おう ! ついにエイラハの首がち切れたわ ! 」 さしものイエライシャも眉をひそめて目をそらせる。ェイラハの 4 4 口から異様な、二度と耳をはなれそうもないようなうめきがもれ、 同時にその口からごぼご・ほと血泡がもれはじめる。 そして、ルーをハの手はついに、こびとの首をす・ほりと、その肩 からひきぬいてしまったのであるー ちぎれた首の端から、血と赤いどろどろした生ま肉に混じって、 骨髄の白い液や、細い黄色みをおびた神経の糸が尾をひいているの がみえた。ルール・ハの首なし胴体はいっこうにそんなことにはおか 「ギャアアー まいなしで、ようやく手に人れた首をこれ見よがしにたかだかとも ェイラハのすさまじい絶叫が耳をつんざいたー ちあげ、嬉々としてふりまわしていたが、やおらそれを自分の切れ 「キャーツ た首のつけねにのせようとしながら、こんどは首をとりかえそうと ヴァルーサが悲鳴をあげて、手で顔をおおい、ついにそこにかが怒り狂ってとびかかってきたエイラ ( の胴体から敏捷にとびしさっ みこんでしまう。 アルスも顔面蒼白になってこみあげてくる吐きけをこらえる。 そしてえいとばかり人の首を肩の上にはめこもうとしたのたが、 ルール・ハのつよい両手はしつかりとエイラハの首をとらえ、少しェイラハの首がふいにくわッと目をひらくなり、 たけりたってルー ル。ハの手首にがぶりと噛みついた。 づつ、少しづつ、そのめりこんでいる肩からそれをひつばり抜こう としているのである。 痛みにうろたえたルール・ハはエイラハの首を放り出す。そしてま 「イエライシャ ! 」 た首を失ってたたらをふむとたんに、皮肉にも、彼自身の放り出さ アルスが胸のわるくなったような声をふりし・ほる。 れていた首が誰かれの見さかいなくあびせかけていた、石の目から 「さわぐでない ! 」 ほとばしる殺人光線の射線上へ、正面からとびこんでしまったので ある , というのが《 ドールに追われる男》の答えだった。 「魔道師たるものはもはや百パーセント、人間とは云えぬのだ。現「ギャーツ にルール。ハも首なしのままで生きて動きまわっておるではないか。 こんどは、ルールバののない胴体から、世にも恐しい金切り声 がひびきわたった。 きやつらがああしてかりそめにでも人のすがたを保っておるのは、 そうするのが魔道の不文律だからというにすぎん 防御のいとまもなくまともにあびせかけられたそれは、自分自身 矮人の彼にはルールバの長身をどうしてもふりきることができな い。いつぼうルールバの手は失った首を求めてしきりとエイラ ( の からだをなでまわしていたがついにその肩にめりこんた首をさぐり あてた。 と思うや、その手に異様な力がこもり、ルール・ハはじわじわと、 素手で矮人の首をねじ切り、ひき抜きにかかったのである ! 4
、こレレく、、、、 舞いあがった胞子の煙のような目くらましに顔をおそわれ、わめき ーノノカ四つんばいになり、それから立ちあがった。 声とくしやみと呪詛とを同時にまきちらしながら左手で鼻をおおっ その手がしきりと切りかぶのようになって血もふきださぬ首の切 りあとをまさぐっている。 てとびすさった。盲減法に剣をふったがむろん当たろうはすもな 「これはしたり、どうしたというのだーーーわれの首がないそ」 「小癪な手妻を ! 」 テレバシーか、それとも別に発声の器官でもついているのか、首 ごほんごほんと咳きこみながらわめいて、いよいよ怒りにかられのないルールバが叫ぶのが皆の耳に入った。 た王はなかば胞子に盲いたまま他の方向へ突進した。ゆくさきにい 「首はそこだよ、ルーレく。ほうら」 たのは魔女タミヤである。 タミヤが派手に笑って、キャベツでもけとばすように、おちてい タミャは身をよけようとさえしなかった。王の大剣はまともにそた魔法使いの首をけとばした。それも耳に入らぬていで、ルール・ハ の、あらわな腹をつきとおした。タミャはよろめいて倒れかかる。 の胴体は、 と思いのほか、その黒い手はツタのように王にからみつき、 「首がない ウム、首がないそ。われの首はどこだ」 その目はみたらにかがやき、腹から背にまでぬける串ざしにされた うろうろと手さぐりでさがし求める。 まま、そのロがにんまりと淫蕩に笑みくすれて、 グインの頭の短い毛は嫌悪にさかだち、そののどから思わず野獣 「つれないねえ、豹頭のグイン ! そんな大剣なんかより、もっとの咆哮がほとばしった。彼は、この戦いが彼に分のないことーーー彼 つるぎ 別の剣をどんなにあたしが待ちこがれてるものか、お前は知ってたの剣では、この奇怪な生物どもを切りふせるもかなわぬことを、絶 ) わ、つに 望のうちに悟ったのである。 グインはウォッと怒りにみちた呻き声をあげて剣を黒人女のから「おのれーーーおのれ ! 」 グインの絶叫は悲壮だった。 だからひきぬいた。その剣には血さえついてなく、タミャの腹には 「おや、豹が吠えるよ」 鵜の毛でつついたほどの傷さえなかったー タミヤが指さして叫び、馬鹿笑いをした。 いまや彼は手負いの豹だった ! 彼は狂おしく見まわし、巨大な が、急にしなしなとした目つきにかわり、 イグソッグへむかってつきすすみ、剣をふりまわした。 イグⅡソッグのからだは、まるで煙がそのかたちをたまたまとっ 「ねえ、豹頭のグイン、 しいかげんにあきらめて、あたしの腕にと てはいるものの、切られても切られても手ごたえないとでもいったびこんだらどうなのさーー、あたしの魔道とあんたの剣がくめば、ど ように、必殺の剣をうけながした。 んな力も思いのままーー・ねえ、あたしがサイロンを守ってあげる グインの口から我知らぬ悲痛な呻きがもれる。彼は呆然としてまよ。そしてあんたもーーーねえ、いますぐあたしを選ぶと云っとく わりを見まわし、そのとき、さきに首を切りとばされてころがってれ。あたしは本当にお前に恋しちまったよ、強い、アルカンドロス 6
暗黒の戸口の内からは、ゆるやかに、とてもたくさんの木の葉か上の生物にはとうてい理解することも、対抗することもできぬよう 枯れ草がすりあいでもしているようなサワサワという音がきこえ、 ないとわしい敵意と冷やかさ、いやらしい怪物じみた欲望に、小悪 3 3 それはしたいに近づきつつあった。 党の号い心は本能的に耐えることができなくなったのた。 そして、奇妙な、なんともいえす不快なにおい、地獄におちたも「アーーーああ : : : 」 のの魂のうめきとも、断末魔の苦痛にあえぐものの呪いとも形容の娘のあげるよわよわしい、驚愕と嫌悪のうめきがききとれた。 しようのないいたいたしい呻き声も。 「あ、あれはーーーアラクネーの首よ ! 」 サワサワ という、奇怪な幻想をさそう音はしたいにはっきり 娘は悲鳴をあけて、片手でグインにしがみついてその背中に顔を と、いまやもうその本体がアラクネーの戸口からその全身をあらわかくしながら、片手をあげてその赤く光る闇の目の下の、宙にうか すばかりである。 ぶ女の首を指さした。 グインは二人をうしろに庇い、剣をひきぬいてそちらをにらみす「なんてことを ! 自分で呼び出した妖怪に、アラクネーはじぶん えた。 じしんも食われてしまったんだ ! 」 はじめに目に入ったのは世にも奇怪なものだった 「見るな。俺のマントをしつかり握っていろ」 闇の中に、宙にういている、髪をふり乱し、ロをつりあげて血ま グインは云い、そして、たくましい腕にしつかりと大剣を握り直 した。 みれな笑いをうかべているかのような、みにくい女の首。 奇妙に重量感のある暗黒を背景にして、その首には、肩から下が その彼を赤い凶々しい目に見すえたまま、ゆるやかに、闇が動い なく、そして赤茶けた髪はみごとに逆立ちして、さながらそれは髪た。 の尾をひく、女の首のかたちのホーキ星ででもあるかのようた。 あの、枯れ草のこすれあうような音はいよいよ耳ざわりに高ま 意外さに息をのむ三人の前で、もっと異様なことが起こった。 り、サワサワ サワサワ、と闇が戸口からにじみ出て来ようとす 女の首の上で、闇がカッと目を見ひらいたのであるー る。その赤い目の下に、そこにはりついた女の首もともに近づいて 女の頭のすぐ上に、じっとこちらを見すえているその女の目のグくる。 ロテスクな拡大とでもいったようすで、赤くつりあがった、ちろち と思ったとき ろと陰火のような炎を秘めた二つの目が見ひらかれ、険険にこちら「アラクネーの蜘蛛 ! 」 を見つめた。 娘のあげる、甲高い恐怖の悲鳴のなかで、その怪物はついに街路 アルスは気分がわるくなった。そのときにはすでに、さっきからにすっかりその悪夢のすがたをあらわしたのたった。 の異臭が耐えがたいまでにつよまっていることもあったけれども、 それはー・ー何ともいえぬくらいおそましい、全身に黒い剛毛の密 それよりもさえ、その陰惨なまなざしの中にひそむ、非人間的で地生した巨大な円形の生物で、いやらしく丸くふくれあがった胴のま
の剣のようにたくましい、豹頭のグイン ! 」 を運ぶのだ。 「えい、黙れ、魔女よ」・ ハバヤガが叫んだ。 グラックの馬よ ! 」 「恥知らずの淫売め、ロうまく抜けがけしようとてそうはゆかぬ。 「お黙り、痴れ者 ! 」 この豹はわしのものだ、わしのものだ ! 」 タミヤがわめいた。 「何をいうか、われのーー」 「つれていかせるものか」 「いや、われこそーーこ 「そうだ、みすみすこの好機を逃してなるものか」 「黙れ、黙れ、黙れ ! 」 イグ目ソッグが云い、ずいと不吉な夢魔のようにふみだした。 グインは絶叫した。 折りから頭上ではエイラハの声にこたえるように、目にみえぬ馬 「俺は誰のものでもないわ ! 」 どもの足音がいちだんととどろきわたりながら近づいて来 おめきながら、無駄と知りつつ再び剣をふりあげたーーー刹那 ! 「首を返せ。われの首を返せ」 ふいに青白い爆発が彼をつつみこんだ ! ふいに。ハバヤガが女のような悲鳴をあげた。さっきから首をさが すさまじい大音響が耳をつんざき、豹頭の戦士のからだは、あたしてうろうろしていたルール・ ( の首のない胴体が、パ・ ( ャガの枯枝 かもその手にかざした剣から目にみえぬニネルギーがあふれ出たとのような手をさぐりあて、ぎゅっとしがみついてきたのである。 でもいうように剣を中、いにきりきりとまわり、 「なにをするか。ホオ ! 邪魔するな、ばかもの ! 」 そしてどさりと倒れた。 パ・ハヤガは叫んで胞子をふきかけたが、顔のないルーをハはいっ それなり動かない。 こうに痛痒を覚えぬようすでいよいよしがみつく 「はなせ、はなさんか ! 」 「まあツ、グイン ! 」 タミヤが金切り声をあげる。 パ・ハヤガは度を失って叫び、そのたびにめったやたらに舞いあが 「誰だ、よくも ! あたしの男を殺っちまったね ! 豹が死んじまる胞子は白黄色い煙になって、ついにはあたりいちめんをおおいっ ったら一兀も子もないじゃないか、こ、 くし、タミャとエイラハがごほごほとせきこみはじめた。そのと このくされカボチャ ! 」 き、ふいに 「死んではおらんわ」 この馬鹿者、お前はグラックの馬を呼んだね ! 」 ケラケラと笑いながらエイラハが空からとびおりてきた。その矮「エイラハ、 驅は、全身から放電でもしているように光っていた。 タミャの絶叫は、大地の鳴動する、これまでとは比較にならぬ大 「こんなところで時をくっては、儀式に必要な時間がなくなってし音響にかき消えた。 まう。ロで云い争ってもらちがあかぬゆえ、えもののロをふさぐ面「ああ ! グラックの馬が ! 」 倒をはぶいてやったのだ。どれ、グラックの馬よおりてこい。豹人「首を返せ。われの首はどこだ」 4 け
にも同じように効力があるとみえ、ルールバの首なし胴体はごろご上へ昇ってゆこうとする。 ろと宙でとん・ほ返りをしてそのまま肩からすぶっとゼラチンの壁へ その目的は明らかによこたわるグインであるーーーとみてヴァルー つきささってしまったー サがはっととび出そうとし、ぐいとイエライシャにひきとめられた とき、 そのまま、二、三回足をばたばたさせたなり動かない。 ソッグ ! イギアーツ いつ。ほうェイラハは、というよりもエイラハのひきちぎられた首「イグ と胴体はたがいに相手を求めてぐるぐると、気の狂った虫のように けものじみた叫び声と共に、突然テレポートしてあらわれた合成 まわっていたが、ルール、、 ( の胴体に放り出された首のほうがさきに人間の巨大なからだが、体当たりで・ ( ・ ( ャガにぶつかったー おのが胴体をみつけ、いったん上へ舞いあがってからあわてて舞い そのヒヅメがまともに背中をけやぶったからたまらない。 おりてこようとする。 ・ハ・ハヤガは背中からけむり ガの口から長い緑色の舌が吐き出され、 それが肩の上におさまろうとする一瞬に、 をあげながらきりきりと断崖のふちでまわるコマのように二、三回 「これでも喰らえ ! 」 まわり、それからそのまま、まっさかさまに下へおちてゆく。 。ハ・ハヤガの手からほとばしった濃い黄色な膿のようなものがべた「イグーーーイグⅡソッグ ! 」 りとちぎれた首のあとのつけ根にはりついた。 怪物の叫びは明瞭な勝ちほこったひびきをひそめていた。背には えたうろこのようなとさかも、長い牛のような尾もすたすたにな ェイラハの首は方向転換するいとまもなく、そのままその黄色い ものがふさいだ首のつけ根へ着陸したが、そのとたん、 り、毛皮はなかばやけこげ、かたいうろこも何カ所かやぶれてそこ から白っ。ほい肉がみえているイグ日ソッグは、歓喜に顔をのけそら けたたましい声とともに、こびとは短い手をあげて百のつけねをせ、胸を叩いて再び雄たけびをあげ、それからカギ・ツメをまっすぐ のばし、ヒヅメから、灼鉄が出すような白い煙をひきながらすさま 狂おしくひっかきむしり、死の舞踏を踊りはじめたのである ) ・ 0 ( ャガの左手はイグ日ソッグのヒヅメの一撃でつけねから折れじい勢いでグインにむかって舞い上がる。二つの巨大なカギヅメが てぶらぶらになっている。動き出した・ほろの山のような老い・ほれまさに戦士をひつつかんでそのまま飛び去ろうとするように下へむ は、狂ったようにのたうちまわる矮人をみて長いこけむした舌を出かってひらき、イグⅡソッグはまたそのロをひらいてケーツという ような、人間の耳にはよくききとれぬ叫びをあげた。 すなり、べろりと悦に入ったようにロのはたをなめまわしたが、 「うそっき、うそっき ! 」 「おう こうしてはおられぬ」 ヴァルーサが金切り声をあげる。 のたうちまわりながら、宙に身を支えておく力さえも失ったよう 5 にしだいに下へ沈んでゆくエイラハにはもう目もくれす、やにわに 「五人共倒れだなんて ! 王さまが化けものにやられちゃうじゃな 深い水を手で漕いでゆくようなしぐさをしながら、これは少しづっ いの ! うそっき ! 」
。そ突ッ込んだ。 「よし、殺されて工と見えるな。ゆっくりと殺してやろう : あわてた娘は後進をかけて、艇首をその繁みからひッこ抜こうと の素ッ首をやんわりむしり取ってやるそ」 とするが、なにしろ枝葉にひツかかって地表からかなり浮いてるか 男は、丸太ン棒ほどもある腕を、少女の首許めがけてぐいー ら、音たけやたらに高くてうまくいかない。凄まじい土埃がまき起 伸ばしてきた。 る。 そのとたんーー・だった。 不整地仕様のやつだと、こんなときに備えて可変のラム・ノズル ますしげなその少女が、まったく信じられないような行動を起こ がついているのだが、なみのモデルではそうもいかなし したのである。 よく、なンかのはすみで三メートルもない灌木のてつべんにひっ 彼女はまるでイタチみたいにワン。ヒースの裾をひるがえしてば かかった艇をおろすのに、反重力クレーン一基出動させなきゃなら と跳ね上ったかと思うと、いつの間にひッつかんでいたのか、 なかったという、よくある、あれである。 両手の砂を相手の顔めがけてもろにたたぎつけたのだ : 後進が駄目だと見た娘は、今度は首上下と首左右でなんとか抜こ ばふッ ! 糞ッ ! 」 「あッ , ( リッと大きな音と共に繁みから艇体が 真正面から砂の目つぶしを喰らった男は、そいつをかわそうとしうと試み、やがて・ ( リ と 外れたのはいいが、後進を切ってあったもので艇体はぐらりー た拍子に川原の砂利に足をとられ、「うおッ ! 」とひと声叫ぶなり と尻餅をついた。 前にかしぎ、そのまま一気に河原まで滑り落ちると、はすみを食ら そのまま、河原へどン , ってあッという間に横倒しとなった。 少女はその顔めがけてもう二、三回、猛烈な勢いでたてつづけに ・ヘルトを締める間もなかった少女の体は、まりのように河原へ放 砂をぶつかけると、そのまま道の方へと走り出し、そこで ' ( スケッ トを忘れたことに気がついて引き返してきてそれをひッつかみ、こり出された。 ろがるように河原をすッ飛んで道へ駈けあがり、地表艇に跳び乗る「うおウッ ! 」 河原で待ち受けていた男が、娘をめがけて突進してきた。 なり、そのまま一気に艇を発進させた。 ドン亀 「おのれ ! このスペタ娘がいなぶり殺しにしてくれるそ ! 」 地表艇は、どこにでもころがってる軍払い下げかなンかのⅣ型だ 放り出されたはすみにしたたか腰をぶつつけたらしく、娘はよろ ったが、浮上系がよほど癖の悪いやったったらしく、少女がレ・ハー を一気に前進〈ぶち込んだとたん、その中型地表艇は・ ( ランスを外よろとい 0 たん立ち上りかけて、また、べたンと尻餅をついた。 し、凄まじい土埃を立てながら、まるで性悪の馬が跳ね上りでもす「うおウッ ! 」 るように、艇首が四五度程におッ立 0 てしま「た。すぐにサーポが物凄い声をあげて迫まってきた男は、・ ( ケット・クラウみたいな 作動して = ンジンは自動的に絞られ、姿勢は水平に戻「たが、はす両手を高々とさしあげ、立ちあがれないでいる娘をめがけて一気に みで谷側へ半分ほど突き出てしまった艇体は、路肩の繁みへ頭からっかみかかった。 アン・グラ ピッチング 2
イエライシャの首が云った。グインは云われたとおりにして、あ 生首はそれきり口をひらかず、客たちもまた黙りこくっていた。 ヴァルキューレたちにみちびかれた死者の列にも似たその道程がっとへさがった。それから魔道師の胴体がひどくのろのろしたしぐさ 5 3 いにおわったことを告げたのは、道案内役の鬼火だった。それは急でべッドの上に起き直り、見る目がないものでのろくさと手でさぐ にぐるぐるとまわり、左へ折れるよううながしたかと思うと、つい って枕の位置をたしかめ、首をさぐりあてると、おもむろにもちあ たときと同様ふいと消えうせた。 げてもとどおりの位置にくつつけるのを、呆れ顔で眺めていた。 グインが左へ曲がると、そこは明るい室になっていた。 魔道師のほうはアルスの呆れ顔にも、踊り子のヴァルーサの気味 明るいといっても、そこへつくまでの永劫の闇と比べてのこと悪げなようすにも、なにもとんちゃくせずに、白髪首を二、三回左 だ。それは奇妙な場所だっこ。 右にふってみてしつかりついたことをたしかめた。それから彼はか タミャの洞窟よりもずっとせまい、掘立小屋の内部のような、しるくのびをして、足をそろえて寝台からおりると、客たちに木のイ かし小ざっぱりとした室である。隅には木の寝台がおかれ、人がねスを指さした。 ているように白い布がかかっている。そのそばに木のテーブルとイ「お前のやって来ることは星辰の位置により、わかっていたがな、 スがいくつか。テー・フルの上に素焼きのつぼがあり、室の隅にぐる王よ。迎えにゆこうとして、地上におりたところが、例によって下 りと、まるで魔法陣ででもあるかのように、祈り車を置きめぐらしつ端の使い魔どもが、手柄をたてようと待ちかまえておったもの てあるほかには、それがこの簡素なすまいの家具の・せんぶだった。 で、つまらぬところを見せてしまった」 室の空気は清浄で、ほした薬草のあまい香りがどこからか漂って いまは首も胴体も揃った魔道師イエライシャは云った。彼ははか くる。さわやかな夜気が顔をうったが、おもてをあげた三人はぎよ りしれぬほど年老いた男で、しかし、長身の、ツルのようにやせた っとした。斜めに切った屋根に、大きな天窓がついており、そこか からだは体液が涸れつくして別のものになりでもしたかのようにか ら星の降るような夜空がのそけるのたが、その星の配置がどうみてろやかに、なめらかに動いた。 も、かれらの夜毎馴れしたしんでいるそれとはまるきり違ってい 白髪の額に銅製の、「魔道師の輪」をはめ、もとは白かったらし る。 いかるい道衣をきて、胸に巨大な祈り紐と奇妙なかたちのメダルを 「豹人よ、豹頭王よ、そこの寝台の掛布をとってくれ」 さげている。その皺ふかい顔はやせて鋭く、しかし静かで、威圧と 生首が云った。グインは云われたとおりにした。 安心とを同時に感心さるような賢者の容貌をもっていた。 そして、呆れたようにあらわれたものを眺めた。それは両手をま「魔法使いどもはいつでも、それはわかっていたの、星をよむこと っすぐにのばしてからだの側につけた、古・ほけた道衣をつけた胴体ができたのとぬかしおる」 で、ただ、その首のあるべき場所には何もない。 豹頭王はうなるような声をたてた。 「さて、とーーわしをその枕の上においてはくれぬか」 「そのくせしていつもきやつらがそう云うのは、ことが起こり、あ ガイ
。いいね、グイン タミャは必す、お前にまた会って : : : そ「しまった ! 遅かったか ! 」 してお前を手に入れるよーーこ アルスの悲鳴ーー・ヴァルーサの嫌悪の声、そして豹頭王の痛恨の 3 さいごの方ははてしない遠くからでもあるかのようにかすかだっ叫びーーが、石づくりの暗い家の内にこだました。 た。落下感覚がやんだとき、ふいにあたりが明るくなり タリッドのましない小路に《ドールに追われる男》として知られ そして、かれらは、自分たちがましない小路の、ごくあたりまえる、魔道師イエライシャの家である。 な石壁の前に立っていることを知ったのだった。 一歩かれらが暗がりにふみこんたとたん、どこまでもつづいてい 「あーーークモは ! 」 るかのような暗闇のなかに、恐しいものが置かれているのに気づい ヴァルーサが叫ぶ。しかしそれはどこにも見えなかった。三人は たのだった。 もう誰にもさまたげられずに《ドールに追われる男》イエライシャ イエライシャの生首ー の家とタミャに教えられた家へたどりついた。ヴァルーサも、二人 かぎりなく年経てでもいるような、長い白髪と白髯のその首は、 からどうしてもはなれる気にならぬようにずっとついてきたのであ圧倒的な力でその胴体からひきぬかれたといったようすで、上りは る。 なにおいてあるそまつな木のテー・フルの上に放り出されていた。 ごくありふれた一枚岩の扉にはルーン文字がきざまれ、押すとそ さながらドールが、その背教者に世にも恐るべき見せしめを与え れは不用心にそのままひらいた。 たとでもいうように、そのひきちぎられた首の切れめに、白い骨や 赤い肉、そして神経の繊維までがはっきりと見てとれるのである。 呟きながらグインは無造作にその暗がりへふみこむ。おそるおそ と思ったとき・ー・ーもっと恐しいことがおこった。 る二人もつづく。中は暗かった。アルスが、火打石をすってあかり その生首が起きあがり、ゆっくりと目をひらいて、来訪者たちを をつける。 火のようににらみすえたのである。 とたんに三人は悲鳴をあげてとびのいた。 「イエライシャ ! 」 粗末なテー・フルの上に、年老いた白髪、ひげの男の首がのってい ヴァルーサのカン高い悲鳴のなかで、豹頭王は怒鳴った。 る。イエライシャど。 「お前は、まさかー・ーー」 その生首が目を開き、三人をにらんた ! とたんに、ヴァルーサはまた金切り声をあげ、アルスをおしのけ るなり王のたくましい腕にしがみついた。目をひらき、ぎろりと三 人を見た、魔道師の首が、白く血の気のないくちびるをひらき、そ こから重々しい低い声が流れ出たからである。 「驚くまい。騒ぎたてるまい、地上の子らよ」 《ドールに追われる男》ともあろうものが、案外に迂闊たな」
ただひたすらかれらは巨大な力ある戦い蟻と化して噛みあい、火 「イグ日ソッグ ! イグ日ソッグ ! 」 。・、、レール・ ( のを吐きかけられれば水で切りかえし、毒を注ぎかけられれば毒蛇を 合成人間はけだものしみた怒声をはりあけるカノ のない胴体はやもりのようにはりついている。 虚空より生み出し、持てる秘術のすべてを動員して、さながらおの ルーを ( はいつのまにか、手にしつかりと抱きかかえていたそのが鏡中の影とたたかう狂人のように血と泥にまみれて戦いつづけ 生ま首を、エイラハの糸で奪いとられ、放り投げられてしまったのた。 である。首を失ったキタイ人は、暗黒な憤怒にかられていた。二度「見るがいい とはなすものかといわぬばかりにイグⅡソッグに抱きついたその手イエライシャの声も嫌悪とも戦慄ともっかぬたかぶりで小さくふ るえている。 がしだいに上へ、首を求めて這いの・ほってゆく。 「イギアーツ それはわしには当初よりわかっていたことなのだ 「見るがいし イグ日ソッグがわめき声をあげてその強力な脚をようよう上げるが、かれら五人は、そのカ、その術、そのスケール、ともにまった くといってよいほどに等しいのだ。かれらの力は伯仲しており、さ なりそのルールバの胴のまんなかを膝でけりはなし、とたんにルー ルバのからだはまりのようにへこんで宙をとんだ。 きのようにグラックの馬ゃなにかの力をかりぬかぎり、たとい何千 年戦いつづけようと、かれらの中の誰かひとりが他の四人すべてを たいらげる可能性はゼロにひとしい。かれらはただ、一人がそれぞ 思わずヴァルーサがロに手をあてて金切り声をあげる。ルール・ハ の胸のところに、あざやかな、ひづめのあとが、およそ十センチもれ四人を相手にするかぎり、それそれの力を少しづっーーーそれすら あろうかという深さで焼印のようにやきついているのだ。 も同じ大きさのタルから同じ大きさの穴をとおって同じ分量の酒が こぼれ出るように、ほとんど同じぐらいによわめながら決してさい それにも致命的な打撃をうけたというようでもなく、吹っとんだ ごの勝利を手にすることなく戦いつづけるばかりなのた。 ルール。ハのからたは、まともにエイラハの上におちた。ェイラハが いくらかでものこるのは わめいておしのけようとする。もろに傷ついた肩を直撃されたの 術も精神力もすべて伯仲しておる以上、 どうせ術は術で相殺され、毒は毒、傷は傷で た。タミャはさきにおちていったなり、機会をうかがっているのもっとも原始的な 相殺されるのだからなーーカとカ、手と手、拳と拳、歯と歯の争い か、それとも気を失ってでもいるのか、姿が消えている。 だけなのだがーーそれすらも : : : 」 「ああ ! 」 ェイラハが ! 」 ヴァルーサのさしも気丈な心も、はてしもなくつづく魔道師どう「ああツー アルスが金切り声をあげた。 しの死闘のあまりのむごたらしさにくらくらとなった。ほとんどか 3 れらの心の中から、そこがどことも、誰をあいてに戦うとも、そん ェイラ ( は、ダ = のようにしがみついたル 1 ルバの首なし胴体を 何とかふりきろうと、秘術の限りをつくしていたのだが、なにしろ な理性は失われてしまっているのが感しとれる。
ャンダル・ゾッグの笑い声がいんいんとひびきわたった。 イエライシャが驚愕の叫びをあげる。その光の球の中には 「だがまあ、大層気づくのが遅くはあ 0 たもののそこに気づいたこ左腕のちぎれ、背中はば 0 くりと割れ、それでもなお長杖を握り 4 とは賞めてやろう。 しめた長舌の・ ( パャガが、首のもげた矮人工イラ ( 、やはりちぎれ さようーーわれはここだ。というよりは、これがわれだ、と云 0 た赤いもののついている首のつけねのすぐ近くにか 0 と目を見ひら たほうがよい いたエイラ ( の生首が漂っている、首のなくなった石の目のルール イエライシャ、グインーーーそのアラクネーの踊り子はなかなかに そして体半分がどろどろにやけくずれて、さながら生ける よい魔女の素質をも「ているそ。さぎにその小娘は、横道をぬけな腐乱死体とでもい 0 たありさまの、ひづめあるイグ〕ソ〉グ。ーー五 がら、それが生きていることをお・ほろげに知覚していた。 つどもえの戦いにそれそれ手ひど いいたでをうけ、そのまま闇に沈 そうだ これがわれた。というよりも んでいったかとみえた四人の魔道師たちが、瀕死の体でぐったりと お前たちは、われの体内にいるのた ! 」 浮かんでいたのであるー そして再びャンダル・ゾッグは、勝ち誇った哄笑を闇の中にひび それはまるで幽鬼の行列とも見える地獄図の現前たった。ヴァル きわたらせた。 ーサはめまいをおこしてふらふらと倒れかかる。それをぐいと抱き 「お前たちを料理することなど、 リャーのあるなしにかかわらずとめて、 いともたやすいことだった。 「こやつらーーーダーク・ ハワーの魔道師どもは、くたばったのでは それにもかかわらす、なぜわれがいまのいままでお前たちをこう なかったのか ! 」 して無事に過させ、ひとたびはその心臓をとり出して宙につるして ケイロニア王は怒鳴った。 おいた豹頭王をとりもどすことさえも許しておいたか、お前たちあ頭上からはヤンダル・ゾッグの答えが重々しく、 われな虫けらにわかるか 「いやーー・・・死にたえてはおらぬ。といって、お前のことばで云うよ そしてこれも ! 」 うな意味で生きているわけでもない、さきに稲妻にうたれたときの 途方もない高みから見おろす、さしわたし三メートルあまりの二お前のようにな、豹よ。かれらは、われがかれらの時間をいっと つの火の玉ーーヤンダル・ゾッグの凶々しい双つ目が、寄怪きわまき、止めたために、それそれのその最後の時の中にいわば宙づりに りない残忍な喜悦をうかべて輝いた。 なっているにすぎぬーーーそれが何故かお前にはわかるまい と見たとき だがわれにはわかる。刻々と近づく会のおとすれに従って、星々 ふいに、かれらの頭上高く、ば「といくつかの光の球のようなものネルギーが蓄積されてゆくのがーー・それはひとつの恒星の爆発 のがうかびあがったのである。 にも匹敵すべきものであり、かっ、われの常人の数十倍の生の中で 「これは ! 」 さえためしなかった巨大なものだ。