連邦 - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1979年8月号
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1. SFマガジン 1979年8月号

連邦は、宇宙のすべての秘密に通じており、しかもその秘密のすべロエスの組織は、ちゃんと在る。俺なら、連絡口を見つけてやれる」 てを無価値にしてしまう力を持たされた。個々の星を干渉はしなか「オージュは ? あなたはどうするの」 ったが、星間の位置関係を支配した。星域内での宗教戦争は看過し「メシュ 1 ゼランとしてのサーヴィスが、まだ残っている。年季が たが、連邦教会を否定する、どんなに小さな宗派の教義も見逃さな明けたら行くかもしれない」 「なぜ、今の仕事を止めないの ? 」 連邦政体が保証したものは、自由空間での市民の権利と安全であ「同じことをローエングリンに訓かれた。彼も、その答えを知って る。それに対して市民が連邦に保証しなければならないのは、市民いたからだ。俺は指名されている。断わるべき理由がない。嫌な仕 ・ : 反連邦 の理念、連邦教会への信条告白、そして銀河標準言語の使用だつ事であるとか避けたい運命だとかは、理由にならない。 ルシフェール た。各星域の実状に合わせてカメレオンのように闊達に習合する連主義とは、連邦の一つの属性だ。この戦いは、検察天使と神との討 邦教会は、とても統一宗教と呼べるような代物ではなかったし、語論に似ている。銀河市民がその理念を自覚するには、この討論を理 義とシンタックス接点がやたら多いだけの公約数的な標準語は、文解しなければならない。ダリオ、おまえは検察天使の軍勢に参加す 化的洗練には程遠かった。しかし、計算された言語と教理の共有とることができるんた」 いう意識を前提に、連邦政体は、その成員のすべてに銀河市民とい うコンセプションを教化したのである。 銀河連邦政体が宇宙を刻む影の律動となり、やがては存在するこ とも忘れられた不可視の規制力として伝説の彼方に消えてゆく事実 緊張の氷は、やがて溶けた。オージールは遊びの時間にもどっは、彼らの確信が正しかったことを証明するたろう。しかし、それ はいまだ希望であり、可能性ではなかった。彼らは、希望を可能性 た。手の中でスティックが舞踏し、シレーヌの歌をうたった。 に転化させるヴィジョンの中で、絶望することを学ぶだろう。それ 「ダリオ」彼はいった。「おまえ、アヴェロエスに行かないか ? 」 「ダントン・ウェラネージュの亡霊でも見に ? あの星はまだ、原もまた、約東された事のひとつだった。 子の熱でたぎっているのじゃない」 「伝説をまともに信じてるのか。ダリオ、羊飼いの少年教主など存最大の明度をもっ衛星ソドムが南中する頃、兄弟は初めての交流 在しやしない。宗教的戒律を守る。正確には、複数呼称でウ・ソンを行なった。からだを触れ、心を接し、合わせ鏡の無限につづき、 ・レ・ネージ、という思想集団がいただけだ。星間十字軍の理由互いの精神が谺し合う宇宙的な交感の儀式。 いつまでも は、二千年ほどの〈平和〉で星々の交流が衰退し、各星域の精神が廃園を照らす月の光の下で、二人の影は青く重なり、 閉鎖的になった状況に、連邦が一撃を加えようとしたことにある。荒動かなかった。花たちはすでに彼らの感応圏外に去り、兄弟は星の 3 ように孤独であり、そして宇宙のように一つだった。 つぼい回春療法だったが、手術は成功した。とにかく、今でもアヴェ

2. SFマガジン 1979年8月号

「なぜとは : : : 何がです ? 」 の壁に〈全回路 , ーー死〉の夜光文字がばんやり見えるだけの、闇と オージュールは身体をひねって。ハザンコールに向くと、宇宙兵の沈黙につつまれた。幻影は、消えた。 ようにかかとを打ち合わせて床を鳴らした。静謐な室内に、それは全身の力が脱落していくようだった。壁に肩を休めてあえぐ。 ( ザ 礼砲の最初の一発のように響いた。 ンコールに、暗闇の中からオージュールが悠然と声をかけた。 「偽装事故の報道で市民を欺き、自分の息子を含む百人の少年たち「さあ、。 ( ザンコール。理由をきこうか」 を連邦法違犯の神経拷問にかけているのはなぜかと聞いているの興奮は、潮のようにひいていった。バザンコールは苦く笑った。 「さすがにメン。 : ・うまい〈突き〉だ」 彼はブレスレットを操作して、左手を、ジャメー・ バザンコール バザンコールの思念に、どこか一点、〈読めない〉部分がある。 少年を容れている水晶球にふれた。 それはまるで、オージュール自身の心の内面に、痛点をなくした粘 「見ろ ! 」 膜があって、それが読心の感覚器官に支障しているように思えた。 床の澄明なせせらぎは、一変して氾濫する濁流となった。足下を「なるほど、我々の行為は確かに常軌を逸している : : : 」とバザン ごうっと黒い重いものが流れ去り、熱したねばい飛沫がからだをぬコールはいって、ようやく闇になれた眼で c.5 メンを見た。「しかし らした。輝く光の帯が四方の壁にはねて、怪獣が吼えたけった。 銀河連邦の歴史にも〈アヴェロエスの小鳩〉のような事件がありま 平衡感覚を失って、バザンコールは得体のしれぬ激流の中に投げしたな ! 」 だされ、懸命に爪をたてて川床を這いまわった。ようやく壁にすが アヴェロエスの小鳩ーー七百年前、アヴェロン星域で銀河連邦 ると、眼のまえに魔王のように大きな黒い人影があった。それは、政体への叛旗がひるがえった。羊飼いの少年、ダントン・ウェラネ 万雷の声で怒号した。 ージュを教主と仰ぐ宗教軍団、アヴェロエスの小鳩がそれである。 「ジャメー君の苦痛を投影している。味わえ ! 」 彼らは連邦からの脱退を宣言し、連邦の司政顧問と銀河連邦教会 すると、コクーン機械にかみさかれている愛息の、真の表情が、 の星間巡回祭司を追放した。しかし独立直後から連邦内各星区でこ 煮えたぎる渦流のおもてに映しだされた。 れを異端として十字軍が起こり、邪教星アヴェロンは徹底的に殲減 された。 一瞬の幻視たった。しかし、ジャメーのその形相は、イリヤ・ 表面的には、連邦政体はこの事件に何の干渉も行なっていない・ ザンコールに自分の職責を忘却させるに充分だった。 しかし、十字軍を発動させたマス・ヒステリカルな民心の背後に、 いきどおろしい吐き気と戦いながら、今や一人の父親は、死に物連邦の工作があったのは自明の事である。それに、これ以降、類似 狂いで波打っ床の涯しない距離を這 い、この査問室のコンソールにの事件が発生をみない ( 事前に圧殺される ) のは、アヴェロンの叛 辿りついた。一触の操作で室内は・フラックアウトし、部屋は、最奥乱そのものも計算された針路上の出来事だったのではないかという 0 3

3. SFマガジン 1979年8月号

「うるさい。とっとと消えろ」 経済と秩序が保てませんからね。星域の境線を越えた殺人者は連邦 犯罪の手配をうけます。しかし、星ひとっ覆したり、植民者全員を のどを灼き、胸を焦がす、花柄の雨が降りしきる街。 抹殺したりするのは犯罪とはいえない。・ ・ : 少なくとも、連邦法で あの時 : : : 。そう、ガラス細工のあの街 ! は、そうなっている」 ローエングリンの心に、秘された形象がうかびあがった。二つの 「それじゃ、どうなるんです ? 」 ピフロスト 世界をつなぐ虹の橋が見えはじめる。星の光のささやきが、意味を「もう花の代表が、惑星主権の変更を告げる通信を連邦支部と行な もっしるしとなって彼に語りかける。植物の相、動物の相、そしてっているでしよう」彼は苦笑した。「ダリオの仕組んだ事た。抜け 鉱物の相にまで、その中に流れる生命の水脈がはっきりと、手で触目のあろうはずがない。連邦法というものが、現在の秩序を守る以 れるように判った。 上、ダリオの気まぐれから死んでいった二百万の生命は過去の出来 「市民ローエングリン」オージュールが彼を呼んだ。 事です。法は過去の秩序を守らない。彼らには、墓標ひとっ立てて もらえませんよ」 彼は自分の世界から浮上した。重い潜水着をつけているように、 ひどく、こちらの世界にもどるのが億劫だった。 「私のホ・ハ ・カーがすぐに到着します」オージュールはプレスレ オージュールが市民サーヴィスで借りたアトミック・ホ・ ( ーは、 ットの表示をみて、いった。「私はダリオを連れてアルカンシェル誘導波に乗って、一路、銃殺森林をめざして飛行していた。 に回る。どうせ報告しなければならないので、よければ最寄りの星全惑星に張りめぐらされた無人の非常線に、それはかかった。 区連邦支部まで送りますよ。もう、この星には住めないでしよう」 「対象 / 乗機、活動再開。抹殺班、行動セョ」 「報告 ? 」ローエングリンよ、つこ。 。通称銃殺森林ノ附近。 ーしオ「ダリウス君の連邦犯罪ので「航路判明。に at. Z 、 Long. 行 すか ? 」 抹殺班、先行セョ」 オージュールは投げやりな微笑をうかべた。「いや。罪体があり 機械は律義にその情報を報告した。それを受けとるべき人間は、 ませんよ」 すでに放射線照射と花粉の焦熱地獄の底で焼き滅ぼされていた。し 「罪体が : では、あれは」ローエングリンは火の森をさしかし、 << 回路の倫理規定を有さない殺人機械は、応答がないことに もこだわらす、自動的に追尾と抹殺の指令を発した。 この瞬間に、惑星上の十二の都市と港で、同じ色の炎がもえてい るはずだった。そして、その下に二百万人の屍体がある。 みどり最後の人間と別れて、草の海を進んでいた花は、異様な気 「 : : : 市民ローエングリン」オージ、ールは説明した。「銀河連邦配に気づいて、頭上をふり仰いだ。 は、星の内乱や星間戦争の調停はします。でないと交易に響くし、 さしわたし一キロメートルほどの、半透明な紡錘体が、宙空に静

4. SFマガジン 1979年8月号

邦政体のもっ力が国家的権力機構でないのなら、その緊張は何に由 「止れ」 来しているのでしよう。それが何であれ、緊張のダイナミックスを 支える一点は、反連邦主義の存在であり、その活動なのです」 ゼーレンは止った。さもなくばーーーという否応なしの停止命令。 「反連邦主義思想が、反市民社会的な活動の唯一の理由ではないで同時に全スクリーンが生き返って、無数のダリウスの鏡像を映し しよう」 た。カレードスコープの壮麗な地獄だった。 「私は道徳を説いているのではない。秩序的宇宙のダイナミックス「虚像たよ、ゼーレン。すべては鏡の中なる幻影さ」ダリウスの哄 を話しているのです。 : : : 銀河連邦は、それ自身の重力と運動によ笑が響き、おそろしい次元截断のビームが襲いかかった。 って求心しまた遠心している我が宇宙のように、各々が自立しなが ゼーレンの〈擬想〉がオージュールに通用したのは、メン組織 らも目に見えないカで結ばれているーー銀河憲章前文にある通りでの階梯間に設けられた抑制暗示がためであり、それはダリウスには 通じなかったのである。 す。結合には力が必要だ。しかし力には理由がなければならない。 反連邦主義という思想と運動を、最も欲求しているのは、連邦自身しかし、ゼーレンが最後の瞬間に感じたものは、死の恐怖でも、 なのです。私の仕事は、反連邦主義を撲減するのではなく、連邦教好敵手に対する愛惜や憎しみの念でもなく、ダリウスの笑い声の中 会がありとあらゆる宇宙の宗派と習合して、それを統御していった にあった、非人間的な残忍さへの驚きだった。 ように、行政の面でその・ハランスを保っための調整なのです」 喋りすぎたのかもしれない。ひどく、気怠るかった。月の光が、 「あなたは、私に心を開いてくれた」ローエングリンはいった。 たとえようもなく深い謎冫 こみちて、ふり注ぎ、オージュールは夢の「今度は、私が話をする番でしよう」 中を歩いているような気分になった。 森のそばを流れる河から水をひいた濠の、水位を上下する調水湖 「少し先に坐れるところがあります」ローエングリンがいって、歩だったのだろう。その湖の岸辺に建つ四阿。ふたまわりもある七本 きだした。 の石柱で支えられた天井のドームには、アシュラの神話に描かれた 天上界の光景が彫りこまれてあった。 さきほどまで自分がすわっていた球形の椅子は、今、ゼーレンに 「あなたは、私についての伝説を聞かれたことと思う。私が何百年 背を向けているが、その中に確かな人の気配があった。 も、この惑星の上にただならぬ生を送り、花を狩っていることへ 椅子が回転を始めるより前に、あきらめに似た思いが、どっと胸の、この星の植民者が解釈した伝説を : : : 」 「花は、この星を統ろしめす超越者によって劫罰をうけ、あなたは の中にわきあがったが、なおも彼は、敗北を認めようとしなかっ た。その老齢にしては信じられない迅さで、コンソールまでの絶望彼に選ばれた刑吏として、永劫に花を狩りつづけている、と : : : 」 的な距離を走った。 ローエングリンはうなすいた。「みどりの人々にとっては、市民 ライヴァル 2 5

5. SFマガジン 1979年8月号

ロ 1 エングリンは、・ハルコニーの手すりの上に半ばすわり、胸か ないんです」 ら上が崩れて無い石像に、もたれていた。ルコニー全体が皓々た「銀河の整序統一をねがう連邦主義という理念は、一部の星の利害 る月光に照らされ、闇の中に浮んだ舞台装置だった。そこでは、ロでは測れない、普遍的で究極的なものではありませんか」 ーエングリンは、舞台に最後に残って物語の破局と劇の降幕を同時「連邦主義というのは、おかしな理念です」オージュールは、自分 に待つ、古典悲劇の英雄そのままに見えた。 の考えを検証するような口調でいった。「理念というより属性だ。 オージュールは、すでに心身の調整をしおえて、寝椅子の上に身発生や起源から、伝統や文化まで異なる存在たちが、自分は市民で ある、という意識たけで、ひとつに繋っている。ほとんどの星は、 体を起こしていた。 「月が、明るい」ローエングリンが呟いて、彼の方をふり返った。連邦政体の権力を意識していない。彼らが立派な市民でいる間は、 その力は目に視えないのだ。それどころか自分が市民である、とい 「庭に出てみませんか ? 」 冴えた、青白い光が満ちて、庭園は静かだった。顔をあおむけてう事さえ、正確に観念してはいない。銀河市民を称号することは、 見わたすと、森の葉むらに額縁された、透明な夜空がひろがってい市民の間で自己をたしかめる方法とはなっても、自己の中で市民を : だから、一般の市民は反連 る。月が三つ、見えた。今の時間では、あと一つ出ているはずだ。確かめることにはならないのです。 自動修復が施されているのだろう、中心に組み打っ怪獣と猛禽をか邦主義を否定することでしか、自らの立場を鮮明にする手立てがな たどった泉水が壊れもせず、宝石の雫を噴きあげていた。その縁石い」 「あなたは」とローエングリンがさえぎった。「連邦主義に反対な に坐って、ロ】エングリンは視線を遠くに馳せた。 「私が狩り、銀河鉄道が精錬したシオナイトは、連邦政体にだけ売のですか ? 」 . しュ / 「私はメシューゼランです」オージュールはきつばりと、 られます」 「そして、私たちが使う」オージュールは立ったまま、噴きこ・ほれ「私のいる位相は、彼らとは違っている。市民、あなたもそうでは る泉水が形を変える様子をみつめていた。「反連邦主義の星で、アありませんか ? 」 ヴェロエスの残党が高官を占めている星で、私たち工作員によって 会話の間じゅう、二人は互いの顔を見ず、夜に向って話してい ばらまかれたシオナイトに、人々は犯され、惑溺し、蝕まれてゆた。 く」 「私のいる位相は、彼らと同じ、現実というこの世界です。そして ローエングリンは手をのばして、水の滴りをすくった。「それも私の知識は、この世界に属している書物の中にある以上のもので 〈銀河の平和〉のためでしよう」 は、ありませんよ。市民・ハラジュデーラ」 「銀河連邦は宇宙の国家ではない。国家を超えた権力機能あるいは 「でしようね」オージュ 1 ルはカなく徴笑んだ。「〈銀河の平和〉 本にはそう書いてあります。しかし、連 のために、多くの星が凌辱され、多くの花が虐殺されなければなら体制の概念でもない。 ・、しストラード 5

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コスモス は私が母星をはなれたからですよ。一度でも外の宇宙にふれたメシて、いい返した。「秩序宇宙を愛する心なくして、銀河市民を称号 ューゼランは、二度と再び母星の土を踏んではならないのです」 する資格はない。 市民でないのなら、権利もまた、ないのだ ! 」 「なかなか巧妙ですね。何らかの予感があったのでしようね」 「〈銀河市民〉とは何者なんです ? 市民ゼーレン。連邦政体は、 「ええ、古文書に〈天には恵みと災いをいれた二つの袋がある〉とそれを自立した人間的存在と定義している。しかし実際には、自立 記されています。 : : : それで、私が〈サーヴィス〉要員に決まり、 した人間的存在にそう名乗らせることによって、連邦政体の一部と 連邦に出向しなければならなくなった時、私の心配は、ダリオをメしての帰属意識を植えつけさせているにすぎないんだ」 シューゼラには残しておいてはおけない事でした。 「それが社会秩序というものではないのかね、ダリウス君。自分が 独立した存在であるという意識と、自分が全体の一部であるという 「ダリウス君」ゼーレンは声を鎮めて、、つこ。 しナ「いいかね。我々意識を両有し、整合させてこそ、市民社会が成立する。君は独りで は、都市を、惑星を、そして宇宙を経営しているのた。君はまだ小 生きられるのかね。 銀河系のどの辺境にあっても、市民たる さい。君の義憤や正義感は、やっと君の等身大くらいでしかない。 者、孤独ではない。な・せなら彼は独り・ほっちではないからだ。 君は、そのささやかな感情を理由に、さけられない流血と悲惨をよこれはプロフェッサー ・セルダンの言葉だよ、ダリウス君。君は習 ぶ、戦いを宣言しようというのかね」 ったはずだ」 ダリウスは手すりに突いた左手に力を加えた。オージ、ールに受「彼はこうも言った。市民が叛逆することは、同時的に服従してい けた心理攻撃の後遺症で、神経が傷んでいる。さらに、ここに来るることをも意味するのだ、とね。問題のすりかえは止すがいい、市 までに二十人近くを殺し、同じだけの人間の心を劫掠してきた。心民ゼーレン。あなたの論理は専制主のそれだ。あなたの唱える権利 身ともに限界が近づいているのが判っていた。しかもダリウスは、 とは、権勢者に膝を屈した者に与えられる保護なのだ。屈従せよ、 コスモス 冫ーし・カ / 、刀ュ / 今、倒れるわけこよ、 さもなくば これが連邦の理念だったら、統一された秩序宇宙と 「市民ゼーレン。 : これは個人の感情などの問題じゃない」彼いう美しい言葉の正体だと言うのなら、 ( 彼は微笑った。恐しい笑 は、暗い、冷やかな眼でゼーレンを見下した。「あなたが経営して顔たった ) よろしい、市民ゼーレン。戦争です。しかし、忘れては いるという星の上で、権利のない者が権利のあるべき者を犯してい ならない。戦争には二つの結果しかない、という事を」 る。あなたの正義とは一体なんなのだ。連邦政体の憲章は、〈個は ゼーレンも、にやりと笑った。「勝者の生存と敗者の死減ーーこ 全のため、全は個のため〉と謳っているが、その実相は、あなたにれもセルダンの台辞だったな。脅迫は無益だよ、ダリウス君。私を よれば、全体の名が個人を脅やかすものでしかない。正義とは腐っ殺しても何にもならないのだ」 て蠅のたかる秩序が保たれることなのか」 「生命は惜しくないと言うんですね。市民ゼーレン、しかしあなた 「君は反連邦主義者なのだ、ダリウス君」ゼーレンも声を荒くしは間違ったものにそれを捧げているんだ。 ・ : 私は依然として講和 6 4

7. SFマガジン 1979年8月号

オージュールは相手の心を読んで破顔した。 「ありがとう」 オージ、ールは右の掌を紙に接した。ジッと微かな音がした。彼「そのまえに、あなたは疾病の原因を見きわめるはずだ。ダリウス ハラジュデーラは死んではいない。百人の少年たちもた。さあ、 は掌を返すと、いった。 「これが、私の身分証明書です」 私のダリオはどこにいます」 白い紙の上には紋章が焼きつけられていた。正面からみたレンズ透明な厚みをもった光る床が、清流のようにつづく、広くほそ長 オンディース い部屋。その川床に水精の卵が三つ、転がっている。透きとおっ 状の銀河系宇宙に、翼ある蛇がからんでいる、図象たった。 銀河連邦捜査局は連邦政体に直属する司法機関であり、その任務た卵の中に、全裸の少年のからだが封じこまれていた。 は連邦犯罪の捜査である。しかし局長ヴァルギュール・サムスの暗地下数百メートルにあるフロレアル市の管制局に、オージ、ール は立っているのだ。形のみえない機械にかこまれて、それは、非情 黒の意思の下に、全銀河系を監視する連邦政体の兇眼でもあった。 その局員 いわゆるメンは、銀河市民を広域宇宙犯罪から守るな静けさに浸る殿堂である。その査問用の一室で、三人の少年たち ことから、反連邦主義の疑いのある惑星政府を覆すまでの、幅ひろは、かすかに青みがかった培養液の中に浮かんで、羊水中の胎児の い活動を行なっている。 姿態をぬすんでいた。その表情は一様におだやかで、天使の眠りに オージュールは鋼のようなまなざしで、小さな星の小さな町の署見えた。しかし : 長をみおろした。そして、徴笑した。 〈とざされ、渦をまく恐怖と苦痛の思念〉 バザンコ 1 ルの表情に変化はなかったが、その内面は純粋のおび オージュールには判っていた。 ( コクーンの神経拷問機械だ ) えで凍りついた。目の前の若僧が、あの広大無辺な宇宙に絡みつく 。、サンコーレ・、 ノ力しった。「ご安心を。ダリウス君ではありませ 兇々しい竜の、一本の手先なのである。 ん」 メンはブレスレットをかざして見せた。 「三人とも平和な顔だ : : : 」オージュールは・フレスレットの明減を 「そして、これが読心機。あなたは嘘をついている。私には、それみた。「たが、心には声なき絶叫がある」 が判る」 突然、バザンコールが笑いだした。オージ、ールは苛立たしげに 彼は傲然と目線を窓外になげた。「美しい町ですな。町全体がよ説いた。 「なぜです」 く手入れされたひとつの庭園のようだ。ここには雑草も毒虫も見え ない。そうでしよう、署長。あなたは腕のいい園丁らしい。繊細始まったのと同じくらい唐突に、笑い声がやんだ。その時、オー に、そして大胆に刈りこむ ! 」 ールからよみとった。 ジュールは新しい感情を、バザンコ 〈親和カ・・ : : 〉 ( 病み枯れた枝は、切って焼きすてなければならないのだ ) 0 ・

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邦には未加盟。他星との交際なし。 ・ : そんな星から、どうやってあまりに長く続いた平和という土壌に咲いた毒花か ? それとも我 あの男は脱け出して、 c.5 メンになれたのだ」 我の中のだれかが計算した悪意なのか」 「わかりました、市民バザンコール。だが私にも、職務がある。今 「一味の首魁とおぼしい五人の少年は光子炉の爆発に消えた。 の私は非番ですが、報告はしなければならない」 蘇生をおそれたのだろう。この犯罪集団の意図は、それで謎になっ 「結構です。しかし、あと二、三日でコン。ヒ = ーターが解答しま た。ダリウス君は幹部間の連絡だったのだが、彼以外の少年たちす。百人の少年の自供や情況の判断を、今、分析中です。その結果 。いくら責めても何も吐かない というより知らないのだ。結を待って、報告なさってはいかがですか ? 辺境では万事がゆっく 社の構造が実にうまく出来ている。成員の一人一人は全て部分にすりと動きます。少し報告が遅れても、今度のように封印された事件 ぎない。それでいて結社への忠誠と団結は堅い。。フロの組織カた」では大した差し合いもありますまい」 バザンコールは話しながら走路の選択ボタンを押した。床の一部オージュールは同意した。 が流動しはじめ、二人は壁の中にすいこまれた。 「シェヘラザード君」ゼーレンが秘書をよんだ。「スパイ光線でオ オージュールは苦い声でいった。「彼らには反連邦活動の容疑が ハラジュデーラを探査しろ。特に、左腕のプレスレッ ある。なぜ、報告しなかったのです ? 」 トを重点的に」 「市民バラジュデーラ。あなたはこの惑星の市民記録をスキャナー で閲覧した。この星がどんな人間で占められているか、ご存知のは 「はい、長官」 すだ」 「ところで、君が心をよまれなかったのは確かだろうね」 オージ、ールは頷いた。「連邦の構成に力のある方たちばかり「はい、長官。私の身分は知られませんでした。表層意識のプログ ラム効果のためだと思います」 だ。社会的責任という訳ですね」 「地位と権力は、責任と、そして敵を生みます。だが、それが理由「君は意識のある機械た。私は訓練をうけた人間た。そしてバザン のすべてじゃない。我々は選びあった仲間なのです、市民。この星コールもそうだ。しかし、彼だけが見抜かれてしまった。あのメ に住むには資格が要る。その資格は、単に権力の大きさや地位の高 ンは、・フレスレットで知ったという。私の知るかぎり、あんな小さ さではない、全市民の同意なのです。社交クラ・フの条件と同じ、こ な読心装置はない。大容量のコンビュ 1 ターを連動させる必要があ れは厳格なルールですが、だからフロレアル以下十一一都市も花園でるはずだ」 いられる。ところが、その中に毒々しい惑星暗黒などという思想が「我々の中央コンビーターを〈盗用〉したのかも知れません。ま 発生した。それが何か、またなぜであるか、我々自身が真先に知らた本人自身の脳が代用されている可能性もあります。とにかく、彼 は、その : : : 夜でも、プレスレットを外しませんでした。身につけ なければならないのです。少年たちの心を一時的に蝕む狂気か ?

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「淘汰、とは ? 」 「なるほど」ゼーレンは、やっと合点がいったという様子で、うな 「一族の主たった者が集まり、〈欠格者〉の精神を灼きつくす儀式ずいた。「君は〈花〉のシンパなのか。無力な物いわぬ花も、棘を です。当時、幼いダリオの中に可能性を信じていた私は、それを主もって人を刺すようになったかね。 : 第二のウェラネージュだ 張して、なんとか〈淘汰〉たけは免れました。しかしなお静的なメ な」 シ、ーゼランでは、迫害にちかい無慈悲な壁に鎖されて、ダリオは ダリウスは彼を見下して、不気味に笑った。「今度の小鳩は手強 たったひとりでした : : : 」 いよ、市民ゼーレン。さあ、答えは ? 」 ゼーレンは少年をにらみつけて、怒鳴った。「もちろん、〈拒 「あらかじめ言っておくが、ダリウス君」ゼーレンは、敵の掌中に否〉だ ! 」 ある武器を全く問題にしていないように、 いった。「君には抹殺命 令が出ている。級優先でね ! 」 「メシューゼラは」オージュールはいった。「求めて静謐な星で 「市民ゼーレン」ダリウスは微笑っていった。「学園の社会科でプ す。見えざる奴隷制を保っためには、変化があってはならないので ロフェッサー ・セルダンに、僕は、〈法は、法それ自身を超えられす。 ない〉と教わりましたよ」 銀河連邦が我々とはじめて接触をもった時、ひとつの契約が交さ サーヴィス ゼーレンは苦笑した。「君はよい生徒だったらし い、ダリウスれました。内容は、メシ、ーゼランは〈仕役〉として定数が連邦に 君。だがーーー」と、 いって彼は顔をひきしめた。 出向し、内部調査の任にあたる。見返りに連邦の保護下で、常に変 「ここは教室ではない。法を支え、法に支えられた体制そのものをらざるメシ、ーゼラを治めつづけるというものです。 根底から覆そうという、君のような存在に対しては、 ・ : 現実のカ その結果、メシューゼラは二千年以上、農耕文明の域を出す沈滞 だけが法となり、正義となる」 しており、そして、、ハラジュデーラ家は人間を選んで〈サーヴィス〉 「つまり、これは戦いた、と。そうですね、市民ゼーレン ? 」 におくる事になりました」 「そうだ。これは、戦争た」 「市民バラジュデーラ」ロ ーエングリンが口をはさんだ。「私には ダリウスも、もう笑いを消していた。「じゃあ、僕は全権大使よく判らないが、メシ = ーゼラ星で最もテレ。 ( スとして完全な形態 だ。そこで講和条件がある。聞きますか ? 」 をもつ者は、あなたの一族ではないのですか。その能力をもってす 「言ってみたまえ」 れば、そうした凍結の体制をいくらでも変えられるでしよう」 「五銀河年後に、みどりの世紀祭がある。その時、銀河連邦は慣例 オージュールは首を振った。「それはできません。種族全体の意 として、改めて惑星査定を行なう。それを今度は、インチキなしで志には逆らえません。というより、そんな事を思いつく者がだれも やってもらいたい。僕の側の条件は、それたけです」 いないのです。今でこそ私は、母星のやり方に批判的ですが、それ ネが

10. SFマガジン 1979年8月号

烈な生の世界に帰ったのだ。 しかし、俺が仕事でやむをえない量の血と悲鳴を流させても、俺の 心は痛みを感じない。一度植えつけられた認識の方法は変らない。 オージ、ールは力。フセルを開いて、ダリウスを抱きあげた。素肌我々がメシ = ーゼランであるかぎり、どんなに母星から遠くに在 0 が夜気にふるえているのを見て、自分の「ントを肩にかけてや 0 ても、これは誰にも変えられない特性なんだ」 た。手の下で、小さい肩が震えている。よみがえったダリウスは、 「でも、メシ = ーゼラを変えることは、できる : ・ : ・・ほくが」 まるで病気の仔猫さながらに弱 0 ていた。突然、オージ、ールはダ「なにを愚かなことをいいだす ? 」 リウスが、途方もなく愛おしくなった。彼は、怯えたように、 「ぼくがメシ、ーゼラに行けば、あの星のしくみの全ては変わる」 と手をダリウスから離した。 「星の上空は連邦の殺人衛星でいつばいだ。それを突破しても、メ ダリウスはントの前を固くあわせ、俯いたなり、蘇生機械のカ シ = ーゼラでおまえを待っているのは、〈淘汰〉による確実な死だ」 。フセルに、カなく腰をおろした。 「〈淘汰〉で、・ほくという存在が減んでも、ぼくの精神は消えな 「オージ = 」やがて、彼よ、つこ。 , をしナ「ほくがゼーレンを射殺したと 。無菌室のようなメシ、ーゼラでは、外の世界の知識と思考が、 き = = = 彼の心には、死の直前まで、ぼく〈の好意と、そして驚きと彼らを癒す毒になる。・ほくに触れ、ぼくを殺す瞬間に、あの砂の城 があった」 は崩れるだろう」 「人間的な、実に人間的な感情だね」 「たとえ可能でも、俺が許さん」オ】ジ = ールの心の底に、どす黒 「ぼくは彼に何をしたろう。 = = = 最初、彼を証人に選んでいた。あい怒りがわいた。「また死の女神の腕に抱かれたりないのか。それ なたが来たので、彼は殺すことにした。彼が生命にかえて守ろうととも故郷が懐かしいのか。ダリオ、くだらない。あんな星、変えて した星を踏みにじり、彼の生命さえも、奪 0 た。その・ほくを、彼はやるだけの値打ちもない。俺は、豚の惑星とひきかえにするため 好きにな 0 た。・ほくは彼の最期の瞬間に、みどり全土の市民をこのに、おまえを甦らせたのではないそ。おまえは今、一切の血と土の 手で減ぼす仕事や、彼の陥穽にはま「た恰好が可笑しくて、大笑い呪縛から自由なんだ。断じて、 0 まらなく死なせやしない ! 」 した。彼が驚いたのは、その笑い声が、残忍な愉悦であることだっ たんた。なぜそんなことに驚く ? 何が意外なんたろう。それよ その所在すら不明である連邦政体の、加虐の暗い触手であるオー り、どうして自分を殺そうしている存在を好きになれるのさ , ・オジ = 1 ~ が、だれよりも銀河連邦の理念を正しく解していたのかも ジ = 。あなたには、これが判る ? 」 しれない。 「判らない」オージールは答えた。「おまえは , シ = ーゼラ連邦の必要は、まず何千年と続いた〈宇宙の覇王〉をめぐる星々 だ。そして俺も。奴隷である人間に対しては、愛も憐れみも、そしの争いが、それは永続できないという冷厳な事実から、次第におさ て憎しみも感じない世界の存在なのだ。・ : : ・俺はおまえが好きだ。 まり、〈支配者〉に代る〈調停者〉が要求された時にはじまった。 2 6