連邦軍 - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1978年3月号
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1. SFマガジン 1978年3月号

あれが盗まれたものだろうか ? 訴がどう処理され、かっ、軍に対しどうすべきかを決定するかとな 連邦軍が、最新型ではないとはいえ、武器装備のたぐいをたやすれば : いや、そうなる迄に、名乗り出た人間が無事で生きていら く盗まれるような、そんなすさんな管理をするものであろうか ? れるかどうか、怪しいのではないか ? あれは : : : 貸与されたものではないのか ? 連邦軍のどこかの部事実は、そうなのかも知れない。すくなくともマセには、そうと 門、何らかの機関が、反乱をもくろむ連中に与えたのたとすれば : しか考えられなかったのだ。 : このほうが、はるかにつじつまが合うのである。 だが、かりにこれが事実たとして : : : 連邦軍は、何のために、こ んな手のこんだ真似をしたのであろう。 そうではないか マセが目をあげたとき、がまた伝えた。 連邦軍がこれ迄すっと暴動をうしろからあやつり、武器類を与え ( ことによると、対神経麻痺線被覆衣たけでなく、他の弾薬銃器類「報告します。さきほどの回答の補足として、連邦軍からあたらし だってそうかも知れない ) さらには作戦指導をも行って、人々をあい連絡が入りました。連邦軍は現在、軍倉庫から武器類を盗み出し おり、司政庁を陥落させるところへこぎつけたとすれば : : : 納得出た植民者たちとその同調者を、ツラツリット市内および辺境各地に おいて掃討、処刑しつつあります。これは軍の権限と責任において 来るのではないか ? それは・ : : ・公務室〈や「て来た反乱者たちのリーダーの言動から行われるものであり、今後、連邦軍の武器類を使用する反乱はおこ らないであろうとの見解もつけ加えられております」 もあきらかだとはいえないだろうか ? 軍は、反乱者のリーダー格 の連中と接触を保ち、かれらを後押しして大規模な反乱に立ちあが マセは、低い声を出した。 らせ : : : それから、かれらを殺しにかかったのである。消してしま ッラツリット市のみならず : : : 辺境各地だと ? ったのである。それ迄の経緯を知っている人間を、あっさりと消し て、証拠をなくしてしまったのだ。かりに連邦軍の手をのがれた反それは、ラクザーンにおける反乱が叩き潰されたということであ 乱のリーダー格の連中がいたとしても、これから追われて殺されるる。 であろうし、殺されなかったとしても、かれらは訴えに出る場を持換言すれば、司政機構の手にあまった暴動・反乱を、連邦軍が出 たないのだ。軍はむろんそんなことを否定するであろうし、司政庁動して強引に鎮圧したということでもあった。 に名乗り出るのは、みずから反乱の罪を自首するようなものだ。そ これ迄にも、たびたび暴動鎮圧に協力しようといって来ていた連 の自首を司政庁が受人れ、真相究明を司政官がやろうとしても : 邦軍が、ついにそれを実行に移したということなのだ。それも、ち ほとんど絶望的なのであった。司政官がその気になっても、その告やんと出動の名目をこしらえて動きだしたのだから、司政官として 発は直接軍に向けられるのではなく、連邦経営機構への提訴という は正面から非難は出来ないのである。 かたちになる。連邦経営機構の入り組んだシステムの中で、その提しかし : : : な・せだ ? 228

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らないからなのである。 と、反乱者たちのリーダーの言葉によって情勢をつかもうと する彼の思考は、だから、結局は空転に終っただけであった。みし かい、無表情のうちに意識の全速回転をやってのけるいつもの習慣 を以てしても、今回は何も得ることは出来なかった。 そして、彼は、その過程をもう一度繰返す必要もなかった。考え なくても、事態は自動的に進行しつつあったからである。 すでに公務室のスクリーンは、降下して来る連邦軍の船団をとら えていた。船団はしばらく宙にとどまり、その間に、船団の下方に いた群衆が走って場所を空けているようである。 船の群は、間もなく下降を再開した。もうすぐ着地するところ だ。連邦軍の装備についてはひと通りのことしか知らないマセた が、彼の目にも、その二十隻の船がどうやら純粋の交戦用のもので はなく、兵員を搭載し輸送するためのものらしいことが見て取れ 船団が着地した。 周囲の様子から推すと、そこは司政庁玄関に通じる南門の前らし 船団を遠巻きにしている群衆は、しかし、今のところはまだ反応 らしい反応をあらわしてはいない。反乱者たちのリーダーらがいっ たように連邦軍がかれらの味方であるとすれば、歓呼して迎えるの が当然であるにもかかわらず、そうなのであった。群衆はまた、連だ。 邦軍が何のためにやって来たのか、判断に苦しんでいるという風な のだ。 その群衆の中から何人かが動きだすのがマセの目に映った。 ・前回までのあらすじ・ 司政官マセ・・ユキオは初の担当惑星ラクザーンに赴 いた。ラクザーンの太陽が近い将来新星化するため、ラクザーンに おける連邦直轄事業体の利益を守りつつ、住民を速やかに退避させ るのがその使命であった。かっての司政官の栄光に憧れる彼は、敢 然とこの使命に立ち向う。そして、緊急指揮権を確立し、惑星の全 権力を手中にするや、次々に退避作業を押し進め、遂に退避先の惑 星ノジランへ順調に退避者を送り込むまでにこぎつけた。一方、移 住をかたくなに拒み続ける先住者に関しては、彼らの間に伝わる古 文書によって、ラクザーンを離れた彼らが恐るべき変貌を遂げるこ とが判明した。それを裏づけるように惑星の裏半球の海底からは、 宇宙へ進出しながらも亡び去った高度な古代文明の遺跡が発見され た。また、退避者への課税に端を発する植民者の暴動は、その後も 頻発し、調査の結果、背後に連邦軍の存在が浮かび上ってくるのだ った。そうした不穏な状況のさなか、辺境で植民者による先住者居 住区襲撃の報がもたらされる。鎮圧のため、司政庁の残余の治安部 隊をすべて投入したその夜、司政庁は植民者の銃火器による大規模 な攻撃をうけた。治安部隊一一大隊を呼び戻して防戦につとめたもの の、反乱者側が司政協力官を人質にしてしまったため、マセはやむ なく戦闘を停止し、彼らのリーダーと会うことにした。その時、 ーダーたちから驚く・ヘき事実が明かされた。連邦軍がずっと彼らの 味方だったというのである。しかも、戦いの間中、無気味に沈黙し たまま司政庁上空に滞空していた連邦軍の船団は、今まさに降下し つつあった : ・ その連中は、手を振りまわし、しきりに人々に何かいっているの やがて : : : 群衆も両手をあげて叫びはじめた。わあわあという騒 ぎが、公務室のスビーカーからも流れて来た。 それは、歓呼には違いなかった。歓呼ではあるが : : : 群衆の中に いたリーダー格、でなくても事情に通じた連中が、連邦軍はわれわ 220

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力 / あるか分らぬままに司政庁に入って来ているのだ。もちろん連邦軍 が司政庁の開門を要請したとぎには、相応の理由が伝えられたたろ だから、今のこの気持ちは : : : おのれの本能的な意志によって、 感情をおもてに浮ばせないような力が加えられているのか : : : でな うし、その限りでは開門をことわる口実もなかったものの、実は何 ければ、ことのなりゆきに一時的に感情が麻痺しているかの、どちを意図しているかについては、は確定的判断が出来なかった いいかえれば司政官の生命は危険にさらされている確 らかでなければならない。そのどちらにしても、長続きする性質のはずである。 ものではないのである。これは、しばらくだけの仮面なのかも分ら率が高い現在 : : : しかもその司政官を守り抜くためには司政官命令 ないのである。 に反して全ロポットを再び戦闘させねばならず、それをしたところ それでいいのではないか、と、彼は次の瞬間に思った。これも計で連邦軍相手では勝ち目がなく、その結果、司政官を失うのみか、 算に入れて利用出来るとすれば : : : 利用したらいいのた。何ひとっ主なロポット官僚をも失い、司政機構に壊減的な打撃を受けるかも 動揺していないという仮面を保持する支えにしたら、それでいいの知れぬとなれば : : : そしてそのことが、現下の至上命題であるラク ザーンからの住民退避作業をます間違いなく頓座させるであろうと なれば : ・ : としては、司政官自身の、司政官だけが持っ権限 靴音が、近づいて来た。 による決定を仰ぐほかなかったのだ。 スビーカーからではない。ナマの音だ。ナマの、連邦軍の兵士た ちがここへやって来る音なのであった。ロポット官僚にかれらを案けれども、以上に、司政官であるマセにも、もはや打つ手 内させなくても、すでにドアのところにいた反乱者のリーダーたちはないのだった。これからどうなるのかを待つほかはないのであっ の何人かが、軍を迎えに走り去っていたし、そんな連中がいなくった。彼がしなければならないのは、おのれが覚悟を決め、その覚悟 たって、軍が司政庁内の見取り図を独自に作りあげているかも知れのもとに、進行中の退避計画や、退避計画遂行のために求められる ず、そうなればあとは司政官は公務室にいるというだけで、まっすあらゆる事柄への打撃を、最小限に食いとめることだけであった。 「何もない」 ぐここへ到達出来るに違いないのだ。 マセは応じ、は沈黙した。 「何か、ご指示がありますか ? 」 だしぬけに、がたずねて来た。 とどろく足音は、もうそこ迄来ていた。一秒 : : : 二秒 : : : 三秒と にすれば、それは精一杯の問いかけであったろう。司政官たたないうちに、ついに連邦軍兵士のその最前列の三名が : : : 次の 三名が : : ドアに到着した。それを合図のようにして、ダダッと全 の身のまわりには護衛のためのロポットたちをつけているとはい え、公務室には反乱者のリーダーらがつめかけ、司政庁には反乱者隊列の停止するひびきが伝わって来た。 3 たちが満ちていて、しかも庁内の全ロポットの戦闘行為は停止する反乱者のリーダーたちは、その前に兵士たちのために道をあけて盟 よう命じられている。そんな状況下で、今度は連邦軍が何の目的でいた。あけて : : : 思い思いにどなっていた。

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なる殺人であり、殺人者たちがいかに処刑と称しても、正しい意味 の処刑にはならないのである。 ( 承前 ) だから、マセとしては、自分がたとえ軍の手で殺されるとして その言葉が、おのれの外見に何の影響も及・ほさなかったことを、も、それは″処刑″などではあり得ないとの確信があった。また、 マセは願った。そうでなければならないのだ。その言に驚きを見せ連邦軍が、あとでさまざまな悶着を引きおこすであろう司政官殺害 というような行為に踏み切るとも思えないのだ。 るというーーー相手が期待したようなそんな反応を司政官が示したり もっとも : : ラクザーンに駐屯している連邦軍が、暴走しみずか すれば、それだけで立場は一挙に不利になるのである。 ら非合法的存在になるのを覚悟の上で動ぎ出していたのなら、話は が : : : 彼の内面では、その発言をあたらしいデータとして加え、 とうしようもないのだ。 別である。そのときは、。 反乱者たちと連邦軍の関係がどうなっているのか把握しようという 要は、連邦軍がどういう意図のもとに、どういうかたちで反乱者 意識が、高速で回転をはじめていた。 たちとつながっていたのか、また、つながりつつあるのかを、見極 その若い女がいうような、司政官が連邦軍の手で処刑されるとい 0 た事態は、彼には到底考えられなか「た。連邦の機構や法体系かめなければならないのであ「た。 目前の若い女は、軍はすっとわたしたちの味方たったといった。 ら見れば、それはあり得ないことなのである。そんなことを想定出 来るのは、直接連邦経営機構とはかかわりを持たぬ、いわば植民世そして、たしかにマセは、そうかも分らない材料をいくつか持っ 界に密着した感覚である。よほどの異常な状況下でなければ、それている。たびたびのこれまでの暴動は軍があやつっているらしいと はおこり得ないことなのであった。異常な状況とは、例えば司政官のの推測 : : : それに、今度の反乱で対神経麻痺線被覆衣が使 がロポット官僚をひきいて連邦に反逆し、連邦軍によって討伐され用された事実 : : : さらには今回の反乱者たちの、次々と司政庁の計 るといった事態であるが : : : そんな司政官はたちまち連邦経営機構算の裏をかいた、専門家が背後にいるとしか思えない巧妙な作戦 : ・ から解任・免職を通告されるだろうし、司政官でなくなった人間の しかも、その連邦軍は、司政庁からの行動説明の要求に対し、依 命令に、ロポット官僚たちが従うことなど、あるべくもないのであ った。そしてその当人が連邦軍に攻め立てられて死にもせず捕えら然として何の回答もして来ていないのである。 れたとき、何らかの処置を行うのは軍ではない。連邦経営機構のし軍が反乱者たちとかかわり合っている可能性はきわめて大きいの かるべき手続きを経て、裁判にゆだねられるのが規則である。軍に よる処刑などはないというのがふつうの考えかたであった。逆に、 それにもかかわらず、マセにはやはり信じ切ることは出来なかっ 連邦軍の一部がク 1 デターなどの目的で植民世界を制圧し、その世た。それも、そんなことがあるはずはないといった信仰によってで 界の司政官を血まつりにあけるというケースにあっては、それは単はなく、客観的に考えて、連邦軍がそんな真似をする理由が見つか 0 2 円

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場面が変って、司政庁内の光景となっても、そのことは同しであってから回答して来た軍の態度に、巨大機構につきものの事大主義 った。兵士たちは、手あたりしたいに武器を使用するのではなく、 と事務処理の遅さといったものを連想したのである。 逃げる人々を放置していることも、すくなくなかったのだ。あきら どうせ、回答といっても、おざなりなものであろう。 かに、目標をあらかじめ定めていたらしいのである。 それよりも、今しがたおこった連邦軍の奇怪な行動を、あらため 「報告します」 て説明して貰わなければならない。 がいいだした。「連邦軍は、司政庁内及び司政庁外壁の周それが重要なのだ。 、刀 囲にいた反乱者たちを駆逐しつつあります。現在迄に得たデータを 総合して、私は、連邦軍が殺害の対象としている反乱者の型をほぼ 「回答は、連邦軍星域群統合参謀本部からありました。連絡責任者 突きとめました。連邦軍が殺害の目標としているのは、対神経麻痺名は、ヤン・・タイツ日となっております」 線被覆衣を着用した人間と、連邦軍に抵抗しようとした人間が大部は告げたのだ。「それによれば、連邦軍は、軍倉庫から武 分の模様です。このふたつの条件に該当しない反乱者で殺害された器類を盗み出し反乱をもくろんだラクザーンの植民者たちを処断す 者もありますが、きわめて少数のようです」 るための作戦を開始、遂行しつつあるとのことです。これは、軍自 体の権威にかかわる問題であり、また、軍自体が有する権限の行使 でもあるので、司政官にも了解いただきたいとのことです」 マセは、すぐには答えなかった。 対神経麻痺線被覆衣着用者と、軍に抵抗を試みた者 : マセは、視線を宙に向けた。 それが何を示唆しているか、まだはっきりと彼がっかみ切れない でいるうちに、は次の、外部からの情報を伝えて来た。 軍倉庫から武器類が盗み出された : 「報告します」 その武器を使って反乱をおこした植民者を処断する ? と、よ、つこ。 をしオ「ただいま、連邦軍から回答がありまし武器というのは : : : 彼は、これ迄の状況がみるみる明確になって た」 来るのを自覚した。武器とは : : : そう、あの対神経麻痺線被覆衣で 「回答 ? 」 はないのだろうか ? たから、対神経麻痺線被覆衣を着用している 「連邦軍が出動しつつある理由と、司政庁上空に船団が静止してい 人間を殺し、その作戦をさまたげようとする者をも殺したのではな る理由の、二度の私の説明要求に対する回答です」 かったのか ? 「ーーそうだったな」 しかも。 7 マセは苦笑するところであった。彼はその問合せをしたことを、 その対神経麻痺線被覆衣が実際に盗まれたのかと考えれば : : : マ盟 失念しかけていたのだ。そしてまた、事態がこんな奇妙な具合になセには到底承服は出来なかった。 ・、 0

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れの味方だとふれてまわり、歓迎しようと呼びかけたのに違いなした流れるような動きかたに対して、連邦軍兵士のそれは、ひとっ そこではじめて群衆も声をあげ、手をさしあげたということな ごとに段落をつけているという気がするのだった。これは、ひとっ のであろう。マセはそう判断した。 の命令に従い次の命令を待っという人間の集団ゆえの形態なのかも その頃にはもう、連邦軍の船の扉がいっせいに開き、続々と兵員分らなかったが : ・ : ・彼にはその連邦軍が、必要以上にひとつの動作 が降り立って、隊形を組みあげにかかっていた。全員が同じように から次の動作への間合いをとっているように感じられるのた。それ 頭から足の先までを包み、胴のところたけを絞った制服だった。胴も、もっと迅速に矢つぎ早に行動出来るのを抑えて、わざとそうし の太いベルトにはいくつも武器らしいものがついているが : : : スクているような気配があるのだった。 リーンの遠景で眺めているマセには、それ以上の詳細は分らなかっ そして : : : マセは、そうしたことさらに間合いを置いた動きが、 一種儀式的な重さとなって、周囲の群衆をいっか圧迫しているのを 二十隻の船から吐き出された兵たちは、みるみる隊列を作りあげ認めないわけには行かなかった。 て行く。 整列を終った連邦軍は、一分あまりその状態を保ったのち、命令 ロポットそっくりの動きた、と、マセは思った。軍隊というもの一下、二タ手に分れた。そのひとつは依然列を組んで佇立し、もう ひとつが、南門へと前進を開始した。歩調をそろえ、しかし、ゆっ が画一化によって成立している以上、これは当然である。それに、 くりと近づいて来るのであった。 事実かどうかは知らないが、彼は、連邦軍の中にはロポット兵士も 近づいて来るその一隊に、ちょうど朝陽が射しかかった。 まじっているという話を耳にしたことがあるし、ときには全員ロポ ほとんど同時に、その兵士たちの制服は、今迄の地味な、周囲と ットの部隊だってあるとの噂も聞いていたのた。となれば、その動 きが、ロポット官僚たちと似通って来るのも当り前というものであ識別しがたい色調と濃度から、あかるく眩しいものへと変化してい ろう。 た。日光の中にあって、そこで目立たぬものへと変色したのであ る。制服は、自動迷彩の機能を備えているのであった。 必すしもそうではない、と、マセは感じはじめていた。どこが違南門の前で、その一隊は停止した。合わせる靴のかかとの音が、 うのかははっきりといえないが : : : スクリーン上の連邦軍兵士たちみじかく鳴っこ。 には、彼の部下のロポット官僚たちとどこかことなるところがあ「報告します」 ややあって、の声がスビーカーから流れた。「連邦軍の船 る。もちろん格好はまるで違っているが、その他にも : : : 動きかた に微妙な差があるようであった。強いていえば、それはひとりの動団指揮官から、門を開いて欲しいとの要請がありました。いかがな 作としても、全体の動きとしても、一区切りごとにかたちをつけてさいますか ? 」 いるという印象なのだ。ロポットたちの、あらかじめ全行動を予定「開くんた、司政官 ! 」 2 2 ー

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マセは、すぐには答えなかった。 も発生してはいないのである。 ット・ 1 ・ライデンは、ラクザーンからの退避先で カデ それは、うかつなことをやれば、今後は即座に連邦軍が出動する であろうと、そうラクザーンの植民者たちが信しはじめたのを意味あるノジランの司政官だ。しかもマセにとっては、カデットはノジ ランの司政官というだけでなく、彼よりもはるかに上席に位置す していた。 る、かっての司政官制度の栄光をいまだにまとう人物であった。 だから、治安は保たれている。 そのカデットが ? 表面的にはそうなのだ。 とはいえ : : : 人々の心の中にある司政官像というものが、あれ以彼には、カデットが、ふたつの植民世界の司政官どうしの、単な その兆候が、・ほちぼち出はじめているのる友好や親善のためにわざわざラクザーンに来るとは思えなかっ 来大きく変ったらしい た。今のところそんな必要はないし、しかも、もしそうなるとして だった。司政官とか司政機構、ロポット官僚とはいっても、所詮は 連邦軍の力をあてにしているたけではないか、という、どこか軽侮も、行かなければならないのはマセのほうなのである。それが、先 した気分と : : : それに、司政官もいざとなると何をするか分らな方からやって来るというのは何事だろう。 おまけに、連邦経営機構からの最優先連絡事項として、それが伝 、殺人も平気なのだといった噂が流れはしめているのも、間違い : ただごとではない。 えられたというのは : のないことなのだ。 ト・ ) 、 1 ・ライデンが、巡 「なお、連邦経営機構は、カデッ そんな風潮にもかかわらず、マセやロポット官僚たちは、これ迄 と同しように作業を続行していた。人々が腹の底でどう考えよう察官のトド・・カーツと同行して、ラクザーンの司政官と 面会するように指令した由です」 と、それに干渉は出来ないし、しようもないのである。 しかし、それにしても、こんな感じでこれから最後迄仕事を続け「 : なければならないとしたら : 巡察官と同行とは、ますます異様な指令である。 マセは、重い心情に耐えながら、またデスクに目を落そうとし「用件は ? 」 彼はたずねた。 「報告します」 「連邦経営機構は、司政官にそれを告げても差支えないと認めまし であった。「連邦経営機構からの最優先連絡です」 た」 「カデット・ 1 ・ライデンの来着は、 はいった。 ラクザーン巡察官トド・ << 4 ・カーツの告発による、ラクザー ット・ 1 ・ライデン 「明後日正午に、ラクザーンに、カデ ン司政官マセ・ 4 ・ユキオの職務凍結を行うためのものだ が来着します」 ( この章続く / 以下次号 ) ということです」

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なぜ、こんな複雑な、持ってまわったことをして迄、連邦軍は実 ~ を見せなければならなかったのだ ? 実力を誇示したかったのか ? それだけで : : : あんなことをしたというのか ? 分らなかった。 分らないが : : : マセは不意に、ゆうべからけさにかけてのことの へりゆきを、想起していた。 庫 連邦軍が背後にいたとはいえ ( そんなことを、ラクザーン上の、 文 へ乱に加わらなかった人々が信じるだろうか ? ) 疑いもなく司政庁 一度は反乱者たちの手に落ち、連邦軍の手によって、からくも ~ 地を脱したのである。司政官の権威はあきらかに失墜した。司政一ア ハ構はその弱さを、ラクザーンの人々の前にさらけ出したのだ。 ス これで : : : これで、退避作業を従前通り続行出来るのだろうか ? マセは、自分でも気づかぬうちに、おのれの手の甲を唇に当て、 んでいた。 この失点を、はたして回復出来るであろうか ? ワ いまや、ラクザーンでは、司政機構に対する連邦軍の優位性が、 カ / ローズアツ。フされようとしているのである。 そして : : : 彼はどきりとした。 ャ だしぬけに、ひとつの名前が浮びあがって来たのである。 エリオルツ・・ナクダザイン。 退役の連邦軍で : : : 連邦経営機構の中枢に地位を持ち : : : こ ) ラクザーンに何らかの秘密任務を帯びて来たというエリオルツ・ 人 << ・ナクダザイン。 エリオルツをあのとき迎えに来たのは、連邦軍星域統合参謀本部 りャン・・タイツ " と、シュレイン・・カルガイ 第 6 回愛読者カード当選者発表 77 年 12 月 31 日までにミステリ文庫編集部にお寄せいただいた愛読者 カードの中から , 78 年 1 月 5 日に行われた厳正な抽選の結果 , 100 名のかたがたが当選致しました。おめでとうございます。「パーカ ー・パイン登場』「魔術師を探せ ! 』の 2 冊を進呈させていただぎ ます。今後ともご愛読のほど , よろしくお願い致します。 当 河吉藤山藤石荻福小大林岩岡左二中世山島馬吉春北浜足選 合田塚崎井岡村田村沼田野合俣川良本本本場本日村津立者 千庄久 わ 季美 正枝太忠美千妙一節か治一清桜昌政隆悟和代菜み竜町 之子郎宏子寛子雄子る子枝治子紀之雄司子子子ち修夫正子 すいか以以近菊原佐小川福柿朝福中久真雨青奥赤武山 たえて下敬藤永野藤泉本田島倉村尾保下宮木町尾輪ロロ ださ発発称久憂 須 きせ表送略実美律妙良陽栄智磨和静勝慎恵和芳美強 一健子子子貞司 まてにを・子子郎子夫子子恵子我子照 229

9. SFマガジン 1978年3月号

「軍を通せ ! 」 「あなたのそんな一見冷静な態度がいつまで続くか、見ものだな」 反乱者のリーダーたちがどなった。 年配の男も、銃床を撫でながら薄笑いを浮べた。 「よろしい。開けてくれ」 それは、連邦軍と反乱者の関係や、連邦軍兵士の動きや、司政庁 マセは、かれらを無視して答えた。 や司政官としてはどう目前の状況に対処すべきかーーーといった、自 そうするしかないのだ、と、彼は一瞬で結論に達していたのだ。分自身とは離れた事柄に精神を集中していたマセに、ふと、彼自身 がそういう連絡をするというのは、連邦軍からの要請が、適のことを考えさせる作用をした。そういえばここ何分間か、彼はお 法なものであることを示している。第一 、門のれの運命とはかかわりのないことばかりを追っていたのである。 、門など通らなくても おのれのことについて思いをめぐらすにしても、ごく客観的に、他 の横の外壁は、反乱者たちによっていくつも穴があいているのだ。 そこを通って来られれば、それ迄の話なのである。たとえ穴があい人が観察するような気分で考察していたのであった。 ていなくても、連邦軍がその気になれば、司政庁に侵入する位、わ自分自身 : けもないであろう。それを、あたかも外壁がいまだに完全であるか だが、そうなっても彼は、まだ、自己の感情がどうなっているの のように、手順を踏んで開門を要請したというのは : : : 先方が一応 か、とらえられないのであった。これから自分がどうなるかという 司政官に対する儀礼を守っているということである。こちらもそれ恐怖があってもいいはずだし : ・ : ・ここにいる反乱者のリーダーたち なりに応じるほかはないのた。これから何がおこるのか知るべくもへの憎悪があってもいいはすなのに : : : そうであるに違いないとい ないが : : : 彼が司政官らしくあり続けるためには、そうするほか、 うのに・ いっこうに実感とならないのである。あくまでもひとご ないのであった。 とのような、乾いたものしか自覚しないのであった。 反乱者たちによって痛めつけられてはいたが、開門のシステムは それが、司政官に徹するあまり自分が感情的存在であることをや 破壊されていなかった。 めたーーーそんなわけではないのを、彼はよく知っていた。ラクザー スクリーンは、開かれた門から連邦軍兵士たちが足並みをそろえ ンへ来る前なら : : : ラクザーンへ来てからでも : : : 彼はおのれの感 て入って来るのを映し出している。 情統御が可能だと信じた時期はある。しかし、結局のところ、自分 マセは、司政庁内にいた反乱者たちが南門のほうへ駈けだす足音の感情をねじ伏せるなどということは無理なのだ、表面的に押えっ と、かれらが歓声をあげるのを聞いた。 けることは出来ても、心の底まで無感動にはなり得ないのだと、今 「じっとしていろよ、司政官」 の彼は気がついている。しかもそれは奇妙なことに、彼がロポット ドアのあたりにいたリーダーのひとりが銃をあげていった。「お的になろうとすればするほど、内面に残存している感情の起伏がよ まえは、われわれの正当な要求を拒否したために裁かれる。裁かれく自覚されるものだったのだ。おのれの金属的部分を大きくしよう てもなお拒否するなら、あとは軍によって処刑されるだけだ」 とすればしただけ、そうでない部分がきわだつだけの話かも知れな 2 2 2

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青年もわめいた。わめいて、命令を出した制服よりも前に出て来ふたりとも連邦軍の兵士の武器によってそうなったのだ、と、マ 6 ると、銃を持っていないほうの手で、マセをはげしく指した。「わセが悟ったときには、制服の指揮官は、マセには分らぬ符号らしい 2 れわれは、こいつに頭を下げさせなければならないんだ ! それをものを叫び、兵士たちが行動をおこしていた。司政庁内のあちらこ 見届けなければならないんだ ! 」 ちらから、狼狽した声や悲鳴があがり、足音が入り乱れて高くなっ くるりと振り向くと、青年は、制服をののしった。「われわれていた。 は、ぎみのような下っぱではなく、もっと上の、話の分る人間に出 公務室のドアには、もう、指揮官ひとりが残っているだけであっ て来て貰いたい。それを要求ーー」 た。指揮官は靴のかかとをカチリと合わせると、マセにむかって敬 声は、おしまい迄続かなかった。 礼し、身をひるがえして、廊下へと駈けだして行った。 これは : 青年の正面になっていた指揮官らしい制服が、引き金に指をかけ これは、何を意味するのだ ? たまま、銃身を一閃させたのである。 何がおこったのか、とっさにはマセには分らなかった。ただ、青マセは、床にころがったふたつの死体をみつめていた。 い捧がさらに長くなりながら半円を描いて宙を横切るのを認めただ昨夜来のたて続けの事件でさえすでに悪夢を連想させるのに : これは、その悪夢が頂点に達したような気分であった。 けであった。 それからーーー立っていた青年の頭部の上半分が下とずれて、離連邦軍は、どういうつもりなのだ ? そこで彼ははっとわれに返り、スクリーンに目をやった。 れ、床へと落下して行った。それを追うようにして、残りの身体が 倒れて行った。すつばりと切断された上頭部の切り口がマセの位置 スクリーンには、ばらばらになって逃げる群衆が映っていた。そ からも見えたが : : : それは黒いガラスのようにつやつやしていて、 の背後から、例の青く光る棒を持った連邦軍兵土たちが、格別急ぐ でもなく追っているのである。青い棒光の触れるところはことごと まだかすかに湯気をあげていた。 その光景を視覚から意識の中へ繰り入れながら、マセは、別に悲く切断されるのみならず、遠距離の対象には、その光が銃から離れ 鳴を聞いたような気もした。女の悲鳴である。どの位の長さ続いたて飛び、相手の身体を刺しつらぬきながら消えて行くのだった。 それは、正に殺戮であった。恐柿に逃げる人々を、狩りさながら のか、それともほんの瞬間だったのか、あるいは全然そんなものは なかったのか : : : 彼にはしかとは断言出来なかったが、ロを開いたに、うしろから次々としとめているのである。 女の顔が視野にあって、その口から声が出たように思えたのだ。ド アのそばにいたその若い女の首は、驚いた表情で、ちょっとの間胴見ているうちに、彼には、どうやらそれが無差別の大虐殺ではな に載っていたが、たちまち仰向きになってころげ落ち、一歩前に進 く、相手を選んでいるのだと分って来た。連邦軍の兵士たちは、近 んた胴が、こちらへ倒れたのであった。 くに人間がいても、必ずしも殺すわけではないようなのだ。