か、男がひとり、必死で手を振ってなにかわめいている。 る。 ところがなんのトラブルが発生したのか、とっ・せんその最後尾車はじめはまた大掛りな次の仕掛けだろうと思い込んで大よろこび 輛の連結が外れ、ゆっくり後退をはじめたと思う間もなくたちまちたった群衆も、作業員たちの只ならぬ騒ぎかたに、なにか事故が発 引込線から本線に入り、そのまま、やってきた鳥の木トンネルの方生したとすぐ気づいた。 気球はもう地上百メートルほどにまで昇り、風にあおられみるみ へ向かって走りはしめたのだ。 タンポポ峠の方へーー流されはじめた。 青くなった駅長は緊急停止のチョックをかけるため操作所へすッる南の方に 「大変た ! 」和尚が村長のところへ走ってきた。真紅のシルクハッ 飛んでいった。 あわてたのは車輛にのつかってた作業員たちも同然である。大部トはどこかへ吹き飛ばしてしまっている。「地表艇を出して下さ 、村長さん ! 早くつかまえんと、大変なことになる ! 」 分の連中はとび降りて逃げ出したが、とっさに団員らしいひとりの 男が車上から線路わきの標識ポールに向かってロープの輪を投げか村長の指示を待つまでもなく、横にいた助役が、地表艇を持って とどなった。 けた。宇宙空間で、なにかのはすみをくらって動き出した貨物をこ んな手でつかまえることがあるが、おそらくそいつを思い出したの「大したことはありません。すぐにつかまります。どうそ村の皆さ んと一緒に曲技をたのしんでいて下さい」 ・こ「つ、つ - 0 村長へそう言いながら和尚と ( インケルはやってきた地表艇へ乗 ロー。フはたちまち一杯に伸びきり、標識柱がぐーツとたわんだ。 そのテンションが、よくはわからぬが、なにかワゴンに付属したフりこんだ。 走り出した地表艇の後席から、 ( インケルが大きく合図をしたの ックか他のロープをいくつかひっかけたらしい それが原因だろう、なんとか制動がかかりかけた台車の上 2 ( ラで、パンドは再び〈星海の恋〉を演奏しはじめた。 地表艇はすぐ町並を抜け、気球を追ってタンポポ峠の方へ向かっ 色に塗装されたワゴン上部の蓋が、まるでビックリ箱みたいに。 ( タ て豆畑の一本道を疾走しはじめた。 ン ! と開いたのだ。 ときれいな色をし広場の方から伝わってくるにぎやかな音楽はみるみる遠ざかって と開いたとたん、モクモクツー いったが、時たまどッとあがる歓声は、曲馬団が再び派手な曲技を た、なにか大きな袋みたいなものが現われ、みるみるあたりの木立 と作業員たちが驚きの声はしめたらしい ちを払ってふくらみはじめた。おー をあげた。気球である。 地表艇の後席にすわる和尚と ( インケルは、おもむろに顔を見合 わせた。 あッという間にちょっとしたビル程の大きさにふくれ上ったケパ 気球はかなり先をフラリフラリと、風にあおられながら徐々に高 ケ・ハしいその気球は、そのままゆっくりと浮き上っていった。 下につるされた小さな家ほどもあるゴンドラから、団員だろう度をとっていく。
つついてくる。 場合はその待ち時間の間になんとかすこしでも感度をあげようと か、クリアネスを高めようとかするからさほど気にもならないが、 室内は真ッ暗。 「窓をあけると非常ベルが鳴りますよ」老人は又八の耳許にささや加入電話の、この、只待ちつばなしというのはどうにも我慢ならな やっと赤い針が、青い 0 の標示にかさなった。 「大丈夫だって。そのうちに、窓あけなくたって・ヘルが鳴らア」 呼び出し音が二つほどして、ブツンと音がした。 やがて納屋の方向の暗がりから、ばっと赤い火の手があがった。 しろきすな ″こちら星海企業・白沙基地。どうそ″甚七の声である。 それと同時にけたたましく鳴り出す警報ベル。 プラス々 . 「こちら又八。モクを救出。今日中に脱出の予定。小惑星〈弘安〉 又八は一気にアクリ窓を熱線。ヒストルで灼き切ると室内へとびこ にて会合したい。手配たのむ。以上」 み、老人をひきずり込むと、じっと物陰にひそんだ。 さらに六十二秒 : : : 。こっちが星系警察本部長官官邸から呼んで 窓越しに燃え上る納屋の反映が室内まで射し込み、使用人達の立 ち騒ぐ声が伝わってくる。消火艇もや 0 てきたらしいが、ポヤはすることは、向うの通話装置のディスプレイに出ている筈だ。さそび つくりしている事だろう : ぐにおさまった。 しろきすな しろきすな ″白沙基地了解、通話終了″甚七の声は切れた。 書斎のなかは真っ暗。射し込む月の光だか白沙の光だかで、おぼ プラスタ 又八は熱線。ヒストルのビームで通信機の底を灼き切ると、手さぐ ろげに家具の配置が見てとれる。 りで通話先・通話回数記録モジュールをさがしあてて破壊した。 又八は豪華なデスクの傍へ近づき、その上の通信機器盤をさぐっ 「よしーーと」又八は暗がりの方へ声をかけた。モク老人は身動き インタ・ヴィジホン もしないでうすくまっている。「あとは、な。長官のお帰りをお待 警察本部直通回線、政府秘話回線、電送端末機、邸内連絡電話・ : しろきすな ちするたけよ。な、爺さん、白沙へ帰ろうな ! 」 ・ : そして、これだ ! 又八は、星系通信公社の一般加入電話機をさ 又八はモクの傍に腰をおろした。 ぐりあてた。 しろ強十な 「一服つけて工ところだが まあ、止めておくか : : : 」 こっそりと開始・ホタンを押し、惑星・白沙の北地区局のコード 0 そのとたんだった。 24 をアクセスする。やがて回線が接続されたことを示す青いラン ばッと室内が明るくなり、ドアの開くカチャリという音につづい 。フが点灯した。 3 5 8 7 日 1410 。すばやくキイを押す。 ″到達遅延時間・往復六十二秒″光電表示が現われ、青い円形の目て、つかっかと男が一人入ってきた。 二人のひそんでいるところからは、下半身が見えるだけ。 盛を赤い針がゆっくりと 0 に向かって移動しはじめた。 又八は頭の中で通信文を考えた。いつもながら惑星間通信のわず男はデスクの前の通話装置を操作している。 又八は、こわした加入電話機をデスクの下にかくしておいてよか らわしさ。それは昼間のポケット通信機だって同じことだが、あの 4
行く手のタンポポ村の盆地をかこむ山々は高さ四、五百メート 長がわめいた。 ル、鳥ノ木村からの道が通じるタンポポ峠で二百メートルもあろう「駄目たー これから先は立入禁止た」先頭に立っ男がにべもなく 9 びと 言った。「何人と言えども立入は禁止だ」 「団長さん ! 」地表艇を操縦している村の若いのが前をにらんたま「貴様は警察か」 ( インケルがお「かぶせた。 ま、二人に向かって大声で叫んだ。「この先は行き止まりです ! ・ : 」ちょっと相手はひるんだ。「まあそんなものだ」 タンポポ峠は通行禁止です ! 」 「それなら話は簡単だ。こちらは連邦軍の筋のものた ! あの気球 「なんとかその前に着陸して欲しいのう ! 」和尚が真にせまった声がこのまま着地すると大変なことになるそ」 をあげた。 連邦軍と聞いて相手はちょっとロごもったが、それでも ( インケ 「しかしあの高さじゃ、とても無理た ! 」とこれはハインケル。 ルのけばけばしい衣裳が東銀河連邦軍の軍服でない位ま、 をしくら星 のはて 「とにかくね ! 団長さん ! 峠の途中に見張りがいて、入れてく 涯の田舎ッペでもわかる。 れませんよ ! ( イバスができてますから、向うにまわって待ちま「とにかく立入は禁止た」相手は気をとり直すように言った。 すか」 「大変なことになるそ、よいのか」ハインケルが頭ごなしにきめ 「駄目だ ! 」団長が叫んだ。「あの気球は観覧用たからそんな遠くつけた。「気球が爆発したらどうする」 までは飛べない ! 」 「とにかく立ち入りは禁止た」 「とにかく行けるところまで行ってくれ ! 兄ンちゃん ! 」和尚は そのとき、和尚が叫んだ。 青年の肩をたたきながら言った。 「テントが吹き飛んでもいいのだな」 気球はいとものンびりと、まるでわざわざタンポポ峠をめざすみ「テ、テント たいに飛んでいく。 相手はたちまちとり乱した。 やがて地表艇は一面の豆畑を抜け、道は登りにかかった。木立に 「ど、どうしてそれをーー」 かくれて気球は見えなくなったが、間違いなく峠の方へ向かってい 「わしは連邦軍の諜報員だ ! あとで困るのは君達だそ」 る。地表艇はぐんぐん登っていった。 「ジ、事務所にたしかめる。待ってくれ」 操縦している若者は、もうすぐ先がたしか検問所だとかなんとか「待てん ! 」 わめきながら、やけのやンばちの勢いで走らせていく。 「待てーー・と言ったら ! 」 峠まで半道ほど来たかと思う頃、とっぜん道の先に頑丈な遮断機「テントが破壊してもいいのたな ? 責任はわしが持つ。さもない があらわれ、すでに作業衣姿の男達が何人か立ちふさがっている。 とお前は大変な目に会うそ。おまえは本件について何も知らされて 「大変だ ! 気球が暴走した ! 」相手になにか言うすきも与えず団おらんのだ」
「そうですよ」モクは言った。「あんたは、星涯の警察のこわさをしい。なにしろ、この惑星の空に浮かぶ天体の動きはめまぐるしい 知らないんだ。一軒、一軒、床から天井からはがして調べてきますのである。 又八は思わすポケットに手をつッ込み、たったさっき、通信機は よ。逃げられつこない」 ( トロール艇と共に木ッ端みじんにしてしまったのを思い出した。 「ここなら大丈夫よ」又八はケロリと言った。 基地しやみんな心配してるに違工ねエ・ 「駄目ですよ」老人はうつろな眼をしたまま、つぶやくように言っ 老人の手前、ちょっと格好をつけてはみているものの、まったく きわどいところだったのである : この邸に誰が住んでるか知ってるのか」 「爺ィさん、お前工、 ロケ松は中継機を上げてこっちの波を待っている筈だが、これじ はしのはて 「ここはな、おそれ多くも〈星涯〉星系警察本部長官の官邸なんたや連絡のつけようもない。 ぜ。いつもなら逃げこめるとこじゃね = 。たまたま、。 ( トロール艇そう思ったとたん、彼はうまいことを思いついた。そして立ちあ っこ 0 の爆発騒ぎで手薄になったから、なんとか入れたわけよ。他ンとこ ならいざ知らす、ここだけはガサなどくらう危険はねェ」 「行くそ、爺ィさん」彼は、暗闇の中で身じろぎもせすにうずくま 老人は別に関心を示す気配もない。 っているモクに向かって声をかけた。「すこし早いが、用事ができ 「外には出られませんよ」 た」 。、ツクをと 「門からは出られね工よ、そりゃあ」又八は言った。「それより、 又八は持ってきたレーザー銃の一梃からエネルギー 暗くなったら、長官のお部屋へ行こうよ」 り外すと、導線の一部をとり出し、安定抵抗の芯線を使って出力端 を短絡させた。 老人はぼんやりと納屋の天井を見上げたまま。 「それより爺さん、おめ = 市警どころか、泣く子も黙る天下の星系これなら発熟にはかなりの時間がかかる。 そして二人は納屋の中から暗がりへ這い出した。 警察本部に追ッ駈けられてるたア、なにやらかしたのか知らね工 ほしのはて が、ちょいとした大物だと見えるな。なにしろ、うちの頭目やらロ 〈星涯〉星系の場合、金持や政府高官の邸宅の警戒は、門や塀まで ケ松やらが、なにがなんでもかっさらってこいってんだからなあ」 がおそろしく厳重なわりに、内部の手薄なことは又八もちゃんと知 ・ : 」老人は溜息をつい 「〈乞食軍団〉なら : ・・ : でも : ・・ : 駄目だア・ っている。御乱行とか裏取引とか、邸の中では、外に知られるとま ずいことがあまりにも多過ぎるのである。 やがて夜はとつぶりと暮れた。しかしそれも束の間で、納屋の戸 二人は官邸の建物の一角にとりつき、用心しながらプラスウォー ほしのはて のすき間からは白々とした光が射し込んできた。三つある星涯の月ルの壁をよじの ' ほって長官の書斎とお・ほしき部屋の外にたどりつい しろきすな かと思ったら、白沙である。また水平線の向うに姿をあらわしたらた。老人は危なツかしい足取りながら、なんとか又八のうしろへく ほしのはて 7
ーから、そのエアカーが、昨夜の騷動の主役を演じた星系警察本部理由はまだわからぬが、バムが本当に事故死したのかどうかをた 長官専用機とわかったのは、その日もタ方になってからのことであしかめ、遺留品を求めているのに違いない。その遺留品とは、当 然、あの宝石の事だろう : ・ しろぎすな : まったく危ね工ところだったが : はじめは、又八がそのモク老人を白沙へ連れてきて、なんとかく 又八は、そのおンポロ貨物船の操縦席で遠ざか 0 ていく惑星・星わしい手掛りのかけらたけでも入手してから・ーーとムックホ , ファ 涯を見つめながら心の中でつぶやいた。 は考えていた。しかし、状況がここまで緊迫してきたとなるとそう : どんな用事があったのか知らね工が、もう、この、モクとか ロケ松、コンの三人に向かって、 もならす、彼は、。ヒーター いう爺さンはなんの役にも立つまい : ロールが着地する前に。ハムを脱出させて錨地に上り、とにかく〈ク めいどのかわら ハトロール艇からさらい出した当初から、もうかなりおかしくな ロバン大王〉で〈冥土河原〉星系へ向かえと命じた。モクの口から、 ってたが、官邸で、 / ム、刀 / 。、トロール宇宙艇の墜落事故で焼死しなにか役に立つ情報が得られたら、高次空間通信系を使 0 て送るか た″と聞いたとたんから、もう完全に駄目になったのである。 らーーと彼はつけ加えた。 こんな奴は前に何度も見たことがあるが、ます、二度と回復する そんな訳で、彼らをのせた連絡宇宙艇が〈金平糖錨地〉へ上って こたアないとされている。 きたとき、錨地ではすでに緊急出港の準備作業が大車輪で進められ もう死人も同然だ : ・ ていた。煌々とした灯火の下で、彼らを乗せた連絡宇宙艇はびたり 副操縦席にベルトで縛りつけられているモク老人は、ぼんやりと と接岸した。 眼をあけたまま、身動きひとっしない : しろきすな 乞食軍団が専用錨地をもっている〈金平糖錨地〉は、白沙の軌道 よりすこし外側にある同名の小惑星群にあり、ラグランジュ点では ないが、星系内諸天体の引力が微妙にからんで形成されるよどみ点 しろきすなほしのはて 又八が、モク老人と共に、星涯市第二宇宙港から無事脱出に成功にあり、事実上、白沙、星涯双方の惑星との位置関係が不変なの しろきすな した という連絡を白沙の基地へ入れてきたのとほ・ほ同じ頃、白で、〈淡雪〉、〈小倉〉に次ぐ第三錨地として星涯船籍の船も利用 沙の衛星軌道で待機していたパトロール宇宙艇の編隊は一斉に行動していた。 を起こし、降下軌道へ進入した。 この〈金平糖錨地〉は、二百メートル前後の細長い小惑星塊を十 乞食軍団の計算儀の外插軌道は、あきらかに彼らがこの基地へ向個ほど字型に並べ、移動気密路や電力・通信ケー。フル、空気・水 かっていることを示していた。 ・蒸気パイプなどをまとめて通した共同管、さらに貨物車輛用レー のはて 第・ ほしのはて しろ ほしのはて
床が灼け、壁が溶け、電気自動車がズタズタになった。 天井の穴から、二人の人影が、舞い降りた。どちらも、黒いスペ 敵はまったく無防備といっていい状態だが、そのかわり特殊な戦ースジャケットを着ている。 闘服を着ていた。熱に強いやつだ。レイガンはともかく、ヒートガ 「サンダー ルチア ! 」 ュリが弾んだ声で言った。なんと、例の二人組である。サ・フマリ ンでは直撃しても戦闘能力を失わない。目算がもうひとっ狂った。 十分ほど、激しいやりとりが続いた。敵の兵士は、十人を切ンジェットに乗っていたのに、なんでこんなとこにいるのよ ? ふ った。しかし、あたしたちとの距離は、もう十メートルとない。しっと消えて、ふっと現われる。気にくわん。まるで主役ではない かも電気自動車は、ほとんど楯としての役割を果たせなくなってい 床に降り立った二人は、生き残っていた兵士の腕に、。ヒストル型 「あかんわ : : : 」 の無針注射器で何かを注射した。兵士はぐったりとなった。麻酔剤 ュリが投げた。 の一種だろう。そして、そのかたわらに落ちているレーザーガンを 「これまでたね : : : 」 拾い、こちらに投げてよこした。 あたしも撃つのをやめた。 「あなたたち、どーして、ここへ : すぐにその様子を見てとったのだろう。兵士たちがレーザーガン ュリが、あきれたように説いた。その問いに答えたのは、ルチア を腰ために構えて、ゆっくりと立ち上がった。いま撃てば二人は殺だった。ルチアはユリの前につかっかと歩み寄り、ユリの上着の衿 れるが、それたけのことだ。 を、ひょいとひっくり返した。そこには、超小型の発振器が、張り のったりと近づいてきた。 つけてあった。 トパーズシティの公園で、よそ見してるときに張りつけさせても 天井の発光バネルが、二、三度、不安定にまたたいた。ビクッと「 らっこど して、兵士の動きが止まった。 だしぬけに、それはおこった。 ルチアが言った。 「ン、もう ! ゃーよ ! 」 天井が、轟音とともに崩れ落ちたのだ。 わっと叫んで、兵士が逃げる。が、間に合わない。、、 ~ / 七人が、落ュリはむくれた。発振器をむしりとり、ルチアに押しつけるよう 下するコンクリート塊に打ち倒された。残る二、三人も足をとられに返した。 て、ひっくり返る。天井には大穴があいた。床はぐちゃぐちゃだ。 「ところで : : : 」サンダーが、ふっとあたしに向かって言った。 「な、なんだ ? 」 「イサべラの居場所は、わかるだか ? 」 あたしとユリも動転していた。連合宇宙軍が来たにしては、唐突「確実に作動してるかどうかは、自信ないけど、一応、エネルギー 5 すぎる。 検知器をさっきから使っているわ」あたしは答えた。「イサべラが
そろそろ我慢の限界た。 な戦いができたものを ぐちるなア。 「右に行くんだ」あたしはヒートガンを正面に向けて撃ちながら、 ュリが、いったんプラッディカードを戻した。・フラッディカード 再度言 0 た。ヒートガンの有効射程は短いから、せい・せい牽制の役は、文字どおり血まみれにな「ていゑけ 0 こう頑張ってきてくれ にしか立っていない。しかし、撃たないよりはマシだ。「右の通路たようだ。 の先は、〈ラ・フリーエンゼル〉のミサイル攻撃を受けて、つぶれて 「まいったなア : ・ : 」ュリが言った。「まだ十五人近くいるよ」 るみたいよ。あっちへはいれば、宇宙軍がくるまで、たぶんもちこ 「こいつア、だめかな : : : 」 たえられるわ ! 」 さすがのあたしも気弱になった。装備は足らん、ムギはいない、 「ふみ ! 」 形勢は不利、ロクな状況にな、。 挾み撃ちになってないことたけ ュリは送信機のキーを、激しく叩いた。・フラッディカードが銀色が、せめてもの救いというひどい有り様た。 の淡い尾を引いて、こちらに引き返し、反撃して正面の連中のたた「ケイ ! 」 = リがあたしの背中をつ「ついた。「来たわよ「 ! 」 中に躍りこむ。 「うじゃあ : : : 」 だれて電気自動車の蔭から、そっと目たけをだしてみた。ペッ 血しぶきと魂消る悲鳴のあがる瞬間、あたしたちは床を蹴って飛ホントウに匍匐前進なんかしちゃって、こっちへ向かってくるでは び出した。 オしカええ、、貶 : し月カ汚れるっちゅうに。おやめー 通路を横切り、つんのめるようにして右の通路に転げこむ。・フラ 「やめるか、アホ ! 」 ッディカードがいなくなったので左の通路の生き残りが勢いを取り うしろからユリにぶたれた。つい声にたしてしまったのた。そり 戻し、闇雲にレーザーを射ちこんできた。あたしはユリからレイガ やまあ、やめんわな。 ンを借り、応戦した。クリーンヒットは望めないが、ヒートガンよ「ああ、低くちゃ・フラッディカードも利かない」ュリが言った。 りは効果がある。 「レイガンとヒートガンで、ひとりひとり狙い撃っしかないねー 右の通路を、しばらく行くと、一台の小型電気自動車が横転して いた。その向こうは瓦礫の山のようた。つまりは、いきどまりであ「三十分、無理かな ? 」 る。と、なると、ここがあたしたちの最後の砦だ。あたしの計算で あたしはヒートガンを構えた。 は、あと最悪でも二、三十分なんとかすれば、連合宇宙軍が救援に 「やるだけ、やるサ ! 」 きてくれるはすたった。一時間はちと苦しいが、その半分くらいな ュリのレイガンが、閃光を発した。あたしもトリガーボタンを押 ら、この電気自動車を楯にして生き永らえることはできるだろう。 した。兵士の方も、伏せたままレーザーガンを乱射する。 くっそウ : : : それにしても、ムギさえいてくれてたら、もう少し楽凄ましい銃撃戦になった。 2
めいどのかわら 「死んたかかアに会えるなら、たとえ冥土河原でもーーー」 「うそです ! 」だしぬけにバムが叫んだ。「モク爺さんはそんな人 「うるせ工 ! 」ロケ松が恐ろしい声で吠えた。 じゃありませんもう減茶減茶なんです ! 」 「むふう : : : 」 「まあ、まあ」苦々しげにロケ松が言った。「世の中にや、善人づ ムックホッフアが深い溜息をついた。 らしたわるがうようよしてるんだ。悪いこたア言わね工から早く帰 「しかし、松の言う通りかもしれんなあ : おい、ビーターなにんな、身の為た。父ちゃん恋しさにつけこまれて、おめ工は一杯は か用か ? 」 められてるんだよ」 「あツ」ビーターがあわてて言った。「さっきの。 ( トロール艇の件「うそた : : : 」。 ( ムは、ロケ松をにらみつけたまま、つぶやいた。 ですが、一応、星系警察本部へ事故発生通報をしておいた方がいい 「うそじゃね工って : : : 」ロケ松はもうそれ以上は言わなかった。 んじゃないか と、甚七さんがーー」 気まずい沈黙がつづいた。 「よかろう、やっておけ」ムックがうなすいた。 突然、バムがさっと立ち上った。 「へたに尻尾出さね工よう、電文に気をつけろよ」出ていくビータ 「それしや、あたい、ひとりで行きます ! さようなら」吐き出す ーの背中に向かってロケ松が言った。「終ったら、もういちどここ ようにそう言い捨てると、バムは部屋から出て行こうとした。そし へ戻って来い」 て、ちょうど戻ってきた。ヒーターとぶつかった。 ムックホッフアは、じっと、そのバムと名乗る少女の顔を見つめ「どうした ? 」ビーターが言った。 「嘘つき ! 」バムは眼に涙を一杯ためていた。「乞食軍団の人達な バムも彼を見返した。 ら頼りになるなんてみんな言うから、あたい、やって来たのに・ 老人ーーーと呼ぶにはまだすこし間のある浅黒く宇宙線灼けしたそあの爺イ : : : あたいがはめられてる : : : なんて : : : 言い の顔は、決してこわくない。むしろ、やさしい感じだ。只、その眼て : とバムは の色の深さ。嘘なんかついたらすぐに見破られちゃう をした。 バムはロケ松に向かってイー 心の中でつぶやいた。 「いいから、気にすんなよ、こんな野郎の言う事。な、な」ビータ かしら 「こりや、お頭目間違いありませんぜ」ロケ松はムックに向かって ーは懸命になって彼女をなためた。「俺はカになってやるから」 言った。「よくある手です」 「なにさ ! あんただって、あたいの言うこと信じてないくせに ! 」バムは。ヒーターの手を振り払った。 「な、姐ちゃん、わかっただろ ? 」ロケ松が言った。「おめ工はだ 「さよなら ! あたい、ひとりで行くわ ! 」 まされてるんだよ。世の中にや、ほんとに、手のつけられね工わる「待てよ、そんな無茶を言ったって」 身をひるがえして部屋から出ようとするバムの小柄な体をビータ がうようよしてるんだ : : : 」 3 5
航路情報が出ているでもなし、天象庁が発表する天象情報も、ごく 星が再び見えはじめ、それが徐々に輝度を増していったが、よく見 大ざっぱなカテゴリーⅡのサービスだけだから、いつ、どこが、どんると船尾方向が赤ッぼく、船首方向が紫味を帯びはしめている。 なことになっているかもろくにわからない : : という始末である。 それと同時に、背後にひろがる星野がぐんぐん航進方向へと移動 ほしのみやこ そんなわけで、〈星京〉から伸びる 4 号線の支線の支線 472 号しはじめた。光行差現象である。エネルギー・レベルが上るにつれ 線がぶッつりと途切れる〈天智〉星系から先は、こまかく跳躍をくてその現象はますます強まり、やがて満天の星空は航進方向を中心 りかえし、軌道修正をこまめにやりながら進むしかないのである。 とする円盤状になり、それがますます小さくなって、間もなく、小 めいどのかわら さいわい、この〈冥土河原〉星系から稀有元素の積み出しをやっさな虹色の一点になってしまった。 ている小さな運輸会社が、この 472 号線沿いにある〈考護〉星系 という小さな星系の中にあることがわかり、高次空間通信次空間 こうして、〈カーニ・ハル・ 4 〉小惑星群から三跳躍、虚空の只中 ころとでも時間的な通信が可能となしでなんとか連絡をとり、比較的らくに浮かぶ〈天智〉管制ステーシ , ンで東銀河連邦政府の設定した三 な筋を知ることだけはできたのだった。 級宇宙空間航行路 472 号はぶつつりととぎれた。 メガ・キロワット そこから銀河の辺境方向に向かっては、の航法支援ビ ほしのはて 1 ムを出す無人ステーショイ、、 力しくつか浮かんでいるだけとなり、 〈金平糖錨地〉をはなれた〈クロバン大王〉が〈星涯〉星系の第 5 惑星と第 6 惑星の間にある最寄りの法定跳躍点へ接近したのは三日辺境星区へと向かう宇宙船はなんとかこのビームを頼りに航法計算 をくりかえしながら進むしかない。 後のことである。 そこで〈クロ。 ( ン大王〉は、コンの計算をもとにして小刻みな跳 ここから銀河系の北辺へ向かって三跳躍は 4 2 7 号線が伸びてい 躍を開始し、四跳躍までは予定通りに跳んだ。しかし、次の、五跳 るので、高次空間航法になんの支障もない。 相変らす狸寝入りをきめこんでる副操縦席のロケ松へちらりと眼躍目から降りようとしたときである。 をやると、ビーターはおもむろに消去機関を起動した。やがて船。ヒーターがタイム・エーテル推進系のレ・ヘルをおとしていくと、 体の周囲にフィールドが形成されると、窓外は闇に包まれた。闇ー 船首方向の中心部に見えるか見えないかの針で突いたような光点が ーといっても、宇宙空間である。いってみれば、星が見えなくなつみるみる円盤状にふくらみ、中心から周辺に向かって紫・青 : : : と ただけにすぎない筈なのだが、とてもそんなものではない。 赤に至る美しい虹のような光が伸びはじめた。 なにもない という暗さには、まったく筆舌につくせぬような そしてその虹が、ほ・ほ全天一杯にひろがったかひろがらないかー 凄さがあった。 ーという一瞬、だしぬけにその虹が無気味にメラメラと揺らぎ、そ やがてタイム・エーテル推進機が始動し、ビーターがその = ネルれに合わせたように船体が無気味なきしみを立てた。船体が、首尾 ギー・レベルを上げていくにつれ、赤味の強いかすかな光点として線を軸にしてねじれかけている ! ノニシング・エンジン 6 8
いる。先端からすこし後ろのあたりから、黒っぽく血が横に流れは 「第一一警戒体制。ペータ農場区の柵がマンタに破られた。水中 : と、その姿がヘリコ 9 歩兵部隊第二および第五小隊はただちに出動。ダイ・ハーの撤退じめた。マンタの巨体がわずかにかしいだ・ : 2 。フターに変わり、くるくると回転しはじめ、爆発した。海の中だっ を援護せよ : : : 」 眼下には″パシフィック・シティ〃の壮大な景観がひろがったはすの景色が映画のシーンが変わるように緑の草原に変わった。 いや、草原ではない : ・ : タ陽に照らされた広大な日本庭園た。そ ている。中央にきわ立っ巨大な三基の居住ドームをかこんで、 ・ドーム。そして海底牧場、して 同心円を描いて拡がる無数のサプ 農場、石油プラントと原子力発電所、各採鉱所とそのプラント とこからともな 次の一瞬、天から降ったか地から湧いたか、・ く現われた三十人の徳川忍者群が、四方からおれにむかって音 そこへ巨大なマンタが襲ってきたのだ。突然変異誘導剤で幅 もなく迫りはじめた。 百メートル、体重はおそらく三百トン近い怪物に変貌したイト おれは畳の上を走り、大きく庭に飛んだ。座敷の中には恐る マキエイだ。 べき力を持っ天海がいる。安全な場所は、いまや死闘の展開さ 田中光二″わが赴くは蒼き大地〃より れようとする庭先にのみあったのだ。おれは庭へ飛び下りてい った勢いのまま、迫ってきた敵に向かって短剣を振るった。 「田中光二か、こんどは ! 読んでいるぶんには面白いが、こんな のに襲われてはかなわんな」 タ陽の中に赤い血潮が黒く噴出した。敵の右腕は刀をつかん だまま宙を飛び、近くの松の枝にかかってくるっとまわった。 精神強化処置を受けていなければ、ぼくも催眠暗示による妄想と 右腕を切断された男が、よろめきもせず左手ですかさず短刀を はわからないはずだ。水中にいると思いこむだけで窒息してしまう なし。だが、いまはその裏を考えることができた。われわ 抜いたのは流石だった。 れに妄想波攻撃であると見破られていることは承知しているはず 無言のままおれは、敵の腕を叩き切った刀をそのまま次の敵 だ。となると、時間稼ぎが目的か ? に浴びせ、ふたりの敵のあいだを走り抜けると、八双の構えを 取って立ちどまった。 妄想といってもちゃちなものではない。巨大なマンタの翼が頭上 をおおい、その巻き上げる水の流れで、・ほくの体がくるくる動かさ ″老人は、おれを裏切らなかった ! れる : : : ヘリコプターか ? 「みんな、マンタを狙って射て ! 」 水の中に・ほくの声がこもってひびく。水中に漂っている十人がい っせいにマンタを狙って射ちまくった。みんなが頭のほうを狙って″老人だと ? この島でおれが知っているのは、老婆 : ″カムイの剣″より