て以降、ずっと作りあげて来た記録があるのだった。 それは成功した。 自分は緊急指揮権を確立し、住民退避を実行しにかかった。人々 司政官の仕事をやらせて貰えなくなり、ツララスットに送られて 3 に強権を以て臨み、ついには反乱まで呼び起こしながら、計画を推からも何もせずにはいられず、たまりかねてひとりで作りはじめた 進した。 記録。ラクザーンに赴任してからの事柄を、どういう意図で何をや 今考えれば、それは筋書きの通りだったのだろう。 り何がどうなって行ったのかを、 ()0 から充分なデータも貰え 自分はその役割をこなした。 ぬままに、自分の記憶と断片的な情報をたよりにして口述したの あげくの果て、自分は、これも筋書き通り職務凍結になり : だ。ハイヤツリットに移されてからも努力してつづけた記録がある 画はカデットによってつづけられ : : : そののち、これもまた筋書きのだった。 通り担当司政官に戻って、ここにいるのである。 いや、あれが正しい意味での記録かどうかとなると : : : 彼にはそ あのころの自分の燃えるような使命感は : : : あれはどこへ行った うだといい切れないのである。データ不足を記憶でおぎない、主観 のだ ? をまじえて口述したあれは、客観的に見て記録の名に値しないかも あれだけ頑張って : : : それで、はたして何があったというのだ ? 知れないのだ。 それは、どこかうすら寒い感覚なのであった。おのれが司政官で そして、そこでふんだんに出て来るのは、彼自身の司政官として あることへの疑念にとらわれている身には、いやに空しい、ひえびの使命感であり、司政理念なのであった。その自負と思い込みに満 えとした想念であった。 ち満ちた、今の自分にとっては気はずかしくて読むに耐えない代物 喪失感といっていいかも知れない。 なのた。 彼は開発営社をあとにして、司政庁への別の道をたどりはじめ あの記録は現在、司政庁の中にある。 た。と *-ÄOO 系ロポットたちが黙ってついて来るのを意識職務凍結を解かれて司政庁に帰任したときに、他の荷物と一緒に しながら、なおも物思いに耽っていた。 運ばせたのであった。 自分自身でははっきりと決定を下したつもりはなかったが : : : 彼彼はその記録を口述していた日々のことを、たんねんに思い返 の心はしたいに一方に傾斜しつつあるのかも知れなかった。これまし、その頃の感情をよみがえらせようとした。あの時分の憤激と諦 での年月が、何となく褪色したように思われるのが : : : そのあらわめ : ・ : ・待命司政官という立場から眺めたときの司政官像 : : : 自分の れなのだ、と、彼は考えた。 献策が受け入れられないことや、状況がどうなっているか分らぬこ これまでの年月 : とから来る焦り : : : そうした中でおのれでは一生懸命に正確な記録 : こうして振り返ってみると、それ そこで、彼はしばらく忘れていたことを想起した。 を残そうとしていたはすだが : 年月といえば : : : 自分が職務凍結を受け、担当司政官でなくなっ はやはりひがみつぼい心情や、くりごとや、自己を美化しようとし
彼はそれも了承した。いずれ消減する世界の火事など放っておい この、居住地区の建物ばかりか、樹々も畑も焼きつくしたやりか てもしいとの見方も成り立ったろうが、ロポット官僚にはそんな思 たは : : : そのために、あと火事が広がるのをも辞さなかったやりか 考はないのを知っていたからだ。ロポットたちは、この世界が消減たは : : これは、かっての先住者のやりかたとは違っている。あ する瞬間まで、与えられた任務を正確にやりとげようとするであろの、やさし、 しいい人たちではない。かっての先住者どころか、いわ ゆる人間性をも超越した非情なものを感じさせるのだ。 それよりも : もしもこれをやったのがかっての先住者であるとすれば ( そして そう。 彼はそのことを疑わなかったが ) それはもはや別種の、たしかにあ それよりも : : : 彼は自分の直感が的中したのを悟っていた。 たらしい存在なのであろう。 この超自然的現象は : : : 偶然におきたものではない。 今夜のこの事件を、連邦経営機構がどう受けとめるか、マセには 先住者の居住地区の、おそらくはすべてが同様の経過をたど 0 て分らなか「た。「セにせよにせよ、実際におこ「たありのま 焼かれたこの異様な現象は : ・ : たたひとつの事柄を示しているとし まを報告するほかないであろうが : : : それを連邦経営機構がどう解 か、彼には思えなかったのだ。 釈するか : ・ 0—がからんでいるのたから、報告そのものを否定 先住者たちの居住地区は、この世界の消減を待たすに、地上からはしないにしても、どう考えどう対処しようとするのか、何ともい 消されたのである。先住者というものがこここ 冫いたという痕跡が抹えないのである。かりにそれが「セの信じるものに近い結論になっ 殺されたのだ。 たとしても、一般に公表され万人の検討にゆたねるかどうか、怪し それをやったのは : : : 先住者自身以外には考えられなかった。先 いものであった。何らかの統一見解と対応策が出るまでは、報告そ 住者というよりも、かって先住者であ「た者たちと呼ぶべきであろのものが陽の目を見ぬことになるかも知れないのであ 0 た。多分、 うやむやにされてしまうのがおちであろう。 かれらは、自分たちがここに存在したあとを、長くとどめておき しかし。 たくなか「たのだ。今は別のものと化しているのに、それ以前の姿セにと 0 ては、これはもはや疑いのない事実であ 0 た。 でいたことを残したくなかったのた。 先住者たちは、別の存在となり、元の姿があった痕跡を消すこと 別のもの。 で、別の存在と化していることを証明したのた。 そうなのだ。 それ以外に、どう考えたらいいだろう ? にも解明出来ない超自然的現象をおこせるものなのであ考えようがないのだ。 そして : : : ここに至って彼は、なぜ自分が今まであの迷いーー・司 しかも。 政官というものを捨てようとしながら、どうしてもふっ切れなかっ る。
た。やはり、はしめこそこれは当り前の、そうあってこそ連邦経営夢であり、願いであるたけなのだ、と解釈することは、充分可能な 機構のやりくちなのだという自分自身への納得は、実は本物ではなのである。 く、心の底では深い傷になっているのを、彼は悟らざるを得なかっ しかし : : : そうなのか ? たのである。 はたしてそうなのか ? ってみれま、ど ; 、 オカこのふたつは、元来共存し得ない、矛盾し かれらがいったことを証明する材料は何もない。 た感情である。司政官の権力が本人の志向に反して、強大な圧力と が、それを否定出来る証拠もないのである。 なり得るのではないかという迷いと : : : その癖、その司政官が巨大と、なれば : : : そういうもの、そういう存在があるということ 組織の内ではとるに足らない存在であって、何も出来はしないのだも、考えておかなければならないのではないだろうか ? という意識は : : : 併立し得ないもののはずであった。それが分りな カデットは、それは許されないといった。 がら、彼はその両者が交互に自分の気持ちを占拠しようとしている そういうものを認めることは、つまりは人類の、連邦の、司政官 のを自覚しなければならなかったのだ。 制度のすべてを一度根本から問い直し、再構築しなければならなく いや、そのふたつだけではない。 なるのを意味するといった。 彼の内部には、やはりどうしても拭い去れないある懸念が残って そうだとすれば : そういうことをしなければ、自分たちのやっていることが無意味 先住者だ。 になるというのなら : : : そこにはどうしても無理が入って来るので 先住者というよりは : ・ : かって先住者であった者たちの、そのあよよ、 、 ? どこかに疑念を残したまま仕事にしがみつかなければ とである。 ならないのではないか ? そういうことをしてまで、司政官として 生きるべきなのか ? そんなところに本当の使命感など、生れて来 先住者たちは、死に絶えてしまったのかも知れない。 かれらにいかに予知能力があったとしても : : : 死後のかれらの姿るのか ? というのは・ : かれらが感知したというかれら自身の姿というのは と、こういった気分が、彼をもはや一方向への直進を許さな : そこまでは本当ではないのかも分らない。それはカデットがい くなっている以上、彼がかってのように、自己の使命感だけで職務 ったように単なる思い込みであり信仰に過ぎないのであって、かれに没頭することは不可能であった。今度の担当司政官復位のあと、 らは言葉通り亡くなっただけなのかも知れなかった。 かってのような猛進が必要であったとしても、彼にそれがやり遂げ まして、かれらが人間の目には見えないけれども、宇宙意志とい られたかどうかは疑問である。実際にはそうではなく、ほ・ほルール うべきものの、その一部と化し、人類たちの、かれらのいうハムデ通りに事態を片づけて行けるような状況であったからこそ、うまく 的種族の運命に干渉し得る存在になるなど、所詮かれらのはかない やって来られたのであった。 7 2
それがないとはいえない。が、それだけではないのだ。それだけ ・ : 自分自身の司政官としての過去と共に、これからの司政官とし ての道をも葬ろうとしているのではないか : : : その潜在的欲求がこなら、それに対するもっと多くの否定要素を提出出来る。 では : 、と、考えた。考えながら : : : し んなことをさせたのかも知れない 少し風に当たって考えてみよう、と、彼は思った。 かし、まだ自分はそう踏み切ったのではない、ともおのれこよ、 ・ハルコニーへでも出れば、もっと違った感覚なり意識を持っこと 聞かせていた。 になるかも知れない。 「・ハルコニ ーへ行って来る」 にそういうと、彼は公務室をあとにした。 夜である。 、・ハルコニーに出るその前に、ついて来たがい まだそんなに遅い時間ではないが、あと、公務室で仕事をつづけけれども ったのである。 るほどの用もなくなっていた。 「が、ご連絡したいことがあるそうです。公務室にお戻り下 今夜はこの位で切り上げよう。 さいとのことです」 マセは立ちあがり、窓際へ歩み寄った。 寄ってはみたものの、窓の下の海面は暗く、あかりひとつないの「分った」 そういうことなら仕方がない。彼は公務室へ取って返した。 それでも彼はその場にたたずんで、自分の心に問いを投げかけて「報告します」 は告げた。「元の先住者の居住地区で、異様な現象がおこ っているという連絡が入りました」 きようの夕方の、あの記録を焼いたことで、自分はたしかに何か をふっ切ったはずなのである。自分の今後について、ある程度自分「異様な現象 ? 」 で決定を下したはずなのだ。ああいう行為をすることが、自分に結「ニルニロ、レイトレイの二地区が、きわめてあかるい光で照らし 着をつけようとする無意識の願望のあらわれであるといっていいの出されているとのことです」 O—は、そこで僅かに間を置いた。 「ただ今、映像が入って来 であった。 それにもかかわらず、依然として迷いが残っているのは : : : まだました。ニルニロ地区からです。スクリーンに投写します」 : なぜ映像がスクリーンに浮びあがった。 自分は司政官の道を捨てるのではないという気があるのは : であろう。 彼の目に映ったのは、太い光の柱である。 何が自分をためらわせているのであろう ? 光の柱が立っているのだ。 司政官コースへの執着か ? 2 3
類が、チュンデ型の生物やその果ての宇宙意志たちと、まじめに接そのあと、どんな仕事に廻されるのか、彼にも分らない。 し合う日が来るのは、そう遠い先ではないかも分らないのであっ ふつうに行けば、また新しい世界の司政官として赴任することに た。カデットのいったように、いずれそうなるにしても遠い将来となる。 そのあとも、そうかも知れない。 いう風には断言出来ないのだ。それは人類側だけの都合で決められ そうした司政官として、彼はチュンデ型の生物と出会い、相手を ることではないからである。好むと好まざるにかかわらず、真剣に 人類がそのことを考え、そのことに直面しなければならなくなる日チュンデ型生物として接するのだ。 が、やがてやって来るのだ。 よしんば司政官として赴任するのでなくても、彼は自分に可能な そのとき、人類や連邦の歴史や理念が空洞化し崩壊すると叫びわ限りの方法で、それを実践し、そのことを人々に訴え、知らしめる めいても、どうにもなりはしない。それは現実に目の前に現われたつもりであった。苦難にみちた道程かも分らないが、自分の存在理 由はそこにあるのだと信じていた。 のであって、目を閉じたからといって存在しなくなるわけではない のである。 そうと決めたからには、ランに自分の行く先を通知しよう、と、 その前に : 彼は思った。 そうなのだ。 通知するだけではなく、来ないかと誘ってみよう。 その前に、人類はみずから、人類のありかたを問い直し、考え直自分と一緒にこの仕事をやってくれる人間は、このことの意義を さなければならないのだ。それがいかに危険であり自己崩壊につら理解し共感してくれる者でなければならない。 ランなら出来る。 なるか分らないとしても : : : 自分の手でやっておかなければならな いのた。そうでなければとどのつまりは、チ = ンデ型生物やその果出来るどころか、自分以外にこのことが分ってくれるのは、ラン ての宇宙意志たちの、あらがいようのない干渉のために、人類自体しかいないのである。 の運命を狂わせ、その生物としての寿命をちちめることになるであ きっと、 1 トナーになってくれるだろう。 ろう。 と、いうより : : : 彼は突然、自分がとてもランと逢いたい気持ち その手はじめとして : になっているのを自覚した。 それをはじめる最初の司政官として : : : 自分は生きるほかないの ランは来てくれるだろうか。 機は上昇している。 マセは大きく息をつくと、顔をあげ、司政官機に戻った。 ひと眠りすれば、司政庁に到着するであろう。 座席に腰をおろす。 マセは、身体の力を抜いてシートに身をゆだね、目を閉じた。 ここでの司政官としての仕事も、あと数日だ。 ( 完 ) 9 3
自分があるいは司政官を辞めるかも分らないということ : : : 辞めた。 みつめていると、いやでも記憶がよみがえって来る。 たからといって / ジランへ行くかどうかもはっきりしないこと : ここへは、何度来たことだろう。 また、辞めることが出来すに司政官のコースを踏みつづけるにして 中でもよくお・ほえているのは、あのときーー巡察官によって連邦 も、その任地をランに知らせるかどうか、おのれにもはっきり決心 からの植民者撤退作業着手要請を通告される、その何日か前にボウ がついていないこと : : : それらもろもろの、何ひとっとしてたしか なもののない返事を出したところで、どうにもなりはしないのであダ・・ガルを訪ねたときのことであった。 あの日も、自分は焦っていたのだ、と、彼は思う。 る。 といった、すべてをひっくるめて、彼は自分がどうすべき あの日の用というのは、連邦開発営社がこの支部を閉鎖しつつあ か、決めかねていた。決定は出来るだけ先にのばしたかった。 るとの情報をつかみ、それを食いとめるためであった。連邦直轄事 しかしながら、それももう数日のうちに決めなければならなくな 業体がラクザーンの新星化による損害を最小限度にとどめて撤退し っている。 ようとしているらしいと知り、そんな真似はさせてはならないと乗 ふんぎりのつかぬままに、外見的にはきちんと、司政官の職務をり込んたのである。そして自分なりの駈け引きを弄し、緊急指揮権 までちらっかせて論争したのだ。 つづけているのだった。 今にして思えば、あれは論争などというものではなかった。 自分は全開発営社の理事でもある大物のボウダにうまくあしらわ 考えながら、それでも彼の足はひとりでに動き : : : 彼はいっか、 れただけだったのではないか ? 位負けしまいと頑張っていたもの 連邦開発営社の前を通りかかっているのに気づいた。 の、一種の道化芝居だったのではないのかフ 連邦開発営社一三二五星系支部の、大門の前である。 それは、あのときでさえ分っていた。認めたくはなかったが、内 二つの高層ビルと四つの巨大な倉庫を有する開発営社支部は、昔 心では知っていたのだ。 と少しも変らす威圧的で、彼をにらみつけているように見えた。 そんなことまでしてボウダに挑戦しようとしたのは : : : 自分が司 だが、立ちどまって目をこらすと、ビルの窓の大半は割れてお り、倉庫の壁は塗料が剥げ落ちていた。崩れた石塀のかなたの簡易政官であり、この世界における司政官の権威というものを、このま まではいけない、何とかしなければならないという焦りにかられて 店舗は引き倒され、あちこちにまとめて積みあげられているのだ。 いたせいだったのではないか ? ここもまた、無人のままに荒れ果て、朽ちて行く風景のひとつな : 一部は人 自分は司政官が司政官としての力を取り戻すために : のであった。 人に軽視されているのに復讐するために : : : 頑張って来たのではな四 彼はそれでも、もうしばらくの間、眼前のありさまをみつめてい
のどこかへ押しやり、ある意味ではおおいをして、そのために得られ吹き払われて好天になった。このぶんでは久し振りにタ焼が見られ るかも知れぬ安泰 : : : 連邦や連邦経営機構や司政制度の理念というそうである。 マセは、ツラツリット の大通りを歩いていた。 ものが、はたして何であるのかという懐疑も、彼の胸のうちには生れ ていた。そうして得られるのは何かといえば : : : つまりは自分自身従うのはと、三体の系ロポットである。 が知らないうちにゲームの駒として動かされていた、連邦の組織や宙港からの帰途、司政庁へ戻るついでに、市内の様子を久し振り に徒歩でゆっくり観察することにしたのだ。 連邦の計画、それらに象徴される大機構に過ぎないのではないか ? 低くなった陽を受けて、かれらの行く手の広い道は、半分以上右 彼は、窓から目をそらして、はっきりと苦笑を浮べた。 こんなことを考えるというのは : : : つい先程、カデットから与え側の建物群の影におおわれていた。 それも、荒廃の大通りなのだ。 られた手がかりをもとにつかんたと信じている計画や、そこにおけ るおのれの役割も、はじめの衝撃が過ぎてしまえば何でもないと映路上には、放置されたままの露店や、放り出された家具類、あち こちに山をなす塵芥などがあって、まっすぐ進むのは困難であっ りだしていたことが、案外心の底に重く沈んでいるのではあるまい と、思ったのである。連邦経営機構というものであれば、当た。 , 刀 それでも、マセたちは、それらをよけながらも、大通りの中央を 然その位のことはやるであろう、こんなからくりを知ったところで 自分は大して動揺もしないのだ、おのれを変貌させるほどの新鮮な歩みつづけた。 大ショックではないのだ、と、高をくくった心情でいたのが : : : 意でないと、危険なのである。 外に心に深い傷を作っているのではないかーーーと、奇妙な自意識を 両側の小型のビル群 : : : さらに行くと現われて来た雑多な建物群 お・ほえたからであった。 の : : : そのいくつかはすでに崩落しており、あとも、いっ崩れるか いずれにせよ : 知れないのであった。 彼は、かすかに吐息をついた。 もっとも、そんな風に潰れたり潰れかけたりしているのは、たい いずれにせよ、ここしばらくは、突きつめて考えるのはよそう。 ていが植民開始後間もない頃に建てられたものか、でなければ急造 考えるには : : : あまりにも疲れている感じなのであった。 の、もともと恒久的な建物として築かれたのではないものばかりで ある。本格的なビルは依然として健在なのだ。 視野に、宇宙貨物搬送連合体のシンポルタワーがあった。連邦交 易公団の前衛的な建物もあった。さらには巨大な連邦軍星域群統合 参謀本部のビル : 。それらの本格的建築物は、今なお威容を示す かのように、そそり立っているのである。 陽は傾いていた。 数日前から降ったりゃんだりの天候だったのが、昼過ぎ以来雲が
たのか、どういうわけで司政官の道に見切りをつける決心がっかな人類はハムデ型だとチュン・ダ・ハダラードはいった。 かったのかを、理解したのである。 その人類は、あらゆる生物を自分たちと同じハムデ型と考え、 自分には、やはり、先住者たちのいったことが事実ではないか、 ムデ型としての優劣によって相手を決めようとしているのだ。 という気分がずっと残っていたのだ。そんなものは先住者の単なる それが今後、どんなわざわいを招くことになるのか : : : 人類には 信仰だと片づけることが出来ず、もしもそうだったら、もしもそれ分っていないのだ。 が本当だったらという懸念が胸のうちにあった、そのせいで、司政人類は今後、またチ、ンデ型の生物と出会うかも知れない。 官を辞めることが出来なかったのだ。 や、すでに出会っていながらそれが分らず、人間より劣ったハムデ そうではないか 型の生物として待遇しているのかも知れないのである。チュンデ型 先住者たちの言が事実であったならば、宇宙意志ともいうべきもの生物にはチュンデ型としての接しかたがあるにもかかわらす、す のはまぎれもなく存在するのであり、かっ、知的生命体には ( ムデでにあちこちの惑星で多くのあやまちをおかしているかも知れない 型とチュンデ型の二通りがあって、ハムデ型の生命体は空間的に広のである。 がり征服によって膨脹するけれども、チュンデ型がやがて到達する そのチュンデ型を発見し、チュンデ型として接することを試みる その宇宙意志によって運命を左右されるということになる。 には : : : 司政官以上の適任者はいないではないか。 カデットは、たとえそうだとしても、そう信しても、そういうこ そのことであった。 とには目を向けるべきではないと説いた。そういう存在を認めるこ 自分が司政官を辞めようかと考えながら、どうしても出来なかっ とは、ひいてはこれまでの人類や連邦の発展のありかたに根本的な たのは : : : 先住者たちの言葉がもしも真実であったとき、誰がこの 疑念を呈さなければならなくなるからだと主張した。 役目をはたすのかという懸念があったからなのだ。現在の時点で、 だが、それでいいのだろうか ? ある程度でもそのことが分り、そのために努力する者がいるとした そういう風に目を閉じるような真似をして、それが根本的な解決ら、このラクザーンで先住者のチ、ンたちと親しく話し合い、その になるだろうか ? 秘密や考えかたを直接に聞いた自分しかいないではないか。 そういう宇宙意志というべきものが存在していれば、逆に、その いや、自分だけではない。自分と・ : : ランのふたりた。 存在を認め、宇宙意志たちと共存、あるいは共存とまでは行かなくて そして、そういう、ハムデ型生物とチュンデ型生物の、いわばか も、かれらにつむじを曲げさせないようにするべきではないのか ? け橋の役目をするためには : : : 司政官でいたほうがいいのである。 しかもその宇宙意志たちは、やがて仲間になるはすのチ = ンデ型司政官としては、いささか異端の考え方を持っといわれるかも知 生命体に対し、 ( ムデ型の生命体かどういう扱いかたをしたかを重れないが : : : 誰かがそれをやらなければならないのだ。 視するという。 しかも、きようのこんな事件に徴して見ても、ハムデ型である人 8
「なにか驚かすものがあるって、ジョニイが言っていたけど ペタンの計画は、修理のためレーザーを停止する、とデス・ヴァ レイに通告するというものだった。ジネズミどもには、信号のこと「おやまあ、彼は半分しか知らないのよ。上院議員との話合いはう まくいかなかったのね」 はなにも話さないのだ。 「ああ、期待はすれたったよ。で、秘密って何たい ? 」 「もし・ハレたら、訴訟をおこされて、えらいことになる」 「コナーズはとってもいい人よ。わたしたちのためにいろんなこと 若者はかぶりを振って、 をしてくれたわ」 「ジネズミどものことは、まったく理解できないなあ」 「それは君のせいしゃない」チャーリイは地球でうまれ、地球で教「おやおや、ア・フ、いったい何のことだ ? 」 育をうけた心理学者なのだ。「ここで生まれた者には不可能なこと「彼は正しいわ。ジネズこどものテレビを二十分でも止め . てごらん なさい。たちまち革命がおこるから」 「ア・フ : : : 」 「そうかもしれませんね」若者は立ちあがった。「ごちそうさま。 「わたしたちはメッセージを送るのよ」 仕事に戻ります。ミーティングの前にべミス博士に電話することは 「ああ、何ワットだかしらないが、手に入れられるだけの電気で、 ご存じですね」 「ああ、ケープにメッセージが届いていた」 裏側の設備を使ってね。運がよけりや 「だめよ。足りないわ」 「博士は、あなたをびつくりさせるものを持ってますよ」 チャーリイはコ 1 ヒーにスプーン半分の砂糖をいれて、かきまわ 「彼女はいつだってそうじゃないかね ? 」 「あんたは : : コナーズを無視するつもりなのか」 アビゲイル・ペミス博士が電話で言ったのは、夕飯を食べにやっ て来い、ということだけだった。彼女は彼にミーティングの準備を「コナーズなんか、知ったこっちゃないわ。わたしたちは電波なん て使わないのよ」 させるつもりなのだ。 「うまかったよ、ア・フ。地球の本物の食べ物だってかないはしょ オ「可視光線かい ? それとも、赤外線を ? 」 「メッセージは自分の手でもっていくの。ダイダロス号でね」 チャーリイはコーヒーのカップを口までもっていく途中だった。 彼女は笑って、クリーナーに皿を押しこんだ。それからコーヒー をふたっ、ひきだした。坐りながら、また笑った。皺の海の中に明そのほとんどがこ・ほれた。 「ほらほら、ナプキンを使って」 るい眼の輝く、白髪の小柄な女性である。 「今晩は浮き浮きしているんだね」 「ええ、期待がありますからね」 ロ 6
れはいますぐとっても書けないから、これはとってあるわけで式を試してみて。死ぬ前に何か書くね。 す。 それは書くだろう ( 笑 ) 。 規模雄大たな。コロポックルも書いたらどう ? ( 笑 ) 荒巻そのコンテをいま作ってるような気がしますね。 ははあ。 荒巻これはなかなか書けない。北海道の人はやつばり、地元のも のはなかなか書けない。さしつかえがあって。 荒巻エスキスってやつね。結局、自分でもよくわからないわけで すよ。胸のこの中に、自分が書かなきゃいけない作品てのがひと たたりがあって ( 笑 ) 。 荒巻それで、いまのぼくが考えてる神は、自然そのものという神 つあるような気がしてるんですよ。それをあとへあとへとのばし ですね。 てるような感じで。 やつばり構築癖ですな。 アニミズムみたいなものですか 2 荒巻そうです。これ、・ほくは ( イデッガーにそういう要素がある荒巻ええ、若いから ( インライン、矢野さんの好きな ( インライ ンのように長生きして書きたいという気持はすごくありますね。 と思うんですよ。あの人の自然論を読むとあるんですね。 やつばり、生霊を信しるという、自然そのものの偉大さを。 荒巻ええ。だから、いろいろと人工的なところをで漁ってき ( 外へ出て話そうということになり、植物園を散策しながら話題は たけども、最終的には何か自然に帰ってゆくような気がします変わる ) ね。だからいま、うちの庭にね、・ほくの大好きな大きな白樺の木 太平洋戦争をもっと書くべきだって ? があるんですよ。これを毎朝見るのがすごく楽しみなのね。木の荒巻ええ、なぜかといいますとね、日本民族が世界史の中に主役 精ってインドにありますけどね。植物に神が宿ってるというね。 で登場したのが太平洋戦争ですよ。そういう意味で、これからど アイヌがそうでしよ。 んどん書くべきじゃないかと思いますね。 それはそうですよ。 荒巻そう、アイヌもそうですね。いわゆる樹霊神というのが全世 界にみなありますけどね。そういうものに非常な安らぎを感じる荒巻そう思いますね。石川喬司さんがハインラインの「宇宙の戦 士論」でいろいろいわれたし、・ほくも「術の小説論 , でそういっ んですね、むしろ。いろいろやってみたけども、結局最後には、 たこと書いてますけどね。少なくとも評価する場合は、そういう 自分はやつばり日本人だなという気はしますね。だから、最後に はそっちへ行くのしゃないかなって気はします。そのときに イデオロギー的な面で評価されてはどうしようもないって気がし ますね。作家が書く場合には、やつばり自分の考え方があるわけ を引きずってるか、切り離してるか、それともぜんぜん別な になってるか、まだ自分でもよくわかりませんけどね。だから、 だけども、評価するときに反戦思想とか抗戦思想とか、そういう いろんなことをやってみたいという気があるんです。あらゆる形価値判断で切られてしまうと、 ()0 はどたい困るような感じがし