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検索対象: SFマガジン 1978年4月号
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1. SFマガジン 1978年4月号

Di 茲 SIOII ・ 0 新芽 新井苑子

2. SFマガジン 1978年4月号

「糞尿愛好癖は、分裂的生活を送る精神分がいなくてはならなかった。私に理由を説いたって知らん。 如フロイトが生きていたら、こんな言い方を認めたとは思えない。 裂症的サド・マゾ型人間にとって常に悩み 出たそ、出ました。「ニュー ・ウェーヴ」登場。セックスと卑語の御入来で の種であるとエスパ 1 がデルタ頭蓋波長ある。作家諸氏は、この自由に酔い痴れた。既成の規則も慣習も蹴り出したが、どこ が悪い。何かの芸術形態が規則に従うなどと思うのは、肉体の内ー・ーーではないにし に載せて伝えた先は〈分析自警隊〉で、こ ろ、魂の内ーーなる清算者だけであろう。 ちらはホモ・サビエンスと呼ばれる、かの 犯時に、「ニュー ・ウェイヴ」作家も多少の錯乱状態を呈することがある。けれど も、どのような革命にも、行き過ぎというものはあるものだ。 怪物のイドや超自我と戦っている最中だっ そしてまた、時に、連中のユーモアが馬鹿らしい物ともなる。 ( 叩 ) そしてまた、時に、現代文学の尻馬に乗り、体制に、「純文学」作家と認めても らおうとすることもある。この例では、ウイメン・リプの婦人達を仰天させそうな、 つまり綺麗なお嬢さんをもてあそんだ 男同士の狎れあい問答である。 上、教授のケツをアストンⅡマーティンの 菊レニーがジョー・ シに頼む事柄を、疎外された未来についてにするべきだったかも しれない : ・ : どんな物やら知らないが。 ト・カムシャフトでズタズタ オーヴァヘッ。 現在では、誰でも黒人ミュージシャンの隠語を喋る。 にし、怪物にはおみやげにサイン入りマン 貯どうして、こんな奴が話にはいりこむんだ。 ( 昭 ) 屍姦愛好者の愛人。この役どころは、性感と情感という物を未来へと外插してみ ホール・カヴァをくれてやって、レニ 1 が ( 囀 ) れば、我々すべてが演じる可能性のあるものである。 ノヨージに頼んで言うには、もう一度未来 四いやはや、最近のは何とも。ヒリ。ヒリしている。たぶん我々の感じる所を反映 しているのでもあろう。ただ、あなたもを読むなり書くなりするつもりなら、怒 の話をしてくれと。ただし未来の名前は クライド ( ) るべきである。の目的はあなたを苦しめ、こづき回し、高音域の甲高い「イ」音 「無知蒙昧」だと思いこみ、そこでドラゴ でガラスを割ることにあるのだから。 以上で複製を完了しーーー言いかえれば、なそって見せたのは、類型であり、こ ン王説明して言うには、時間はとんでる ネクロ ( ) ホンク ( 四 ) れは過去にも現在にも、そして不可避的に未来においても、何らかの形で書かれるこ 〈死人〉だから、みんな近所の〈白人〉か とになる。ただし、忘れたもうな、我らの文学の中に永久に留まるような素晴らしい 小説も現にあるのであり、さらにその数は増していくのである。悲しいかな、こ らかつばらうのが大好きで、連中はミル れらは複製を許さない。誰が試みようと、の本質たる、あの色彩の、アイディア ウォーキーに逃げかかり , ーーおっとそれと の、輝かしさの、興奮の、衝撃というものは、なそり書きできるものではない。複製 できるのは、使い古された常套手段ばかりである。 も、あれはウォーキガンかな。 スカトロジ 0

3. SFマガジン 1978年4月号

れを片付ける話は御破算にしようや」と彼 は徴笑み、「おれもスクルーチしたいぜ、 〈先人〉みたいにさ」 「ねえ」と彼女は話をもちかけてきた。 「あんたの魂を売りたいってなら、この辺 で手を打っておけば、〈地獄〉の連中みた いに足許を見たりしないしさ、あそことき たら、あたしたちファウスト・タイ。フの悪 魔にとっちゃゼンゼン陳腐陳腐なんだけど さ、ま、あんたも、忘れないようにしとき フ十ア・レタ・ワート なよ、魂たって四文字言葉なんだからね」 ート・ハインライン流、冷酷かっ男つぼい文体。彼のこの 作家連の長老ロ・、 分野に与えてきた影響たるや、シェイクス。ヒアの演劇に対するそれに匹敵する。 四 ( インラインは「ジ = イムズ・ポンド」神話を予感していた。 彼の、鼻っ柱が強くてクールな主人公が創り出した。ハターンは、の中の「お やまあ、キャー」派を一掃した。 引ハインラインこそ、女性を「悪漢」に据えた創始者の一人である。「正体」症候 群もに特徴的で、目に見えぬ「正体」が我々を我が物のごとくほしいままにして いる、というわけだ。ウォーターゲイトやケネディ暗殺、キング暗殺についての、最 近の臆測も目に見えぬ「正体」を求めての物ではなかろうか。 ハインラインが「異星の客」の中で創り出し、今では強大な宗派となった新宗教 への讃辞。はしばしば宗教を新興しようとする。 芻この分野は、しばしば「父親」コン。フレックス、または「師」コンプレックスに とらわれる。「父親」なり「師」なりは、強大な力と知性と倫理感を持つ高潔な種族 に属し、「善玉」と「アメリカ的生活様式 , を導き、護り、見守るのである。 別「ファンタジイ & サイエンス・フィクション」誌登場。軽快で愉快なタ - ッチで読 者を楽しませる。ューモアがついにその御姿をにお現わしになるが、これまで常 にに欠けている物ではあった。 & 誌の眼から見れ・は、世界の終末は轟でも 粛でもなく、笑なのである。 肪の中では、何を揶揄の対象とするも自由である。 ただし、セックスと卑語は最近までタ・フーとされていた。だからこそ、「ニュ ・ウェーヴ」作家が、今あれほど無闇に使いたがるのである。 ギャラクシイ誌登場。を精神分析に紹介ーーーまたはその逆ーーする。ギャラ クシイ誌はホレス・ゴールドが形造り、編集したのたが、私の楽しき信念によれば、 彼こそジグムント・フロイト ( 一八五六 ~ 一九三九 ) の庶子であった。今日、いかな るジャンルの作品を書くにしても、フロイトに関する基礎がしつかりしていなくては ならない。 ェクストラ・センサ : それと同時に、は感覚外知覚をも模索し始め、非常に真剣であっ た。今やや心霊に関する事柄は新興宗教となっている。 展開の上では、「善玉」「悪玉」 3 ところが心理学の擡頭にもめげず、ストーリー 門 9

4. SFマガジン 1978年4月号

ヘリ以 ドベリは事実上、火星を創り上げ、そこを常に繩張りとしてきた。プラッド・ 「火星はきっとあるのよーと美しいお嬢さ 来、詩がを彩り始めたのだ。 んは囁きかけ、「火星は美しいわ」 活劇ヒーローが真摯な科学者に道を譲った。ここに、アスタウンディング誌 ( 現 の出現がしるされ アナログ誌 ) の権勢ならびなき編集長ジョン・・キャンベル・ 「さて、データを計算してみよう」とハル ( 四 ) る。彼はほとんど独力で、この雑誌を宇宙冒険譚から内宇宙拡張譚へと引きずり上げ 、、「私の博士号は先進的 シオン博士は言し た。キャンベルは「善玉ー「悪玉」に学位を授与したのである。 幻しかも、その大部分は。フリンストン大学でアインシタインと隣組たった。 研究で外插法を調べている時、光より速く 幻私の得意とする説によれば、この言葉の発明者こそ、かのキャンベル大王であ 得たものだが、ああした異化作用宇宙人は り、この言葉こその「黄金時代」の基礎の一つを形づくったのである。やさしい 決して我々のアンドロメダ星雲から来たも言葉で意味を説けば、あるアイディアをもってきて、これをもっともらしく誇張する ことにあたる。ウォーターゲイト関係者も、これを援用した。 のではない。奴らは平行アンドロメダ これその「大法螺」。現代物理学は物体が光速を越えることを否定しているの 只ラレル・タイム ( % ) だ。しかしながら、宇宙を股にかけた活劇を適当な時間内に収めるには、どんな手が 平行時間の中の平行アンドロメダから来た あるたろう。恒星や銀河は何世紀も遠いのた。その答は、誤魔化しに宇宙船が「平行 のだ」 宇宙」や「亜音速空間」を飛び、思いつくままに名付けて「オーヴァ・ドライヴ」を ネイサン・ブリックは超音波銃に再び装「位相ドライヴ」を「星間ドライヴ」を使うことである。ありえないと知りつつも、 ストーリー 展開のために喜んで使う、これも便宜であり、文学の他の分野でも、すべ 坂し、肩をすくめると、娘と父親を撃っ てこのような譲歩を行なっている。「聖アグネス前夜」「ラッシー」参照。 た。「愛のひとときがあれば死のひととき 何かしら科学の手ほどぎ程度は知っていた方が良い。今や単なる「怪物」ではう もあるさ , 彼は O—O に報告した。太陽系まくない。生物学的存在根拠がなくてはならない。 ( 四 ) 幻そして舞台をこの太陽系の外に持っていくこと。手近の惑星、衛星の類は、とう 逆ス。 ( イといいながら実は二重諜報員であ に使い尽くしてしまった。 いつも作家にとって便利な仕掛けであった。これを使う 幻「平行」というのは、 り、ぶざまなチンピラ連中を皆殺しにする と、うまい具合に、面倒な問題を避けて通れる。「犯人は平行執事」もうひとつのお と、神経。フラスチックのエスカレーターに 気に人りが「ワー。フ」 ′ラレル・ダイム 6 同じ事は「平行時間ーについてもいえる。これは、「もし : : : ならどうなるか」 飛び乗り、異星女王蜂の棲み家にのぼって 2 というための仕掛け。「もしナポレオンがウエリントンを、平行時間の中では打ち破 行った。女王蜂の方では何としても自分達 っていたら、どうなるか」 まだ同しヒーローだが、名前が多少現実的になってきた。 の「正体」を悟られまいとしている。「お ( 囲 ) ( 幻 ) ( 四 ) レーゾン・デー 28

5. SFマガジン 1978年4月号

( 7 ) ができるのだ」 6 「時間」は、の初期には常に、言いなり次第の売女だった。お望みどおりに ( 8 ) いまたにこき使っている。 何なりといたしますのクチ。の番組では、 教授が電子超スイッチを入れると、醜 7 もちろん、もう一度生娘に仕立て上げることも含めて。 ( 9 ) 怪な姿が研究室の作業台の上に出現した。 8 必す研究室の場面を人れること。たたし簡単にすますべし。 9 さてお立ちあい、ここでお定まりの出来事た。鳴物入りで怪物登場。私の試算に 教授の美しいお嬢さんが悲鳴をあげるや、 よれば、現在までには五百二十七万と九匹の怪物を使い捨てている。 ブリック ・ハルシオンは陰極分解銃で怪物 川いつでも必す、美女が肌もあらわに悲鳴をあげて、雑誌の表紙を飾っていた。だ から本文にも現れないわけにはいかす、たいていが、教授の美しき娘役たった。現在 を薙ぎ倒した。 でも映画には登場してくれるが、往年と違ってテキ。 ( キした研究者役で、瀉血学 ( 昭 ) 「あの″化物″は巨大木星人で宇宙海賊の子 か何かで博士号を得ているくせに、「核融合」と言うにも言いにくそうにしている。 活劇の主人公は愛称めいた名前を持つのを常としていた。 分で、宇宙を股にかけて、宇宙船を襲い 貶すなわち、銃はやはり銃であり、結局銃である。どう呼び方を変えても、である。 罪もない金星人を殺していたんだ , とブリ この段階で、は西部劇文士の魔手に落ち、牧場と牛泥棒とが、単に惑星 ( 燔 ) と宇宙海賊とに書き換えられてしまった。 ックは歯がみした。 文士諸氏は一語半セントの値段で手早く書かねばならす、洗練さや文体にかまっ ″化物″の膿漿から真珠母の樹が伸び上が ている暇などなかった。・・ペレルマンは、この文型を「 ( リウッド接続法」と った。「あら、そう、坊や」と花弁はクス呼んだ。 何よりが悩みの種とする、三文物書きの弊害。いかなる登場人物も決しても クス笑い、「火星で話す、とっても面白い話 「叫」び、 のを「言」わず、「歯がみ」し、「唸」り、「呻」き、「嗤」 ウント・ゾ・フォルト 々。例示したのは代用語である。 が聞きたけりや、あそこには二本の運河が スタンリー・ ・ワインボウムへの讃辞。彼は「火星のオデッセイ」でに電 あって : ・ : ・」 撃ショックを与えた。人間に置きかえると、わけのわからない、おどろおどろしくも 魅力的な異星生物を創造したのは、ワインボウムが最初である。彼が息を吹きこんだ 「火星などありはしない」と教授は言い 流行は、連綿として今に至るまで余命を保っている。 「惑星などないのだ。我らの忠実なロポッ アイザック・アシモフへの讃辞。彼の記念碑的作品「夜来たる」は、がいか にして、何のために書かれるかの古典的例証として今も残っている。「猿真似」を望 ト科学者群は今や、太陽系が日食によって む新参者諸君は、せめて「夜来たる」を手本としていただきたい。 惹き起こされた集団幻想だという理論を証 類まれなるパステル画家ーーー登場。これまでに彼の繊細 レイ・・フラッドベ な文体を真似ようと試みた作家は数多いが、誰ひとり真似しきれまい。しかもブラッ 明しようとしておる」

6. SFマガジン 1978年4月号

「教授、もう一度その実験を説明してくだ さいよ、厚かましくも、若い新聞記者は鼻 ( 1 ) 先で笑いながら言った。 ( 2 ) 「アインシュタインの〈相対性理論〉によ ( 5 ) ( 3 ) れば、時間とは第四次元だ」と教授は説明し ・トラノスミタ 「だから、わしの超伝送器なら空間の ( 6 ) 中で時間を逆転させ、過去を呼び戻すこと ( 4 ) 多タた ス葉 カ冖黒 ( 脚註 1 昔々の石器時代のは、たいてい、「実験」について、信用しない人に説明す る形で始まった。 2 作家達は、ただもう「相対性」が大好きで、その実、さつばりわけもわからす、 ましてその説明などできはしなかった。 3 次いで作家達は「時間ーを愛し、これというのも・ (-) ・ウエルズがかの「タイ ム・マシン」で手本を示して以来なのである。 懐かしいかな第四次元。これその牽強附会的手法であった。「犯人は執事」 というのに似ている。 詳細に立ち入るべからす。もっともらしく思える程度にとどめること。 Cby Alfred Beste 「 26

7. SFマガジン 1978年4月号

そそりたっ巨木は、なにかの形に似ている。つくしを思わせる形 そのとき、動物は、巨大な口をひらいて、一声ほえた。歯は、あ である。広義の羊歯植物の世界である。シダ・トクサなどの下生えきらかに分化しているが、犬歯と門歯の形が同じように三角形であ の上に、とてつない高さの異様な植物がある。鱗木、盧木、封印る。 木などの絶減種である。この景色は、しばしば恐竜の背景として誤「アンテオサウルス ! 」 まって描かれる、石炭紀の特徴を、そのまま受けついでいる。 ュールが叫んだ。学名に、竜がついているのが、ふさわしくな 工ペレットは、二台のパギーを発進させた。パ トロール隊員とし て、エ・ヘレットとジ、リは、二台に分かれ、三人の古生物学者のほ 体毛をもち、タテガミを有し、分化した歯をもっ動物は、どう見 サウルス か、四人の戦闘要員を同行させる。 ても市ではない。獣形爬虫類あるいは哺乳類型爬虫類などという 原始のジャングルを進んだところで、 = べレットは、・ ( ギーをと呼称には、とうてい相当しない。・ とこから見ても、哺乳類そのもの めた。そこに、一頭の動物を認めたからである。古生物学者が追いとしか見えない外観である。 もとめている動物の一種であろう。 それは、有毛の体皮をもっ温血動物である。錏く分化した大歯 その動物は、まるで手の届くような近距離にいた。しかし、 = べは、肉食性であることを示している。ライオンを思わせる肉食哺乳 トが、復元図で知「ているいかなる動物にも似ていなか「た。類が、二億二千万年前の太古の地球を闊歩している。 しかし、強いていえば、ライオンに似ていないこともない。工ペレ アンテオサウルスは、ふたたび咆え、人類に向きなおった。 ットは、自らの考えを口にしなかった。それを口にして、専門家の 「あらゆる復元図が間違っていた。獣窩類は、温血で、体毛をも 嘲笑をまねくことを恐れたからである。 ち、どこから見ても、哺乳類だった」 体長四メートル以上、何百キ。という体重を持つであろうその動ソネ博士が呟いた。これまでの古生物学者は、化石を見ただけ 物は、まことに威風堂々としていた。全身に体毛をもち、頭にはラ で、角質の皮膚をもった、一風かわったトカゲとして、獣窩類を復 イオンに似たタテガミまで備えている。 元してしまった。そのことを、反省しているのであろう。 テラボーグ 「あれは、なんだ ? 」 だが、ソネ博士は、その肉食性の獣窩類のすぐ近くにいる。 工ペレットは説いた。 アンテオサウルスは、身をかがめて、跳躍の姿勢をとろうとして だが、サエキは、答えなかった。観察に夢中なためばかりではな ( 以下次号 ) 。専門家の眼で見ても、それが何物なのか、にわかには判断でき 註イラストのアンテオサウルスは、 ScientificAmerican 誌の・ ないのであろう。 テラブシグ ・・ ( ッカーの復元図をもとにして、スタジオ・ぬえが描いたもの。 「この時代にいるとすると、獣窩目たが : : : 」 "Anteosaurus. the hairy Therapsida" ( アンテオサウルス、毛 ソネ博士が呟いた。 の生えた獣窩類 ) より サウルス 24

8. SFマガジン 1978年4月号

。フロジェクトそのものは、敵側に探知されることを避けるため、 ヴェゲナーの大陸漂移説によって予言され、後の。フレートテクト ニクス理論によって立証される各大陸の漂移分離が起こるのは、こ 隠密裡に行なわれねばならない。タイムマシンは、基地の奥深いと ソ . ゲア ころに、準備されていた。 の後のことである。一塊まりになった汎大陸だけが、ベルム紀当時、 ようらん 工べレットは、せかされるようにして、タイムマシンに乗りこん陸上生物の揺籃となる陸地であった。 だ。。フロジェクトそのものは、この腕ききのパトロール隊長を中心 タイムマシンは、七千万年前のゴビ砂漠から、さらに一億五千万 として行なわれる。腹心の部下のジュリのほか、十人の戦闘要員が年の時間的距離を遡行しはしめた。 与えられた。しかし、実際の任務を遂行するにあたっては、三人の 工べレットは、四次元震動波の作動をチェックしながら、この人 古生物学者のアド・ハイスが必要になってくる。 跡未踏の僻遠の過去へと、タイムマシンを操っていった。 目的の時点は、一億五千万年まえの古生代ベルム紀後期末。二十タイムマシンが停止した時点は、プログラムどおり、古生代ベル 三世紀から見ると、二億二千万年まえの太古の世界である。 ム紀後期末のゴンドワナランドのシ / ナータス帯であった。 目的の地点は、ゴンドワナランドのシノナータス帯ー , ー後の南ア 「みな武装しろ。探査用・ハギーを降ろせ」 フリカになる場所である。当時、汎大陸ゴンドワナは、また分離し エ・ヘレットは、緊張したおももちで、この地での最初の命令を発 ていなかった。巨大な陸塊として、原始の地球上に存在していた。 した。新たに指揮下に入った三十世紀の戦闘要員は、きびきびした 南極の方角に偏在する大陸塊から、のちのシベリアが半島のような動きを見せる。タイムマシンのなかに、活気がみなぎった。 形で突出し、南アメリカとアフリカとは一塊まりになっていた。後 降りたところは、白亜紀末とは、うってかわった世界であった。 にヨーロツ。 ( を形成するはすの陸地から、テーチス海をはさんだ東古生代末も、やはり大変革の時代である。植物相も一変する。あた 側に、小大陸として中国に相当する陸塊が浮かんでいた。 りの景色は、一行に既視感に近い感覚をもたらした。 石川喬司の U)LL & ミステリ・ガイドブック ・ミステリおもろ大百科第 平なんてというあなたと、ミステリを読まないキミに、斯界の名ガイ , ~ 孖ドが、軽妙洒脱な文章で楽しみ方、味わい方を教えてくれる絶妙な本 ! 価一〇〇〇円 デジャピュー ー 5 3

9. SFマガジン 1978年4月号

すぎていました。もちろん、恐竜絶減は、謎のままです。もし絶減らない。 しなければ、別の進化史が語られるでしよう。しかし、そのまえに 「出発というと ? 」 検討しておかなければならないことがあります。なぜ、恐竜が、地「古生代ベルム紀後期末へ、行ってもらいたい。そこで、獣窩目の 球史を支配したかということです」 進化の状態を、調べてくるのだ。地球上に適応放散していた獣窩目 サエキは、情熱をこめて喋りつづけた。おそらく、三人の古生物が、なぜ、まったく突然に、擡頭した恐竜によって、とってかわら 学者のあいだで、なんらかの意見の一致があり、それを代表して話れたのか、その真相をつきとめてもらいたい」 しているのだろう。 司令は、まったく唐突に任務を命じた。 「そのことが、なにカ : 「獣窩目 ? 」 工べレットは、意味のない疑問を返しただけであった。 工べレットは、問いかえした。かれの俄か仕込みの恐奄の知識に 「古生代ベルム紀後期末の地球上には、恐竜は一匹もいませんでしはない術語である。 た。当時の化石を見るかぎり、来たるべき中生代は、哺乳類の時代獣窩目は、獣形爬虫類あるいは、哺乳類型爬虫類と呼ばれていた になるべく予定されていたとしか思えません。ところが、その中生動物であゑ古生代ベルム紀後期末に、地球上に爆発的な適応放散 代が、哺乳類の暗黒時代になってしまったのです。恐竜が現われたを見せる。その先祖は、古生代石炭紀にすでに現われている。背中 ひれ からです。恐竜が、なぜ哺乳類にとって代ったのか、これもまた謎に放熱用の鰭のような突起をもった盤竜目ーー・ペリコサウルス・ = ディファ ダフォサウルスなどでは、原始的なものながら、すでに犬歯の分 テラ・フシダ イクチ「サウ 勢いこんで喋りつづけるサエキを前にして、エベレットは、よう 化が始まっている。獣窩目は、ベルム紀後期末には、鼬竜亜 やくべッドから起きあがった。 目のような哺乳類を生みだす。ところが、そこで、大絶減に襲わ 身仕度をととのえると、三人の古生物学者は、有無を言わせすれ、一本の糸のような僅かの種を残したのみで、中生代の一億五千 工べレットをひきすりだした。 万年のあいだ、恐竜王朝の圧制のもとで呻吟し、細々と命脈をつな 基地司令グールドには、すでに、 ュールのほうから連絡してあっ ぐ哀れな存在に、なりさがってしまう。 ( 註・系統樹を参照のこと ) たらし、 工べレットは、さしあたり、なんの予備知識もないまま、新たな 「エベレット君、話は聞いたろう。この両すくみの状態を脱するた任務に駆りだされた。このぶんでは、 いま一度、サエキの講義が必 と - もかく、 めには、地球史をさらにさかの・ほらなければならない。 要である。 出発してくれ」 茫地の上層部は、この。フロジェクトのため、タイムマシンを用意 司令は、たしぬけに切りだした。ュールのほうから、まえもってしていた。大型のタイムマシンで、設営資材や探査用パギーなどを 説明を受けているらしいが、当のエベレットには、なんのことか判収容する能力を持つ。 レ / シェーション リア ー 52

10. SFマガジン 1978年4月号

ら、中生代三畳紀から白亜紀にかけて、一億四千万年にわたって地 ゲラッ ( は、一『〔語の専門家である。したがって、古生物学には、 球史を支配していた、他の恐竜類がひしめいていたからである。単通り一辺の知識しかないようである。だが、ゲラッ ( がなにげなく 5 に知能が高いというたけでは、体長十五メートルのテイラノサウル呟いたことを、サ = キは、かなり衝撃的にうけとめていた。 スや、三十メートルのアトラントサウルスを、支配ドにおくことは料理が平げられ、杯がほされ、最後の宴に、進んでい 0 た。生物 できなかったのである。 としての違いを越えて、親善がはかられている。すくなくとも、表 わきあいあい その点、人類 , ーー・ホモサビエンスの進化には、一度も足踏みはな面上は、和気藹々としたムードであった。 がった。原始的な食虫目から原猿類に変った段階で、エリ だが、エベレットは、醒めた眼で冷徹な事実を受けとめていた。 コンべテ - : 女 スに足を踏みいれたといえる。人類に匹敵する競争相手は、存在し異類の友と判りあえると知りながらも、きれいごとで済ませない部 なかった。しいていえば、食肉目といえる。食肉目の進化は、たし分を、忘れてはいなかった。 かに加速的であり、新生代はしめの肉歯亜目の段階から、捕食獣の 地球史に二つの流れは、必要ではない。い すれ、どちらか一方の 下座につき、その覇権は、裂脚亜目に継承され、オオカミ、ライオ進化史は、消えねばならないのである。 ン・、クマ、アザラシなどの優秀な種を生みたす。しかし、四足歩行 に過適応してしまった食肉目は、手の使用という方向性からは、大翌朝、 = ペレットは、宿酔の痛む頭を、三人の古生物学者によっ きくそれていってしまった。 て、だしぬけに覚醒させられた。 人類ーーー・ホモ・サ。ヒエンスは、七千万年の遅れを取りもどしたの 「ヴィンス、是非とも、知っておかねばならないことがあります。 である。それに対して、ドロマエオサウルスの時代に、すでに、人タイムマシンを出発させてください」 類でいえばラマビテクスくらいまで進化していた異類は、その後七 サエキが真剣な表情で頼みこんできたとき、エベレットは、割れ 千万年かけて、ようやく、科学技術文明を持つに至ったのである。 るような頭の痛みに、まだ正気をとりもどしていなかった。 会話は、とぎれた。一同は、夕食にとりかかった。ゲラッ ( は、 昨夜、異類の友といっしょに、名残りつきない別れを、演じてみ すすめられるままに、ワインの杯をあけた。 せた。しかし、かれの醒めた心は、いすれ決着をつけなければなら 「われわれの古生物学者が、疑間に思っていることが、ひとつあり ないという事実を、忘れることはできなかった。別れのムードにひ ます。なぜ、中生代が、マキッガ 哺乳類の時代にならなかった たるためには、日頃あまりたしなんだことのないワインの力を借り かということです。古生代ベルム紀後期末の地球は、マキッガの天ねばならなかった。 トでした。ところが、どういうわけか、中生代はじめに、マキッガ 「タイムマシンを ? 」 の大絶減が起こります。そして、とっぜん、われわれの先祖の恐童 「ええ、そうです。わたしは、古生物学者として、重大なことを忘 の時代が、始まるのです。ふしぎなことです」 れていたのです。なぜ、恐竜が亡んだかということに、気をとられ ふつかよい