惑星 - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1978年2月号
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1. SFマガジン 1978年2月号

キャラベイスの方向 4 ホワイトホール惑星の脱出軌道 プラックホール ホワイトホール 世 の あの世 ヒノシオ号の推カ シオタの描いた第ニの図 って、コン。ヒュータの指示どおりにやれば大丈夫だってことが分か った。あとは実行あるのみだよ : : : 」 「力学的には理解できたが、実際の方法は ? たとえば惑星《ホワ イトホール》に『白黒穴帆型』の恒星間ラム・ジェットをどうやっ て取り付けるんだ ? 」 ヒノの質問にシオダはうなすいて、 「それはちょっとむずかしいが、惑星《ホワイトホール》の半球を カ場で包み、そのカ場をこの艇で牽引する方法が良いと思う。慣性 を″あの世″に送り込むこの艇の推進システムの原理を使えば、十 分実現可能だよ」 ヒノはにつこりした。 「よく分かった。矢印のべクトルについては、たしかに大丈夫だ な。次にもうひとつの質問なんだが、惑星《ホワイトホール》は母 星を失った気の毒な惑星た。今のところは《グラヴィゴン》のエ クトプラズムに保護されているからいいが、この無限地獄を脱出し たら、急に危くなる。 : しすれにせよ近くの恒星のお世話にならなけ ればならないと思うが : : : 」 「それについてはこう考えたんた」シオダは説明した。「惑星《ホ ワイトホール》がもともと所属していた恒星はこの異変で力学的に 不安定になり、銀河の放浪児になりそうなのでそこに戻すわけには いかない。しかし兄弟の関係にあると信じられる惑星《キャラベ イス》の母星なら健在だ。で、《ホワイトホール》を《キャラベイ ス》の母星に送り込んで、両惑星を兄弟星にしてしまったらどうか と思うんだ。惑星のタイ。フも住民も怪獣までもがよく似ているか ら、きっとうまくいくと予想しているんた : : : 」 「なるほどそいつはいい」

2. SFマガジン 1978年2月号

であると言えた。 「ひょっとすると、その惑星《ホワイトホール》は、昔われわれが 直径は約六千キロメートルで、恒星からふりそそぐエネルギーは調査したことのある《キャラベイス》の近くにあったのではないで 3 地球とほとんど同じであり、陸地と海洋が半々に表面を覆ってい 1 レよ、つか・ て、水や緑も地球に負けないくらい豊富だったからである。 「よく覚えていたな」 というわけで、がめっさで銀河宇宙に名をひろめた『惑星開発コ課長は鋭い両眼を細めて、につと笑った。 ンサルタント社』が、その開発権を取得し、観光惑星として売り出「そのとおりだ。惑星《ホワイトホール》は、きみたちが十年前の そうと準備をすすめていたのは、至極当然のことであると言えた。 入社まもない頃に調査してくれた空洞惑星《キャラベイス》と同し そして、その貴重な惑星《ホワイトホール》が、ある日とっぜ恒星区にある。場所もパラメータとひじように近い。球殻惑星であ ん、中心の恒星を離れて銀河空間を移動しはしめたのである。 る点も同一だ。ナナ こ・こし、怪獣が棲んでいるかどうかは分からんが 「 : : : とにかく、この話を打電してきた連絡員は、正気かどうかをね」 疑われて、気の毒な目にあった。まあ、天体力学を無視した事件だ この″怪獣という言葉を聞いて、けげんな顔つきだったヒ / か から、本社の研究班の連中が眉にツ。ハをつけたのはやむをえないが跳び上がった。そして叫んだ。 「ア、アレでしたか ! 」 調査課長は深刻な顔つきで、こう話した。 ヒノの赤ら顔には、懐かしそうな笑いが拡がっていた。 課長の説明を、顔を赤らめて聞いていたヒノが、大声でたすね「地殻が二重になっている空洞惑星で、内部に重力しゃ断怪獣づ ラヴィゴン》が棲んでいて、そいつがわるさをするのを″キャラベ 「惑星が移動するスビードは ? そして方向は ? 」 イス人″が〇・〇八ミリに撮って知らせてくれて、われわれが真相 課長はファイルをめくりながら答えた。 究明にのりだした : : : あの惑星ですな ! 」 「スビードは光速に近いらしい。また加速度も検出されている。数「きみも思い出したかね」 千だ。つまり、相当な外力が働いているということになるな。方課長も笑いながら言った。 向は第二二一扇形恒星区の ( >< 四四〇・二八 / 五九七・六七 / 「最後は、怪獣《グラヴィゴン》は重力をしゃ断しながら宇宙に飛 一四四・二六 ) に向いている。しかし、その方角に、とくに異常なび出し、惑星は平和を取り戻した。地底世界でのきみたちーーー当時 現象は発見されていない」 はアールはいなかったからヒノとシオダのふたりだがーーー・・の働きは 「ふうむ、要するに行ってみなければ分からないってわけですな」大評判になり、ポーナスに特別加算がついたのは、覚えているだろ ヒノが大げさにうなずいてみせたとき、メモをとりつづけていた シオダが、小首をかしげながら質問した。 「ポーナスは記憶にありませんが、浮きあがり型重力しゃ断とかい

3. SFマガジン 1978年2月号

″星の流れる領域″が、″魔 2 ハ ミューダ海域″にまさるとも劣ら五で大気をもった地球型であり、中心の恒星の質量は太陽の五 ぬ暗い不気味さで、しつかりと固定されていた。 倍、光度は二百八十倍、恒星までのと距離は太陽ー地球間の一六 三人がヴァーチ調査課長の指令をうけて地球基地を出発したの七倍であり、一年は約五千地球日に相当していた。 は三日前のことだった。 ニックネームは《ホワイトホール》とつけられていた。惑星の表 例によって銀河宇宙船″プラ号″に乗って銀河帝国を迂回面全体がひどいア・ハタづらで、上空からの写真では、白い穴が無数 し、渦状枝のはすれまで跳んでから、調査艇″ヒ / シオ号″に乗り にあいているように見えたからだった。実際には、このアスタは穴 換えて、目的地に向かったのである。 というよりもく・ほみだったが、中には本当の穴になっているものも 三人の愛艇″ヒノシオ号んは、今回の調査を機会に、ひとつの改あり、地下は巨大な空洞になっていることがはっきりしていた。 キャピティ・イ - ラネット 良がほどこされており、そのため、ス。ヒードは親宇宙船に劣らぬもすなわち、空洞惑星の一種たった。 キャピティ・・フラネット のをもっていた。 空洞惑星は広い銀河ではそう珍しい存在ではなく、これまでに 指進システムが抜本的に改良されたのである。この改良型の推進数千個が発見されている。 システムは、『惑星開発コンサルタント社』の正式登録名として 学問的には、球殻惑星と呼ばれ、とくに、 《ホワイトホール》 は、『白黒穴帆型』と呼ばれていた。その技術的理由については、 のように内部が同心状の空洞になっているものは″ベルシダー型″ あとで科学的にわかりやすくご説明することとしたいが、とにか として分類されていた。 、性能が抜群にアツ。フしたのである。 生成の原理はひしように簡単で、ガス塊が固化して惑星になる際 この、性能向上の『白黒穴帆型』推進システムを有する″ヒノシ に、内部気胞が発生して地殻を膨脹させるのである。気胞拡大時の オ号″が向かう謎の星域は、地球が存在する渦状枝の先端部より 地殻がやわらかすぎると、ボコボコッと気体が抜けて惑星全体がペ も、はるかに銀河の中心に近い所にあった。そしてそれだけに、星シャンコになり、冷却して地球型の非空洞惑星となる。 の分布状態も多彩であり、面倒な事件も起こりやすい環境であると しかし、地殻がネパネ・ハしていると、なかなか気体が抜けす、そ 言えるのたった。 のまま地殻が固化するので、球殻惑星となるのである。気胞が中 心に集まり、惑星生成時の回転が地殻内部まで一様にあると、あた 「きみたち、少し太ったようだな。休養時間が多すぎるとみえる。 りまえのことたが、″ベルシダー型″となる。 きっと働かないと健康に良くないぞ」 したがって、《ホワイトホール》のような惑星はかくべつ目新し 三日前の地球基地で、調査課長は皮肉たっぷりに、 こうきりたし いものではなかったが、それでも、人間がその上を旅行できるよう た。そして、事件の様子を三人に説明した。 な地球類似環境をもつものは、そう多くはなかった。 問題の惑星は銀河系の第二二二扇形恒星区にあった。重力約〇・ 惑星《ホワイトホール》は、その意味では、たいへん貴重な存在 スフェリカル・シェル スフニリカル・シェル ー 37

4. SFマガジン 1978年2月号

このような状態がしばらくつづき、惑星《ホワイトホール》は、 ように、外へ外へと膨張していた。 その凄まじい勢いにもめげす、ヒノとアールは『白黒穴帆型』の予定どおり、図の太線のコースをたどって、脱出への加速度を獲得 7 していった。惑星を保護していたエクトプラズムは、その間も飛散 恒星間ラム・ジェット式推進システムを作動させた。 艇の外壁の装置はセットしたとおりに働いており、″あの世″にせす″キャラベイス人″の生命を守っていた。 スペース・レスキュー いる間に、惑星《ホワイトホール》にしつかりと固着していた。 かくして、救出作戦は大成功をおさめた。 ・フラックホールからホワイトホールへ翔ぶ瞬間というのは、乗組 ・フラックホールとホワイトホールの間の移動をうまく利用したこ 員にとっては一瞬だが、四次元的に作動する装置にとっては三十キの脱出方法は、その後『惑星開発コンサルタント社』の研究陣によ ロメートルを光速で割った時間に相当するので、このような手品が ってリファインされ、『白黒穴帆型』カタバルトと名づけられ、宇 可能なのである。 宙開発に大いに利用されることになった。 これができると、あとはメイン・コン。ヒュータまかせで、たたひ な。せなら、この方法は、無限地獄に陥った惑星や宇宙船を救助す というわけである。 たすら推進をつづければよい るためばかりではなく、もっと積極的に、巨大な物体を遠方に飛翔 救出作戦はこうして、順調に遂行されていった。この作戦の意させる″重力カタバルト″として使えることが判明したからである。 味は、″ホワイトホール人″にもすぐに理解されたようだった。 この功績によって、ヒノとシオダとアールは″惑星開発賞″を授 白い穴が無数にあいた地殻から、ボマットをとおして喜びの声が賞されることとなり、またヒノ夫人とシオダ夫人がこの事件をモデ 聞えてきたのだ。 ルにベストセラー小説『流れる悪星は生きている』を書いたりした 〈地球の人、感謝、シ = ッ〉 のだが、それらはいすれものちのお話 : 〈宇宙の英雄、シュッ、大勝利、シュッ〉 今の三人は、見事《ホワイトホ , ール》を脱出させて、『コンサル この声を聞いて、ヒノはすっかり照れた。 タント社』の貴重な財産を守りとおしたことと、愛すべき″ホワイ 「英雄といわれるほどじゃありませんがね。しかしまあ、ひどい事トホール人〃の命を助けたことで満足していた。 件から逃れられて良かったですなあ、皆さん」 まことに、涙ぐましいばかりの愛社精神と博愛精神ではないかリ 〈歓喜の涙、シュッ、フッ〉 4 〈この世にあく穴、数々あるの、シュッ〉 これを耳にして、シオダが笑った。 「きみの唄を聴いていたらしいな : : : 」 ヒ / はますます照れた。 「いや、どうもどうも・ : : ・」 スペース・レスキュー さて、惑星《ホワイトホール》は脱出軌道をシオダの計算どおり に通って、《キャラベイス》のある恒星に到達した。 この恒星の周回軌道に惑星をのせてやるのは、惑星調査員にとっ

5. SFマガジン 1978年2月号

シオダは真剣な面持ちで観察をつづけた。シオダの観測でも、怪星の表面を保護していると考えられる重力しゃ断物質は、地表の様 6 5 獣の存在を示すェクト。フラズム状の物質は希薄にならなかったし、子から判断すると、この惑星の地底から湧出したものらしい。ぼく 生体類似星間物質は、逆に濃度を増していた。艇内時間で数十分のの推論では、この惑星《ホワイトホール》が重力場の影響で危機に のち、″ヒノシオ号″は惑星《ホワイトホール》を至近距離に捕えおちいったとき、地底世界に棲んでいた《グラヴィゴン》の親類に あたる怪獣が姿を表し、その重力しゃ断の超能力を活用し、さら にまた何か新しい現象も利用して、″キャラベイス人″の親類筋の シオダは手ばやく、その惑星の表面をスイープした。 ″ホワイトホール人″を守ったのだ : : : 」 「どんな風だね ? 」 「怪獣が宇宙人を救ったわけた。美談たな。ところでシオダ、そう ヒノは、データを整理するシオダの手元をのそきこんだ。 「かなりひどい状態だが、奇跡的に大気は残されている。住民も残すると、われわれの艇を背後からおし包んだ重力しゃ断怪獣は、こ 存しているようだ。原始的たが、建造物も見えている の惑星《ホワイトホール》から出たものではないな。ということ シオダのこの話に、ヒノは首をひねった。 は、かっての空洞惑星《キャラベイス》の地底にいた重力しゃ断怪 「母星を離れて恒星間空間のただ中をさまよい、さらに、ホワイト獣《グラヴィゴン》そのものだということになる : : : 」 シオダはかぶりをふった。 ホールとブラックホールのはさみうちにあって、なお、生命を存続 させているのか ? 」 「いや、同じ重力しゃ断怪獣でも、《キャラベイス》のものと今度 「ふつうだったら、大気は凍りつくか、ふっとぶかしてしまう。だのものとでは、スケールが違う。いまわれわれを包んでいる怪獣は が、この空間は特別だ。どうやらこの惑星は漂流しはしめる時か桁外れに図体がでかい。なにしろ恒星間空間に充満しているんだ。 ら、《グラヴィゴン》型の怪獣のエクトプラズム状重力しゃ断物質だから、空間を移動しながら惑星《ホワイトホール》を守ること によって保護されていたらしい。しかも、住民は無数にある穴の奥は、十分に可能たろう。そして、《キャラベイス》の怪獣では小さ 深くかくれて生き延びたのたろう」 すぎて、とてもこんな芸当はできない。だから、ここにいる怪獣は 「なるほど、そういうこともあるかもしれんな」 《ホワイトホール》に棲んでいたものに違いない。今後、正確を期 「どういう宇宙人が住んでいるのか、むろん直接的には観察できなするために、惑星《キャラベイス》に棲んでいたやつを《グラヴィ いが、地表の住居跡などからみるに、惑星《キャラベイス》に住んゴン》とし、今回のでつかいやつを《グラヴィゴン》と呼ぶこ とにしよう : でいた″キャラベイス人〃と似ている種族ではないかな。親類かも しれない」 「ふうん、そういうことかなあ : : : 」ヒノはシオダの理路整然とし 「怪獣については ? 」 た話に、ちょっと残念そうな顔をして、ため息をついた。「まあ、 「それが問題なんだがーー - ー」シオダは小首をかしげた。「 このそれにしても、とにかく懐かしいよ : : : 」

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は前からではない。さっき・フラックホールに吸い込まれたのが最初 だ。これまで観察した物質の動きから判断して、ホワイトホールは たろう。移動の加速度や彼らのあわてぶりから、そのように判断さ 単なる湧出口ではなく、・フラックホールは単なる吸入口ではない。 両者は明らかに連結されている。むろん、″あの世〃を介してつなれるんた」 「ま、いすれにせよ、一度この循環系とやらの無限地獄にはまりこ がっているということだ」 んだら、永遠にぬけられないんたろう ? おれたちゃいっこい、ど 「″あの世″を介して ! 」 「そうだ。つまり、・フラックホールから吸入された物質は、″あのうしたらいいんだ ? 」 ヒノの声は苛立っていた。シオダの話し方が落ち着いていたから 世″の四次元空間を通ってホワイトホールに達し、そこから″この 世″に湧出する。たとえちやわるいが法華経の仏様みたいなもんでもあるが、気の毒な宇宙人を救うことができないでいるーーとの だ。ホワイトホールから湧出した物質は、出るとすぐにブラックホ自責の念が強かった。惑星調査員は純情なのである。 シオダはしばらくスクリ 1 ンをにらんで考えていたが、やがてヒ ールの引力にひかれて恒星間空間を移動し、再びプラックホールに ノをふり向いて、 ・ : と無限に移動がく 吸い込まれる。そしてまたホワイトホールに : 「今のところはしかたがない。惑星《ホワイトホール》はしばらく りかえされているんだ」 「すると、惑星《ホワイトホール》も恒星を離れてから、この無限あのままにしておいて、ホワイトホールそれ自身、およびこのふし ぎな星間物質についての調査を続行しよう : : : 」 地獄につかまっていたのか ! 」 ヒノはロをとがらせた。 「惑星《ホワイトホール》がホワイトホールから出てきてこちらへ 「それじゃ、惑星《ホワイトホール》を見殺しにしようってのか ? 向かってくるのには、他の重点を移していたので、ちょっと気がっ およばすながらも、何らかの手をうってみることはできないのか かなかった。しかしその動きをみてみると、明らかにホワイトホー ルから出てきたものだ。″ホワイトホール人″の話は本当だよ。た 「・ほくにはひとつの考えがある」 だし、プラックホール日ホワイトホール間の循環系におちいったの 0 0

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シオダは指をポードの上に這わせながら、ゆっくりと話した。 の流れる向きを脱出の方向に変えるにはよほどの力を別に加えてや 「四次元の実相を描写するのは困難なので、三次元に直し、それをる必要がある。しかし″ヒノシオ号″にはそんな力はない。とすれ 二次元のポードに描いているわけなんだが、このふたつの円が、プ ば元の木阿弥、やはり惑星《ホワイトホール》は循環をくりかえす ラックホールとホワイトホ 1 ルの位置を表している。直径は双方とってことになってしまうが : も三十キロメートルで、かなり大きなものだ。平面はこの世の宇宙ヒノのこの疑問に、シオダは小首をかしげたまま、辛抱づよく説 を示し、左右の穴をつなぐロクロ首みたいなものは″あの世″を明した。 意味している。むろん " この世の経路と " あの世。の経路とでは「速度や加速度というものは、カと同しで・〈クト ~ 量た。しかも速 時間経過がまったく違っているそしてこの・ふたつの経路を度は積分される性質をもっている。速度はカの不定積分なのだ。し 結ぶものが物質流なわけだが、その代表は怪獣《グラヴィゴン》 たがって、この図のようなことをやればいい」 だ。その《グラヴィゴン》が身体全体を星間物質流として経路 ・を循環しているってわけだね。もっともこの怪獣のエクトプラ ズム状の本体は、粘性のない無色透明な完全流体だから、重力しゃ 断的な影響は与えても、抗力や推力となることはほとんどない。む シオダはアールの掲げる。フロッターに、二番目の図を描いた。む しろそれに付随して生じる物質流が恒星間物質として、″ヒノシオろんこれも半自動画でしかもマンガ体だから非常に理解しやすい 号″や惑星《ホワイトホール》に圧力や抵抗を与えているのだろ「分かったよ ! 」 ヒ / はその図を見たとたん、嬉しそうに叫んだ。 う。そしてその恒星間物質の流れの推進力は相当なものだ。これに 逆らおうとすると″ヒノシオ号″のような強力なエンジンをもって 「そうた」シオダは満足そうにうなすいた。 ″ヒノシオ号″のエンジンによって惑星 いても、途中で止められてしまうほど強力た」 「この図の矢印のように、 「なるほど、分かってきたそ ! 」 《ホワイトホール》を少しずつ従来の軌道からすらしていくんだ。 ヒノが嬉しそうな顔つきになって手を打った。 一点で力を加えたのでは、速度べクトルの変化は微弱で軌道に摂動 「つまり、ホワイトホールからブラックホールに向かう恒星間物質を与える程度だが、ホワイトホールのごく近くから連続して与えっ 流の推力を利用して、惑星《ホワイトホール》を無限地獄から脱出づければ、太線で描いた曲線のように、惑星《ホワイトホール》の フラックホールの近くに着い させようってわけだな。しかし : : : 」 位置と速度・ヘクトルは次第に変化し、・ ヒ / は首をひねった。 た頃には完全に向きが変わってしまっているだろう。つまり無限地 「 : : : 両ホ 1 ルの中央では推力は弱いし、・フラックホールの近くで獣から脱出できるってわけだ。脱出に必要な横向きの矢印のペクト は推力の向きがホールに向いているから吸い込まれてしまう。惑星ルの加え方がむずかしいが、これは今までの決死のデータ収集によ

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った怪獣が、この″ヒノシオ号んをとり巻いたらしい。重力検出装 置の作動状態から推理して、そうとしか考えられないんだ」 シオダが落ち着いて質問した。 「ふうむ、こりや、凄いことになった。ひょっとすると《グラヴィ 『この計器がこうなったので、こうなんです ! 』 アールがどもりながら錆びた声で説明した。どうやら、重力場にゴン》そのものかもしれんそ」 異常が生じたらしかった。それで、アールの手持ちの小型計器類が「それは分からないが、とにかく能力はまったく同じた」 「すると、この艇の推進システムに影響するかね ? 」 正常な動作をしなくなったのだ。 ヒノはコンソールを太い腕でたたいた。シオダはかぶりをふつ 「少し調べてみる。待ってくれ , シオダは。ハネルに向かうと、メイン・コンビュータと格闘をはじ めた。スクリーンに映る外界は特別な変調は見せていない。相変わ「いや、『白黒穴帆型』にはほとんど影響はないだろう。むしろ逆 に、この艇が翔ぶことによって、怪獣に害を与えるんじゃないかと らずギラギラとした白銀の星の群れと星虹である。しばらくして、 心配た。何しろ、前方の物質を圧壊してマイクロ・・フラックホール シオダがにつこりした。 にしながら前進する能力をもったエンジンだからね」 「分かったのか卩」 「なるほど、宇宙博愛法に抵触するってことだ」 ヒノが首をつき出した。シオダはうなすいた。そして説明した。 「この付近は、課長との話にも出たとおり、第二二二扇形恒星区と「しかし、このままじっとしているわけにもいかない。ぐすぐずし いって、昔われわれが探検したことのある空洞惑星《キャラベイていると惑星《ホワイトホール》を見失ってしまう。とにかく前進 ~ いたのと同じ宇をつづけよう」 ス》のある恒星区だ。だから、《キャラベイス》こ 「了解だ ! 」 宙怪獣が棲息していてもふしぎではない : 『了解 ! 』 「いたんだな、例の奴がに」 こうして、アクシデントにもめげす、″ヒノシオ号″は惑星《ホ ヒノがじれた声で喚いた。シオダは落ち着いて、うなずいた。 「空洞惑星《キャラベイス》の地下に棲んでいた重力しゃ断怪獣ワイトホール》の追跡を再開した。 《グラヴィゴン》は重力をしゃ断する = クト。フラズマ状の奇妙な見「《グラヴィゴン》を喰いつぶしながら前進するってんたから、ど えない怪獣たった。相手と同じ密度の透明完全流体物質で空間を満うも気がひけるなあ。それにしても、このネパネ・ ( ちゃんにまとい たすことによって、実質的な重力しゃ断をするふしぎな超能力をもっかれるのは気味が悪いよ。行けども行けどもエクト。フラズムは薄 っていた。われわれはかなり苦戦したし、その重力しゃ断のメカニまってくれそうにないしな : : : おや、生体類似星間物質とかいうや つも、一層濃くなってきたんじゃないか ? 」 ズムが科学的・合理的なことに驚きもした。最後は宇宙に逃げてい ったわけだが、あの《グラヴィゴン》とまったく同一の超能力を持ヒノは喋りつづけながら操縦した。 ー 55

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ばその結果は未来永劫に異なります。つまり、ホワイトホールは宇誰もほめなかったが、ヒノはひとりでいい気になり、ロ笛をふ 宙の誕生の時から吐き出しつづけているが故に、今も吐き出しておき、艇のス。ヒードをさらに上げようとした。 その時、スクリーンの中央に、突然まっ赤な映像が出現し、警報 り、これから後も吐き出しつづけるってわけです』 「分かってるさ、そんなこと」ヒノはほがらかにうなすいた。「分がパネルをふるわせた。 かっているけど、それだけじややつばり分からないってところが、 「いよいよ出たな ! 」 ブラックホールやホワイトホールのおもしろい点なんたなあ : : : 」 ヒノは眼をむいた。 「たしかにそのとおりーー」と、今度はシオダが、対照的なむすか 「ーー天体物理学の教科書で読めば一応理解「プレーキ ! 」 しい顔つきで言った。 シオダが緊張した声を出した。 はできるんたが、実感としては、ちっとも理解できないのが、四次 元の世界なんだ。だから、本当の認識は、その場所へ行ってみなけ「 ! 」 をスヒノ れば得られないと思うんた」 スクリーンの中央の赤い映像は、予測外の物体が出現したときの いこと言うなあ、シオダ」 実行派のヒノは嬉しそうな声を出し、『白黒穴帆型』の反応炉の「、ークである。シオダはそのマークに付随している各種の情報を吟 味した。指上計算機をあやつり、メイン・コンビータを作動させ 出力を限界近くにまで上昇させた。そして、 た。結論はすぐに出た。 「おれはさっきから、アールの唄に刺激されて考えていたんたが、 シオダは低い声でヒノとアールに知らせた。 ついに、ヒワイさのまったくない替え唄を作ったそ。ほら、島倉千 代子のデビ = ー曲に『この世の花』 0 ていう不朽の名曲があるたろ「問題の惑星が出現したんだ。《ホワイトホール》だよ = : : 」 っ ヒノが、叫ぶように、ききかえした。 う ? ″赤く咲く花、青い花、この世に咲く花数々あれど : 「どうしてこんな所に惑星《ホワイトホール》が、漂流しているん てやつだ。あのメロディーでやる替え唄た。まあ聞いてくれ。 だにわがコンサルタント社の貴重な財産が母星を離れて遊んでい 『この世の穴』 ちゃ困るじゃないか ! 」 气黒くあく穴白い穴 シオダは苦笑して、 この世にあく穴数々あれど これは事実なんた。だが、 「困るーーといわれてもしかたがない。 泪に濡れて新星のままに 理由は明らかだ。ブラックホールとホワイトホールの特異な重力場 散るはの主系列の穴 どうだね。じつにもう、教養にあふれてるだろう ? 天文学の知の影響で母星から離脱し、こうして恒星間空間を移動しているん 5 識がよほど豊富でなきや、こんな唄は作れないそ : : : 」

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りうるだろうか : ・ : ? しかも、惑星たたひとつが母なる恒星を離 れてーーである。 もしもそのような現象が生起したとしたら、それは、まことにも って奇々怪々なる事件と言わなければならない。 ところが : : : それが現実のものとなってわれわれの眼の前に出現 『ス。ヘース無宿』 したのである。 しかも、科学と論理と利潤追求の権化ともいえる『惑星開発コン 一、地球生まれが星から星へ いっかャサグレ無宿者 サルタント社』の所有宙域で起こったのだから、これはもう、驚天 さけたボマット淋しくなでて 動地の大事件と言わなければならない。 銀河見上けりや薄涙 「やれやれ、たいへんなことだ」 常備品のカラオケをガンガン鳴らしながら、ひどい声で『マタタ さだめ 二、おれの運命と流れる星は ・ヒ演歌』を唸っていた惑星調査員のヒノが、唄を中断すると、ぼや 何処で散るやら消えるやら くような、しかし、なにがしか喜びの色もうかがえるような呟きを もらしこ。 今日も異星の仮寝の宿で 結ぶはかない地球の夢 銀河の深淵を目指して翔びつづける、宇宙調査艇ーー改良型″ヒ ノシオ号みの中である。 みなと 三、旅の疲れを宇宙港の町で 「わがコンサルタント社の持ち星が急に流れはじめたのだから、た 癒す酒場のコツ。フ酒 しかにたいへんなことだ」 同僚のシオダが、指上計算機をいしりながら、あいづちをうつ どこか似ている地球の味が ジンと胸まで滲みて来る 『ガオーツ』 星の流れに身を占ってー・ーと唄の文句にあるように、流浪の星片そのうしろで、ロポット″アール″が錆色のいびきをとどろかせ ーナード星の固有た。 が地球の夜空に舞い落ちることはある。また、バ ヒノとシオダとアールの三人がたむろするこの″ヒノシオ号″の 連動は、たしかに、大移動星ーーーと呼ばれるにふさわしい きらめ しかし、地球型の惑星が、銀河のただ中を、まるで奔流に身を任。ハイロット席の前部には、外界の燦く銀河空間を映したすスクリー ンが拡がっており、そのスクリーンの中央部には、目的地である はたして起こ せた木の葉のように流れるーーーというようなことが、 に 6