なことを ? それに、なぜわれわれ三人が選ばれたのかを説明して地震がおこり、 1 、 2 、 3 もろともに壊減する : : : これほどの大問 題となれば、わしでも無力感をおぼえるぐらいだ」 いたたきたい」 ・ほくは先をうながした。 元帥はうなすいた。 「想像力のきわめて旺盛なきみにしてそうなのだから、一般民間人「それでなぜわれわれ三人を : : : 特に・ほくはもう若くありません。 が事態を楽観視しているのも当然だな。犯人、その超能力者 >< だ閣下は若者といわれましたが」 元帥はうなすいた。 が、簡単にいうなら、妄想を現実のものに変える能力があるわけ 「詳細はアキャマ参謀に聞いてくれ。諸君が最適であり、それ以上 ど。よろしいな : : : 」 の人間はいないからた。異る時空間を短時間に何度移動しても、体 「はい」 と心に悪影響を及・ほされない健康な戦士を選んだわけだ。ひとつ、 「その妄想具象化能力が小規模な場合はまあいいとせんか。だが、 想像力を一杯に駆使した物語を読み、それを現実に変えられるようきみは若くないといったが : : : そこにならんでいる女性のうち、き ひとり指さしてごらん」 になったとする。例えば : : : わしはそう詳しくないので、アキャマみが初めて会った相手をだれでもいい、 リリン・モ ・ほくは見まわし、花のようにあでやかな若い時代のマ : クラッシャ 参謀に教えられてすこし目をとおしてみたのだが : リリンは腰をゆらりとゆらして、一歩前に出 ンローを指さした。マ 丿ー・ローダン、キャプテン・フューチャー、あるい はジョウド・カズナリ、サキョウ・コマツなどといった物語を読んた。 元帥は微笑して尋ねた。 でだな、その舞台設定を現実のものに変えたとする。どうなるね 「この世界のみならす、この宇宙「ミス・モンロー」 ? 」元帥は重々しく首をふった。 「はい、閣下 ? 」 全体がねじられ、ひずみ、圧力がたかまり : : : その現象を現実の宇 イン・フロ 「ヤノ軍曹の年齢はどれぐらいか、きみの想像するところをいえ。 宙に重ねて生じたおできと見るなら、この宇宙は最悪の場合、爆 急げ ! 」 縮をおこすだろう」 マリリンはロを噛みそうなまでにあわてて答えた。 ・ほくは呆然とその言葉を聞いていた。この宇宙たけですむ問題た 「十九歳 : : : ぐらいと思います、閣下」 ろうか、これは ? 元帥は言葉を続けた。 「よろしい」 「宇宙といわず、この地球に限ることとしてもた。犯人が″復活の ぼくはあっけにとられた。そう、三十歳のとき、アメリカの酒場 しいがと祈るのは、わし 日″などという物語を読んでくれなければ、 、っておくが、これはこの地球 2 だけの問題でで未成年者と思われ、旅券を見せなければいけないことがあった。 だけではあるまいし 9 はない。位相網の点から考えると、専門家の意見ではたな、そのうでも、五十六歳のいま、白髪がほとんどになったこの頭で、十九 リリン ? 日からおまえは、どちらかというと白 ちの世界のどれか、どれかの宇宙が爆発もしくは爆縮すれば、位相歳 ? アホか、マ
ード十イレド : 、 のである。それがいけないといってるのではない / ードボイルドであるゆえんとな ・ほく自身それゆえハ だって一九七〇年代のトウキョウの水あかなのだ。一九七九年るところのものは、それが何らかの行動様式の必要でなくなっ のトウキョウを描くためには、疑いもなく、トウキョウにふさた都市の住人を描いている、といったことである。「ハードボ ハードイルド わしい文体が必要になるであろうーーそしてそこに住んだり、 イルド」はちっとも「固ゆで」ではなく、その本質きわめてウ あるいはせめて、そこに住むとはどういう肌あいのものなのかェットにしてとうていタフⅡガイというようなものではない、 を知りつくしている人間だけが、なるほど、これは東京の水あということはすでに云われていることだが、これは当然のこと かであって香港のではな 、、と納得できるような行動様式、もであるーーなぜならそれは、卵というよりは、卵をゆでる水の しくは行動様式のなさが必要だ。 水あかに属するものであり、たといストーリイという卵が三分 本当のところハードボイルドには ( わがヒロイック・ファンゆでの半熟になろうがかちかちのハードボイルドになろうが、 タジーにも ) ストーリイなんというものは無用の長物なのだと水の中で割れてひろがってしまってさえ水そのものの水っ・ほさ 思う。かれは ( それが誰であれ ) 単に状況によって反応するだ にはいっこうに影響のあろうはずもないからなのだ。 けである。都市生活者として正しいのはそういう態度でしかな いからだ。 そして、そういう都市生活に適応しかね、何ご だがそれなら、わがヒロイック・ファンタジーはどうかとい とかを自分の手で変えたり、昔のままに保ったりしておこうとうと、これはまた全くちがった意味での自閉症の症例である。 する人間が彼の顧客、というよりは彼の患者になるーー彼はガ さっきもいったが、酔いどれ探偵がどぶに首をつつこんで倒 ン細胞にのっとられた人間のようなものであり、ガンに抵抗しれているシカゴのダウンタウンと、人面の蛇がによろによろ這 ようとしている人達を説得して歩くのだ。 いまわる超古代の神殿の地下とを同じものの異るあらわれかた さて、ハ ードボイルドの行動様式について・ほくの云ったこととして考える、ということは、そもそも大いなる矛盾以外の何 がおわかりいただけたであろうか ? かれは酒が出てくると酒ものでもないように思えるかもしれない をのむ。酒が出てこなくても酒をのむ ( かれが積極的に反応す だがしかし、それらは実のところ同じものなのだ るのはそのことだけた ) 。女が出てくるとやさしくし、撲られし、要するにそれらにとっての問題というものが、つねにある ると倒れる。人がいると話しかけ、人がいないと述懐をする。 行動様式のありかたにかかわって成立する、という点で。 ところでこういったことはすべてただひとつのこと、すなわち さよう、つねにあるものが本質的に重要であるか、ないか、 彼が何らかの行動様式にそってではなく、ある行動様式の喪失ということは、そのものが、その時代、その社会、その世界に にそってふるまっている最初の男なのた、ということをおしか固有のある行動様式に対してどうかかわっているか、というこ くすためだけに行なわれているのであるー とに密接な関係があるのだ。そういったものを何の疑いもなく 幻 8
のようにだ ) そしてそれがあらわれてくることによってその母彼はシカゴ、ロスを歩きまわり、顔がひろく、妙な図々しさ たちはそれぞれそれまでとは微妙にちがった印象を世間に与えとシニカルさと、そして性懲りもない、女性への親切心を、ど ることになってしまった。むろん読者層はひろがったかもしれうしても捨てることができないーーーそして女性は当然・フロンド ない。しかしまた、それはたとえば・ほくのように、 ハードボイとプルネットとの二人が登場し、一方はヴェルマないしメイベ ルドは亠祝まない、 、、ステリーは「本格」たけしか読まない、と ルであり、もう一方はアンないしローズである、ということに いう、よりせまい読者をつくったであろうことも疑えない。もなる。プロンドの方は黒いガーターをしていて、必要とあらば ちろんその一方には、「ハ ードボイルドしか読まぬミステリー それをちらっかせて着更えをしてみせるし、ところが・フルネッ フロンドに マニア」があらわれもしたわけだ。 C ほくが「ヒロイック・フトのほうときたら、どこかの秘書か何かなのだが、・ アンタジーしか読まぬーーーこれはオー ーというものだが 劣らない脚の持主であるくせにいつもズボンが好みときてい る。 マニア」であるように ! ) それはミステリーなりなりの概念を、ひろげると同時に だが実のところこうしたすべての特性も、ほんとうの意味で 純粋な意味ではよりせばめることにもなっただろう。そして最のセクショナリズムというよりは、それの装飾的象徴ーーオラ 後の、かっ最大の特性ーーそれがすなわち、このふたつの鬼子ンダ娘のサポや、スイスのレストランのメニューにあるフォン のもっ本質的な地方性、閉鎖性、ある種のかたくななセクショ 一アユのように とでもいうべきものにすぎないのだ。それは ナリズムといったものである。 ヒロイック・ファンタジーでいうならばルーン文字をあやつる 1 ドボイルドというジャンルが二十世紀のアメリカ、それ魔法つかいであり、誇りたかいべンダーヤの王女であり、そし もニューヨーク、ロサンゼルスの裏街、といった極度のセクシて筋骨隆々の蛮人に素手でひきさかれるためにだけ彼の前への ョナリズムによってはじめて様式化されたものである、というさばり出てくるような大蛇やウシの類いといってよかろうが、 こんにち ことは、今日、もう定説と呼んでいいのたろう。 多くの場合読者はスモッグにかすむゴールデン・ゲイトと、 ハードボイルドの様式はいま考えられているよりもすっとせ「太古の大陸」の鬱蒼たる原始林とが同じ盾の両面であるのに まくそしてかたくなである。たとえば主人公の職業は私立探偵すぎないと考えるのに馴れることができないかもしれない で、そして多くはその顎のまんなかにはプルートふうの割れ目 そしてそれは正しいのだ。そうした徴候は、本質的なもので がきざみつけられていなければならないし、おまけに彼はアル 冫ない、という点ではまったく変わりがない。よれよれのステ 中で、格言癖を有し、一人称で物語り、何回かはこてんばんに ットソンと、、ハーポンかジンのポケット瓶と、すごい・フロンドと のされて道路の水たまりに首をつつこむ羽目になるーー・たいて腎臓型のプールをとりさってもハード・ホイルド ( もちろん「本 いの場合、さしたる意味もなくだ。 物の」 ) のハ ードボイルドたるゆえんは依然として水底の石の 6
指揮官も、すぐに装甲車のなかに頭をひ「こめたのが見えた。天 える。 蓋がしまる。 その時、ヴィダルの視野の端を何かが横切った。 ヴィダルはぐいと砲身を下げた。 : ? ) と首を回した途端、わずかに砲の陰からのそいたヴィダ そして、百メートルほどまでに接近して、小さな岩陰から狙撃し ルの頭を、カ線が一閃、かすめた。 てくる銃手に狙いをつけた。すぐに引金を絞る。 「畜生 ! だましたな ! 」 今度は命中だ。 狙撃だ「た。取引に夢中にな「て、接近してくる特攻兵に気づか 岩ごと、狙撃手は蒸発していなくなる。すさまじい威力だ。次の なかったのだ。 目標へと砲身を回す。 ノ」となりの砲座から、すさまじいラーガの悲鳴が起こ さっき撃たれて転落したラーガのことが気になるが、今はとても る。 慌ててうかがうと、片足をおさえたラーガが、砲車から転げ落ち助けにゆける状況ではなか 0 た。 敵の歩兵は、こちらの射線を避けて、次々に突進してくる。その るのが見えた。 ( どうあ「ても、俺たちを殺す「もりなんだ ! ) とヴ , ダ ~ には歯勇猛さは、それだけでヴ→ダ ~ をおじけづかすに充分だ 0 た。 ぎしりした。旅人だ、と素性を正直に打ち明けたのが裏目に出たら敵の放 0 小〕径カ線が、砲車のあちこちに当「てははじけ飛ぶ。 しい。奴等は面子にかけて、侵入者を嬲り殺しにする気なのだ。もしかし、まだ装甲は破れない。 装甲車の砲もびたりとこちらに向けられているが、基地の内部を う迷っているヒマはなかった。 破壊するのを怖れてか、今だに発砲しようとしない。 ヴィダルはいきなり、カ線砲の引金を絞った。 それだけがヴィダルにとっての救いだった。 ヴィダルは不必要な大口径砲身を振り回しては、まるで蟻をつぶ 反動も何もない。不気味な発射音を残して、火の玉のように見え すように歩兵ひとりひとりをつぶしていった。 るエネルギ 1 塊が、装甲車めがけて一直線にのびた。 しかし、たちまち隊列は肉迫してきた。 しかし、やはり照準が甘かった。 その時である。頭上の天蓋をこしあけて、傷ついたラーガが自力 第一撃は指揮官の頭上をかすめて、かなたへと消える。 で逃げこんできた。 ( 糞ったれめが ! ) 「おい、大丈夫か ! 」 敵も、もうすべてを思いきったらしく、一斉射撃を加えてきた。 撃ち続けながらヴィダルが声をかける。しかし、ラーガはうめき ヴィダルは院てて砲車のコントロール・スペースに身をかくす。 薄 0 べらだが、回りには装甲板がある。小口径のライ「 ~ 位には耐声で答えるばかりた。狭い「一ト。ー ~ ・う〈 1 = のなかに血の臭 8 いが立ちこめた。ちらりと目をやると、片方の足がざっくりとカ線 えられるらしい。
と、勘をたよりにでたらめに歩く。城の石積みが崩れ、柱が折れ、 しまった。今ではからたが、その振動にあわせて、リズムをとって 床が裂け、もうあたしゃ軽業師た。右に左に上に下に、とにかく安しまっている。 全そうなところを片はしから選んで、石の塊やら鉄骨やらをかきわ「〈ラブリー = ンゼル〉 ! 」あたしは半ペソをかいて、奐き散らし けていく。 一度などは、数センチ横を数トンはありそうな岩が転がた。「〈ラ・フリー = ンゼル〉どこよ ! 」 っていった。さすがに冷汗ものたったが、なにしろ大混乱をきたし「あっち ! 」 ているので、さほど怖いとも思わない。あら助か「たわいくらいの素早く地形を見て判断したらしい = リが言「た。あいつ、あたし 気持ちで、また新たなアクロ。ハットに挑戦した。 よりしつかりしてる。どうやら、いつのまにか立ち直ったらしい そして、どのくらいさすら「たことたろう。唐突に、まったく唐だいたいこんな未曾有の危機の中にあって、落ちこんでいるヒマな 突に、城の外に出た。 んそないのだ。 それはもう、劇的な一歩だった。ひょいと岩をまたいだら、そこ あたしたちはタックルを避けるラガーのように、ジグザグに走っ はあっさりと城の外だったのである。 た。降ってくる火山弾から逃げるためだ。今はこれが一番飾い 「ケイ : 上空を振り仰いだュリが弱々しい声であたしを呼んだ。 ュリが叫び声をあげた。な、なんじゃ、やられたか ? 「ムギよっ ! 」 = リは言った。「ムギがいるわ ! 」 「ぬわにつ ! 」 何の気なしにそう言われて首をめぐらしたあたしの血が、一瞬に して凍った。 あたしはユリの示す方角を見た。左へ百メートルほどのところ 「ふ、噴火してる : : : 」 た。火山灰のおかげで、そのくらいの距離でも視界が悪い。 あたしは茫然としたまま、つぶやいた。 「ふみやあ」 例の島の中央にあった大カルデラ火口が、爆発しているのた。真啼き声が聞こえた。間違いない。ムギだ。アホが、何しとったん。 っ赤な火を吐き、巨大な岩の塊としか見えない暗灰色の噴煙をもく あたしと = リは、ムギのもとへと走った。ムギは何だかよくわか もくと立ち昇らせて らないスクラップらしきものの横に、ゆうゆうと坐りこんでいた。 耳鳴りのような地鳴りのような、何ともっかぬゴウゴウという音生意気に、毛づくろいなんかしてる。アホ、アホ ! 人に心配かけ が、あたしの頭の中で渦を巻いている。もうたまらない。こりや、 といて・ 地獄だ。 赤く灼けた火山弾が、どすどすと降ってきた。天もみるみるあた またユリが悲鳴をあげた。なんじゃうるさい。もう何見ても驚か しとユリのからだに積もりだす。地震は震度四くらいで、定着してんそ !
もめまいに襲われ、頭を抱えてうずくまった。 突き破る。 光は、おさまらない。それどころか、何かモーター音にも似た唸 「ギャアアア : : : 」 こ包まれた。炎は塊になっ りが、どこからか伝わってくる。パネルの様子を窺いたいが、肉眼イサべラの全身が、噴出した猛烈な炎冫 で見ることは、かなわない。しかし、何がおこったかの推理だけはて、こっちへふくれあがってくる。 ただひとつついた。 スペース・スマッシャ あたしたちは顔を伏せ、首をすくめた。が、炎は、ここまでは来 ーが、機能しはじめたのだ。それ以外にな ヤがまだしぶとく生きていて、そこでさえぎ ない。見ると、・ハリー い。アンチ・スマッシャーに何らかの異常が発生したに違いなかっ っているのだ。イサペラは、もう灰になってしまったか、その姿は た。もう、万事休すなんて段階は、通り過ぎている。 ! 」あたしはユリの手を把った。「逃げるよ ! ついといでどこにもない。 ・ヘキベキと音をたてて、壁が割れだした。歪み、ねじれ、壁は次 「サンダー ルチア ! 」 、リャーも、長くはないだろう。あたしとユ 次と崩れ落ちていく。 / ュリは、ひざますいたまま動かない兄妹に、必死の声をかけた。 リは壁の割れ目のひとつに駆け寄った。サンダーとルチアは、まだ が、ふたりとも、まったく反応しようとはしない うずくまったままだ。これじゃ、助からん。 突き上げるような振動がきた。あたしとユリよ、、 ーしったん宙に浮「あたし、行く ! 」 き、それから落ちた。床にビビビーツとヒビがはいる。いや、地割 ふいにユリが、あたしの手をふりほどいて、二人のもとに走ろう こりや : : : 。振動は、さらに激しくなる。 とした。ムチャだ。あたしは逆にユリの手首をぐいと掴み、彼女を ズズーンと、鈍い爆発音が、どっかでした。連合宇宙軍のものと引き戻した。その勢いで壁の割れ目に転げこむ。 は、ちょっと違う。 リャーがつぶれた。 「ケイ、あれ ! 」 炎がイサ・ヘラの部屋に満ち、あたしたちが脱出に使った割れ目か ュリが、スペース・スマッシャーのパネルを指差した。。ハネルのらも、火炎放射器のように、ヘビの舌そっくりの火の帯が長く伸び 白光が薄れ、かわりにそこかしこから火を噴いている。爆発は、スた。 ペース・スマッシャーの中だ。 「サンダー ! ルチア ! 」 イサペラが、急によろよろと立ち上がった。 男はまだほかにいるー 奐くュリは半狂乱だ。立くな、ユリー 「危い ! 」 地震は、間断なく続いていた。泣きじゃくるユリを叱咜し、瓦礫 の山の間をよたよたと前進した。もう城ン中はぐちゃぐちゃだ。ど朝 あたしとユリは一緒に叫んた。 耳をつんざく大爆発が、パネルの上でおこった。炎が、パネルをつちがどっちだかさつばりわからない。とにかく城壁の外へでよう
「″ゲーム・ジェノサイド″ ! 」 「あ : 7 あに言うだ、この女ー ュリはコンソールに、つつぶした。 その間にも〈ラブリーエンゼル〉は高度を下げ、セント・ドミナ ミサイルは全部で六基だった。赤外線透導とレーザー透導の複合 方式で、でかわそうにも、ちょいと骨の折れそうな連中であス島に接近していく。また、島の一角からミサイルが射ち出され た。今度は、前にも十倍する数だ。しかも、小型ながら多弾頭ミサ る。最善の対処は、撃墜することたろう。 イルである。島にいるのが誰か知らないが、ようやくこっちの実力 あたしはコンソールにレーザーのトリガーを起こした。アンチミ を理解したようだ。ふん、ペッ サイルは、あとのためにとっておく。 ひとつのミサイルが、五つの弾頭に分かれた。合計で三百発近 「距離一万一千 : : : 」 い。それたけの弾頭が、マッハ五でひたひたと〈ラ・フリーエンゼ ュリのカウントがはいった。有効射程内である。宇宙船と違っ ル〉をめざしてくるのだ。いや、ひたひたなんてゆっくりした感し て、ミサイルはたやすく射落とせる。 ではない。擬音でいえば、どびゅーん、というやつだ。 トリガーを絞った。 「くそったれ ! 」 、とオレンジ色の炎の花が、明けたばかりのまだほの かに。ヒンクがかっている蒼空に華々しく開いた。正面から ' ハカ正直あたしはミサイルのトリガーも起こした。こうなるとアンチミサ イルをぶちこんで、いったん転針するしか打てる手はない。あたし につつこんでくるミサイルは、レーザーによる迎撃に対して、まっ たく無力だ。どだいこのクラスでは最強無比の〈ラブリーエンゼはミサイルトリガーを人差指で、ぐいと引いた。一度だけではな 二度三度と繰り返す。こちらも多弾頭ミサイルだ。透爆を狙え ル〉を相手にしてるってのに、こんなチャチなお出迎えですまそう るから、あっちゃの半分もあればよかろう。 ってのが気にくわない。 「顎ひいて ! 」 六基のミサイルは、たちまちのうちにガスと破片になった。 そう思ったとたんに、ガ いきなり、ユリが奐いた。いけねー 「周回はやめよう ! 」あたしはユリに言った。 「こうなったら、こ のまま対地攻撃をはじめた方がいいわ ! 」 クンとショックがきた。横なぐりの五だ。〈ラ・フリーエンゼル〉 「目標がわかンないじゃない ! 」ュリが反対した。「偵察抜きじが、ミサイルの爆風を避けるために回頭したのである。わかってい : 顎が痛い、首が痛 や、無謀よ ! 」 たが、ついミサイルに気をとられた。ううう : 「無謀、ちゃう ! 」あたしは自信を持って、言い切った。「あの島 ミサイルを追っていたスクリーンが真っ白になった。弾頭と弾頭 4 くらいの面積なら、無差別対地攻撃でふつつぶすやり方がある」 「あによ、それ ? 」 の正面からの激突だ。小型通常ミサイルとはいえ、これだけの数が
尾行車とは断定できない。 フン、。ヘッ ! あたしは鼻を鳴らして、後方噴射を絞った。臆病 「あいつ、ハイウェイの上からはいってきたんだよ」 者め ! お前なんかにエアカーに乗る資格があるもんかー ュリは顎をしやくった。なるほどそれが事実なら、はっきり怪し ェアカーの速度が三百キロ台に落ちた。せいぜい通常のクルージ いと言える。ェアカー専用のハイウェイにパイバスからでなく、上ングなみである。つまらん、つまらん。 からはいってくるなんて、あたしたちでなければ、あとやりそうな「野郎 : : : 」ュリがつぶやいた。また何かあったな、と思って、あ 人種は決まっている。犯罪者か、そのたぐいの連中だ。 たしはスクリーンを見る。「ちょっかいをだしてくる気た」 「速度を上けてみよう」あたしは言った。 「このエンジン凄いか ヘッドライトの光が、急速に大きくなりつつあった。画面全体が ら、五百キロは楽にでる。これがついてきたら、そうとうの覚悟を ハレーションをおこしかけている。やつは、さっきまでの速度をま 持ってるってことになるわよ」 ったく落としていないのだ。 「冗談しゃないわ」ュリが色をなした。「あんたの五百キロにつき「に、逃げた方がええだ : : : 」 あう覚悟は、まずあたしが持ってなきゃなンないのよ ! 上げるん ふいに、うしろから声がした。サンダーの声だった。ュリがあわ たったら、それを聞いてからにして ! 」 てて首を捻り、シートごしに振り返った。 「わはは、無視する ! 」 「サンダー あたしはエアカーの後尾噴射をマキシマムにもっていった。ス。ヒ いかにも心配そうに言う。ぐ、ぐやじ ! あたしだって操縦さえ ードメーターが、ぐうんと昇っていく。かなりの加速だ。があたしてなければ : しのからたを ' ハケットシートに、じわじわと押しつける。 「逃げた方がええンだ ! 」サンダーは言った。どうやらルチアも意 時速五百キロに達した。 識を取り戻したらしい。「あいつらは人殺しなんそ、何とも思って ハイウェイに沿った照明やネオンサインが、まるでワープ時の星 いない連中だ。捕まったら、どんな目にあうかわからね工だ : : : 」 星のように、ビ、ンビ = ンと後方へ尾を引いて流れていく。気、気「なに言ってンのよ ! 」あたしは笑って言った。「あたしたちは 運転はこうでなくっちゃ : 持ちがいしー の犯罪トラコンよ ! 見損なわないで ! あんな連中、スク ラツ。フにしてやるわ ! 」 「見なよ、ケイ」ュリが言った。「しつかり、ついてくるよ」 あたしは、ちらっと視線をスクリーンに走らせた。頬が。ヒクンと「そうか : : : 」サンダーも、かすかに笑った。「あんたらは、ダー 動く。映っているのは、たしかにさっきと同じへッドライトだ。′ 御テイベアだっただなーー」 「ぐ ていねいに、車間距離もほとんど一定を保っている。 「わかったら速度を落として ! 」ュリは皮肉たつぶりにつけ加え あたしは絶句した。サンダーみたいなハンサムに、それだけは言 た。「そろそろあたしの神経が限界に達するわよ」 ってもらいたくなかった。あたしたちのコードネームは、ラ・フリー 6
客用の寝室に案内され、ペッドを前にしたユリは、プーツを脱ぐ「熱心に、何見てんのよ ? 」 どこその色男でもでてるのかと思って、あたしは説いた。それな のももどかしく、ダイビングして仰向けにひっくり返った。気持ち よさそうに、目を閉じる。・ヘッドからはみだした足の指を、床に寝ら、あたしも見る。 そべったムギがペロリとなめた。 「何だ、ニュースじゃん : : : 」 「キャハハ : 横から覗いてガックリぎた。スクリーンに映っているのは、およ ュリのアホ ュリは笑いだす。たくもう、これがさっきまで猛火の中を逃げまそ野暮天の中年ニュースキャスターである。うえ ! どってた女かね。 め、なんちゅう趣味じゃー 「あたしや、シャワーを浴びてくるよ」 「あーひど ! よう見るわ」 首から下を・ハッチシ覆っていた透明の極薄強化ポリマーを専用の そう言って、またスツールに戻ろうとすると、ユリが振り返っ こ 0 クリームで洗いおとしながら、あたしは言った。これで保護されて 。例の空間破砕爆弾が、ま いるから、あたしたちはあんなきわどい服装で外を歩いていられる「うっさいわね工、ゴチャゴチャと のだ。でなきや、商売が商売だから傷たらけになっちまう。 た使用されたのよ ! ウエルディの首都がメチャクチャなんだから ア。静かに聞かせてよ ! 」 下着から何からみんな脱ぎ捨て、素っ裸になってスルームには いった。うんと熱いのとうんと冷たいのを交互に浴び、たつぶりと「げつ ! 」あたしは目を剥いた。「ス、ス。へ 1 ス・スマッシャーが 汗を流してからタオルを巻きつけ、外に出る。小麦色の肌が上気しまた : もしくは TJ て、ムフフ、色つ。ほいのだ。きよう一日、酷使したわりには。ヒチピ 空間破砕爆弾ーーー通称をス。ヘース・スマッシャー チと、艶がよい。今ここに男がいたら、一発でメロメロなのだが、爆弾ともいう。水素爆弾、分子爆弾、素粒子爆弾など、人類がつく 残念、いるのはムギと無粋なユリだけた。 りだした恐るべき性能の爆弾は数々あるが、銀河連合の決議で、そ ュリはうつ伏せになって、ペッドの脇のテレビを見ていた。いつの製造及び使用が禁じられているのは、この空間破砕爆弾たたひと のまにか服を脱ぎ、。ヒンクのスキャンティ一枚というはしたない姿つである。 である。ムギは・ヘッドの下で腹に頭をつつこんで丸まり、スャスャ スペース・スマッシャーは、空間構造の次元的根源を破壊するの と寝入っていた。 「シャワー、あいたよ」 ちょっとむずかしくなるが、のトラコン用のアンチョコ あたしはスツールに腰をおろし、声をかけた。 の一部を引き写そう。でないと、説明なんてできやしない。 スペース・スマッシャーは爆弾と呼ばれているが、実際はあ 2 「うん : : : 」 る種の発振装置とみるのが正しい。多次元存在確率の共鳴波をつく ュリは生返事だ。テレビから目をそらさない。
「もうドアを開けちゃだめよ」あたしは二人に言った。「フラッシ 鳴ってないし、スプリンクラーも作動してないわよ ! 」 ーで爆発するわ ! 」 しかし、そんな泣きごとを言っている時ではなかった。荒れ狂う 竜の舌のような炎は、もうほんの目の前にまで迫っていたのであ「ふみつ ! 」 ュリがうなずいた。 る。 「だめですっ ! 」アラ・ヘルが悲鳴のような声で言った。「ドアが熱 くなってます。このままでは焼け落ちて、どのみちフラッシュ・オ 3 燃えろ、いい女 ! なんて、やだい ! 鼻がツーンとし、目から涙がポロポロとでた。これはあかん。窒「くっそオ : あたしは周囲を見回した。これといって、役に立ちそうなものは 息してしまうー ない。しかも、照明がみな消えてしまっている。どうやら電気配線 「ゴホ、グホ、ガホ、ゲホーーー」 がやられたらしい。これでは電話も使えない。 アラベルが、ひどく咳きこんだ。モロに煙を吸ったらしい。あた あたしは、窓際に駆け寄った。ヒートガンでぶち扱いた大穴か しはあわててドアを閉めた。・ とうせ廊下側に逃げ道はないのだ。と ら、そおっと外を見る。風に巻きこまれそうで、いささか怖い。 りあえす新鮮な空気を確保しておくことが先決である。 陽はかなり傾いていたが、空はまだ蒼かった。本当ならタ暮れ前 「どうしよう ? 」 ののどかな昼下りである。いわば、デートタイムだ。こんなみじめ ゼイゼイと喘ぐアラベルの背中をさすりながら、ユリが説いた。 このドアでは、煙を完全にシャットアウトすることはできない。現に修羅場ってる時間じゃないー に、あるかなきかの隙き間を伝って、こちらに煙が噴出している。 いきなり、あたしの左手で鈍い爆発音がした。 三間とも廊下に通じるドアがあるから、この部屋が煙で充満するの びくっとして首をめぐらすと、十メートルほど離れた同じ階の窓 も、時間の問題だろう。 が吹き飛び、そこから炎の柱が五メートルほど伸びて、渦を巻いて いた。まるで巨大な火災放射器だ。誰か宿泊客が不用意にドアを開 「換気装置は働いてないの ? 」 ーをくらったに違いない け、フラツッシュ・オー 「だめみたい。空気が動いてないわ ! 」 身をのりだして階下の方を窺う。あたしたちのいる三九〇七号室 あたしは腰のヒートガンをひっこ抜いた。そのまま窓に狙いを定は表通りに面した部屋ではなかった。眼下にあるのは中庭である。 め、 トリガーを絞る。ぶ厚い特殊ガラスは二、三秒でドロドロに溶その中庭に、あたかもアリの大群を思わせる無数の黒点がそろそろ とうごめき、広がっていた。逃げまどうホテルの客だ。気がつく けて蒸発した。ひんやりとした空気が音をたててはいってきてテー と、二十階あたりまでの部屋の窓は、ほとんどすべてが激しい煙の プルの上のグラスを一息になぎ倒す。地上三十九階の風は強い