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検索対象: SFマガジン 1978年5月号
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1. SFマガジン 1978年5月号

の高い穀物のかげに伏せてかくれたわ。見つからないうちに森へ逃 ルと接触したことはないのかい ? 」 彼女はそばに来て、もう食べていた。がつがつほお張りながら、げたのよ」 彼女はまた罐のなかを調べた。それから、空つぼたとあきらめて 彼女は返事をした。 「一度だけ見たことがあるよ。むこうはあたいに気づかなかったの下に置いた。 「あいつらが捕まえたものをどうするか知ってるか ? 」 そうじゃなきや、捕まって連れてかれてたもの」 「うん」 「どっから来たんだ。ここで何をしてる ? 」 ちょっとの間、かれは相手が聞いていないのだと思った。明らか「おとうに聞いたのか。なんて言ってた ? 」 モーソリーアム にかれを友だちと認めたらしく、少女は夢中で食べている。ところ「霊廟に連れてって棺桶のなかで眠らせるって言ってたわ」 少女はかれを見あげた。その顔はあっけらかんとしていた。まる が、彼女は返事をした。 で、ただそれだけのこととでも言うように。思っていたとおり彼女 「あたいの家族は野に住んでたんだ。しばらく百姓をやってたわ。 は無邪気なのだとネルソンは考え、一瞬・ほんやりとして無邪気さと あたいはここで生まれておとうが動きまわるのに飽きるまでほう・ほ う動いたよ。それから、あたいたち農場つくったの。おとうがつくは何だろうかと怪しんだ。 ったの。あっちの方の谷間だったわ」ーー。・彼女はあやふやに南の方そよ風が吹いて森の匂いがあたりに満ちた。針葉樹のつんとする を指した 「それから穀物とじゃがいもを植えて、それから、家匂い、チョークベリーだろうか、茂みからくる豊かな香り、ネルソ 畜をなにか狩り集めようとしたんだよ。もうちょっとで、山羊を手ンはこれが好きだった。それに針葉樹がびっしりと茂り、地面が茶 色の針の落葉にうずまった場所の、かびくさい匂いが好きだ。ある に人れられそうだったわ。でも、 ハトロールに見つかったの」 ネルソンはうなすいた。にがい思いだった。なにが起ったのかはときなど、草の実や木の葉を指先でつぶし、芳香を味わいたいとい わかっている。彼女の父親は死力をつくして戦い、最後に敗れたのうただそれだけのために木や茂みをもとめ、森中を捜しまわったこ ともある。だが、今朝はそうよ、 だ。無謀にも、最後まで抵抗をやめなかった。なんとか投降したい と半ば望んでいたに違いない。だが投降しなかった。それもただ、 かれは立ち上り、グリニスが棄てた空罐を拾おうと手を伸ばし 意見の分かれた家族のまえで父親としての面子を守るために。 た。彼女は後退し、飛んで逃げるそというように身がまえた。かれ 「逃げたのはきみたけなのか ? 」 は動作をやめ、立ったその場所にちょっと凍りつき、それから後に さがった。 「まあね。みんな連れてかれたわ」 「脅かそうとしたんじゃないよ。・ほくらはここにじっとしていられ 彼女はそっけなくそういって、罐のなかを覗きこみ、まだ残りが あるかどうか確かめた。 ないぜ。だって一ッ所にじっとしてたら、あいつらに見つかってし 「あたいは外の畑にいたの。でも、あいつらが来るのは見えた。丈まうだろう。ここに空罐を棄てて行くわけにもいかない。あいつら 4 5

2. SFマガジン 1978年5月号

な。つまり、きみは自分が現実であると考えているものが好きなん「さてと、修理もなんとか終ったし、もう栄養剤の交換もすんだこ だな」 ろだ。さあ、押して行こう。もどすんた」 かれはまた書類ばさみをとり、書類に目を通した。 少しほっとして、シャーマンは台に近づいた。 「この男の夢の世界は、この男の幸福のために構築された世界だ。 「すぐに、よくなるそ その世界では、かれを除くすべての人々が夢見る棺に住んでいる。 博士は手術台のうえの意識のない男に声をかけた。 そのような文明を打倒しようとしている厳しい個人主義者、これが 「この中断はうまく説明をつけてやる。正常な状態にもどったら、 この男の自画像だよ。だから当然、かれはほとんど一匹狼だ。完全少しばかり不愉快な瞬間の思い出としてしか残らない。そうやって にではないがね。というのも、それではこの男が幸福を感じないだおまえに、おまえの世界の現実性を納得させてやるーーーいや、おま ろうからさ。この男は負け犬なのだ」 えに説得が必要ならばの話だが」 「それがびったりだと思いますね」 シャーマンは眠っている男が、かすかに動くのを見、またなにか シャーマンは一 = ロった。 うめくのを聞いた。 「そうだな」 「押したしてくれ , 博士は真剣に答えた。 ・フロムガ 1 ドが言った。シャーマンは慎重に手術台の向きを変 「われわれにはかれの生命を奪う権利はない。また、いかに攻撃的え、ドアの外に押しだした。 だとしても、かれの個性を破壊する権利はない。それに、われわれ の発見する居住可能な惑星は、たいてい前から住んでいるものがあ ネルソンは遠くでグリニスの呼ぶ声を聞いた。 、、ル。あたいの声が聞こえる、ハル ? 」 るんだから、住めそうな場所を見つけたら、われわれはます植民地「大丈夫 を建設しなくてはならん。いや、これが最良のやり方だよ。われわ「聞こえるさ」 れは心理的なさまざまの欲求に、正確に適合した夢を与える。これ ようやくそう言って、かれは目をあけた。何十フィート はかれから奪った現実の人生に対する、まあ、補償といったところの地面に、自分の銃がころがっている。 だ。どんな人間にも、幸福を追求する権利だけはある。正常な人生「あいつらがあんたを捕まえちまったものと思ってたよ」 の代わりに、保証付きの幸福をやったわけだよ」 グリニスは静かに言った。 博士はこう言って、相手が納得するのをしばらく待っていた。だ「二人殺つつけたよ。どうやったかは訊かないで。でも、殺ったん が、シャーマンはそれでも、なにか他の任務に変わりたいと強く望だ」 んでいた。たとえば新しい前哨地の一つ、デネ・フ兌å) などで。 身を起した。目まいがした。あんな力で地面にたたきつけられた 博士はちらりと時計を見た。 のだから無理もない。かれは弱々しく言った。 かむこう

3. SFマガジン 1978年5月号

わ」とつぶやき、「このあたりでは、そういうお召し物、見かけま来る登場人物は誰ですか。禿げたユダヤ人がポヴァリー夫人にキス せん。とっても : : : とっても現代的で」 してる」サウス・ダコタ州スー ・フォールズの、ある教師は、た g 「レジャー ・ス 1 ッって言うんです」とクーゲルマスはロマンティ め息をついて考えた。まったく最近のガキときたら、大麻はやる ックな気分になり、「安売りしてたもんで」突然エマに接吻した。 Q はやる。連中、頭の中で何を考えてるやら。 そして、それからの一時間、二人は木蔭に寝そべって囁きあい、眼ダフネ・クーゲルマスがプル ーミンディルの浴室用品売場で待っ 差しでいろいろ意味深い事を語りあった。と、クーゲルマスは起きていると、クーゲルマスが息を切らしてやって来た。「どこへ行っ 上がった。ダフネとプル ーミンディル百貨店でおちあう約東を急にてたのさ」とダフネは叱りつけ、「もう四時半じゃないのさ」 「でも心配ない 思い出したのだ。「行かなくちゃ」とエマに言い 「渋滞につかまっちゃって」とクーゲルマスは答えた。 よ。じき一昃るから」 「お願いするわ , とエマは答えた。 翌日もクーゲルマスは。ハースキーを訪れ、たちまち魔法でヨンヴ クーゲルマスは情熱をこめてエマを抱きしめ、それから二人で歩イルに送られた。彼を見たエマは興奮を隠しきれなかった。二人は いて屋敷に戻った。エマの顔を両の掌にはさんで、もう一度接吻お互いの生まれの違いを語りあい、笑いあって何時間もすごした。 し、大声で叫ぶ。「 OX 、 パースキー。三時半までに・フルー 、、ンデクーゲルマスが去る前に、二人は愛を交わした。「どうだい、俺が イルへ行かなきゃならん」 やってる相手はポヴァリー夫人だそ」と彼はひとり言を言い、「大 はっきり、ポン、という立日が聞こえ、クーゲルマスはプルックリ 学一年に英文学で落とされた俺がだぜ」 ンに戻っていた。 月日がたっ間に、クーゲルマスは何度もパースキーを訪れ、エマ 「どうだい。嘘たったかい」誇らしげにパ ースキーが尋ねた。 ・ポヴァリーと、ますます親密で深い仲となっていった。 ースキー、もう山の神とレキシントン街で待ち合わせて 「必す本の百二十。ヘージより前に送りこむようにしてくれよ」ある る時間に遅れてるんだ。で、次はいつ行ける。明日は」 日クーゲルマスは魔術師に言った。「俺があの女に会うのは、絶対 「結構。二十ドルをお忘れなく。それと、この事は誰にも言いなさに例のロドルフとかいう奴にひっかかる前じゃないとな」 んな」 「そいつを出し抜くわけこや、 「な・せだい」と。ハースキー マードックに教えちまうさ のかい」 クーゲルマスはタクシーを拾い、中心街に急いだ。心が躍った。 「出し抜くわけにや いかないよ。相手は土地持ちの上流階級だぜ。 恋してるんだ、と思った。俺には素敵な秘め事があるんだ。と、ま連中のやる事っていやあ、女遊びと馬乗りだけだ。俺に言わせる さにこの瞬間、彼が気付いていない事があった。全米のいろいろな と、あいつの面は、ファッション雑誌に出て来る連中と同じさ。へ 教室で、生徒達が先生に、こう尋ねていたのた。「百ページに出てルムート・ パーガ 1 風に髪を染めてな。でも女にとっちゃ、あれも

4. SFマガジン 1978年5月号

「あたいを置いたきり、不意に行っちまったんだ。あたいのこと、 の人間は、愚かな夢のユ ートビアで眠っているから、・ほくたちには き「と、ただの間抜けなガキだと思 0 たんだよ。もう、二年か、三ま 0 たく手のほどこしようがない」 年もまえのことよ」 「あたい、捕まって夢のなかに押しこまれるのはいやだよ。 その声はまるでかすかに微笑しながら言 0 ているように聞こえけど、お城には住みたいな」 た。ネルソンはそれを寄妙だと思った。不意に、かれはたすねた。 ネルソンはまじまじと彼女を見つめた。まだコミ ューンを知らな 「睡眠者たちのこと、考えたことがあるか ? 」 いのだ、とかれは思いあたった。あそこにいたら、彼女は命令に従 「ときどきね。あの人たちの夢のなかって、どんなふうなのかなっ って子供を生み、おとなしく棺のなかに片付けられていたに違いな て思うのよ」 い。だが、彼女はまだ教条をたたぎこまれていない。もしも、夢の 「あいつら夢のなかじゃ、それが気に入ってるのさ。あの夢はあい なかに入るとしたら、それは彼女の意に反してということだ。だ つらのために造られるんだ。あいつらはその世界で幸福にや「てが、ネルソンにしても、ある例外を認めざるを得ないのだが = て、それを感謝してる。 しし力い、まさに、感謝なんだぜ」 かれは彼女に近づいた。 かれはしばらく夜の音に耳をすました。 「ぼくらもいっか、お城に住めるさ。人間たちがお城に住んでいる 「しかし、あいつらは無力なんだ。なにが起「ても眠 0 たきりで動どこかの惑星に行けるかもしれない」 けない。 目を覚せば、生きるすべもわからない世界にいる」 かれは夜空の星を見あげた。 「あんたが睡眠者だ 0 たとしたら、どんな世界を夢に見たいと思「あの空の星で、人間は神さまみたいに暮してるに違いないよ」 う ? 」 我ながら妙な声だった。 「睡眠者にはなりたくない」 かれはグリ = スを見おろした。月の光が彼女の顔をくまなく照ら 「そう。でも、もしそうだ「たら。お城に住みたいと思わない ? 」している。ま「たく宇宙の神たちにふさわしい女神のようだ、とか かれは初めてこんなことを考えた。結局、かれはこう言った。 れは思った。彼女は荒野のあちこちを見わたしている。彼女が言っ 「わからないな。だけど、城とは思えない。旅行するだろうな。星た。 へ行くのさ。ほら、あそこには全宇宙がある。人類はあそこへ行っ 「ここには森があるよ。風がある。あたいは森を見るのが好きだ たんだぜ。まだあそこにいるんたよ。きっと、かれらはもう・ほくたよ」 ちを忘れてしまったんだ」 かれは手を伸ばして彼女の顔を引きよせ、キスした。彼女はびく 「また帰ってくると思う ? 」 っとしたが、温かくキスを返してきた。 「いっか、あそこから誰かが戻 0 てきて、どんなところかと地球に彼女はちょ 0 と顔を離し、かれを見た。彼女はほお笑んでいる。 着陸してみるのさ。。ほくたちを侵略しようとするだろうな。大部分「フランクのときより、あんたが好きだと思うよ」 2 6

5. SFマガジン 1978年5月号

は、主人公が本から消えちまった。まあ古典というのは、千回読み「まだここよ、 返しても、何かしら新しい発見があるものなんだろうな」 「わかってるともさ。じっとしといで」 「パースキー、ニマを帰さなくちゃまずいんだぜ」とクーゲルマス 恋人達は至福の週末をすごした。クーゲルマスは前もってダフネは小声になって、「俺は妻帯者だし、あと三時間で講義が始まるん に、ポストンで開かれるシンポジウムに出かけるから、月曜まで戻だ。今のところ、お忍びで浮気する以上の事はできないよ」 、と言っておいた。一瞬一瞬を噛みしめるように、二人は映「わけがわからん」とパースキーはつぶやき、「こんなに確実な技 れない 画へ行き、チャイナタウンでタ食をとり、ディスコテックで二時間なのにな」 すごし、映画を観ながら寝た。日曜は昼まで眠り、ソーホーを とはいえ、手の下しようはなかった。「ちょっと時間がかかる 「これから、こいつをパラしてみる。 訪ね、エレーヌで有名人に色目をつかった。その夜は自分達のスイぜ」とクーゲルマスに言い 1 トでキャヴィアとシャンペンをとり、夜明けまで語りあかした。 あとで電話するよ」 ースキーのアパート へ行くタクシーの中で、クーゲ 朝になって、 クーゲルマスはエマをタクシーに押しこみ、プラザ・ホテルに連 ルマスはこう考えた。めまぐるしい週末だったけど、それだけの事れ帰った。講義には、やっとの事で間に合った。一日中、電話にし 0 、 はあったな。そうそうしよっちゅう、エマを連れて来るわけには、 がみつき、 ースキーにかけ、恋人にかけた。魔法使いの言うに かないけど、時々なら、ヨンヴィルと変化がついていいや。 は、故障の原因をつきとめるには、あと何日かかかるとの事たっ 0 、 ースキーの部屋へ行くと、エマは箱にはいり、買ったばかりの 服を納めた衣裳函類を、身のまわりにキチンと並べて詰めて、情を「シンポジウムはどうだったの」と、その夜ダフネが尋ねた。 こめてクーゲルマスに接吻する。「次は、あたしの所よ」とウイン 「まあまあだった」と答えながら、煙草のフィルターの方に火をつ クした。。ハ ースキーが三度箱を叩いた。何も起こらない。 けていた。 「ふうむ」と言って。 ( ースキーが頭をかいた。もう一度叩いてみる「どうしたわけ。あんた。ヒリ。ヒリしてるじゃない」 ・、、やはり魔法はきかない。「何かがおかしいんだな」とつぶやい 「俺がか。はは、こいつはお笑いだ。恬淡として落ち着いてるじゃ ないか。さて、ちょっと散歩してくるか」ドアをすり抜けるとタク ースキー、冗談だろ」とクーゲルマスはあわてて、「うまくい シーを呼び止め、。フラザ・ホテルへとって返す。 かないわけ、ないじゃないカ 「これじゃますいわ , とエマは言い 「シャルルが恋しがるもの」 「我慢しとくれよ、ね , とクーゲルマスは答えた。顔色蒼ざめ、汗 「まあまあ、熱くなるなよ。エマ、まだ箱の中かい」 まみれたった。もう一度エマに接吻すると、エレベーターめざして 「ええ」 駆けだす。ホテルのロビーの公衆電話でパースキ 1 ー相手に声を張り し学ー ースキーがまたーー今度は前より強く 4

6. SFマガジン 1978年5月号

「すみません。寝入ってしまったにちがいない」とわたしは言っ窟にはこびこまれ、入口をふさいであった。居住室がひとっ吹きた ・グラス製のドームで、 おされたたけだった。居住室はファイ・ハー 六フィートの深さまで土台を埋めて固定されており、窓やドアをし 「寝入っただって ! 」いっそう興奮した大声で、浮かれた口調たっ つかりしめて用意しさえすれば、風にとばされるようなものではな た。なにかひとつじつに調子がはすれているような気が、わたしに 。採集装置を組みたてられるのは三週間後のことだが、天候さえ はしはじめた。「屋外で暴風雨にあいながら、寝入っただなんてー ちゃんと回復すれば、それはなんの障害もなくおこなわれるだろ 先生、隠れ場所はあったのですか ? 怪我はないのか」 そう言われてみても、自分ではわからなかった。身をほどいてしう。 そのできごと全体について、さまざまなたわごとが語られてい らべてみようとしたが、両腕はしつかりとひざの周囲に巻きっき、 そのはずしかたをわすれてしまったようだった。自分でちちこまつる。わたしは、フィオナに命を救われたのかもしれない。わたしに はわからない。気圧計をひと目見れば、それで十分だったのではな たのだったのに。どうやってふりほどいていいかわからなかった。 いかと思う。隠れ場所をもとめて走り、逃げこめただろう。洞窟は そこで、外の様子が変わっていることに気づいた。なにかが足りな いくらでもあるのたから。とにかく、フィオナの警告によって〈第 いのだ。 一時点〉全体が助かったなどというのは、まったくのたわごとだ。 「行ってしまった」とつぶやいた。「フィオナ。行ってしまった」 ャーロウは〈風のダンス〉のことなどなにも知らない前に、当て木 しばらくたって、からだをうごかしはじめた。だが、遠くまではをうちつける命令をくだしたのである。じっさいわたしは、翌日、 行けない。わたしをはこ・ほうと、皆ができるかぎり急いでやって来〈ンリイとジョージがそれをャーロウに身振り入りで説明している 仲間のほとんど全員である。道の途中には、さまざまなかたのを聞いた。とても珍妙なかっこうだった。それに、フィオナがわ の深さの一時的な川も二本あたしを観測所に行かせてくれさえしたら、目盛りの数字が、他のど ちの小川ができていた。数フィート る。木の幹や玉石が、そこらじゅうに散乱している。けれどわたしんなものよりも説得力をもった、ヤーロウへの警報となったはす は歩くことができ、かつがれて行くことはなかった。だが、仲間た だが、そういうわけだーーーヘンリイの迷い子の赤ん坊が成長し ちは、わたしのめまいが本当におさまりきるまで、かわるがわるか て、基地と、それにもちろんわたしとを救ったのだということを、 つぎはこんでくれた。基地には、自分の足で歩いてはいった。 リケーン ほとんど全員の者が、かたく信じている。それに反対できないよう 損害は、思いのほかに軽微だった。リンダによれば、ハ か、あるいは台風の、端がかすめただけだというーー気象観測所がな雰囲気が形成されてしまった。わたしはもう、動植物学に関する 丘の上から吹きとばされて、嵐がどう展開したかの記録はないのだ寄稿を拒否することはないし、新聞の名称は、〈翼屯観察者情報白 そうだ。鉱石採集装置の部品や、それより重要な機械類はすべて洞亜紀新聞〉とあらためられた。

7. SFマガジン 1978年5月号

・スケートの車輪の上に乗せた、大きな物を押していた。上に乗っ は言い、椅子から起き上がった。そして、これを最後に通院をやめ ていた絹のハンカチを取りのけ、埃を吹き払う。見た所、塗りが粗 7 それから二週間ばかりたったある晩、クーゲルマスとダフネと雑で安つはい、中国風の大箱だった。 が、ア。ハートで、古家具然とふさぎこんでいる時、電話が鳴った。 ースキー」とクーゲルマスは言い 「何をやらかすつもりだ 「私が出るよ」とクーゲルマスは言い 「もしもし」 「クーゲルマス、こちらはパ 「クーゲルマスかね」と向うは言い 「よく聞いてくれ」とパースキー。「こいつは何とも素晴らしい物 ースキーだ」 だそ。去年の〈ビシアス騎士会のタベ〉のために造り上げたんだ : 、キャンセルをくっちまった。さあ、箱にはいってくれ」 「誰たって」 「おいおい、そうしといて、あとから針山みたいに剣でも突き立て ースキーだよ。それとも、〈パ いかな」 るつもりか」 「すまんが、もう一度」 「剣なんてないだろ」 「あんた、日々の暮らしに変化をもたらしてくれるような魔法使い クーゲルマスは仏頂面をしたが、やがて、ブップッ言いながら箱 を捜して、街をうろついてるとか聞いたが、違うかねー しひつな に。いった。顔の正面にあたる、むき出しのべニヤ板に、 : ツ」とクーゲルマスは声をひそめ、「まだ切るな。あん模造ダイヤが二つ糊づけしてあるので、眼に留めずにはいられな ースキー」 た、どこから電話してるんだい、パ 「何かの冗談のつもりなら」と言いかける。 「冗談どころか。いし力い、話はこうだ。あんたと一緒のこの箱 翌日の午後早く、クーゲルマスは、・フルックリンのブッシュウィ に、何か小説をほおりこんで、蓋を閉めて三度叩くと、あんたはそ の階段を登っていた。玄関ホール ク地区にある壊れかけたアパート の暗闇を透し見て、お目当てのドアを見つけ、・ヘルを鳴らした。後の小説の中に現われるって仕掛けだ」 悔することになるだろうな、とひとりごちた。 クーゲルマスは、信じられないと言うふうに顔をしかめた。 たちまち、背が低く、やせていて顔色の悪い男が出て来た。 「正真正銘だぜ」とパースキーは言い、 「神に誓うよ。小説じゃな 「あんたが〈パ ースキ 1 大王〉かい」とクーゲルマスは言った。 くてもいいんだ。小咄でも芝居でも詩でもいい。世界最高の物書き 「〈パースキ 1 大人〉だよ。お茶はいるかい」 が造り出した女性に会えるんた。あんたが夢に見るような女、誰で 「いや、欲しいのはマンスだ。音楽た。恋と美が欲しいんだ」 もだぜ。絶世の美女と、好きなだけ遊べる。それで、もういいやっ 「で、お茶はいらん、と。なるほどな。すわりたまえ」 て時になったら、一声かけてくれ。たちまち、ここへ戻してやるか ースキーは奥の部屋へ行き、箱や家具を動かす音が聞こえてきら」 た。パースキーが再び現れた時には、キイキイ音をたてるローラー 「 / ースキー、あんた、どっかの病院に通ってんじゃないか」 ースキー大人〉の方が通りがい

8. SFマガジン 1978年5月号

と、そのまま、壁に叩きつけた。背中を強打し、息がとまる。床に 「職業上の秘密だ」 崩れ落ちそうになったおれを目がけて、男の足が飛んでくる。それ「強気なのね」 はゆっくりとした動きと思えたが、おれの動きはもっとのろかっ レディ、、、 カ徴笑む。それはうっとりするほど魅力的だ。男が何か言 た。よけようとしても身体が動かない。足はおれの腹のあたりにめ いながら、前に出ようとする。レディは手を上げてそれを止める。 り込んだ。その痛さに、涙が吹き出す。胃から、熱いものが、ロの 「無理にとは言わないわ。でも、あなた、この人はあなたを殺した 中に吹き上げる。 くてしようがないのよ。素手でも平気だと言ってるわ。私と寝たこ 「やめなさい、もう」 とが許せないのね、この人は」 それはレディの声だった。おれは、うすくまったまま見上げた。 冗談じゃない。おれは、ま・せつ返してやろうとしたが、男の真剣 「タケル、あなたが、殺したの ? 」 こいつは本気なのだし、たしかにその な顔付きがそれを許さない。 静かな口調だった。静かすぎる。 気になれば、おれを殴り殺しかねない。 たとえば、、 「来たときには、死んでいた。二人とも」 「タケル、あなた、私たちのことを誰かに話した ? 「どうやって中に入ったの ? 」 マダに」 「ロックされてなかったんだ。ドアは」 ジュリーだけだ」 「いや、知っているのは、 少しすつではあったが、感覚が戻りはじめた。男はレディのうし そう言いながら、おれは舌打ちした。そうか、またあいつなの か。レデイも同じことを考えたらしい ろに立って、おれを見おろしている。おれも、決して弱い方ではな 「ジュリーね、彼女に尋いてみる方が早そうね」 いと思っていたが、その白人の男には、勝てるという気はしなかっ た。何よりも、筋肉の質そのものがちがうと思えた。だが、もちろ レディは、ヴィジホーンに近寄る。男の目も、それにつれて動 ん、このままで済ませるつもりはない。済ませてたまるか。 ・ガンに飛びつく。男もすぐさ く。今だ , おれは、床のレーザ 「じゃあ、誰がやったというの ? ま行動に移ったが、遅過ぎた。おれの手の中に、レーザー・ガンの 「おれがやったんじゃない。だいたいそんな時間はなかった」 銃把がすつ。ほりと人る。途端に、気分が良くなる。まったく現金な おれは壁を頼りに、のろのろと立ち上がる。実際以上に、弱ってものだ。男は、銃口が、自分に向けられていることを知って、動き いるように見せかける。レーザー・ガンは、まだ床に転がったままを止めた。視界の端にいるレデイも、立ち止まる。 だった。慎重に。おれは、自分とそこまでの距離を測る。 「馬鹿な真似、やめるのよ、タケル ! 」 「黙れよ。やられつばなしというのは、おれの性分に合わないの 「私とハープのところに来るつもりだったのね、タケル ? 」 おれはうなすく。 さ」 「どうして、あたしたちに目を付けたの ? 」 男は、腰を落として身構える。こいつはやる気なのだ。おれは、 門 7

9. SFマガジン 1978年5月号

深夜のホームではないか。 先月号のこのページで、どうしようもない大ミスを演 それを言うと、またご連中は、なあんだ、お前の夢じてしまった。秘境冒険小説の先駆者として紹介した久 ではないカ / ~ 、カこするな、と言うかも知れないけれ生十蘭の項の次の部分だ。 ど、何のこれが夢なものか、しし 、え、夢ならまだよか った。そのとき有楽町駅で目ざめた私は、白サテンの ( 十蘭は ) 的なものは、ほとんど書いていないよ イ・フニングに、結婚の時買ってもらった真珠の首飾 うだが、たった一篇、昭和十四年八月号 ~ 九月号の り。丁には・日いハント ・・、ツグに、とぬいとりのあ 「新青年」に阿部正雄で発表した『地底獣国』は、 る、メイルさんに借りた手巾まで持っていた。どうし 小栗虫太郎の〈人外魔境シリーズ〉に先たっ的 て、これが夢といえよう。 秘境冒険小説として注目される。 ああ、なっかしのオイコットよ。恋しいわが妻、わ が子よ、私はもう気が狂いそうになり、日も夜も、こ これが、ひどいまちがいなのた。一九二ページに、・ほ のドレスに涙を流し、その涙を、メイルさんの手巾でくはちゃんと、小栗の〈人外魔境シリー ズ〉の第一作が 拭い、せめてもの気安めに、フィリツ。フ世界地図 ( 一昭和十四年の「新青年」四月号 ~ 五月号に掲載された、 九九七年版 ) 等をひらいては、せつない郷愁に身もだと書いている。どうして、後から書かれた作品が先に書 えしているのである。 かれた作品の先駆になるのだ。ほんとうに、すみませ ん。単なる勘ちがいなのです。 この時代のこの種の作品は、夢オチが多いが、『スカ したがって、 1 トえの不思議な郷愁』は、これを使っていないのもう これはあくまでも憶測だが、あるいは虫太郎はこ 酒を飲んで未来へタイムスリツ。フし、ふたたび酒で現 の作品に刺激されて〈人外魔境シリーズ〉を書いた 在へもどる。外国にも、こんな時間旅行法はあんまりな のではないかとも考えられるのだ。 いんじゃないかな ? ともかく、その主義・主張は別にして、あの時代に、 というのも、おはなしにならない推論。全面的に削除 あの人が : : : という点がいかにも「こてん古典」にびっさせていただきます。ここに、おわびします。ゴメンナ たりだ。花森安治は、ほかにはもうは書いていない サイ ! ゴメンナサイー のだろうか ? ごそんじのカた、。 、 - こ教示くたさい。 囹おわび : 2 、

10. SFマガジン 1978年5月号

ら、 「さあどうだ。屁理屈を並べて言いのがれようつ て、ガンガンわめく頭を無理矢理に働かせる。今「どれほどって、それは : : : 」 度は悪魔の奴に理屈を言わせないようにしないと俺はロごもった。またやられたのだ。ここで何たって駄目だぞ。正確にやってくれよ。それが終 馬力だなんて言っても、では体のどの部分がどのらないうちは、おたくはこの場から消え去ること 「俺を超人にしてくれ。世界一のカ持ちになりたように働いた時の馬力だ、なんて言いだすに決っはできないんだからな」 。過去現在未来、人類の歴史が継続する限りにている。 「どうした。言わねば、この願いも取下げたものそして十年後。悪魔はせっせと計算を続行中で おいて、空前絶後の怪カ男になりたいんた」 ある。その間、俺は″本物の悪魔″の存在を利用 金が駄目ならカがあるさ、てなもんだ。さあ、と見做すそ」 と自信を持って悪魔を見た俺は黙っていた。慚く気がついたのだ。これがして商売を始め、成功した。累積黒字は十億円に これならどうだ。 悪魔だ。思えばあの老占師もグルだったに違いな達し、収入に応じて権力も得た。つまり願い事の 。今の世の中、魔法全書を買っただけで願いが二つはかなえられたわけだが、残るひとつはまだ 俺の心臓がドッキン ! とひと打ちし、肝ッ玉かなうなんて、考えてみれば虫が良すぎる。つままだ続く。そう、この世がある限りだ。 ・か・ユッー . り、俺は奴等のいいなぐさみものにされているだ近頃では悪魔の奴、計算の合間に俺の顔を横眼 と縮みあがった。 でジロリと睨むようになってきた。 それほど悪の形相は凄じかった。もともと吊けなのだ。 で、俺は怒った。くそう、こうなったらみてやまるで悪魔の顔でも見るように、ナ りあがっている眼尻が更にあがり、溶鉱炉みたい に燃えている。その唇が開いた、と思った途端がれ。 「さあ、最後の望みを言え。わしは万事正確をモ 「この愚か者めがⅡ」 ットーとしておる。中途半端な仕事はせんから、 耳のそばで原爆が破裂したかと思うような物すそのつもりでおれよ」 ごい怒声が響き、壁にヒビが走り、窓ガラスが粉よし、決めた。 応募要領四百字詰原稿用紙八枚 粉に砕け、ア。ハート 「あんたにして欲しい仕事がひとつある。正確に 全体がぐわーんと鳴動した。 ■応募方法原稿に住所・氏名・年齢・職業 「おまえにはまだわからんのか ! わしは中途半遂行してもらいたい」 を明記、封筒に「リーダーズ・ストーリ 端が大嫌いなのだ ! 力が欲しいのなら、どれほ「無論だ。わしはやると言ったらトコトンやる。 イ応募」と朱筆の上郵送のこと。。ヘンネ どのカか、何馬力のカか、ハッキリと指定せい で、仕事は何だ ? 」 ームの場合も本名を併記してください。 「パイだ」 こんな簡単な事がどうしてできんのだリ」 なお、応募原稿は一切返却しません。 : ・こ、だから、古今東西、最大の」 ■応募資格一切制限なし。ただし、作品は トを崩壊させんばかりの悪魔の怒鳴り声「兀を計算してもらう。円周率だ。円周十直径の 商業誌に未発表の創作に限ります。 値だよ。実際に円を描く必要はない。あくまでも の間を縫って、そう俺が言うと、 ■賞品金一封。 「最大の怪カ人間は知っておる。わしが言うの数学上の概念の上で扱うんだ。数値のみの問題 第掲載作品の版権は早川書房に帰属いたしま は、その者よりもどれほど力が強いのか、それをさ。以上、それだけだ」 す。 問うておるのた ! 」 3 7