アンドロイド - みる会図書館


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1. SFマガジン 1978年10月号

ファンタジア 探索して、地ならしはできていた。ところが、現実は、やはり一つる。しかし、また、まるでペットの犬や猫のことを話すように、ア の驚きとして、たいていの人にショックを与えたように見える。あンドロイドの話をする友人もいる。 ート。ヒアを実 る人々にとっては、それは快い驚きであった。アンドロイドはアン アンドロイドが、何世紀も昔から夢想されてきたユ ドロイドだ。だが、それは快い伴侶、疲れを知らぬ労働者であっ現させなかったのは確かである。かれはビジネスの社会の中に厳重 て、高価ではあるが経済的だった。かれらの用途は無数にあり、本に規制されているーー常に一つの特殊グループとして扱われ、仕事 物の人間との混同は最小限度たった。しかし、他の人々にとっての選択権は相変らす人間の側にあった。代用品の方がいかに能率が は、予想された事であったが、アンドロイドはアンドロイドであ良くても、である。・ほくはグラスを飲み干し、もう帰ろうと立ち上 、唾棄すべきものであり、神への冒漬であり、怪物であり、そのりながら、それでも、何かかれらのために弁護してやるべきことが 他もろもろの忌わしい物であった。 あると思った。少なくとも、かれらには絶対確実なマナ 1 がある。 事実、アンドロイドは、心の狭い者が、ほとんどだれでも見下すそれで、かれらのテープルの横を通る時、・ほくはできるたけ愛想 ことのできる、最も新しい少数派になってしまっていた。そこで、 よく微笑み掛けてやった。少年は徴笑み返し、両親は顔をほころば 入れ墨、一連番号、ということになる。この目印は、ほんの微妙なせた。明らかに、少年は、かれらの息子の代用品なのだ。それを見 相違を識別できるほど感覚の鋭くない人にとって、自己満足をさせて、・ほくはちょっと物悲しく、かわいそうに感じた。 てくれる一種の正当な道具になった。もっとも、何のためにそれを その晩、・ほくは部屋に閉じこもって、読書をしたり、なぜかれが つけるのか、・ほくにはどうしてもよくわからないのだが。召使いをそういう選択をしたのか、想像をめぐらしたりして過した。たぶん 全部アンドロイドと入れ替えてしまった友人が、ロンドンにいる死んだのだろう。それとも、家出か。前にもいったように、アンド が、かれはまるで兄弟姉妹のようにかれらを愛するようになってい ロイドの用途は無数にある。しかし、・ほくが腑に落ちなかったの 土 カラー・スペクタクル全 5 冊 ( 第—期 ) 完結 / 6 風刺編んて。もしろさて払」 / 。。。円 3 異世界編 3 幻想編

2. SFマガジン 1978年10月号

先では、権力主義的な超国家、限りなく発の宇宙のどこでもそれはおなじこと」 ( 第そのあと彼らが一びきのクモに加える虐待 に恐れおののきながらも、彼らに手をか ・マーサー ( ″慈悲″ 達したテクノロジーの支配者が、いかなる十五章 ) 。ウイル・、 反抗者にも戦いを挑むだろう。そして、た との語呂合わせに注意 ) は、この未来の宗す。 小説の終わりで、主人公はこの悲観的な んに反抗者を抑圧するだけでなく、彼を巧教的図像の中で、丘を登っていく人物とし 妙な幻覚の網で包みこんで、そこから二度て表現される。姿のない敵に石をぶつけら全体像の中で人生をよりよく理解するため れて、彼はいつも丘の麓へ追い返される。 ( ちょうど・・フォースターの『イン と出られないようにしたり ( 『パ つまり、マーサーは、ゴルゴダの丘を登る ドへの道』でムーア夫人がマラ・ハル洞窟を エルドリッチの三つの聖痕』 ) 、また、彼の 訪れるように ) 放射能に汚染された丘に登 精神能力を容赦なく搾取したり ( 『時は乱キリストの相似物なのだ。『アンドロイド れて』 ) するだろう。 は電気羊の夢を見るか ? 』は、ディックのり、石を投げつけられるーー「ここには、 彼の、いや、だれの落下を記録するものも ディックの近作では、この精神の混迷と最近の長篇の中で、おそらく最も重要で、 なく、そして土壇場で現われるかもしれぬ 社会の崩壊に代る最後の選択として、一種また全体的に最も強烈な作品といえる。こ の宇宙的諦観を説くかのような、超自然的の小説では、第三次世界大戦で物質的によ勇気や誇りも、知られずに終ってしまう。 神秘主義の存在が見られる。『アンドロイ りも心理的に大きく崩壊した合衆国が描か死に絶えた石、埃まみれの枯草は、なにも イれるが、そこでは核戦争による絶減をまぬ感じず、なにも記憶しない。彼のことも、 ドは電気羊の夢を見るか ? 』におけるウ レく また、それら自身のことも」 ( 第二十一 ・マーサーー・・・・彼がでっち上げられかれた数少ない動物のどれかを所有するこ た神であることよ、 。しうまでもない のとが、社会的地位の象徴であり、機械化さ章 ) 。しかし、結局、彼は生き残るーーー不 メッセージは、それにもかかわらず、強烈れた生活と、情け容赦ない″死の灰″の恐可能な贖罪を果たすためでなく、人生の真 で暗澹とした真実から発しているーー「ど怖に対する療法である。この小説は、混沌の本質を受けいれるために。丘の上の聖な こへ行こうと、人間はまちがったことをすにかわる部分的な代案を暗示している。結るヒキガエルが神の贈物でなく、人工のオ モチャにすぎなかったのが示すとおり、人 るめぐり合わせになる。それがーーおのれ局、アンドロイドを人間から区別し、彼ら の本質にもとる行為をいやいやさせられるの抹殺を正当化しているものは、宗教的精生は一連の幻覚なのである。それをはっき り認識すること、たとえば、『シミュレイ のが、人生の基本条件なのじゃ。生き物で神の欠如であり、彼らの冷たい決意と残酷 あるかぎり、いっかはそうせねばならん。 クラ』の中でニコル・ティポドーという永 さなのである。人間たちの中で最も人間的 それは究極の影であり、創造の敗北もあなのは、たぶん準精神薄弱者のイジドアた続的な操り人形の背後をやみくもに右往左 往する人びとのような自暴自棄の態度 ( 「な る。これがとりもなおさず、あらゆる生命ろう。彼は最初、結果をかえりみすに、 をむさぼっている例の呪いの実体じゃ。こ にが幻で、なにが真だというんだ ? ぼく アンドロイドのグループに助力を申し出、 7

3. SFマガジン 1978年10月号

ハウンテ く。メタとは、知的ゲームの中でそれ ンドロイドの娘との濡れ場、警察の″賞金はしなかったが ) 新しい文学的、前衛的な 自身を枯渇させることなく、同時に、二十 かせぎ″によるアンドロイド狩り、未来の格調を与えようと試みたイギリスの″ニュ 註 2 世紀のテクノロジー的人間とアメリカ社会 アメリカ国民がそれによってウイルく ・ウェープ″派の作家たちだった。 が、空虚な世界にを悩ませている危機についての首尾一貫し マーサーとの直接的な接触をなしとげる一事実、・・・ハラード た解釈となるものである。 種の魔法の箱、と実に盛りだくさんだ。デ住む退廃した個人の神経症的行動にしばし ックの小説手法は、つねにのしきた ばのめりこみすぎるのに反して、ディック 原註 りの枠内にとどまっている。このため、正の小説の大きな強みは、個人の精神世界 1 ・フライアン・・オールディス衾 B 一三 on Year Spree" ( 『十億年の宴』未訳 ) 三二 統派の文芸評論家の目からすると、彼は・フ と、ヒーローをとりまく社会 ( それがいカ ラッド・丿 ヘーやヴォネガットと比べても、ま にとっぴで不可解なものであろうとも ) の 2 おそらくディックの小説に関する最初の たアシモフと比べてさえも、つねに劣った グロテスクな具体性とのあいだの緊密な関 きわめてすぐれた評論は、ジョン・プラナ ーの "The 、 ork of PhiIip K. Dick" 評価しか与えられないだろう。・フラッド・ヘ係にある。 ( 『フィリツ。フ・・ディックの作品』未 リやヴォネガットは、より広い小説の伝統 界で活動し、また、つねにの基 ・ワールズ誌一九 訳 ) であろう。 ( ニュー の中へをとりこんでいるし、またアシ礎の一つをなしてきた通俗的要素を受け入 六六年九月号。一四二 ~ 四九べージ ) 要するに、ディックはこういうことを批 モフは、まだ一般に牢固として残ったれながらも、ディックはすべてのがそ 「は、ちょ 判的に認識したらしい のイメージと一致するウエルズというお手こに基礎を置いている現実という概念に冷 うどテクノクラシーとおなじく、人間的問 本を、いつも忠実になそっているからだ。お水を浴せかけた。彼は、の物語性や文 題から人間的現実を剥ぎとって、それを具 体化する。われわれはこうして一つの進歩 なじ理由で、ディックは・ Q5 ・バラード 化的価値を頭から否定するのではなく、そ を得たが、その動きは、個人個人の人間と とも異なる。・ハラードは、たとえば″意識の形式と内容を極限の結果までつきつめ、 その問題に依存しているのに、同時に、よ の流れ″のような実験的手法により多くの 利用しつくすことによって、それらに挑戦 り上位のある法則によって、それらとは独 註 3 立している。それは予定された循環運動で 関心をふりなけ、心理学や精神分析からと した。実のところ、ディックは r-k に関す あり、人間とは無関係に、その外部の活動 りいれた要素を大きく利用する。ディック るを書いているのた。いいかえれば、 の結果として生じるものである。この上位 の力は、幸運、宿命、偶然、摂理、神など の中に見出されるのは、センセーショナリ ディックは、が彼の手にゆだねた大道 の名称で呼ばれる ( フランコ・フェリー 具小道具をいろいろに細工し、改造して使 ズムの極致にまで押しやられた″たんな ニの卓越した、そして、あまりにも知られ いこなすことによって、の意味に関す る″通俗のプロットだけである。にも ていない評論 "Che Cosa E'La Fanta- scienza" ト ( り , ) かかわらす、彼の小説がもっ特異性の真価る批判的探求を進めているのだ。この探求

4. SFマガジン 1978年10月号

と平行して、ディックは本質的には二十世の現象とは、死者を蘇生させ、生者を子宮 しか表現できない、宇宙的な孤独と完全な 「かれは、 紀アメリカのそれである社会を、より多く へ向かって時間逆行させる、生物学的リズ 7 伝達途絶の象徴であるからだ ムの逆転である。『アンドロイドは電気羊 世界がすつぼり入るくらいの大きな穴を見モデルに取り上げるようになった。 ュレイクラ』の中心プロットは、政治当局の夢を見るか ? 』では、アンドロイドがあ た。大地がきえうせ、そのあとに、暗い の支配する公共情報センターの操作であまりにも完璧に作られているために、複雑 ・ : 穴の中へ、人間 がらんどうの穴が一つ : る。『アンドロイドは電気羊の夢を見るか な心理テストを経なければ、彼らの機械的 たちは次々にとびおりて、とうとうたれも ? 』 ( 一九六八 ) では、社会はある機械装性質は見破れない。ディックは、自然科学 いなくなった。かれは、一人・ほっちで、ひ っそりと静まりかえった巨大な穴のふちに置の大メーカーの圧倒的なカから自己を守とのあいだにある伝統的な関係、すな このメーカーは、人間とわち、科学が、よかれあしかれ、現代社会 とりのこされた」 ( 第十二章。小尾芙佐らねばならない。 すりかわっても見分けのつかないほど完璧を条件づける因子の一つであるという、肯 な自動人形を市場へ送り出そうとする。 定的な見解を打破する。独特の相対的で悲 『逆まわりの世界』 ( 一九六七 ) では、社観的な現実観の中で、ディックは、科学 ディックは『シミュレイクラ』でふたた 会構造は依然として、グロテスクにも、資の、そしてわれわれの心理的カテゴリーや び舞台を地球に戻し、より直接的な、だ が、奇怪さにおいては決して劣らない表現本主義のそれだ。六〇年代のアメリカが抱科学的方法の、霊知的基盤に疑問を投けっ えていたそれ以外の諸問題 ( 文化統制、黒けるのだ。 で、アメリカ社会を描いてみせる。事実、 では、この崩壊した世界の中で、人間に ディックの場合は、六〇年代に出現したほ人暴動など ) も、定期的に現われる。これ なにが残されているのたろうか。もちろん かの作家たちとちがって、幻覚の勝利が現らの後期の小説では、その前提をなす科学 実逃避や神話への避難を意味することはな的データの信憑性は、ほとんどゼロに近ディックは、牧歌的な自然への回帰が可能 だと信じるほど甘くはない。むしろ彼は、 『シミュレイクラ』では、不老不死の むしろそれは、アメリカ社会にしつか 科学を信仰しないというまさにその理由か り腰をおろした物語を、の極限までひ人物や、時間をさかの・ほって、奇想天外に ら、人類が墜ちた永遠のテクノロジー地獄 も、ナチス・ドイツとユダヤ人優遇の取引 きのばそうとする試みなのである。 ディックの近作でますます顕著になる科を結ぼうというアイデアが現われる。『逆を仮定する。社会学的にいえば、巨大な資 位本主義勢力と、国家機構に固有の権力主義 学的データの崩壊は、集団的レベルにおけまわりの世界』では、科学 ( ホート が、その権力を拡大するのは避けられない る社会の解体、個人的レベルにおける家族相 ) は、ある奇跡的現象をたんに分類する だけのためにーー説明する意図などみじん過程であり、それとともに個人の自由はま の愛情の危機と、軌を一にしている。科学 的要素がしだいにあやふやになっていくのもなくーーー導人されているにすぎない。そすます切りつめられていく。その行きつく

5. SFマガジン 1978年10月号

、よ、。都会ではしよっちゅう見ているが、スター ーストの町で斑が入っていた。とても気分が寛ぎ、むしろ鎮静効果があるとさえ アンドロイドを見掛けることはあるまいと、何となく思いこんでい いえる取り合わせだった。そして、客の方もそれにふさわしく、物 たからである。 静かだった。ちょうど、デザートを食べ始めた時、浜で会った少年 やや不作法だと思いながら、ぼくは引き続き見つめていた。少年が、両親らしい夫婦といっしょに入ってくるのに気付いた。かれら は夫婦のところまでいくと、その隣りに、ばたんとうつ伏せに倒れはひとかたまりになってポーイ長と相談してから、隣りのテー・フル た。ちょっと日焼けしたかれの肌が、天色の砂の上に青白く見えに案内されてきた。少年は異常に礼儀正しく、母親のために椅子を た。砂浜は人気がなく静まり返っていたので、女の声がかなりよく 引いてやり、父親と握手してから、自分も坐った。そして、たまた 聞こえた。言葉の一つ一つははっきりしなかったが、語調はよくわまかれがこちらを向いた時、・ほくはにつこり笑って、うなずいてや かった。人間にせよアンドロイドにせよ、その少年は叱られているった。だがその笑顔も、「くそったれ、人間もどき」という、だれ のだ。たぶん、近くにいなければいけないといって、そのささやか かのつぶやきを聞いて、たちまちしかめ面に変った。 この言葉を、三人連れは明らかに無視していた。だが、・ な反逆行為をたしなめられているのだろうと、想像した。 ほ ~ 、は」腹 ほほえましいと思った。・ほくは、手を組み合わせて枕にして、仰に据えかねて、まわりのテープルを見回した。だれかわからなかっ 向けになった。気の毒に、あの子はちょっと楽しもうと思っただけた。それで肩をすくめて、その不謹慎な仕打ちにけりをつけようと なのに。そう思ってから、かれを人間として考えているのに気付い した。そのとたん、一人の年配の男と、その妻が、乱暴に椅子を引 て、苦笑した。・ほくは普通やらないが、よくある間違いだ。そのあき、礼儀のレの字もわきまえない態度で、出ていった。かれらが・ほ と、すぐに、うとうとと眠りこんでしまって、この事は忘れた。そくと少年の間を通り過ぎる時、年配の男の方が、あたりにほどほど して、その日の夕方、ちょっと奢ったタ飯を食べてやろうと決心しに聞こえる声で、「ロポ公」と吐き出すようこ、 冫しった。たぶん・ほく なければ、たぶん二度と思い出すことはなかっただろう。 は、それに対して何かいい返すか、少年にとりなしの言葉をかける ・ほくの宿泊は不規則だったが、ホテルの従業員に・ほくの気まぐれか身振りをするかして、遺憾の気持ちを表わすべぎだったと思う。 だが、そうしなかった。何もしなかった。 な習慣を覚えこませる程度には、たびたびやってきていた。だか その代りに、大きな・フランデーのグラスを注文して、カーテンの ら、お気に入りのテー・フルを取るのに、ほとんど困難はなかった。 それは公園を見降ろす窓ぎわの一人席で、事実上、町の大部分を見ない窓の外の暗がりに目をやった。すると、ガラスの反射で、少年 降ろすことができた。なぜなら、ホテルはスター・ハ ーストで唯一のがぎらぎらした目で、自分のからの皿を睨みつけているのが見え 二階建て以上の建物だったから。もっとも、わずか六階しかなかっ たが。円形のダイニング・ルームを取り巻く、飾り気のない壁の色時にはあまりにも人間的すぎるアンド ) ロイドを、無差別に扱う社 はミッドナイト・グリーンで、それに星をちりばめたように、白い会が、どのようなものになるか、その無数の可能性を小説や事実が

6. SFマガジン 1978年10月号

っていうのは取るんですよ。美濃部達吉さんのね、正しいと思う ますね : : : 文学というよりも、むしろそういう神学的な問題につ んです。 きあたっているような気がしますよ。 ーー天皇有用説ですわな。 いまの作家ぜんぶが ? 荒巻われわれ作家が、だいたいそうだと思いますよ。たとえば小荒巻そうです。あそこまでは・ほくは許せると思う。実はこんど しわゆる世 「ビッグ・ウォーズ」のパート・ワンの最終回には、、 松さんだって、結局、あの「地には平和を」で、あそこから始ま ってるわけでしよう。そうするとね、やつばりぶつからざるを得界頭脳という世界中のコン。ヒーターを集めたものがあるわけた けども、そこに女性型のアンドロイド・ロポットが出てくるわけ ないですね。ひとつの世界を構築していくとね、いつでもそれを です。これは世界頭脳というメカニックなものの象徴でね。やっ 作った造物主というものが現われるわけたから。つまり、どうし ばり人間の形をしているわけですよ。そして、サンタ・マリアと ても、神の問題に対決せざるを得なくなってきちゃうわけでし いう名前がついてるのを出しましたけどね。そういう意味でやっ ばり象徴、人間に近い象徴でないと困るわけですよ。やつばり。 そう、だから日本がこのあいだ負けた戦争というのが、日本人 こう、なんかこう : 全体にとって神の正体を考えさせたような経験ですわな。 女神信仰がちょっとあるな。奥さんに惚れとる証拠。 荒巻そうです。 ・ : 神を荒巻そうそう、わかりやすいですね ( 笑 ) 。何か中心がないと、 現在の日本を再構築することになったひとつの大きな : どうも困るような。ある意味で作家ってのは神ですね、自分の世 見た現実だったわけだ。 荒巻そうですね。つまり、日本列島というひとつの大宇宙が、そ界を作って。 ああ、構築できるという : ・ の瞬間に侵略されたわけですよね。インべーダーに、紅毛碧眼の 群に侵略されたわけだから。これが「未知との遭遇」ですか、そ荒巻生かすも殺すも神なんですけども。で、私小説の場合には結 局、自分の身のまわりのことだけ書いてればいいわけだから、そ れと同じ体験だと思うんですね。 んな神の問題を回避しても書けるわけですよ。だけども、われわ そして、原住民が信仰している土着神がひとりいて、「もうや めろーというと、みんながそれを聞いて : れの場合にはとにかく世界を作るわけですからね、構築するわけ ですから、どうしたって神がいるわけです。だから「神聖代」の 荒巻引きとめて、そのままでとまっているわけ。 場合もね、結局あれ最後どうしようかと悩んだわけ。それで結 だから、土俗信仰の神という概念も大切ですな。 局、神を出す以外にないんで、まあ、ダルコダヒルコっていうの 荒巻ええ。 は人間の夢だったという結論を出して、初めて作品が終ったとい その効用価値というものが、ちゃんとありますからね。 荒巻ま、天皇の問題をちょっと申しますとね、・ほくは天皇機関説う感じで、やつばりあれも一種の神の変型なわけですね。同じ概 9 8

7. SFマガジン 1978年10月号

にとって彼女はほかのなによりもリアルだ い全面的荒廃の風景が浮かびあがる。しか いるよ、こりや爆発でやられたのか よ。きみよりも。いや、・ほくよりも、ぼく し、この死の奈落の底から、新しい価値体 な」・ 自身のいのちよりもだー第九章 ) を拒否す系を築きあげる可能性がほの見えるかもし : セバスチ 「助けてやらなくちゃ」・ ることが、おそらく新しい意識、最も真なれない 、。しった。「一人だけしゃないん る自己の探求の始まりとなるだろう。ウィ ここでもふたたび最後のエ。ヒソードはき だ。あそこにいるみんなが呼んでいる レヾ、 ・マーサーの死は、決して人類の死わめて重要なものであり、おそらくディ んだ」あんな呼び声はいまたかって聞 ではないのだ。 クがこれまでに書いた最良のシーンといえ いたことがない。あれほどたくさんの る。この小説のヒーロー セバスチャンは この精神的要素は、『逆まわりの世界』 声をいちどきに聞いたことがない でさらにいっそう明白になる。この小説は出血で死にかけている。彼の恋人のロッタ しかもみんな声をそろえて。 ( 第二十 と、。ヒーク教祖が死んで、もう希望は残さ やや混乱していて、完全な成功作とはいし 一章 ) ( 小尾芙佐訳 ) カたいかもしれないが、ここでディックはれていない。しかし、蘇生しかけた死人が たんに象徴としてたけでなく、実際に終末彼の足もとの土の下から呼びかけるのを聞 ブライアン・オ 1 ルディスによれば、デ 論的な世界を描く。そこでは死者が、予言 いて、セバスチャンは病院へ運ばれるのを ックの著書とその題名には、「一貫して のとおりに、それそれの墓から蘇ってくる断わる。彼は自分の個人的生命がもはや重自由のラッパが鳴りひびいている」という のだ。このかき乱された世界の中に、黒人要でなくなったのを感じ、肉体的な、だが が、これはおそらく初期の作品 ( 『あざけ 運動指導者の。ヒーク教祖の姿が出現する。 同時に精神的な蘇生のために苦闘している った男』『宇宙の眼』 ) だけにあてはまる 彼は復活したのち、宗教的メッセージを伝すべての埋もれた人間に手をかそうとする ことだろう。その後ディックは、自由さえ えるいとまも与えられすにふたたび殺されのた。にせ物の神々がすべて消え去ったあもがたやすく操作されることを発見した。 るが、それにもかかわらす、わすか数日のと、おそらくここに正真正銘のキリスト的寛容と同情と愛はもっと強い実体を持って 人物が現われたといえるかもしれない。 生のあいたに、彼は敵への寛容と、卑しい いる。これらは、自由のない世界にさえ存 者、無力な者の救済を説く。『逆まわりの 在するのた。 世界』の中で、われわれはすべての主要人 「死人かね ? 」リンディはかれの腰を 物語のレ・ヘルで見れば、ディックはその 物ーーー。ヒーク教祖、そして強い愛の絆で結 かかえて立たせた。「あとた」とかれ近作の中でも、ひきつづきセンセーショナ ばれている二人の男と一人の女ーーが、つ はいった。「歩けるかね ? ずいぶん ルな題材を濫用する道を歩んでいる。『逆 方々歩きまわったにちけえねえ。靴が ぎつぎにむごたらしい死をとげるのに出会 まわりの世界』での死者の復活について 泥たらけじゃないか。服も方々裂けて う。こうして結末には、もう一つの恐ろし は、すでに述べた。『アンドロイドは電気 っ 4 7

8. SFマガジン 1978年10月号

りこんた。そして、ゆっくりとタ・ハコを噛みながら、窓を降ろしすすぎる。 ちくしようー ・、ツクポーンてやっ 面白くない一日だった。面白くない休暇だった。 て、ばっと吐き出した。「国民の中流階級の さ」そういいすてると、車を運転して走り去った。救急車もその後・ほくはためらったあげく、結局、持ち物を・ハッグに放りこんだ。出 に続き、・ほくは歩道に取り残された。どの位長くそうしていたか覚発は、夕飯の後まで待っことにきめた。それまでの間は、べッドに えていないが、通行人にじろじろ見られるので、まだ水泳パンツ一ひっくりかえっていることにした。そして、間もなく眠りこんでし 、 - まくまった。 枚の丸裸かで、浜辺の小道具類をかかえているのに気付した。に はあわててホテルにとびこみ、部屋に駆け上った。浴室に救急箱が夢を見た。たが、この夢の中で何を見たかは、むしろ思い出した あったので、痛いのを我慢していろいろと体を捩りながら、日焼薬くない。 のス。フレイを、なんとか背中に吹きつけた。 スタース ーストでは、世界の他の場所と較べて、夜の暗さが違 う。丘陵の上の霞、スレートや石の屋根などのために、ただ水があ 気持ちが良かった。 だが体が火照って、悪夢でうなされているように、半分グロッキるだけの場所より、星明りの乱反射が強い。その結果、独得の微光 1 になっていた。 があって、人の視覚をわずかに歪める。そういう不自然な明るさの ェアコンが動いているのに部屋の中は暑かった。しかし、もう外中に目覚めると、頭が割れるほど痛んだ。ナイトテー・フルの上を手 に出る気にはならなかった。さしあたりは。いや、当分の間は。考探りして、時計を取って見ると、十時近かった。ホテルが信しこま えてみると、ホテルの客の何人かが恐がっているにもかかわらず、せようとしているほど・ほくが良いお得意さんなら、調理場が閉まる ・ほくは自分が少しでも危険たと感じたことはなかった。この事実に前に、特別に食事に割り込ませてもらえるかもしれないと思いなが 思い到ると、・ほくはそっとした。・ほくは危険に直面しているとは信ら、・ほくはペッドから跳び起きた。帰りに着ていく服は、椅子に掛 じない。なぜなら、キャラサー夫妻とその少年に、ひたすら親切にけて用意してあったので、明りをつけずに、窓の前に立ったまま、 してやったという自覚があるからだ。罪の意識。何たることだ、みそれを着た。お・ほろ月夜で、小学校時代の星座の知識を思い出して みろといわんばかりに、少しばかりの星が光っていた。建物越しに んなはうしろめたいのた、と・ほくは思った。 きさま、ばかったれ。・ほくは自分を罵った。きさまだって、ほか入江の方を眺めていると、海岸に動きを感じた。一団の人影としか わからない。揉み合っている。 の連中と五十歩、百歩だ。あんなありふれた侮辱を受けたたけで、 スター 立派なおとなが殺人を犯すものだろうか ? あの程度の侮辱なら、 ーストは決して、夜のにぎわいで有名な場所ではない。 く、いったいだれがゲームなどやっているのだろうと キャラサー夫妻がアンドロイドを持つようになって以来、ずっと経こんなに夜遅 験し続けているにちがいない。これほど激しい反撃に出るのは、代不審に思った。そして、もっとよく見ようと、身を乗り出し、目を 用品の所有者としてはおとな気がなさすぎるー・ーあまりに傷つきや凝らした。ネクタイを結んでいるうちに、それらの人影は一つの黒 6 5

9. SFマガジン 1978年10月号

少年がよろよろと立ち上った時、ぼくは、ありそうなことだ、とデアとして、しりそけた。そして、持ち物をまとめて、砂浜を横切 思った。かれは・ほくを見降ろして、いった。「ありがとね、もう一り、入江の方に背を向けている建物の間を歩いていった。通りまで 5 度お礼をいうよ」そして、きた時と同様にだしぬけに、帰っていつ出た時、・ほくは縁石のところで、はたと立ちすくんだ。また警察の 力やがやと騒がしい野次馬。点減す た。その時、数人の日光浴をしていた人々が、あからさまに敵意を車がいて、救急車がいたのだ。・、 。ハリントン刑事がじっとぼくを見つめているのに気 発散しながら、・ほくを見つめているのに気がついた。・ほくはにやりる赤いライト と笑い返して、うつ伏せに転がった。そのにやりと笑った顔が歪ん付いた。・ほくは手を振って、道を横切っていくと、かれは警察の車 の横で、待っていた。 で、しかめ面に変ったのを見られなければよいがと思いながら。 「心臓発作 ? 」・ほくは救急車を指さして尋ねた。 ・ほくは寝転んたまま考えた。たいていの少数派のメイハーと違っ 「まあ、そういってもいいがーかれはそっけなくいった。「男が殴 て、アンドロイドたちは、社会的疎外から救い出してもらうために 頼るべき法廷もなければ、教育もなければ、本物の人間のような才られて、頭蓋骨陥没だ」 とても信じられなかった。まるでだれかが外界から直接スター 能もない。かれらはまるで皮膚が黒かったり褐色だったりするのと ーストに。ハイ。フラインを捩じこんで、ここにいるみんなが逃げ出し 同様に、記号がつけられている。ただ、もっと悪いことは、かれら たくなるようなものを、ポンプで押し込んでいるみたいだった。あ がどんな権利を持とうとも、それは工場の門でストップしてしまう ことだ。そして、残念ながら・ほくでさえも、・ほくと同じ権利や特権たりをそろそろ歩きまわっている人々が、そういうむかっくような 気分でいても、それほど不思議はなかった。・ほくはハリントンに同 をかれらに与えるのを快く思わないことを、認めざるをえない。い いったい自分は一般大衆より本当にど情的な笑顔を見せてやったが、反応がなかったので、立ち去ろうと ろいろな理想をいうくせに、 れだけ偉いのか、と、・ほくは考え始めた。・ほくを睨みつけた人々のした。だが、一歩も歩かないうちに、かれは静かに・ほくの腕をつか 、、、、、。まくは自分んで、引き止めた。 ことを考えた。かれらを非難するのはやめた方力ししー にいい聞かせた。あの少年を気の毒がることはない。気の毒なのは「おたくがあの少年と話していたって、ある人がいったのでね」 「ある人 ? 」・ほくは突然、むらむらとした。「一体全体、そのある あの両親の方なのだ、と。 やがて、・ほくはうとうとと寝入った。それは、皮膚にとってはフ人ってのは、どこのどいっ ? ・ほくのした事、喋った事、何から何 まで知っているらしいが ? 」 ライバンの上に拡げられるのと同じ事だった。目が覚めた時には、 背中はまるで燃えている石炭の上を引きずられたみたいだった。そ「心配している市民さ」かれはちょっぴり苦々し気にいった。まる して、焼けるような苦痛を感じた時、自分がなんと汚い言葉を使うで、かれ自身、心配している市民にはうんざりしているように。 「話していたのかね ? 」 ことができるか、われながらあきれた。シャツを着ようとしたが、 それはこの日の最悪ーーっまり、日光浴ーー・から二番目の悪いアイ「ああ、実は、していた」ぼくは時計を見た。「約一時間前に。海

10. SFマガジン 1978年10月号

そして、かれは立ち去った。黙って、申し訳なさそうに後をつい ぎられていて。まるでだれかが、無造作につかんで、引っこ抜いた ていくアーニーを連れて。・ほくはゆっくりと窓ぎわに歩み寄って、 とでもいうように」 合点がいった。考えたくもないイメージが、心の中にどっと流れ入江の方を見つめた。あと百メートルも伸びれば / ヴァの入江を湖 こんで、朝食が、いや、この分では昼食も、ふいになってしまったに変えてしまう砂洲の一部が、正午に近づいている太陽の、水面か らのまぶしい反射光で、一部とぎれて見えた。眼下には、海岸とこ 感しだった。・ほくは身震いした。 「この老人が」刑事に続けた。「少年を″ロポ公″と呼ぶのを、何ことの中間に、唯一のビジネス街のずんぐりした建物が並んでい た。身を乗り出すと、野次馬の一団と、警察の車が見えた。知った 人か聞いたといっているんだが、おたくは聞いた ? 」 リントンが出てきて、車に乗って走 「ええ」・ほくは思わす答えた。「それに、だれかほかの人が、たれ顔はないかと眺めていると、ハ だかわからないけれど、″人間もどき″と呼んだのも聞きましたり去った。野次馬は、数は少なかったが、嫌な感じがした。スター 1 ストは殺人騒ぎが起るような所ではなかったのに。 よ。ほかにも、いろいろなことをいったと思うけれど、全部は聞き 「いやはや」・ほくはいった。「それにしても、あのじじいの顔に一 取れなかったなあ。ああいう話はよくあることだから。キャラサー 一家は気を悪くしたかもしれないけれど、それで殺人をするとは思発くらわせてやりたかったなあー ・ほくは首を振ってその考えを振り捨て、急いで服を着た。少なく えないなあ。あの夫婦と少年が気の毒で、・ほくはできるだけ愛想よ とも、ハリントンは町から出るなとはいわなかった。といっても、 く笑いかけてやったけれど」 ( リントンは手を拭き続けていたが、やがて、その ( ンカチをひ別に出たいわけではない。まだ休暇が四日残っているし、あの名も きようかたびら と振りしてポケットにしまった。「オーケー」かれはぶつきら・ほう知らぬ老人は気の毒だと思うし、また、この犯罪のおかげで経帷子 をかぶせられたにちがいないキャラサー一家は、もっと気の毒だと にいった。どうも、参考になりました」 かれが帰ろうとして、むこうを向きかけた時、・ほくは尋ねずには思うけれども、自分としてはまだできるだけ日光浴をするつもりで いられなかった。あんたは本当に、あの少年かその両親がやったといた。 というわけで、日光浴をしていると、何かの影がさして、太陽の 信じているのか、とぼくはいった。「何てったって、あの少年はア 熱が遮られた。毛布から見上げると、少年の顔が真上にあった。そ ンドロイドだから、だれも殺すことはできないでしよう」 ハリントンはドアのノ・フに手を掛けたまま立ち止まった。そしの顔は太陽をうしろにしているので、真黒に見えた。幽霊。揺れて て、・ほくに向かって、本当に気の毒そうな顔をした。「あんた、本いる。・ほくはぎくりとしたらしい。なぜなら、少年にこういってか アンディー の読みすぎか、テレビの見過ぎだよ。アン公であろうとなかろうら。「おっと、すいません、おじさん。あの、ちょっとお話がある と、命令されれば、あの子供はわたしが瞬きするのと同じくらい造んだけど」 「ああ、 いいよ」・ほくは一方に寄り、体を起した。今日は少年はち 作なく、人を殺せるよ」 5