部屋 - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1978年9月号
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1. SFマガジン 1978年9月号

その時、スネップはなぜ、あのネズミのことを思い出したのだろ スネップはぎくっと顔を上げて。それからひとりゆっくりと頷い う。ランブイ = の学会の会場で彼が踏みつぶして殺したネズミのこて、そこらにあった木箱に腰をおろすとパイプを取り出して火をつ 9 : かわりになぜ、何度も言い交されたことば、″妖怪などはもけた。 はやこの世にいはしないのだ〃を思い出さなかったのだろう。 そこが地面の高さなのだろう。明かりとりの窓があって、ガラス スネップはやにわに、手にしていた自在スパナでフ = ネストランは破れ、鉄枠も奇妙な形にねじ曲っていた。それから風が吹きこん ジュ氏を殴りつけた。 でいた。あの泣き声にも似た不気味な音をたてていた。 フ = ネストランジ、氏は声もなくスネッ。フの足許に倒れた。黒っ 〈あの人があんな話ばかりするものだから〉 。ほい血が流れ出て、ひろがってゆく。ちょうど、あのネズミの時と スネッ。フが思った。料理の腕を自慢して、それをフ = ネストラン 同じだった。 ジ氏があんなふうな話し方で色をつけようとさえしなかったら、 そして、あの声が、聞えてきた。女の子が何人もで救けを求めて ・ : さっき食べたのは、あれはふつうの仔羊たったのだ。そして、 泣き叫ぶ声。スネップは邸の奥のほうへ向って走り出していた。 あの部屋だけが、あの人形や銅版画で飾り立てた部屋だけが、フェ 「泣くんじゃない ! 今、救けに行ってやるからな ! 泣くんじやネストランジ = という、老いた民俗学者の宮殿たったのた。彼はそ ないぞ。お化けはもう死んしまったんた ! 」 こで夜毎、ひとり、自分でこしらえた妖怪と : スネッ。フはドアがあれば片端から開けていった。古びた、枠だけ いや、妖怪は、あの時、いた。見えはしなかった。しかし、 になったべッド ; カ置いてある部屋があった。こわれかかった椅子やた。妖怪は、呼べば応える。生き返ってくる。チル氏もポーマン氏 テー・フルしかない部屋もあった。どの部屋も埃たらけ、クモの巣がも。 ( トリッジ氏も死んだ。そこに生き返った妖怪の手が働いていた 張っている。台所も同じようなものだった。女中の姿などない。たに違いない。見えはしなかった。しかし 、、た。幽霊のように。あ だ、調理台の上は血たらけで、壁に血恨までとび散っている。スネるいは悪魘のように : ップは懸命に、突き上げてくるものを抑えた。 頭が痛んだ。全身が熱にうかされたようたった。 スネッ。フは夢中たったから見なかったのだ。洗濯物を干すのに使「妖怪はもういないたと ? 」 うロープがわたしてあ 0 て、そこに羊の皮が三枚干してあ「た。彼スネップは声に出して言 0 た。 の目には入らなかった。 嘘だ ! 見つけたのたそ。謎につつまれていた。だが、見つけた 「泣くんじゃないー 妖怪なんてやつはもう : : : 」 のだ。これが本当なんだ。 声をかけながらスネップは地下室へ降りた。がらんとしていた。 「妖怪は死んでやしない。生きている。けっして死ぬことはないん ワインの瓶がそれでもきちんと並べてある。それたけたった。 だ。人間がいるかぎり、妖怪も生きつづけるんだ ! 」 その時、あの泣き声が一段と高く、近くから聞えた。

2. SFマガジン 1978年9月号

る ) が手のこんだ悪ふざけをしているのか。いや、ひょっとする段を客を連れての・ほり、いつもっかえて肩であけねばならぬドア と に、キイをさしこんでからだった。というのが、客が四つの部屋を いまや人間 。だってそうだろう、天気、月、母性、生死 はなんでもいじくってしまっている。こんどは時間をいじっている好奇と賛嘆のまなざしで歩きはじめたとき、つかのま、彼はまたも 若者の目でそれを見たのである。キッチンをふくめてどの部屋に のではなかろうか。 ナカ ( = ック状態をきたさぬうちに、首尾よく冷静をとりもども、ざっと三十年かけてあつめた品物が、窓敷居より高く積みあげ し、自分が狂気の方向へかけ足で進んでいることに気がついた。なられていた。 おびたたしいフィルム罐、手ずれした台本の山。スクラツ。フ・フッ にか単純な理由があるにきまっているのだから、それがむこうから これはたいてい個人的記念品。 しいだけだ。そう思っ ク。スチール写真。小道具少々 やってくるまでは、臨機応変でやっていけば、 たら、胃の痛みがすこしひいた。車はもう四周ひらけたところをす衣裳類はない。そのほうのコレクションはやらないーー彼はスペシ ャリストなのだ。 ぎ、人間をのみこむ郊外住宅地に吸いこまれ、約東のノース・ハリ 自分が死んだら、ぜんぶライブラリーか博物館行きだ。・・ ウッドに近づきつつあった。 カレン・コレクション。自分が後世に記憶されることがあるなら、 市街地へはいると、・の乗客は車窓から見えるものすべてに 目をこらし、高いビルは首をのばして見あけた。はつ、なんのことそれによって記憶されるだろう。 はない、と運転席の男は思った。こんな小僧、どこかその辺でおろ たカ、いまはなにもかもビロードのようなほこりの薄膜をかぶ してしまえばそれつきりじゃないか。 り、かぶっていないのは食事どきに使う一本脚のエンドテー・フルと 「いまから仕事さがしはおそいんじゃないのかね」彼は若者にいっソファー、それにキッチンの流しと調理台だけだった。 た。「相手にあたえる感じもよくない。今夜はどこかに泊まるあて「メイドが休みでね」若者が宝物といっしょにほこりを見ているの に気づいて、彼はいいわけするようにいった。 でも ? 」 トレヴィス・フレインはかぶりをふった。 あいにく若者は、その言葉をきき流してくれなかった。 「いいんですよ。どうせメイドにこんな貴重なものはさわらせない 「そうか。じゃ、うちへきたまえ」 んでしよう」 「ほんと、カレンさん、なんとお礼をいっていいカーーー」 「大したところじゃないよ。マンダヴィル・キャニョンにある、たそこでまたいいつくろわなくてすむように、・は映写室にし ている予備室のドアをいきおいよくあけた。一方の壁に小さなスク だの独身者用アパートだ」 リーンがとりつけてあって、ビニール・カ・ハーをかぶった映写機が といったのは間違いで、案外大したところなのかもしれないぞー ーそう思 0 たのは三十分後、建てたあとで思いなおしたようにアパ待「ていた。あいだにせまい簡易べッドがおかれ、その上に、下 ートに改造した化粧漆喰塗りの古屋の、陰気なカー。〈ット敷きの階に、まわりに、やはり台本やいろんなものが積みあげてある。

3. SFマガジン 1978年9月号

二言もあるほうだった。″妖怪のワイン″の舌ざわりをたつぶりと 楽しむことにした。そして、あらためて室内を見回した。 「それではどうそ、ゆっくりご覧になっていて下さい」 フェネストランジュ氏が四人に言った。 「いや、これはみごとなコレクションですなあ」 思わず。ハ トリッジ氏が言った。チル氏もポーマン氏も同感のよう「わたくしはちょっと台所へ行って、見て参りましよう。そろそろ だった。室内はちょうど虹の七色だった。あらゆる美しい色にあふ良い時間かと思います。ですが、お断りしておきますが一人前のつ れている。クマのぬいぐるみがある。毛皮は金色だった。極彩色のもりでこしらえさせておりましたので : いえ、量としましてはた 制服をつけた鉛の兵隊が並んでいる。ほかにも小さな人形が思いっ っぷりしておりますが : : : 仔羊でして。充分に煮こませました。最 くかぎりの表情でポーズをとっていた。汽車の模型がある。馬、上のに当ったらしくて、それはもう。お約東いたします」 牛、山羊までがそろっていた。鉛の兵隊の後方には大砲をはしめと レストランのあるじのようなことを言いながらフェネストランジ してあらんかぎりの兵器が威容を誇っていた。〈なんでえ、下らねュ氏は部屋を小走りに出て行った。その時、運転手のスネップは初 え。子供相手のがらくた市みたいなもんだ。せ〉 めてフェネストランジュ氏の脚を見た。捻ったようなガニ股たっ この部屋に一歩足を踏み入れた時に早くもスネッ。フはそれを目に 止めていた。そして、その時にそう思ったのだった。だが、もちろ部屋の壁面も無駄にされてはいなかった。油彩、水彩の絵、銅版 画などがそれそれ趣味のいい額縁に収まってかけられている。 ん口に出して言ったりはしなかった。立場上、言っていいこととい 「やあ、これはヒュー ハートおばさんだ。大もちゃんと描いてあり けないことがあるのは知っている。 ます」 フェネストランジュ氏は急に、楽しそうに声を立てて笑った。 。、トリッジ氏が嬉しそうに言った。 「つまりですな、これらはみな、妖怪のための餌なのです」 どうしてそう、自分の胃袋ばかりが哀れつばい鳴き声をたてる「こちらは。フレーメンの音楽隊ですよ」 のか、ポーマン氏には合点がいかなかった。ともかく、鳴ってしま ポーマン氏も一枚の銅版画を指して言った。ロ・ハと犬とネコとニ うものは仕方がない。可能なかぎり抑えなければ : : とりあえす、 。妙な取合せのグループが描かれている。 ワインを : : : つけても、さそやとろ火でいい具合に煮こんでいるの 「ご親切に。これはシンデレラだ。真夜中一分前というところです だろう。匂いが部屋中に満ちみちている。スパイスはきかせているかな。もうちょっとでガラスの靴とお別れというわけです」 チル氏もグラスを片手に上機嫌だった。 ようだ。ニンニクはどうだ ? 多くても少なくてもいけない。程良 いというところがむすかしいのた。・ : テリケートなのだ。だが・ スネッ。フはわきのテープルに置かれた飾り瓶を見ていた。中身は が : : : 何という。フランス人は料理にかけては天才だと常々言い張おそらくジンだろう。似たようなものは見たことがある。いかにも っているが : : : まさか、・ハ ラの香油まで料理に使っているのではオランダ人といった恰好の男が大口をあけて笑っている形が、陶器 8 8

4. SFマガジン 1978年9月号

「だが、いつまでも、ここにいるわけこよ、 冫冫しかないぞ。長びくと不けだ」 利だ」 荒い息の間から、レヴンが言う。 「他の仕掛けがあるかもしれないが」 レーザーのおかげで、イオン化した空気のにおいがひどい そのときはじめて、ジンは、もっと武器を持ってくるべきだった ジンは、再びレーザー・ナイフのスイッチを入れる。部屋の壁に 近寄ると、適当な間隔を置いて、切りつける。そして、全身の力をと思った。こんなに簡単に侵入が発見されるとは、予測していなか 込めて、壁に体当りをする。その意図をたちどころに理解したレヴったのだ。 「危ない ! 」 ンも、それに加わる。 レヴンが、ジンの腕を引っぱった。次の瞬間、それまでジンの立 やがて、壁は崩れ落ちた。ジンは、その残骸を踏み越えて、隣り っていたあたりに、分厚い鉄の扉が、上から落ちてきた。それと同 の部屋に入る。 時に、階段の下でも、扉が落ちる音がした。 「こいつを繰り返すつもりなのか ? 」 レヴンが尋ねる。ジンは、ちがうと答える。そして、小型炸薬「閉じ込められたらしいな」 が、あとどれ位残っているのかと尋ね返す。 ジンが、他人事のように言う。レヴンは、僅かな明りの中で、・ほ 「三発だ」 んやりと見える若者の顔を見つめた。この男には、恐怖心というも 「一発、おれによこせ。あんたは、この部屋から、もう一度、椅子のがないのか。レヴンは恐れていた。このままでは、ライクの思う を放り出すんだ。おれは、それとほとんど同時に炸薬を放り投けがままだ。 る。レーザーを、椅子が少しは引き受けてくれるだろう」 レーザーは、見事に、椅子に集中した。そしてジンの放り投げた ライクもそう考えていた。侵入者たちは、彼の仕掛けた罠にはま 炸薬は、廊下の中央で爆発し、その爆風のために、自走レ 1 ザ 1 ったのた。奴らの冒険もこれで終りだ。ボタンを押せば、吹き出す ガンの大半は機能を喪失した。残ったものも、廊下に飛び出しざまガスが、すべてを解決するだろう。ライクは、侵入者たちが、十分 に、連射されたレヴンのガンのために沈黙を強いられた。 に恐怖を味わえるように、何十秒か、ボタンを押すのをこらえた。 二人は、地下の通路へ向かって駆けた。破壊された床に、ともす階段にはカメラがないのが残念だった。それから、ゆっくりと、ガ れば、足をとられそうになったが、転ばすに、地下へ通じる階段まスのボタンの上に指を載せた。 で達した。 ( 未完 ) 「問題は、これからだ」 ジンは、床に電流が通じていないことを確めながら、つぶやく。 「ここは大丈夫だ。電流が流れる仕組みになっているのは、廊下だ 9

5. SFマガジン 1978年9月号

侵入者は、早めに勝負を決しようとしている。ライクは直感しヨートし、青白い火花が飛び散っていた。ライクは、その区域の電 た。さもなければ、こんなに騒々しい侵入の方法をとらないだろ源を切る。パワー トが、その負荷に耐え切れない危険があ 7 う。侵入者は、自分たちの存在を知られたことに気付いて、手早る。 用件を済まそうとしているのだ。たが、そうま 冫いかないたろ彼らが、無傷の廊下に足を踏み込んだ瞬間に、電流を流すつもり う。廊下の高圧電流の罠に気付かねば、侵入はそこで終りとなってだった。 しまうだろうし、気付いたとすれば、そうは簡単に中に入ってはこ だが、侵入者たちは、そのライクのもくろみを嘲笑うように、ナ れない。その間に、救援がやってくる。 てつづけに、炸裂弾を放り込んできた。今度は手近かの部屋に逃け そこまで考えて、ライクは、大変な見落しをしていることに思い込んで、その爆風をやりすごす。 当り、舌打ちした。祭りだ。闇の祭りだったのだ。ここで何が起き どうやら、彼らは、このコントロール・ルームを目ざしているよ ても、それに気付く人間は、ほとんどいまい。こいつはあなどれなうだ。ライクの指が再び動く。自走式のレーザー・ガンを、彼らの ライクは、考える。おそらく、彼あるいは彼らは、今夜を最初進路に集めるのだ。 から狙ってきたのだ。 そのとき、ライクは、奇妙なことに思い当った。あの侵入者たち ライクは、連絡通話のボタンを押す。だが、それは死んでいた。 は、二人とも外骨格をつけていなかった。こいつは重要な手がかり いくらボタンを押しても帰ってくるのは沈黙だけだった。線が切らになる。外骨格の助けを借りすに、あれたけ動ける異星人は、限ら れている。もう一度、ライクは舌打ちした。顔が仮面のように表情れてくるからた。 を失う。戦いを決心したジークフリート人は、誰でもそうなる。 ライクの指が、パネルの上を忙しく動き回り、警備設備のチェッ 爆風のおさまった廊下に出ようとしたレヴンの腕をジンがむ。 クをはじめる。 「待て、今、妙な音がしたのに気付かなかったか ? 」 スクリーンを白熱光が満たした。部屋全体が揺れる。奴らは炸裂片手で、部屋の中にあった椅子を廊下に放り出す。何本ものレー 弾まで用意してきたのだ。ライクは、侵入者が異星人であることザーが、その椅子に集中し、棈子はたちどころに燃え上がった。 を、ほとんど確信していた。かっての反乱以来、ジークフリート 人「どうする ? の持ち得る武器は、限定されていたのだ。炸裂弾は、禁止されてい レヴンが尋ねる。いつの間にか、ジンが指揮者の役割を担当する る。 ことになっていた。 戸口に、二人の男のシルエットが現われた。二人か。ライクは、 「ますいな。敵がどこにいるかわからなければ、あんたのガンも使 それを確認する。またカメラは、破壊されていないようだ。二十歩いようがない。おそらくは自走レーザー・ガンだろう。位置が、ば ほどの廊下は、完全に破壊されている。到るところで、高圧線がシれないように、動き回っているにちがいない」

6. SFマガジン 1978年9月号

だが、そちらも似たようなものだった。人影はちらほらで。多く手はキャスティング部にいる、友人の友人のそのまた友人でーーーも はない。ふたりは車をおりてその辺を歩いた。ほぼ創設当初からすうそんな友人すらこれが最後たったーーー・はトレヴィス・フレ 5 っと使用されているこの裏地区の風景には、ところどころいかにもインという若者の話をもちだすのに身を引き締めた。映画に使えそ 撮影所らしい物音がきこえ、ふたりはそのなかで呼びかけと感嘆のうなんだ、いまからそちらへ連れて行っていいかね。だが、その前 声をかわした。古い自動車、船尾外輸船の一部、チャイナタウンのに秘書はっげた。 一画、南北戦争前の邸宅正面、コンゴ河畔の原住民小屋が五つ六 「せつかくですが、ミスター ・カネフスキーはもう撮影所にいませ つ、なにかの工事ののこりの砂に半分埋もれて、こわれた東洋の婚ん。半年前に亡くなりました。だれかキャスティング部の者とお話 礼用椅子、・ハビロンの塔、リオのスラム。保安官事務所、雑貨屋、しになりますか」 酒場のそろった西部の町は、最近使用されたものか整備されてい ・は荒々しく受話器をもどした。凉しい顔をつくろってトレ た。それらすべてを睥睨して、そこここにどっしりうずくまる大きヴィスの待っところへもどると、若者はリンカーンのクローム部分 を鏡がわりに髪をとかしていた。 な角ばった建物は、録音スタジオである。 カレンはそのひとつのドアをあけた。やはりだれもいないから、 「だいじようぶですか」心配そうにきいてきた。 だれにも誰何されなかった。内部はおそろしく広く、まるで建物独「まあな」時間をかせぐのだ、なにかつぎの手を考えつくまで。 自の空気を持っている感じで、そのグレイの色合いは外の空気より「テストしてもらえるんですか」 も濃かった。十数ャード先の白い壁に向けて、だれかが投光器をつ 「ああ。友人はいま手がはなせないんだが、きみのことを話したら けつばなしにしており、まわりのグレイのなかでただひとっ煌々とえらい乗り気た。一時間したら連れてこいといってる。そのころに かがやく光は、なにか満たされぬのそみを無言で訴えているみたい は手があくそうだ」 ・こっこ 0 「それまでどうするんですか」 「へえ ! 」トレヴィス・フレインが声をあげた。「ここでスクリー 「まだ一つ二つ見ておくものがある。ライプラリー へ行こう。わた ン・テストをやるんですか」 しの自慢なんだ。わたしが発案し、建物も建てさせたんだ」 「たぶんな」と、・ Q 。「ちょっとここにいてくれ。電話をかけそれはうそではなかった。もうずいぶん前、彼、・・カレン てくる」 は指示書を出して、あちこちにたまる一方の古いフィルムを保存す 「あなたの部屋までいっしょに行っちゃいけませんか」 るため、建物を建て、整理棚をこしらえ、司書を雇って記録させる 「わたしの部屋 ? いや、もうここにはわたしの部屋はない。必要ようにしたのだった。そのころから彼には蒐集熱があり、いっかだ がないんだ。仕事をするときは れかが自分の先見の明を感謝するだろうと思った。 ( じじつはだれ どこででもする、 カレンは最寄りのポックスにはいって、本当に電話をかけた。相も感謝しなかった )

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庫牧師館の殺人 田村隆一訳繝 アガサ・クリスティー / 田村隆一訳予 \ = 九〇予ロ殺人 こともあろうに村の牧師館に退役大佐の死体が・ 詮索好きの老嬢ミス・マープル初登場。改訳決定版 パディントン発 4 時分大門一男訳 テ死が最後にやってくる ートラム・ホテルにて乾信一郎訳 アガサ・クリスティー / 加島祥造訳 \ 三六〇 紀元前二千年、ナイル河畔に起った恐るべき連続殺 人。古代都市を舞台に華麗な世界が展開する異色篇圭日斎の死体高橋豊訳 ポケットにライ麦を宇野利泰訳 加九尾の猫 エラリイ・クイーン / 大庭忠男訳四四〇 ャ = 「一ーヨークを震憾させた連続絞殺魔〈猫〉の正体鏡よ黄にひひ害れて橋本福夫訳 とは ? エラリイが挑む恐怖の殺人劇。改訳決定版 カリブ海の秘密永井淳孺 緑は危険 高橋豊訳 クリスチアナ・プランド / 中村保男訳》 = = 〇動くヒ日 練達の医師の見守る中で手術中の男か殺された。ケ ントの鬼コックリル警部登場 ! 女流本格派のカ作 黄色い部屋の秘密 ー / 日影丈吉訳予 \ 三六〇 ガストン・ルル 完全な密室《黄色い部屋》で起きた惨劇に少壮新聞 記者ルウルタビイユが挑む。密室ものの古典的名篇 ミス・マープル登場ー

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ている ? 狭い ? とんでもなかった。チル氏からして称賛の声を 出迎えたのはフェネストランジュその人だった。 「ここが簡単におわかりいただけましたかな ? どうやらお手間をもらしたほどたった。 とられたようだが : : : しかし無事に着かれて何よりでした。もう少「これはすばらしいお部屋だ。侯爵さまがお住いだとしても不思議 し、そう、あと一里ほど参りますと道が二手に分かれておりましてではありませんな」 な、これを間違うと川へ出てしまう。ォルジ、という、ま、つまら「いたみいります。多少カビ臭いのですが、かえってそのほうが民 ぬ川なのですが、一カ所、ちょっとした淵になっておりまして : ・俗学的でもありますし、放ってあります」 フェネストランジュ氏がにこにこと笑いながら言った。 マンルビースも石造りの本物だった。灰よけはがっしりとした鉄 「淵、ですか ? 」 「さよう。淵です。川などが突然深くなって渦巻いていたりする所で、太い薪がくべられてやわらかそうな炎が静かに燃えている。ラ をわれわれはそのように申しますので : : : どういうわけですかきわンプは真鍮で、びかびかに磨いてある。穏やかな明りを放ってい めて強い渦が巻いておりまして。あの有名なマルストルムにも負けた。 ュはいほの : いや、これは大袈裟でしたかな、ともかく : : : しか ほ・ほ中央にすでにテー・フルがしつらえてあった。もちろん、一人 リだった。フェネストランジュ氏は急いで自分で柏材の食器戸棚を し。その男は何と説明いたしましたので ? はあ : : : それは何も存前 ぜぬからですな。ドウールダンにはなかなか良いホテルが二軒ほど開けて四人分を準備した。陶器の皿、ガラス器、銀器、どれ一つを ございます。しかし、さよう : : この時間では、やはり閉めており取っても名品といえる上品な好みのものばかりだった。 ましようかな : : : 開けたとしましてもあたたかいお食事とまでは参「一、 二、三人前、と、こういきますと子供ではありませんが魔法 りませんでしよう。 いかがです ? わたくしもこれからですので : のテー・フルのお客様ということになりますな。しかし、四人前、並 ・ : 大したものもありませんが」 べさせていただきましたよ。それと申しますのも、あの運転手の方 「それは : : : 」 にもここへお掛けねがいたいと考えましたものですから。どうして え、どうそご 誰よりも先にポーマン氏が招きを受けた。どうやらシチューらし教養もあり、お育ちもよろしいと拝見しました : ス。 ( イスの何ともいえない香りが漂ってきている。空腹にこれ遠慮なさらずに。わたくしはひとり住いですし、使用人といっても を嗅がされてはたまらなかった。花東を想わせるような : : : そし台所をいたします女中がいるばかりで。これが、なんと申します か、ひどく内気なもので、けっして人様の前へは出たがりません」 て、おそらくマデイラ酒であろう。甘い匂いまでが : チル氏はここでもまた、氏がデモクラシーとかいうものの良き理 「さっそくお受け下さって光栄です。では、どうそ。狭いうえにと 解者であることを示した。運転手ではあってもこの際仲間のような りちらかしておりますが : : : 」 居間としてでも使っているらしい部屋に導かれた。とりちらかしものだし、他人を入れたがらない女中がいるという台所へ行って食 6 8

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いう存在は、彼にとっては、まったく意味を持たないからだ。ジー り出せなかったからた。ほんの少しでも良いから、会っておけば良 クフリート人として育ててこられたのたから当然というべきだろかった。ヒロは、突然、そう思った。 「レイクが残っているらしいな」 「そいつは奇妙な話だぜ。子供を産む寸前の女が、宇宙旅行をする レヴンのささやきが、ヒロを現実に引きすり戻す。 なんて、聞いたこともない。ここの女たって、子供を産む前後の一 「明りが点いている部屋があるだろう。あれはレイクの部屋だ」 カ月程は、働かな、 面白いものだ。それまでは、会って話を聞きたいと思っていた本 ヒ。は、最近、仕人れたばかりであろう知識を、得意そうに話し手の男に、今は会 0 てはまずい。それどころか、会えば、生命のや た。それはジンには、危険な徴候のように思えた。ヴァスゲンの教りとりをせねばならないのた。ジンは、かすかに笑い声をもらし えを、ヒロは、急速に忘れていくようにさえ思ら」のだ。そして、 ヒロは、ジンの思いとは無関係に話し続けた。 「どうした ? 」 ・ヨギは、おまえを産なためにここにやってきたんだ。思 「何でもない。そろそろ行くそ。用意よ、 うんだが、おまえは、特別の人間なんじゃないだろうか。いや、何 ジンが言う。無駄なことを考えている時ではないのだ。ジンは、 も、おまえが巣で、いつも良い位置を占めてきたからというわけで全身を暗青色の戦闘服で包んでいた。レヴンも同じだ。ちがうのは はない。おまえは、何かの目的で、ここで生まれ、育てられ、去っ レヴンが、推進ガンを腰にぶら下げ、六つほどの小型炸薬を胸のべ ていくんだ。おれには、そうとしか思えないんだよ」 ルトから下げていることたった。ジンは、小型のレーザー・ナイフ ヒロは、ジンの顔を熱心に見据えながら、話した。ジンは、少を持「ているたけだ。残りの装具は、すべて空港の近くの下水道に 少、持て余し気味ではあったが、ヒロの言葉を黙って聞いていたの放り込んである。帰りに取りにいけば良いのだ。 もしも、完全武装でくれば、この程度の建物ならば、簡単に侵入 「ああ、それから、この三人の地球人と接触したと思われる統治シできるだろう。だが、それをや「てしまえば、侵入者がヴァスゲン ステムの人間だが、・ とうやら、ターミナルの責任者のレイクというの巣を出た者であるのが、すぐにわかってしまうだろう。自分が疑 男らしい。はっきりとわかったわけではないが . われることは、絶対に避けねばならない。 リ・フタイラーといえど ジンは、よっぽど、自分がそのターミナルに忍び込むことになっ も、お尋ね者を、乗船させるわけにはいくまい ていると、ヒロに告げようと思った。だが、切り出せなかった。そ 二人は、建物の横に回り込み、そこの入口に駆け寄った。男と女 れは、ヒロの現在の役割を考えると、言うべきではないのが自明のの笑い声がする。それは意外こ近、。ど : 、 冫、し / カ二人の姿を目にとめる ことたったからだ。あれ以来、ジンはヒロと会っていない。 ことはないだろう。彼らには、やることが山ほどもあるのだ。また レヴンとの打ち合わせや、準備に追われて、ヒロと会う時間が作花火が、夜空に舞い上がり、音をたてる。 け 6

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それによって、ガリマンは成功を収めるにちがいない。 その結果、当然のことながら、人々は犯罪を起そうとさえ、しな くなってきた。そして、犯罪を意図するものが少くなり、さらにマ ルチ・ハックの容量が拡張されるにつれ、細々した犯罪も毎朝の予測 アスマンは肩をすくめた。「さてと、かれは上機嫌だぞ」 リストに加えることができるようになり、いまではそれら軽犯罪の 「あのシャポン玉は、いっ壊してやりますかね」とリーミイ。「マ 発生率も、低下しつつあった。 ナーズの監視を始めても、確率は上がるだけだったし、・自宅監禁し そこで、ガリマンは疾病発生の可能性を予測する問題に、マルチ たら、もっと釣り上がりましたよ」 ックの注意を向けることができるかどうか、コン。ヒュータの能力「わたしが、それを知らんとでも ? 」とアスマンはいやみをいっ を分析させろと ( 当然、これはマルチ・ ( ックの仕事たが ) 命令して た。「わたしが知らんのは、その理由たよ」 おいたのである。やがて医師たちは、今後一年間に糖尿病になるお「共犯者ですよ、きっと、あなたの言ってたとおりだ。マナーズが それがあるとか、結核にかかるかもしれないとか、癌になるとかい面倒なことになったので、残りのやつらはすぐ行動を起さないと、 った個々の患者のところへ赴くよう、警告を受けるようになるかも失敗してしまいますからね」 しれない。 「それじゃ話が逆だ。こちらの手が一人に伸びたのだから、残りの ものは安全を考えて散りちりなり、姿を消すはすだ。それに、どう わずかの予防は、万全の治療と同じ してマルチ・ハックは共犯者の名を指定しないのかね」 しかも、見通しは有望である、と報告の要約はいっているー 「そうか、じゃあ、ガリマンに話しましようか」 そのあと、要約にはその日の潜在犯罪リストがあり、そこには一 「いや、まだいかん。確率はまだ、たったの一七・三。ハ 件の第一級殺人もなかった。 ガリマンは上機嫌で、内線のボタンを押し、アリ・アスマンを呼だ。もう少し、激しいことをやってみよう」 んだ。 エリザベス・マナーズは下の息子にいった。「おまえは部屋へお 「アスマン、先週七日間のリストにあった犯罪件数の平均を、わた 行き、べン」 しが議長になった最初の週の平均と比べると、どうなるかね」 「だって、これはどういうことなのさ、母さん」とべンは栄光の一 それは八パーセント低ドしていることが判明し、ガリマンはじっ に気分がよかった。もちろん、かれ自身には一つのミスもない。し日に不意に訪れた奇妙な結末に、かすれる声でたずねた。 かし、有権者がそれを知ることはあるまい。かれは自分で正しい時「おねがい ! 」 期に、まさにマルチ・ ( ックの絶頂期にこの地位についた幸運を、祝かれは渋々、部屋を出た。そして階段ロのドアを抜け、やかまし 福した。いまや疾病さえも、すべてを抱擁し、すべてを守るあの巨い音をさせて階段をあがり、それからまた静かに階段を下りた。 成人式を終えたばかりの上の息子、一家の希望であるマイク・マ 大コンビュータの知識に加えることができるのだ。 ロ 5