て以降、ずっと作りあげて来た記録があるのだった。 それは成功した。 自分は緊急指揮権を確立し、住民退避を実行しにかかった。人々 司政官の仕事をやらせて貰えなくなり、ツララスットに送られて 3 に強権を以て臨み、ついには反乱まで呼び起こしながら、計画を推からも何もせずにはいられず、たまりかねてひとりで作りはじめた 進した。 記録。ラクザーンに赴任してからの事柄を、どういう意図で何をや 今考えれば、それは筋書きの通りだったのだろう。 り何がどうなって行ったのかを、 ()0 から充分なデータも貰え 自分はその役割をこなした。 ぬままに、自分の記憶と断片的な情報をたよりにして口述したの あげくの果て、自分は、これも筋書き通り職務凍結になり : だ。ハイヤツリットに移されてからも努力してつづけた記録がある 画はカデットによってつづけられ : : : そののち、これもまた筋書きのだった。 通り担当司政官に戻って、ここにいるのである。 いや、あれが正しい意味での記録かどうかとなると : : : 彼にはそ あのころの自分の燃えるような使命感は : : : あれはどこへ行った うだといい切れないのである。データ不足を記憶でおぎない、主観 のだ ? をまじえて口述したあれは、客観的に見て記録の名に値しないかも あれだけ頑張って : : : それで、はたして何があったというのだ ? 知れないのだ。 それは、どこかうすら寒い感覚なのであった。おのれが司政官で そして、そこでふんだんに出て来るのは、彼自身の司政官として あることへの疑念にとらわれている身には、いやに空しい、ひえびの使命感であり、司政理念なのであった。その自負と思い込みに満 えとした想念であった。 ち満ちた、今の自分にとっては気はずかしくて読むに耐えない代物 喪失感といっていいかも知れない。 なのた。 彼は開発営社をあとにして、司政庁への別の道をたどりはじめ あの記録は現在、司政庁の中にある。 た。と *-ÄOO 系ロポットたちが黙ってついて来るのを意識職務凍結を解かれて司政庁に帰任したときに、他の荷物と一緒に しながら、なおも物思いに耽っていた。 運ばせたのであった。 自分自身でははっきりと決定を下したつもりはなかったが : : : 彼彼はその記録を口述していた日々のことを、たんねんに思い返 の心はしたいに一方に傾斜しつつあるのかも知れなかった。これまし、その頃の感情をよみがえらせようとした。あの時分の憤激と諦 での年月が、何となく褪色したように思われるのが : : : そのあらわめ : ・ : ・待命司政官という立場から眺めたときの司政官像 : : : 自分の れなのだ、と、彼は考えた。 献策が受け入れられないことや、状況がどうなっているか分らぬこ これまでの年月 : とから来る焦り : : : そうした中でおのれでは一生懸命に正確な記録 : こうして振り返ってみると、それ そこで、彼はしばらく忘れていたことを想起した。 を残そうとしていたはすだが : 年月といえば : : : 自分が職務凍結を受け、担当司政官でなくなっ はやはりひがみつぼい心情や、くりごとや、自己を美化しようとし
今はそれでいい。 ハイツ O ではなく >-* になっていた。ノジ 今のところは・ ラン移住とともに何らかの事情で改称を認められたらしいのだ ) か りよ、、 ノイヤツリットこ 冫いたときにはじめて誘われ、そののちも何 こんな気の持ちょうで、自分がこれからも司政官として職責を果度か勧誘された例の件ーー / ジランに建設されつつある / ジラニア して行けるのかどうかとなると : : : 彼には何ともいえないのであ献道の幹部にならないかという話が繰返されていた。しかも今回 る。 は、その / ジラニア軌道の建設が順調である旨を告げ、マセに提供 むろん、今回のこの任務が終了したあと、彼がどうなるのかは分される具体的なポストまでが提示されているのだ。 らない。あたらしい担当世界を与えられて赴任することになるの 以前のマセなら、」 引底その誘いに乗る気にはなれなかったろう。 か、訓練所の教官あたりに廻されるのか、それともまた待命司政官 が : : : 今となってみれば : : : 司政官であることの誇り、あるいは としてプールされ待機状態に入れられるのか : : : 彼自身には分らな この間まで司政官であったことへの自負がゆらぎ、迷いを生じてい いのであった。ラクザーンでの現在の業務完遂を認められ次の仕事る今となれば : : : 相手の好意を感知出来るのであった。勧誘に応じ の辞令が出るまで、本人にも見当がっかないのである。が : いする気にまではまたなっていないものの : : : それもひとつの人生かも れにせよ、これまでの経過から考えて、彼に課せられるのは、司政知れないという気もしないではない。 官か司政官関連業務であろう。 たから : : : それは彼にとって、現在は未決の事項なのだ。 それをやりとげられるだろうか ? もう一通は、これもノジランにいるランからであった。 やりとけるだけの意志と熱意が、今の自分にあるだろうか ? ランは、ともかくも今はノジランで、マセが来るかも知れないと せつかくここまでやって来たからというので、ずるずると司政官 いうつもりで日を送っているとしるしていた。けれどもそう書きな コースを踏みつづけていては、やがてどこかで、致命的な失策をお がらも、あなたには司政官はやめられないでしよう、やめられるか かすのではないか ? しら、とても無理ねと自分から否定しているのである。そして、あ その位なら、今のうちに自発的に司政官の道から飛び出し、あた なたはいずれどこかの世界へ行くことになるだろうから、その行く らしい道を探すべきではないのか ? 先と居所位は知らせて欲しいと求めているのであった。もっとも、 弱気かも知れない。 知らせて貰ったとしても、彼女自身がマセのところへ行くことにな しかし。 るかどうかは、自分でも何ともいえないとつけ足してはあったが : 彼がそんな風に考えはじめていたのは事実なので : : : しかもそう なりかけていた頃に、彼は二通の私信を受け取っていた。 これに対しても、彼は返事を出してはいない。 一通は、イ ルーヌからである。 出しようがなかったのだ。
類が、チュンデ型の生物やその果ての宇宙意志たちと、まじめに接そのあと、どんな仕事に廻されるのか、彼にも分らない。 し合う日が来るのは、そう遠い先ではないかも分らないのであっ ふつうに行けば、また新しい世界の司政官として赴任することに た。カデットのいったように、いずれそうなるにしても遠い将来となる。 そのあとも、そうかも知れない。 いう風には断言出来ないのだ。それは人類側だけの都合で決められ そうした司政官として、彼はチュンデ型の生物と出会い、相手を ることではないからである。好むと好まざるにかかわらず、真剣に 人類がそのことを考え、そのことに直面しなければならなくなる日チュンデ型生物として接するのだ。 が、やがてやって来るのだ。 よしんば司政官として赴任するのでなくても、彼は自分に可能な そのとき、人類や連邦の歴史や理念が空洞化し崩壊すると叫びわ限りの方法で、それを実践し、そのことを人々に訴え、知らしめる めいても、どうにもなりはしない。それは現実に目の前に現われたつもりであった。苦難にみちた道程かも分らないが、自分の存在理 由はそこにあるのだと信じていた。 のであって、目を閉じたからといって存在しなくなるわけではない のである。 そうと決めたからには、ランに自分の行く先を通知しよう、と、 その前に : 彼は思った。 そうなのだ。 通知するだけではなく、来ないかと誘ってみよう。 その前に、人類はみずから、人類のありかたを問い直し、考え直自分と一緒にこの仕事をやってくれる人間は、このことの意義を さなければならないのだ。それがいかに危険であり自己崩壊につら理解し共感してくれる者でなければならない。 ランなら出来る。 なるか分らないとしても : : : 自分の手でやっておかなければならな いのた。そうでなければとどのつまりは、チ = ンデ型生物やその果出来るどころか、自分以外にこのことが分ってくれるのは、ラン ての宇宙意志たちの、あらがいようのない干渉のために、人類自体しかいないのである。 の運命を狂わせ、その生物としての寿命をちちめることになるであ きっと、 1 トナーになってくれるだろう。 ろう。 と、いうより : : : 彼は突然、自分がとてもランと逢いたい気持ち その手はじめとして : になっているのを自覚した。 それをはじめる最初の司政官として : : : 自分は生きるほかないの ランは来てくれるだろうか。 機は上昇している。 マセは大きく息をつくと、顔をあげ、司政官機に戻った。 ひと眠りすれば、司政庁に到着するであろう。 座席に腰をおろす。 マセは、身体の力を抜いてシートに身をゆだね、目を閉じた。 ここでの司政官としての仕事も、あと数日だ。 ( 完 ) 9 3
とはいうものの、マセは、植民者たちがどんどん去って行くと共った。もはや反乱をおこそうとする植民者はいなかった。反乱どこ に、ロポット官僚たちが、これまでよりもずっと先住者たちに接近ろか、司政庁にたてつこうとする人間さえ、いないも同然であっ 2 し、先方が求めもしないのにサービスしようと努めるようになってた。司政庁は軍の力を背後に持っているせいもあって指令は遅滞な いたのを、認めざるを得なかった。ロポット官僚たちはラクザーンく実行される一方、植民者たちにしても、もはやラクザ 1 ンでのこ 上の知的生命体なら誰に対しても便宜をはかりたいという本能を持とよりもノジランに移住してからの生活設計や計画に心を奪われて いたのだ。退避作業がスムーズに進むのは、むしろ当然である。司 っている、それを見せつけられた感じだったのである。しかし、そ の先住者もすでにいない今、ロポット官僚たちに何となく手持ち無政官であるマセは、かたち通りに物事を処理して行けばよかったの 沙汰な印象があるように思えるのは、マセの気のせいだけではなさだ。 そうであった。 正直なところ、マセはそのために助かったといえる。 いずれにせよ : : : 司政という名に値することは、ある意味では終はじめの頃のような、司政官の使命についての熱情 : : : 司政官と ってしまっていた。残っているのは、わずかな仕事たけなのであして自分は何をなすべきか、そのためにはどうあるべきかといった る。 気負いは : : : 今の彼の中にはなくなっていたのである。 それは、職務を凍結されて以後の、司政官をその配下の立場から この段階まで漕ぎつけたことに対しても、彼にはどこか奇妙な話眺めたあの日々の記憶によるものであった。司政官がいかに良心的 に忠実に仕事を行なったとしても、その下部に属する者にとって だが、大して感慨はなかった。 彼は要するに、カデットから受け継いだ業務を、再び自分の流儀は、まぎれもなく圧力となり支配されていると感じるという、あの 経験が根強く胸中に残っていたのた。そこから生れて来る一種の懐 でやって来ただけのことなのである。 疑が、全力投球をしようとするさいにも、ふと泡のようになって浮 カデットに職務凍結解除を予告されてから六百二十八ルーヌ。 きあがって来るのであった。 実際に凍結解除となり担当司政官に復位して五百七十三ルーヌ。 それに : ・ : ・もうひとつ。 きようで、撤退期限前三百七十九ルーヌなのだ。 あと五日で諸物資送り出しを済ませれば、連邦から定められた撤今度の自分の役割 : : : 連邦経営機構の一連の仕掛けというか大計 画における自分の立場をあらためて想起するとき、自分の出来るこ 退期限前三百七十四ルーヌで全作業が終ることになる。 けれども : : : 担当司政官に復位してからの仕事は、職務凍結を受と、タッチ出来る事柄の卑小さと、全体の動きの大きさとをどうし ても対比してしまうのである。所詮、一司政官に可能なことという ける前のそれにくらべて、比較にならぬほど、楽であった。楽とい のは限られているのだ、じたばたしてもはじまらないという、わは えば語弊があるかも知れないが、復位以後は、定められ進行してい るレールの上の作業を、監視し推進させるだけでこと足りたのであ諦めに似たものがあって、たえすおのれに注意をうながすのであっ
トからもっとも近いニルニロ、レイトレイのあるツラツリ大陸東南 そこで彼は、ロをなかば開いた。 部へと飛んだ。 これがおきているのは、先住者の居住地区ばかりだという。 その間にも、さらにいくつもの居住地区に同じ現象がおこりはじ もはや誰もいない先住者の居住地区に、こんな超自然的現象がお めているのが報告された。数が多くなったので、はもういち きるというのは : いち居住地区の名をいわなかった。 これは、死んだはすの : いや、去って行った先住者たちの、そ やがて。 の先住者がなったという何者か : : : 人間の目には見えない存在 : かれらのいった宇宙意志なるものと、何かかかわりがあるのではな のス。ヒーカーを通じて、は、ニルニロとレイトレ いのか ? イの二地区がついに燃えはしめたと告げた。 「このまま、ニルニロ、レイトレイの方向へ行かれますか ? それ そう気がつくと同時に、彼は席を蹴っていた。 「この現象を観測しに行く」 とも転じて、もっと近い地区の、同じ現象がおきているほうへ向わ れますか ? 」 彼は叫んだ。「司政官機は玄関に来ているのだな ? 」 「承知しました」 「ただ今入りまし はそう伺いを立て、つけくわえたのだ。 は、彼の言葉の順序通りに応答した。「司政官機は待機した連絡によれば、ミ ルル地区にも同様の現象がおこりました。 ております。ただし、司政官機には、司政官の身の安全のため、元ル地区へ行かれますか ? 」 の先住者の居住地区の真上を飛ぶことは避けさせますが、よろしい 「ミルル地区が ? 」 ですか ? 」 ミルル地区もそうなったというのは、や 予期していたとはいえ、 「結構」 はりマセには衝撃であった。彼がもっともよく知っていたのはミル 彼は足早に玄関に向った。 ル地区なのである。そこで彼は泊めて貰ったことさえあるのだ。 玄関には司政官機が待っており、もその横に佇立してい はそれを知っていたからこそ、ミルル地区の名を出したの であろう。 彼が機内のシートに腰をおろし、 ()0 がむかいのにつく マセは、即座に機をミルル地区に向けさせた。 と、機はすぐさま上昇した。司政官機のほかに護衛機もついて来て機は全速で飛んだが、彼はこのときほどその高速をももどかしく いるのかも知れないが、窓からはそれは分らず、マセとしても、そ感じたことはなかった。 が、機はついに高度を落としはじめ、窓から外の光の柱が見える んなことはどうでもよかった。 t-n の判断にまかせておけばいし のだった。 ところまで来た。 小さい窓からはよく分らないので、彼は司政官機を、光の柱から 機は、異常現象のおきている先住者居住地区のうち、ツラツリッ こ 0 5 3
自分があるいは司政官を辞めるかも分らないということ : : : 辞めた。 みつめていると、いやでも記憶がよみがえって来る。 たからといって / ジランへ行くかどうかもはっきりしないこと : ここへは、何度来たことだろう。 また、辞めることが出来すに司政官のコースを踏みつづけるにして 中でもよくお・ほえているのは、あのときーー巡察官によって連邦 も、その任地をランに知らせるかどうか、おのれにもはっきり決心 からの植民者撤退作業着手要請を通告される、その何日か前にボウ がついていないこと : : : それらもろもろの、何ひとっとしてたしか なもののない返事を出したところで、どうにもなりはしないのであダ・・ガルを訪ねたときのことであった。 あの日も、自分は焦っていたのだ、と、彼は思う。 る。 といった、すべてをひっくるめて、彼は自分がどうすべき あの日の用というのは、連邦開発営社がこの支部を閉鎖しつつあ か、決めかねていた。決定は出来るだけ先にのばしたかった。 るとの情報をつかみ、それを食いとめるためであった。連邦直轄事 しかしながら、それももう数日のうちに決めなければならなくな 業体がラクザーンの新星化による損害を最小限度にとどめて撤退し っている。 ようとしているらしいと知り、そんな真似はさせてはならないと乗 ふんぎりのつかぬままに、外見的にはきちんと、司政官の職務をり込んたのである。そして自分なりの駈け引きを弄し、緊急指揮権 までちらっかせて論争したのだ。 つづけているのだった。 今にして思えば、あれは論争などというものではなかった。 自分は全開発営社の理事でもある大物のボウダにうまくあしらわ 考えながら、それでも彼の足はひとりでに動き : : : 彼はいっか、 れただけだったのではないか ? 位負けしまいと頑張っていたもの 連邦開発営社の前を通りかかっているのに気づいた。 の、一種の道化芝居だったのではないのかフ 連邦開発営社一三二五星系支部の、大門の前である。 それは、あのときでさえ分っていた。認めたくはなかったが、内 二つの高層ビルと四つの巨大な倉庫を有する開発営社支部は、昔 心では知っていたのだ。 と少しも変らす威圧的で、彼をにらみつけているように見えた。 そんなことまでしてボウダに挑戦しようとしたのは : : : 自分が司 だが、立ちどまって目をこらすと、ビルの窓の大半は割れてお り、倉庫の壁は塗料が剥げ落ちていた。崩れた石塀のかなたの簡易政官であり、この世界における司政官の権威というものを、このま まではいけない、何とかしなければならないという焦りにかられて 店舗は引き倒され、あちこちにまとめて積みあげられているのだ。 いたせいだったのではないか ? ここもまた、無人のままに荒れ果て、朽ちて行く風景のひとつな : 一部は人 自分は司政官が司政官としての力を取り戻すために : のであった。 人に軽視されているのに復讐するために : : : 頑張って来たのではな四 彼はそれでも、もうしばらくの間、眼前のありさまをみつめてい
その光の色というのも、赤かと思うと青くなり、白から橙色へとのことです。いずれも元の先住者の居住地区です。観測していた部 下の話によりますと、どの地区においても、何の前ぶれもなく上空 3 いくつもがまじり合いながら変色して行くのだ。 そして : : : その光の柱の真下にあるのは、まぎれもなく先住者のから光が放射されて、直下の居住地区を照らし出し、光が強くなる 居住地区であった。先住者の居住地区特有のつくりの家々が、くっと共に、温度が上昇して行っているそうです」 きりと浮かんでいるのであった。ちょうど天から強い光線を浴びせ「 : かけたように、ぎらぎらと照らされているのである。 「報告します。さらに三個所において、同様の現象がおこりはじめ 「これは : : : 」 たとの連絡が入りました。これもみな、元の先住者の居住地区です」 マセは呟いた。 「現在のところ、どういう現象なのか、分っておりません」 マセは、スクリーンを凝視していた。 は答えた。「どこからあの光が放射されているのか不明で とういうことなのだ ? これよ、・ す。現地にいる部下の連絡によれば、天候は晴れで、磁気及び重力突然、光が放射されるとは ? の変動は認められず、通常の夜間の状態と変わりないそうです。た しかも照らし出された地区の温度が上昇して行くというのは ? だ、強い光線によって地区の建物と土地、樹木などの温度はしたい 「さらに六個所の、元の先住者の居住地区からも、同じ現象がおこ に上昇しているとのことです」 ったとの知らせが入りました」 はいう。「この現象は、ラクザーン全土にわたっておきて 彼は、何もいえなかった。 いるものと判断されます。現在のところ、照らし出されているのは これは何だ ? すべて元の先住者の居住地区であり、この司政庁には影響はないと 思惟しますが、私は一応司政官の安全のため、玄関に司政官機を待 何の現象なのだ ? 機させるよう命しました。ほかに何かご指示がありますか ? 」 「報告します」 「いや。ない」 がまたいった。「温度はさらに上昇しつつある模様です。 現在の上昇率で行けばすくなくとも四十分ないし四十五分後には建この司政庁が照らし出されたら、すぐに司政官機で脱出しろとい うのだろう。 物の発火点に達すると思われます」 が、もいったように、今のところこの奇妙な現象が起きて 「発火点に ? 」 いるのは、先住者の居住地区たけなのだ。司政庁がそうなるとは目 「お待ち下さい。あたらしい連絡が入りました」 と、「報告します。部下の連絡によれば、ミルツリ大陸下の段階では考えられなかった。 それにしても : で二個所、ツラビス大陸で二個所、同様の現象がおこりはじめたと
たのか、どういうわけで司政官の道に見切りをつける決心がっかな人類はハムデ型だとチュン・ダ・ハダラードはいった。 かったのかを、理解したのである。 その人類は、あらゆる生物を自分たちと同じハムデ型と考え、 自分には、やはり、先住者たちのいったことが事実ではないか、 ムデ型としての優劣によって相手を決めようとしているのだ。 という気分がずっと残っていたのだ。そんなものは先住者の単なる それが今後、どんなわざわいを招くことになるのか : : : 人類には 信仰だと片づけることが出来ず、もしもそうだったら、もしもそれ分っていないのだ。 が本当だったらという懸念が胸のうちにあった、そのせいで、司政人類は今後、またチ、ンデ型の生物と出会うかも知れない。 官を辞めることが出来なかったのだ。 や、すでに出会っていながらそれが分らず、人間より劣ったハムデ そうではないか 型の生物として待遇しているのかも知れないのである。チュンデ型 先住者たちの言が事実であったならば、宇宙意志ともいうべきもの生物にはチュンデ型としての接しかたがあるにもかかわらす、す のはまぎれもなく存在するのであり、かっ、知的生命体には ( ムデでにあちこちの惑星で多くのあやまちをおかしているかも知れない 型とチュンデ型の二通りがあって、ハムデ型の生命体は空間的に広のである。 がり征服によって膨脹するけれども、チュンデ型がやがて到達する そのチュンデ型を発見し、チュンデ型として接することを試みる その宇宙意志によって運命を左右されるということになる。 には : : : 司政官以上の適任者はいないではないか。 カデットは、たとえそうだとしても、そう信しても、そういうこ そのことであった。 とには目を向けるべきではないと説いた。そういう存在を認めるこ 自分が司政官を辞めようかと考えながら、どうしても出来なかっ とは、ひいてはこれまでの人類や連邦の発展のありかたに根本的な たのは : : : 先住者たちの言葉がもしも真実であったとき、誰がこの 疑念を呈さなければならなくなるからだと主張した。 役目をはたすのかという懸念があったからなのだ。現在の時点で、 だが、それでいいのだろうか ? ある程度でもそのことが分り、そのために努力する者がいるとした そういう風に目を閉じるような真似をして、それが根本的な解決ら、このラクザーンで先住者のチ、ンたちと親しく話し合い、その になるだろうか ? 秘密や考えかたを直接に聞いた自分しかいないではないか。 そういう宇宙意志というべきものが存在していれば、逆に、その いや、自分だけではない。自分と・ : : ランのふたりた。 存在を認め、宇宙意志たちと共存、あるいは共存とまでは行かなくて そして、そういう、ハムデ型生物とチュンデ型生物の、いわばか も、かれらにつむじを曲げさせないようにするべきではないのか ? け橋の役目をするためには : : : 司政官でいたほうがいいのである。 しかもその宇宙意志たちは、やがて仲間になるはすのチ = ンデ型司政官としては、いささか異端の考え方を持っといわれるかも知 生命体に対し、 ( ムデ型の生命体かどういう扱いかたをしたかを重れないが : : : 誰かがそれをやらなければならないのだ。 視するという。 しかも、きようのこんな事件に徴して見ても、ハムデ型である人 8
た、歪んだものであることはたしかであった。その証拠に、記録をイスラ河にかかる橋が見える地点に来ていたのだ。 ロ述しながらも、誰か来訪者が来ると、その都度あっさりとロ述を彼はを通じて、に、例の自分の個人的記録を中庭 中止したのである。ことにランが来るようになってからは、記録もに出しておいてくれるように頼み、急ぎ足になった。 司政庁の玄関まで帰って来たときには、タ焼がはじまっていた。 とだえ勝ちになったのだった。と、すれば、あれは名前は記録で も、自己の欲求不満をかなり反映した、しかもデータの錯誤もまじ いよいよ剥落と崩壊が目立っ司政庁内に入ったマセは、公務室で と、そういってもいいかも分らないのであの連絡を聞いたあと、中庭に出た。 ったものに過ぎない っこ 0 公務室からすぐに出られる、司政官専用のあの中庭だ。 指示通り、彼がロ述した記録の紙やテープやフィルム類は、石塊 あれをもう一度に検分させ、データを修正させて、誤りの ないものにすることは出来る。今のは、かって待命司政官でやコンクリートの破片や雑草の中に積みあげられていた。 あるマセの要請をたびたびしりそけたことなどなかったかのよう彼は点火具を求めた。 ついて来たの指令を受けて、 (-n0N<<(-ntn が点火具を持 に、現任司政官であるマセの部下として、機能を発揮しているから って来た。この間のやりとりには当然が関与しており、マセ の指示を総合すれば、彼が何をやるつもりなのか分っているはずだ だがそんなことをして何になる ? 公式記録はちゃんと作られ、 ったが、は何の干渉もしなかった。マセの記録というのは所 コビーは連邦経営機構に送られているのだ。そんなマセの個人的な 詮個人的記録であり、としてはそれがどうなろうと関係がな 記録など、経営機構には何の必要もないのであった。 いということなのであったろう。 あれに意味があるとすれば、マセ個人の思い出としての値打ちし かないのだ。残すとしたら、そのために残すべきものなのである。 中庭から見えるタ焼は少しすっ濃くなりだしている。それにつれ そして、それこそが、彼には耐えられないのであった。今の心境てマセの周囲は暗くなって行くのだ。 からすれば、とても読めない自負心とか使命感を露骨にあらわした彼は、到来しつつある黄昏に対抗するように、記録類に火をつけ そんなものが存在していること自体、やり切れないのであった。 あれは廃棄しなければならない。 くすぶっていた記録類にすぐに炎があがり、薄いけむりが風に乱 されながら天にの・ほって行く。 廃棄させよう。 いや : : : ロポット官僚にそれをやらせるよりは、自分の手でそう立って、それを・ほんやりと眺めながら : : : 彼は、このことで自分 は、自分の迷いに結着をつけようとしているのではないか、と、ふ したほうがいい。 と思った。おのれの手で、おのれの司政官としての足跡を焼くとい 彼は顔をあげた。 そんな思案に耽って歩いているうちに、市の中心部を抜けて、ダうのは : : : ついに心の傾斜が一方に偏し : : : 回復不能なまでに傾き 3
ら、この役割 ラクザーンからの住民退避の先発突撃隊長として ( 自覚せずに ) 計画に不都合な言動を示しはじめたーーそれゆえ 適当だと判断されたために、指名されたのに違いない。そう。自分に、事故というかたちで消されてしまった : : : そういうことなので にラクザーンの状況を説明した情報官は、貴官を選抜した思考機関あろうか ? 1 セントなにが は貴官がラクザーン担当を引受ける確率は九十八パ そのあとで、マセが選抜されて赴任したということなのか ? しと予測していた、と、そういったのではなかったか ? 連邦経営分らない。 機構はそれだけの見込みと計算をしてからはじめて自分を指名し、 あれは、本当に単なる事故であったのかも分らない。 状況を聞かせたのである。 どっちにせよ、マセには : : : マセごとき立場と地位の人間には、 それにしても : その真相をつかむのは不可能である。 それにしても、かりに自分が、知らないうちにおのれに課せられ ていた役割を遂行しなかったら : : : ? 望まれていた通りに動かな いずれにせよ : : : 前任司政官の事故の真因がどうであろうと、そ かったら : : : ? そのときには更迭されてまた代りの司政官がラク れも含めて、連邦経営機構が一三二五番恒星、ーーラクザーンの太陽 ザーンにやって来る予定たったのだろうか ? の新星化にともなう一切の工作や計画を、内外に発表することは、 そこまで考えて、彼は目を見開いた。 あり得ないのであった。発表どころか、一般の人々に広く知られる まさか。 ことそれすらも、歓迎しないはすである。なろうことならそれら まさかとは思うが : は、実際に推進した人々だけのものにとどめておきたいところだろ ラクザーンには、彼の前に担当司政官がいたのである。情報官のう。 話では、その前任司政官は急死したとのことであった。その死にか とはいっても、それを完全な秘密事項とするのもまた無理であ たというのも、工事用の爆発物を搭載していた無人機がコントロー る。多少でもこの工作や計画にかかわり合った者のうち、事態を洞 ル不能になって墜落したという、珍らしいケースだという。減多に察出来る人間には、その全容とまでは行かないにしても、骨組み位 ない事故なのであった。 は見て取ることが出来るであろう。そのロに蓋をするのは、蓋をし しかし、それが事故でなく、最初から仕組まれたものであったとなければならない事柄であるのをみずから証明することになる。だ すれば : から : : : 事情を察知した者がいたとしても、その事情なるものを臆 それを仕組んだのが、連邦直轄事業体でもなく、ラクザ 1 ンの植測の一種だという風に扱い、無視するのが無難というものであっ 民者の不満分子でもなく、当の、連邦経営機構の内密の指令によるた。 ものだとすれば : こうした、いろんな場があるうちで、カデットがどのあたりに位 9 前任司政官は、今度の一連の計画の中における役割をはたさず、置しているのか、マセには見当がっかなかった。連邦経営機構の中