と、少し気分が良くなった。 たりで、とうとう闇に溶けて見えなくなってしまった。 アパートに着いても、 ( スケルの手は震え、錠に鍵をさし込むの娘はタイプライターの横のテー・フルの上に腰かけていて、「地球 の街には、あの手の連中が多いの : : : 」 に手間取った。部屋にはいると、彼はまっすぐに食器棚に向かい、 高い棚の奥に埃だらけの壜を見つけた。底の方にウイスキーが少し「多過ぎるさ」と答える。 ばかり残っているのを、飲み乾す。腹が例によって暖まってくる「あなたはあの二人を知らないし、個人的な復讐なんて物じゃなか
ドライグ れないのよ。船もなければ、、 ノイバー駆動もないーー・星の本当の姿「私はここに残るつもりなんてないのよ、サム」 を二度と見られなくなるわ。銀河よ、サム 小マゼラン雲からの「助けを捜してあげるよ。君の話を親身に聞いてくれる人達がー 眺めは、それはそれは素晴らしいのよ」 「君の気持はわかるよ。僕だって、何とか行けるものなら、こんな 「私の生まれた時と所に、プロペラ飛行機で送り返してくれるとで 所にいやしない。船に乗って宇宙を駆けめぐって、マルやシャロンも言うの」 と同じ、荒々しい冒険をするさ。琴座星を見、べデルギウスを「シャロン、銃をおろせ」 見、ケフエウス座・ヘータ星を見てやるさ。でも、無理だ。僕は地球落ち着き払って、娘は銃をつきつけた。「あなたの意志が私をこ に縛りつけられていて、そんなことができるのは、空想の中たけな とうしてもその意志を崩さな こに縛りつけてるんだわ。あなたが、・ んだ。君も同じだよ」 いのなら、私が自分の手で崩してみせるしかないわね」 「一緒にいらっしゃいよ、サム。通路を開いて、私と一緒に抜ける 悲鳴をあげる暇もなかった。銃弾は、熱とまばゆい光との中に彼 のよ。あなたとマルと私ーーーきっと後悔しないわ」 の体を包みこんだ。前のめりに倒れながら、凍りついた彼の眼は世 彼は娘の肩を、しつかりと把んた。「通路なんてない。最初から界の最後の一瞬を捉えた。それはシャロン。銃が、開いた手からす なかったんだ」 べり落ちる。彼女は実体がなく、透きとおって、薄れてゆく。もっ 「あなたは本気でやらなかったのよ、サム。心の底では、私に行っとも、他の物も、何もかも薄れてゆくのだ。暗黒に包みこまれてし まってから、床に倒れこんた。 / 冫を ・ - 彼こよもう、手許に銃が落ちるのも てほしくないのよ。あなたの意志で私がここにいるんだわ。サム、 聞こえなかった。 お願い」 「通路なんてないよ」と彼は囁いた。 娘は、まばたきもせずに長々と彼の眼をのぞき込み、唇を固く一 文字に引き締めていた。その強烈な眼ざしに、彼は手を引いた。ゅ つくりと娘が立ち上がる。「私に留まってほしいと思う気持は有難 いと思うわ」と静かに言った。それから、なめらかで素早い身のこ なしで背を向け、部屋を横切った。ハスケルには動く暇も与えず、 娘は篁笥の二番目の引き出しを開けてリヴォルヴァを取り出す。く るりと彼の方に向ぎ直り、銃は背後に持ったまま、もう一方の手は 掌をこちらに向けて腕を伸ばし、彼を近づけまいとする。 「シャン、早まったことをするな」 9 8
ひつほう 「あれは、″畢方〃ですーーー」 シャオチュウ 背後から小丑の声がきこえ、ジローは振り返った。 丑はそう言うと、坑からフワリと降りたった。 シャオチュウとぐち 丑は扉口に立ち、婉然と微笑んでいた。その手に、一本の・ハ 丑にしたがった。 三人も慌てて、 ラを持っている。 「料理には、ザルアー一人がついていてくれれば充分だ」 チャクラがジローを振り返った。 ジローがつぶやく 「あんたはどこかで休んでいてくれ」 「そうですー・・ーものの本によると、あれが現われたときには必ずや 要するに、武骨なジローは料理のさまたげになるということだ。 チャクラはいつになく真剣な表情になっている。美食に飽き、怪火が起こるということです。たたし、 " 畢方。はこの地において シャオチュウ は、″混沌みと戦う聖獣なのですが : : : 」 絶品とされている視肉にも飽いた小丑を、自分の料理で満足させ ンヤオチ = ウ 丑はフワリと扉口からはなれ、すべるようにしてジローに近 ねばならないのだ。しかも刃物を用いてはならないという条件つき シャオチュウ 丑はすぐ とあっては、さしものチャクラも真剣にならざるを得なかったのたづいてきた。ジローが ( ッと身をすくめたときには、小 眼前にまで迫っていたのだ。 ろう。 「南の男たちは逞しい躯をしている」 「ここでお待ちになっていてください」 シャオチュウ 丑はジローを覗き込むようにして言った。 丑が言った。 「お二人を厨房にご案内した後、すぐに戻ってきて、お部屋まで「この褐色の肌もなんとも言えす美しい。南の女も悪くないが、男 ・ : あなたは、あのザルアーという女に満足な のほうがずっといい : お連れしますから」 ゝよ、つさっているのですか」 冫 . ぐし、カ / ・カ ジローとしても、その言葉にしたがわないわけこよ シャオチュウ 丑の赤い唇からチロチロとのぞく舌がジローを誘い込んでい るようたった。その吐く息は甘く、強烈な魅惑に充ちていた。 シャオチュウ 丑は下半 ジローは気死したように、身動きもできなかった。小 村の上空、燦然とかがやく星空を背景にして、奇妙なものが 身をすり寄せてきて、ジロ 1 の躯になんとも言えず切ない欲望を呼 飛んでいた。 び起こしていた。 蒼い光に包まれた、薄い寒天のような生き物だ。視肉と同じく、 シャ十チュウ 丑はゆっくりと片手をあげ、ジローの髪に・ハラの花をさそう 不定形な生き物たが、その体を滑るという機能にそって、形を変え シャオチュウ 丑の腕をはらい とした。なかば反射的に、ジローは手をあげ、 ているようだ。 シャナチュウ 丑がもう一方の手でが その手を、 どれほどの大きさのものであるかは、この居間の窓からはわからのけようとした。だが、 つきと圧さえこんだのだ。 シャ十チュウ シャオチュウ シャオチュウ 0 ー 08
クスに狙いをつけた。ポックスのいちばん奥には、黒、緑、赤、青てもいいと、初めてお許しをもらう。きみは操作卓を前にして、革 の罫の入ったカードが立ててある。ケースの後ろにぶらさがった十椅子にクッションを敷き、ちょこなんと坐る。いましがたまで退屈 ワットの電球だけが、唯一の照明である。カードからの反射光は計そうに、先輩ぶって、きみに制御装置の使い方を教えていた兄が、 器でも感知できないほど微弱なのに、装置のスクリーンに結ばれた こう捨てぜりふして部屋を出ていったところた。「へえ、そうか 像は鮮明そのものだ。コンポーネントへの入力を変化させているう 。そんなによく知ってんなら、おまえひとりでやれよ」 ちに、明るい像が消え、いくつかの影がそれにとって代った。別の 正直いうと、この機械の制御装置にはなじみがない。きみが小さ 像のゴーストのようでもある。テレビの全チャンネルをモニタ】 いときから使っていたビューアーは、遠近の調節つまみが一つある し、さらに放送周波から装置を絶縁してみたが、ゴーストは依然と だけだった。画面を上下や左右に動かすには、見たい方向へビュー して残っている。照明を強くしても明瞭にならない。・ ほんやりしたアーを向ければよかったのだ。この機械には、ダイアルや、数字の 直線的な影で、なんら意味のある。 ( ターンではなさそうだ。ときお出た小窓や、スイッチや、押しボタンがついていて、その大部分は り、もうろうとしたしみが一つ、それらの上を横切ってゆく。 なんだか見当もっかない。しかし、きみは、それが特殊な用途のもの スミスはうんざりしたような声を出した。固定金具をはすして装で、別に重要でないことを知っている。肝心かなめな制御装置は、 置を持ち上げ、もう一つの手を電源のスイッチへと伸ばした。 , 彼のきみのすぐ前にある、先っちょに灰色のプラスチックの握りのつい 指はついにそれに触れずじまいだった。装置を持ちあげるのといっ た金属棒だ。握りは、長年使いこまれて、くすんだ色になっている。 ゴーストイメージが移動したのだ。いまやそれは、彼の手手に持っと生温かくて、油ですこしぬるぬるする。操作卓はおかし のかすかな動きにつれて跳ねまわっていた。スミスは息をのんで、 な電気の匂いがするが、きみの背より高い大型スクリーンは、暗く しばらくそれを見つめた。「 1 ドを持 0 たまま、ゆ「くりとその場静まりかえ 0 ている。胸がどきどきしているのを、きみは感じる。 で一回転してみた。ゴ 1 ストイメージはわきへ寄り、 いったん消え握りをつかんだ手にいっそう力をこめ、すこし前に押し出してみ てから、また現われた。彼は逆に回った。ゴーストイメージも元に る。画面が明るくなり、きみはまるで音のしない大きな車に乗った もどった。 ように隣の部屋へと滑りこむ。椅子や脇テー・フルが赤味がかったシ スミスはそろそろと装置を工作台の上にもどした。手が震えてい ルエットになり、きみがその中を通りぬけるにつれて、縮まり、歪 た。これまでの彼は、いつも装置を工作台に固定しつ。よよし。こっこ ーオナナみ、消えていく。つかのま、頭がくらくらする。操作卓の左側で跳 のだ。「あきれたね、おれもどこまでまぬけにできてたんだろう ? 」ねている赤い数字を見や 0 たとたん、どっしりした家ぜんたいが、 彼は無人の部屋にむかってそう呟いた。 それ自身の中をすうっとくぐり抜けていくように思え、平衡感覚を かき乱されたのだ。ついにきみは窓の外に漂い出し、おなじゅっく きみは六つ、もうすぐ七つになるところ。大型・ヒーアーを使 0 りとした一様な動きで日の当た 0 た牧場を横切りはじめる。鞍をつ 9-
なおも零りつづける硝子片を畏れて逃げまどう人々の叫喫が遠く近 私は、すべてを知ることを選ぶ。 く大気をどよもし、入り乱れる数多の松明の反映がこの塔の部屋ま 3 再び顔を天にむけた人影から発せられた声を、数千の耳が聞い で射しこんでいたが、玉座の上なる人は深い叡智に惓み疲れた故か 静かな諦めの故か、身動きもせず闇に身を沈めているばかりなのだ 初代皇帝の手によって成った〈庭〉と等しく、この世界もまった。 た見えない壁で封じ込まれているのか否かを。 白衣の影から黄金の鍵が現われ、右手の一閃と共に闇を切るのを〈影〉はさらに語り続ける。 小姓は見た。そして同時に数千の眼が、黄金の光芒を曳いて直線に えるにや ちの・ほる鍵を見た。 * 耶路庭・ 2 さなか ・ : その時、宮殿の外壁をめぐる祭りの最中の辻々に、ふと小暗 い影が射すような一瞬の静寂が落ちた。額に花輪を飾り手に手に松前夜祭の夜、宮殿の一角に蛇の舌にも似た姿を閃かせた疫病の最 明をかざした人々の間をふいに荒涼とした気配が通りすぎ、賑わう初の焔は、翌晩のうちに帝国の数箇所に飛び火し、次いで野火のよ 楽の音と人声が跡切れ、期せすして同時に街中の人間の心を不穏なうな勢いで燃えひろがっていった。 翳が覆ったのだった。 病に冒された世継ぎの命は、儀式の日の夜明けまでしか持たなか えるにや 辻々に動かない影を落としたまま、その時耶路庭のすべての人司 尸った。その未明、数人の手で背を支えられ露台で昇る日輪に向きあ きん が、宮殿の上空を翔けあがる一個の黄金の鍵を見た。鍵は何者かの 0 た時、皇女はそれまで強く閉じていた眼を薄くあけた。白濁し 自在な力に引かれるように、勢いを弱めることなく垂直に飛びつづ た眼に赫奕と地を照らす陽光が射しこんだ時、やはり我々はこの け、そして黄金の光輝がふと翳ると同時に闇に呑まれた。 〈庭〉に閉じこめられているのか、と呟いて皇女は瞼を落とした。 なきがら 遠くかすかに、しかし精緻な反響を伴 0 て、玻璃の砕け散る音が恃臣たちの腕に亡骸の重みが加わり、それと同時に薔薇疹に覆われ 虚空から零ってきた。地表に立ちつくす人々の肩に、やがてさらさた躰は豊かな白光に巻かれて色を変え始めた。眩さに耐えられす後 らと砂の零るような音をたてて微細な粉が震え積もり、そこに手をずさった恃臣たちの前で、溢れだす光に浸された亡骸の皮膚からは ガラス やった人々はそれを黒硝子の破片と知ったのたった。 見るみる薄紅の瘡が消えていき、いよいよ眩く透明に透きとおって とぎ いつの間に時間が移り、いつの間に露台の人影が倒れ伏したの いった。すべての変化が終わった時、そこには全身ことごとく無色 か、小姓は気づかなかった。やがて我に帰った侍臣の群が部屋に駆の玻璃に変じた一体の躰が残っていた。玉座を振り返った彼らは、 け込んで露台の人影を助け起こした時、高熱を宿したその両の眼のそこで夜を明かした皇帝の無言の姿を見た。瞬かない両眼に静かな 眼底が白濁し全身に夥しい薔薇疹が顕われているのを彼らは見た。水のように漲る無量の叡智に気づくや、彼らは畏れから思わずその 力さ
ったって、考えていいのね」 「できない」と彼は言った。 「できるわよ、サム。もう一度やってみて。体の力を抜いて、さ、 ハスケルは首を横に振った。 もう一度」 「あれは強盗のつもりだったのかしら。それに強姦とか : : : 」 彼は首を横に振った。「やってみたんだ。本気でやったんだ。通 「そういうこと」彼は椅子に腰をおろした。娘の膝のすぐ脇だ。 路なんてあるなら、あの時開いたはずだよ。ありやしないんだ」 「見事なお手並みだったね」 「そういう訓練を受けてるもの。地球の人ももっとそういう訓練を「あるわ」 「通路なんてない。マルなんていなし 、。ンヤロンもいない。もうわ すべきょーーーそうすれば、暗がりもそれほど危険じゃなくなるわ」 かっただろ。みんな思い違いなんだ。君は綺麗な女の人だし、闘い 「ああ、そうだね」 娘は手を伸ばし、彼の片頬に触れた。「ねえ、サム、これ以上い慣れてもいる。それは確かだけど、だからと言って、君がシャロン られないの」身をかがめて、彼の額にくちづけする。「思いがけとは限らない。君には手助けが必要なんだ。ちゃんとした医者のー ず、あなたに会えたのは素敵だったけど、愛する人も待ってるし、 アラリオン卿にたてた誓いもあるわ。送り返してくれなきや困る娘がまた身をかがめてきた。「通路はあるのよ、サム。マルのこ とも考えて。待ちながら、私がどうなったのか、不思議に思って 娘の暖い手に、 ( スケルが手を重ねた。「どうしたらいいんだるわ。アラリオン卿の、尖塔の聳え立っ宮殿のことを思って。透き とおった床の、広々とした舞踏場や、宝石を散りばめた壁飾りや、 い」 「眼を閉じて、サム。頭の中で、マルや私や私たちの遠い未来の暮黄金の階段や、ダイアモンドの扉ゃーー」その声はなめらかに、な だめるようで、子守歌に似ていた。 しのことを考えて。あなたの時代と私たちの時代との間の、あなた 「すまん。あんたの名前が何だか知らないけど、気の毒だとは思 だけが開ける通路のことを考えて。あなたならできるのよ、サム」 彼は眼を閉じ、いろいろのことを考えた。すぐそばの娘の肢体、う」 ロの中の安酒の香り、娘が消えれば、ひとり・ほっちになる、みす・ほ娘はテープルから滑りおりて、彼の前に膝をついた。「ね、サ ~ なし力ないわ らしい部屋。そして最後に、マルのことを考えた。どこか遠くで待ム、みんなが私を頼りにしてるのーーー裏切るわけこよ、 っているマル。待ちながら、たぶん彼女を呼び求めている。サム・傭兵にも誇りがあるのよ」 ハスケルが呼んだのと同じことだ。そこでマルが気の毒になり、そ ハスケルは両手で娘の黒髪を撫ぜた。「僕が手助けしよう。君を の瞬間、通路を開こうという気になった。彼女を通り抜けさせよう離しはしない。二人で力を合わせよう。君を助け出してあげるよ。 とした。娘の手が遠のくのを感じ、息を詰めた。 君もじきにアラリオン卿とかマルとか忘れてしまうさ」 一瞬が過ぎ去った。彼が眼を開くと、娘はまだいた。 「サム。こんな、みじめったらしい、時間と空間の淀みには、いら
そのすべてを見届けた〈私〉の足は、いつのまにか自然に螺旋階ることなく行く手に視線を戻した。 段を下っていき始めていた。昨夜何の前触れもなくその時が訪れた 時、ふいに私たちは互いに腕を差しのペあい、手と手が触れあうと : ・そして光と影の中を前進し続けるうちに、いっか〈私〉は行 同時にその場で互いの躰を喰いあう激しさで愛の行為に移った。行く手に小さな黄金の輝きを認めることがあるかもしれない。馬を降 為の相手を選ぶ余裕はなく、その時が訪れた時点での一人一人が占りてそれを拾いあげた〈私〉は、手の中に一個の黄金の鍵を見出す めていた偶然の位置がすべてを決定した。九千九百九十九という数だろう。と同時に〈私〉は眼の前にある継ぎ目のない半球型の黒硝 が奇数であった故に、ただ一人が取り残された。その時たまたま一子の物体に気づくだろう。肩ほどの高さを持っその物体の表面をま さぐるうちに、〈私〉の手は半球の先端近くにある罅割れた小さな 人だけ孤立した位置に立っていた〈私〉が、その一人だったのだ。 その時の訪れと共に何故彼らが死ぬことになったのか、その理由穴に触れるだろう。 それに気づいた時、〈私〉はそのまま黒馬の背に戻り物体のめぐ を〈私〉は知らない。何故一人だけが生き残ることになったのか、 りを迂回して再び前進を続けていくかもしれない。しかし、もしそ その理由を〈私〉は知らない。私たちの人数を九千九百九十九とい う奇数に定めた何者かの意志を思いやってみれば、このすべてがあの小さな覗き穴の磁力に捕えられてしまったならば そして〈私〉は思うのだ。両手を黒硝子の表面に当ててひとたび らかじめ予定され仕組まれたことだったようにも思われるが、今と 覗き穴に片眼を寄せてしまったら なってはその解答を得ることは不可能である。〈私〉が誰なのか、 それは問題ではない。〈私〉の性別も名も個体の記憶も意味を持た そこには蟻よりも微細な〈私〉の後ろ姿が、やはり半球型の黒硝 ない。九千九百九十九人の中の任意の一人、それが〈私〉である。子の覗き穴に眼を当てているのが見えるだろう。と同時に〈私〉の 背後の彼方からやはりひとつの視線が〈私〉の背を刺し貫くだろ そして〈私〉は宇宙館を出て外に立っていた。その場はあるい う。その時あらゆる空間は〈私〉の視線で充ち、〈私〉は呪縛され は未だに出水のひかない大洪水の水中世界だったのかもしれない たようにその姿勢のまま永劫に動けなくなり、そして無数の〈私〉 し、または地上を遠く離れた宇宙の虚空たったのかもしれないが、 〈私〉にはその区別をすることさえできない。〈私〉の前には、ひは無数の空間に視線のこだまを増殖させ続けていくのではあるまい とつの姿があった。それは生物で、かって馬と呼ばれていたもののか。 姿を持っており、色は黒だった。〈私〉を背に乗せると、馬は急ぐ 様子もなくひとつの方向にむかって走りだした。同時に後を追って黄金の鍵の光芒を行く手に見出すその時を、〈私〉ははたして待 いくつかの気配が動き始めた。見るとそれも黒い馬で、その群は当ち望んでいるのか否か、それはその時が訪れるまで分らないことな 然のことのように音もなく先頭の馬に従ってくる。数えてみればあのだが るいは群の数は百頭だったかもしれないが、〈私〉は指をあげてみ 7 4
: ヨーグルトだ。うん、まさにど。 「ちょっと待て。これはこれは。 プレイン・ヨーグルトの味」 「画像切換え」 前の味覚が舌に残っていることはないんだろうか。正確な味覚だ次の画像へ切換えるために日野上さんがコンビ、ーターに手を伸 ろうか。あんなに自信に満ちているから間違いはないのだろうければした時、草野さんが景気よく叫んだ。 0 。 0 0 。 0 。 の 0 0 。 0 ロ 0 0 0 9
書くつもりはなくても、 星やはりそういう一種の議論の盲点となっているものを感じ取る のが、作家にとっていちばん必要なのではないかと思うけどなあ。 ぼくはあと三つ書くというか、まとめなおす長篇がみな戦争物 だから、やつばり自分なりに、そこをはっきりしておかなければ いけないんで : 星だから天皇制の問題とか、天皇の戦争責任がいつもうやむやに なるということは、・ほくは : : : 天皇というのは、明治以後の場 合、一種の媒体だったと思うんですよね。 うん、いまも何かの意味でそうだろうな。 星うん、いまはそうだ。 いまは立憲君主国だわな。 星うん、そうだ。 多くの人がそうは思っていないね」を 星だから媒体ですよ。そうすると、天皇の戦争責任を追及しはじ 、つしょにかっての全国新聞・の戦争責任に及ん めると、し じゃうわけだ。 こまるわけだ。 星こまるというより、いまだにその問題が論じられてないわけだ なあ。講談社だってそうだなあ。 そうだ。 星そうだなあ。 ・ほくが一一年と一カ月、学校から引きずり出されて、戦争に連れ ていかれたのを、どうしてくれる ? 星だから、戦争 : : : 日本人を戦争にかりたてたのは、天皇よりも 出版および電波媒体のカのほうが、はるかにでかいんではなかろ ハヤカワ・ミステリ文庫 第 7 回愛読者カード当選者発表 4 月 30 日までにミステ・リ文庫編集部にお寄せいただいた愛読者カー ドの中から , 5 月 1 日に行われた厳正な抽選の結果 , 100 名のかた がたが当選いたしました。おめでとうございます。最新刊「死との 約束』「不安な遺産相続人』の 2 冊を進呈させていただきます。今 ともご第読のほど , よろしくお駅いいたします。 野中西皆新増八児芳山吉山田竹滝山籾飯今佐小梶神破選 川川尾川海井木玉岡本田口端内井野沢野村林早谷只者 い真 み百小由リ る学手子子子行洋于子也雄子災子男挈高実 ナいか以以横褂大高多山矢三営三営三松益渡和西中新 たえ . て下敬野第場梨ロ油浦地宅非辺用国原廾澄 ださ発発称 ぎてにを . 享犬子手子み手歳子子美曰用再 5
娘がゆっくりと首を垂れた。重みに耐えかねる風たった。眼は足 「アルタイルへ行ったわ。中心へも、小マゼラン雲にも行ったじゃ許の歪んだ歩道を見詰めながら、強ばった指をうなじに擦りつけ ない。この惑星の軌道面より広範囲の戦闘で闘ったじゃない」 る。当惑しきった様子だった。慰めが必要に思えたので、ハスケル 「戦争中、僕は兵役免除だったよ」 は手をさしのべてやりたかった。両腕でしつかり抱き締め、 「戦争中、あなたは弩級艦を指揮したじゃないの」 だよ、何もかもいいんだ、と言ってやりたかった。けれども何もせ 「僕の言ってるのは第二次大戦。しばらく前に地球で起こったやつずにいた。背筋が寒くなるような考えにとらわれていたのだ。ずつ さ。その時も何も指揮なんてしなかったし、そんな経験ないよ。地とこの娘を見くびりすぎていたのではないだろうか。ゲームではな 球には宇宙船がないんだ。いっか、そういう日も来るだろうけど、 く、思い違いだったのではなかろうか。半生をついやして創り上げ 僕が指揮をとるなんてことは絶対ありえない。僕はただ、そういうてきた物から起こった、思い違いだったのではないだろうか。 物について書くだけさ」 とうとう娘が眼を上げて彼の方を向き、「サム」と呼びかけた。 ークとか 「サムーー案内してよーー・何と言ったかしら、ハイド・。 「それにマルでもない。本当なんだ。マルならいいと思う。ごめんへ」 よ、どうやらゲームも終わりた」 ハスケルはニッ コリ笑って娘の手をとった。「ちょっとしたみも 心、 : 膚 . 轗惨ド i ⅱ i ⅱ ~ = " 0 躡罐 i " i , = " 衂当・巨い岡 亟ま三 : ! こ盡は = 、。 , , 亠朝に瞻 i ル を膰引滝 靼薊第・ - 当を : 鞴讐咢碆 ! ! 嚶・ i ・ " i ⅲ鞋 ・・を享 ! : 無 iii :