われわれの勧告はつぎのとおりである。 ( 1 ) 刺激的、扇動 的な報道を禁止する。 ( 2 ) 罹患地域からの女性避難者のため に救護センターを設け、活動をつづける。 ( 3 ) 罹患地域の周 囲にひきつづき軍隊の隔離線をしき、かっそれを増強する。 ( 4 ) 躁病が冷却期間を経て終息したあと、有資格の精神医学 チームと適当な専門家を派遣し、リハビリテーションに当たら せる。 この地理的関連性は無視できないものであり、したがって、 身体的原因に対するより強力な調査をたたちに開始すべきであ る。また、既知の集中発生点からの拡大速度と風向風速との相 関関係を求めることも、強く勧告したい。さらに、北緯および 南緯六〇度の二次下降気流帯にも、同様の発生に対する監視を おくべきである。 ( 少数委員代表署名 ) ・プレイスウェイト 特別緊急委員会少数意見の要約 アランは旧友の名前をそこに見出し、それがこの世界に正常さと この報告書に署名した九人の委員は、厳密な意味でフェミサ安定をとりもどしてくれたように思えて、懐しそうに微笑した。ど ーニイは、まぬけ連中が大勢を占めている中で、なにかの イドの疫学的接触感染の証拠がないことには同意する。しかしうやら・ハ ながら、集中発生地域の地理的関連性が、これを純粋な社会心手がかりをつかんだらしい。それはなんだろうかと、彼は眉根をよ 理現象として片づけられないことを、強く暗示している。最初せて考えこんだ。 の発生は、すべて地球の緯度三〇度付近に限られていた。熱帯やがて、家に帰ってアンと再会するところを思いえがくにつれ 収東帯からくる高層風が、主下降気流となる地域である。赤道て、彼の表情はゆっくりと変化してぎた。あと何時間かすれば、彼 上層大気中のなんらかの作因あるいは条件が、季節によって一 の両腕はアンを抱きしめることができる。片時も頭から離れなくな 定の変動はあるが、ほぼ三〇度の緯度帯にそって地上に到達すった、あの丈高く、ひそやかに美しい肉体を。ふたりの愛は遅咲き ることは、当然予想される。主要な季節変動の一つは、北半球だった。いま彼がふりかえってみて、ふたりの結婚は友情の発展、 の晩冬のあいだ、下降気流が東アジア大陸の上を北へ移動する いや、それ以上に、友人たちの後押しの結果だったのだ。ふたりは ことであり、事実、それより南の地域 ( アラビア、西インド諸まるでおたがいのために作られたようなものだと、みんながいっ 島、北アフリカの一部 ) は、ごく最近、下降気流が南へ移動すた。彼はがっしりした・フロンドの大男、彼女はすらりとしたプルネ ット。どちらも内気で、抑制のきいた、理性的タイ。フ。最初の二、 るまで、フェミサイドの発生は見られなかった。南半球にも同 様な下降気流があり、現在、プレトリアからオーストラリアの三年は友情の延長で、セックスはそれほど大きな役割を持たなかっ いま 4 アリス・ス。フリングズを通過する南緯三〇度線で発生が報告さた。慣習的な必要物。おたがいの関係を確認しあうだけの れていゑ ( アルゼンチンの情報は現在入手不可能である ) だから言えるがーーー内心では期待はすれだった。
うなリング ( 環 ) があることを発見するとともことから、新薬を開発することなど、地球を回世界観の変革は、地球上の人類に「わずかでも に、衛星に火山噴火が進行中であることをキャる " 宇宙工場の夢は、いま現実のものとなろあ 0 た」というべきか、それとも「あまりな ッチ。世界中の人たちを驚かせた。 うとしているス。ヘースシャトルの初飛行は、 く、効果は薄かった」というべきだろうか。 ところで、日本の宇宙開発は、この十年、ア この十年で、打ち上げに用いられるロケット 早ければことし末にも行なわれる予定である。 も、大きく様変わりした。これまでのロケット アポロ十周年は、スペースシャトルによる本ポロを起爆剤にしたようにめざましい発展をと は一回だけの使い捨て。それに対し百回は使え格的宇宙実用化時代の開幕を告げる年となっげた。 アポロ初の月着陸の翌年、わが国初の人工衛 る宇宙連絡船「スペースシャトル」の登場であた。 る。節約時代にびったりの新型宇宙輸送機関で当時、いわれた「人類の世界観」「思考形態」星「おおすみ」が打ち上げられ、以来十八個の 日の丸衛星が地球のまわりを回っている。日本 ある。スペースシャトルによれば、これまでのの変革は、はたしてどうなったのだろうか。 ーマンでなくても宇 宇宙飛行士のようにスーパ たしかに、アポロをきっかけに「宇宙船地球も世界の宇宙開発の流れに従って、実用と観測 宙を飛ふことが可能。宇宙実用化時代を迎え、 号」の考え方が高まり、地球は一つ、国境を超が目玉だ。無人ながら月、金星に探査機を飛ば いよいよ宇宙は身近かなものになってきた。 えて協力し合おうーーとの声が出た。国連人間す計画だし、五年後には日本人宇宙飛行士がス またこの連絡船で何回も資材を連ペば、大型環境会議のスローガンも「かけがえのない地ペースシャトルに乗って、宇宙飛行を試みる計 の宇宙基地を作ることができ、オニールのスペ球」 ( オンリー・ ワン・アース ) だった。けれ画である。日本人による有人飛行のための実験 ースコロニー構想が出るなど、字宙への夢ははども現実の地球上をみると、この十年間、各地テーマの募集は、近く始まるし、宇宙飛行士の てしない。 で局地的な紛争は絶えず、飢え、難民はあふ募集も来年にはスタートする予定。 日本にとってもアポロ十周年は、宇宙実用化 宇宙開発は、我々の生活にさまざまな波及効れ、エネルギー危機にゆれているのが実情だ。 果をもたらした。より軽く、小型 へ向けて大きく踏み出す節目に当たるわけであ る。 で、しかも熱やカ、放射線に強い というぜいたくな要求をみた アームストロング船長が「小さな一歩」をし 第・・マ ) ィ一るしてから満十周年の一九七九年七月一一十一日 クすため、たゆまぬ技術開発が続け られている。その中で、もっとも 午前十一時五十六分一一十秒。日本では、おりし ドラマチックだったのがアポロ計 画であった。 、 ~ 、 ~ 、 , 〉 ( ・ ~ 士た子供達が詰めかけ、瞳を輝かせていた。十年 超小型のミニコンビュ 1 ター こ《、」前の熱気や興奮はもちろんないが、それでも宇 ・・〔宙宙には夢をかきたてる限りないロマンがある。 こげつかないフライバン用のフッ 責宇あの栄光の三飛行士は、アームストロング船 ス素樹脂 ( テフ 0 ン ) 、耐熱ガラス / の容器、。〈ースメーカー用の 」・ : 、 ) 、「 . 】す長がオ ( イオ州シンシナチ大学工学部教授、オ ルドリン飛行士がロサンゼルスで技術コンサル ( ラジオアイソト 1 。フ ) 電池な エ・ " 動タント会社を経営、コリンズ飛行士がスミソニ ど、数え上げればきりがない。い ィまそのアポロ技術は、地上で開花 アン航空宇宙博物館長におさまり、静かな生活 サし、私達の日常生活を豊かに支え , 月を送っている。もう三人のような「宇宙の英 ている。 雄」は生まれないかもしれない。そして「大き 今後、スペースシャトル時代に な飛躍」も無理かもしれない。だが、そこに宇 入ると、さらに波及効果は増大す 宙がある限り、人類はそれに挑み、人類の思考 をそれなりに変え、宇宙空間での活動領域を広 るはずだ。地上では作れない新合 げ、たゆまざる前進を続けるに違いない。 金を宇宙の無重量状態で合成する
スマン将軍、ロックアイル提督」霧を含んだ風が枯葉をそよがせ「彼の名は ? 」 「サン・プルースター ・ジご一ア。とてもすばらしい、愉快なエン 2 「これが真実だ」キン・フラフは目をすがめてジ ' ルスンを見つめなターティナーだ。まだはたちそこそこだが、われわれの世代よりず がらいった。「・ハラファンダにいたとき、わたしはたしかにあのデ っと誠実公正たよ、ギャプニー。わたしはそのサン・ブルースター イクタデスクを借りたよ。聴問会では、そんなものは初耳だといっ ・ジュニアに情報を流している」 た。実はそうじゃないんだ、ギャプニー」 「なぜ ? 」 「大使さん、あんたはたれが軍事庁の要人を誘拐しているかについ キンプラフはふらっきながら、ロで荒い息をしていた。「地球だ て、なにか知っておらんか ? 」ジョルスンはためらったあと、ケー よ、ギャ・フニー」 スの中から注射器をとりだし、大使の二の腕の柔らかい部分に突き「はあ ? 」 刺した。 「至上の地球。彼らはいっかそれを実現させようと願っている。至 「 ( ーナムでの謝恩晩餐会だが」と、キン・フラフはふらふらしなが上の地球を」 らつづけた。「わたしは現金をそっくりいただいて、マードストー 「プルースターがポスなのか ? 」 ンに太陽 = ネルギー利用のモーテルを買った。日が照ると、なにも「いや、グループ。個人名はない」 かもメリーゴーラウンドのように回転するんた。観光客は喜んだ「グループの所在は ? 」 ね。わたしはあの金をキャンペーンには全然使わなかった」キンプ キンプラフは背すじを伸ばし、まぶたと小鼻をひくひくさせた。 ラフはどんどん後すさ「ていき、とうとうもよりの木にもたれてし「最近は生のままの酒に慣れてなくてね。す「かり足をとられた」 まった。 ジョルスンはいった。「リクリエーション時間がそろそろ終わり 「スウイフト」 そうじゃよ、キンプラフ。帰ろうか」 「実は」と大使はいった。「情報をもらしたのはわたしだよ。金の 「その前に一つだけ」と大使がいった。 誘惑には勝てなかった。いうまでもなく、軍事庁内の消息にはくわ「なんじゃね ? 」 しいからね」 「あの矢が的に命中したかどうかを見ておきたい」大使は含み笑い ジョルスンはそばへにじりよった。の推測はあたっていたしながら、霧の中にひょこひょこと姿を消した。 のだ。「だれにもらしているんだ ? 」 「フリンジにいる男」 ナット・ホッカリング ・、、さな天色の部屋の中に、車輪にのせ 「どこだって ? 」 たへャードライヤーを運びこんできた。「体操の効果には限度があ 「エス。〈ランザ市。はみだし地区。若い男」 るよ、ギャプニーさん。正しいダイエットもおんなじこと。ほんと
に住む女性と結婚した最初の男性だったから、人々の興味をそそっき合いはできない。結婚も、いつも行動を共にする者同士でなけれ たにすぎない。 ば不可能だった。彼、佐藤タカシが先例をつくるまでは。 彼の仕事は通信施設の設計と設置だった。通信というの彼自身にとっての生活のペースは、宇宙で半年過ごした後、地球 は国際電通が開発した超遠距離間の即時通信のことで、研究にあたで半年暮らす、これの繰り返しだった。地球の者から見れば、彼は った技術者の頭文字をとってこう呼ぶのだそうであゑこの通信方数十年に一度、地球に帰って来て半年を過ごし、また宇宙へ出かけ 法のおかげで、地球と太陽系外の星々は、何十光年もの空間の隔りてゆく、そんな生活たった。そんな彼が結婚生活を成立させるため を全く無視して情報を交換することができるようになった。 に考えだした方法は、彼の不在の時は妻も冷凍睡眠に入らせておく というものだった。 通信の原理について彼は私に説明してくれたことがある。 こうして二人は、数十年おきに半年間の地上の生活を楽しみ、数 「細長いパイプの中に玉がいつばい詰まった状態を考えてみたま え。一方の端から玉を一個押しこむと、もう一方の端から玉が一世紀にわたって夫婦でいられるようになったのだ。うまくいきさえ 個、押し出されるだろう。中に詰めてある玉を全部同じものにしてすれば。 おけば、玉を運ぶのにわざわざパイプの端から端までの距離を移動 させる必要はない。玉を一個押しこめば、反対側に同じものが出て契約が決まってから彼が出発するまでの間、私は何度も彼らの家 くるんだから、運んたのと同じことになるわけだ。一本のパイプだを訪問した。少しでも早く庭に花壇を造りたかったのと、二人がし と一種類の信号しか送れないが、こういったパイ。フをいくつも組みきりに招待するせいもあった。何しろ、彼らの知り合いというのは 合わせれば複雑な信号が送れるようになる。このパイプの東をつな世界中に何人もいなかったのだから。 ぐのが・ほく達の仕事さ」 秋も深まったある日、私が出かけてゆくと、彼は書斎の窓をいっ ばいに開け放してコン。ヒューターに向かっていた。私は外から声を この話を聞いた時、私は分かったような、分からないような気分 になった。とにかく、彼は通信の基地をあちこちに建設するわかけておいて、庭へまわった。 けである。それも非常に遠い所に。 古いプラタナスの葉は黄色く色付いて、あたりの空気を輝やかせ 一度通信基地ができると交信は即時に行われるようになるが、基ていた。遠景に植えられたカエデは半分ほど赤く染まり、日はまた 地をつくるとなるとそうよ 。いかない。機材を宇宙船で運んで組み立高いのにタ暮れの気配を滲み出させている。 てるのだが、宇宙船のスビードは光速に達することができないの 私は片隅に止めてあったミニ・トラクターに乗りこむと、開けた だ。長い道中のほとんどを乗組員は冷凍睡眠で過ごす。彼らにとっ 一画を順に掘り起こしていった。腐食土を埋め込むためた。 ては数カ月の旅が、地球上では数十年の歳月を意味するのだ。だか しばらくすると彼がサンダルばきでやってきた。プラタナスの幹 ら、宇宙船の乗組員達はチームメイト以外の者とは生涯通じての付にもたれて煙草をくゆらしながら、私の仕事ぶりをながめている。 7
マッキンレーが抱き起こす。 、刀し / 隊員のリチャード・、 「おいー マディー見ろ ! あの地球に生えた足が動いているそ 「やあリッチー。また地球をながめてるのか ? 」 ートが言うと、リチャードはキッと彼を振りむいた。彼だけ ! 」 リチャードが叫ぶ。 はきれいに髭を剃っている。それが、かえって彼の顔を青白くみせ 「なに」 ていた。 マッキンレーは隊長をほうりなげて地球を見た。 リチャードは答えず震える手で頭上を指さした。 「ほ、ほんとだ : : : 」 「隊長、見てください。天頂に浮かぶ地球を」 ・ : 。なんだか地球が動いているような気がしないか ? 」 ハートは肩をすくめて頭上をあおぎ見る。ドーム内の明りが消「おい 「す、する。いや、確かに動いている : : : 」 えた。 「オー・マイ・ゴッド 頭上を見たとたん目をパチパチさせて手でこすった。 二人も泡を吹いて隊長の上に・ハタバタと気絶した。 ? どうも目がおかしくなったらしい。 「マディー 目薬はないか 地球に生えた足は水中を泳ぐ蛙の足のように、さかんに動いてい マッキンレーとリチャードは黙ったままだ。 ーーー宇宙 地球は戦道をはずれて宇宙空間を泳ぎだしたのだった。 「お、おい。私には、どうも妙な物が見えるんだよ : 空間で平泳ぎのように足を動かしただけで、はたして移動できるの たら君ら二人にもあれが見えてるのか ? 」 かは疑問だが、とにかく動いているのだからしかたがない。 ートはむりに笑ってみせる。 地球は月を後に残して、ぐんぐん宇宙を泳いでいった。 「見えます。だから隊長を呼んだのです」 地球の進む先には火星があった。なんと火星には二本の巨大な腕 マッキンレーが抑揚のない声で言った。 。あれは冗談だろう。あれが生えているではないか、その腕は人間の女性のもののように、細 「ははは、しかし、まさか。あんな : っそりとした形のよい腕であった。 は。ははは」 しなやかそうな長い指のついた右手が動き、むかってくる地球 ート・ロビンスンは頭上を指さし、げらげら笑いつづけ、そ に、おいでおいでをした。 して泡を吹いて気を失った。 地球に生えた足は喜んだように・ハタつくと、さらにぐんぐんと火 ドームの天頂に青い地球が見えていた。その地球の太平洋のあた りから二本の足が生えていたのである。とてつもない大きさの男の星へむかっていった。 腿から下の足が。 「隊長 ! しつかりしてくたさい ! 」 もしかし
かせた。「一種の直感といってもいいな」 「まず、以前のほうをうかがいましよう」 「ひょっとすると、その椅子の下にいる死んだ猫の匂いでは ? 」ジ ーヴィアンスはシャツの胸ポケットから草の葉を一枚とりだし ヨルスンは足でそっちを指し示した。 て、下の歯にくわえた。 「よろしい、宇宙はもともと地球に支配さ 「いや、この猫は新しいよ」と。 ( ーヴィアンス。「毒見役に、何びれるべきものだった。それが不運にも、二万年のいわゆる知能のタ きも使っているんだ。どうやら、朝食に毒が入っていたらしい。しイムラグによって、地球は他の惑星系につけこまれる結果になっ た。わたしの仕事は、すべての惑星をとりかえして、それらを地球 かし、個人的に毒を盛る試みは、政府の組織的なそれに比べると、 まだ発見しやすいほうさ。上水道の水には十九種の有毒物質が含まから支配することにある。ジェーンウェイさん、強力な地球中央政 れている。そのうちの十は、もし市民が足並みを乱した場合に彼を府の確立と、それに地球の権利の回復が、わたしの悲願なんだよ。 それからまた、どんな形の所得税にも、大半の歯ミガキにも、 殺すためのもの、五つは市民を退廃的な生活と非伝統的なダンス・ ステッ。フにひきこむためのもの、あとの四つは市民を社会主義政党キング・メーターにも反対だ」 への投票歴のある候補者に投票させるためのものだ。わたしは絶対ジョルスンは、グルー。フ << の領袖が体を揺らすのを見つめながら に水を飲まん」 いった。「あなたはある意味での平和主義者、戦争をなくそうと意 「じゃ、なにを飲むんです ? 」 図している人だと思っていましたが」 ーヴィアンスはそばのテープルの上にある水差しを、印章つき「そう、わたしが始めたのでない戦争をなくすることには興味があ の指輪でコッコッとたたいた。「アップルプランデー。地球古来のる」まっすぐな髪の毛が広い額に一ふさ垂れてきたので、 飲料だよ。わたしは地球外の食物をいっさい口に入れないことにしアンスは手を上げてそれをなでつけた。「ジェーンウェイさん、こ ているんだ、ジェーンウェイさん。地球の食物のほかはなにひとつれはオフレコということで、一つお話ししよう。わたしはいま非常 ね。お気づきだろうが、わたしはあんたに敬意を表してさん付けでに大規模な軍事顧問団を編成中だ。また、きわめて著名なファッシ ョン・デザイナーを、地球のパリという町から、はるばるここまで 呼びかけている。たとえあんたが外星の匂いを漂わせていてもだ。 わたしのファイルには、すべての惑星を、その住民の体臭によって瞬間移動で呼びよせた。グループの制服をデザインさせるため ど。人選には、実に苦労したよ。わたしが副官たちに、ホモは絶対 分類してあるんだよ。いうまでもなく、地球系の惑星は、もっとさオ に避けろと指示したからだ。根性のある、男つぼいデザイナーがほ わやかな芳香に満ちているが」 「地球にまさる匂いなし」とジョルスンはいった。「地球以外の宇しかったのでね」 宙に対するあなたの計画は、どんなものですか、・ハ ーヴィアンスさ「よく見つかりましたな」 「白状すると、彼はパリの人間じゃない。ネ・フラスカという土地の 9 「わたしの支配の以前かね、以後かね ? 」 生まれさ。しかし、休暇をパリで過ごしていたので、それっとばか
ⅢⅡⅢⅢⅢⅢⅢⅡⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅡⅢⅢⅢⅡⅢⅢⅢⅢⅱⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢ 学」「惑星地質学」といった新しい学問領域を 開拓した。 、はなやかなアポロ計画も、急速にダウ ンして行った。すでに、月旅行の一番手が旅立 っ朝、ケー。フ・ケネディ宇宙センターには「宇 宙より地上の貧困に金を回せ」と叫ぶデモ隊 「貧者の行進」が押しかけ、暗い影を投げかけ ていた。 そうした「地上を」の声は、その後、次第に 高まり、米航空宇宙局 (Z<T<<) の予算も急 池見照二 降下をみせた。月の次は火星へ有人飛行をしょ カット / 島津義晴 うーーーといったでつかい夢も、し・ほまざるをえ なかった。その夢を熱っ・ほくぶったアポロ計画 「この一歩は小さいが、人類にとっては大きな拍手と歓声に包まれた。 の立役者、ウエルナー・フォン・・フラウン博士 飛躍だ」ーーーあのクールなニール・アームスト それから約六時間半後の午前十一時五十六分も、すでに死去し、文字通り「アポロは遠く」 ロング船長が、月面から送ってきた地球人への二〇秒、アームストロング船長が人類として初なってしまった。 歴史的なメッセージを聞いたとき、私達は「つめての足跡を月面にしるした。ふわふわと月面アポロ月飛行のあと、アポロ・ソューズ共同 いに人類は他の天体を征服した」という感動にでゆらぐ宇宙飛行士の姿は、全世界へテレビで飛行が行われ、デタントの象徴としてもてはや 酔いしれたものだった。 生中継。かってコロンプスのアメリカ発見のニされた。またスカイラ・フ計画で、長期間の宇宙 それから月日はめぐってはや十年。当時の熱ュースは、八カ月かかって英国へもたらされた飛行実験も展開された。しかし、その長期間宇 狂的な宇宙熱は冷え切ってしまった。しかし、 が、宇宙のコロン・フスは、宇宙の新大陸発見、宙滞在記録も、ソ連によって史新された。 アポロ技術は、いま地上で花開いており、宇宙上陸の一挙手一投足が、同時に世界の茶の間で アポロ月飛行十周年が近づいた去る七月十一一 開発も「冒険」「探検」の時代から「実用」の注視された。まさに壮大なドラマであった。 日には、そのスカイラブが落下駁ぎを起こし、 時代へと移り、着実な歩みを続けている。 「コペルニクス的転回以上のもの」「人間の世宇宙開発の公害として、世界の批判を受けたの 人類の代表選手が初めて月面へ着陸したの界観は変わる」 こんな言葉が新聞や雑誌のも、皮肉なめぐり合わせだった。 は、日本時間で一九六九年七月一一十一日午前五活字におどったものだった。 ポスト・アポロは、地道で「実用的な利用」 時十七分四十秒だった。月着陸船「イーグル」 その後、肥、 3 、 4 、 5 、 6 、号とアポロ と「惑星探査」へ焦点が向けられた。 を操縦したアームストロング船長とオルドリン月定期便が次々と飛行。このうち号は、酸素大向こうをうならせるような派手なものでは 月着陸船操縦士は、月面の「静かの海」にソフタンクの爆発で月着陸をあきらめたが、他の定ないが、宇宙の気象台といわれる気象衛星、宇 トランディング。 期便は予定通り月面着陸を達成。各種の観測機宙のテレビ塔と呼ばれる放送衛星をはじめ、通 「大丈夫か」と息をひそめていたヒーストン器を月面に展開したばかりでなく、約四百キロ信衛星、資源探査衛星、航行衛星などの実用衛 の飛行管制センターに、アームストロング船長グラムの月の石や砂を持ち帰った。 星が相次いで打ち上げられている。 の冷静な声が飛び込んできた。 月の石の分析や月震計の観測結果などから、 惑星探査でも、より遠くへと″人類の手″は 「イーグルは着陸した」 月のべールははがされ、月、地球を含む太陽系伸びている。火星探査機「・ハイキング」は、火 続いて「こちら静かの基地だ」と、やはりクのナゾの解明に大きな貢献をした。これまで天星の赤い表面をうっし出し、一時的ではあった ールな声。 文学者の研究領域だった月が、地質学者、地球が火星生物生存の夢をかき立ててくれた。また そのとたん「やった」と、管制センターは、 化学者、地震学者らの手にゆだねられ「月質最近では「ポイジャー」が、木星にも土星のよ サイエンス・トピック 月着陸十周年 0
差した。 ( したが、このところ疎遠になっていたのだ。 「あそこのところが空間をよじって、二点間の連絡をする働きを持「いません」と私は答えた。そう答えることによって自分の中でひ 7 っているんだが、その調整が一番大変なんだ。計算通りにやってもとつの決着をつけたことを私は知った。 実際には連絡がとれないことが多い。そうすると、空間モデルを一 「ユウコさんのようなすてきな人がいるといいんですが : : : 」とっ から組み立て直して地球との位置関係を決定しなければならないんけ加えた。 だよ。それも、。ヒタリとッポをさがし当てるのは奇跡に近いといわ「そうだな」 れている」 彼は私の言葉を肯定した。私は笑って彼の顔を見た。 後から知ったことだが、その奇跡的な作業に関して、彼は誰より「ユウコを尊敬しているんだよ、・ほくは」 も高い評価を得ているのだった。彼と同じ仕事をしている人間は他そういって彼は頭をかいた。 にも数人いたが、重要な惑星の通信基地建設の時は、必ずといって「なんで一緒に居てくれるのか分らなくなることがある : : : 」 しいほど、彼が指名されるのだという。 それから私は二人の出会いについて聞いた。最初の飛行ーー・彼に 研究所の門へ向かいながら、私は彼に尋ねた。 とっては一年半の旅だったが、地球上では三十数年が過ぎていたー 「どうして結婚しても同じ仕事を続けているのですか ? 」 ーから帰った時、自然音と楽器の音とで構成するコンサートで、彼 普通、結婚した男は宇宙旅行はせずに、地球に居て、家族と同じは彼女と知り合ったのだった。彼の隣の席で、彼女はレーザー光線 時の流れの中で過ごすのだ。 のパネルを操作していたのだ。 「自負かな」と彼は答えた。「この仕事をやらせたら俺にかなうや「ひと晩付き合ってくれる相手が欲しかったんだけどね」 つはいない。そう思っているから、自分の占めている場所を他人に そう彼は言った。ひと晩のつもりが、何十年、ことによれば何百 譲りたくないのだと思うよ」 年もの付き合いにつながったのだった。 私には全く馴じみのない考え方を、何とか理解しようと、その言 葉を頭の中で反芻しながら私は歩いた。 二月の末に彼は出発した。四度目の太陽系外への飛行である。惑 研究所を出て少し歩いたところにあるパーラーに私達は入った。 星・ハルサムへの旅は、片道十一一年、帰ってくるのは二十五年後にな 彼はコーヒーを、私はココアを頼んだ。季節風の中を歩いて凍えたる。 身体には熱い飲物がありがたかった。 出発してから二週間後、宇宙船は木星の軌道を越えた。冷凍睡眠 「きみは、ガール・フレンドは に入るーー - ・彼からの連絡があった。彼女も医師に見守られて、冷凍 何も言わずにコーヒーを飲み干した後で、彼が言った。私はちょ睡眠に入った。 維持装置は自宅の地下に安置されている。最初の一カ月間、医師 っと返答に困った。しばらく前から付き合っている女の子がいるに
こえると、突然、大規模な岩石の破壊が起こそうして岩石の強度には、限界値があるかいないものは、まずあるまい。 ら、地震の規模にも、必ず上限があるはずであが、一般庶民の住居となると、なかなかそう そしてこの急激な破壊によって生じた弾性波る。 いうわけこよ 冫ーいかない。第一、耐震構造にする ( 地震波 ) が、地表に達したとき、大地は揺動たとえばマグニチュード が、九をこえるようためには、金がかかる。 し、私たちは地震と感じるのである。 なバカでかい地震というものは、この地球上でそれも私が、身をもって経験しているところ では、いったいどのような原因で、地殻の中は、まず絶対にありえない。 に、ひずみがたまるのであろうか。これについ その前に、地殻が壊れて、ひずみのエネルギ私は二十年ほど前に、中古品の家を買って、 ては諸説があり、長い間、不確かであった。 ーを、吐き出してしまうからである。 いまいる場所に住むようになった。二階建だ が、思いがけなくも、その最も有力な解答有史以来、最大の地震は、一五五六年 が、本格的なものではなく、中一一階というやっ は、地震学者ではなく、アメリカのヘスやヒー まからおよそ九百一一十年前に、中国の陜西省であった。 ゼンのような海底地質学者が提唱したプレート で、起こったものだといわれる。 私は、その天井の低い中二階の真ん中の部屋 ・テクトニクス説によって、与えられたのであこのときは東西五〇〇キロ、南北二五〇キロ に、本など持ちこみ、書斎とした。トイレをつ る。 という広大な地域に、倒壊家屋を生じた。日本けたり、多少の改造もしたので、初めのうちは 東太平洋の深海底には、海嶺といって長大なでいえば、東西は東京からほ・ほ岡山に達する距きれいだったが、そのうちに本や雑誌や書類 海底山脈があり、ここからたえず、熱い地球内離、南北は東京から福島くらいまでである。 が、どんどんたまりだした。 部の物質が、溢れ出している。 このような広範囲にわたって、甚大な被害が雑誌などは、部屋からはみ出して、階段にま が、無限に積み重なるわけこよ、 、つこ A 」だ。 冫。し力なしカら、 るのに、結構、都合がいいものである 厚さ一〇〇キロくらいのプレート ( 板状岩石このときの推定マグニチュード・、 力、八・八で本棚は、部屋の壁際にずらりと並へていた 圏 ) となって、左右に分れ、動いて行く。 ある。日本でも、八・六をこえる地震というが、年とともに上部が壁から離れて、傾くよ うになった。 日本列島の方へ押し寄せてくるのは、太平洋のは、これまでに一度も起こってはいない。 プレートと呼ばれ、日本海溝のところで、地殻だから九の地震に耐え、しかも完全に不燃どうやら、本の重みで、床面がたわんできた 深く潜りこんでいる。 性の建物を造れば、どんな地震がきても、理論のである。それでも私は、沈下した部屋の中心 そのときに日本列島の横腹を、ぎゅうぎゅう的には平気だということになる。したがって、 に坐り、平然と仕事をしていたが、そのうちに に押しつけ、同時に下方へ少し引きずりこむ。面倒な地震予知など、しなくてもいいという議見まわりにきた大工が、 これが、ひずみの原因となり、押された地殻論も出るわけである。 「このままだと、スポッとゆくことがあります が一万分の一の変形ーーっまり一キロの長さで 一〇センチくらい変形すると、破壊が起こり、 しかしこれは、まったくの暴論というもので と、ヘンなことをいうようになった。家人に 大地震が発生するというのである。 ある。なるほど建築の方では、多年、耐震構造聞いてみると、 というものが研究され、地震に強い建物が、ど「地震がきたときに、中二階の底がスポッと抜 このように地震というものは、地殻の中の岩んどん建つようになっている。 けてしまう」 石の破壊によって起こる。 大都市の名のあるビルで、耐震構造になってという意味である由。私は、東南海地震など る。 ! 」 0
かうろじて助かったのは家などが密集していない地方の農村ばか「見ろ ! やつらは自殺してゆくそ ! 」 。それでも被害は甚大であった。 「レミング現象だ。そうに違いない」 人類はあっけなく、ほとんど滅びてしまった。まさか、こんな形「われわれは助かったのた ! 」 で滅びるとは誰も予想しなかったろう。 人々は手をとりあった。 はりつく物のなくなった大小さまざまの足たちは、むやみにとび ついに、全世界を破壊しまくった足たちは、すべて海へ入り、地 まわるばかり。分裂したり、固まって一つの巨大な物になったりで上から一匹残らす消えてしまった。 足たちの数を数えることは、とうてい不可能である。 生き残った人々は、森や岩穴などに逃げこみ、小動物のようにし っとしていた。不思議と足たちは生きている人間や動物、植物など「隊長 ! 大変です ! 」 には、けっしてくつつかないのだった。岩などにつく物もあった「どうしたマディー ? 音信不通だった地球から連絡でも入ったの が、気にいらないのかすぐにはがれてしまう。 いったいぜんたい足たちはなんのためにくつつくのかよくわから 月の表側の赤道上、〈中央の入江〉にある人類初の有人月面観測 ート・ロビンスンは ない。たた、足たちにくつつかれた物は、みるみるうちに古びてき基地で、一カ月めをむかえようとしていたロバ て、最終的にポロポロになってしまうのがわかるたけだ。 髭だらけの顎をなぜた。 そして、しばらくのち。 ハート・ロビンスンを隊長に以下二名は、三週間前に突然地球 廃墟の町を地獄からの使者のように我もの顔ではねまわっていた からの連絡を断たれてしまい、なすすべもなくこの月面基地で、と 足たちが、突然、列をなして一つの方向にむかいはじめた。 ぼしい水と食糧を食いつないで生きてきたのだった。むろん彼らは 彼らは海へむかいはじめたではないか。 地球でなにがあったかは知るよしもなかった。 生き残った人々はそおっと彼らの様子をうかがった。大小様々の「無線どころじゃありません ! とにかく展望ドームまできてくだ 足たちはそろそろと海岸にむかう。なにか にはりついていた足たちさい ! 」 こちらも髭面のマッキンレーは唾をとばして言う。 も、みなはがれて足たけになり列に加わっていった。とてつもなく 長い足の列が、川の流れのように続いていた。 「あわてたってどうにもならんのだよ」 海へついた足たちは、ためらいもなく中へ入っていった。砂浜に ハートは苦笑しながらマッキンレーのあとを追った。走れるほ ついたものは、そのままザブザブと入って行くし、岬や岸についたど、この基地は広くない。いくつものハッチを開けて進むマッキン ものは次々にとび降りて行く。 レーのあとに、できるかぎりの早さで続く。 生き残った人々は喜んだ。 三人入ればいつばいになってしまう展望ドームには、もう一人の