入っ - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1979年10月臨時増刊号
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1. SFマガジン 1979年10月臨時増刊号

て見えてきていた。 「思い出してみてはいるんたけど、まじない小路には、妙なものが 「ねえ、王さまー いつばい住んでるし、遠くから来るやつもひっきりなしだしーーー」 8 3 ヴァルーサは心もとなげに云った。 ヴァルーサが不安げに云う。 「あいつらーーー何だかさっきよりずいぶん、降りてきたみたいに見「あちらの石の目の顔のほうはどうだ」 「うーん : : : わかんない えるよ」 ふたりはウマを急がせた。 「目のせいだろう」 しだいに道はせまく、曲がりくねってきていた。かれらは、暴徒 「そうじゃないの。見てよ ! 」 と化した怯えた市民たちにぶつかることをおそれ、なるべく広い通 ヴァルーサにひつばられて、王は見上げた。 そして低く咽喉の奥で唸る。たしかに、そのふたつの顔は、さきりを避けて、裏道から裏道へと通っていったからである。 に黒曜宮の庭園で見上げたときにくらべて、いちだんと家々の屋根まもなくタリッドの界隈へ入る、というところでかれらはついに に近くおりてきたかに見え、 っそうぶきみに、大きく、ありありウマをおり、手綱をとって歩くことにした。 と首都の上にのしかかっていた。 サイロンはまるで死都と化したかに思われた。人びとはあるいは いまやその悪意にみちた細い目やふあついくちびる、物云わぬ石暴徒と化して邪教の神殿をおそい、あるいはこの都を逃れようと七 の目とひややかな顔とは、もうほんの少しでサイロン全体におおい つの門へつめかけ、そうでないものはたたもう災厄をおそれ、その かぶさり、その市街をのみこんでしまいそうた。 ぶきみな空の怪異を見るまいと、石づくりの地下室にでも逃けこん 「急がなくてはならん」 で、内がわから、、ハリケードを築いたその暗がりで一家がよりそいあ って神に祈ってでもいるのたろう。 豹頭王はきつばりと云った。 「どうするの、これから、あたしたち ? 」 市の中央部に近いこのあたりを通りかかる人影などまるでなく、 「まじない小路へ行ってイエライシャを探す」 それはその都が黒死病におそわれていたときよりももっと、すべて 「ふうん」 の人間が死にたえたかのような荒涼を漂わせていた。そして空には 化物の顔である。 娘は気に入らなげな声を出した。 「王さま」 「でもきっと見つけてるひまはないわよ」 ヴァルーサがびくっとして足をとめていった。 「なんだと。何故だ」 「ねえ・ーーーなんか、きこえない ? 」 「そんな気がするの , 「それは試みてみなくてはわからんさ。それよりヴァルーサ、また 「いやーーーあの遠くのさわぎか。あれは七つの門をあけ、サイロン あのこびとを、まじない小路のどこで見たのかは思い出せんか」 から出してくれと叫ぶ人びとを、護民兵たちがとりしずめているん

2. SFマガジン 1979年10月臨時増刊号

になった。グインはべつだん、ヴァルーサの歩みに気を配ってくれ と、いってー・ー・どこがどうと、さだかには指摘しかねる。ただ、 るわけでも、やさしいことばひとっかけるわけでさえない。しか さきに通りすぎたときのそこが蛇の体内を連想させたとすれば、 まは、同じように蛇の体内を思わせるその数歩ごとの隆起や、気味し、彼がとなりにおり、そしてその、彼の心も魂ももはやす 0 かり のわるい凸凹に何のかわりもないのだけれどもそれでいて、云「てめざめて彼の肉体と共にある、と思うと、ヴァルーサは、もう何ひ っ怖れるべきものはない、という気持になり・ーーその豹頭の王の、 みればそれはまどろむ蛇であったものがいまや目ざめかけているー 彼女とふれあっている固く太い腕から彼女の皮膚を通して、体内へ ーとでもいった、云いしれぬぶきみな息吹きを感しさせるのだ。 まで力強い彼の鼓動とっきることを知らぬエネルギーの一部がその 「王さま : : : 」 ヴァルーサはその、内心のお・ほろな懸念を何とかして王に伝えよまま流れ入「てくるように思うのだった。 「イエライシャはーーー」 うとくちびるをうごかしかけた。 ふいに彼女は気づき、何がなしぎくりとして口をひらいた。 だが、何と云えばよいものか、わからぬままに、そのままくちび 「イエライシャはどうしたかしらーーータミャは ? 」 るをしめして、また黙りこんでしまう。 口に出したあとで、いっそうヴァルーサはどきりとした。 ( ここが本当に怪物の胎内だとでもいうならばいざ知らす、これほ ど大きなものがひとつの、生命のある存在の一部でーーーそれが突然ず 0 と通りぬけてきた横穴の中は、うしろも、前も、動くものの こどンユクジュクと水ーーーそれと 生きかえって動き出す、なんていうことが、ほんとにあるものかし気配とてなく、何の物音もなく、。 , ナ、 もそう見える何かの液体ー、ーをにじませてしんと静まりかえってい 考えれば考えるほどにばかばかしい錯覚にすぎぬような気がしてる。その非人間的な静けさのなかで、いかにも彼女の声が唐突に、 きて、ヴァルーサは頭をぐいとふりやり、王の腕にからみつく右手いんいんとしてきこえたのに、ほのかに怯えの心がきざしたのであ る。 に力をこめた。 俺は、イエライシャという田刀を いや、大丈夫だろう。 たとえ、どのような危険な、そして恐しいところにかれらがいる「ム としても、それは、ついさ 0 きまでにくらべてまる「きり、絶望と知 0 ている。あれは、なまなかなことでは、どうして古き神をあが める魔女ごときに敗ける奴ではない。何しろ、《ドールに追われる も恐怖とも、危険とさえも云えぬような気がする。 なぜなら、さ 0 きまでは彼女たちはこの世にもありえない世界男》だからな」 しかしいま「 : の、孤独で、しかも頼りもはかない放浪者だった 9 は、彼女のとなりには、逞しく頼もしいケイ。 = ア王が、力強く歩「悪魔中の大悪魔、なべて世の闇と死とを支配するものであるとこ ろのドールと戦ってさえ生きのびられる魔道師に、タミャのような 5 を運んでいる。 そう思っただけでも、ヴァルーサは限りなくなぐさめられる心地一介の魔女が敵すべくもないさ」

3. SFマガジン 1979年10月臨時増刊号

アルスは王とヴァルーサをせきたてて、手近かにある一軒の家へますぜ ! 」 、、 0 とびこませた。 ティナはどうした ? 女神のティナは、病い癒 8 3 「なに、どうせここの家のやつだって、外へ出て、ヤヌスのお慈悲えたかな ? 」 を叫びながら、かけすりまわってますさーーーまったく、気狂いの国 フードをはすし、窓へよっていた王はたすねた。アルスは骨つき になっちまった、やつら、息は苦しいし、もうへトへトになって、 肉をもったまま急に泣き出した。 いまにも倒れそうなのに、恐ろしさのあまり、どうしてもかけまわ「勿体ない、覚えてて下す 0 たんでーーかあいそうに、乳より白い るのをやめることができねえんですからね ! 放っときや、あのま手足をした、あ 0 しのた 0 たひとりの女神のティナはね、あ 0 しが んま、アワをふいて倒れて死ぬまで、ああして泣きわめきながら、帰りついたときにやもう、カサカサの黒いむくろにな 0 ちま 0 てま 見えねえ魔物におっかけられて走りまわっているこってしようよ。 した。あっしゃあ泣く泣くそのとむらいをすませたものの、金づる やれやれ疲れた ! おや、 いいもんがある」 をなくしちゃあ、そうやすやすとあれほどの上玉のあとがまが見つ アルスは石の卓子の上においたままの、何人分かの食事の用意にけ出せるわけもなし、おまけにあの黒死の病の災厄のあとじゃ、そ 目をつけた。それは冷えきっていたが、おそらくはこの家の住人たうそう女を買いたがる物好きもいやしません。ってわけで、あっし ちが、いままさにタ食の用意をしてテーブルにつこうとしたところや、この二、三日、ろくな飯と床にありつけなかったわけでね」 で、外で怪異の叫び声がおこり、あわててとび出しでもしたという アルスは勿体らしく洟をすすりあげ、しかしそのあいまにも、右 わけだろう。 手につかんだ骨つき肉と、左手にまるめとったねり粉のパンを交互 アルスはさっそく、素焼きのつぼをとりあげると、ビールをグッ にロに運ぶのに忙しかった。 とひと息にあおり、袖でロをふいて、テープルの上の冷めきった焼ヴァルーサは呆れたようにそれを眺め、身をひるがえして王のそ き肉に手をのばした。そこでヴァルーサの、とがめるような目つきばへ近よ 0 た。王は、手を腰にあてて、窓からサイロンの街路を見 にがつく。 やっていたが、その顎はきびしくひきしまっており、その目はする 「どうせやつらにゃあムダになるし、すべての食いもんは豊穣と生どかった。 命の神ャヌスのお恵みなんたからな。ムダにしないのがみ心にかな「王さま、何を見てんの ? 」 うってわけさ」 ヴァルーサはその腕に手をかけながらきいた。 云いわけがましく云って骨つき肉をとりあげ、ガッガッと食べは「空だ」 じめたが、そのようすではもう何日も何もたべていないと思われ豹頭王は苦々しく、 「おかしいとは思わぬか。 , ーー俺は、朝の光が地上をてらせば、太 「王さまも、どうです、おひとっ ? けっこう、冷めたやつもいけ陽神ルアーの恵みの前に、 この狂気の一夜もおわるものと、実はひ

4. SFマガジン 1979年10月臨時増刊号

戦闘爆撃機が、補給部品から各種兵装まで含めてそっくり 六機も手た。 に入るなんぞということは、ますこれから一生かかったってありッ てめ = たちの方から二人がかりでちょツかいを出しておいて、ち こない。ひょっこ共をこれで訓練すれば、なんかの折には星系航空 よいと反撃をくらったからと命からがら逃げてきた腑甲斐のない鼻 軍どころか連邦航空軍のパイ。〉トとでもやり合えるまで育っかもたれ小僧のみ 0 ともないざまも腹立たしいには違いないが、なによ しれね = 。第一、宇宙艇のなんのとい「た「て、大気圏内でちゃンとりも。ケ松にと「て我慢がならず、反射的にこうして離陸してきた 飛べね = やつが宇宙空間に出てなにができる。食いざかりの山猿達原因は、攻撃してきたその練習機が、もはや星系航空軍でもろくに の飯代・小遣いつめてでも赤字埋めには協力する。もっと仕事もと使われていない T330 だったという事実だった。 はしのみやこ ってくれ、文句は言わね = 、頼む ! 爺ィさん ! と、当然のこと 三〇年も昔、彼が〈星京〉星系で連邦宇宙軍の機関将校訓練課程 ながらロケ松は泣きを入れた。 にいて、大気圏内航空機搭乗員資格を取得するためしごかれていた ところがよほどせつばつまっていたのか、それとも虫の居所がわころ、一線機として配備の噂のあった F080 というのがその前身 るかったのか、なにを言やがる、赤字はそんな桁じゃねエンだ、こである。 の小僧奴がー と、事もあろうに、まるで枯木も同然の七十歳近ロケ松はすっとあとになって何度かその機体を飛ばしたことがあ い甚七が、小振りなゴリラ程もあるロケ松をもろに張り倒し、あやる。 うくつかみ合いの喧嘩 : : : というか、その気でロケ松がやりかえせ この、推カ一〇万ポンドを越える化物みたいな機体とはくらべも ば甚七の骨の五、六本は折れること必定の騒ぎになりかけたとき、 のにならない 頭目のムックホッフアが間に入った。 こっちが虎だとすればあっちは老いぼれた猫だ。その虎が二匹で そして、機密兵器である電子兵装をおろした三機をのこし、あと猫一匹をからかい、逆にやられて逃げてくるたアなんてざまた。あ の三機そっくりとその電子兵装とを、向うの提示してきた六機分のの、ジミーとかいう小僧が、通信機の管制凾ガラガラひきすったみ 報償金の額でーーーという条件で星系航空軍と話をつけ、やっとこのっともね = 姿で走ってきたとき、よくも俺はあいつを・フチ殺さなか 一件をおさめたのが半年前 ったものだわ : : : 。俺もとしをとったのかなあ : しかし、とにかく、豚に真珠の、なんの候のとさんざ悪態つきや あろうことか、そんないきさつがからむ三機のうちの一機を、か がった甚七の爺いにどう言い訳すればいいのか ? まさに、としょ け出しのひょッ子がロケ松の見ている前でオー ーランさせてあつりの言う通りになってしまったのだ。この機体使ってうちの小猿共 さりぶッこわし、もう一機の方に至「ては、すでに撃墜されてラを連邦航空軍の戦闘機乗りなみに育ててみせる : : : なンそと大口た ハラになっているかもしれないというのだ : たいておいて、まったく俺って男は : しかしロケ松の心で煮えたぎっている怒りはそれだけではなかっ こうとなれば、どこのどいつだか知らね工がその 3 3 0 の。 ( イ

5. SFマガジン 1979年10月臨時増刊号

の・ほってくるのだー のさいごの日だわ ! 」 そのヒヅメのとどろき、その足掻きの音、その荒い鼻息までがか「ゾシークからきた「て奴か。それはおれも、ジプシー女のところ 9 3 れらの耳をつん・ほにしそうな、雷のような轟音でも 0 て、したいしできいたことがあるそ ! 」 だいに近づいてくるのだー アルスも叫んだ。 「王さまッ あっしらは踏みつぶされちまいますよう ! 」 そのとき、雨がふりはじめた。 アルスが泣きわめく。王の目がみどり色に燃えあがり、やにわに まるで、グラックの馬どもがのってきた黒雲が雨と、風と、いな 王は窓から身をなかばのりだして空を見上げた。 づまと、そして嵐とを呼びよせた、とでもいうように、ぼつりぼっ その歯をくいしばったロから、低い、凄まじい唸り声が洩れる。 りとおちてきた大粒の雨は、たちまち篠つく土砂降りとなってサイ サイロンの暗い空を、翼ある天馬の群がかけぬけてゆくところと思ロンを叩きつけはじめた。稲光がはためき、落雷のひきさくような いのほか、そこには何ひとっーーま「黒な雲が空をおおいつくして轟音が七つの丘をゆるがし、人々の叫び声や悲鳴は地獄の鬼の哄笑 いるほかは何ひとつ見えはしなかった。 に似た風の音にかきけされた。 ルールとエイラハのいまわしい顔さえも、 いかの墨より黒い雲「ああ ! 見て ! 」 にとけ去ったかのように、もはや見えはしないのだ。 蒼白になったヴァルーサが王に必死でしがみつきながら窓の外を そしてたた、そのま「暗にな 0 たサイ 0 ンの空を、さながら野性指さす。そこに、そのすさまじい雨のさなかで、何やら異形のもの 馬の大群が疾走するにも似た無数の目にみえぬヒヅメだけが蹂躙し がいくつも踊り狂っている。 てゆく。 それは青白く洗われたような骸骨どもで、それらが稲光に瞬間的 「グラックの馬 ! 」 に照らし出されるたびに、それらは骨だけになった手をふりあげ、 ヴァルーサの絶叫をきいて王はふりかえ「た。娘はわなわなとふ足をふみならしてさしまねき、その白いあごをカタカタいわせ、さ るえていた。 ながら大笑いしているかに見えた。 「アラクネーが云「てたわ ! ョミの国に住むグラ ' クの馬たち頭上では、あれくるう雷雨をぬ「て、雷と似た、しかしも「とと は、ドールの髪であんたクサリによ 0 てかろうじてつなぎとめられどろく音をたててグラ , クの馬どもがなおも目には見えぬ乱舞を踊 ている。でもひとたびときはなれたら、それは地上にあるすべてのっている。 ものを踏みつぶし、そこを焦土としてしまうまではド 1 ルそのひと「王さまッ ! 」 にさえ止められないのだってー アルスが金切り声をあげた。そのさす方をみて、さしもの剛毅な ああ、あれがグラックの馬ならーーーほんとうの、グラックの闇の豹頭王もわめき声をあげた。 馬の群なら、きようがサイロンとそこに住むすべての人々にとって 雨と闇とのさなかに何かおそろしく巨大なものが立っていた。そ

6. SFマガジン 1979年10月臨時増刊号

の大地にしつかりと踏んばって立った、その半人半獣の王からほと ぬしのもとへひきつけられたというわけなのだ、グイン」 ばしる、恐しいまでの威厳と、そしてきびしくすさまじい意志とが ハヤガはきしむような笑い声をまたたてた。 かれらを電流のようにうちのめし、このような場合でなかったら、 「ということはわしがここでおぬしーー・豹の星ーーを手に入れるこ そは星辰のめぐりあわせ、ヤ 1 ンのさだめ、ということは、六百年かれらまでも覚えずそこに平伏していたかもしれない。 にひとたびの七星の会の = ネルギーは、わしの術を得て地上に解放頭上をかけぬけてゆく地獄の生物、目にみえぬ、グラ〉クの闇の 馬のひづめの音が雲の上にとどろきわたった。こころなしか、はし され、そこにわしパ・ ( ャガの王国をうちたてるのに相違あるまい。 この・ ( ・ ( ャガは隠者として、おぬしらの想像もっかぬほどの長いめは空のはるかなたかみをかけぬけ、またかけもど 0 てくるだけた 年月をあけくれ、その間地上の王国のことなど、夢想にさえのそん 0 たその馬どもの足音は、ずいぶんと屋根屋根にちかくおりてきて るようにきこえ、いよいよ雷鳴そのままになりわたった。 だことはなかったが、なにがさて不思議なものだーーーのそんだものい の手には入らぬものが、さだめられたものの手には自らとびこんで「ホオ ! 」 だが、長舌の・ ( ・ ( ャガは、グインのその怒りにみちた命令をあざ イ、る、ということがな。 どれ、グイン、生ける = ネルギーの象徴にして神々と地上とに橋けるように、長いこけむした舌をつき出すと、からかうようにくち びるをなめまわし、ついでに自分の額までなめてみせて、くりかえ をかけるものよ、こちらに来い」 した。 「断わる ! 」 「ホオー 云うわ、云うわ ! 化け物しやと ? 下がれじゃと ? グインは吠えた。 ホオ、ホオ ! お前のほうがよっぽど化け物じやわい ! 豹頭の 「誰が誰の手の内に自らとびこんだと ? 俺はきさまなどの手中に 男よ、気づかぬのか ? とびこんだ覚えはないそ ! 長舌か長耳だか知らんが、黙ってきい お前のすがたを、つねづね宮殿の目ざめのたびに注意ぶかくお前 ておればよくも勝手な熱を吹くものだ。俺がここにこうしているか ・、小姓のさしたす鏡から目をそむけて見まいとしているーーっいで ぎり、俺とこの俺の王国、俺の人民たちを、きさまのような化け物 にお前の妃のシルウィアもおそましそうに目をそむけるーー・・そのお にその一片たりとも自由にさせるものかー えい、下がれ、見苦しい化け物め ! これはケイロ = ア王の命令前のすがたを、も「とよくそのけだものの目で見てみたらどうじゃ ( ャガの舌がくちびると、長くたれた鼻と、あごまでもなめま 云い放った瞬間、頭上で雷がはためいた。 ・ ( ャガはそのやせほそった手をふりあげ、きしむような声 まるでグインのその豹の額に天の冠をのせるかのように で奇怪なこの世ならぬ呪文をよばわった。 アルスとヴァルーサとははっとして頭を垂れてしまった。青白い 光に照らし出され、雄々しくマントをひるがえし、両脚を彼の王国途端 ! 9

7. SFマガジン 1979年10月臨時増刊号

ぼくは上衣をちょっと開いて、ホルスターをのそかせた。 と、マリリンが近づいてくるなり、背のびをして・ほくに接吻し 「おれの連れのガンはおめえを狙ってるぜ。そのまま歩け、案内し た。『カジ / 事務室に X 』 ドアに近づく、と」 いづみ、無電でいい。 『行こう。あたってくだけろさ : : : ああ、もう大丈夫。頭は悪いているようにな : 近づいてきた見張りの男が眉をよせた。 が、かたくて丈夫だってお医者さんも保証してくれたよ」 「どうした ? そいつは ? 」 マリリンといづみとならんで歩きながら、・ほくはささやいた。 「へえ、組織のものだそうで。ポスのところにいるマルコムさんと 「道代とかおるは事務室の裏口から入れ」 かにご用とか」 「そんな客はいねえよ」 マリリンは・はくらと分かれると、レストランに続く階段のほうへ そいつは一動作で拳銃を抜いたが、その腕をぼくはなぐりつける むかった。 るなり、左脇腹から抜いたナイフは十メートルを飛んで、もうひと 「廊下にふたりか : : : 」 りの見張りの心臓につき刺さった。いづみはポーイを左手の一撃で 「入口にもうふたり」 倒し、拳銃を落とした見張りのロに拳銃の銃口をつきつけていた。 月冫いたポーイが大げさに目を丸くして、 キャッシャーの蔔こ 「大当りですね、お客さま。紙幣かチップにお換えしましようか機動歩兵よりも強いというのは本当だったのだ。 「ドアをあけさせろ。さもないと、その拳銃の引金をひくそ ! 」 そいつはまっ青な顔になってうなずいた。 「いいや、・ハガスのいい記念だからな、持って帰るよ . マリリンはまだ来ないのか、いづみ ? 」 そこの低い木の仕切戸をおして奥の廊下へ行こうとすると、ポー イがそれをおさえて尋ねた。そいつの右手はもう柱のボタンをおし「もうひとっ別の入口から入るそうよ ! 」 ドアの前に達すると、そいつはロの拳銃を離してくれと手をふつ かけている。 「お客さま、どちらへ ? 」 廊下の見張りのひとりが、ゆっくりとこちらにむかって歩きだし「よし、離せ」 そいつはドアを何回か間隔をあけておした。ドアはあっさりと開 いた。なぜこうまで弱いやつらが ? と、・ほくは不審をお・ほえなが 「マルカムに会いに行くのさ、支配人のところにいる : : : ボタンは らも、そいつの背中に拳銃をつきつけ、部屋の中に入った。 おすな」 写真で見たとおりの、まだ少年といっていいような男が大きなデ 「マルコム ? 」 9 スクのむこうに坐っており、部屋の中には、そのほか四人のガンマ 「 >< さ : : : おれは組織のものだぜ」 、っせいに拳銃を抜いたが、 ンらしいのがいナ 「お名前を。すぐ聞いてみます」

8. SFマガジン 1979年10月臨時増刊号

ルスはうちしおれてロの中でつぶやいたが、すぐに他のことに心を ジ。フシー占いの古ぼけた黒い絵のとなりに星占術のちかちか光る うばわれた。 看板があり、そのとなりに、三つの銅の球をつるしてそれと知られ 3 「ねえ、王さま」 るミロク教の道士の家、そのさきにはかわききった骸骨をはりつけ 「ああ」 た呪術師が店をかまえ、そしておかしな説明のつかぬ話だが、入口 「どうもあっしやさっきから、ここん中に入ってきたときからどっ から見るとわすかに百ダール、通常ならばものの五分も歩いてつき 、ざ入ってみると、そうし かで赤んぼの泣き声がしてる気がしてしかたないんですが、こりやぬけてしまうちつ。ほけな路地のくせに、し あっしの空耳ですかね」 た店々はたぶん二タッドも、あるいはもっと延々つづいているよう 「ここでは扉の奥で、長いあいだに何万何千の生贄が屠られたかもに見え、あまっさえその向こうはゆがんで霧の中に消えている始末 で、ひょっとしたらはてしなくつづいているのではないかとさえ、 しれんのだ。そういうことがあってもふしぎはないな」 「それにどうも、こん中は、ついそこのタリス通りにくらべて、妙足をふみ入れたものに思わせるのだった。 にむし暑くって、空気がねばねばして、まるでゼリーかなんかの中家々の中からは、ひそやかな忍び声がいつまでもつづいているよ にいるようでーーーええい、畜生 ! ャヌスの神よ守りたまえ、ここうでもあり、中で薬でもせんじているのか、奇妙な胸のわるくなる はとんでもないところですよ、王さま」 ような匂いの流れてくる家もあり、また別の家の中からは人ともけ それはアルスにいわれるまでもなく、一歩まじない小路に足をふものともっかぬ目がいくつも緑色に光っておもてをうかがい み入れたとたんから、グインのするどい感覚にひしひしと感じられ奇妙なことには、もう夜たったし、霧は深くなりまさり、そして ていることたった。 まじない小路には外をてらすべき街灯などただの一本もなかったの 見かけはサイロンの下町にごくごくありふれた、石づくりの屋根にもかかわらす、そして明るいというのではなくてあたりはまった の低いしもたやが、いくつもくつつきあうようにして並んでいるだ くの夜闇の色であるのだが、豹頭王とその供が行くさきざきで、家 けである。 々とその看板は、別に光を放ってではなくじつにはっきりとかれら 中には手ひどく崩壊している家や、軒下に妙な枯れしなびた草のの目にそのすがたをあらわし、しかも妙にそれは遠くもあれば近く もあるといったっかみがたい見かけをもっているのである。 類をびっしりとはびこらせている家、そこにあるのが妙に不似合い それはちょうど、深い夢のなかにさまよいこんで、目ざめること なほど古く見える家、などがあるが、総じてかわったっくりのそれ ムよ、 0 ができずにいる、そんなさまに似ていた。アルスが目をあげると、 そしてかなりの家々が、石や樫の扉の上にそっとルーン文字を彫前をおそれげもなく歩いてゆく豹頭王の頭から、いっかフードはす ったり象嵌し、あるいはもっと堂々と軒下に占いの看板をつるしてつかりとりのけられ、その姿がまたいっそう、悪夢の中の思いをつ よめる。 いるのだけが、この小路の住人たちのなりわいを明かしている。

9. SFマガジン 1979年10月臨時増刊号

のやることか老いさらぼえやがって ! 」 「これを読んで見ねェ」彼は端の縫いとりを指さした。 ビーターはバムを抱えて立ち上りながら、やってきたロケ松をぐ「パ とにらみつけた。 「これがあの 3 3 0 のコックビットに落ちてた。おまけに、この 「俺の 410 で行け」ロケ松はぼそりと言った。 小娘は盗ツ人だそ。川で水浴びしてる保安官の着てるものをそっく ビーターが憤然とうなずいた。「それじゃヘリを持ってきてくンり、 猿股まで掻ッ払いやがった、ーー」 とたんにビーターがはじけるような笑い声をあげ、あやうく腕に ビーターが歩き出そうとしたとき、 抱いたバムの体をおッことしそうになった。 「そいつア真ッ赤な嘘だぜ、とッつアン ! あの野郎、この娘に言 かなり高い高度を飛ぶジェット機の爆音が伝わってきた。 い掛りつけて、締め殺そうとしてあべこべにやられたんだ。俺は見 思わずロケ松は空を見あげた。 てたんだ。みつともねェッちゃありやしね = 。この娘に 0 ・ 0 2 射 谷間にのぞく抜けるほど青い空を T330 が一機、基地の方へとちかけられてよ、素ッ裸で逃げてきやがったんだぜ : ゆっくり飛んでいく。その傍を基地の U20 がやっとのことで危な しかし、そうとなると : この娘は 3 3 0 でどこかへ行くっ つかしく併航していくのがひどく滑稽である。 もりで燃欠やって、胴着して、仕方なくて歩いてたって訳か : : : 」 「あれだ」ロケ松がつぶやいた。 「そりや いいが」とロケ松が言った。「早くその小娘を基地へ運 「あれ ? 」ビーターは空を見上げたまま言った。「あれがどうした べ。ほっといても自然回復するとは思うが、念のためよ」 んだ。 2 0 はうちのだろ ? 」 「じゃ、俺のヘリ、持ってきてね、とッつアン。そこにある、ほ 「あの T330 よ、その小娘が操縦してたのはーーー」 れ、そのスケットを忘れないでくれよ。この娘の持ち物なんだか 「この娘が引」 「そうよ。ジミーと三郎が飛ばしてた 410 を攻撃したあとで、万 寿のはずれの草ッ原に胴着しやがった : : : 。燃欠よ : : : しまらね工 コックの開け忘れだ」 「どうしてこの娘だってことが ロケ松は黙ってポケットから花柄のハンケチをとり出すと、。ヒー ターの鼻先へつきつけた。 「てめ工、いま、この小娘のことをバムと呼んだな ? 」 「うン」 眠りこけるバムを後席にのせた 410 がビーターの手で垂直上 昇していくのを見送ったあと、ロケ松は。ヒーターの乗ってきたヘリ コ。フターで離陸した。 基地に戻ってみると、撃墜されたかもしれないと言われていた三 スダビライザー 番機も無事に帰投しており、射たれたという二枚の垂直尾翼も上の 方がほんのすこしちぎれているだけで、さっき、つンのめって機首 8 3

10. SFマガジン 1979年10月臨時増刊号

しろきすな 「なんにも ? 」ロケ松が聞いた。 「どういう意味たよ ? 」 「白沙市の警察に事故発生通報入れました。″星系航空軍の練習機 「屈折率一・〇〇〇〇 : : : 透過率一〇 0 : : : 。こんなささやかな道奪取犯を逮捕して離陸した星系警察パトロール艇が、原因不明の空 5 具じゃ、精度が低いから、これ以上のこたあわからね工 : 中爆発をおこして墜落、全員の死亡確認 ″と」 とにかく、完全に透き通ってるんだ : : : 」 「御苦労ーとムックホッフアが言った。 かしら 「合成宝石か ? 」ロケ松が聞いた。 「ところがお頭目」と、コンが不安そうな声になった。「そしたら ほしのはて 「天然宝石なんそというものは、いまや、大した値打ちはね = 。大あなた、いきなり星涯市の星系警察本部が無線でしかに緊急電を打 きいったって、先は知れとるからのう。核弾食らって、熔けたり変ち込んできやがって、奪取犯のバム・ヘンシ = ルの死亡は確実なり 色しね工天然ものはすくない。 や ? ってンです。もし逃亡せる可能性あらば徹底的に追跡して逮 そこへ行くと合成ものは、もう、あちこちの星系の宝石屋の智恵捕せよ。第一カテゴリー の褒賞金を支払うーーときました。せ。おま くらべよ。いつ、どんな宝石が現われてくるかもわからね工。しかけに、遺留品を厳重に保管せよーー・つて」 も、天然と違って、あとからもっとでツかいやつが出るおそれもね「第一カテゴリー ? この娘は政府転覆犯か ? 」とロケ松。 っ = 。ひとったけ合成してその処方を消去すりやそれつきり。広い銀「それもですぜ。緊急電の発信人は長官官房長。以後、本件は機密 河に只ひとっ っちゅう訳たわ。世の中に只ひとっしかね工とな とし、電報と呼称すーーですと。大層な話です・せ」 れば、コレクター共は血眼になるわけよ。金に糸目なんそっけてら「むふう : : : 」ムックホッフアが唸った。 しろきすな れる訳がね工 : 「たかがあなた、白沙のはずれの分遣隊のですぜ、おンポロ練習機 「これも、そのひとっか ? 」とムックが聞いた。 を一機盗んだ小娘のことでーー」 ・ : 」老人が首を振りながらつぶやいた。「違います「この娘が盗んだんじゃないんだー コン ! 」すかさずビーターが な」 言った。「宇宙港でよたってたちンびらから買ったんたそ」 「違う ? そんならーーー」とロケ松。 たしぬけにやられて、そのコンと呼ばれた骸骨みたいな男はちょ 「わからねエ・ ・ : 」甚七老人が言った。「わしやア、こんなもの、 っと面喰らったが、・ へつに逆らいもせすにつづけた。気のいい男ら 生まれてこのかた見たことがね工。こんなもんが、作れる訳はね工しい しろきすな んだが : : : 」 「それじゃなおさらよ。本星ならまだしも、白沙の分遣隊のたかが ドアをノックする音がした。 練習機一機でよ、星系航空軍たア大と猿みて = に仲の悪い星系警察 「入れ」ムックホッフアが答えた。 本部の長官が、なんでおそれ多くも機密の緊急電なんか打ち込んで 人ってきたのは、ひょろ長い骸骨みたいな若い男である。どうい おいでなさるんた ? それも犯人 : : : いや、その犯人と思い込んで う訳か、肩に紫色したインコみたいな鳥が止っている。 る野郎 : : : じゃね工、その娘ッ子の名前を御指名でですぜ」 っ