ギャラガー - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1979年6月号
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1. SFマガジン 1979年6月号

に尋ねた。「ひょっとすると、あなたはソナトネとは契約しなかっギャラガーをこんな羽目に追い込んだのだ。ジョ ーこそ、科学者ギ た。だけど、その場にいなかったことを証明するために、ロポット ャラガーを救うことができるはすだ。そうすべきだとも : でな 4 に呼び出しをかけさせたーーーっまり、アリイ工作。そんな気がすいと、あの高慢ちきなロポット野郎は、分解さればらばらになった るわ」 体を自賛することになるだろう。 「やめてくれ。ソナトネと契約したのはジョーだ。。ほくじゃな、。 「とにかく、ジョーと話してみよう」ギャラガーはため息をつい しかし、よく考えてみよう。もし、筆跡が・ほくのとそっくりだった た。「パッツイ、急いでもう一杯くれ。それから、おたくの技師さ ら、もし、トーン父子が催眠術でやつをぼくだと信しこんでいたんたちに会わせてくれ。青写真を見たいんだ」 ら、サインしたと証言されたら、なんてったって、トーン父子は目 パッツイは疑わしげな表情でギャラガーを見た。「いいわ。で 撃者なんだからなーーああ、お手あげだ ! 」 も、もし、わたしたちをだますようなまねをしたら : : : 」 パッツイの目が細くなる。「ソナトネと同じだけお払いするわ。 「ぼく自身がだまされたんだ。売られちまったんだぜ。あのロポッ 特別事態ですもの。でも、ポックス・ビューのために仕事をしてち トがこわいよ。・ほくを広げてみて、こんな羽目に追い込んだのは、 ようだい。いいわね」 やつだ。まあいい。コリンズをくれ」 「ああ、もちろんだ」 ギャラガーは、コリンズをゆっくりたつぶり飲んだ。 ギャラガーはものほしそうに、空のグラスをみつめた。当然だ。 そのあと 、。 ( ツツイに連れられて、ギャラガーは技術部門のオフ ギャラガ 1 はポックス・ビ = ーのために仕事をしている。だが、あイスに行った。立体映画の青写真は、走査機を使えば簡単に理解で らゆる法的見地から言うと、五年間ソナトネの専属になるという契きる。走査機が繁雑な部分を取り除いてくれるからだ。ギャラガー 約にサインしているのだ。それも一万二千で ! ギャア ! あいつはじっくり時間をかけて図面を研究した。ソナトネの特許プリント らの条件はなんだっけ ? 最初に十万、それから : : : それから・ のコ。ヒーもある。ギャラガーの見たところでは、ソナトネのプリン トは地の色が美しい。ひとつも欠点がない。もし、まったく新しい いや、それは本質的な問題ではない。問題は金だ。今や、ギャラ原理を使ったのではないのなら : ・ ガーは枷つきのハトよりも、もっとしつかり縛られている。ソナト とは言え、なにもないところから、新しい原理を引っぱり出して ネが裁判で勝ちでもしたら、ギャラガ 1 は法の定めに従って、むこ これるわけがない。 もちろん、問題を完全に解決できるはずもな い。たとえポックス・ビュ う五年間、ソナトネのために働かなくてはならない。それも無報酬 ーが、ソナトネのマグナ方式を侵害しな で。なんとかしてあの契約から逃れなければ。同時に、プロックのい新拡大方法をものにしたとしても、闇劇場は依然として存在し、 問題も解決してやらなくてはならない。 客を惹きつけるだろう。視聴者ア。ヒール・ <) が、今のところ ジョーはどうなんだ ? あの驚くべき才能を持ったロポットが、 の第一要因だ。これを考慮に入れるべきだ。この判じ物は純粋な科 ーいイ スキャナー

2. SFマガジン 1979年6月号

ス市民の気分を味わっ その裕福な生活ぶりで有名な、古代のイハリ 険映画か、ニ、ース映画かのどちらかだと、ギャラガーは思った。 ていたぐらいだ。 違法行為のスリル感だけが、観客を闇劇場に動員しているのだ。 このぜいたくは、合法的なソナトネ劇場に来る余裕のある人々の 館内には異臭がたちこめている。経営に金をかけていないのは確か だし、案内係も置いていない。だが、法律に背いている。そのことためのものだ。余裕のない者は、闇劇場に行く。流行に動じない人 が人気を博しているわけだ。ギャラガーは注意深く画面をみつめは、ほとんどいない。となると、・フロックが収益不足で業界から閉 た。走査線もミラージ・イフ = クトも出ていない。「グナ拡大方め出されるのは、火を見るより明らかだ。ソナトネが一手に引き受 式は、ポックス・ビ、ーの無許可受像機に取りつけられていた。ブけることになれば、たちまち料金をつりあげ、全力をあげて金もう ロックの会社の大スターがひとり、闇劇場の後援者の利益のためけをはかるだろう。生活に娯楽はなくてはならない要素たし、テレ に、感動的な演技をしている。要するに ( イジャックだ。そう、そビは人々の生活にと「て、その一部になっている。テレビにと「て かわるものはない。いったんソナトネのゴリ押しが通れば、人々は のとおり。 へたなタレントに、金を払いつづけることになる。 しばらくすると、正面通路両側の一等席のひとつに、制服警官が すわっているのに気づき、ギャラガーは皮肉な笑いを浮かべて、外 ギャラガーはビジ、ーを出ると、エア・タクシーを呼びとめた。 に出た。もちろん、ポリ公は人場料を払ったはずがない。体制なん ー・ロング・アイランド・スタジオの住所を告け ポックス・ビュ てそんなものだ。 通りの二プロックほど先に、〈ソナトネ・ビジー〉と、きんきる。・フロックから前金をせしめようと、はかない期待を抱いている らきんの看板があ 0 た。これは合法的な劇場だし料金も相応に高のだ。同時に、もっと詳しく調査したいとも思「ていた。 ・ホックス・ビー東部オフィスはロング・アイランドを大幅に占 い。ギャラガーは乏しい持ち金を、あっさりはたいて良い席を買っ た。興味深く両方をくらべ、できる限り差をみつけてみた結果、ビ領し、サウンド海峡に面している。種々雑多な形のビルがむやみや たらと建っている。ギャラガーは直観で食堂をみつけ、予防策とし ジューのマグナと闇劇場のそれとは、まったく同じたとわかった。 どちらも完璧な仕事ぶりだ。テレビの画面を拡大するという困難なてさらに酒をひ 0 かけた。濳在意識では、この先重要な仕事が控え ているとわかっている。ギャラガーとしては、完全に自由ではない 作業を、りつばにやりとげている。 それにしても、ビジ、ーの内部は豪華このうえない。きらびやかという ( ンディキャ , 。フを、背負いたくないのだ。そのうえ、「リ ンズはうまいときている。 1 では な案内係が床に頭が届くほど、ていねいにおじぎをする。・ハ くら酒量 一杯飲ると、しばらくはこれで保つだろうと決めた。い 質のいい酒を、無料サービスしている。手洗いはトルコふうだ。ギ ーマンではな 4 ャラガーは男性用と表示のあるドアを開け、手洗いに入ったが、あがあが「てきているとは言え、ギャラガ 1 はスー。 ( 。目的をはっきりさせ、心を解放するには、これで十分だ : まりの豪華さにくらくらしながら出てきた。その後十分間ほどは、

3. SFマガジン 1979年6月号

って、あなたはポックス・ビーのためにではなく、ソナトネのた めに仕事をしていることになります。審議終わり」 パッツイはあっさり引き受けると、父親と出て行った。ギャラガ ( ンセン判事は退廷した。ト 1 ン父子は法廷の向こうがわで、ふ ーはため息をつき、エア・・ハンに再びジョーを積み込ませると、見 きげんそうにギャラガ 1 をにらんでいたが、やがて出て行った。シ込みのない理論を立てるのに没頭した。 ル・ ( ー・オキーフもいっしょだ。この女はどちら側が安泰か、見き わめたようだ。ギャラガーはパッツイ・・フロックの顔を見ると、カ 一時間後、ギャラガーは実験室のソフアにひっくりかえり、酒を なく肩をすくめた。 あおりながら、ロポットをにらみつけていた。ロポットは鏡の前で 「やれやれ : : : 」 金切り声でうたっている。途方もない飲みかたになりそうだ。ギャ ギャラガーが話しかけると、 ラガーは身体が保つかどうか自信がない。だが解決方法を思いつく 。 ( ツツイはゆがんた徴笑を浮かべ た。「努力はなさったわね。どんなにたいへんだか、わたしにはわか、あるいは酔いつぶれるか、どちらかになるまで飲みつづけるつ からないけど : 。まあ、いいわ。どっちみち、あなたに解決できもりだ。 なかったかもしれないんだし」 ギャラガーの潜在意識は解答を知っている。そもそも、 し子 ! し どんな魔がさしてジョーを作ったのだろう ? ナルシス・コンプレ ・フロックは丸い顔の汗をぬぐった。足もとがよろよろしている。 「わたしは破産た。今日だけで、市内に六軒も闇劇場がオープンしックスを満足させるためでは断じてない。なにか理由があったはす た。気が狂いそうだ。こんな目に会うなんて」 だ。アルコールの深みに隠された論理的な理由が。 「トーンと結婚してほしい ? 」 工要因だ。工要因さえわかれば、ジョーを操縦できるだろう。絶 パッツイは皮肉に尋ねた。 対そうだ。工がマスター・スイッチだ。今のところ、ロポットは、 「冗談じゃない ! 式が終わり次第、やつに毒を盛ると約東するん言わば野放し状態だ。為すべき仕事をなしとげるよう命令されれ なら話は別たが。トーンごときに負けるものか。なにか方法を考えば、心理的パランスも生じてくるだろう。工こそが、ジョ 1 を正気 るよ」 にする触媒なのだ。 「ギャラガーさんにできないなら、おとうさんにもできないわ。さ よろしい。ギャラガーは強烈なドランビュイを飲んだ。ゥーツー あ、どうするの ? 」 空の空、いっさいは空である。どうすれば工要因がみつかるだろ 「ぼくは実験室に帰る。真理の酒のもとへ。この仕事を引き受けたう。推論 ? 帰納法 ? 浸透 ? ドランビュイ溶液ーーー・ギャラガー とき、酔っぱらってたから、もう一度酔えば解決方法を思いつくかは目まぐるしく変わる思考を、が「ちり押さえた。一週間前の夜、 もしれない。だめだったら、アルコール漬けの・ほくの死体を売っ払なにがあったんだ ? ってくれ」 あの夜、ギャラガーはビールを飲みつづけていた。プロックが来 5

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ギャラガ 1 はジョーにスコボラミンを投薬できるかどうか、につ た。帰った。ギャラガーはロ・ホットを作りはじめた : : : フム人・ビ いったいどうすれば、ロポットの 5 1 ルの酔いは格別ちがう。飲んでいる酒をまちがえてるぞ。見込みくり考えてみた。ちくしよう ! がありそうだ。ギャラガーは起きあがると、チアミンで酔いをさま潜在意識を解放できるんだ ? 催眠術。 し、冷蔵庫から輸入罐ビールを何ダースも取り出した。ビールをフ ロスト・ユニットの中に積みあげ、ソフアの傍に置く。オー ' フナー ジョーに催眠術はかけられない。やつは頭がよすぎる。 を使うと、ビールが床にふきこ・ほれた。さあ、考えよう。 それでは : 自己催眠は ? 工要困だ。もちろん、ロ・ホットはそれがなにを意味するのか知っ ている。だがジョーは言うまい。逆説的に言えば気どらずに、そこ ギャラガーはさらにビールを飲んだ。もう一度しつかり考えはし に突ったって体内のギアの動きを眺めている。 いや。やつは奇妙な感覚を持っ める。ジョーは未来が読めるか ? ているが、それは可能性の確固たる論理と原理によって働く。おま 「じゃましないでくたさい。美に浸りきっているんですから」 けにジョ ーには唯一の弱点がある。ナルシス・コンプレックスた。 「おまえは美しくはないよ」 ひょっとすると、本当にひょっとすると、なんとかなるかもしれ 「美しいですよ。わたしのタージールを認めないんですか ? 」 おれにはおまえが美しいとは思えないよ」 「おまえのタージールって、なんた ? 」 「ああ、忘れてた」ジョーは残念そうに言った。「あなたにはそれ「あなたのことなんか、どうでもいいです。わたしは美しいし、自 が感じられないんでしたね。考えてみれば、あなたに作られたあと分で見えます。それで十分です」 で、わたしが自分でタージールを付け加えたんたつけ。とてもすて「ああ。おれの感覚は限られてるからな。おまえの全能力がわから ないよ。それに、今はちがう目で見てることだし。酔ってるんた。 きなものですよ」 「フムム」ビールの空き罐がどんどん増えてゆく。今日では、どこおれの潜在意識が出てきたそ。意識と潜在意識とでおまえの良さを 認めることができるよ。わかるか ? 」 にでもある。フラスチック球を使うかわりに、罐にビールを詰めてい るのは、ヨーロツ。 ( のどこかの会社だけだ。たが、ギャラガーは罐「幸運ですね、あなたは . ギャラガ , ーは目を閉した。「おまえはおれ以上に自分がわかるん ーのことだ。 くぶん味がちがう。ところで、ジョ 入りが好きだ。い ジョーは自分がなぜ作られたか知っている。あるいは ? ギャラガだろうな。たが、完璧にではないだろう ? 」 「なんですって ? 自分のことはちゃんとわかりますよ」 ーは知っているが、潜在意識は : 「完璧に理解し、評価できるのかい ? 」 ジョーの潜在意識はどうなのたろう ? そうだ , 「ええ。もちろんです。できないと言うんですか ? 」 ロポットに潜在意識はあるか ? そりや脳があるから :

5. SFマガジン 1979年6月号

ジミーが大声で笑い出した。「わかったよ。強盗だな。失礼、き たら、差止命令をたたきつけて、息ができないようにしてやるから み、酔っぱらってるね。きみは証人の目の前でサインしたんだ・せ」な」 「実はねえ」ギャラガーは思案顔で言った。「信じてもらえないか「そうかい ? 」 もしれませんが、ロポットがに まくの名前をかたったんですよ : : : 」 トーン父子は返事もしてくれない。ギャラガーはみじめな思いで 「ほほう ! 」ジミーがやじる。 リフトに乗り、床に降りた。今度はなんだ ? 「 : : : 催眠術で、ばくだとあなたがたに信しこませたんです」 エリアはつるつるのはげ頭をさすった。「はっきり言って、ノー だ。ロポットにそんなことができるはずがない」 十五分後、ギャラガーは実験室に帰った。明りがこうこうとつい 「・ほくのはできるんです」 ており、あたり一帯の大たちが吠え狂っている。ジョーは鏡の前で 「証明しろ。法廷で証明するんだ。きみに証明できたら、もちろん超音波で歌をうたっている。 : 」 = リアはくすくすと笑った。「そうなれば、陪審の評決が得「今、大 ( ンマーを持ってくるからな」ギャラガーはジョーに言っ られるかもしれんそ」 た。「お祈りでもはじめてろ、このできそこないのガラクタ野郎 ギャラガーの目が細くなる。「そんなことは考えなかったな。とめ。おれを手伝わないと、ぶちこわしてしまうそ」 ころで、そちらの申し出は、かっきり十万、そのうえ、毎週サラリ 「いいですよ、どうそぶってください」ジョーはきんきん声で答え ーとして : : : 」 た。「わたしはかまいませんとも。あなたはわたしの美しさをねた 「そうだよ、まぬけ野郎」ジミーが答えた。「おまえさんは必要なんでいるだけです」 のは一万二千ぼっきりだと言ったんだ。あんたが受け取ったのは、 「美しさだと ! 」 そっちだ。だが、教えてやろう。もしあんたが、ソナトネのために 「あなたには美なるものがわからないんですよ。なにせ、たった六 実用価値のあるものを作ったら、そのたびにポーナスをやるよ」 感しかないんですからね」 ギャラガーは立ちあがった。「ぼくの潜在意識さえも、このアホ 「五つだ」 どもをきらってる。行こう」ギャラガーはシル ーにそう一一一口った。 「六つです。わたしにはもっとあります。当然、わたしの完璧なす 「あたし、ちょっとぶらぶらしようと思ってるの」 ばらしさは、わたしにしか見えないんです。でも、とにかく、わた 「立場を忘れるんじゃないよ」ギャラガ】はそっと警告した。「たしの美しさの一部分は、あなたにも見えるし、耳で聞くこともでき けど、好きにすることだ。・ほくは行くよ」 るはすですよ , エリアが言った。「ギャラガー きみはうちの仕事をするんだ「おまえの声は錆びた・フリキの荷馬車みたいた」ギャラガーはうめ そ。忘れるな。プロックに味方してるという話がちらとでも聞こえ ー 50

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トレスに耐える方法をみつけなきゃな。寝るとしようか」立ちあが ギャラガーは数時間、集中的に考えたが、いい考えがうかばな ると、ギャラガーはいじわるく明りを消した。 い。ロポットをこちらの意志どおりに動かす方法を、ひとつも思い 5 「かまいませんよ。わたしは暗闇でも見えるんです」ロポットが言 つかなかったのだ。せめて、いったいなんのためにジョーを作った のかさえ思い出せれば : : だが、だめだ。しかし・ ギャラガーはうしろ手にドアを・ハタンと閉めた。静けさの中で、 正午に、ギャラガーは実験室に人った。 ジョーは自分だけに聞こえる超音波でうたいはしめた。 「おい、まぬけ、いっしょに法廷に行くんた。さあ」 「いやです」 「そうかい」ギャラガ 1 はドアを開け、担架をかついだオー ギャラガーの台所の壁のうち、一面は完全に冷蔵庫が占領してい ール姿のがっしりした男ふたりを招じ人れた。 る。中味はほとんど酒だ。どんちゃんぎのロあけに飲む輸人罐ビ 「きみたち、こいつを頼む」 ールも入っている。次の朝、まぶたをはらし、わびしさをかみしめ そう言いながらも、ギャラガーは内心びくびくしている。なにせ つつ、ギャラガーはトマト・ジュースを求め、しかめつつらでひと くちすすると、大急ぎでライ麦パンとともに流しこんだ。もう一週ジョーの力量が、かいもくわからないし、その潜在能力も未知数だ いつも、飲酒量のからだ。だが、ジョーはそれほど度胸のあるロポットではなかっ 間も酔いつばなしなので、ビールはいらない た。必死でもがき、半狂乱で金切り声をあげながらも、ジョーはあ サービスがテー 程度に応して、追加の判断をくだすのだ。フード・ プルの上に、。ほんと密封した朝食を置いた。ギャラガーは、ふきげつさりと担架に積まれ、拘束衣を着せられてしまった。 んに血のしたたるステーキをもてあそんだ。 「やめろ ! こんなことはできないはすだ ! 放してくれ、聞こえ さてと。 ないのか ? 放せったら ! 」 唯一の頼りは法廷た、とギャラガーは決心した。ロポット心理学「外へ」ギャラガーは言った。 ーの才能に感銘を受けるたろ なんか知らないが、判事はきっとジョ はなばなしく抵抗しながらも、ジョーは外に運び出され、エア・ う。ロポットの証言は合法的には認められない。とは言え、ジョー 。ハンに積み込まれてしまった。いったんそうなると、ジョーは静か が催眠可能な機械として認められれば、ソナトネの契約書は反故とになり、・ほんやりと宙をみつめている。ギャラガーは屈服したロポ なり、無効と宣言されよう。 ットの側のべンチにすわった。ェア ・・ハンが離陸する。 リソン 「どうだ ? 」 ギャラガーは受像機を始動させた。今のところまだ、ハ ・フロックは人を魅きつける政治的手腕を持っている。その日は審問 「ご勝手に。すっかり気が転倒してしまった。そうでなきや、あん 会が開かれる予定だった。だが、いったいどうなることやら、神と たに催眠術をかけてやったのに。ちゃんとできたんだ。大みたいに吠 弖ホットのみそ知る。 えながら、そこいらじゅう駆けまわらせることだってできたのに」

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「スタジオは夜でも開いているのかい ? 」 退場。ギャラガーは閉まったドアに、そっとロ笛を吹 ギャラガーはウェイターに尋ねた。 「そうですよ。とにかく、どれかは開いています。無休。フログラム 「わかっていたたけますかしら ? あれは契約中なんですよ。あれ ですよ」 は契約を破棄したいって言ってるんです。そうすれば、ソナトネと 「食堂は満員たな」 契約できますからね。沈没する船はネズミに見放されるというわけ 「空港も混んでますよ。おかわりは ? 」 ですわ。シル・ハーは暴風雨標識を読みとって以来、頭を振りたてて ギャラガーはくびを横に振り、外に出た。プロックがくれたパスるんです」 のおかげで、門の中に入れる。ギャラガーはまず、大立物のオフィ 「はあ ? 」 スに足を向けた。プロックはそこにいなかったが、大声が聞こえ 「おかけになって、タ・ハコでもいかが ? わたしは。 ( ツツイ・プロ た。女性のかん高い声だ。 ック。父がここを牛耳ってるんですけど、かんしやくを起こしたと 秘書は「しばらくお待ちください」と言い、テレビ電話で連絡しきはいつでも、わたしが調停に乗り出すんです。ご老体はトラ・フルに た。ほどなく「お入りになりますか」と声がする。 がまんできないんですわ。個人的な侮辱だと受け取ってしまうんで ギャラガーはそうした。オフィスの内は、甘ったるさと機能本位す」 と豪奢さとが同居していた。壁がんに立体スチール写真がすらりと ギャラガーは椅子をみつけた。「すると、シを ( ーは寝返ろうつ 並んでいる。ポックス・ビーの大スターばかりだ。興奮しているてんですね ? 他には何人ぐらい ? 」 小柄な・フルネット美人が、デスクを前にすわっている。その反対側「そんなに多くはありません。たいていの人たちは忠実です。で には、・フロンドの天使がかんかんに怒って立っていた。その天使はも、もちろん破産ってことになると : : : 」 , ・、ツノイ . ・フロックは肩 ・オキーフだ。ギャラガ 1 はチャンスを逃さない。 「ヒヤをすくめた。「その人たちも、ケーキのために、ソナトネで働くで ハイボー ア、ミス・オキ 1 フ。氷にサインしてもらえませんか ? しようし。あるいはケーキなしでもね」 ルに入れて」 「ハハーン。ところで、おたくの技師さんたちに会いたいんですが シル・ハーはネコのようにギャラガーを見た。「あなた、悪いけね。拡大スクリーン研究のアイディアを、ざっと見たいんで」 ど、あたしは働いている身なの。それで、今、とても忙しいのよ」 「お好きなように。たいして役に立ちませんよ。ソナトネの特許権 ・フルネットはタ・ ( コを消した。「この件はあとにしましよう、シを侵害せずに、画面を拡大することは、あなたにもできないと思い レく 】。父は、このかたが見えたら、お会いするって、言ってたますわ」 わ。たいせつなことなのよ」 そう言うとパッツイはボタンを押して、テレビ電話になにごとか 「あとでいいわ。でも、すぐにね」 ささやいた。まもなくデスクのスロットから、背の高いグラスが二 ー 42

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ギャラガーは少し体を引きつらせた。「しないほうが身のためだ判事た。ギャラガーの知る限りでは、この判事はやかましやだが正 直者だ。はてさて、いったいどうなることやら。 ハンセン判事はギャラガーを見た。「正式の手続きで悩まされた 「しませんよ。わたしの体面にかかわる。ただここに横たわって、 自分に見惚れています。鏡なんかいらないって言ったでしよう。な くないと思います。あなたの提出した書類は読みました。本件は、 あなたがソナトネ・テレビジョン娯楽会社のある契約書に、サイン くても、わたしは自分の美しさを広げて見られるんです」 をしたか否かの問題にかかっています。そうですね ? 」 「あのな、これから法廷に行くんだ。そこには大勢の人がいるそ。 みんな、おまえを誉めるそ。おまえがみんなに催眠術をかけてみせ「そうです。判事どの」 れば、よけいに誉めるたろう。ほら、トーン父子にかけたみたいに 「この事情の下に、あなたは法的代理人を忌避する。そうですね ? 」 だ。覚えてるたろ ? 」 「そうです、判事どの」 「どんなに大勢に誉められたって、それがどうしたって言うんです「では、これは職権により、のちほど両者ともの要求かどうかを、 ? 」ジョーは尋ねた。「わざわざ確認するまでもありません。たと訴えにより確認することとなる。さもなければ、十日後に評決が下 え人がわたしを見たとしても、それはその人たちが幸運なたけでされる」 す。さあ、静かにしてくたさい、その気になれば、わたしのギアが この新形式の非公式法廷審問会は、最近一般化されたものだ。時 見えるでしよう」 間の節約であると同時に、全員が疲れすにすむ。そのうえ、最近の いくぶんか弁護人の評判を落としていた。予断と ギャラガーは目に憎悪をくすぶらせて、ロポットのギアの動きをスキャンダルは、 眺めた。ェア・ ・ハンが裁判所に着いても、ギャラガーの暗い怒りは偏見のせいた。 、、リソン・フロいク おさまらない。ギャラガ : の指示に従い、ふたりの男がロポットを ハンセン判事はトーン父子に質問したあと , 裁判所の中に運び込み、判事室のテしフルの上に注意深く置いた。 に証人台に立つよう命じた。この大立物は不安そうたったが、てき ここで簡単な審議をしたあと、ロポット・ジョーは証拠物件 << と認ばきと質問に答えた。 定された。 「あなたは八日前に上訴人と契約を結びましたか ? 」 ミスター・ギャラガーはわたしのために働くと契約しまし 法廷はほ ' ほ満員だ。関係者も顔をそろえている。エリアとジミー ・トーンはいやに自信たつぶりだ。パッツイ・プロックとその父親「書面による契約でしたか ? 」 いいえ。口頭でした」 ・オキーフは、例によって「 はふたりとも不安そうだった。シ化ハ ハンセン判事は考え深くギャラガーを見た。「そのとき上訴人は 5 慎重そのもの、ソナトネとポックス・ビューの代表者たちのちょう どまん中に陣取っている。主席判事はやかましやで有名なハンセン酔っていましたか ? わたしは、いつでもそうだと確信しています

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「きみはいつも勝ち目のあるほうに賭けるのか ? 理想なんてない に、歩廊の下に透明なネットが張ってある。 倫理とか のかい、あばずれさん ? 真心ってものがないのかい ? トーン父子は美女ふたりと、天井の近くで飲んでいる。ギャラガ よンレ : 良心とか、聞いたこともないのかい ? 」 ーについてサービス ・リフトに乗ったが、上に昇るにつ シル・ハーはうれしそうな笑顔で言った。「あなたはどうなの ? 」れて、目を閉じた。胃の中のアルコールが反抗の叫びをあげてい 「ぼくは知ってるさ。ふたんは飲みすぎて、どんな意味だか、考える。よろよろと、ギャラガーはエリア・トーンのはげ頭にしがみつ やしないけどね。厄介なことに、・ほくの潜在意識は、まるつきり道き、その金持の傍にどしんと腰をおろした。手探りでジミーのグラ 徳感に欠けていてね。そいつが優勢になると論理こそが唯一の法にスをつかむと、大急ぎで飲みほす。 なるんだ」 「なんだ、この野郎ージミーがどなった。 ンレ・、ーまィースト・リ・ ーにタ・ハコを投げ捨てた。「どっち側「ギャラガーだ」エリアが説明する。「それにシル・ハー がとくなのか、ないしょで教えてくれない ? 」 うれしいね。いっしょにどうだい」 「真実が勝っさ」ギャラガーは敬虔に言った。「それが世の常だ。 「おっきあいするたけよ」とシルバ もっとも、真実というのは変わるものだがね。だから、スタートに 酒で勢いがついたギャラガーは、ふたりの男をじっとみつめた。 もどるのがいちばんいい。 ようし、かわいこちゃん。きみの質問に ノミー・トーンは大柄で浅黒く、突き出したあごと、いやみったら 答えてあげよう。安泰でいたかったら、・ほくにつくことだ」 しい笑顔の持主のハンサムな野暮男だ。その父親は、暴君ネロとワ 「あなたは、どっち側なの ? 」 ニとの、いちばん悪い面ばかりを組み合わせたような男だった。 「神のみそ知る。意識としてはプロックの側だ。だが、・ どうして気が変 ほくの潜在「お祝いをしよう」ジミーが言った。「シルバ 意識はちがう考えらしい。そのうち、わかるだろう」 わったんだい ? 今夜は仕事だと言ってたくせに」 シル、、ハーはなんとなく不満そうだったが、なにも言わなかった。 「ギャラガーがあなたたちに会いたいって。な・せだか、あたしは知 ェア・タクシーはキャッスル・クラ・フの屋上に急降下し、空気作用らないわよ」 で静かに着陸した。クラ・フそのものは階下にある。メンを半分に エリアの冷たい目が、ますます凍りつくようになった。「い 切って伏せたような形のだだっぴろい部屋だ。透明な歩廊の上にテろう。なんだね ? 」 ープルが載っており、随意の高さにシャフトを上げられる。ウェイ「ほくがおたくのある契約書にサインしたと聞きました」 ターは小型の給仕エレベーターで、客に飲みものを運んでいる。ど「ああ。ほら、直接複写した書類だよ・それでどうしたんたね ? 」 ういう理由で、そんなインテリアにしてあるのかわからないが、す「ちょっと待ってください」ギャラガーは書類を念入りに調べた。 くなくとも目新しい。また、これまでに、ヘべれけに酔っぱらっこ ナまちがいなく自分の筆跡だ・あのロポットのやつめ ! 客が、テー・フルから落っこちていたらしい。最近では、安全のため「これは偽ものです」とうとうギャラガーはそう言った。 こいつは 9

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ぶり厄介ごとがあるんだから。ま、おかけになって楽にしてくだね、すべてが澄みきって見えるんです。鐘のように澄みきって。あ さい。うしろにダイナモがありますよ。そんなに汚くないでしよれ、・ほく、鐘のようにつて言いましたよね ? とにかく : : : 」話が つづかなくなり、ギャラガーは途方にくれた。「とにかく、なんの う ? 」 お話でみえたんですか ? 」 「できたのかね ? 」・フロックはけんもほろろに言った。「知りたい 「少し黙っていられないんですか」ロ求ットが鏡の前に立ったま のはそれだけだ。もう一週間たった。ポケットには一万の小切手が ま、ロをはさんだ。 ある。小切手がほしいのか、ほしくないのか、どっちだ ? 」 ・フロックはとびあがった。・ キャラガーは無造作に手を振った。 「そりゃあ」と言って、ギャラガーは大きな手を差し出した。「く 「ジョーのことは気にしないでください。昨夜作ったばかりでね。 ・こさい」 ちょっと後悔してるんです」 「買手危険負担。わたしはなにを買うんだ ? 」 「ホットかね ? 」 「知らないんですか ? 」 、出来じゃありません。酔って作った 「 tl ポットです。だけど、しし 科学者は心底びつくりして尋ねた。 ・フロックは当惑しきったようすで、じだんだを踏み始めた。「あんですがね、どうやって、なぜ作ったのか、さつばり覚えがないん あ、もう、なんてこった。みんなにきみなら助けてくれると言われです。あいつのすることときたら、鏡の前に立って、自分を誉める アイルランドの妖精で、家 に死人があると泣いて知ら たんた。そうとも。それに、歯を抜くようにいとも簡単に、きみのだけなんだ。ああ、歌をうたうな。・ ( ) みたいにね。もうすぐ聞けますよ」 知恵を借りられるとも聞いている。きみは専門家なのか、それとる ようやくの思いで、プロックは話を核心に戻した。「さて、ギャ も、大ばかものなのか、どっちだ ? 」 ギャラガーは考えこんた。「ちょっと待ってくださいよ。ようやラガーくん、わたしは困っておるんだよ。きみはわたしを助けてく れると約束した。助けてもらえないと、わたしは破減だ」 く思い出してきた。あなたとは先週、お話したんでしたつけ ? 」 「きみは : : : 」・フロックの丸い顔が。ヒンク色に変わった。「そう「ぼくなんか、もう何年も破滅しつばなしですよ。べつに気にもな だ ! そこにすわって、酒をがぶ飲みしながら、詩なんかをぶつぶりませんがね。生活のために仕事をして、暇があれば物を作るだけ つつぶやいとった。《フランキーとジョニー》を歌ったそ。あげくです。ありとあらゆる物を作るんですよ。ちゃんと勉強してたら、 のはてに、わたしから手数料をふんだくったじゃよ、 第二のアインシュタインになれたんですがねえ。みんなもそう言っ 「実を言うと、ぼくはずっと飲んでるんです。しよっちゅう酔っぱてるなあ。たけど実情は、潜在意識的に、どこかで、科学の教育を らってるんですよ。特に休暇中はね。酔うと潜在意識を解放され聞きかじったというところです。たぶん、だからこそ、・ほくは悩ま て、仕事ができるようになるんです。興奮状態たと、いい装置が作ないんでしようね。酔ったときとか、放心しきっているときは、ど れるんでね」ギャラガーは楽しそうに話をつづける。「酔ってるとんなにややこしい問題でも解けるんだなあ」