一人 - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1978年5月号
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1. SFマガジン 1978年5月号

かれらは声をのんだ。 「隊長 , 小さなイグルーが幾つか見えます」 「これは何だろう ? 」 「人です ! 人が見えます ! 」 ややあって、一人がたすねた。みなは首をふった。 ンに、おり重なるようにして見つめ みな、偵察テレピのスクリ 孑本隊のだれもが、見たこともない植物だった。もは 人間と同じ形をした知的生物が存在することが、みなをほっとさや植物の種類も数少なくなった地球ではあったが、今、 目の前にしているような樹本は、地球のどんな図書館 せた。 の、どんなに大冊の植物図鑑にものっていないものだっ 「よし。そのイグルーのあった近くに船をおろせ」 隊長の言葉に、船体はゆっくりと旋回した。 その植物は、どこかシダに似ていた。とくに巻いてい る若芽などそっくりだった。だが決定的に違っているの 森林の間のわずかな荒地に、宇宙船は着陸した。 大気の組成も濃度も、地球のそれと大差はなか「た。気温が四十は、長く張「た枝の先が細くくびれ、その先がまた膨れ : 実・ツー・・ , ) ー。 て、人間の形や、宇宙船の形、家や自動車。そして数字 度 0 もあったが、それはすでに観測されていたことであった。 やアルファベットの形になっていることだった。その形 探検隊は、ハッチを開き、地上へ降り立った。 のどれもが、探検隊員たちのはなはだ見馴れたものだっ 二百メートルはどむこうに、大森林の端が迫っていた。 探検隊は一列になって荒地を横切り、イグルーへと近づいていっ 「だれかいるぞ ! 」 土をこねて固めたレンガで作られた粗末なイグルーは、二、三人「捕えろ ! 」 樹木のかげで影が動いた。 の人間がひそむのがやっとの広さしかなかった。 、しカナた家「ミゞ、 ド↓カ二人の人間を追い立ててきた。若 くばんだ床に、二、 三個の上器と、わずかな量の草の実を入れた い青年と娘だった。かれらは、地球の人間と少しも変らな 鉢が置かれていた。壁に、何かの植物のせんいで織られた薄い肩掛 い体驅の持ち主だったが、たったひとつだけ違うのは、二人 ( がかけられていた。 とも髪が火のように紅いことだった。荒地を風がわたり、二 それは、だれの目にも若い女性のものと思われた。 人の髪が陽光を反射してはのおのように渦巻き、たなびい 探検隊の一人が、それを壁からはずし、自分の首にまいた。 十数個あるイグルーのどれにも、人影はなかった。それらは見棄た。 風が樹木にぶつかると、枝からぶら下っているおびただし てられて久しく、すでに住んでいる者はいないようであった。 い家や自動車やアルファベットは、いっせいにゆれ動いてぶ それから探検隊は、ふたたび一列になって大森林へと進んでいっ つかり合い、枯骨のように鳴った。人間の形をしたものは、 ことに手足をふるわせて、踊り狂うように回った。 おいしげつた梢か、かれらのゆくてをふさいだ。

2. SFマガジン 1978年5月号

う ? いや、もともと巡察官はどういうつもりでラクザーンにとどなかったのである。それゆえに : : : 彼は当面、おのれの記録づくり まり、どういうつもりで自分を告発したりなどしたのだ ? のほうへ、無理にでも関心を集中させることで、おのれをしずめて それから : : : 本当はこれが第一かも知れないことなのだが : : : 彼いたのだった。 に対する告発内容の調査はどこ迄進んだのだ ? 容疑は晴れそうな ハイヤツリットに来て、ときたま訪ねて来る人と会うことによっ のか ? 晴れるとすればいっ頃なのだ ? て、彼は、そうした押し殺していた欲求を、彼が求めていたかたち これらすべてが : ・ : これら以外の事柄も含めたすべてについて、 や角度からではないにせよ、また、単なる印象や感想を聞くだけで 彼は知りたかった。だから知るべくそれなりの努力もしたけれどもあるためにうのみは出来ないにせよ、多少は満たせるようになっ いわば島流しにされ幽閉されていた彼がっかみ得るのは、きわこ。 めて断片的な情報ばかりであった。それらをいかに総合し分析しょ うとしても、絶対量が不足していたのた。それに、が収集し ッラツリ交通のイルーヌ・ O ・ハイツがやって来たのは、彼が 検討した上での、手の内をみな見せるかたちのデータをいただくの ハイヤツリットに移って六日めのことであった。 に馴れていた彼としては、たとえ少々それらしい結論が出ても、飛面会申し入れの用件は、もちろん、ツラツリ交通の業務に関して びつき、速断する気にはなれなかった。情報そのものへの信幀感がではない。そういう公的な仕事は司政庁との折衝としてなされるべ 0 ) 0 0 0 0 0 0 を ン 5 0 8 下 5 8 8 王 2 8 5 4 3 6 2 靆 ・訳訳の訳訳訳し 訳 子徹 ~ 実徹な訳 ・一フレ 1 に具區 徹 イを 一ンザの世徳のに篇 く ' 1 見野 島士野、 、ヴ日 スあ長グ、人てを感 カ 。市セっ読こ = の色 ので、ンきるし愛た 級一かロ描けそきげ 河ト形宙宙 一ラン・をお、なあ / ・銀メ人宇悪宇 超ティス験に性ー し 227

3. SFマガジン 1978年5月号

で、かれはシャツの胸でぬぐった。切迫したパトロールとの接触彼女はうなずいた。 は、いつものようにかれを冷静にした。かれは一つの茂みに目をつ そこまでは大部分ものかげに隠れて行ける。まずネルソンが地面 けた。そこに踏みとどまれば、ある種の抗戦ができると、かれは信に低くかがみ、猫のように巧妙に移動した。倒木まで来て、グリ = じたのである。 スを援護するために射ちはじめた。彼女が近づくのを横目に見て、 グリニスをつれてその茂みに着いた。彼女は銃を抜いていた。か かれは必死で援護した。突然、グリニスが驚きの悲鳴をあけ、見る れは銃の出力をさけろと合図し、相手は理解した。グリ = スの顔をと木の根に足をとられ地面を這いまわっている。かれは少女の名を 見つめると、それは仮面のようたった。 呼び、見境もなく飛びだし、助けようと走った。途中まで来たと ネルソンは近づいて来るパトロールの足音に耳をすました。五人き、パトロ 1 ル隊員が射程に入った。ネルソンは自分がなにをして フライヤー か、六人だ。それにあと一人、むこうの飛行船に見張りがいるだろしまったのか悟った。グリニスはもう立ちあがって走っている。自 う。全部で八人、とかれは判断した。やがて最初の男が、茂みのむ分を罵りながら、ネルソンは銃を左右にむけた。だが、すでに遅か こうに現れた。 ったのである。エネルギー銃の光線が足もとで爆発した。かれは自 ネルソンはグリニスの腕に触わって待てと合図した。。、 ′トロール分が背中から投げだされるのを感じた。ただ暗黒しか見えなかっ 隊員はあたりを見まわしている。真剣すぎてなにも見つからないよた。その中心に輝かしい一点の光がきらりと光った。それから、ぐ うな捜し方だ。若い男たった。ネルソンは自分から居場所を知らせるぐると回転し、意識がうすれ : ようとは思わなかった。このまま通過させようか、と一瞬考えた。 だが、囲まれるのはいやだ。かれは銃を抜き、慎重に狙いをつ ハトロール候補生、ウォーレス・シャーマンは手術台の男を、複 け、引金をしぼった。燃えあがる直前、十分の一秒ほどパトロール雑な気持でながめていた。一方には、絶望的な状態にある男への憐 隊員のみそおちで熱線の痕が・ ( スケットボールほどの大きさに広がれみがあり、他方には犯罪者を護衛していることからくる不安があ るのが見えた。。、 / トロール隊員は悲鳴もあげずにたおれた。 った。不安にかられ、男が動いたとき思わす腰の銃に手をやったの は、たぶんシャーマンが若かったからである。 もう他のものたちもそこに来ていた。ほとんどが若い男だ。仲間 だが、台の男はかすかに動き、うめいただけだった。シャーマン の死を見て、二人が突進してきた。英雄のように死ぬために。他の は男が意識を回復するのかどうかよく知らなかった。だが、回復し ものたちは賢明にも隠れるところを見つけた。ネルソンはその茂み が、期待したほど安全ではないと判断した。一人の。 ( トロール隊員ては困ると思っていた。かれは二歩前にでて、男の顔をじっと見つ はエネルギー銃であざやかな手際を見せ、一発ごとに近づいてきめた。 た。だが、結局、ネルソンは男がどこにいるか気づき、射ち殺し 男は正常に呼吸している。頭がかすかに動いたが、まだ眼は閉じ 7 た。ネルソンは大きな倒木を見つけ、グリニスに指さしてみせた。 ている。その顔はこれまでシャーマンの見たうちで最も青白く、最

4. SFマガジン 1978年5月号

1 風がやむと、それらはうそのように重く垂れ下が な静寂がひろがった。 「これは可、、こ ?. 「何という植物だ ? 」 探検隊員たちは、口々にたすねた。 若者も娘もだまって顔をそむけるはかりだった。 言葉は通しているらしかった。 「他の者はどうした ? 」 答えはなかった。 「この惑星に、わすか十五、六個のイグルーだけというのは考えられない。他の地方に都 市があるのだろう」 だが、着陸地を求めて周回飛行をする間に、だれもそんなものは見ていなかった。 「そうだ。たぶん地下都市だ」 だれかが言った。だがこの惑星で、その必要があるだろうか。他の者は胸の中でつ、ぶや 森林の中へ分け入った隊員が、一人の原住民を発見した。やせた小さな老人だった。老 人は、自分の背中を小突く隊員の手をはげしく払った。老人は少しも恐れるようすもな く、隊員たちの前に立った。 「この惑星の住人たちはどこにいる ? 」 隊長はたすねた。 「他にだれもいない。わしたち三人だけだ」 老人は鮮明な地球語で答えた。 「おまえは地球語を話せるのか ? 」 「おまえたちかそうしむけたではないか」 老人は火のような怒りの目を隊員たちに向けた。 「今は、今はわしたち、三人になってしまった」 また風がわたり、大森林は生き物の泣くように不吉なひびきを放った。 ( 以下次号 ) り、はげしい陽射しの下に、死のよう

5. SFマガジン 1978年5月号

☆リュウ ( 高橋長英 ) バッカス三世の副キャプテン。 32 歳キ ャプテンの古い相棒である。また、ただ 人の世帯持ちでもある。インテリで、ケン に対して疑惑を持ちはじめる。 ☆ハルカン司令 ( 山本昌平 ) 令する。 ☆ダン ( 湯川勉 ) ☆ビリ ( 立川博雄 ) バッカス三世にのりくむ隊員 キャプテン・ジョウにほれこみ行動を共に する。ケンをライバルと思っているが、勝 負にはならない 外人部隊 ( スペース・コマンド ) マーク ☆ヒメ ( 谷川みゆき ) バッカス三世に乗る唯一人の女性隊 員。ケンが「スターウルフ」であると いう秘密を知らない彼女は、ケンに愛 情を抱く。 / ヾッカス三世においては、 メジカル ( コンピュータを使用した診 察治療 ) を担当している。 無気味に光る黄色い星〈ヴァルナ星〉ヴァ ルナ星人は、黒い戦闘宇宙船の集団て他の星 を襲い、残虐な殺しと、狂気の略奪によって 繁栄をはかる、宇宙のアウトローてある彼 らは″ウルフ・アタッカーみと呼ばれ人々か ら恐れられていた 「地球人を抹殺せよ / 全宇宙にはびこリ始 めた地球人を皆殺しにするのだ〃】」ヴァルナ 星の大統領の命令が下った。 攻撃隊長ハルカンの指揮によリ地球の攻撃 が開始された。ト」 / 型宇宙艇か地球上の要点に 襲いかかる防衛施設を粉砕すると、地上に 降リ立った隊員たちが、〈地球人〉の殺リく を始める。女、子供、老人を問わす、極めて 非情残酷に惨殺してゆく。ヴァルナ星人には 人問的な「感情」など無い強い重力下のヴ アルナ星人は身が軽く力も強い。彼らは眉一 っ動かさすに冷酷に殺してゆく。全宇宙の資 源、財宝を掠奪によって我がものにしようと するヴァルナ人にとって、智能、才気にすく れた〈地球人〉は邪魔な存在なのた 東京近効の住宅地区を襲った小隊の中に、 副隊長のスサンダーとケンがいた。ニ人は、 ☆第 1 話☆ さすらいのスターウルフ

6. SFマガジン 1978年5月号

か遠く銀河系へ向って放った。それはジルーシ ジ アが危機のとき、その危機を救う八人の勇者を 招くという伝説の木の実であった。キドは同時 メ に、孫娘のエメラリーダと戦士ウロッコを使者 として送り、八人の勇者を連れて来ることを命 ら じた。 一方銀河系では、地球人が平和な植民政策を 行い、各地に植民惑星が誕生していた。 その一つミラゼリア。そこに住むシローとア ロンは、それそれ御手製の小型宇宙艇で、宇宙 せましと飛び回る宇宙暴走族だ。二人は宇宙艇 の操縦は荒っ・ほいが、テクニックは最高であ る。今しも二人は船幅ギリギリのトンネルを抜ドを「 けるトンネル潜りで、警察のパトロール艇をま いたところだ。しかしその直後、二台の宇宙艇 は相ついで不調になり、ようやくたどりついた 、 8 作業場でエンジンルームをのそき込むと、そこ 「未知との遭遇」の公開が始まって、いよしょ 7 にはそれそれリアベの実が入っていた。リアベ、・ 年映画の年の本格的な暮開けとなった。 さて次なる作品はというと、七月の「スターウの実は他に、シロー等の仲間でチンピラヤクザ オーズ」に先がけて、五月のゴールテンウィークのジャック、酔いどれで従者のロポットに喰わ に、東映から「宇宙からのメッセ 1 ジ」が登場すせてもらっている退役将軍のガルダの手に渡っ る。 ていた。 超光速で動き始めた。 リアベの実を信じて銀河系へやってきたエメラその頃ミラゼリアでは、新たにリアベの実を手 リーダであったが、この四人を前にしては眉をひに入れた金持ちのジャジャ馬娘メイアと、ジルー アンドロメダ星雲の中にある惑星ジルーシア。 そこは以前は地球に似た、豊かな自然にめぐまれそめざるを得なかった。しかも四人は彼女の言葉シア救援に向うことを決意したシロー、アロン、 ジャックの四人が大型宇宙船「リアベ号」の完成 た平和な星であった。しかしある時、宇宙の侵略に耳を貸そうとしなかった。 者ガ・ハナスの手に掛かり、今や林立する要塞ばかその直後、エメラリーダは追ってきたガ・ハナスを急いでいた。だが完成直後、ガ・ハナスの宇宙船 りが目につく不毛の星になっていた。そしてジル軍の手におちてしまう。そしてガ・ハナスの皇帝口に襲われ、ジャックが敵の手におちてしまう。直 ーシア人は、ガ・ハナスへの抵抗を続けながらも、 クセイアは、エメラリーダと一緒に捕えた老婆のちにその後を追ったシローらであったが、リアベ 記憶の中から美しい地球の姿を見出し、地球征服の実の影響で計器が狂いとある惑星に不時着して すでに絶滅の一歩手前という状態であった。 しまう。だがそこで彼等は六人目のリアベの勇者、 ジルーシア人の長老キドは、この危機を救う奇を思い立つ。ロクセイアの命令一下、惑星ジルー 蹟の願いをこめた八粒の「リアベの実」を、はるシアはアンドロメダ星雲を離れ、銀河系へ向けてガ・ハナスの先王の子、ハンス王子に巡り会う。 フォーカス 大空翠 4

7. SFマガジン 1978年5月号

す。詩帆が物心ついてからというもの、彼女は一人で生きてきた筈 に奇妙な魅力を与えていたのです。 です。孤独の生活で、これは初めてんだ幸福だったのでしよう。 明日が休日というある日、私は思いきって彼女を誘ったのです。 それを喪う事への不安だったのかも P れません。「私は幸福には縁 それは、内気な私にとっては一大事業とも言えるものでした。 のない人間でした」と、詩帆はある時ふと漏らしたこともあるので 彼女は頑なでした。私の誘いに詩帆は意外さに口を大きく開き、 首を振って断わりました。彼女は、からかわれていると思ったといす。 うのです。私は強引に誘い、やっと了承をとりつけました。詩帆楽しい日々でした。 は、自分自身の輝きにまだ気付いていなかったのです。 ある時は、地蔵遊園でジェット・コースターの上から詩帆のハン 翌日、私達はあてもなく街の中を彷徨いました。一緒にお茶を飲 ド。ハッグを落してしまい、私が登坂線から芝生の上に慌てて飛び降 んだかもしれません。公園の噴水の前で水をかけあってはしゃぎあ 、係員にこっぴどく叱られ二人で苦笑いしたこともありました。 ったかもしれません。遊歩道でソフトクリームを舐めながらそそろそう言えば、あのメダルはどうしてしまったのでしよう。詩帆が、 歩いたかもしれません。まるで″群集の人″の一人のように。少な一寸待っているようにと私をベンチに置きざりにして買ってきた私 いえ、そんなに高価なものではありません。子供 くともそれは、雑踏の中で感じる私にとっての初めての至福だったへのプレゼント。 のです。 達への来園記念用に売られている。フラスチック製自動刻印式のもの です。詩帆が悪戯つぼい笑顔で私の首にかけたメダルには日付と彼 詩帆は夕暮れまで歩き続け、私についてきてくれました。たわい のない会話の中で、詩帆が孤独である事を知り、私もまた同じ身の女のイニシャル、それにローマ字で "DORIYOKU SHIMASU!" とありましたつけ。何を「努力」するのか聞いた答がどういったも 上である事を彼女にさりげなく告げました。 その初めてのデートの日から、周囲から見た我々は睦まじい恋人のだったかは、もう忘れてしまったのですけれど。 同士に見えたはずです。それほど、私と詩帆は一日でお互いを理解詩帆とレンタカーを借りて、遠くへ出掛けた事もありました。一 しあったと感じたのです。 本の道を無作為に選び出し、その道を何処までも何処までも真直ぐ 彼女は身違に走らせました。国道をはすれ、山道を越え、名も知らぬ土地を過 それから、休日の度毎に私は詩帆と会っていました。 , えるほどに変っていきました。逢う度に脱皮でもするように美しくぎ、林の中で道が途絶えるまで。 なっていったのです。私の好みを敏感に感じとって気に入られるよ そして、そこで私は詩帆に結婚を申しこんだのです。 うにと懸命に努力していたような気もします。そんな詩帆が私にと彼女の返事を貰ったのは次の日曜日でした。その日は、何故か二 って可愛くてたまらなかったのです。 人共ロ数が少なく、時折、交わす会話も妙にぎごちなく感じられま ある日、別れしなに詩帆が泣き出したこともありました。何か得した。変な比喩ですが、お互い壊れやすいガラス細工を掌中に握っ 体のしれないものが、ロで言い表わせないものが恐いというのでたままデートにやってきたといった状態を連想してしまいました。 8

8. SFマガジン 1978年5月号

わ」とつぶやき、「このあたりでは、そういうお召し物、見かけま来る登場人物は誰ですか。禿げたユダヤ人がポヴァリー夫人にキス せん。とっても : : : とっても現代的で」 してる」サウス・ダコタ州スー ・フォールズの、ある教師は、た g 「レジャー ・ス 1 ッって言うんです」とクーゲルマスはロマンティ め息をついて考えた。まったく最近のガキときたら、大麻はやる ックな気分になり、「安売りしてたもんで」突然エマに接吻した。 Q はやる。連中、頭の中で何を考えてるやら。 そして、それからの一時間、二人は木蔭に寝そべって囁きあい、眼ダフネ・クーゲルマスがプル ーミンディルの浴室用品売場で待っ 差しでいろいろ意味深い事を語りあった。と、クーゲルマスは起きていると、クーゲルマスが息を切らしてやって来た。「どこへ行っ 上がった。ダフネとプル ーミンディル百貨店でおちあう約東を急にてたのさ」とダフネは叱りつけ、「もう四時半じゃないのさ」 「でも心配ない 思い出したのだ。「行かなくちゃ」とエマに言い 「渋滞につかまっちゃって」とクーゲルマスは答えた。 よ。じき一昃るから」 「お願いするわ , とエマは答えた。 翌日もクーゲルマスは。ハースキーを訪れ、たちまち魔法でヨンヴ クーゲルマスは情熱をこめてエマを抱きしめ、それから二人で歩イルに送られた。彼を見たエマは興奮を隠しきれなかった。二人は いて屋敷に戻った。エマの顔を両の掌にはさんで、もう一度接吻お互いの生まれの違いを語りあい、笑いあって何時間もすごした。 し、大声で叫ぶ。「 OX 、 パースキー。三時半までに・フルー 、、ンデクーゲルマスが去る前に、二人は愛を交わした。「どうだい、俺が イルへ行かなきゃならん」 やってる相手はポヴァリー夫人だそ」と彼はひとり言を言い、「大 はっきり、ポン、という立日が聞こえ、クーゲルマスはプルックリ 学一年に英文学で落とされた俺がだぜ」 ンに戻っていた。 月日がたっ間に、クーゲルマスは何度もパースキーを訪れ、エマ 「どうだい。嘘たったかい」誇らしげにパ ースキーが尋ねた。 ・ポヴァリーと、ますます親密で深い仲となっていった。 ースキー、もう山の神とレキシントン街で待ち合わせて 「必す本の百二十。ヘージより前に送りこむようにしてくれよ」ある る時間に遅れてるんだ。で、次はいつ行ける。明日は」 日クーゲルマスは魔術師に言った。「俺があの女に会うのは、絶対 「結構。二十ドルをお忘れなく。それと、この事は誰にも言いなさに例のロドルフとかいう奴にひっかかる前じゃないとな」 んな」 「そいつを出し抜くわけこや、 「な・せだい」と。ハースキー マードックに教えちまうさ のかい」 クーゲルマスはタクシーを拾い、中心街に急いだ。心が躍った。 「出し抜くわけにや いかないよ。相手は土地持ちの上流階級だぜ。 恋してるんだ、と思った。俺には素敵な秘め事があるんだ。と、ま連中のやる事っていやあ、女遊びと馬乗りだけだ。俺に言わせる さにこの瞬間、彼が気付いていない事があった。全米のいろいろな と、あいつの面は、ファッション雑誌に出て来る連中と同じさ。へ 教室で、生徒達が先生に、こう尋ねていたのた。「百ページに出てルムート・ パーガ 1 風に髪を染めてな。でも女にとっちゃ、あれも

9. SFマガジン 1978年5月号

りなのか、邪魔するつもりなのか、いったいどういうつもりなの「何よりも、自分が成功することが大切なのね。そのためには、何 を犠牲にしてもかまわないと考えているんだわ、あの男は」 「思ったよりも、若いのね」 「それでも、妹を心配する気持だけは、強そうでしたがーーー」 彼女のしなやかな歩き振りを見つめていたおれは、その言葉を耳 門「冗談じゃないわ ! 」 き逃がし、尋き返した。彼女は笑みを残したまま、ロを開く。 レディは、突然、爆発した。髪の毛が逆立ったように見えた。眼 「ジュリー の話では、もっと年を取った人のように思えたのよ」 の輝きが変っている。そのとき気がついたのだが、彼女の眼は暗い 身長は百七十センチを越えているたろう。しかも裸足た。おれ赤だった。コンタクト・レンズか。 は、床に散らばったクッションの上に腰を落ち着けると、彼女を見「あの男は、セリを自分に縛りつけておこうとしたのよ。セリが自 上けた。 分の世界を造り出そうとしても、あの男は、それを打ちこわそうと 「彼女には、人を見る目がないんでしよう」 したのよ。私が、彼女の立場だったら、やつばり、去っているわ」 それが、面白い冗談であったかのように、レディは、声を上げて「セリさんの居所をご存知なのですか ? 」 笑った。おれは馬鹿のような笑顔をつくる。レディの笑う姿をもっ 我ながら、下らない質問だった。思考力が低下してしまったよう と見ていたいと思いはじめた。 だ。そして彼女の回答は、その愚かな問いにふさわしいものだっ 「セリのことね ? 」 た。たた笑い飛ばしただけたった。そして付け加える。 おれはうなずいた。レディは、無造作にあぐらをかいて、おれの「彼女とは、もう一カ月近く、会ってないわ」 向いのクッションにすわる。濃いグリーンのガウンの前が割れ、日 おれは、相手に気付かれぬ程度に、部屋の中を見回した。ジュリ 焼けした脚がむき出しになった。 1 が先に連絡しているのなら、もう無駄だろうが、この部屋に誰 「タケルって、 いい名前ね」 か、もう一人の人間がいることを示すような手がかりが欲しかった おれは、少々、まごっいていた。どうやら、彼女のペースに完全のだ。しかし何も見つからす、レディが再び笑みを含んだ声で言っ に巻き込まれているようだ。 「何か見つかって ? 」 「ユウなんて、馬鹿げた名前よりも、すっと素敵たわ」 おれは、頭を振った。顔が赤らんでいるのがわかる。まったく、 レディのその言葉には、象を殺すにも十分なほどの毒が含まれて いた。それまでの、どちらかといえば、クールな話し方とは、ショ何てドヂばかり繰り返しているのた。 ッキングなほどの差があった。 「彼女と最後に会ったのは ? 「あの男は、セリを徹底的にスポイルするつもりなのよ」 「ハープのところでの。ハーティのときだったわね、たしか」 今度は一人言のように、ぼつりという。おれは黙ってうなすいた。 「そのときには、彼女は姿を消すような様子は , ーー」 門 2

10. SFマガジン 1978年5月号

の死角に、やっと一人が通れる程度の通路がある。阪急テ。ハート 入り、ガラスの砕ける音や厚い冷蔵庫が乱暴に閉められる音が聞え ロの階段を降りた左側だ。おれは思い出した。地下鉄定期券売場のた・数人のグルー・フが食料か、おそらく酒を捜して近づいている気 裏側が幅一メ】トルほどのロッカール】ムになっていて、そのコー 配だった。 ナーは梅田地下センター側へ抜けられるのだ。おれは通路を覗い おれたちは黙って顔を見合わせた・この一角まで侵入してくる者 た。そこにもがらくたがい つばいに積み上げられ、通れる隙間はな があるとすれば、曾根崎方向から流れてくる凶暴なグルー。フと考え っこ 0 、刀ュ / てよかった。 が、ゴローは意外な反応を示した。壁一面のロッカーの一つを睨 ( 逃けた方がいい ) み、例の奇妙なうなり声をあげたのだ。おれはそのロッカーの扉に おれは息を殺して、目で合図した。助手の男は黙ってうなずい 手をかけて、ためらわずに開けた。 た。手が自然にのび、おれはハムの塊りを把み、彼は残った一本の 腰の高さあたりのロッカーの中には、何もなかった。ただ、横側ワインを取った。コ】ナー入口の扉は濃いグリーンのガラスだ。扉 に、薄い鋼板を切り取って、ほ・ほいつばいに穴が開けられていた。 の裏に隠れてもシルエットが見えるだろう。かれらがこの店に着く おれは瞬間的にその意味を悟った。人間ひとり、どうにかくぐれる前に通路に出て、手前の店に入った隙を見て、その前を逃げるしか 横穴は、壁に沿ってロッカー内部を通路の奥まで続いているにちが ない。この奥は行き止まりだし、逃げ道は〈花の広場〉へ通じる通 路だけだ。 それは巧妙に隠された秘密通路だったのだ。 靴音は確実に四人と聞き分けられた。靴音は二軒向うの契茶店を おれは内部を覗き、次の瞬間、頭をかすめた疑問に体が一瞬強ば物色しはじめたようだった。 ( 今だ ) な・せだ。 おれは目で合図し、通路に忍び足で出た。契茶店前まで六メート な・せこの子はこの通路を知っているのだ・ ルほどある。そこを通過しないことには逃げ道は開かれない。後ろ あの、医大の助手なら答えてくれるかもしれない、とおれはを助手の青年がついてくる気配だけがあった。 思った。が、彼とは阪急ファイ・フの地下から逃げ出した時以来、別 あと一メートルで赤い樹脂製の扉の前を通過する。そしたら走り れたままだ。地下街のどこかにいるだろうとは信していたが。 出せばよい 不意に音もなく扉が開いた。三十センチ前に男の顔があった。正 おれたちの会話はワイン二本目の半ばで跡絶えることになった・面から視線が合った。細くつり上がった目の狐を連想させる顔だっ ハン・ハーグコーナ 1 の向うで足音がしたからだ。 た。ちらっとおれはその男の手を見た。右手に刺身庖丁が握られて いるのだ。 四、五人の硬い靴音が入り混しって遠くから響いてきた。時お