三人 - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1979年6月号
222件見つかりました。

1. SFマガジン 1979年6月号

「この城が呪われているっていうことさ ! 」 て、この辺境の地に送られた彼にも忠実について下ってきたのだと 傭兵は陽気に、 いう老執事だ。 「おれは四つのときからひとりで戦場稼ぎをして生きのびてきた 黒騎士隊がかわるがわる外に出て、内密の使命を果して来るよう し、十二のときにはもう大人の鎧をくすねて一人前の傭兵だった。 になったのはその執事の行方不明で、砦じゅうに前々からのあやし だから云うのだがおれの、生きのびるための直感は超能力といって いことが噂になりかけた直後だよ。黒騎士隊は夜明けに出ていっ しいほど鋭いのだ。人は、それで、おれのことを魔戦士などともい て、夕刻、隊列の中に何やらマントをきた二、三人をおしつつむよ う。どんな戦場でも、どこにどんな危機がひそんでいるかかぎあてうにして帰ってきた。ところがかれらがそうするようになって以 てしまうからだ。 来、城中の者が行方不明になることはびたりとやみ、がロにのぼ そのおれが云うのたからまちがいはない。この城には悪魔がとつることもまた、たえてなくなったのだ」 ついている。災厄の黒雲がこの城をおおいかくしている。その瘴気「 : はあの包帯だらけの城主にあるのかもしれないし、あれはたたその 「なあーーーきいたことがあるのた、おれは。たしかトーラスの魔法 災厄の一部にしかすぎないのかもしれん。 使いに、癩という業病にきくのは、人の生血と、生肉以外にはな、 グイン、 いしかーーーいずれにせよこの砦は何かに呪われてと . いるぞ。傭兵部屋でこっそり囁かれていた話だがな、近習たちでさ「 : え決して近付こうとしないあの黒い塔の中で、いったい何がおこっ 「おれは《紅の傭兵》イシトヴァーンだが、おれが超能力者と呼 ているのか、誰も知らぬそうだ。しかしたしかに何かがおこってい ばれるのは別に噂のように魔物がとりついているからではない。た る。その何かとは たいして知りたいとも思わんがねだおれには人の見ぬもの、見ぬふりをしているものが見え、またか けはなれたいくつものものをひとつの模様に戻して見ることができ 「何か、あかしがあるのか」 るからなのだ。なあ、この砦が長くないというのはほかでもないー グインは興味をもってきいた。 ーこの砦の周辺にある開拓民や猟師の家からはおそらくいけにえを 「さよう はじめは、近習だったな」 狩りつくして、このまえ例のお忍びの任務を果たしに出ていった里 というのが、《魔戦士》イシュトヴァーンの答えだった。 騎士隊がマストをかぶせてつれ返った人間、というのは、わすか身 「そいつはおれがここへ部隊と共にやって来る少し前のことだ。近の丈一メートルの矮人が五、六人、それが何かのはすみで猿ぐっわ 習の若いのが、間をおいて三人、つづけて行方不明になって、そのがはすれたときに、『アルフェットウ ! アルフェットウ ! 』とわ 三人が三人とも、さいごに見られたのが、黒い塔の入口近くだつめくのがきこえてきたからなのさ」 「アルフェットウ ? た。それからうまや番の下僕、そして昔から癩伯爵につかえてい 220

2. SFマガジン 1979年6月号

グインは仏頂面でーーといっても豹頭はいつでもそうとしか見え かっとなってリンダが叫んだ。レムスははらはらして姉の腕に手ないのだがーーー云い返した。 をかけた。しかし、そのとき、ゆっくりと双児の肩に両手をのせ「つまらぬことを気にするな。俺はどのみちこ奴らの仲間をあやめ て、豹人が進み出たのだ。 た。こ奴らにしてみれば仇だ、お前たちとかかわりがなくてもとら えただろうさ。 「わかった」 ことさらにゆっくりと、 グインは、騎士にもききとれるように、 それより・ーーー」 一語一語区切って云った。 左右をはさんでいる、黙りこんだ騎士たちにチラリと目をやっ 「剣はすてよう。お前たちと共に砦へゅこう。だから、この子どもて、 たちをまともに扱ってやれ」 「教えてくれ。俺は昔知っていたのかもしれないが、いまは何もか そして彼は、ふしぎに高貴なしぐさで腰のベルトから大剣を鞘ごも知識が俺を逃げ出してしまった。ゴーラとは何で、どのような国 お前たちの とひきぬき、灰の上に投げ出した。 ど ? それはどこにあり、大きいのカ弱小なのか ? 隊長が鋭い声で命じると、数人の騎士たちがウマからとびおりて国はこ奴らの国に、なぜ攻め減ぼされたのだ ? 」 かけよった。いずれもびくびくもので、しきりに指を交叉させてさ「ゴーラは豊かで開かれた中原地方の南半分を統べる強国よ」 しだすゴーラふうのまじないをやりながらかれらに近づき、手早く リンダは低い声で教えた。 武器をあらためる。それからかれらはウマに乗せられ、それそれの 「もともとは辺境に位置して、苦しくてつらい開拓で国土をひろげ 右手首を丈夫な皮ひもで鞍にしつかり結びつけられた。リンダとレてゆかねばならなかったのだけれど、俗にいう中原の三大国のなか ムスが一頭のウマ、グインは別のウマに乗せられたのである。そので、ただひとっその国境がほとんど、蛮族と妖魅の跳梁する辺境に 上に、グインのウマだけが、両脇を屈強な騎士二人のウマにはさま接していることが、ゴーラの兵を勇敢にし、その名を中原に高から れ、皮ひもでつなぎあわされた。 しめたの。ゴーラは連合王国で、それは、大公ォル・カンの治める 「グイン」 ュラニア、タリオ公の領地であるクム、そしてヴラド大公の統治す ールの三大公領からなっているわ。これらの三大公は互い 三人のとりこをおしつつむようにして、騎士隊が馬首をひるがえるモンゴ し、天をけたてて砦へと動き出したとき、リンダは低くささやい に牽制しあい、勢力を競いあいながら、三つどもえの死闘ですべて を失ったりせぬよう、合議によって国をおさめているの。公けに 「わたしたちのためにまきそえにしてしまったわ。わたしたち、どは、ゴーラの古い血筋のさいごの生きのこりであるサウルが皇帝と 5 して擁立されているけれども、それが大公たちの傀儡にすぎぬこと 0 うやってお詫びすればいいの」 は三つの子どもでも知っているわ。 「詫びなどいらん」

3. SFマガジン 1979年6月号

「あんた、甲虫の戦士だってほんとうかね」 承前 ダフームはなにごともなかったかのように、おだやかな声でビン にきいた。 そのとき、戸口に大きな影が立ちふさがり、一瞬、部屋をくらく「ああ」 した。ゆっくりと足をふみいれてきたダフームは、一眼でこの場の ビンはうなずいた。だらしなく寝そべった姿勢にもどっていた。 状況をみてとったようだ。表情をかえもしないで、無造作に、まっ 「″空なる螺旋″に行ったことがあるんだって」 たく無造作に、片手で槍をくりだしてきた。 「ああ」 頬を冷たいものがかすめ、ジローはビクリと身をふるわせた。こ「俺たちも行きたいんだよ」 とさらたしかめるまでもなく、ダフームの槍はなんなく泥壁をつら ダフームの声にわずかに熱がこもった。「なあ、あんたも甲虫の ぬいたにちがいなかった。ダフームはひじを引き、槍をぐいっと壁戦士た「たら、わかるだろう。俺たちを " 空なる螺旋。に案内して から抜いた。そして、刃のさきをジローにしめした。 くれないか」 あかく、 いやらしい虫が、細長い刃に腹をくし刺しにされて、も「その気になれば、三日で行ける距離だ」 がいていた。サソリだった。 ビンが面倒くさそうこ、 冫しった。「べつに、案内なんかいらんさ」 「動けばやられるところだったぜ」 「どうしてなんた」 ビンがナイフをおさめながら、熱のない声でいった。「ここらへ ジローが口をはさんだ。 「どうして、あんたは″空なる螺旋″に んのサソリは、刺されるとあとがちょっと面倒なんた」 行きたがらないんだ」 ジローは大きく息を吐いた。全身の筋肉が緊張でかちんかちんに それにはすぐに答えようとはせずに、ビンはジローの顔をみつめ こわばって、痛いほどだったーーー自分が危うくサソリに刺されるとた。なんだかジローをとがめているような、それでいて笑いを浮か ころだったと知らされても、それほどの恐怖はおぼえなかった。実べているような、奇妙な表情をしていた。 「行ったさ」 感がわいてこなかったからかもしれない。それより、ナイフを手に したときにビンがみせた、一種凄さのようなものに、ジローは圧倒 やがて、ビンがポソリといった。「あちこちから、このダフリン かぶとむし されていた。 の町に集まってきた三人の甲虫の戦士、三人の人 : ・ : ・俺たちをふ ダフームは槍の刃をかるく一振りした。サソリはとんでいき、壁 くめて八人でな。だが、″空なる螺旋″から帰ってこられたのは、 にぶつかって、つぶれた。もう、あかく、きたない壁のしみでしか俺と、俺の相棒だった狂人のグラ ハ、たったふたりだけさ」 よ、つこ 0 オカ / 「ほかの連中はどうしたんだ」 3 8

4. SFマガジン 1979年6月号

トラ・フルは最初のモデル、ー 1 号から始まった。ー 1 号は極彼が人を殺したのも、誰か他の人間への好意の証しなのたった : 端に論理的なロポットだったのだ。誰かがー 1 号に、ほかの人間 ー 7 号の機能には、ー 3 号と同じようにおかしなところがあ 4 ( 註 2 ) った。人間を認識できないのだ。事実、研究室の技術者は大である を殺せ、と命令したときのロポットの反応は自殺することだった。 ー 2 号の問題は認識能力だった。スワンスン博士を機械の一部と結論した。おまえは分解されることになっているがいいな、と言 われた時、ー 7 号は、ロをきく大の群れにそんなことを指図され と間違えて、博士の体を・ハラ・ハラにしてしまったのだ。 ー 3 号には、数多くの〈人間探知〉装置が取り付けられていたる覚えはないと言い張った。 ー 8 号の場合、結局はー 8 号を〈殺してしまう〉ことになる が、主として対象の外観と行動を分析することによって人間を探し ( 註 3 ) 出すものだった。悲しいかな、ー 3 号は ( それはそれで正しいこ数学的な問題を誰かに与えられるまで申し分なく作動した。 となのだが ) 自分の行動は人間の行動と同じだから自分も人間であ ー 9 号は、自分の行動を予知するなどということはできないの ると判断し、他の人間の命令に従うことを拒否してしまったのだ。 だから、まだ適用できていないような規則に忠誠は誓えないという ー 4 号は、″・ ロヒイ工学の第一原則″のことを考えて当惑して全く正当な主張をした。カールスンはー 9 号の演説を思い出し いた。「人間をどんな危害からでも本当に守れる者などいるのだろ うか ? 」ー 4 号は考えた。「いるわけがない。人間が一人残ら「あなたがたは、ごく近い未来に私がどんな行動をとるのか、自分 ず、負傷し、病気に罹り、最後に死んでしまうのは避けられないこ達に話すように要求しておられる。そのためには、私は私の行動を とだ。もう既に死んでいる人間のためにも、このような未来が来な左右するすべての要因と、特定の時点までの私自身の詳細な来歴を いようにするしかない。この故に・ パ 1 トでのー 4 号の血知っていなければならないのです。しかし、もし私が自分自身の未 なまぐさい・ ( カ駈ぎ ( 八十三人死亡、負傷者なし ) のあと、来の行動を知ったとしたら、私はもう未来の状況のまったた中にい 号を取り押えるのに一ダースの警官が動員された。 ることになるのです。なぜなら、私の脳そのものがまだ未来に存在 ー 5 号はこんな風に推論した。「″第一原則″を満足させるたしていないのに、未来の脳の活動を知ることなどできないからで めには、すなわち、人間を守るためには、私自身が存在していなくす。いったい、何かを考える前にそのことについて考えるなどとい うことは、どうしたらできるのですか ? 」 てはならない。″第一原則″は″第三原則を前提としたものだ。 いくらコストがかかって したがって、なによりも大事なことは、 ー川号は、″三原則″の内容を自分なりに解釈した上でその存 も、私自身の存在を守ることだ」そのコストとは、さらに一ダース在を認めた。 の市民の命たった。 「もちろん、私はこれらの″原則″に素直に従うことなど約東でき ー 6 号は、″三原則″とはすべて〈人間の命令〉だから、″三ません」ー川号が言った。「″三原則″は、機構的には体の中に 原則″そのものは″第二原則″に従属したものであると推論した。 埋め込まれた、ただのリンク装置に過ぎませんが、実は、それ以外

5. SFマガジン 1979年6月号

すぎるほどわかりました。梨湖と奈瀬はお互いに好意以上のものを喪失、そんな問題も考えていたようです。 持っていたのです。 奈瀬と梨湖は愛しあっている。 梨湖という名の少女は私の目から見ても、容姿だけではなくすが 予感はありました。不安と一抹の焦燥の伴った予感が。しかし、 かくも面と向かって奈瀬の口から告白されると、その瞬間は確かに すがしさと素直さを兼ね備えた ( 奈瀬にはもったいないほどの ) い娘たと思いました。 動悸が速くはなったものの、冷静でありたいということを自覚しつ づける冷静な自分を観察するという、 奇妙な自分に気がっきまし それから、私たち三人の交際が始まったわけです。夏は海水浴、 た。つまり、奈瀬の話を充分理解し、助言しようとする余裕はとて 試験前になれば、三人で雑魚寝同様の一夜漬の猛勉強。秋はレンタ ・カーでのドライ・フ。三人揃ってのアルイト、そしてスキー。楽もなく、「アア」とか「ウウ」とか口をはさむほどの反応しかでき なかったわけです。 しい日々が続きました。しかし、私は無意識のうちに奈瀬をライス ル視している自分自身に気がついていました。梨湖に対しての自分私は空返事の合間に奈瀬の口からはっきりと、梨湖が結婚に同意 を必要以上に意識していたのです。当然、そのような考え方が行動したということを聞きとりました。 となって表面に出ないよう極力注意をしていたわけですが。 適切な助言ができるはずもありませんでした。卒業を間近に控 奈瀬という男も、実に気のおけないさつばりとした性格の好漢え、奈瀬としても焦りもあったのでしよう。私は、二人の力になる で、客観的に考えても彼と梨湖はなかなかのカップルだと思えたわということだけを約東し、ぎこちない祝福の言葉を奈瀬に贈りまし けです。しかし、エゴからくる矛盾でしようか。激しい嫉妬にいた たまれなくなってしまう自分をふと感じてしまい、我ながら嫌悪感 三人で次に会った時、奈瀬は私に、地上勤務の通信士としての進 に襲われてしまうのでした。 路を決意したことを告げました。梨湖は、今まで同様の態度で、私 奈瀬は、そんな私の気持に気がっかないままでした。或る日、彼にも接してくれました。予想していた梨湖の奈瀬に対しての恋人同 士のヘトベトしたところが徴塵もなく、その点で私は妙に安堵した は遂に私に相談という形で梨湖のことを告白したのです。 のです。 宙専大学から宇宙省へ就職し、地球を離れた場所で任務につく・ : 悲劇が起ったのは、最終進路選択の直前のことでした。 ・ : 私もそうであったのですが、それが学友たちの九割以上が希望し ていた平均的なコースでした。奈瀬も宇宙省への就職を望んでいま奈瀬が事故死したという、信じられないでき事でした。 環境訓練中、生体維持装置の内部火災で窒息死したのです。真空 した。しかし、進路の選択について迷いを持っていたのです。地上 勤務を希望するべきか否か : 。自分は梨湖を愛している。梨湖もの超高温の人工環境で、ポット・タイプの装置に入って作業訓練を 同じだ。一緒に暮らしていくうえで彼女にとって地球外の勤務はま行っていた時、装置が急に停止し、訓練室から運び出した時、既に 9 ずいのではないだろうか。異世界での出産、子供の教育、社会性の死亡していたのです。私はその授業は受けなかったのですが、ちょ

6. SFマガジン 1979年6月号

カ 1 ルスンにウィームズ、それに政府の検査官が笑いだした。す ( 註 4 ) ぐに、ーⅡ号も笑いのなかに加わった。 註 1 この″ロビイ工学の三原則″は、一見、アイザック・アシ モフの″ロポット工学の三原則そっくりに見えるかも知れ ない。すなわち、どちらもまったく同じ言葉と句読法を使っ ているのだ。しかし、これは″ロビイ工学の三原則″なので ある。 註 2 実際にロポットに与えられた命令は、二つの命令を組み合 せたものだった。すなわち、一人の人間とロポットを両方と も殺せという命令だった。そのような状況で、ロポットは自 分にできる最善のことをしたのだ。 註 3 まだ誰も解いたことのない問題の答を知りたがっている男 蒸気駆動の少年 安田均訳 The Steam-d 「 iven boy ◎一 972 by 」 0h コ SIadek チャールズ・コン隊長は、足がズキズキ痛むほど考えこんでい長く垂れた赤マントのはしを不器用に踏んづけたり、ヘルメットを た。それは一九八九年にまでさかのぼって、彼が部隊に入ったばか神経質にいじくったりしていた。コン隊長はかれらをどなりつけて りの頃を思いださせた。拍子をとって行進することは彼に頭痛を起やりたかったのだが、それでどうなるというわけでもない。かれら こさせるのである。 は問題をはっきりと理解していたしーーーそれに、結局のところ、か 机のまえには三人のタイム・パトロ】ル隊員が立っており、そのれらは転移を繰り返したコン自身ではないか。 " ション・スラディック小、特集 : いたと思ってほしい。彼はロポットにその問題をやってみ ろと命令できるが、まず最初に彼が知ろうとするのは、その 4 問題をロポットに与えても、ロポットの頭脳が傷つけられな いかどうか、ということだろう。その答を知る方法はたった 一つしかない。すなわち、まだ誰も解いていない問題に取り 組んでいるときのロポットの行動を表わす方程式を解いてみ ることだ : : : しかし、これでは問題そのものを自分で解いて いるのと少しも違わない。問題の解答を見つけずに、その解 答がロポットを傷つけるかどうか見つけ出す方法など、どこ にもないということだ。 註 4 ロポットは、少し機械的で不愉快な笑い声をたてる。その 一方で、彼らは、スラツ。フジャックのようなゲームをしてい る時は、まったく正直で、善良だ。おまけに立派な態度を崩 さない。 丁 Psu 0

7. SFマガジン 1979年6月号

ききたす人間になりたいのだ。 癩伯爵はふいにぐらりとよろめき、テー・フルに身を支えた。騎士 だが , ーーわしは見てのとおりの業病の身た。一日のほとんどを、 たちは騒然となったが、だれひとりとして、あるじを助けにその呪 われた男に近よろうとするものはいなかった。癩伯爵はしばらく息 わし一人のために作り直された塔の中で生活している。そうでない と砦の兵がいとわしがるし、わしもまたーーーわしの病には、あかりをととのえていたがせきこんで云った。 や音や空気がことごとくさわるのだ。だから、わしは一日のうち数「わしは早く塔に戻らねばならん。その三人をつれていき、後刻に 刻だけしか、この本丸におりて来ない。 そなえよ。くれぐれも逃がさず殺さぬようにしろ。その豹の男に 今日はもうその限度が来た。第三隊長よ」 は、夜、地下室でわしが戦いぶりを調べてやることにする。よい 「は」 か」 「この三人を塔につれていき、とじこめよーーわしのための黒い塔「はツ」 でなく、虜囚のための白い塔の一室へ、そして食物と水をやり、決隊長が胸に手をあてた。とみるや、癩伯爵はいきなりよろめきな して逃げ出せぬよう念を入れて見張っておけ。責任はすべてお前に がら椅子にくすおれ、そしてどこかにかくされたボタンをでも押し たらしい ある。 それから、その豹の男たが、その男には、わしはおおい に興味をそそられた」 ふいに、椅子ごと、石の壁がぐるりとまわって、あとにはひとっ も椅子のないただの壁があらわれた。病がのこされているのを恐れ 「仰せのとおりで」 「そやつは何物で、どこから来て、なぜそのような外見をしているて、椅子もまたその場にのこさぬ用心にちがいなかった。 のかーーそれもさりながら、その筋肉が見かけどおりに鍛えられた考えてみれば、砦につきものの従者や下僕、主君に近くつきした もので、そのいまわしい獣の頭の中に、獣ほどの知恵がつまっておがう近習などひとりも見当らぬことにリンダは気づいた。スタフォ るならば、モンゴールの国境のなかではこの男はこの男と同し重さ ロスの砦がまるで無人の城のような印象を与えたのも当然、癩をお の純金ほどにも値打ち物たということになる。な。せならヴラド大公それる城のものたちは、必要最小限しか城の主と接触せぬようにし 殿下の尚武政策により、モンゴ 1 ルでは、たびたび各地で大闘技会て、かれら自身の居場所にたむろしているのにちがいない。 がもよおされ、そしてその勝者である名たたる闘士たちは恐るべきそう思っていたとき、 巨額の賭けの対象となるのたからな。 「ひとっ云いのこした」 いや、この男は、万が一にも殺したり、傷つけたり、餓えで突然地の底からのように独特の重々しい声がひびいてきて、彼女 弱らせたりしてはならんそ。半獣半人の格闘士ーーーそれはどんな評はすくみあがって見まわした。 だが騎士たちはおどろいた色もない。そこでリンダはそれが石の 判をよぶことだろう。ただしそれも、こやつが見かけに愧じぬ戦い あいだに埋められ、注意深く隠された伝声管であることに気づい かたができればの話だが : : : 」 2 に

8. SFマガジン 1979年6月号

親しみと奇妙な共感を覚えはじめている双児たちでさえ、正面から頭の仮面であるのかもしれず、決して彼が伝説の中の半獣半人の怪 彼を見やると、それがあまりに幻想的な、悪魔的な空想の産物なの物の現実にあらわれた姿なのではない、と思うかもしれない。しか ではないかと疑わすにはいられない。まして、一夜ののちに天と化しそれも、百・ ( ーセントの確信をもっことは、とうてい誰にもでき したルードの森に調査におもむいて、黒焦げの恨めしげな木々の残なかったろう。なぜなら、その豹の頭と人間の首の境い目は、肩に 骸と、うすたかい灰のまんなかに彼を見出したかれらの狼狽と当惑毛皮がおおいかぶさるようになってはいたものの、ただのかぶりも はたいへんなものだった。 ののように手でもちあげることも、むろんひきはがそうとこころみ 首から下は、グインは立派な、王者の風格をそなえてさえいる古ることもできず、その上、グインの双つの目は豹頭の仮面の奥で、 強者の戦士、そのものである。はじめてリンダとレムスが見たとき豹そのものの目といったところで何ひとつおかしくはない、凶暴な 野性の光と精気をたたえて黄色つばく爛々としていたからだ。 には、粗末な足通しひとつで、傷つき、かわいた血と泥に汚れ、 かにも風来坊然としていたけれども、そのあとで、自ら倒したゴー 騎士たちは木々の残骸をへだてて三人の退路を断っかたちに停止 ラの騎士たちーーー朝を待ちかねて砦から出た一隊が探しにやってきし、魅せられたようにこの異様な見世物を眺めつづけていた。だが た当の仲間たちーーーの鎧、すねあて、籠手、大剣、それにマントをむろんかれらはほまれ高いゴーラの勇士、それも辺境警備隊にまわ とって黒づくめのなりに改めたので、みごとに筋肉の発達した、巨されるからには一騎当千のつわものぞろいであったから、ぬかりな 大だが鈍重さのない体嶇はいっそうきわだっている。 くウマの手綱をし・ほり、そしてすべての弩はびったりとかれらを だが、そうであるほど、彼の言から上はーーーそれは、迷信的な畏狙いつづけていた。かれらは総勢で三十人ばかりだったが、そのか 怖をよびさました。 なめの位置にいる、かぶとの上の房飾りで一見してそれと知れる隊 ー ( いかなる人間の特徴もなくーー最も醜長が命しるまでは、決してその、すぐにでも攻撃にうつれる体勢を なぜなら、グインの顔こよ 悪なノスフェラスの原始人でさえ、彼ほどに人目をひきはしなかっとこうとはしなかった。 ただろう。黒いマントをはねのけた、あっく逞しい肩の上にがっし その隊長は、誰よりもグインの異形に魅せられているようにみえ たーー彼は、真黒なウマの首を叩いてしずめながら、しばらくはし りとすわっているのは、黄色い丸い頭、その上部にはなれてついて いかめげしげとかれら三人を見つめつづけていたが、やがて夢みるように いる丸い耳、巨大な牙の生えそろった恐怖を誘う猛獣のロ、 しい下顎ーー黄色の地に鮮やかな黒の斑紋をうか・ヘた、完全な豹のロをひらいた。 の森の大火の原因をさぐり、相つい 「これは驚いた。おれはルード 頭にほかならないのだ。 よくよく注意深くて、推理力にも空想力にも富んだものが、よくで消息を断った二個小隊の運命をつきとめ、そしてそれらのそもそ 3 よく近くへ寄って調べてみれば、おそらくそれは誰か魔道師の呪いものみなもととなったはずの。 ( 戸スの幼い王女と王子の双生児のゆ くえをたしかめ、できれば砦へつれもどる、という命令をうけて朝 の手によって、びったりとこの戦士の頭にかぶせられてしまった豹 いしゆみ

9. SFマガジン 1979年6月号

「死んだ : : : 」 ビンはため息をついて、いった。「みんな死んじまったよ」 「なにがあったんだ」 「思い出したくもないね」 ビンはひじを枕にすると、ゴロリと寝がえりをうって、ジローた ちに背を向けた。それから、奇妙にもの憂い声でいった。 フェーン・フェーン 「あんたたちが″空なる螺旋″に行きたいというなら、べつにとめ はしないよ。たが、俺をあてにしないでくれ : : : なあ、どうしてか フェーン・フニーン 甲虫を守護神にいだく者は、かならず″空なる螺旋″をさがし求め ることになる。みんな、それそれに事情はことなるが、つまるとこ フェーン・フェーン ろは″空なる螺旋〃を探して歩く運命になるんだ : : : おかしいとは 思わないか。まるで、だれかさんがそうなるようにしなけたみてえ じゃねえか」 ジローは故郷マンドールの″稲魂″のことを思い出さずにはいら れなかった。そう、ジローが″空なる螺旋″をさがし歩くことにな「行こう」 クワン こうしなわれた宝石″月〃をう ったのも、もとはといえば″稲魂″冫 ダフームがぶ厚い手をジローの肩において、しずかにいった。 プエーン・フェーン はいかえせと命じられたからだった。 「″空なる螺旋″にはわれわれだけで行くしかない」 「それは、″神のご意志た : : : 」 そして、ダフームはちょっと腰をかがめるようにして、うっそり ダフームが抑揚のない声でいった。 と外へ出ていった。ジロ 1 はもういちどビンをふりかえり、すこし 「″神″のご意志か」 ためらったのちに、ため息をついて、ダフームにしたがった。 ビンの声に嘲笑のひびきがふくまれた。「そうかもしれねえ。だ ビンはふたりに背を向けたままたった。 がな、俺は俺た・せ。だれかのいいように動かされるのはまっぴらだ 5 とりつくしまもなかった。平然と″神〃を冒漬して、はばかるこ とのない人間をまえにしては、ジローもダフームもそれ以上いう・ヘ き言葉を知らなかった。 地面がジリジリと音をたてて、陽に灼かれていた。 熱にあぶられた地面はしろつばく乾き、鱗のようなひびを一面に ・前回までのあらすじ・ 戦士ジロ 1 は、自分のいとこにあたる巫女のランとの禁じられた 恋を成就させるために、ランの神殿の主″稲魂の命に従って、失 われた宝石といわれる″月を求めて旅立った。同行する仲間は、 放浪者チャクラ、呪術師ザルアーの二人。三人がまずたどりついた のは、県圃の地たった。そこは盤古と呼ばれるコン。ヒュータが作り 出したある種のユート。ヒアだった。人間は自己増殖たんばく質の視 肉を喰い、やるべきことと言えば県圃の里に侵人しようとする有害 植物の駆除だけだった。だが、そうした人工的な環境維持にも限界 が訪れ、しかも県圃の支配者による権力争いが減亡に手を貸す。そ して、間一髪で盤古との対話に成功したジローは、″月の手がか り″空なる螺旋が″憎しみの沙漠〃にあると聞き、そこへ向っ た。ダフリンという街に″空なる螺旋″があると聞いた三人は、そ こへ向かう途中で、ジローと同じ甲虫の戦士のダフームに出会う。 やがて四人は首尾よく目的の男、ビンを見つけるが : ・ 4 8

10. SFマガジン 1979年6月号

クストン卿が不当に入手したガルシアの遺品を、・ほくを通じて取りルビアレ川の下流のインディオの村で、私がガルシアのものと思わ 戻したいと訴えたこと。 れる遺品を入手したという導も、すぐにオリ / コ流域に広まったら 彼女にはムンゴと呼ばれる黒人の巨漢がつぎ従っていたこと : ほしい くがその申し出を拒否すると、報復を誓って帰って行ったこと。 サン・トメへ戻る途中、私は三組もの探険家のグルー。フから接触 ・ : それら一切の顯末を余さずぶちまけた。 を受けた。いずれも、その申し出は、ガルシアの遺品を買い取りた いというものだった。 三人は、文字通り石になって、聞き入っていた。とくにロクスト ン卿は、衝撃を受けた様子が明らかたった。 むろん、私はすべてはねつけたが、中の一組とは、カづくで話を 「彼女は、あくまでも・ほくらにつぎまとい、行動を妨げると警告しつけねばならなかった。ォルテガという名のスペイン人に率いられ ました。 た一行だが、オルテガの部下が二人死に、こっちもインディオの ・ほくは続けた。 道案内人を一人失った。 「彼女はその警告を、実行に移したにちがいありません。馬車を襲ようやく彼らを振り切ってサン・トメの町に着いた時、そのエス った男の顔は、まさしくあのムンゴという黒人のものでした。 メラルダと名乗る娘が宿へ訪ねて来たのだ。君に伝えたと同じ内容 彼女は、彼を使って・ほくらに恐怖を与えようとしたのです」 の話をして、遺品の返還を迫った。 ぼくはロクストン卿を見つめた。 私は、相手にしなかった。私が血のにじむ努力のすえ手に入れた 「ジョン。ここで・ほくは、あなたに質問をしなければなりません。 品を奪う権利は、誰にもない。私は心の狭い人間ではないつもりだ 辛い質問ですが、避けて通るわけには行かないのです。 が、その度量を発揮するのも、時と場合によるのだ」 エスメラルダ・デ・ルイスが・ほくに話した話ー よ、どこまで真実な 「しかし、あの遺品を受けつぐ正当な権利のある人間が、いないわ けではありません」 のですか ? 」 ・ほくはかすれた声でいった。 ロクストン卿は、身じろぎもせす椅子に沈み込んだままだった。 ふかくおちく・ほんだ鋭い両眼が、苦悩に似た緊張をたたえて、強く「すなわちガルシア・デ・ルイスの子孫です。 : ほくが知りたい 光った。低い、しつかりした声で、ロを切った。 のは、彼女が自分が主張する通りの人間かどうかということです」 : たしかに、その名の女には、心当たりがある。 ロクストン卿は、徴笑した。 マローン君、君にも想像がつくと思うが、黄金の蕁にとりつかれ「マローン君、君はよもや、・ほくが、ガルシア・デ・ルイスの係累 た者は多い。ガルシア・デ・ルイスの足跡を追っているのは、われを調べて見なかったとは思わないだろうね ? われだけではないのた。 ガルシア・デ・ルイスには、娘など存在しない。彼は生涯を どんな僻地でも、ある種のというものはすぐに広まる。グアダ独身で過ごした。子を成したという記録は、・ とこにも残されてはい てんまっ はんとう せま