電送が終了した。 「パワー・オン ! 」 、つ . ア」よ と電送装置が作動を開始した。高々と尻尾をあげたま実験室は再び、しんと静まり返った。 長い長い沈黙のあとで、何かをとりなすような口調で、山下が言 まの格好で凍りついた馬の姿が、金色の光のシルエットと化し、 っこ 0 ・消えた。実にきわどいタイミングだっこ。 「まあ、とにかく、馬はとりのそけたんだから、半分は成功と言っ 「ふう・ : : ・」 てもいいんじゃないですかねえ」 三人の口から同時に、ため息がもれた。 システムが反転した。 苦虫をかみつぶしたような顔で、マクドナルド博士はしぶしぶう もう一方のステージに光が現われた。徐々に輪郭がはっきりしてなずいた。 くる。ちゃんと人の形をしているようた。山下が言った。 「その点は評価しよう」 「よし。今度はうまくいったみたいたそ」 ちらとみのりを見る。みのりは首をすくめた。博士はほとんど叫 三人の顔が期待に輝いた。 ぶような声で言った。 3 6
かで、連絡を保てる範囲内にいることにして、それ以上には、けっ してお互いに離れなかった。ぼくが最年少で二十七歳だった。セロ ニキは、ぼくの倍ちかくの年。べーカーは、その中間のどこかに位 している。この三人が、以前ほど重要でなくなるとか、面白いやっギャリー・キルワース Garry Kilworth だが、もう忘れられた過去の人物だ、と見られるときもくるのでは ないカーーそんな思いが、ちらっと、・ほくらの心をよぎることもな ート・ホールドストック、クリ 日本ではこれが初紹介だが、ロく いではなかった。しかし、地平線のかなたを求めて進みつづけるこ ス・モーガンなどとともに、イギリス (-næ期待の新人の一人で、す とで、頭がいつばいだったのだ。それがとっぜん、ここへきて落ち でに三冊の長篇が・ヘンギン・ブックスにおさめられている。一九四 目になった。これならアトキンズといっしょにあの谷へ、それとも 一年生まれ。本職は遠距離通信の技術者。一九七四年にヴィクター ・ゴランツ社がサンデー・タイムズ紙と共同主催したコンテス どこであれ、彼の死体の横たわっているところへ分けいっても、お トに、「ゴルゴダへ行こう ! 」という短篇を応募して入選したのが、 なじことだったかもしれない。 作家になるきっかけだった。タイムマシンで過去へさかのぼる観光 一週間もたたないうちに、みんなは空家に住みつき、家庭生活を 旅行団が、キリスト磔刑の現場を見物するという、皮肉のきいた作 整えはじめた。もう偵察員には用がなかった。必要なのは、商人、 品だった。ちなみにこのときの審査員は、・フライアン・オールディ スとキングズリイ・エイミス、それにゴランツ社のジョン・・フッシ 耕作者、それに家畜の世話をするものたちだった。もちろん、芸術 ュ。そして長篇部門の入選作の一つがクリス・ポイスの『キャッチ 家もしかりである。芸術を鑑賞する時間のゆとりができたのだ。い ワールド』 ( ハヤカワ文庫 ) だった。 まは余般と手仕事の時代だった。放浪の時代ではなかった。山また この短篇は、誌の一九八一一年二月号に発表された新作だ が、いかにもイギリス作家らしい手堅い作風で、好感がもてる。 山、新たな平原、広大な砂漠ーーみんな、うんざりしていた。だれ ( 浅倉久志 ) も、足を休め、手を動かしたがっていた。 ・ほくは、父が植民した例のファースト・シティで、ホログラムを 見たことがある。それは立体写真で、遠い地球の、山ふところに抱っていた。ひと目みて、・ほくは、この町が気に入った。落ちついた かれた町がいくつか写っていた。山々がとりまいているのは、地中白亜のたたずまいで、理にかなったっくりだった。 セロニキ、ペーカー、それに・ほくは、三人で共用している建物の 海と呼ばれる海だった。異星人の手になるこの町も、それらの町と 同じような作り方でできていた。自然のままの岩のへこみに、はめ外に腰をおろし、タ焼けの中に沈んでゆく太陽をみつめていた。あ こなようにして建てられた低い家。家と家とをつなぐ、迷路のようの光の網にかかって、谷間の向うのはるかな見知らぬ土地に、うま 。三人とも、そんな思いだった。 に曲りくねった小道、石段、狭い通り。遠くはなれたところから見く運んでもらえたら : 冫オ「きっと、小びとたちがいたんだ」・ほそっと言って、べーカーは、 ると、この町は不規則な形をした、とらえどころのない構築物こよ 解説人と作品 幻 2
だれにもよくわかっている事実た。なのに、なんで彼らは、ばかげ と続いた。粉塵がまだおさまっていなかっ キ、そしてペーカー た。教会の塔がやられたのだった。平穏なタ暮れは一変した。まだた罠をやたらと仕掛けて行ったのだろう ? 「一つだけだよーと、・ほくが言った。 見ぬ先住民から受けついだあの梨形の大鐘が、爆発したのだ。 「二つだわよ」セロニキがたしなめた。「フ = = ックもそうだった めちゃくちゃになった現場の調査が行われた。借りものの教会は 半壊になっていた。二つの死体が運び出され、なお一体が、崩れ落じゃないの」 「そうだ。フ = ニックもだ」べーカーが語気を強めて言った。 ちた石材の下敷きになっていた。 もちろん、ふたりの言う通りだ。町しゅう到るところ、そうした とうしてこんなことが ? 」セロニキが怒ってうなるよ 「いったい、・ 類いの仕掛けが何十とあるか知れない。夜に入り、明かりをつけて うに一 = ロった。 べーカーは肩をすくめた。ぼくは、「気違いの異星人め」とかな作業は続けられた。が、三人めのひとは死んでいた。三人めが見つ かると、ぼくたちは作業の手をゆるめた。べつにそう仕上げを急ぐ んとか、ぶつぶつ言っていた。 崩れ落ちて積み重なった石組みや材木を、上のほうから、てこをという仕事ではなかった。 片づけを終わらせるため、町じゅう総出の観があった。・ほくたち 使ってとりのける作業がはじまった。しかし、その下から生存者が ″なぜ ? ″との大多数は、無気力と無感動の生活におちいっていたのだが、新た 発見される見込みは、ほとんどなかった。だれもが、 な火も燃えはじめていた。大工や石工たちから、まえよりもっと大 う疑問にとりつかれていた。作業のあいだもずっと、その疑問は ・ほくたちの脳裏をかけめぐっていた。セロ = キは言いつづけるのだきく立派な教会に再建しよう、という声があがったのだ。もとの建 った。わたしたちは先住民たちに何の害も与えていない。それは、物には無かったようなステンドグラスを、と語るガラスエもいた。 0 新進女流作家の第一作品集 ! 一人で歩いていった猫 大原まり子 ハヤカワ文庫 JA ~ 人で 0 わた物 定価 320 円 幻 7
ズラビとの対話 アーリントン最後の男 ジョセフ・ディモーナ / 田日俊樹訳子定価一四〇〇円 日のケネティの命日を前に、 司去省次官補のもとに舞入一んだ 11 ・・・ワ 殺人予告の脅迫状 ! その背後に隠された大いなる秘密とは : 3 サハラの翼 一アズモンド六、クリィー / 矢野徹訳子定価一五〇〇円 年」朋アフリカレース中こー・丿・ : イ丿イ川となった中集機を叟して サハラ砂莞へ分け入った男たちを待つものは ? 巨匠の最新長篇ー マイクル・クライトン / 平井イサク訳予定価一五〇〇円 工業用ダイヤモンドを産出するコンゴの " 幻の都 ~ を求めて、三人 と一頭のゴリラは、コンビューターを一駆使した必鳬ーー 険に笊立っー・ 銀の三角 リイ・ケメルマ、イ藤幸蔵訳子定価一二〇〇円 世界の注目を浴びるユダヤ人の引 引の礎、 ユダヤ教とは何か ? 名 探偵ラビ・スモールか憂しこ ーオ際カて平易にその本を解き明す ラグトーリンの歌をお聞き今はなき麗しの星 銀の三角にまつわる悲しく美しい物語を 結晶風闇の星夢にまひるに金銀の四角三角無限角 さあ聞こう遙かなる時空をめぐる夢狩りの歌を A5 判 / 上製本 / 324 ページ カラーロ絵付 / 定価 1500 円 萩尾望都
O ・・チェリイ著 ーー色褪せた太陽ーーー ュ①『ケスリス』 ヒ②『ションジル』 ③『クタス』 的な価値が高まることと、それはまったく別 のことだからだ。 実際、新らしい女性作家たちの作品を読む のは、しばしば忍耐力の訓練のような様相を第 呈することになる。それは全体よりも細部が 優先するために、何を読んでいるか、わかり にくくなってしまうことが多くなるからだ。 図式的でわかりやすいことが、通俗的な にとって特徴的なことであった。人類の進化 の秘密や、宇宙の、異星人の謎や神秘もすべ て図式的に明らかにするものがのパター この一、二年、七〇年代の海外が急速ンであ 0 たわけだ。そしてそれは新らしい女に」 ) " ( ・ ~ 、 に日本に紹介されるようになってきた。これ性作家たちの作品とは、ほ・ほ正反対の方向に のではない。「砂漠の惑星」や「異星の人」、 まで導しか知られていなかった新らしい作家あるように思える。 ざっと、・ほくはそのような印象を持ってい幾つもこの作品に近い部分を持ったものを挙 や作品が読めることによって、現在のの たのだが、 O ・・チェリイのこの三部作はげることはできるだろう。けれども、・ほくが 形がより正確に見ることができるようになっ そうした印象を訂正するのに充分なものだっ この作品に新らしさを認めるのは、主人公の たわけだ。 七〇年代のアメリカが、女性作家の台た。つまり、これは女性の書いた新らしい冒一人である地球人が、異星の人間となるため 頭によって、かなりの部分を支えられてきた険なのだ。しかも、主人公は男性、地球の訓練の描写が、ヒロイズムとはかけはなれ ことはもう良く知られていることだけれど人と異星人の男性であり、一つの種族の衰退たところにあることからだ。ヒロイズムの欠 も、ここしばらくで翻訳された女性作家の作と再生を扱っている。そして全体を破壊と戦けた冒険。それは女性が男性を主人公に いのイメージが支配している。様々な描写のして初めて書かれるもののように思える。 品を読むと、明らかに幾つかの傾向を読みと 地球人の主人公の受ける苦痛は、明らかに ることができる。たとえば、ファンタシイ系中に、女性的なものが感じられるにしろ、全 マゾヒスティックなものだ。この作品の最大 の作品が多いことや、心理描写が目立っこと体の印象は骨太だし、何よりも面白い の欠陥は、セックスに関しておそろしく臆病 もっとも、第一巻の半ばすぎほどまでは、 や、女性の登場人物の深みが増しているこ と、それによって物語そのものが複雑化して物語の全体がめず、いらいらさせられるなことだけれども ( それはまるで十数年も前 が、それを越せば次々と読みたくなるだろのと同じだ ) 、それが歪んだ形で出てきて いること、それらは男性作家の作品にもうか いるのかもしれない。もっとも、それを否定 がうことのできる傾向だけれども、どうも女う。この手の冒険を男が書けば、ラ・フ・ してしまうと、この作品そのものが成立しな ロマンス的なものを混ぜたくなるだろうが、 性作家たちの力によるところが大きいように O ・・チェリイは、それを排除して徹底しくなるわけだし、女性作家たちの扱うセック 思える。 スが、異常な形になっていくのは、珍らしい 大ざっぱな言い方をすれば、これまでのてストーリイを語る。一人の地球人の男が、 いかにして、まったく異なる異星人たちの文ことではない。女性作家のにおけるセッ には欠けていた部分を埋めるのに女性作家 たちの力が大きく働いているということにな明と文化に同化していくか、その過程がこのクスの形は、それだけで一つのテーマになる が、ここでは、男性とは異なった冒険が 物語の中核を成している。 る。けれども、それが面白いかどうかという それはにとって、まったく新らしいも書かれていることを認めておくだけにしてお ことになれば、評価が分かれるだろう。文学 円 4
一人だけの軍隊 デイウィッド・マレル / 沢川進訳定価四〇〇円 〔映画化名『ランポー』東 宝東和配給 / 月公開〕警 , ーを殺して山中に从日伏した " 豕の血みどろの死 カ無頼船長トラップ プライアン・キャリスン / 三木鮎郎訳定価三六〇円 第二次大戦ド、自称中立の密へ : 。・髜長トラ フが英海軍に金でつられて繰り広げる大胆不 ・厖才の快海 " 津アク、ンヨン 敵な偽装作戦ー 華麗なる血統 シド一一イ・シェルドン / 大庭忠男訳定価五一一〇円 世界有数の製薬会社の社長となった美貎の女 性に次々と襲いかかる殺意の罠 ! 謎とロマ ンスを織リ混ぜて描く絢爛たるサスペンス , 〈月刊 ( 仮題 ) 〉 ォズのかかし 帆船ジェットウインド 〈ルイジアナ物語ぽ〉 移りゆく人びと ライマン・フランク・ポーム ジェフリイ・ジェンキンズ ・ドニュジェール 、第 0 好評発売中 ノルマン一百ー偽装作戦 ジェイ・ムズ・ ディ」朋夜フランスに日入し たユダヤ人特殊工作員のイ 定価四八〇円 スパイのためのハンドブック ウォルフガング・ロツツ 儿イスラエ す知られざるスハイのすべて 定価ニ八〇円 カ 絶望の航海 トマス & モーガンⅡウィッツ ~ 儿三ル年ドイツ国外追放の・ 3 ・ ユダヤ人を乗せた客船の悲劇 定価五六〇円 愛する者の名において マルタン・グレイ / 長塚隆二訳 ユダヤ人ゲ・ ' 一矢な . 毛白儿又ー ) にさ一オた " 者 功し、幸せな ~ 尓駐を一き ・アンリコが映画化ー 予価当丁各四〇〇円 スハイの ための ハントプノク 、、 A 材一 0 を
出るっていう話、聞いたことがあったわ」 ほんのかすかな震動も、回転のリズムも、乗組員の存在している 気配も全く感じられなかった。 「それですよ。それ」 「調査員。やめましようよ」 この船は死減していた。 いそいで ! 」 確実な死がこの船を占拠していた。 工務員のハミは、ふてくされるだけふてくされて、メーザー切断その死へ向って、五人は一歩一歩近づいていった。 器を組立てた。 三十メートルほど進んだところにラッタルがあった。 それをフェリー・ホートの原子力ュニットに結びつけた。 五人は一列になって上った。 プリッジ 二分後、 ( ッチの外鈑が溶融した。 ェシュティが言ったとおり、上層に船橋があった。 五分後、ハッチの二重ドアがすつぼりと焼け切れた。ドアはひる航法用コンビューターも、三系統通信システムも、すべてエネル がえって宇宙空間に消えていった。 テリーを使った非常灯だけが、また薄暗い ギーを失っていた。・ハッ ェア・ロックの内側のドアを焼き切ると、そこはもう船内だっ赤つ。ほい光を落していた。 船橋には何者の姿もなかった。 五人の上腕部にとりつけられた投光器の描く強烈な光の環が、暗「ハ 幽霊なんてどこにもいないじゃないの」 黒の中に人り乱れた。 リトル・ハラは工務員をふりかえった。 「まず船橋へ行こう」 ハミは沈黙したきり何も答えなかった。笑う者もいなかった。 五人は通路を進んだ。 「船内を捜索しましよう。監督官。どこかに船内の見取図があるは ェア・ロックが破壊されたというのに、非常灯もっかなければ、ずです。見つけて」 船内見取図は船長と主席宙航士と甲板長は、いつも身につけてい かけつけて来る者もいない。 なければならぬ作業備品だった。だが実際には、それは自分のロッ 「生存者は皆無ですな。このぶんでは」 カーの中にほうりこんである。 アビアが上すった声でささやいた。 「このタイ。フの船の中はよく知らないのだが、この通路はたぶん第しかし、はじめてその船の中に入った者には、案内者なしでは、 三甲板の左舷メイン通路だと思います。船橋はこの上ですよ」 もとの所へもどることもおぼっかない。その時役に立つのが船内見 丁シュティが自信なさそうに闇の奥をうかがった 取図だった。船内艤装を改造したときには、必す見取図も書きかえ 慣性航行中とはいえ、推進系統以外のシステムはすべて作動してることになっていた。 いる。だが、船内にはいかなるエネルギーも流れていないようたっ 「ありました」 アビアが分厚いそれを見つけてきた。 メイン・ナビゲーダー 4 2
ってきた。 所ではない。冬でも。フールにはいれると ついで、ウィリアムスン氏自 いうのは本当だそうだが、それは州の南田 身の運転する大きなビュイック第 : ' 部だけで、ノートン女史の住んでいるオ ン日 に六人乗り C フランシュ夫人に《、 ランド 1 ( ケー。フ・カナベラルとディズニ 1 ワールドが近い ) あたりより北では、 タケ ' ト夫妻にシ・ ( ノ夫妻 ) ・ , 、 で、氏の弟のジム・ウィリアム 一 ~ 二月の気温が零下十度まで下がるこ ウで スン氏が経営する牧場まで約五を、 ともあるという。大陸東海岸の気候のき 十分のドライヴ。着いたところ 一理びしさを見せつけられた思いであった。 はまさしく大草原の中の一軒家宿を、一 カイル氏は当年七十歳。アメリカ で、ここがつまりは教授が少年攣、 & の界黎明期以来のファンとして、また四〇 一ゴ年代末から多くの作家の処女出版を手が 時代を過ごした場所なのであ「・【を・ る。小型トラックの荷台の上に ラシけた「ノーム・。フレス」の共同経営者とし みんなですわりこんで広大な牧 て知られ、最近ではハムリン社から豪華 キャトル 草地に散らばる畜牛の群のあい なアート・・フック二冊を出し、ヴァーナ・ だを一巡。アメリカの「牛飼 トレストレイル女史 ( 故・・スミス い」の生活をまのあたりにするなど思い 氏の娘 ) の許可を得てレンズマンの続篇 もかけぬ体験だったが、そのあと氏は母・夫妻のこと三冊 ( ウォーゼル、トレゴンシー、ナド 屋の裏手にある・ほろ・ほろに朽ち果てた粗 レックの異星人レンズマン三人をそれそ 末な小屋へわたしたちをさそった。何と ワールドコンのあとフロリダまで足をれ主人公としたもの、うち二冊が既刊 ) それが第二次大戦前までの彼の書斎なののばしてホー・フ・サウンドにあるカイルを書くなど、。フロ活動にも手をそめてい だった。『宇宙軍団』など初期の名作は氏のお宅にころがりこんだのは、ルースる。ラジオ・ネットワークのオーナーた ここで生みだされたわけだ。「では処女夫人がアンドレ・ノートン女史と親交が ったのが悪質な乗っとりに遭い、このと 作もここで ? 」とロイがたずねると、氏あり、いつでも紹介するといってくれた ころ手許不如意とかで、決して金持ちフ は「はじめて作品が売れたのはまだこんからである。また大富豪の別荘地としてアンのお道楽仕事ではないと強調してい たが、それでも。フールのある家に住んで なものを建てる前のことだよ」といって名高いその地をひと目見たい気持もあっ 笑った。 いるのだから優雅なものだ。三日間の滞 たが、甘い期待はみごとに裏切られた。 インモ 1 ダ 夏場の南フロリダは高温多湿の沼沢地在中、サム・モスコヴィッツ氏の『不減 ストーム で、完全空調がないかぎり人の住める場の嵐』に書かれているような当時の状況
しかし、僕は情熱をこめてうなすいた。 口にされることには慣れていないのた。 「そんなことより、 「よかった ! 」 いい話がある。おまえさんの船で、素敵な体が 9 シェリフ イノシシが嬉しそうな声を上げたとたん、感覚の奔流がを襲っ見つかったんた。郡保安官は、一級体に匹敵すると言ってる。頑丈 た。例によって、前ぶれのない引っ越しだ。フィルターをとりはずだし、大きさも手ごろだ。空も飛べる。勿論、第六器官として使え されたように流れ込んで来た、はっきりした音、音、音。音はやはるものもついているそうだ。なかなかけっこうな体らしいぜ。今増 り、耳で聴くのが一番だ。そして、なっかしや目もくらむ光。正常産の準備にはいっている。ただしーーー」 な触感、よく理解できる信号に変調された匂い。ロの中のかすかな毛深いビ・ロック人は、親身らしく僕の ペンザのーーー顔に、 鼻面を近づけた。卒倒しそうな匂いだ。 ビ・ロック人は手回しよく、三十一級体を小さな沼地のそばに横「所有権は主張しないほうがいいぞ。シ = リフは気が立ってる。刑 たえておいてくれたのだ。僕はもどって来た五感の洪水に身をまか期短縮も取り消されかねんからな」 せた。第六器官なぞくそくらえ。どんなに大事な器官か知らない そんなけっこうな″体″を、千光年もの彼方から運んで来た覚え が、どうせ僕には使いこなせないのだ。ふくらんだ膀胱の感覚に歓はないので、僕は不思議に思いながら、ビ・ロック人のあとについ 声を上げ、そばにイノシシがいるのも忘れて、久しぶりの放尿を楽て着陸地点へ向かった。 ズの体からは抜け出せたものの、なや しもうとした時、僕ははしめて異常を感した。 みのタネは沢山ある。この体もその一つだ。いっかはペンザに返さ なければならないだろうが、その時、この僕はどうなるのか。手頃 この指は、この腕は、この足は この体は、違う。僕の体じゃな体を手に入れたとしても、ビ・ロック人たちが、この星から出し てくれるかどうかーーー何しろ、体はどんな体でも、ここでは貴重品 「これ、これは、ペンザの体だ . なのだ。三十級体に住みこんで母星にもどるのは、どうもそっとし ビ・ロック人は、空き家になった三十級体を、黄緑色の泥の中にないし 横たえているところだった。ここしばらくの魂の住処を外側からな あれこれ思い悩みながらの道中は、短かった。もっとも、往路は がめるのは初めてたったが、今はそれどころではない。 ミミズと化して草の間を這って来たのたから、帰り道が短いのも当 「僕の体は、どうしたんだ ? 」 然だろう。 「おまえさんの ? ああ、小さいほうのやっか。あれなら、三代目僕たちはすぐに、ワイン・レッドの草原に出た。五、六人のビ・ に使った奴が崖からおっことした。・ ( ランスをくずしたんだな。無ロック人 ( たと思う ) が、僕の船の周囲に群がって、地面の上の何 理もない。あんな反応のにぶい体じゃあ」 かを観察している。オレンジイノシシが大声をはり上げると、その 僕は声も出なかった。自分の体を、中古の乗り物か何かのように うちの三人が、手と、羽と、まきひげと触角を振ってあいさつを返
いかと」 「本当かね ? 」 と、マクドナルド博士。サトルは、とげだらけの顔をうなずかせ た。口を開くと、中はそっとするような真緑色だ。 「ええ。でも、うちは。ハラが専門ですからねえ。その前は、もつば ら菊でしたし : : : 」 と、考えこむ。 ごっごっした緑色の膚、鋭いトゲ。サトルは″怪奇サポテン人右の額に、綿毛につつまれた小さなっ・ほみが、びとっ芽を出して いた。腕組みをしたサトルが、うーんと唸ると、つ・ほみは目に見え 間″そのものだった。 て大きくなった。 「馬の次はサポテン」 「あっ : マクドナルド博士が、ゆっくりと左右に首をふりながら言った。 みのりが小さく叫んだ。 あきれはてたような口ぶりだった。 三人がじっと見守る中、サトルの額の上でつぼみはぐんぐん成長 「さすがの私も、こんな経験は初めてだ。いったい、 どうやったら こんなことが出来るのか、後学のために、・ せひうかがいたいもんだし、やがてぼっかりと花が開いた。闇の底に咲くような白く大きな 花で、黄色い花芯から、なんともいえぬよい香りが漂ってくる。 「えと、あのその : 通りがかりのサポテンがアきっと鍵穴か何「やつばり、どう考えてもサポテンの恨みをかうような覚えはあり かから入ってきてエ : ませんねえ」 顔をあげて、サトルが言った。額の花が、ゆらゆらと揺れた。 しどろもどろになって、みのりが言った。 「とっても、すてき : : : D 」 「サポテンというのはね、ミス・みのり」 みのりが、うっとりとつぶやいた。 マクドナルド博士は、気味の悪いくらいおだやかな声で言った。 「は ? 」 「普通、通りがかったりはしないものなんた」 「えーと、それじゃ、あの、あの : : : 」 三人の視線にとまどったように、あいまいな笑いを口元にへばり 「ぼくは、サポテンの呪いだと思いますね」 つけ、サトルが説き返した。 山下が新説をとなえた。 「すてきって、ひょっとしてぼくのことですか ? 」 「ううん」 「サトルの家は園芸屋をやってましてね、ひいじいさんか何かが、 みのりが、あっさりとかふりをふる。 その昔虐待したサポテンの恨みが、今頃んなって現われたんじゃな 「だが、あれは一体何なんだ ? あの化け物は ? 」 「ぼくの考えでは」 山下が静かに答えた。 「たぶんサポテンだと思います」 4 4 6