仕事 - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1979年8月号
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1. SFマガジン 1979年8月号

ドルの金でも貸してくれそうな人間は、この中のほんのひとにぎり「はい。 しかし、ここでのぼくの仕事の重要性が、よく理解できな だし、ほんとの親友なんてひとりもいない。。 ・まくが突然こうなった いんです。自分の知らない情報を人にもらすなんて、できない相談 8 のかどうかはわからないけれど、気がついたのは突然たった。おやでしよう」 じはウイチタの屑物商だったし、・ほくは満足な教育も受けてない。 「よくある誤解だ。その重要性を理解できる人間がほかにいて、き 不適応者で、内向的で、不器用で、ふしあわせな上に、腎臓のぐあみがしゃべったことから万事を推測するかもしれんそ。どんな気分 いもおかしい。そんな男が、なぜこんな能力をさすかったんだろうだね ? 」 「よくないです。不安です。舌苔が生えて、腎臓がーーこ 町を歩くと、子供たちが彼をあざけってはやしたてた。アンソニ 「おお、そうたった。きみの腎臓を治してくれる男が、きようの午 ーはまえまえから子供と犬に健全な憎しみを抱いていた。この二つ後にやってくる。わたしは忘れたりはせんよ。そのほかに、わたし は、不運なものと不適応者をいびる点で瓜二つなのだ。どちらも群に話したいことはあるかね ? 」 れをなして走り、どちらも臆病なくせにつつかかってくる。人の弱「 いいえ、ありません」 味を見つけると、それをつかんで離そうとしない。アンソニーの父 ー大佐には、母親が子供にトイレヘ行きたくないかとたず 親が屑鉄商であったことは、彼をあざける理由にもなんにもならなねるような調子で、職員たちにその質問をする癖があった。そのロ い。だが、子供たちはどこからそれをさぐり出したのたろう ? も調には困ってしまう。 しかすると子供たちは、彼が最近さすかったあの能力のひとかけに そう、たしかに大佐に話したいことはあるが、彼にはそれをどう でも、恵まれているのではなかろうか ? 表現してよいものやらわからなかった。新しく備わった能力によっ たが、アンソニーは町を長く歩きまわりすぎた。もっと早く情報て自分が世界のあらゆる人間を知っていること、もともとあまり容 審査センターの仕事にもどるべきたったのた。彼が仕事をほったら量の大きくない自分の頭にどうしてそれだけの事柄をおさめておけ かしてさまよい出ると、センターのほうではいつもやきもきするのるのだろうかと心配なこと、それを大佐に打ち明けてしまいたかっ たか、この日もビーター ー大佐が彼の帰るのを待ちかまえ た。だが、アンソニーは嘲笑をほかのなによりも恐れている上に、 ていた。 いまは不安の塊だった。 「どこへ行っとったんだ、アンソニーフ しかし、ためしにちょっとだけ職場の仲間にしゃべってみよう、 「歩いてました。四人の人たちと話しあってきたんです。でも、情と彼は思った。 報審査センターに関わりのある話題はロにしませんでしたよ」 「ぼくはガルヴェストンのウォルター ・ウオラロイという男を知っ 「どんな話題だろうと、情報審査センターに関わりのないものはなてるよ」彼はアドリアンにそう話した。「もう定年で、いつもギズ 。当施設の仕事が機密に属することは、知っとるたろうが」 ーでビールを飲んでるのさ」

2. SFマガジン 1979年8月号

ならともかく。 「ばか言え ! 」 ◇ 工のそんな言葉に、ギドウは吹飛ばすような勢い あるときの、リ で答えたものだ。 ときどきリエは、間違っているのは自分のほうで、彼女がくりか いない恋仇「本隊もうそ隊もあるもんか ! 宇宙軍は宇宙軍で、おれ達やその えしくりかえしギドウを困らすのは、苦情というより、 にいきりたつような・要するに彼の「仕事」にたいする焼餅にすぎ兵隊ョ。もっとも、おれ達司法科は下士官たがナ。おめえは宇宙軍 いいか、この太陽系にはわれわれ てものをまるきり穿違えてるゼ。 ないのではないかと思うことがある。 地球人しか人間はいず、地球は一つの国家【つまり聯邦なんた。一 そうなのだ。 しくさ 幼な児じみた、じぶんの疎外にたいする憤慨】彼女に言わせればっきりの国の中には戦なんかねえし、尻が頬っぺたについてるう ( ル星人てなもんが攻めてくる宇宙戦なんそどこにもねえんだョ。だ ギドウはじぶんの仕事を「愛、しすぎている ばか言うな。一年じゅう、朝から晩がその代り、荒い宙外の自然の危険のなかへ人間の営みをすすめる 「愛してなんかいるもんかー っちか ぬすと まで盗ツ人ややくざ者を追っかけ廻してョ。、頂くものといっちゃ雀戦いのためには、われわれが数千年培った軍隊の能率と機動性がも の涙ほどのお給金がちょっぴりだ。糞でも喰え ! 好きこのんでやっとも適当たからしてこの組織があるんだ。宇宙都市のドームもふ くめて、市町村や大都会の自治警察が司法権をふるうことには弊害 ってる商売じゃねえヤ、保安隊の司法兵なんてものは」 がありすぎると決ってからこっち、検察庁は地球外では宇宙軍をつ 本人自身に言わせれば、吐出すようにこうしか答えない。それも さも忌々しそうな顔付でーー、がリエが視れば、その眼とロ許は幸福かうことになったんだ。それがおれ達の保安隊司法兵科で、ほかの 通信隊や輸送隊となにも違ったところはないんだ。ただ、ほかの隊 そうに輝いているのだ。 〈好きなんだナーー・・〉と思う。人の平和と安全を護ることは立派はそれそれの司令官の命令でうごき、おれ達は検察庁の依嘱でうご く、というだけのことさ」 な仕事だし、それに生き甲斐を感じてる男にすっと続けさせてやり 「そんな事は知ってるわョ ! 」 たいのは誰もおなじだろう。 でもそれでは私はどうなる ? 「知ってたら愚図々表言いなさんな、自治警察にや行政監督権しか 結婚して、ふるさとの火星の暖い ( ! ) 太陽の下で、畠をつくりねえんだからナ、違法を追求して悪党をフン捕まえるためにはおれ 子供をそだてる代りに、ドームの外には日光はおろか空気もない達が働かなきゃならねえんだ。おれ達や云うなれば昔の侍みてえな もんで、世間一統の人さんに代って危険をしようのはこれや仕事な 町 ( ? ) で、きようは怪我してきはしまいか、誰かの弾にあたりは しないかと、毎日まいばん瘠せる思いでその人の危険な仕事の帰りんだ」 をまつのは遣切れない それも、宇宙軍本隊の兵員と結婚したの「侍にしてはずいぶん柄のわるい人ばっかりネ。あんたでも、ヨサ 7

3. SFマガジン 1979年8月号

00 ねじこ→ S F 博士の証明 うちの研究所は研究以前の仕事が多すぎる。 今日こそ本来の研究に没頭したかった。まず 集まったデータの計算を片づけよう。時間も ないことだし、助手に頼むことにした。 「オモテとウラと、別々にトータルを出してくれ。 10 分位ててきるだろう」 かれこれ 2 時間はたっただろう力も助手カミ計 算室からうなだれて出てきた。 「せんせい、データを追ってゆくと、どうしても オモテ、ウラ合わせた数字しか出ないんて、、す。 計算機がダメだと研究以前の仕事て、時間 がかかるばかりて、すね」 助手の手にぶらさがっているデータを調べて 私はタメ息をついた。 「また 。ねじれてるじゃない力も キミなんだよ、わたしに研究以前の問題を 次々に持ち込んて、くるのは。キミも頭のねじれ を直しなさい」 ☆大切なものを手にしたら、目先のことにとら われず計画どおり目標に向って直進したい ものて、すね。ポーナスて、も、お役に立ちたい サンワて、す みなさまのお役に立つ 三和行

4. SFマガジン 1979年8月号

めてることも、部外秘要員たってことも知らないんだ。まあ、その 「はあ、そのことと、あなたのそれに対する反応以外は、ノーで うちに気がつくだろうがね」 す。なにも奇妙なことはありません。というより、これ以上に奇妙 ウエリントンに打ち明けようとしても、むだだった。ウエリント なことがあるのかと、ききたいぐらいですよ。でも、それ以外には ンは人の話に耳をかしたことがない。やがてアンソニーはビーター なにもありません」 ー大佐から呼び出しを受けた。大佐の呼び出しがあるたび「よろしい、アンソ = ー。さあ、 しいかね。もし、ちょっとでもな に、彼は落ちつかなくなる。 にか奇妙なことに気づいたら、わたしのところへくるように。どん 「アンソ = ー」と大佐はいった。「もし、なにかきみが異常と感じなささいなことでも、 しい、なにか場違いだなという感じがしたら、 たことがあったら、わたしに話してほしい。それがきみのほんとうすぐに報告するんだ。わかったね ? 」 の仕事なんだ、異常をわたしに報告することがな。それ以外の書類「はい、わかりました」 いじりの仕事は、手を遊ばせないためのものにすぎん。さあ、はっ しかし、アンソニーは首をかしげずにはいられなかった。いった きり答えてくれ、きみの気づいた中で、なにか異常なことはあるか 大佐がちょっとでも奇妙だと思うのは、どんなことなのだろ 「はい、あります」それから彼はこうロ走った。「ぼくはみんなを アンソニーはセンターを出て歩き出した。そうしてはいけなかっ 知 0 ているんです。世界中のあらゆる人間を。三十億の人間を、ひたのだ。彼が仕事をほ 0 たらかしてさまよい出ると、センターでは とり残らず知っているんです。気味が悪くてたまりません」 やきもきすることは、当のアンソニーも知っていた。 「わかる、わかる、アンソ = ー。しかし、どうなんた、なにか奇妙「しかし、・ほくは考えなくちゃならないんだ。世界中の人間ぜんぶ この なことには気づかないか ? もし気づいていれば、わたしに話すのを頭の中におさめているくせに、・ほくはなにも考えられない。 がきみの義務たそ」 能力は、そういう知識を利用できるだれかのところへ行くべきたっ 「でも、いま話したじゃないですかー どういうわけだか、・ま たんだ」 世界中の人間をぜんぶ知ってるんです。トランスヴァールの人たち アンソニーはプラッグド・ニッケル・く へ入ったが、・ハ も、グアテ「ラの人たちも。ぼくはあらゆる人間を知 0 てるんでは彼が情報審査センターにつとめている部外秘要員たと知「てい て、酒を出してくれなかった。 「うん、アンソ = ー、それはわかるよ。まあ、慣れるまでにはすこ アンソニーは悶々として市街を歩きまわった。「ぼくはオマ ( の しひまがかかるかもしれん。しかし、わたしがいうのはそのことじ人たちも、オムスクの人たちも知「ている。地球の都市というの ゃない。きみがふしぎに思っているそのこと以外に、なにか異常な は、みんななんておかしな名前なんたろうー ぼくは世界のあらゆ こと、場違いなこと、不自然なことに気づかないか ? 」 る人間を知っているし、たれが生まれ、だれが死んだかも知ってい

5. SFマガジン 1979年8月号

フさん達でも」 ・第一話のあらすじ・ 「ユスフだよ ! 何度言わせるんだ。おれの友達の名前ぐらいちゃ 木星の衛星イオにあるザキュント基地には、だれからも畏敬の念 ひん で見られている老用務員ウラノがいた。ある日のこと、基地にやっ んと覚えてろーー・・・悪けれやどうした ! お品やお柄なんそ良くして しよろ」、 てきた訓練生がささいなことからウラノを手荒く扱ったため、古参 いてできる職業じゃねえそ。気違えやならず者とみあって暮すイ 兵ナルセが怒りを爆発させた。そして、ナルセは訓練生たちに、ウ ヤな渡世だ。だがおれに言わせれや昔の侍にだって、ユスフみたい ラノにまつわるエ。ヒソードを話して聞かせた ウラノは郵逓機 に喧嘩と博奕がなにより好きなお武家さまや、ウオンのように女郎 ( 一人乗郵便宇宙船 ) に乗務中、冥王星で事故にあった。彼自身は たいした負傷もなく助かったのだが、ハッチが開いて郵便物が散逸 買ばかりしてなさる御仁がなかった訳じゃねえだろうと思う するのを防ぐために、身を挺してそれを防いだのだった。そのため いか、断っておくがナ、これや誰かが背負わなくちゃならん役なん に彼は片手、片足を失った。 ナルセからこの話を聞いた訓練生 だそ、この世 / 中では」 たちは、外惑星に生きる男たちの心意気を知るのだった。 ( 「ケル リエは、でも貴方がやらなくたってーと言いかけて止めた。それ ベルス嵐の日」本誌七七年七月号 ) を言った日には大へんだ。ギドウは油に火をつけたようにイキりた って、こう奐きだすに決っている【 ゃねえか。奴があんたを・それもあんただけを愛してることは間違 「それは自分がよければ人はどうでもいい利己主義に通じるー いない。あんな悪態をならべていたってあんたのいない所じゃ、て 「社会の連帯性に背をむけることは、真の意味の博愛心つまりは人のは兵舎や艇内のことだが、おれやカシノは年中あんたの惚けを聞 てめえがって 間性に欠けることで、だから女は仕様がねえ、要するに手前勝手のかされてうんざりしてるんだぜ」 ほかのことは頭にねえと来てやがるんだ : : : マア、頭があるとして この最後の一トくだりは殺し文句だった。 丿工の心はたちまち鎮まって、ついでポーツと温まるーーー・そし ばかばかしいにも程がある ! て、どうしてももっと安全な仕事にかわって自分を安心さしてくれ これだけ彼を愛していて、そのために「手前勝手」だの、仕様が ないのならいっそ今の裡に別れようと、諍いのたびに考えるのが、 ねえだの、そのうえ頭もねえ、まで聞けば沢山だ。どこの国に頭のイイエやつばり愛してる、別れられない 、と諍いのたびに思い直す ない人間なんてあるのサ ! のだ。 ェクストレーム 「まアそう怒るなョ」 そしてとうとうこんな、「先果て」なんて皆が謂う、土星のチタ そういった二人の諍いのあとを、よく温厚なウオンが宥めてくれンまで随いてきてしまった。軍隊というのはどこでも、上級になる るのだった【 ほど配置移動が多いのだ。 ここから先には、もう居住ドームはない。 「ギドは一本気なんだ。すぐにむかっ腹を立てて無茶を言いだす 小さな観測基地や、民間の試掘設営があるばかりだ。もっとも、 が、悪気はまるでない男だぐらい、あんたが誰よりよく承知の筈じ しょ っ のろ

6. SFマガジン 1979年8月号

太陽が蝕を起こす。特別な合図もないうちに、索具係はマストによいのだろうと思う。おそらくそのときは、ミラレジの夫として光子 じの・ほっていき、ジャンガウル号の帆をといた。・ほくたちが物質転帆船を操る多くの息子や娘の父親となっているのだろう。プン・フラ 換器による惰カ航走でニュジャジャの影から出るころまでには、も ーマだって、こうして子供たちと生きてきたのだ。ウルワイドもこ ダッキング・イント う帆はいつばいに張られ、・ほくたちをイルカラ近辺の難所への旅が終われば、同じ運命となる。だが、普通の人間であるという ことは、船の中をまるで罐詰肉のように運ばれるというのは、言い と運んでくれる太陽風を存分に捕える準備が完了していた。 そして、・ほくは横静索での仕事を始めるまえに、いま一度帆桁にかえると、スカイ・ヒーローを知り、自分たちにはその経験をわか 立ち、片手でマストを抱きながら、イルカラへと進むジャンガウルちあえないと知った人生はーーどのようなものなのだろう ? 号の前方をまっすぐにみつめた。その光景はこれまでスカイ・ヒー ・ほくはふり返ってジャンガウル号の甲板を見た。仲間の船員たち ローとしてもう無数に見てきたものなのだが、まだ・ほくの血をたぎが忙しげに太陽風に対して帆を操っている。無線のスイッチを入れ らせ、心臓を純粋な興奮で高ならせるのだ。 ると、仕事の流れとリズムがっかめたので、ぼくもそれに加わっ 遙かな星々と銀河が・ほくたちのまえに広がっていた。初期のスカた。・ほくたちの仕事は激しくて正確さを要求されるものだが、遂行 イ・ヒーローたちが・ハラムンディ魚の嘴、眼、ひれ、えら、尾などするのは一つの喜びでもある。終わるころには、船員たちはいつで インー・サーベント に見たてた七つ星。色あいが伝説の虹色のヘビを思わせるキラキラも甲板に集ってその日の火酒の配給を待つまでになっていた。 宇宙の深淵には昼夜の区別はないので、甲板や索具での灯は旅の と光る星間物質の渦。大カンガルーや小カンガルーのような星座。 間中つけておかれる。船を動かし続けるため、乗組員は当番制にわ ・ほくはしばらくの間、無線のスイッチを切って立ちつくした。ほん の数十センチの空気嚢発生器の層によって、ぼくは底なしの虚空とけられ、各当番には各々のオフィサーたちと長がおり、一方非番の めくる さえぎられている。耳を満たすのは銀河の沈黙、眼に写るのは眩めものは自らの行動に責任を持っ仕組みになっていた。 く輝き。そして、・ほくは思ったのだ。 スカイ・ヒーローは、人類にとり数少ない貴重な財産だった。航 海での彼らの安全は、罐詰肉の幸福というただ一つの例外を除いて 普通の人間でいるというのは、どんな気持なんだろう ? もし光子帆船を操れるよう生まれてこれないのなら、つまり・ほく何にも増して優先されねばならない。この例外はユラコシの伝統で たちュラコシ人のように、皮膚の細胞が放射線シールドなしでもすあり、主人役は客の安全保護に全力をつくさねばならないというこ ませられる保護メラニンに充分恵まれているのでないなら、人生にとからきていた。そして、たとえ乗客がその特典を金で買っている とはいっても、彼らはこの光子帆船ではぼくたちの客人となるので いったいどんな価値を見出せるんだ ? 例えば自分でも、ずっと将来のことだが、完全に漂白されたときある。 たとえ、スカイ・ヒーローたちが名誉を受けて引退しているユ = ラ = シの年代記を見ると、最も恥ずべき事件として、 ztO 七 ラコシでも、いったいどうやって地面にへばりつく生活に向えばい〇〇二からアルゴルのプサイへと長楕円コースをとる光子帆船マカ

7. SFマガジン 1979年8月号

フを取出すと、スティックをもって愛用の楽器を弾きはじめた。 あすの朝はやく俺は発つ。知らない星の知らない都市で、また悪 オージ、ールはソフアで食後酒をなめながら、弟の演奏を聞いて魔の仕事がまっている。 心をことばで伝えるのは、どうも苦手た。ことばではなく、心で いた。仮面は外していたが、その心はあいかわらず鎧っていた。 心を通わせる日が、また来ることを祈って やがて、兄は静かにいった。「惑星暗黒はおまえの計画だな ? 」 おまえのオージュより』 ダリウスは手を休めて、兄の眸をみつめた。そうして、また弾き はじめた。 オージュールは手をのばして楽器の主スウィッチを切った。記憶 「オージュ。これ、覚えている ? 」 装置が死んで、部屋に神経質な静けさが落ちた。しばらくして、オ ジュールが口を開いた。 「〈もう森へなんか行かない〉か。おまえのお気にいりだったな : 「ダリオ。おまえは俺より十ちいさい。たがもはや、幼くはないん だ . そして冷やかに言い放った。「おまえの未来は、おまえの過去 ホータ・フル ダリウスは最終節をおえて、スティックをはなした。 : によって変ることは、ない ! 」 型のジラフは、黒曜石に似た黒い半透明な材質が出来た、アタッシ : ダリオ〉 = ケースほどの楽器だったが、その表面が螢光を放ちはじめた。精〈判っているはすだろう : ・ 「そうだ、ね : : : 」ダリウスは顔をあげないまま、ポツンといっ 密な内部のどこかで、記憶装置が作動していた。 「メロディが鍵になっているんだ」ダリウスがいった。「オージュ 「話せ。ダリオ、惑星暗黒計画はおまえなんだな ? 」 の最後の手紙だよ」 「うんーダリウスは徴笑んだ。テレ。ハスたからね。人間の心を操る 『ダリオ。あれからもう二 ( 銀河 ) 年になる。元気にしているか のは、たやすい」 ダリウスは目を伏せた。これは打算だったし、兄もそれを知って「あの少年たちは ? 」 フェイント 「陽動さ」 いる。しかし、そうと判っていて、まだ何か賭ける区画が残ってい 「なぜだ ? 」 るかもしれない。オージュールは無言で、過去の自分と対峙した。 いのち ダリウスは、テー・フルの上の自分の両手をみつめた。そして、お 『おまえは、俺が宇宙で出会った生命のなかで、もっとも天使にち だやかに答えた。 かい存在だった。 ( ほんとうに、翼のないのが不思議なほどに : : ・ ) いま俺がしている仕事は、むしろ悪魔のそれに近いのだけれど「オージュ。兄さんが僕を打ったのは、僕が仲間を売ったと聞いた おまえへの愛情は変らない ( 永遠に ) 。しかし、通信は、ダリ からでしよう。今、オージュに話せば、やはり裏切りになるよ」 オ、これで最後た。 オージュールは笑いだした。「あれは芝居だ」 : 服務規定で、俺はこれから誰とも、 ( この 宇宙のたれとも ) 連絡してはならないから。 ダリウスは冷たい表情でいった。「迫真の演技たった。観客には とお を 0 3

8. SFマガジン 1979年8月号

受けたことだ」 る。遠くで海鳴りのような、不安な音が聞こえる。大地は病んだ心 臓である。ゆっくりと、不規則な脈を搏つ。 オージュールは笑いを消した。「俺には、仕事がある」 「悪魔のね : : : 」 突然、虚空の一点から鋭い、長いものが墜ちてくる。ナイフ。そ オ 1 ジ = ールの心の深い底で、翼のある蛇がはねた。ふだんは絶れは、地平線のはしからはしまで、偽装の大地を、まるで・ ( ターの 対に表層にうかびあがってこない、彼の自我に棲息する暗い生き物ように切りさく。黒い、重い血があふれ出し、創口が号泣する。血 だった。その蠢きが、彼に、ダリウスの目的が話をそらすことにあは、地表いちめんを厭らしい、ギラギラする色に濡らすと、瘴気と ると判っていながら、オ 」よレール上の質問をさせた。 なって立ちの・ほる。 「すきでーーやっている、稼業と思うのか ? 」 緒戦。暴風雨。地平のあらゆる方向に落雷の火柱がたつ。原初の 低い、抑えた、声だった。 生命がうまれた日のような嵐がふき荒れる。雷鳴が吠える。 「仕方がなければ」ダリウスも低く、応じた。「僕にもシオナイト あの大いなる刃物が、血だか膿だかわからない、生臭い液体に浸 を使うの ? 」 っている。急に、魚のように、びくりと跳ねる。 オージ、ールは爆発した。おそろしく熱い炎がダリウスを襲っ 見つけられた ! た。意識の表面が火傷を負ったように火照る。気がつくと、彼は部計算された危険。巨大なナイフは、ゲラゲラ笑い声をあげなが 屋のすみに弾きとばされていて、その上にオージールがおおいから、まっすぐ彼の中の彼に向って突きささってくる。〈淘汰審判〉 ぶさるように立っていた。 の時の恐怖が甦って、逃げだしたくなる。 視覚はまた眩んでいたが、兄の、怒りと憎悪が融合する恒星のよ 死には勝てない。だが恐怖は克服できるー うに熾烈な存在は、いやでも感じられた。その表面には、メンら さっきの、心の地殻が割かれた時の苦痛が快楽に思えるほどの、 しからぬ逆上した思念がフレアとなって、さかまいていた。 今度は逃れようのない、凄じい、無制限な激痛が、彼の中の彼を襲 きっとー 〈おまえ、この、でき損ないー いいか、きっと、喋らう。天を焦がして噴出するマグマ。 せてみせるそ、ダリオ ! 〉 ぼくの血だ。心の血 : 暗里。 最初の一撃がダリウスを見舞ったとき、すでに彼は気死し、しか も彼のメシューゼランとしての不眠の自我は、全速で行動してい た。オージ = ールの破城槌のような心理攻撃にそなえて、鉄壁の要スクリーンいつばいに、ス。 ( イ光線で解像された、逃げ水の中に 塞を心の中に築城しつつあった。 踊る骸骨のような人影が映しだされた。宙空から鋭い声がとぶ。 「長官 ! いま、 6 号の兄が部屋から出ます。あいかわらずス。 ( イ 昏い、巨大な地勢。裏返された脳髄。緑の闇が空をおおってい光線は室内を透過しません」

9. SFマガジン 1979年8月号

ここらでお前の言うとおりにしよう。つまらねえとは思うが何か変だ」 哲のねえ地上勤務の科に替 0 て、まいにち判 0 で押したように職場「何だ 0 ていいわ , 。どうせそんな型変りの〈ンなの」 へ行って、判コで押したように帰ってメシを食うことにするから、 「ヘンなのって言草があるか。旦那さまが下さろうってえ一世一代 もう文句言うな。だが結婚するとなれや資金が要る。おれはゼ = がの品物をョ ししか、ダイヤか紅玉か、それともエメラル何とか ねえからご希望に添えねえできた。ところがここに一つだけ、ちょ いう舌の廻らねえやっか知らねえが、よく考えて決めとけョ」 0 と纒 0 た額になる仕事がある【どうた、それで金を掴んでから止とそう言 0 てひとの指の寸法なんか取 0 てい 0 て、それきり、忘 める、てのは」 れたようにまた来てまた行く平常にもどったと思うと、このあいだ 「だめよ、そんな事ーー・ ! 」 フィと出てきようで十日、隊には帰ったのかいないのか、分らない しりぞ リエは瞬間に危惧をかんじて却けた。「どうせ危ない事でしょー まま顔を見せないのだ。 宇宙艇つか 0 て密輸する仲間になるんじゃない ? 捕まるに決って何をしに行ったの ? るわョ ! 」 どこにいるの ? ・ 「ばか。大違いのコン「ンチキだ。ちゃんと筋のとおった、職務上 そしてこの人達はあの人について何を知って、何を待ってい るのフ の褒賞金た。それやそれだけの危険はあるがナ、おれにとっちゃい リエはただ思い煩らうばかりだった。 つもと同じ、馴れた仕事ョ。まア四五日は帰れねえかも知れねえが ナ、もう一ペんだけ行かせろ。賞金をもらったらかならず退職「そろそろ此方側へ来るころです」 か転勤を申出て結婚する。この一ペんだけが最後だ」 とジャワ ( ルラル中士が腕時計を見て言った。 「ほんとに ? 」 「ほんとた。帰りにマヴォラへ直行して指輪を買ってくるよ。婚約 ◇ 指輪で、結婚指輪た。おめえは何がいい ? 真ン中へ篏める宝石 よ」 「がんばれヨー いま命綱射つからナ」 「ばかね。婚約でも挙式でも、結婚の指輪は石なんか入れないのが どんどん遠ざかってゆく若者の鉢に、なんとかすれすれにザイル 普通よ」 が延びるやうにと不安定な照準をあわせながらギドウはどなった。 「おれは入れるんだ。普通じゃねえからナ。そして、サアこれでお「望みをすてるな ! 精一ばい泳いでこ 0 ちの延び線と直角にな 0 前と普通の暮しをはじめるそ、という約東の印をお前さんの薬指にてみろ ! 」 はめてから、登記所〈行 0 て、帰りに飯をくおうじゃねえかーーナ「親父」は前より一そう大きくな「て、空の半分を占めるほどにな ア、何にする = 。指輪は金か。フラチナでいいとして、石はどうなん 0 ていた。艇は傾むきながら衝撃の余波でグルグルまわり、真空に け 4

10. SFマガジン 1979年8月号

士官達はさすがに鼻白んだ面持でたがいに顔見合した。 様を知り、それと交信しようとしているところで、映っているのは エンセラデスからテシウス、ディオーヌ、レアと中継されてくる母「イヤ、しかし : : : 」 と言いかける司令官の困惑を引取るようにジャワハルラルが急が 星こちらがわの視像です」 画面には、大きすぎて全体がはいりきらない土星の姿が、片しく割込む。 縁を切りとられたり円辺からま「黒な空間をのそかしたりしなが「それやもちろんご不快でしよう。しかし命令はここにいる誰が出 ら、吹雪の中でふるえている人魂のようにチラチラ不安定に映 0 てしたのでもない。、出動ははじめから、「市警察の報せがありしだ いと決っていたのです。その人選は、褒賞は賭けられていました いた。その焦点と明度はきわめて悪く、しかも画面は間断なく、な にか粉末のように散らっくものや、とっ・せん。 ( 〉とひろが 0 て眺めが各自の自由意志だ 0 たのです。曹長ははじめからの有志の一人 で、その事は本人から貴女に話がありませんでしたか ? ちょうど を遮ぎる暈翳にさまたげられるのだった。 ふね 一ト月ほど前に決ったことですが , 「でも、どこにいるのです、あの人の艇は ? 」 一ト月まえ : 司令官は行儀よく、遠慮がちに微笑した。 とリエは思い出 「曹長の艇はいまあの母星の向う側にいます。しかしこの画像尺度そうだ「た・ーーあれはたしかその頃だ「た では此方側にいても見えません。土星の大きさがあの画面にはいっした " あい変らすの言合いのあとで、ギドウがホンのちょっと、いつも ているのからすれば、宇宙艇は針先より小さくなる訳でしよう ? 」 一般者のご婦人があまりに一般的な質問で長官をなやますのを心とは達う調子で、 「ナア、オイ」 配するように、インド人士官が機会をまって引継いだ。 と言いだしたつけ。 「飛行中の宇宙機の速度はひじように速いものです。殊に逃走者を 追っていたのですから、主星引力がまた及んでいなければあと約四「わかったヨ。おめえの言い分はよく分った。あの下らねえアメリ 力やニッポンのステレヰ劇で、警察官のかみさんが年中亭主の仕事 〇ぶんで此方側にあらわれます。そしたらミマス衛星からレーダー に苦情をならべて、罷めさせようとかかるワナ。おれやあれを見る で像形してみましよう」 たんびに腹が立つ。使命感のねえにも程がある、ってナ。ところが リエにはしかし、そういった深切な説明のすべてが無意味だっ こ 0 うちの班の若造のカシノが面白いこと言いやがった。ああいうリス ク仕事は昔の兵役みてえに、年期交替制にすれやいいんだって。野 「こんどの命令はどこから出たのです ? 」 や と彼女は咎めるような眼付で上級者たちを見渡した。自分の男を郎は新兵だからナ、はやく新兵扱いが止まらねえか、ってんでそん そんな危ないところへ追いやっておいて、それを坐って眺めているなこと考えやがったんだらうが、しかしこれや悪い考えじゃねえ。 おれも年を考えれやア、そろそろ交替してもいい頃だ。だからナ、 人 ~ にたいする、これが精一ばいの抗議だった。 け 3