反乱 - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1978年2月号
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1. SFマガジン 1978年2月号

つつあります」 は何らの心理的抵抗もなかった。や他のロポット官僚たちも 同じであろう。だから彼は、そんなことでためらったのではなかっ ついに来たか ! マセが大きく息を吸ったとき、はまたい 問題は、彼やロポット官僚たちがそうであっても、ラクザーンの 「北側の一個所が突破されました。反乱者たちは司政庁内に乱入し植民者たちに、どういう影響を与えるかということであ 0 た。反乱 つつあります」 者たちはむろん、司政官が司政庁から逃亡したと誇大に宣伝するで スクリーンはその現場を映し出していたが、もはやそれを見なくあろう。そしてそのことが、絶対的であるべき司政官、強大な権力 ても、状況をじかに感じ取ることが出来た。ナ「の音が至るところを駆使して退避作業を指揮するはずの司政官〈の、反乱者以外の植 から聞え、少しずつこちらに近づいて来るのである。 民者の幻減と反感となってはね返って来るのは、火を見るよりもあ 銃声。 きらかであった。それが原因となって退避計画が頓挫したら、何も 機銃音。 かもがぶちこわしである。つい先刻迄彼は、いざとなれば司政庁か 金属と金属のぶつかるようなひびき。 ら離脱すればいし 、という気でいたし、そうなっても、当然随行する 爆発音。 はずのを通じてと連絡を取り合、 し、指示を送ればい それに、人間たちの怒号と叫び声。 いのだと考えていたのだが : : : それはあく迄も理屈としての、司政 「司政官の身に、危険が迫りました」 庁陥落の可能性を意識しながらも、やはり心の底の底では、そうは がいいだした。「反乱者たちは、司政官を殺傷するか、となりはしないと信じていたときの思考であ「た。今、それが現実と りこにしようとする可能性がきわめて高いと判断します。司政庁をなりつつあるとき、にわかに懸念が頭をもたげて来たのである。 離脱していただきたいと思いますが、いかがでしようか だが、切迫した状態を如実に反映して、はマセの返事を待 たす、また促した。 マセは、すぐには答えなかった。 「どうか、司政庁を離脱して下さい。公務室横の司政官専用の中庭 にいわれる迄もなく、彼は、こういう状況になった以上、 に、司政官機をまわしました。すぐにお乗り下さい。司政官と私と 司政庁をあとにして別の場所へ移るのが安全たと考えてはいた。 の連絡は、いつものように随行のが行います」 これはいわば敵前逃亡である。抗戦を続けているやその部「司政官が司政庁から逃げ出した場合の、植民者たち〈の心理的影 下たちを捨てて逃げ出すのである。古風な道義感覚からいえば許さ響と、退避計画との関係について、意見を聞きたい」 れない行為であろう。が、それが司政官の安全のためにはもっとも こんなさいであったが、やはりマセはいわずにはいられなかっ 合理的な方法であるならば、そうすべきであった。その点、マセに 382

2. SFマガジン 1978年2月号

「司政庁内の全ロポットの戦闘行為を停止させます」 し、司政庁の権威は落ち、退避計画に重大な支障を来たすことにな たたかいの音は、まだ続いていた。爆発音も銃声も : : : が、それ る。それなら : : : どうせそういうことになるのなら : : : 別の道があ るのだった。ただ、その別の道は、彼自身の名誉ばかりか、生命にらが急速に減少して行き、やがて、司政庁が一瞬、しんと静まり返 もかかわりかねない方法なのだ。ただ、それを決行することによっ て、おのれはあるいは失脚するかも知れないが : : : 彼に代って別の異様な静寂たった。 司政官が着任すれば、退避計画は続行出来るであろう。すべてを失それからあがったのは、勝利を自覚した反乱者たちの、どっとい うよりは、おのれという一部を失うかも知れない手段をとることう歓声であった。 で、あとを残すべきなのだ。 デスクに向ったまま、マセは眉ひとっ動かさなかった。今こそ、 司政官らしい司政官であらねばならない。今が正念場なのた、と、 しかし。 マセは目を閉じた。 彼は思った。 反乱者たちの、わあわあという叫び声が流れて来た。司政官はど やるほかはない。 こだ、司政官出て来い ! という声もまじっている。 そしてこの手段にしたって、必ず自分がだめになるわけではない のた。何パーセントかの低い確率たが、何もかもがうまく行くこと「かれらの代表に会おう」 になるかも知れない。 マセはロを開いた。「公務室に案内してやってくれないか」 これがふつうの場合なら、サロンや面会室でよかったであろう。 マセはまぶたをあげると、いった 「このままではいずれ司政庁そしてそれはがどこにするかを決めることである。だが、今 は陥落する。司政協力者たちをも殺傷しない限り、そうなる。だ は違う。反乱者たちはそんなかたちを肯んじないはすであった。か れらは勝利者として、マセに対するのである。そんな状況では : が、それは出来ない」 ちょっと間を置いて、 反乱者が彼に何をするか分らぬ状態では : : : マセは最後迄司政官で 「のみち陥落するのなら、司政協力者たちの生命を重んじて、反ありたか 0 た。何がおころうとも、そうすべきなのだ。それがおの 乱者たちに勝ちを与えよう。これは私だけの責任の、司政官としてれ自身にも忠実な生きかたなのである。だから、どうせなら仕事の 場所である公務室でかれらを迎えたかったのだ。それゆえに、彼は の命令だ。ーー全ロポットの戦闘停止せよ」 は間い返さなかった。がその可能性をもすでに計算場所を自分で決定したのである。外部の人間に公務室を見せるとい う例外的行為を、あえて選んだのであった。 していたのか、それとも司政官の非常命令ゆえに従っただけなのか そして、は反対はしなかった。 : マセにはついに分らなかった。は命令を復誦しただけで 「承知いたしました」 ある。 389

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つけた人間が機銃を握りしめて、姿を見せた。 「うむ」 別の系ロポットが、そいつにはげしく体当りを食わせた。 こんな、司政庁内というような場所では、いかに治安部隊といえ 8 3 そいつは機銃を取り落し、顔面を血に染めて、へんにゆっくりと膝ども、本来の威力を発揮するのはむつかしいのた。 をつき、うつ伏せに床に崩れ落ちた。 「外壁の外の反乱者たちは、依然として侵入して来ております」 は続けた。「また、神経麻痺線で倒れた司政庁内の反乱者 庁内の銃声がにわかにはげしくなり、人々の怒号が高まるのを、 たちも、意識を回復するとすぐ攻撃を再開する様子です。このまま マセは感した。 では、反乱者たちを司政庁内から掃討するのは不可能です」 「新手た ! 」 そうかも知れなかった。 遠くで何者かが叫び、それに応じるようにどなる声が聞えた。 ここ迄追いつめられてから治安部隊が帰着したのだから、そう簡 「治安部隊だ ! 治安部隊が戻って来たそ ! 」 単にけりがつくはずがないのだ。 マセは、スクリーンに顔を向け直した。 だが、反乱者たちはどうあっても司政庁内から叩き出さなければ 司政庁の上空から、次々とロポットの大群が降下して来るのであならなかった。たとえ司政庁が陥落しなくても、その一部でも反乱 者に占拠されていては、威信にかかわる。いや、威信どころか、日 った。場面が変ると、庁内の広い中庭に降り立った数体のロポット たちが、乱れた反乱者たちの群に神経麻痺線を浴びせかけているの常業務を遂行することも出来ないのだ。 が映った。反乱者たちはばたばたと倒れて行くが : : : しかし、対神「報告します」 経麻痺線被覆衣の二、三人が、それをものともせすに突き進んで行 ややあって、がいった。「反乱者たちがなおも侵入を続 くと、手投げ弾をほうった。 ーにも損害が出は け、攻撃を仕掛けて来るため、治安部隊のメイハ 爆発の閃光とけむりが消えると : : : 治安部隊のロポットたちはまじめました , だ立っていたが、動きは鈍っていた。 「治安部隊にか」 視野に、別のロポットが入って来た。そのロポットは、対神経麻マセは呟いた。 痺線被覆衣の連中にあっという間に近づくと、太い腕でたちまち叩 危惧は現実となりつつあった。治安部隊といっても、もともとは き伏せた。 個々の、いろんなタイプのロポットの集合体である。それが強力な 「報告します」 のは、系に統率され、組織化された集団として行動するから (-OO—であった。「治安部隊の帰着によって、反乱者たちの勢いなのだ。その力をふるえない場所で、小グループに分れてたたかう はかなりおとろえましたが、あちこちにひそむ小集団が、執拗に攻のでは、本質的には治安部隊帰着前と変りはしないのだった。 撃して来ています」

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が重なり合った。それらの物音は、反乱者たちが、治安部隊のメン圧倒的な殺人機械なのだ。 1 の何割かのロポットが突如として殺人兵器ーーレーザーや内臓当然ながらそうなると、反乱者たちには勝ち目がなかった。いか 8 破裂弾や神経毒カプセルといったものを乱射しはじめたことに狼狽に頑張ってもロポットたちの敵でない。 し、それでもとにかく応戦しているのを語っていた。 それでも反乱者たちは頑強であった。かれらはあちらの物陰に五 反乱者たちの中には、抗議の声をあげた者もいるかも知れない。 人、こちらの廊下に三人という具合になって、抵抗を続けるのであ ロポットたちにこんなことをさせていいのかと絶叫した者もいるかる。 も知れない。だがかれらが武器を捨てず司政庁から退去しようとし ない限り、ロポットたちはそんなものには耳もかさず殺してしまう時間がじりじりと経過して行くうちに、ロポットたちの優勢は、 のた。ひとたび殺人能力行使の指令を受ければ、ロポットたちは殺しだいにあきらかになって来た。反乱者たちは、あるいは殺され、 人機械そのものと化してしまうのである。それもきわめて効率的であるいは後退して、すくなくともマセのいる公務室の近辺では危険 ー 4 第、 0

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もはやロポットたちの妨害はなさそうだと判断した反乱者たち鋼製といっていい位の頑丈な、その上をさらに分厚く鉄筋コンクリ ートでおおった外壁に攻撃を仕掛けているのであった。 が、それでも援護射撃は続けながら、司政庁外壁の爆破作業を再開 したのである。 爆発音は、もう、あまり間を置かすに聞えるようになっている。 またひとつ。 スクリーンの黄色の点もどんどん増えていた。 今度はだいぶ近かった。マセは、床がかすかに震動するのを感じ が、反乱者たちが東側の外壁に力を集中している限り、まだしば らくは持ちこたえられるだろう。 「報告します」 「現況を、図で見せて貰いたい」 彼は、に求めた。 (-00—の声がした。「反乱者の一味と思われる人々が、科学セン ターに向っています」 半秒か一秒置いて、スクリーンに図面があらわれた。 「科学センターに ? 」 司政庁の外壁を太い線で示した図である。 その外壁のまわりには、断続した線がいくつもあって、かすかに 「工場地区の私の部下の連絡によると、一台の貨客車と百名以上の 動いていた。反乱者たちである。 人間が、ダイスラ河とニダイスラ河の分岐点近くの橋を渡り、科学 外壁の内側には、がその戦力を計算して単純化した大小さセンターに向っているとのことです」 まざまの長方形や正方形があり、これはロポット官僚の配置を示し「 : どういうつもりだろう。 ていた。 爆発がおこるたびに、外壁をあらわす太い線の、その爆発地点に反乱者たちは、科学センターへ行って何をしようというのだろ は赤色の点が浮かびあがり、すぐに黄色に変じて残されるのである。 : どういうことなのだ ? それに、車が一台とは : 何回も爆発のあった個所は、その回数だけ黄色の点がむらがってい るのであった。 そういえば、司政庁を取り巻く反乱者たちの中に置かれた車は、 こうして見てみると、反乱者たちは、司政庁玄関のある南側よりまだ駐車したままのはすである。何の目的で持って来たのか、依然 も、東側からの攻撃に力を入れ、主としてそちらの外壁を爆破しよとして分らないのだ。 それらの車と、科学センターをめざしている車と、何か関連があ うとしているようである。司政庁玄関の門にはロポット官僚たちが ひしめいているので、そこからの突破はむつかしいと判断したのにるのだろうか。 : ・がそうしたのには理由があったのだ。司政庁センターを襲う気なのかフ 違いないが : そうたとしても : : : 今のマセには、どうすることも出来なかっ 玄関の附近の外壁はそれ程頑丈ではないからこそ、はそうし たのである。反乱者たちはそのことに気がっかず、東側の、むしろた。司政庁を守り切るだけで精一杯なのた。科学センターへ人員を 376

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という、このふたつの相反する条件を、マセは、どう重ね合反乱者たちの別の線は、司政庁南側の玄関へと移動している。 わせ、どう解釈すべきなのか、分らなかったのた。 マセがそのことを認めた瞬間、これ迄にはなかったような大きな 連邦軍は、今度のこの反乱を鎮圧しようとして、行動をおこした爆発音が、彼の耳を衝った。腹にひびく震動に、スクリーンの図が のかフ 揺れた。 あるいは、反乱者に加担して、司政機構を叩き潰す、その必要が「南側の、門に近い外壁が破壊されました」 あって、動きだしたのかっ・ が伝えた。 もっとも : : ほかに理由があるのかも知れないのは、たしかであ反乱者たちは、そちらからも突人を試みていた。 る。連邦軍はラクザーン上の事態などには関係なく、他の星系での ロポットたちの、神経麻痺線の連続射出と、身を張っての防戦に 戦闘とか、あるいはもっと大規模な星間作戦に加わるために、ラク よって、しかし、まだ反乱者たちは司政庁内に侵入していない。 ザーンを離れたのかも分らない。 しかし、こうなってしまっては、反乱者たちが外壁を破壊するの は、思いのままであった。続いてまた東側の外壁が : : : 今度は北側 むしろ、それがありそうなことのようにも思えるのだ。 いすれにせよ、連邦軍が動きだしたその真意は、が軍からが破られて、そちらでも突入と防戦が開始された。 回答を得る迄、はっきりとは分らないのであった。 すでに、司政庁内のロポット官僚のうち、戦闘に参加出来るもの それよりも : はすべて動員されていた。本来、非戦闘員であるタイプの、当面手 轟音と震動に、スクリーンに向けていた目の焦点を合わせたマセが空いているもの迄が、防衛に加わっているのだ。かれらは対神経 は、ひやりとするものをお・ほえた。 麻痺線被覆衣をまとった連中を先頭にして突人をはかる反乱者たち 東側の外壁をあらわす太い線の : : : 黄色い点が重なり合うようにに対し、自己に与えられた全能力を発揮して、たたかっていた。手 なった部分が、欠けたのである。 投げ弾や銃撃によって破壊されあるいは機能を失ったロポットたち は、仲間の手によってたたちに・ハリケードの材料とされていた。 「東側の外壁が破壊されました」 Ob-" の声が流れた。「ごらんになっている個所が、はば三メー 刻々と伝えられるそうした情報を受けながら、マセがふと、治安 トルにわたって崩れました。部下たちが、侵入して来る反乱者たち部隊のすべてを、いや、治安部隊のみならす、司政庁外の他地域に を防ぎ止めています」 いるロポット全部を呼び集めて戦闘に参加させたらどうだろうか、 スクリ】ンで見ても、その通りであった。太線の欠落部分に、反と、考えたのは事実である。しかしそれは出来ない相談であった。 乱者たちを示す線が密着し、内側の、合体して大きくなった長方形彼はまだ、現在こちらへ急行しているはすの二大隊以外の、八大隊 9 一 と接していた。 の治安部隊をいっせいに引揚げたくはなかった。そんなことをすれ 7 ば全ラクザーンに混乱と無秩序がひろがってしまう。そうなれば収

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眸をこらすと、ロポットたちは群衆に向って、神経麻痺線を放っ ているのだった。かれらのうちには対神経麻痺線被覆衣をまとった「報告します。第七波の部下たちも全減しました」 者もいるけれども、やはり、比率からいえば問題にならぬ位すくな がいった。「これ以上損害を出すと、司政庁外壁が爆破さ いのだ。被覆衣を着けていない人間に対しては、神経麻痺線は従前れて反乱者たちが侵入して来たときの防禦力に大きな欠陥が生じる 通り有効なのである。ロポットたちがある程度反乱者を混乱させ、 ことになります。第八波を送り出しますか ? 」 後退させたのは事実だった。 「待て」 しかし。 マセは顔をあげた。 マセは、スクリーンの奥に、ひとつの影があらわれ、こっちへ近すでに、神経は緊張の連続で、いっ切れるか分らない感しであっ づいて来るのを認めた。左右にひらめく銃ロの火のあかるさで、彼た。しかし、司政官であることをやめるわけには行かないのだ。 はそれが対神経麻痺線被覆衣を着用した人間であることを知った。 O—はつまり、司政官の決定を促しているのだった。ここで反 そいつは右手を大きく振って、何かを投げつけたのである。裂ける乱者たちの外壁爆破作業を妨害するのはやめて、あとは外壁のこち ような音とともに、スクリーンはまっくらになった。 ら側に全力を傾注し、反乱者たちが突っ込んで来るのを待っか : 手投げ弾だった。 でなければ、反乱者たちが外壁を破壊して突っ込んで来る前に治安 画像を送っていたロポットは、手投げ弾で吹っ飛んたのである。部隊が到着するとの見込みで、あく迄も妨害を続けるか、の、どち 「反乱者たちは、手投げ弾を使用しはしめました」 らかを選ばなければならないのである。前者は外壁が爆破されるの が報告した。「外へ出た部下たちは全減しました。しかを、手をこまねいて待つわけであり、爆破された外壁の部分では、 し、その間、反乱者たちは外壁の爆破作業を中断していました。こ死にものぐるいの戦闘がはじまるのを覚悟しなければならないし、 ちらの損害は大きいですが、作業妨害の目的は達しています。同し後者は後者で、 いったん事態が裏目に出たら、あっさりと司政庁を 目的のために第二波を外に出しますが、よろしいですか ? 」 占領されてしまうことになるのだ。いずれも治安部隊の到着が鍵に 「ああ」 なっているのに変りはないが、それでも前者よりは後者のほうが賭 彼は、そう答えるほかなかった。 けの要素が強いのである。 大きすぎる。 それにしても、反乱がおこってから、これでだいぶ時間がたって 損害が大きすぎるのた。 いるはすだ。当初は多分こんな状態に迄は立ち至らないであろう だが、このことで司政庁の外壁が破壊されるのがそれだけ遅れるし、もしそうなるとしても、ずっとあとになると踏んでいたのに、 としたら : : : 治安部隊が戻って来る迄この状態で持ちこたえること反乱者たちに対神経麻痺線被覆衣などというものがあったため、こ が出来るとしたら : : : これしか方法はないのであった。 んなことになってしまったのである。が、それにしても一応は時間 374

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それとも、連邦軍には、そうしなければならない理由でもあるの 使用されたことは、何回かあった。 が、昔はともかく、現在のロポット官僚の、その上級ロポットやか ? 彼が疑惑のとりことなった折も折、の声が流れて来た。 準上級ロポット、 およびすくなくとも戦闘能力を持っロポットは、 すべて防護機構を備えているのた。磁気攪乱装置が効果をあげるの「報告します。連邦軍の一部隊が、司政庁の上空三キロのところで は、せいせいが、下級の非戦闘員ロポットに対してだけであった。編隊を組んだまま、静止しています」 そのことに気づいた暴徒たちは、以後、磁気攪乱装置を使おうとは「何 ? 」 しなくなっていたのである。 「夜間用偽装なので人間の肉眼には見えませんが、私はレーダーで 反乱者たちは、それを、この状況になってから持ち出して来たのとらえました。二十隻の船団です。私は滞空理由を質問しました が、船団からは応答がありません。連邦軍のほうからも、さきほど そして、その戦術はたしかに有効だった。司政庁内のロポットの問い合わせとこの件についての説明要求に対して、何の回答もあ りませんー の、戦闘能力を持つものの多くは、今迄の攻防によって破壊され、 または機能を失っている。そのことで低下した戦力をおぎなうよう「 : にして、下級の非戦闘員ロポットが、いわば使い走りや楯としてた何をしようというのだ ? たかっているのだ。能力の足らないぶんを数でカ・ハーしようとして連邦軍は、どういうつもりなのだ ? いるのであった。その下級の非戦闘員ロポットたちに対しては、あ まさか : : : 反乱者たちに加勢して、司政庁を攻撃するのでは : ・ きらかに磁気攪乱装置は有効なのである。 と、 いって、司政庁にはどうすることも出来ないのであった。も こういう状態になるのを待って、磁気攪乱装置を利用するとは : : マセは心中、反乱者たちの狡猾さに、歯がみでもしたい気分であともと、軍に対して司政庁のロポット官僚たちが攻撃を仕掛けたと った。あるいは、と、彼は思った。あるいはこれは、反乱者たちころで、まるで歯が立たないであろうことははっきりしている。ま こして今は、司政庁が陥落するかも知れぬ事態に追い込まれているの の、そのリーダーの頭脳だけから出たのではないかも知れない。 ういう作戦を立てたのは、専門家なのかも分らなかった。その専門だ。 家とは、 いう迄もなく軍人である。はっきりいえば、連邦軍であ「ほうっておこう」 る。連邦軍が、この反乱のあと押しをし、作戦を指導しているので マセはいっこ。 はないのか ? 「承知しました」 いや、そんなことはあるべきではない。 は受け、同し冷静な調子で告げた。「東側の外壁の一個所 そんな真似をすれば、軍があとから非難されるだけではないか。 が、反乱者たちに突破されました。反乱者たちは司政庁内に乱入し

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いっそ、他地域ここで決断を下さねばならなかった。が情報をつかむ迄待っ 北と映るであろう。三大隊以上を引き抜くのなら、 を完全放棄して、十大隊をすべて手元に引き戻すほうが、はるかにていて、それから治安部隊を呼び戻すのでは、間に合わなくなるか しいのである。 も知れないのだ。 、と、マセは決意した。 これらを総合すれば、とるべき道はふたっしかなかった。 はじめの方法をとるほかはない その一は、他地域ににらみをきかせつつ、呼び返した二大隊でツ 従来の、治安部隊と暴徒との力関係が、今回も通用するとすれ ラツリ . ト ッ市を制圧することである。そして、これには、二大隊だば、二大隊で制圧出来るーーと、 r-nO—はそう判断したのだ。 けで″反乱″を押え込むか、完全に押え込まなくてもそれに近いか 二大隊でそれが可能なら : : : わざわざ他地域を放棄することはな たちにすることが出来るとの見込みがなければならない。 ラクザーン全土にわたって仕事をしなければならぬ司政官とし もうひとつは、他地域を完全放棄し、十大隊ことごとくをぶつっては、多少の無理は覚悟の上で、全地域にそのカのイメージを張り け、″反乱″を粉砕するというやりかただ。これには、当然ながめぐらしておかなければならないのであった。まして今のように、 ら、他地域の騒ぎを一時的にせよ放置することによって、司政庁の系上級ロポットが辺境にいない状態では、治安部隊をす・ヘて引 権威の低落を招来する危険が内包されている。 揚げさせることはしたくない。 マセとしては、今の時点になって、どうやら維持して来た司政官彼はロを開いた。 のカへの人々の幻想というものを、崩したくはなかった。現在の退「よし。ッラツリット市の反乱制圧のために、二大隊を呼び戻して 避計画遂行に、その目に見えない権威がきわめて有効に作用してい くれ」 るのは、たしかなのである。 「承知しました。ただちに手配します」 は応じ、ややあってからいった。「第四大隊と第五大隊が 「意見を聞きたい」 の反乱者たちにぶ戻って来ます。あと三時間ないし四時間のうちに帰着の見込みで マセはいった。「その二大隊を、ツラツリット つければ、帰趨はどうなりそうだ ? 」 「お答えしかねます」 「分った」 「これ迄のデータから類推 三時間ないし四時間後といえば、第二ルーヌル前か第二ルーヌル というのが、の返事であった。 すれば、治安部隊二大隊が反乱を制圧することになりますが、私はちょうど位の : : : 夜明けにはまだ間のある時刻だ。 今回の反乱の実態について、まだ充分な情報を得ておりません。実夜があけたときには片がついていればいいのだが : 眠気は吹っ飛んでしまっていた。彼は手早く服を着て、公務室に 態把握には、いま少し時間がかかると思われます」 入った。 としては、それが精一杯のいいかたであったろう。 しかし、事態がこの瞬間にも推移している以上、司政官マセは、 363

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られてしまっているのだ。それよりずっと東方の、ダイスラ河とニある。だから、群衆が橋を渡り切ったのを迎え撃っ格好にすべきで ダイスラ河の分岐点あたり迄行けば、まだいくつか橋はあるが : あった。 そちらへ廻るには、 かなりの時間を必要とする。また、そっちへ人もしも、人々が司政庁の外壁をとりかこんでしまったあとでも、 人が流れて行けば、それたけ反乱者の勢力が分散することになるのそれはそれで手がないわけではない。外壁をとりかこんだかたちの た。そういう風に拡散してくれれば、それはそれで司政庁側は楽にときは、それはまた外から包み込んではさみ打ちにすればいいの なるといえる。反乱者たちにもそのことは分っていたと見えて、か だ。もっとも、そのためには外から包み込む兵力として、二大隊で れらはもはやそれ以上の迂回は試みていないようであった。 ーししカ ) て、つは はいささか不足であるのも事実たった。うまく行けま、 かれらは、三つの橋を突破することにだけ精力を注いでいるらし行かないとなると、司政庁内と外からと、交互に反乱者たちを叩く 一種の持久戦を覚悟しなければならなくなる。この持久戦が長期に そのときには、マセがから反乱の知らせを受け取って一時わたると、ラクザーンにおける司政官の権威の失墜につながるおそ 間あまりを経過していた。 れのあるのも事実なので : : : 結局は他地方放棄を承知の上であとの 公務員のスクリーンで様子を見、の報告を聞きながら、彼八大隊を呼び返さなければならなくなるかも知れなかった。が、そ は軽い吐息をついた。このぶんなら、ここでかなり時間を稼げそうれはいよいよとなってからでいい。持久戦が長びきそうだと判明し である。 てから呼んでも、充分間に合うのだ。 また、そうでなければならないのだ。 マセがおそれているのは、反乱者たちが司政庁の外壁を破壊し、 もちろん、ロポットたちが橋上で群衆を食い止めれば、それにこ司政庁内に突入するという事態であった。そうなってから治安部隊 したことはない。それなら帰着した治安部隊をッラツリット新市域が到着したとしても、司政庁内のそこかしこで無数の小戦闘が展開 に降下させ、群衆を背後から襲うことが出来よう。後方が崩れた軍されている中では、治安部隊としての力を期待するのはむつかしく の士気はたちまち沮喪するものたから、勝敗はあっけなくついてしなる。そうなれば、マセは、これ迄はその能力を有しながらまだ一 まうに違いない 度も行使していない、治安部隊のメン・ハ ーによる人間殺傷を指令す が、かりに橋を突破されても、その時期はなるだけあとであってるかどうかの、重大な決定を迫られることになるのだった。あとで 欲しかった。反乱者たちが橋を渡れば、三つの線上を進んで来る状猛烈な非難を受けるのは必至の、ロポットによる殺人の号令を出す 態から、面をおおって寄せて来るかたちになってしまう。それが司かどうかという瀬戸際に立たされるのである。この問題について 政庁の外壁に殺到するころ迄に、治安部隊が帰着するのが望ましい は、は何の関与もしない。これは人間である司政官のみが決 のだ。ロポットの治安部隊は、自由に散開・集結・突撃の出来るス断をくだす事項であり、司政官が命令を出せばはいわれた通 ペースを確保しているとき、その威力をいかんなく発揮するものでりその指示をロポットたちに送るだけなのである。責任は司政官ひ 368