星まあ、・ほくの場合、小説を書くときにかなりの神経を使うの 星ふしぎだなあ。 が、漢字と平仮名の使いわけなんだけどな。 だから、その枝葉末節の小説作法というよりも、そっちをなん うん。 とかしてわかればいいんだけども、これはだれにも教えることが 星これなんか、外国人にはわからんだろうな。 できないものかしらんねえ ? どういうふうに使い分けているの ? というのはね、・ほくの使 星いや、あの : : : だけどストーリイの作り方というのは、これは ・ : 日本の文字には三種類あり、なおかっルビと い分けをいうと : テクニックとして・ほくはあるんじゃないかと思うんだ。碁や将棋 いうものを使える。というわけで、非常に文章を読みやすくでき の定石みたいに、勉強によってある程度身につくんで : : : だから る : ・ : ・昔、朝日か毎日で調査の結果が出たけれど、文章を最も早 ふつうの人は、。ほっと出てきたアイデアを、どう書いたらいい く読みかっ理解できるための漢字と仮名の混じり方の割合だなあ か、そこがわからなくてむざむざ消えてゆくものがずいぶんある んじゃないかと思うわけた。 アイデアはあるが : 星ああ。そうよねえ、うん。 じづら そうすると、印刷されたときの字面というか、いちばん読みや 星それがアイデアで終っちゃっているのがずいぶんあるんじゃな 、と・まくは思ってるん : だから、・ほくのがある程度読まれているというのは、こすくなるように漢字と平仮名を使うのがいしー だけど。区切りには漢字が使われていると読みやすいし、これは れぐらいならおれにも書けるというふうに読者が思うから読まれ 当用漢字だから必ず使うなどというのはつまらんことだと : : : あ ているんだと思う。 カラオケ・・フームといっしょですな。 なたの場合には、どういうことを ? 星やはり、文字面、印刷されたときの文字面 : : : 自分なりに納得 星 ( 笑 ) そうだなあ。 のゆく : : : まあ美的感覚、といやあなんだけど : カラオケ文学か : : : それをずーっと書いていたら、こりゃあか いや、そうだ、美的感覚だな。それからつらいのは、印刷され なわんというところがあるはずだけどね。・ほくはあなたのが外国 たときの行更えがまずい場合だね。 でよく読まれているというのは、現代日本の文章の代表的なもの としてとらえられているのじゃないかと思うな。 星そうだなあ。まあそこまで気にするのは人の好きすき、作家の あれだしなあ。 星どうかねえ。 ・ : ところで、戦争体験が、あなたと・ほくはちょ そりやそうだ : 日本語の教科書的な読まれ方をされているんだね。あなたに全 : ・ほくはこれからも若い人を対象にして戦記物 っと違うせいか : 集を送ってもらったエール大学の学生 : : : あの人も夏休みのあい 5 を書いていくつもりなんだけども、戦争を悪いことをしましたと だトロント大学で日本語の講義をやっていたらしいよ。あなたの しよくざい 謝りながら書いているようなものがこれまで多すぎて : : : 贖罪ム 作品を教科書にしてね。
星そうだなあ。 そうだ。だから今日ぼくが書いたエッセイにね、高級官僚の天 ほんと、つまらないことかもしれんが。 下りはいけないとジャーナリズムはさわぎたてるだけでなく、な 星うん : : : 生き残っていて申し訳ないような気分か ? ぜいけないかの根拠を示せと、そして告訴しろ、と。悪い悪いと そう。なんとなく自分だけ、、、 しし目をしたという感じでね。そ いうだけではいかんわなあ。悪いならやめさせるべきだろ。悪く れに腹が立つのは、ただ生きていたということだけで、日本の政 ないから行っとるのかもしれないぜ。 府は・ほくらもふくめて、無理に戦争に引きすり出したものに、な星うん。 んの補償もしていないわな。 そのへんをはっきりしてくれればいいのに。 cn とあまり関係 星うーん。 ないか ? 貴重な時間を無理に引ぎずり出しましてと、一言、礼ぐらいい 星だから、美濃部さんがだめになったというのも、マスコミが変 えばいいのになあ ( 笑 ) 。 にかわいがってしまったから、体質改善をやりそこねて、哀れな 星そうだそうだ ( 笑 ) 。 ことになっちゃったということでしようなあ。 職業軍人はまあ別よ。しかし、学徒出陣もふくめて、召集で無 さてと、お父さんの会社が倒れたと、それで、そのときから 理に引きずり出した連中に、天皇陛下も、すみませんでしたとは にどんなふうに移っていったの ? 平行してやったわけ ? ・ほ つきりいえばいいのになあ。・ほくはどちらかというと右のほうだ くがおっきあいねがったのは、どうもそのへんあたりからだろう けども、ああいうはっきりしないところは、・ とうも気にくわんな と思うんだけども。 あ。 星これもまあ何回も書いちゃったことだけどさあ。それでまあ、 いっしょに靖国神社へ帰ろうといったような連中がたくさん死 なんか一種の精神的・時間的に空白状態に陥って、それでたまた んでいるから、いくらさそわれても、いまさら別の方向へ行くわ ま五反田にあった空飛ぶ円盤研究会に出入りしているうちに柴野 けにはいかんから、いやだなあと思っても、保守勢力側の肩を持拓美と知合い、宇宙塵を始めた、と、しかしまあ、そういうほう ちたいわなあ。ところが自民党のほうは、何か悪いことばかりし に進む傾向がなんか子供のときからあったことは確かたな。 ているようなムードがあるわなあ。実体は知らないが、悪いやっ そこそこ、そこを聞きたいわけだ。そういうものがお父さんの が多いという感じね : : : あれを早く払拭してくれんかなあ。 会社のことで出てきたのか、なぜを書くようになったのか、 星いやあだけど自民党は、それもまあ、なんとなくマスコミの操それも人並でないとっぴなことを考えるようになったのか ? 作じゃないかねえ。マスコミがしよっちゅう自民党をたたいてる星うん、それも「奇想天外」の評論大全集に出ている福島さんと から、自民党がそれによって体質改善を徐々にやってきているか の対談でしゃべっちゃったけども、原田三夫さんの科学解説記事 ら、政権をずっと持ちつづけているんたと思うんで : とか、海野十三のとか、乱歩さんの怪奇探偵小説・ :
ーーはなぜ好きですか ? 星いや、ほかの小説があまりにもつまんねえせいじゃねえかな。 星いやあ : : : 「掌の小説」というのは、ふつうの人は読まない ぼくは、あらゆる小説が的なものになってゆくような気が で、身辺雑記のスケッチだろうと思っている人が大部分たろうと せんでもないな。考え方そのものが、ますます的になってゆ 思うんだけど、あれ読んでみるとスト 1 リイがきちんとできてい て、結末もすごいのもあるし、あれはちょっとショート・ショ しいような 星だからノンフィクションかかと、ふたつあれば、 トに関心のある人は読む必要があるなあ。川端康成というのは、 気がして、むしろ下手な中間のものはだんだん読まれなくなるん オいかと思うんだけどねえ、本質的に。 ありゃあ短篇作家じゃよ じゃないかねえ。 日本の小説では何が好きだとか、外国のでは何が好きとい しかし あんまりいうと、ほかからたたかれるかもしれないが、 ったことを、ちょっと話してちょうだい。 だざいおさむ 作家の考え方というか、思考過程の形というものがすべてに星そりやまあ、これはどうもね、ふしぎだけども、太宰治という 入ってきて、みならしいものになってゆくような気がするわ のは、好きだということを大っぴらにいうとなんとなく具合の悪 なあ : : : そうだ、昨日電話したこと、若い読者が星さんに会った いムードがあるんだけども : ・ : ・ありゃあすげえ作家だと思うかな ら、これを聞いてくれといっていた「掌の小説」はどうでしょ あ。 そうだ。二十三年前にも・ほくにそういっとったなあ。いちばん 好きな作家だと。 星あの文章だけは、亜流が出てこないものねえ。いかにもできそ うで、できねえんだな。 やつばり東北の上流社会に育ったせいか ? ( 笑 ) ( 〕・′ , ~ 、星東北というか、ありゃあ突然変異で出てきた人間みたいなもん しゃないかなあ ? プラッドベリたって亜流が出そうだけど、・せ 庫 文 んぜん出ないもんなあ。 ワ カ それに、偉いといえば偉いなあ。ある程度書いたらもうやめた ャ わなあ、ゾラッド・ヘリは。いくら書いてもセンチメンタルなもの 《男 しか書けないと思ってあきらめたのかもしれないが : : : 外国の作 の 家はもうそれでおしまい ? ,. 白星ヘンリー・スレッサーをいまさら名前をあげてもしようがない 白い服の男 星新一 9
さあ、気ちがいになりなさい ( 翻訳作品 / 異色作家短篇集第七巻 ) と思うんだ。 うん。 「女第春・◆・・◆寺◆ 第婦・◆・・ま 星すると、いまの社会というものは、是と見るほうが、 当然たな。 ぐ◆今第」有第物滝 館星いいと思うんだ。いちおう飢えた子供はいないし、言論の自由 ・」年・葷◆ - 量◆・ はあるし、まあ海外旅行もいけるし、そりゃあ不満もすこしはあ 臨・を今譽の・春・洋朝せ るけれど、けども世界的に見て、まあいいほうだろうと思う : ◆被 なぜこういう現在の社会というものがあるかということは、すな ・暮第食 わち戦争をやって負けたからということだ。ということは、そ 、を〕物第第會 0- 挙 ◆第◆第◆ の、日本を戦争に駆りたてた連中というものの価値、行動の是非 4 ・今を・高今 0 ッ響・◆書・の新春 という問題になると、どう判断するかだなあ。 な第・餮 0 を第外磚 0 学 0 の婦・ ◆量◆ . - 第を◆強い学第新第第昏 それを聞かせてちょうだい。 - 高 - ◆第第第◆・◆を◆◆ 星そこが・ほくはわからんと思って、いまだに疑問を持ちつづけて いるんで : : : だからその、日本を戦争に駆りたてた連中というも 1 ドのものが多すぎるわねえ、戦争がいけないことはわかってい : いまの人々にとっては良かったと るが、どこの国も悪いことをしてきているんだからな、戦死者のは、結果的には良か 0 た : いうことになるんじゃあ : は、国家や家族を守るために一生懸命戦って死んだんだとはっき そうですよ、結果的にはね。 り書かないと、戦死した人に気の毒だと思うんだなあ。 星 ( 笑 ) そうですよというような論説は、いまだかって読んだこ 星うん。 とはねえな : : これは大問題なんだな、いまの・ほくにとっちゃ 民間人で死んだ人もそうだろ、勝っことを信じて死んでいった あ。だから、こないだの大戦争というものは、ありゃあなんだっ 人もいるんだからなあ。あまり申しわけないほど悪いことをしま たんだということ : した、すみませんでしたというような書き方はいやだな。聖戦 いまから書かなければいけない時期に入るんで。 オしいことたと書きたてる必要はないにしてもさ。 星まあね、ここがこのあいだから、ひとつの一大問題としてま星うん ? いまから戦争について書かなければいかんわなあ。もったいな あ、考えつづけているわけだけども、過去のまあ、過去の大戦争 いと思うんだ。・ほくがいまこうやって生きていることの哲学とい をふくめての歴史というものをどう見るかの問題 : : : それにはま ・ : 日本人というのは世界のどの人種 うと大げさかもしれないが : ず、現在の日本の状態を是とするか、非とするか、から出発する 異色作家矢ー身き ◆・ 0 校第 % : を、マらを 0 - ・腐校輦 0 0 0
れだって、そのこと自体にいい悪いはないわけで、人間がからん 岸元首相もすこしは噛んだはずだよ。あとではまあ別として。 できて何かとすると問題が発生するわけだなあ。 人間がからんできたって、クローン人間を作るのは、もともと 星だからいまの民放は、そのころは : : : おれたちは知らんという 人間がいるからなんで ( 笑 ) 。 けれども、あのころ民放があれば同じように : そう、せっせせっせと元気よく戦争礼讃をやったに相違ない : 星そうだなあ、科学というものが結局もともとそうだし、社会科 ・ : もともと戦争が悪いものだという点を抜いたらね、当然自分た 学というのもそうだし、だから資本主義がいいの、社会主義がい ちの国の戦争には加担しなければいけない義務があるんだもの。 いのというより、むしろどうそれを : 使、つ、か ? ・ 星うん。 そんなけちなことをいうなあ、やれえてな調子でやらなきや星使うかという問題だろうなあ : : : だから中性子爆弾が悪いとか どうとかいったって、これは使う連中の、使う側の問題だなあ。 あ。自分たちの命も賭けるからって。 なるべく使わんほうがいいけどねえ。使われる側の身になれば。 星そうだそうだ。しかも増幅してやっていたに違いないわなあ。 ・ほくはそんなものを罪悪だとは思わないね。それを戦争に加担星そりや使わんほうがいい あまりあっさりそういうものを使いすぎるわなあ。戦争という していたからいかんというのは、おかしいと思うよ。東条なんか ところがあるん が責任を追及、されなければいけないのは、戦争に負けたから追及ものは、やつばり手足でなぐりあうところにいい でね。 されなければいけないんで、どうせやるなら勝っていなければい けない点でね。かれは職業軍人なんだもの。なぜ日本人の手で戦星 ( 笑 ) 飛道具、鉄砲は槍の延長だとみればまだいいとしても、爆弾あ 争裁判をやらなかったんだろうな ? 星そのとき東条がいかにしゃべろうが、それを電波にのせたり活たりからよくなくなったなあ。 星よくなくなったなあ ( 笑 ) 。やはり、刀で切りあうぐらいまで 字にしたりしたやつだって同罪ではなかろうか ? のところが、まあいちばん理想的なもんか。 そりやそうさ、負けたから同罪というならわかるが、戦争に加 他国を侵略するといったってね、行って素手でなぐりあいをす 担したところが悪いというのが・ほくはわからん。 るんならまだいいわ。だが爆弾はいかんなあ。 星だから最近・ほくも、そういう問題だけど、個人のいい悪いとは 別に、そういう一種の法人というか組織というか、そういうもの星爆弾はいかんなあ ( 大笑 ) 。 われわれの戦争善悪論は、爆弾はいかんというところで : はもともとコンビューターと同じに無性格なものよなあ : : : それ 星そうだ。 が人間とくつつくとおかしくなるという点が、のひとつの門 交番たって爆破するからいかんので、お巡りさんをなぐるぶん : クロ 1 ン人間か、まああ 題点ではなかろうか。だからあのう : 沼 6
行くやつなんて数。 ( ーセントにすぎなかったけども、いまや全員ものは、読んで面白いものが本質だわな : : : それをなんかかえっ が行くようになっていて : て、文章というものを変に教えてアレルギーをおこさしているの協 オいかと思うんたが。その点、何か改革 が、いまの国語教育しゃよ ふーん、中学に行くのが半分とはなかったころだわな。 したらよさそうなもんだという : 星だからまあ、学問というものはまあ、そもそも、やれば面白い 国語の問題というのは、いやにしち面倒くさいんだな。何とか ところがあるわけだ。 うん。 を観賞しろとか : : : 書いてあること以外、何もないのに。 星いまになって、・ほくなんか、明治以後の歴史を調べて、いやこ星それに読む本人によって、いろんな受け取り方があると思うん んな面白い時代があったかという気分にもなったし、時代物を書 だな。まあ、ある人はこの会話が面白いとか、ここの形容が面白 いていたときには、徳川時代てなこんな妙な時代が二百五十年も いとか、そういうふうに、各人それそれの受け取り方があるんだ つづいたかという気分にもなったし、まあ、生物学だって新しい から、そういう教え方をすりゃあいいけど。でもこれは、入試と : だけどいまの学校の先生がもうすこし 発見を見ると面白いし : ・ いう問題があるから、そういうふうにできんのかもしれないわ そういう面白さを伝えてくれたら、いまの若い連中、どんなに考 え方が変わるかなあ。そこんところをもうすこし : だから、われわれのほうから、そういう入試の改革に役立てる そうだ。それがね、半村さんがいってたけど、戦争の終ったあ方法はないかと : くる年、だから昭和二十一年かに中学の一年生になったんたな、 星 ( 笑 ) かれ。そうすると、こないだまで英語は敵国の言葉だとおさえっ よくはないな、いまの入試というのは。かわいそうたなあ、入 けられていた英語の先生が、自分の知っていることを、英語に限 学試験たけのための勉強というのは、かわいそうだよ。人生の最 らすあらゆることを自分の生徒に夢中になって伝えようとしたと後というか、四十すぎたころに、ああよかったなと思える勉強じ いう、そういうところが必要たわなあ。 ゃなくて、大学に入るときだけ勉強して、あとは麻雀にスキー 星うん。 テニスだけ、遊ぶためだけというのは。 たから、・ほくが英語を教え、星さんが理科を教えたら、こいっ星まあ、学校へ行けば、それだけ友達がふえるというのが、いい は子供も面白がると思うわなあ。 ことかもしれん。 星そう ( 笑いながら ) 、それに小松さんが世界史でも教えるとか うん、そうだ。しかし、友達を得るためたけに、そんなに無理 をしなければいかんというのはなあ。遊びたい連中には「遊び大 それがいし それがいし 学」を作ったら、サービス業に勤めるには、遊ふたけの連中のほ 星それとあと、国語の時間も、小説にしろ何にしろ、文章という うが役に立つんじゃないのか ?
万物の創造主というか、そのために異教徒は悪いといって十字軍どうかしら ? でぼん・ほんやったでしよ。あれも、かれらの神を信じて邪教徒を さあ : : : ・ほくが子供のとぎ、友達に大阪の阪上病院という院長 こらしめにいったわけだなあ : : : 日本だって、明治以後の天皇を さんの一家があって、そこのお母さんが、そのころの白衣の軍人 神さまと考えさせる教え方からすれば、根本的には同じだわな。 を、・ほくが小学五、六年生だったか、昭和七、八年ごろか : 星 ( 笑 ) いや、そら天皇は、そう、明治以後の : から日露戦争での傷痍軍人だったんだろうな : : : そういう白衣の シンポルであることは同じだもの。それを利用しつづけるとい 軍人を見て、「戦争をおこすと必すこういう人が現われて、その う占 ~ は . :. : 。 当座はほめ讃えられるけれども、すぐに忘れ去られ、いまみたい 星だけど、明治以前は、もっと違う感じのものだったんじゃない に乞食あっかいされるんですよ」と聞かされて、子供心にくいこ のかな。天皇というのは。 んだんだな : : : それが、こんどの戦後にも同じことがおこってい ・ほくが問題にしているのま、、 をしまのところ第二次大戦たけで、 たわな。やつばり年上の人に聞かされるというのは、非常に大切 なことだと思うな。だから、完全に伝えることはもちろんできな そこを解決したいんだから。それより前は別よ : : : だから、宗 教、キリスト教の場合でも、まわりのものがそれを利用したの いが、できる限り語り伝えようと努力するのは大切たと思うな あ。 は、それは当り前のことだと思うんだ。だから、為政者が天皇を 利用したのは当然だから、ヨーロッパもアメリカもみないっしょ星うん、そうだ。 ぜんぜん語らないよりはいし しゃないか、ごちやごちゃいわずに頑張れえと、 星だろうな ( 笑 ) 。 星だけど、「スター ・ウォーズ」 ( 笑 ) 、戦争というのは、ああ というのは、それがちゃんと解決しないと、戦争を舞台にした いうもんだという受け取り方をしている連中のほうが多いんじゃ ないかね ? が書きにくいわけよ。少なくとも・ほくにとっての存在の哲学 あれだって、光線銃があたりや痛いんだしねえ。 というと大げさだが。まだほとんど日本人はやってないわな、戦 う兵士を主人公にしたは。・ほくはこんどやろうと思っている星痛いというより、あっというまに死んじまうんだろ ? んだけども。 指の先にあたったらどうだ ? ま、死んじゃうが、死ぬのがこ 星しかし、われわれの世代はいちおう知ってるけども、いまの高わいからって、正義を守るためにだれかが死ななければいけない 校生なら高校生は、まるで知らんでしよう ? というときに、だれも死んでくれないでは話にならないわな。 日清戦争も第二次大戦もいっしょだろうからね。 星もうすこしの話をしないと、 いかんのではなかろうかな ? 星ああ、そうだろうな。だから、戦争体験を語り伝えるなんてい ああ、そうだそうだ ( 笑 ) 。の話をしましよう。 うけども、これは不可能じゃねえかな。文字なりなんなりじゃあ星何かいい話、いいアイデアないか ?
を取残して。 ん、大した男じゃないわよ、きっとーー」 とある街角に電話ポックスがひとつ。 「あたしは決ってるじゃない。モチよ。えへへ、 いつのまにか外は夜になっている。 電話をかけようとする若い女と中年男が、それ ・ : わっ、外れた 何だと思う ? 当ててごらん。 女は、時がたつのを完全に忘れている。 ぞれ左右からポックスに向かう。 間一髪、女の方が滑り込みセーフ。男は舌打ち女という生物にとって、自分の関心にないことあ。残念でした。ヒントはね、着る物。え ? 違 うってば。もっと上の方よ。やだ、そんな上じゃ は、すべてありえないことなのだ。 して、忌々しそうにつぶやく。 「畜生め。若い女のことだから、きっと長電話に「ねえねえ、今夜のポーナスもらったらさ、あなないわーー」 昼と夜が交代する。幾回、幾十回、幾百回、幾 た何買うつもり ? まさか全額貯金だなんて : なるに決ってる」 え、そのまさか うわあ、ウソみたい。本千回と その通り、若い女は送話口に向かって、楽し気 いっしか周囲の建築物はすべて超高層となり、 気なの ? そんなに貯えてどうしよっていうのー にペチャクチャやり始めた。 更にその上空を巨大なドームが覆った。 「モシモシ、アッコ ? あたし。そう。あたしよ。 「あたしねえ、今度の休みにさ、思い切って引越 ひさしぶりねえ。元気イ ? ウン、あたしも。あやがて朝が来た。 そうと思うの。だってさあ、今のアパートの管理 そしてまた夜。 ら、そう。あのさあ、あたし、この前ねえーーー」 外でイライラと待つ中年男、煙草をくわえて火時は流れていく。電話ポックスとその内部のみ人。そう、あのオニ・ハ・ハア。女の子は夜遅く帰っ たりしちゃいけません。煙草なんか吸うもんじゃ をつける。 ありませんって、もううるさくてしようがない 「それでもってねえ、あの人ったら大変なのよ の。史年期のヒスよ。ねえ、どっかいいとこ知ら オ。どう大変って、それがもう一言じや言えない ない ? うん、一生のお願いー・ーー」 くらい。なにしろねーー・」 蜘蛛の巣にも似た空中チュープ・ウェイが、都 男、さらにイライラと二本目の煙草。 市中に縦横に張りめぐらされ、かと思うとすぐに 「いやだあ。あたしがあんな人に気があるわけな 撤去される。超高層ビルも建てられては解体さ いじゃない。ウソよ、そんなこと。絶対ウン。ウ = = ロ れ、都市はめまぐるしくその様相を変えていく。 ソだってば ! 」 そしてある時ーー一瞬の閃光と衝撃波。 中年男、十本目の煙草を捨てる。 「え ? 今、なんて言ったの ? よく聞えない。 若い女、喋り続ける。 電 まわりがうるさいのよ。そっちはどう ? あら、 男、一箱喫い終えて、憤然とその場から去って入 やつばり。迷惑よねえ、ほんと。何のための音 防止条例なのよ。税金ばっかり取ってさ。あ、そ 女、時がたつのも忘れて喋りまくる。 月 れからさ。この間の事。うん、あれ。あれさ、や 「それからさあ、聞いた ? ヨーコったらさ、ま 今 つばりあたしが悪かったわ。ゴメンね。ううん、 た新しい彼氏つくったんだって。ホントよ。あき 断然あたしが悪いのーーー」 れちゃうわよねえ。ウン、あたしもまだ会ったこ 電話ポックスが荒野に立つ。 とはないんだけどさ。どうせヨーコのことだも 牧村高雄 2 9 (
にくらべても、頭はまあいいほうらしいが、カルシウムが食べ物から。 に足りないせいか、体質的にすぐかっとなるほうだっていうわな星うん。 ・ : しかし、かっとなって戦争をやったのなら、そんなにあとか それを前ごろのように、悪い戦争をやってそのために死んでい らめそめそ後悔せずに : : : それぐらいなら、戦死者の遺族にちゃ った協力者みたいに書かれては、死んでいった人は成仏できんわ んとした補償をするべきでね : : : でも、どこの国だって侵略戦争なあ : : : ・ほくが昔、「少年」に連載した「海鷲」というのを、こ をやってるんだし。 んど文庫になるとき、何もいわずに小松さんに解説を書いてもら しよくざい 星うん。そこでまあ・ほくがいちおう結論の手掛りみたいなのは、 ったら、いままではそういう贖罪ムードの戦記物が多かったけど 日本という国はまあ、苦労がたりないということだよ。苦労して も、これは矢野さんの性質だろうけれども、実に古代日本人のし ・まくよ、日 ませんよ。 たたかさがあると書いてくださって嬉しかったが : 鎖国さま ? 本が世界各国にくらべてそれほど悪い戦争をしたとは思っていな げんこう 星うん、鎖国もあるし、元寇のときには神風が吹いたし、こんど いから : : : もちろん戦争そのものが悪いという問題は別にしてた の戦争でこてんばんにやられたけども、まあ、国内で戦争をやっ よ : : : あなたが戦争をどう考えていられるかについて、 てないんだものねえ。上から爆弾が降ってきて死んで、財産を失 トをいただけると、これからあと三本書くのに : ったということはあるけども、まあ、陸上で血を流したという・ : 星だけど・ほくは、そのへんを解く鍵は結局、あの、フランスやア メリカやイギリスに於ける歴史教育がどうなっているかをすこし うん。農民戦争、三十年戦争、百年戦争といったようなもんは 調べてみれば、ああなるほど、外国はこう教えているのかという ないわなあ。 ところから出てくるんじゃないのかね ? おそらく日本は、悪い ことをしましたという教え方をしているんだろうけれども、イギ 星だから韓国なんかに行くと、それはまあ、一回、北から攻めこ リスやフランスの歴史教育は、まあ : まれて、あわやというところまでやられ、それをおしかえし、ま そうそう。 たおしかえされ、まあそのときに両軍とも同じ民族を殺しあって いるわけだもんね : : : それから、このあいだの磯村アナが星日本の歴史教育みたいに、おれたちは海外の植民地を搾取し ポーランドの取材をやっとったけども、ポーランドがナチとソ連て、ひでえことをしてきたというような教え方はしていないんじ じゅうりん にいいように蹂躪されてまあ、ああいうのにくらべたら、日本人やよ、 オしかと田う。 というのは、苦労してませんわなあ。 していないと思うね。かえって、誇りを持っていると思うよ。 : とにかく亡くなった人とい しかしとい、うか、そうとい、つカ : ・ほくはね : : : 日本は多神教で、ヨーロッパは一神教というとらえ うのは、苦労よりも何よりも、そのために死んでしまったわけだ方はちょっとおかしいと思うんだな : : : キリストさまというか
岸田さんは首を竦め、おどけたようにおれにウインクすると厨房れから味噌おでんに変化。、 しや、味噌おでんの汁だな。中部地方の の小窓のほうへ戻って行った。おれはまだ、別にやることもないの赤味噌をキザラで長時間煮込んである。オリープ油の味。変った。 でそのまま部屋に残った。 ちょっと待ってくれ。スペイン料理とはわかるのだが : : : そうだ、 岸田さんが卓上に料理を揃え終わると同時に、会見が開始された。 / エリヤに入っているムール貝の味だ。薬味がロ 1 ズマー 丿ーの味に 用意された料理は、総てペースト状か液体に加工されているよう変化して : : : そのまま中和 , だった。均一になった味覚でないと言語が不安定なものとなってし 熊根老人が、宇宙人から身体を離すと同時に、コン。ヒューターか まう恐れがあるのだろう。 らテープみたいなのが吐きだされる。翻訳が終了したのだろう。 吉牟田さんが、伸ばされた宇宙人の触手に″言語″を塗り始めた 日野さんがそのテープを朗読した。 のた。 「事故。感謝びつくり。ごめん。我々。 0 。被害させたか。し あなた方の地球訪問を我々は心より歓迎します。 なかったか」 そんな意味の挨拶なのだろう。宇宙からの訪問者は娯しさのあま ああ、立派に意思は通じ合ってるじゃないか。ポキャ・フラリイの りか、残り九本の触手をぶるんぶるん振りまわし、身体を波打たせ絶対数が不足しているから、まるで未開地のインディアンとの会見 た。熊根老人はすでに襞の部分に舌をあてがい言語の分泌を待ってみたいなものだけれど、確実に宇宙人は地球人に思考を伝達してい いる。 るんだ。しかし、会話用の味覚がよくもこう料理名たけに限定され 老人の反応に時間はかからなかった。きっと味覚を感じたのだろたものだなあ。偶然だろうけど、他の金属や他の物質にも、総じて 味はあるはすなのに。人間にとって心地よい音域で会話しあうのと 老人は嬌声をあげた。 同様に、心地よい味覚が″言語″として定着したのかもしれない。 「成功じゃ。ストロペリイジュースの味じゃ。それも濃縮ミルク入それが料理に対応したという訳なのかもしれないな。 「もっとまともな翻訳文にならんのか」 。確か、意味は、″感謝″ではなかったかな」 熊根老人が不機嫌そうな声を出した。日野上さんは戸惑ったよう まるで花言葉だよ。おれはそう思った。老人は興奮して、後を続 けた。 に頭をぼり・ほり掻いている。さしでがましいと思ったけれど、思わ 「塩つぼい味から、・フルー ・ペリイ・ジャムへ変化。さくらんぼずおれは叫んでしまった。 「つまり : 酒、焼酎と氷砂糖で作って二カ月経った味だ。次にカルャラン・ : 「歓迎を感謝する。我々の起した不慮の事故について 。ヒラッカ。卵 ' ハターを抑えて塗ってある味。ヘルシンキの《クラフはお許し願いたい。地球側に被害を与えるようなことはなかっただ ト》という小料理屋で作った味つけた。ターフェルシ = 。ヒッツに変ろうか」ということを言ったんでしよう」 化。かなり贅沢なワインを煮込みに使っていい味を出している。そ 熊根老人がおれの方へ顔を向けた。 9- 5