アンテオサウルス - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1978年6月号
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1. SFマガジン 1978年6月号

た」 捕えられたと感じ、恐怖に打ちひしがれていたのであった。 ゲラッハは、きゅうに話題を変えた。 同様に、人類が、恐竜というとき、まっさきに、ドロマエオサウ 4 工べレットは、知った。異類のほうも、人類ーーーホモサビエンス ルスを、想起することはありえない。巨大な・フロントサウルスや、 に対して、偏見を持っていたのた。かれらが、マキッガと呼ぶと兇暴なテイラノサウルスなど、進化史からいえば、過適応に陥った き、それは、主として獣窩類を指す名詞であり、体も個体数も収動物の名が、あげられるのがふつうであろう。なぜなら、ドロマエ 斂した中生代哺乳類も、そのなかに含まれているというニ = アンスオサウルスの子孫が、進化の主流におどりでるのは、それから、は でしかない。兇暴なアンテオサウルスや、巨大なテイタノスクスのるか後たからである。しかも、人類は、その進化史を経験していな 子孫から、かれらにとって架空の進化史において登場する種とし てしか、人類を眺めていないのである。なぜなら、新生代に人って「ヴィンス、ここだ」 からも、恐竜が減亡しないというかれらの進化史では、真正哺乳類ゲラッハは、回廊をまわったところで、立ちどまった。ドアを開 の占める地位は、ほとんどないからである。かれらが、マキッガとくと、そこは個室になっていて、一人の異類がいた。 呼ぶとき、それは、二億二千万年まえの獣窩類を指すだけといって「ヴィンス、こちらが、われわれの司令ボラギ長官だ」 ジュラ紀、白亜紀の哺乳類化石は、地球上に産出したすべて ゲラッハは、エベレットを中に導きいれ、掛けるようにすすめ を集めても、石油罐ひとつにおさまってしまう極微量にすぎない。 た。ボラギ長官と名のった異類は、眼のところだけスリットの入っ デルタテリジウム、モルガヌコドンなどの中生代哺乳類は、きわめ たフェースシールドをはねあげ、エベレットを迎えた。 て矮小な生物であるが、恐竜王朝の圧政のもとで生きながらえる、 「よく来られた、エベレットくん」 ス・ヒンー 種としての強靱さ いわばしぶとさを持っていた。だが、哺乳 ボラギ司令が話すと、声が流れでた。ここには、翻訳機が備えっ 類時代を持たない異類の世界では、それらの哀れな生物は、無視しけてあるらしく、会話はリアルタイムで伝えられる。 うるくらいの存在でしかなかった。 「ヴィンス・エベレットです。私は、あなたの部下を、たくさん殺 ゲラッ、・、、 / カマキッガ かれらの言葉で哺乳類に相当する単語しました」 を口にするとき、それは、アンテオサウルスやテイタノスクスの謂 工ペレットは、やや投げやりな口調でいった。ここでのかれの処 である。 置は、おおよそ予測できた。もはや、いかなる手段を使っても、か 工べレットは、おもいあたった。ゲラッ ( を捕えたとき、この異れの助命がかなえられることはないだろう。 類は、すこしも表情の変化を示さなかった。そのため、かれらに感「エベレットくん。私は、きみのことを、部下のゲラッ ( から聞い 情がないというふうに誤解してしまった。しかし、そのとき、ゲラている。かれは、きみのために、多くの部下を失った。そして、南 ッ ( は、兇暴なアンテオサウルスから進化した、恐るべき野蛮人にアフリカの基地に召還され、降等された。だが、それは、ゲラッハ れん ス・ヒシー しゅう

2. SFマガジン 1978年6月号

なります。その子孫は、しだいに矮小な体嶇になり、中生代のジュ はかるのである。アンテオサウルス王も殺され、太っちょのタビノ ラ紀、白亜紀の恐竜全盛時代を、細々と生きのび、新生代に至り、 ケファルス宰相も、血祭りにあげられる。 哺乳類の血筋を伝える唯一の正統な後継者として : : : 」 新たに興った恐竜王朝は、先代の獣窩類王朝ゆかりの者を、草の ュールの声が、はすんた。 根をわけても探しだし、息の根を止めようとする。たが、先王朝の 工べレットにも、よく理解できた。 遺旧し、。 フリステログナータス王子は、先王朝に心を寄せる百姓家に 古生代ベルム紀・ーー・二億二千万年前の地球王国のお家騒動の一幕かくまわれ、名もなき庶民の子として育てられ、やがて逆臣が自減 として理解できる。 したあと、はじめて先王朝の後継者として名のりでる。 そのころ、地球には、獣窩類王朝が栄えていた。王位に即いてい その後、プリステログナータス王子の子孫は、幸せに暮らしまし たのは、さしずめ、古生代のライオン アンテオサウルスであろた という筋書になるはすなのである。 う。アンテオサウルス王のもとには、太っちょのタビノケファルス プリステログナ 1 タスは、古生代ベルム紀の代表的な獣窩類であ 宰相や、テイタノスクス大臣などが仕えていた。精悍なイノストラる。体長一メートル強、体重五十キログラムの小さな動物にすぎな ンケビア隊長や、お調子者のモスコプス道化師なども、獣窩類の宮 いが、いかなる方向へも進化できる雑食性の可能性を秘めている。 廷にとって、なくてはならない登場人物であった。 百獣の王アンテオサウルスのように、体驅の巨大化や、捕食行動の テラ・フシグ・・タイナスティ 平穏無事な獣窩類王朝に、とっぜん悲劇が訪れる。下賤な生ま特殊化は起こっていない。タビノケファルスのように、鈍重なまで れー・ー槽歯類から進化した、恐竜という名の一味が、王家の転覆をに体躯を拡大してもいない。プリステログナータスは、三畳紀にあ ロ 4

3. SFマガジン 1978年6月号

人の異類を殺傷したにもかかわらず、即座に殺されることなく、信ボラギ司令は、言 0 た。 頼すべき勇者として遇せられている。 「それで、どうするつもりですか ? 」 6 2 = べレットは訊いた。代表として知っておかねばならないことで ある。 ヴィンス・ = べレ ' トは、異類のタイム「シンで、一億五千万年 「白亜紀後期にもどり、きみたちと決戦する。」すれが勝 0 かは判の時空を越え、白亜紀後期末に運ばれることにな 0 た。かれら異類 らない。ともかく、地上の生態系を破壊する戦闘行動は、・ とちらのの基地は、二つある。 = べレ ' トが連行されたのは、南アフリカの 種族にと 0 ても望まし」一」とではない。人工衛星軌道あるいは月面ほう 0 基地である。そ = は、古生代〈 ~ 、紀末・・ー・ら」さ 0 きまで も含む宇宙空間に限るべきであろう」 工ペレットたちがいた場所と、空間的には一致する。 異類の司令は、具体的な条件を提示してきた。 時空間をとびこえて実体化したタイム「シンは、基地のなかに出 勇者である = ・〈」 ' トを信頼できる交渉相手とみて」るからであ現した。そ = には、異質 0 文明をも 0 異類 0 軍事科学技術の粋が、 ろう。 誇示されていた。 「私の一存では決められません」 そして、 = べレ ' トたち人類は、この敵との決戦を、間近にひか 工べレットは、首を振った。 えていた。 ことは、あまりにも重大すぎる。工べレット 一個人で決められる ( 以下次号 ) ことではない。 ゴビ砂漠の人類基地と、南アフリカ、 北アメリカの異類基地と 註 1 アンテオサウルスとプリステログナータスの復元図は、・ 長らく対峙してきた。おたがい冫」 こ女撃をさしひかえてきた、た ・。 ( ッカーの原図をもとに、スタジオぬえが作成した。 註 2 先号、タ。ヒノケファリドとあ「たのは、タピノケファルス目 ったひとつの理由は、それそれの先祖にあたる動物が棲息する地上 という意味である。プリステログナータス目は、プリステログナ 戦乱の修羅場にしたくないということにつきる。 シド (Pristerognathid) と呼ぶ。 異類のボラギ司令の提案は、それそれ両種族の先祖にあたる動物 註 3 「ドロ = オサウルスが白亜紀に無視しえない存在であ 0 た 核戦争の惨禍にまきこむことなく、決戦しようということであ ことは明らかである。ドロマエオサウルスは、山のようなテイラ いわば ( 双方の納得できる条件で、戦場を限定しようというこ ノサウルスをしのぐ恐るべき存在であった」 こであろう。 The Hot ・ blooded L)inosaurs. by Adiran J. Desmond ( 『大 恐竜時代』アドリアン・・デスモンド。加藤秀訳より ) 「これから、きみを、白亜紀に連れていくとしよう。話は、それか つだ。人類とのあいだに、とりきめをしたいと思う」

4. SFマガジン 1978年6月号

談義にもどってしまった。そばに、同じ人類であるところのエベレ は、きわめて難しい。しかも、見かけだおしの獣窩類の外観とはう トがいることなど、 いっこうに気にかけていないようである。 = らはらに、その種としての内在的な脆弱さが、はっきり証明され べレットの無事を確認したところで、もはや用件は済んだという形た。このまま放置しておいても、獣窩類は、より優れた恐竜類の敵 になっている。 にはなりえないのである。 「確かに、獣窩類は、中生代に入ると、衰微していく。三畳紀に 「ヴィンス、話したいことがある。われわれの司令に会ってほし アーケオカニス は、始祖犬とでも呼ぶべき、シノナータスのような傑作を生みたす が、ジ = ラ紀には、地球上どこを探しても、一匹の獣窩類も見かけ古生物談義に花を咲かしている = ールから、爪はじきにされた形 なくなる。かれらのなれのはての哀れな哺乳類が、細々と生きながのエベレットにむかって、ゲラッ : 、 ノカ一一 = ロった。 らえているだけた」 「ルルロ、私は、捕虜た。・ へつだん懇望する必要はない。その司令 ュールが叫びたてると、異類の一人が、その言葉を通訳しはじめのまえに、私を連行すれば済むことだ」 た。かれらの古生物学者は、人類の言葉を解さないらしい 工べレットは、そう答えて戸口に向かった。ュールは、エベレッ 「獣窩類は、恐竜類に亡ぼされたといえる。われわれも、この原因 トが退室するのに、まったく気づいていないようであった。 を研究した。ここでの掃討戦を中止した理由も、そこにある。獣窩「ヴィンス、われわれ二つの種族の手に、地球の進化史が握られて 類は、あまりにも突然、あらわれた。原始的な爬虫類の特徴を残し いる。そのことが、地球史の未来を不安定にしている。われわれの ながら、一足とびに哺乳類になろうとした。温血性、体毛、歯の分未来か、きみたちの未来か ? その決着をつけねばならない」 化などの獲得形質と、原始的な体構造とが、きわめてアイハランス ルルロ・ゲラッハは、言った。この異類も、エベレットの手の内 だった。いわば、高のそみをしすぎた、畸形的な生物たった。それを見抜いている。また、 = べレットのほうも、異類の手の内を見抜 に対して、恐竜は、それなりにバランスがとれていた。この差が現 いている。おたがいの手づまりな状態は、どちらの側からも打開さ われたと見るべきだー れていない。 異類の古生物学者は、通訳を介して言った。かれらは、協定侵犯「その決着がつけば、われわれ二つの種族のどちらか一方が、地球 になるのを覚悟のうえで、おもいきった賭けにでた。南アフリカと史から消えることになる」 北アメリカの二つの基地から、タイムマシンを総動員して、白亜紀 工ペレットは、回廊を歩きながら答えた。 からベルム紀へと、一億五千万年の時間距離を遡行する作戦を敢行「ヴィンス、はじめて、きみと出会ったときのことを覚えている した。やがて哺乳類になるべき獣窩類の種族減尽を行なうためであか ? 私は、恐ろしかった。なにしろ、きみたちの言葉でいう、ア る。だが、かれらは、その大作戦を、すぐさま中止した。 ンテオサウルスや、テイタノサウルスの子孫に、捕えられたのだ。 恐竜の始祖になる槽歯類を殺さすに、獣窩類だけを掃討することどのような蛮行を加えられるかと思うと、生きた心地がしなかっ スビシー