オージ - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1979年8月号
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1. SFマガジン 1979年8月号

観測が一般であった。 作員の仕事だ」 オージ = ールはきびしい声で、「それが ? 」とだけ言った。 「だれにも信じられない。ところが現実に彼らは、やってのけた。 〈奇妙な自信。ジャメー ( ザンコールとダリオとの間にある関係ゴー ・サイン一つで、この惑星は暗黒化する瀬戸際にあったのた。 連中の組織は巧妙だった。ギリギリまで気づかれなかった。なるほ 何らかの優位が、バザンコールに別の答え方をさせた。 , 。 彼よメ ど、我々の監視機構と治安能力は、彼らの狂気の安全装置とは成ら ンにき返した。 なかったよ ! 」 「市民。心理都市学者 ( = イ・ギャロウ = イのメクラボリス理論を オージ、ールの心に、痛みに似た思いが走った。「どうして、判 ご存知ですか ? 」 ったのだ : : : 」 オージ = ールはもちろん、知「ていた。「たしかーー・犯罪と狂気 ( まさか : の常時遍在こそ、より強大で致命的な犯罪と狂気の噴出から都市を「裏切りがあ「たのですよ、市民・ ( ラジ、デーラ。連中の一人が寝 救う必要条件である」 返って、我々に密告してきたのた」 ( ザン「ールがあとを引きと「た。「さらに、通常都市警察の監「誰が : ・ = ・」 視機構と能力は、その致命的な噴出を防止する安全装置となりえな しかし、その答えはオージ = ールには、もう判っていた。さっき の心理攻撃のあとで、バザンコーレ。、 ノカ覗かせた優越の感情が、やっ 部屋に照明がもどった。発作的な調光だった。目をほそめて、 と理解できた。オージ = ールは、自分が見たくないものから眼をそ ザンコールは続けた。 らしていたのを知った。 「ここに、〈都市危険罪〉という特殊法が在る ! アヴ = ロ = スの 「ダリウス・ ( ラジュデーラです。市民、あなたの弟さんが、この 小鳩のごとき全ての宇宙的秩序を否定する思想および集団は、抹殺呪わしい犯罪を未然に防いでくれた内報者、我《の英雄なのだ ! 」 しなければならない」 我慢しきれすにオージールは声をはりあげた。「いったい百人 ゼーレンは、スクリーンに映るメンと部下の問答を聞きなが の少年たちは何をしたのだ ! 」 ら、次々に手許にはき出される情報をさばいていた。 「都市の、いや惑星のすべての機能の破壊ーーその謀議と未遂だ。 彼の執務室である。直径百メートルほどの球形の部屋。壁面をス ・ = 気象 0 ントールの歪曲、人為的な衛星の摂動、それによる潮カクリーンで掩 0 た室内には、その監視をする、反重力椅子にかけて 変異、各都市の中央 = ンピ = ーターの惑乱、そして惑星管理を司る空中に回転している臨時の秘書シ = 〈ラザ ートーー・・ーアミイ 南北両極点にあるサンキロテイド基地の爆破」 リイ型アンドロイドがいるだけだ。 「百人の少年の手で ? 不可能た。百旅団の宇宙軍か、一万人のエ「 , シ = ーゼラ星ーー文明ヴ , ル , 。古代農耕文明か。当然、連 っ - 3

2. SFマガジン 1979年8月号

今の少女がダリウスに似ていたという訳ではない。それなのに、オ花が、この芳香の泉かもしれない。だとしたら、やはりフロレアル ージ = ールは、胸のあたりに何か劇しいものが湧きだし、それがこ市民は自らを鎮静させる必要を感しているのた。好んで文明のしる しの見えない、不便な生活を送っている彼らの、それは代償かもし み上げてくるのを必死にこらえていた。 れない。彼はとりとめのない考えをめぐらしながら、若い夜の中を 訓練された心身の統一と、職業的な内観の必要から、オージ = ー ただよい歩いた。 ルは常にゆるぎない自己抑制を保ってきた。にもかかわらず、彼は 初めての街の夜を、しかも、あてもなくぶらついて、まぐれに行 今、ようやく手すりで身体を支え、水銀のように流れたしてしまい 禺然ということ以外、 きついた酒場だった。だから、その出会いはイ そうな自分の心を、かろうじて意志のカで繋ぎとめていた。 考えられなかった。オージールは、地下におりる階段の途中で、 暗い時間がすぎた。 〈切株〉にスウィッチをさぐって、灯りをつける。歯をなきだして眼下のカウンターに見覚えのある姿をみとめた。肩に流れる漆黒の 笑いかけながら、兇天使が羽根の生えた腕をひろげてオージ = ール髪。迷彩服の袖に赤い記章。花狩人口ー = ングリンである。 を見下していた。彼は、横になったまま〈切株〉の幹についたポッ 階段の残りのステップをおりる間、オージ、ールはこの再会につ クスから水差しをとり、冷えた鉱水をのんだ。 いて考えた。彼は運命説を信じなかったし、〈偶然の神秘〉も信用 気持ちはすでに落着いていた。感情の整理に、こんなに暇が要っ たのは初めてだ 0 た。彼はダリウスと、もう五年会っていない。不しなか 0 た。しかし、テレバスである彼が気づかないほど組織的で 在の白い時間が長すぎたわけではなく、その間に彼の心を占めるダ巧妙な心理誘導を、。ー = ングリンが行なう理由は、どうしても思 、。問題はこれからいっかない。さらに、ロー = ングリンにと「ては、彼に会うのは今 リウスの部分が大きくなりすぎたわけでもなし 先、オージ = ールの孤独を、今や星よりもさびしいその孤独を、分が最初である。 かちあえる者が一人もいなくなったことなのた、と彼は無理に信し草原に立ち、まるでオージ、ールが凝視めている気配に促された た。意識の片すみでは、それが偽悪による強がりだと分析していたように、こちらを振り向いたロー = ングリンの、あの凄艶な姿を思 い出すと、この再会が何か特別なもののように感じられてくるのだ が、そうでも思わなければ彼はやりきれなかったのである。 ろう。思いすごしにはちがいなかったが、彼は、孤独な酒を飲む花 オージュールはため息をついた。 狩人の長のうしろを通りすぎ、カウンターの、不自然にみえないほ ( 酒でも、飲もう ) 何か忘れさせてくれる物が、必要らしい すいぶん甘い匂いどに離れた席をとった。 夜は若かった。うす闇の中に花の匂いがした。・ で、けれども、度を越して嫌になる香りではなかった。森のもっ神宇宙兵のズボンにスウ = ターという、こだわらない恰好の若い娘 がひとり、閑そうな様子でカウンターの中にいるだけだった。客は 5 秘な効果と同じように、計算されたものだろう、とオージュールは 思った。公園の中や、家々の入口にいくつも揺れている白い小さな何人もいない。彼がおりてきた階段の向うがアルコーヴになったカ

3. SFマガジン 1979年8月号

オージ = ールには信じられなかった。あってはならない事であっ惑星みどり上 ( 人間をのそくと ) 一番の高等生命〈草人〉は、花 月には〈花人〉となる。草人は、銀河標準成人男性とほ・ほ等身大 2 ある事情で、永遠に母星メシ、ーゼラへ帰れない身の上のオージで、頭のあるべきところに芽をふき花を咲かせ実を結ぶ。なぜ彼ら ひとがた ュールは、彼と同じ運命をともにするダリウスの一生を、何ひとつが人形をしているのかは、また解明されていない。しかし五百年 不自由や不幸のないように送らせようと、特にこの平安な星を選ん前、植民が行なわれる以前から、草人がこの惑星上に長い進化を経 て、存在してきたことは、様々の痕跡が証言している。彼らはカル で彼を住まわせたのだ。それなのに、このろくでもない暗く冷たい 宇宙の中で唯一最愛の肉親が、自分よりも先に死んでしまったとあシウム質の骨格こそもたないが、硬化した繊維管がその代用をつと って、オージュールの気落ちはひと通りではなかった。 め、その化石が出土して確かめられたのた。 空に映えた色がなくなり、大気は透きとおって、朝が完成した。 花月。夜になると、七つの月の光の下で、雌雄の花たちが交合す なにを読みとったか、ゼーレンもお喋りを中断して、窓枠に截られる姿がみられる。夜露にぬれて輝く花たちは、互いに抱きあい、花 た緑いろの地平を眺めいった。しばらくすると、ゼーレンは彼に眼弁を合わせ、新しい生命を創造する。 鏡状のサイトスコープをわたした。 「昆虫の媒介がない花人たちの愛は、抱擁によって結晶するので 「ごらんなさい。あちらです」男は厚い手をふって、窓外をさしす。と、ゼーレンはいった。宇宙のあちこちで見聞の広いオージュ ールも、ひたすら感じ入った。 「美しい話ですね。まるで、夢か、お伽噺のようだ . スコープをかけたオージュールに、五十倍率ほどの景観がおそい しかし、ゼーレンはそう聞くと、少し顔を曇らせた。「本当に、 かかった。目がなれると、ゆるやかに波打っ草の海に浮んで、鮮や そう思いますか ? ただ、美しいだけだとーーー」 かな色彩が彼の注意をひいた。 「花だ」彼は思わず呟いた。 今度はオージ、 1 ルがわからない顔になった。しかも、相手の思 「さよう。今は花月 ( 開花期 ) ですからな」ゼーレンはうれしそう念波が急にとだえたように、ゼーレンの心が読めなくなった。暗い に説明した。 意想の波が脈のように、搏っている。オージュールは、突然、自分 「あの花は動いているように見える」オージ = ールはいった。「草の能力に自信をなくすような、妙に落ちこんた気分にとらわれた。 の波でそう見えるのかな」 押しだまるように葉巻をふかしていたゼーレンが、再びゆっくり そうではなかった。花は実際に動いていた。オージュールはス・コ と手をのばして、窓外をさした。 ー。フをずらすと、ゼ ] レンの方を見た。 「では、あれを見てみなさい ! 」 「あの花は人の形をしている」

4. SFマガジン 1979年8月号

木立ちにかこまれた平地。かっては華美壮大を誇った庭園は無残較べた。「わざわざ蘇生させて、処刑すると思うか 「じゃあ、なぜ : : : 」 な廃墟であり、月だけが明るく照らしだすデュジャルダンに、今、 「助けた、というのか」オージュールは、あたりを見わたした。 澄んだ響きをもっ旋律が流れていた。 「なあ、ダリオ。俺たちはみんな、この美しい星の客だったんだ」 もう森へなんか、行かない 彼は。フレスレットを外して、腰をかけている、倒壊した石柱の上 あの薔薇の木は、とうに伐られて においた。 さみしいものを : 「ローエングリンは、彼の世界に帰ったよ。 : : : 俺たちも、おいと 聞きなれたメロディに意識がすがりついた。 クラックも何もない、三千丈のぬらりとした岩壁に、彼は蠅のよまする時間だ。 うに止まりついていた。自分でも焦れ 0 たいほど着実に、そこから長く感じたこともあ 0 たが、とても短い期間に、さまざまな出来 事が起ぎた。すでに終った事もあるが、まだ続いている事もあっ 一歩一歩、にじり上がっていくのだ。 目は、すんなり開いた。からだを清拭したらしく、薬品の匂いが かすかにした。ダリウスは全裸で、透明なカプセルの中に寝かされ「オージ = 」ダリウスは、ひたむきな目の色で彼を見た。「あなた は何と、証言するの ? 」 ているのだ。それが蘇生機械であることは、彼も知っていた。 連邦法廷における全ての銀河市民は、真実を語る権利と義務 : 似合いの廃園、デュジャルダンだ ) ( 天国じゃない : カプセルのすぐ頭の側で、彼に背を向けた人影が楽器を鳴らしてを持つ。 ( 銀河憲章 ) 彼は弟を見下した。「見たとおりの真実を」 : オージュ ! ) 「その真実の中で、・ほくの位置は ? 」 ( ジラフ : : : もう森へなんか行かない : オージュールはスティックをとりあげて、短いメロディを追っ オージュールはふり返って、ダリウスを見やった。 た。やがて、彼はいった。 「ほっ。生き返ったな」彼は笑いかけた。 ダリウスは眼の奥が熱くなって、反射的に顔をそらした。意図し「俺の仕事では、物事はいつも二つの貌をもっている。 : : : 俺は好 ましい真実しか語らない。そしてダリオ、おまえに関するすべて ないうちに心を鎖している自分に気づく 「どうした。死に損ねて不服か ? 」オージ = ールは左にもったステは、だれにとっても不快な真実だ」 ィックで、カプセルの表面を叩いた。その手首に、・フレスレットが ダリウスはきつく目をとじ、深い息を吸って吐息とともに眠りに 墜ちた。涙があふれて、髪に流れた。 鈍い光沢を放っている。 「うつの ? 」ダリウスがいった 次に目ざめた時、彼は自分の肉体と心が、快方に向いつつあるの オージ = 1 ルは笑いを消して、・フレスレットと弟の顔を交互に見を感じた。優しい死の女神の抱擁から身体をほどいて、ふたたび苛 6

5. SFマガジン 1979年8月号

オージュールは相手の心を読んで破顔した。 「ありがとう」 オージ、ールは右の掌を紙に接した。ジッと微かな音がした。彼「そのまえに、あなたは疾病の原因を見きわめるはずだ。ダリウス ハラジュデーラは死んではいない。百人の少年たちもた。さあ、 は掌を返すと、いった。 「これが、私の身分証明書です」 私のダリオはどこにいます」 白い紙の上には紋章が焼きつけられていた。正面からみたレンズ透明な厚みをもった光る床が、清流のようにつづく、広くほそ長 オンディース い部屋。その川床に水精の卵が三つ、転がっている。透きとおっ 状の銀河系宇宙に、翼ある蛇がからんでいる、図象たった。 銀河連邦捜査局は連邦政体に直属する司法機関であり、その任務た卵の中に、全裸の少年のからだが封じこまれていた。 は連邦犯罪の捜査である。しかし局長ヴァルギュール・サムスの暗地下数百メートルにあるフロレアル市の管制局に、オージ、ール は立っているのだ。形のみえない機械にかこまれて、それは、非情 黒の意思の下に、全銀河系を監視する連邦政体の兇眼でもあった。 その局員 いわゆるメンは、銀河市民を広域宇宙犯罪から守るな静けさに浸る殿堂である。その査問用の一室で、三人の少年たち ことから、反連邦主義の疑いのある惑星政府を覆すまでの、幅ひろは、かすかに青みがかった培養液の中に浮かんで、羊水中の胎児の い活動を行なっている。 姿態をぬすんでいた。その表情は一様におだやかで、天使の眠りに オージュールは鋼のようなまなざしで、小さな星の小さな町の署見えた。しかし : 長をみおろした。そして、徴笑した。 〈とざされ、渦をまく恐怖と苦痛の思念〉 バザンコ 1 ルの表情に変化はなかったが、その内面は純粋のおび オージュールには判っていた。 ( コクーンの神経拷問機械だ ) えで凍りついた。目の前の若僧が、あの広大無辺な宇宙に絡みつく 。、サンコーレ・、 ノ力しった。「ご安心を。ダリウス君ではありませ 兇々しい竜の、一本の手先なのである。 ん」 メンはブレスレットをかざして見せた。 「三人とも平和な顔だ : : : 」オージュールは・フレスレットの明減を 「そして、これが読心機。あなたは嘘をついている。私には、それみた。「たが、心には声なき絶叫がある」 が判る」 突然、バザンコールが笑いだした。オージ、ールは苛立たしげに 彼は傲然と目線を窓外になげた。「美しい町ですな。町全体がよ説いた。 「なぜです」 く手入れされたひとつの庭園のようだ。ここには雑草も毒虫も見え ない。そうでしよう、署長。あなたは腕のいい園丁らしい。繊細始まったのと同じくらい唐突に、笑い声がやんだ。その時、オー に、そして大胆に刈りこむ ! 」 ールからよみとった。 ジュールは新しい感情を、バザンコ 〈親和カ・・ : : 〉 ( 病み枯れた枝は、切って焼きすてなければならないのだ ) 0 ・

6. SFマガジン 1979年8月号

色した火焔があらわれ、あたりは、銀河の中心に似た密度の明るさ「彼はふたたび裁きをうけました。結果はーー・許されたのか、刑が となった。 いっそう苛酷になったのか、だれも判らない」 オージ、ールは手も足もでないまでに魅せられて、この異世界 ( 花刑法廷 : : : ちがう世界の、ちがう法 ) の、なにか恐しく荘厳な儀式を、凝視めつづけた。 オージュールは、花の心に訊いた。〈君たちーーー花も、その次元 そこは、花園だった。宝石のように美しい花が咲きほこる、違うから来たのかい ? ローエングリンと同じ世界から来たのなら、彼 宇宙の花園だ「た。花のひとつひとつが、燃える炭火の魂をもっての刑が絶 0 た今、なぜ君たちは呼びもどされないんだ ? 〉 いた。突如、 / 彼らは一斉に、花園の中心で燃えさかる存在を讃美す「花の中の花、花の王たる王 ( 神と称んでもいいです ) は、〈彼〉 るコーラスを叫んだ。心を聾し、理性を盲らせるほども熱い、魂のを裁き、その魂を流刑しました。花狩人口ーエングリンの肉体は、 叫喚だった。 〈彼〉の仮象です。この世界の実在であるよりは、むしろ〈彼〉の ローエングリンの肉体は燃えっきて、ギラギラする心だけになっ影にすぎないのです。 : : : 私たち〈花〉は、ローエングリンが受け た。その時、花園の中心で燃えさかる存在が、ローエングリンを呼た罰を具体化する刑務官であり、同時に彼がうけた刑の、不幸な対 びよせた。コーラスは嵐のように高まった。 象でもあったわけです。私たちは誰の影でもなく、この世界の初め 今や花園は光子炉より灼熱した、火と光の海だった。ローエングからの実在であり、〈彼〉の刑期が終了しても、〈彼〉の世界、花 リンも、中心の存在も、花々も、渾然と融合して燃えたけった。 の王たる王が統べる世界に召奐されることはないのです」 そして一切が突然、消えた。スウィッチを切ったように、おそろ オージ = ールは夜と向き合って、長く黙っていた。やがて顔を起 しく唐突に暗転し、何もかもが消えてしまった。 こすと、不意に頭に閃めいた詩句を、そのまま口ずさんだ。 いけにえ 眼も心も灼きつくさんばかりの熾烈な光に眩んで、しばらくの ・ : 我は犠牲にして刑吏 間、周囲は余色の闇に沈んだ。目がなれてから、オージュールは天 傷口にして刃 を仰いだ。第六衛星は、変哲もない、もとの大きさにもどり、夜空 我は平手打ちにして頬 の定められた軌道を運行している。 そして己が心臓の吸血鬼・ : 「それは ? ー花が訊いた。 オージ = ールは、自分のものではないような不確かな足取りで、 ローエングリンが最後に立っていた辺りに近づいた。深紅の薔薇の〈古い : : : うたさ〉昇ージ = 1 ルは星空に眠をやって、呟いた。 一輪でも咲いていれば、どれほど安心したろう。しかし何もなかっ 「とても、古い た。ローエングリンが存在したという証拠は、どこにもなかった。 「今のは、なんだったんた ? 」彼は花を振り返って訊いた。 BACK TO MET 工 USELAH 〈花刑法廷テス〉花は応え、そして言葉で補った。

7. SFマガジン 1979年8月号

烈な生の世界に帰ったのだ。 しかし、俺が仕事でやむをえない量の血と悲鳴を流させても、俺の 心は痛みを感じない。一度植えつけられた認識の方法は変らない。 オージ、ールは力。フセルを開いて、ダリウスを抱きあげた。素肌我々がメシ = ーゼランであるかぎり、どんなに母星から遠くに在 0 が夜気にふるえているのを見て、自分の「ントを肩にかけてや 0 ても、これは誰にも変えられない特性なんだ」 た。手の下で、小さい肩が震えている。よみがえったダリウスは、 「でも、メシ = ーゼラを変えることは、できる : ・ : ・・ほくが」 まるで病気の仔猫さながらに弱 0 ていた。突然、オージ、ールはダ「なにを愚かなことをいいだす ? 」 リウスが、途方もなく愛おしくなった。彼は、怯えたように、 「ぼくがメシ、ーゼラに行けば、あの星のしくみの全ては変わる」 と手をダリウスから離した。 「星の上空は連邦の殺人衛星でいつばいだ。それを突破しても、メ ダリウスはントの前を固くあわせ、俯いたなり、蘇生機械のカ シ = ーゼラでおまえを待っているのは、〈淘汰〉による確実な死だ」 。フセルに、カなく腰をおろした。 「〈淘汰〉で、・ほくという存在が減んでも、ぼくの精神は消えな 「オージ = 」やがて、彼よ、つこ。 , をしナ「ほくがゼーレンを射殺したと 。無菌室のようなメシ、ーゼラでは、外の世界の知識と思考が、 き = = = 彼の心には、死の直前まで、ぼく〈の好意と、そして驚きと彼らを癒す毒になる。・ほくに触れ、ぼくを殺す瞬間に、あの砂の城 があった」 は崩れるだろう」 「人間的な、実に人間的な感情だね」 「たとえ可能でも、俺が許さん」オ】ジ = ールの心の底に、どす黒 「ぼくは彼に何をしたろう。 = = = 最初、彼を証人に選んでいた。あい怒りがわいた。「また死の女神の腕に抱かれたりないのか。それ なたが来たので、彼は殺すことにした。彼が生命にかえて守ろうととも故郷が懐かしいのか。ダリオ、くだらない。あんな星、変えて した星を踏みにじり、彼の生命さえも、奪 0 た。その・ほくを、彼はやるだけの値打ちもない。俺は、豚の惑星とひきかえにするため 好きにな 0 た。・ほくは彼の最期の瞬間に、みどり全土の市民をこのに、おまえを甦らせたのではないそ。おまえは今、一切の血と土の 手で減ぼす仕事や、彼の陥穽にはま「た恰好が可笑しくて、大笑い呪縛から自由なんだ。断じて、 0 まらなく死なせやしない ! 」 した。彼が驚いたのは、その笑い声が、残忍な愉悦であることだっ たんた。なぜそんなことに驚く ? 何が意外なんたろう。それよ その所在すら不明である連邦政体の、加虐の暗い触手であるオー り、どうして自分を殺そうしている存在を好きになれるのさ , ・オジ = 1 ~ が、だれよりも銀河連邦の理念を正しく解していたのかも ジ = 。あなたには、これが判る ? 」 しれない。 「判らない」オージールは答えた。「おまえは , シ = ーゼラ連邦の必要は、まず何千年と続いた〈宇宙の覇王〉をめぐる星々 だ。そして俺も。奴隷である人間に対しては、愛も憐れみも、そしの争いが、それは永続できないという冷厳な事実から、次第におさ て憎しみも感じない世界の存在なのだ。・ : : ・俺はおまえが好きだ。 まり、〈支配者〉に代る〈調停者〉が要求された時にはじまった。 2 6

8. SFマガジン 1979年8月号

志で苦難の途を選んたのです」 それは銃殺森林を見下す、あの丘陵だった。眼下に、もえあがる : ・ほくの時間は、もう残り少ない。でも、今、この瞬間に、・ほ く、ダリウス ( ラジ、デーラは、永遠の何であるかを知ってい森をにらみつけていたオージ = 】ルは、花の言葉に首を振った。 ( ちがう : : : ! ) る。 : さようなら、オ】ジュ。さようなら、市民ロ】エングリ メシューゼランならば精神波によって、肉体の回復がはかれるは ン。さようなら、花よーーー」 ずだ。しかし、ダリウス自身がそれを妨げたとしたら 最後の信号が花たちによって与えられると、十二都市内にある全 ( 奴は無意識に死を求めていたのだ ) ての植物は、メタモルフォーズを開始した。予定されたサインが新「許せんな : : : 」オージ、ールは呟いて、花を振り返った。「死体 は、どこにある ? 」 たに彼らの遺伝子の上に署名され、すべての有機的メカニズムが、 「どうするのです ? 」花は説きかえした。 ある志向をもって推進した。 夜光樹はその光源体を変容し、致死量の放射線を発した。一斉に「蘇生させる」 開花した古代クルミは哺乳動物の呼吸中枢を犯す、毒性の花粉を放「彼は希んでいないでしよう」 出した。 燃える森の光を背景に、オージュールの表情が兇暴にかげつた。 十二の都市と宇宙港は沈黙した。惑星みどりは瞬時にして死の星彼は、左腕をあげると、撃った。 と化したのである。 〈渦動〉は地面にクレーターを穿った。融解した鉱物の蒸気が青く 立ち昇った。クレーターの縁すれすれに、花の足がかかっていた。 森が燃えていた。 「おい。よく聞け、この、ろくでもない花びら野郎」オ 1 ジュール 夜光樹の光と花粉の色とで、まるで森は炎上しているように見えは感情を欠いた声でいった。「俺はおまえの感想なそ、聞いていな い。俺は銀河連邦捜査官で、あいつは俺の弟で、それがジュノサイ トの張本人で、しかも殺したのはこの俺だ。さあ、言え。奴の死体 ( あの時と同じだ ) ローエングリンは思った。 あの時ーーー。それはいつの事だったろう。彼は失われた記憶の断はどこにある ? 」 : デュジャルダンの廃園です」花は答え、かがんで、〈渦動〉 片をつかんだ。燃える森 : : : 。それが贖罪の鍵言葉なのか。別の世「・ : 界で自分が犯した罪とは、なんだったのか。狂おしい思いが大鎌との熱で焼かれた草の葉を両手につつんだ。草は蘇生できない。 なって、胸を裂いた。 花は立ちあがると、オージュールを向いた。 「市民パラジュデ】ラ」花がいった。「同志ダリウスの死は、あな「行く先を告げれば、あなたの乗り物が案内してくれるでしよう。 たに責任はありません。彼は、あなたの心理攻撃の後で、自分の意人間は減んでも、人間が造ったものは生きていますから」 7 5

9. SFマガジン 1979年8月号

た。これほど人の訪いを拒絶した領土はあるまい 埋れていた。四季の廻りは、こうまで荒廃したところにも、人工の ローエングリンが、この径路をふくめて、森をぬける通路を利用最後の遺産である改良種の花々を咲き乱れさせていたが、・ との花も しているはずはなかった。・ : 。 力とこかにあるたろう抜道を探す時間色ばかりあざとく、いじけたように小さい。野性に遠った風情のか は惜しい。オージ = ールは出方を絞った武器のたすけを借りて、タけらもなかった。 闇のおりた密林を進んだ。音もなく分解する繊維が、淡い色の霧と夜眼がきくオージ、ールは、この軽薄な花の湖に馬をすすめ、方 なって、彼のマントと髪を濡らす。 方に立ち崩れている彫像のひとつに手綱を結んだ。その時 やがて、建物が黒々と見えてきた。 「なにか、ご用ですか ? 旅の人」 ( エルべノンの館 : : : ) 声は背後からした。気配は全くなかった。人の思念を感知しうる 王族が夏に住んだ城としては小さい方なのかも知れないが、誰で男は驚いてふり返る。 あろうと、たった一人の人間が生活する館ではなかった。宏大で、 丈のながいロー・フをまとったローエングリンが立っていた。 しかも空虚な、まるで閉鎖されたホテルだった。 ッタの葉があらゆる城壁と鎧戸にからみつき、ほとんどの窓は閉 PRISON OF FLOWER めきりになっている。荒れ果てた庭園の池は、乾いて、砂と枯葉に 重版情報 ハヤカワ・ミステリ文庫 ハヤカワ文庫 SF/JA/NV/NF ・宇宙英雄ローダン ( 既刊 50 点 ) ダーノレトン、シェーノレ、マー丿レ ショルス、プラント、フォルツ 大宇宙を継ぐ者 Y340 ミュータント部隊 Y340 時間地下庫の秘密 V 3 00 六つの月の要塞 Y320 死にゆく太陽の惑星 \ 32 。 核戦争回避せよ ! Y320 秘密スイッチ X \ 320 超ミュータント出現 ! \ 32 。 ヒュプノの呪縛 Y320 消えた生命の星 Y300 赤い宇宙の対決 Y320 ( カバー・挿絵 / 依光隆 ) ・「デューン』シリーズ ( 既刊 8 点 ) フランク・ノ、一 / ヾート 砂の惑星田 \ 340 砂の惑星 Y320 砂の惑星 3 \ 460 砂の惑星 \ 420 莫の救世主 Y460 砂丘の子供たち田 砂丘の子供たち 2 砂丘の子供たち 3 Y40 。 ( カバー・挿絵 / 石森章太郎 ) 東京神田子挈ー 2 早川書房 4

10. SFマガジン 1979年8月号

オージュールは話題を変えた。 にあらわれた思考、つまり言葉とか表象とか、何らかの記号によっ 「あの機関車と、 しい、この星は面白い。主要都市に走路ひとつないて形をなした意識を解読します。理路のたった思考なら、スクリー んだからな ! 」 ンに映しだされた画像のように、我々はいながらにそれを知ること 「〈テラの休日〉を愉しむ人々のおごりさ。 : : : 懐旧趣味だよ」 ができる。しかし、エス。ヒオナージュの次元で読心機械が開発され 〈ダリオ〉オージ = ールは心の声でよびかけていた。〈おまえ、変て以来、我々は常に自分の考えを秘す方法を学習してきました」 ゼーレンはさえぎって、「ところが君は、オージュールに心を読 変化ーーーそれは母星を離れたメシューゼランが、メシューゼランまれてしまった。私は信じたくない。君を訓練したのは、私だ。し であることを諦める儀式である。 かし奴のいうことが本当だとすれば、あんなチャチな器具で、防諜 〈兄さんもね ! 〉ダリウスも短く、応えた。 の。フロである君の〈遮閉〉が、透視されたわけだ」 「たしかに、みどりはこの星域の有力者だけで占められた選良の居「オージ、ール自身がテレバスだったら ? 人間の意識の深層で、 住惑星だ」 まだ形を持たす、思考にもなっていない原形質のイデ 1 や、その志 〈しかし、俺が、ダリオ、おまえをここに住まわせたのも、それが向まで洞察し、その人間が〈考えてもいない〉思想をも見抜くこと 理由なんだよ : : : 〉 ができるのでしようか。いうまでもなく、これは機械には不可能な 作業です。しかし : : : 」 「テレバシー機械は」ゼーレンはいった。「新手の電波放送のよう「判らん」ゼーレンは首を振った。私は連邦政体の中枢近くにいナ なものでしかない。すなわち意志伝達の手段としてなら、それは音 ことがある。それでも連邦がエスパーを常傭いしているなどという 声を使うよりずっと効率が高い。コンヴァーターなしで、遙かに遠話は聞かない。連邦は高度に限定された官僚組織をほこっている。 距離を、一瞬に大量の情報を凝集して伝えることができる。相手が突然変異体のエスパーなら聞くが、エスパーの (..5 メンが存在するな 気づかないうちに暗示情報を頭の中に送信したり、潛在意識に信号ら、その供給路がなければならない。というと、それは種としての を植えつけることも可能た。催眠装置や薬物よりすぐれた効果がえ エス。ハーだ」 られる時もある。実用面では、諜報活動や行政の暗黒面でいくらも「超感覚をもっ種族はありえませんか。突然変異体が、やがて一定 行なわれている。しかし、それはあくまで〈確立された意味〉をやの進化形態となった種族です」 りとりするにすぎない」 「メシューゼラ星か」ゼーレンは顔を曇らせた。「危険だな。バザ 彼は執務室でバザンコールと向きあって坐っていた。署長は険しンコール君、・ ( ラジ、デーラの兄弟を厳重に警戒したまえ」 い表情で、ロ髭に手をあてて考えていた。彼は答えた。 「読心機械はアプリオリに不完全なものです。それは人の心の表面昼食のあと、ダリウスは自分の〈遺品〉をほどいて、中からジラ 5 3