1978年1月号

やつはいないんだし、知りようもないんだ。かりに警察からだとし手に言いがかりをつけたのか、お前には分っているか ? たって、たしかに連中なら古いことは知ってるだろうが、今の俺の そう考えると、俺は今日はゾーンに行くべきじゃないと感じ、ほ ことはつかんじゃいない。そうだ、″はげたか″のやつがっかまっ っとしたぐらいだ。ただ問題はそのことをキリールにどうやってそ たんだ、畜生、あの野郎だったら罪を軽くしてもらいたいばっかりれとなくわからせるかってことだ。 に人をはめるぐらいのことは : : : しかし待てよ、 ″はげたか″のや俺はずばっと言った。 つもたしか、今の俺のことは知らんはすだ、俺はあれこれ考えた。 「俺はゾーンに行かんことにした。なんか言うことがあるかい ? 」 たがいくら頭を悩ましてみても役に立ちそうなことはなんにも思い むろんはじめは目をまるくして俺を見ていた。なにか言ったよう つかないので、ほっとくことにする。最後に夜中にゾーンへ行った だ。そのつぎかれがやったことは、俺の腕をつかみ、自分の部屋へ のは三カ月前で、あのとき持ち出したブツはほとんどさばいてしま連れていって俺をかれのデスクに坐らせると、自分は俺の坐ってい って、金も使いはたしてしまった。現行犯でとっ捕まったこともある椅子の肘掛けに尻をのせた。二人とも一言も口をきかないで、タ・ハ るが、今はそう簡単に挙げられてたまるかってんだ、こっちだってコに火を点けた。やがてかれのほうからます用心深く口を開いた。 すばしつこいんだ。 「なんかあったのか、レッドっ・ 俺になにが言える ? すでに階段をの・ほりかけていたが、ふと頭に浮んだことがある。 それがあんまりにも思いがけんことだったから、また史衣室へもど「いや、べつになにも」と俺。「なにもありやしないさ。昨日ポー ってくると、椅子に腰掛けてタ。ハコに火をつけた。はっきりしてるカーで二十もすっちまってねーーヌーナンのやつが馬鹿についてた ことは今日、俺はゾーンに行くわけにいかんということだ。それにもんで、いまいましいがこっちは・ 明日もだめた、あさってもだめだ。あのなんでも嗅ぎまわってある「話をそらすな」とキリール。 くヒキガエルどもが俺のことを忘れずにいたんだ、これでわかった 「いったいどうしたんだ、考えなおしたのか ? 」 そ、かりに忘れていたのかもしれんが、どいっか想い出した野郎が 緊張してたせいだろう、俺は溜息をついたぐらいだから。 いるってことた。そのクソタレがどいっかなんてことはこのさいど「ますいんだ、俺は行けんよ」もそもそとロの中で言った。 「分るたろ、やばいんたよ。さっきへルツオーグが俺を呼びつけや うてもしい、ストーカーだったら、つけまわされているってことが 分ってたら、正気なら絶対に大砲をぶつ。はなされたってゾーンに近がったんだ」 づくような間抜けたことをするやつはいない。いまはいちばん暗い それを聴くとかれはいっぺんにしおれてしまった。またあの惨め 隅でそっとしてるべきときだ。ゾーンがなんだって言うんた ? やったらしいしょ・ほくれた姿になってしまった。目まで、また病気に つらに言わせりやこの俺が通行許可証なしであそこへ行った月があかかったプードルみたいになっちまったのだ。さも気忙しそうに息 るとほのめかしてるんたそ。なんでやつらが尊敬すべきこの実験助をつくと、吸いさしのタ・ハコから新しいタバコに火を移し、それで 8 7