茶はいかカ ? 」 に近い。面とむかって軽々と話すものではない。そのためにこそヴ につこりほほえむ女をおれはあきれて見つめたが、やがて理解しイ デオチャンネルがある。それに、な・せまずお茶など飲まなくては 7 た。短い魔法は根底から消えていったのである。 ならぬのか ? たしかにいい味だったが。要するに女はパ を求めているのだろう。おれが・ハ ートナーを求めているように。ま 「いや」おれはけわしい声でいった。 「いっしょに飲食物をとる ? だけど、野蛮なことじゃよ、 オしカ ! 穴居人の習慣だ。ぼくはまだ : わり道をするべきいわれはない。 : すぐいっしょに衛生ルームへ・ 二人で皿をからにする。おれの気分は高揚してきた。高揚しすぎ 女はやわらかな徴笑をたたえたまま。おれも、怒りというのが夜たかもしれない。・、、 カそのことにはもう気づかないようになってい を迎えるのに適当な諧調ではないと気がついた。落ちつきを回復すた。女は立ちあがり、おれたちはねどこにはいった。はなやかなふ るのはむずかしくない。女の視線には、おれのはげしい反応につい とんとまくらっきの。発光・ハルーンの明りがすこし暗くなる。おれ ての責任感も驚きもない。 は女に手を伸ばし、そのからだのぬくみを感じた。おどろくほどか 「食物を摂るんじゃないのーーーお茶を一皿だけ。他意のないたのしんたんに、おれがろくにいじらないうちに、女のベルトがほどけ、 みよ。よろしかったら : : : 」 薄い衣がはらりとおちた。しなやかなからだをまさぐっていたおれ 女の視線には願いより命令があった。反対できない。用心しつつ の手は、左乳房の下ではたととまった。小さな刺青をみとめたので 女の前にすわる。ふつうならとうに女をだいているはずなのに、どある。竜の。 いぶかったおれはほほえむ女を見つめた。「なんだ こかおかしい。女は木製のようにみせかけた皿をさしだした。かぐ これ ? こんな野蛮なもの : : : 」 わしい、熱い液体がはいっている。さしだしながら一言もいわな女の黒い眼は、限りない誇りをこめておれを見かえした。「わた 。おれは女を見、お茶をちょっぴりなめ、ついで一口ふくんでみしは竜」 た。背景で妙なる音楽が奏されているようである。 おれにはわからない。女を見たまま、思わず首が横にふられる。 「お仕事は ? 」女はたずねた。 なんだか思考力がにぶってきた。 女の声にはふしぎなアクセントがある。むろん使っているのは・ハ 「わたしは竜。漫然と生きてるんじゃないの。わたしには目標があ チーク。コンビーター語から発生したわれわれの母国語。だがアる。わたしはそれを達成する」 クセントのつけ方が耳慣れない。むろん、どのメガロポリスにもそ反抗的な調子だった。おれは吹きだして、「ばかな。目標だっ れそれ特有のアクセントがある。だから、おれは変わったのだ。女て ? おれたちはね、おれたちのために生きる。何か望めば、その のふしぎな問いにおれは慎重にこたえた。おれの仕事のことをたずとおりになる : ・ : ・」 ねた者はまだない。こういうのはふつうではない。無作法といって ばかばかしい。おしゃべりのために女の横にすわっているんじゃ しかし、この女はふつうではない。態度がへんた。無作法ない。もっとましなことがあるのだ。それにしてもーー女の異様な 、、 0 たえ
機械的にこたえた。「おれの認識コードは : : : 」が、残りはのみ重くなり、おれの鼻をかすめて、細長いものが床に落ちた。格子だ っこ 0 こんだ。女のことが少しはわかってきている。だから問い返した。 「名前のことじゃないだろうね、まさか」 「これ以上だめだわ」上で声がした。「交替しましようか」 おれはにやりとし、「きみには重すぎるよ」 「名前よ」女はふしぎな陽気さをこめていった。一 「だけど、知ってるだろ。もう名前なんてないんだぜ。ずっと以前 「何いってんの。さっきはちゃんと支えたじゃない、あんたを」 「それもそうだ」 から。人間を区別、識別するには、名前だけでは不充分なんだ」 「だからどうだっていうの ? わたしの知ったことじゃないわ」 女を降ろし、今度はおれが慎重にその肩にのった。女はなんなく おれは指で女の胸をたたいた。竜のちょっと上のあたりを。「き立ちあがった。おれの重量など問題でないかのように。しかし、お れは女のことではそろそろ驚かないようになってきた。通風孔は五 みは名前をつけたんだろ ? 」 十センチに一メートル。指でさぐって、棒をつかみ、力いつばいひ 「リよ」 つばった。棒はまがる。頑丈な造りのはずがない。ななめ前方でき あ、そう」 「あなたもえらんだら ? 」 しる音がする。 「ばかげてる。なんで名前なんて必要なんだ」 「あぶない ! 」と、叫びざま、数平方メートル分の天井とともに墜 フラスティックのかけらが左下膊部に傷をつけた。痛い 落した。。 おれは途方にくれていた。こういう問題に直面したことはない。 アナクロニズムじゃないか。確実な死を目前にして、名前を考えるそこをなめた。さいわいすりむいただけ。しかし、歯をくいしば なんて : る。こういう種類の苦痛ははじめてのようなもの。 力がもどってきて、おれは起きあがった。絶望的に窒息するよ女は自分のベルトで包帯してくれた。「痛い ? すぐに直るわ。 り、疲労で死ぬほうがましというもの。「手をかしてくれ」おれはすぐに : : 」と、自分にいいきかせるようにしナ いった。「床から脱出できないだろうか」 「いや、竜娘」おれは女をなぐさめたが、ひどくばかげているよう いまさらかすり傷がなんだい カーベットをわきへまきあげる。床はまったいらで、溝ひとつなな気がした。「痛くないよ。それに、 いろんな家具がたちあらわれるところにも、だ。床がだめな ら、天井からは ? ほかに可能性はない。すべてためしてみた。壁「出られるわ」女は自信をこめていった。天井からはがれかかった の近くに空気とり入れ口があり、おれは女にたのんで肩にのっても。フラスティックが床までとどいている。「はしごみたいね。ためし らった。ゆっくりと膝を伸ばす。 てみるわ」と、身軽に、慎重に、登っていった。「あ、通風シャフ トよーーー・やったわ、やった、やった ! 」女の声はたかぶっていた。 「あったわ」女はいった。「格子よ」 「シャフ 女の指が鳴り、肩にかかる目方がへったがーー急にまた前の倍も「いらっしゃいよ」と、はやくもおれのわきにもどった。 7 7
トをつたわってけば、なんとかに出られるはずよ」 ノー ! するとすべては 認識は稲妻のように来た。「それかー 立ちあがったおれは、左手をこぶしに握って痛みをこらえた。 画策されたことだったのか ! 故障は計画のひとつ。プログラムさ 7 「よしきた、行く ! 」 れてたんだ ! 」 そのとたんである、シャフトから熱風の波があふれ出たのは。周おれは女を突きはなした。腕に痛みがはしり、女はクッションの あいだに倒れた。 囲でまぶしい光が爆発した システムがおのれを修理したのだ。 機械に特有のこれが当然という風情で、ふたたび機能しはじめたの 「そうよ」と、女はすばやく起きなおった。「認めるわ。でも、ほ である。 かにあんたを納得させる手があって ? システムはもうぼろ・ほろ 「生きてるわ、わたしたち」女はささやいて、おれの胸にもたれよ。古びて、いっこわれるかわからない。本当よ。ね、あんたが必 た。「生きのびたのよ、今度のところは」 要なの。わたしにはただの遊びーーそう思ってるの ? わたしたち その意味をおれは理解した。これまでシステムは一度も故障した竜にはあんたが必要 : : : あんたって、そこまでシステムペったりな ことはないが、いったん故障してしまうと、 いくどくり返されるかの ? 処理されちゃってるの ? わからないの : わからない。空気はみるみる澄み、裂けた天井と踏みあらされたク もううんざりだった。女にも、竜にも。「気ちがいだよ、きみら ッションだけがいまの事件を偲ばせるものだった。 は ! 狂人だ。偏執狂、・ハラノイア、アモキスト ! 」昔の人間につ いての知識が、命令に応じるかのように、心にうかんできた。「閉 おれはまばたきし、習慣どおり、人間が出逢う場合にノーマルと される距離をとったーーー三メートルを。が、女はまたすりよってき所恐怖症なのさ ! きみらはシステムのなかにいるのがたまらなく た。これだけの昻奮があったのだから、もう一夜をともにしたい気なったんだ。せますぎて。システムの力が理解できず、いつも人間 になったのか ? おれのうけた教育は女をしかるべき距離だけおしのなかにいなくちゃならない。できるならしよっちゅう誰かにさわ もどすよう命じているのだが、それができなかった。女があまりそっていたい : ・ : 」そう考えただけでめまいがした。「きみだって、 ばにいるので、おれは不快だったーーー女と何をすればいいのか ? おれと個人的つながりをもちたかったんだろ ? 」問うまでもなかっ しかし、同時に快感をもお・ほえた。女というものを感じとって た。女の顔を見れば答えはわかった。逃げるんだーーーおれは考え いたから。 た。ここからー 女はじっとおれの眼をのぞきこんで、「まだチャンスがあるわ。 通廊にのがれた。いいかげんな方角に走る。おれの思考の大浪に 急がなきや。誰にもわからないもの、システムが次の発作をのりきぶつかる。個人的つながり ! これが昔の社会をとんでもなく複雑 れるかどうか。ね、協力してくれる ? わたしたち、竜が独立できなものにしたてあげ、制御不能にしてしまったのだ。人間に不幸を るように・ わたしたちには迷路専門家が要るの。わたしだっ運んだとはいわずとも、たいていはその安らぎを奪ってしまったの て、もうひとりはいや」 。おれは走った。命がけで。原子化された社会でなければ、
トナーではな ・こ。どうしようもなく。 感じが魅力をたかめている。この女はたんなるパー 。今度はどんなことが起こるかと、おれは覚悟していたーーそし だけど、女はいった。「出るのよ。やってみなくちゃ ! 」 て、本当に : : : おれはくたくたになってねむってしまった。 おれの眼は闇に慣れてきて、すごくかすかな徴光をもみとめられ 女にゆりおこされる。眼をあけ、この無作法ぶりにうめき、何もるようになった。壁のグリーンの螢光である。簡便リフトのところ 理解せず、何も見なかった。あたりはまっくらだが、おれの眼はすへ行ってみたが、それが動くはずもない。狂人のように操作コンソ でにひらいていた。 ールをいじり回してみたものの、もとよりむだな話。こぶしで壁を 「憶えておいてね」女の声が耳もとでうったえた。 なぐる。すぐにあの殺人狂のことを思いだした。エネルギーの完全 起きあがったおれは、女の手をふりはらった。愛の時間は終わっ なむだづかいだ。空気は汚れてきたらしい。手でつかめるような感 たのである。アパートのなかは暗い。暗いどころではなく、おれたじた。むろんこれは錯覚。アパートはひろい。絶望の数時間、われ ちの呼吸、鼓動、ふとんのこすれる音以外には何も聞こえない。 われを呼吸させるに足りる。おれひとりならその倍もつわけだ。生 「ライトを ! 」おれは闇にどなった。が、音声コントロールは反応まれつきの一匹狼にはおかしなことだが、そして常識には反するこ しない。居住区画のコンピューターがだめになったにしても、メガ となのだが、おれは断末魔をわかちあえる人間がいてうれしかっ ロポリス全体をつつむやわらかな響きぐらいは聞こえるはず。これた。その期間がみじかくなるかもしれぬが。衛生ルームに走った。 は大システムの永遠の響きなのである。しかし、それすら聞こえな一滴の水も出ない。たちまち渇きをお・ほえる。何もひらかない。は 。空調装置の単調な作動音も。空気はよどんでいた。 ずせない。 突然におれはさとった、どんな危険にさらされているかを。シス 「わたしたち、最後の人間かもしれないわ」女がゆっくりといっ テムが死んだのだ。システムそのものか、少なくともその大半が。 た。「ほかの人はもう死んじゃったかも : : : 」 それでなかったら修理ロポットがやかましく作業にかかっているは「そんな」と、おれはさえぎった。「ばかな ! 」コンソールをいじ ず。いやだ、せまい居住区画で窒息したくないー システムの奥ふりつづけた。「数時間前に、ソニーのひとりとしゃべったばかり かいどこかで ! はねおき、三歩はしった。いまいましいまくらに つまずいて、べったりと倒れ、またはねおきようとする : 「映像でしょ ! 」 「あわてないで ! わたしだってこわいもの ! 」 いっときおれはたじろいだ。その前の殺人狂も幻影だったかもし トナーとねたんだ。あれ おれは気をとり直し、いっときだが、女をなぐさめてやらなくてれない。しかし、「百時間ぐらい前 はならないという奇妙な感情をおぼえた。救ってやらなければならは映像じゃなかったな。ぜったいにー それどころか、おれにはそれだけの力があるのだ、 「じやロポットよ」女は切りかえした。「でなければ、あんたには 5 ン」 , も。・はか、なー システムがだめになれば、おれたちは死ぬだけ区別がっかなかったのか : : : 」
「区別 ? どんな ? 」おれはびつくりした。ロポット女のことなどなかった。それは千年間も軽微なミスひとつなく機能してきたので 聞いていない はなかったか。しかし、事実はうけ入れなくてはならない。事実は 7 事実なのだ。おれはシステムについての失望を声を限りと叫び、 「魂。人間的反応。目的 : : : 」 トナーはぎくりとした。 おれは女を別様に解釈した。「すると、おれもロポットなのか な ? 」 そして、「前まえから予感してたわ。恐れていたの。こういう崩 「違う」女は否定した。「ロポットはそんなに昻奮しない。理由な壊を。機械がとまることを。誰ももう機械を点検、コントロールし く叫ばない。自分の運命をしずかにうけ入れ、ありもしない出口をなかったわ。システムの耳慣れた作動音で、みんなが、。 まとんどみ さがしはしないわ」 まそのときが来た んなが、ま・ほろしの安全感にひたっていた。い なんと非論理的な ! 人間の反応を模倣できないとでもいうのの。早すぎた。あまりに早すぎたわ。わたしたち、やれなかった」 か。だが、おれはロをはさまなかった。かたくしまった食物供給ス 「たれが ? 何を ? おれはいぶかった。女についてのなぞはいよ リットで手を血だらけにするのはよした。「そりや、きみがここで いよ深まる。 窒息するのは自由だ。とめはしないよ」 「わたしたち、竜が。わたしたち、機械から出たかったの。独立 「ごめんなさい」女はいった。「そういうつもりじゃなかったの」し、自分の生活は自分でつくりたかった。システムと遊ぶのはよし その声を聞いておれの怒りは消えてしまった。 てーーーシステムのおもちゃになりたくなかった。人類のためにあた らしい道をひらきたかった。地球から去って、ガニメデで新生活を 二人で壁を組織的にたたき回ってみる。肩と肩をつけ、歯をくい はじめるつもりだったの。数年だけ遅すぎた。人類史でいえば一秒 しばって、最初の小牢獄から脱出したらそこに何が待っているかは 考えないことにした。何が待っているかはわかっている。ひとけのぐらいなのに・ ないを日い通廊、闇中の迷路、そこをいく百キロメートルもさまよっ「数時間前なら、きみのこと、狂人と思ったろうな。きみから逃げ たあげく、飢えか疲労でひっくりかえってしまう。地表ーーメガロ だしたかもしれない。殺人狂のときみたいに」 ポリスの屋根へ通じるぬけ道があったところで、それからどうな「わかるわ。機械は住民をつくってるんだもの。あなたの暮らしは る ? 地表で生きのびられるか ? 鋼とコンクリートの荒野でつ・ らく。叫びさえすれば、なんでももらえる。自分の意志、自身の思 おれたちのーーー人類の運命はもはや変えるべくもないのだ。システ考以外はね。それでもし : : : 」 ムはどんなミスを犯すこともなく、おのれ自身を修理、コントロー 疲労の発作でおれの膝はがくりといきそうになった。体力をこれ ルし、地震を防ぎ、大きな隕石さえ、地球大気圏に突入する前に核ほど長時間、集中的に使ったことはない。使った効果は何もなかっ ミサイルで破壊してしまうというのに。人間の手がつくったこのすたのだ。横になり、肩で息をした。女は顔をよせて訊いた。「なん ばらしい有機体が死んでしまったというのか ? おれには信じられ ていうの ? 」
ルモール。広大な宇宙にあって、最も恐 そしてある夜、遂にシャリームの怒り娘に成長したーー母を知らぬままに。しか れられ、誰ひとり近づく者もない辺境のは爆発した。彼女のキッと見すえられた目し、大きくなるにつれて、自分が魔女の子 地。蜘蛛人間の支配するその星には、宇宙に、アズダーは金縛りに合ったように身動と呼ばれ白い眠で見られていることに気付 いた。それは目に見えない迫害として、彼 で最も貴重なものとされ″王冠″と呼ばれきひとつできなくなった。彼女は言う 「あなたを殺すことは簡単だけど、このお女の心に重くのしかかってくるのだった。 る秘宝が存在すると言われていた。 そのルモールの地に、大胆にもひとりの腹の子のために生きていてもらうわ。私はそうした中で、ヴァジドという男だけは彼 盗賊が侵入した。首尾よく″王冠みにたどここでアズダー家とラクシダンの谷に呪い女にやさしかった。アレイティスは彼に恋 り着き、それを手にした : : : 途端、彼の回をかけます。この子が幸せに生きている限した。 り、今までのように平和が続くわ。だけある日、悲しみにうちひしがれた彼女 りを光の嵐が舞いカオスに包まれた。ほう に、ヴァジドは彼女の母のことを打ち明 ど、もしこの子が苦痛や死を味わうことに ほうの態で脱出したのもっかの間、ルモー け、預った手紙を渡した。それにはこうあ ルの船が追ってくる。彼の 宇宙船はいまや崩壊寸前の 「愛しいアレイティス。私たちはヴィリア 状態にあり、止むなく近く 人なの。星や宇宙が住み家。だからあなた の有人惑星への不時着を試 ア を残したまま去るしかなかったの。さあア みるのだった。 レイティス、私のところへいらっしゃい レイティスの住むジェイダ 私の下へたどり着けるかどうか、それがあ ガー星へと。 なたのヴィリア人としての資格テストよ」 こうしてアレイティスの冒険の旅が始ま さかの・ほること十数年。 る。愛するヴァジドへの想いを振り切り、 ある夜、ジェイダガ 1 星に 遊牧民の住む西の山脈を越えて、ジェイダ 襯空から火の玉が降 0 てき ガ 1 から飛び立っ船を求めて : ・ 。それ て、ラクシダンの谷のかな 0 が、あの″王冠との出会いとなり、彼女 % 4 たに消えた。数日後、その ー地の支配者アズダーが奴隷女の踊りを見てなったときには、この家も谷も、何もかもの一部となる宿命にあるとも知らずに。そ してそれは、彼女が蜘蛛人間の標的となる いたとき、黒と白の縞のドレスを着た美しが崩れ去ることになるのよ」 やがて彼女は女の子を生み、アレイことでもあった。 4 い女が目にとま 0 た。この上もなく美しい / 女で、名前を〉リー、とい「た。ひと目テ→と名付けられた。一年が過ぎた頃、 ・クレイトンの処女長 「この子が女流詩人、ジョー 』イ て彼女を買った。 大きくなったらこの手紙を渡してね」と言篇となった本作 ( 一九七七 ) は大好評を博 冠レ それからの日々、彼は毎夜のごとくシャ い残し、ラクシダンから忽然と姿を消しし、現在第六作までシリーズ化されてい 王 る。久々の理屈抜きで楽しめる冒険活劇。 リームを抱き続け、やがて彼女が子を宿した。 の一 一度お試しあれ。 てもそれを止めようとはせず、抱き続けた 時は過ぎ、アレイティスは無事、年頃の いがために、胎内の子を憎みさえした。 ジ 泉本和 ー・ 97
ートナーにきめるものなのである。おれは自分のデータを打ちこ 「しや、コードをいうからね。それを先生に打ちこんでほしいん み、現実的な実体をということにし、半時間は待たされるだろうと 学′ . し 覚悟した。 「いいよ」と、おれはそれをうけとった。こっそりそいつをシステ ついていた。コンビューターの声ですぐに夜間用のダ・フル・アパ ムにチェックさせる。システムはそれを無害と判断した。 の下なので、ひとっ先の隣 ートにさしむけられる。おれのアパート よ、ソニ 1 」おれはいっこ。 室の簡便リフトで降りられる。女はまだ来ていなかった。おれはあ 「よかった。じゃ、あんたの問題のこと、話しあえるね」 のおれの部分に刺激性の香料を たらしいドレスをはおり、ア・ハ 1 ト 「問題なんかない」おれはこだわった。 まかせた。つづいて適当な舞台装置をさがす。自動的におれはお好 「じゃいいよーと、かれはスイッチを切った。 けっこう図々しい・せーーと、おれは考えた。ま、よかった。もうみの土星の風景を命じ、グリーン、黄、明灰色のしまと大赤点でお かれを照明させた。しばらくしておれは、凍った土星の衛星の表面は お前さんとかかわりあいになることはない。次にはシステムはほ 愛の場所として適当でないことに気づき、急いで無難な草原を。フロ のソニーをおれとつなげるだろう。むろん、年をとってからロポッ トの先生を。フログラムし直してしまうことが予定に組まれているにグラムした。標準版のやつを。背景に樹々がならび、蝶が飛び、花 しても、だ。 内の隔壁がなくなって、そこに女が立ってい 仕事と対話をすませると、また空腹をおぼえた。食欲増進の舞台背後で音。アパート 装置をアレンジもしないで、棒状の凝縮ロ樶を一本さっさとたいらた ! 歓喜のたかぶりがおれをゆさぶる。淡く光る絹の衣が、女の 丿ットルの滋養ジースを飲んだ。トイレに行ってさつばり肉体をきわだたせている。髪はまとめて結び、につこりと、「よろ し、殺菌水でロをすすぐと、隣室で横になる。かなり疲れていたらしいの : しい。すぐねこんでしまったから。 じれったく手をふって、おれは不似合いな草原を消した。それと 二時間後にめざめると、女が欲しくなった。半分ね・ほけて起きあ同時に女の舞台装置が居住区画じゅうにひろがる。しかし、たいて がり、よろよろとメインルームへ。希望を。フットインする。 いの場合とは違い、その外まではいかなし 。淡く照明された部屋に ナーを。へテロの。ちょっとためらってから、欲望の対象を思いえはいくつか発光ノ くルーンがあったが、おれはそのひとつのなかに立 がこうと努めた。昔ながらの問題である。いちばん良いタイ。フは需っていた。壁をひかえめに飾る装置は、第二種の迷路を連想させ 要が多く、本人もおれのような二流。ハ ートナーを望んではいない。 た。材質の。フラスティックは上等な布に似せてある。いくつものク めだっ女の子を所望すれば、ことによると数時間も待たなければな 。ットにちらしてあっ ッションがよく考えられたパターンでカーへ らない。そういうのがおれみたいなのにも食指を動かし、おれの番た。 が回ってくるまでに。だからたいていは、自分と同じ年齢クラスの おれのパートナーは優雅にそこへすわると、気軽にいった。「お 3 7
ホイドは っしょにいた。 : めるのだった。サルよりわるいとポイドはため息をついた。このグを集めてふかふかの枕をつくるときも、 ループは家族なのか。だとしたら、血のつながりというわけだ。そ食べやすく切った。 ( ンをアリスに分けてやり、できあがった枕を欲 しそうにしているのを知るとーーアリスはポイドの枕をとったりは れだけは忘れないのか。 いわねえというように触れるだけだったーーーア いっしょに暮らすうちに、彼らが簡単な意志伝達の音声を発してしなくて、これ、 リス用にもうひとっ作ってやった。アリスはうれしそうに笑って、 いることにポイドは気づいた。行くそ、とか、待て、とか。あるい それを抱きしめて眠った。ポイドは父親のことを思い出した。 はそれをくれとか、あげるとか。動作に関するものだった。きれい だとかうまいとかいう形容語はなかった。食用樹を示す言葉や、私 ( いろんなことを教えてくれた。牛の皮のはぎ方、皮を裂いてロー や君という指示語はあるようだったが、名前はなかった。それでけブを作ること、皮の袋を作ること。干肉の作り方。天候の見方、砂 っこううまくやっていた。不便がないから、複雑な抽象語は生まれ漠で水の匂いをかぐこと。雨がくるそ、と親父がいうと、必ずその ないのだろう。ポイドはグルー。フの六人にごく自然に名をつけて呼とおりになった。ナイフの使い方。馬の機嫌のとり方。牛をうまく 追う方法。学校では教えないが、生きるためにはそういう知恵が不 び、評 ロりかけた。 可欠だ。おれはそんなものは必要ないと思っていた。田舎で一生を ″長老″は、その名以外に自慢できるものをもっていなかった。い いまになって、どうしてだ、あそこが つもグループのあとにつき、おこ・ほれをもらっていた。グループのおえるつもりはなかった : みんなは老人をうとんじてはいなかったが、とりたてて世話をするむしようになっかしい : : : 初恋の相手はアリス。いまはあの家の近 : ほんと くで、農場のかみさんになって、働いているのだろうな : 風でもなかった。 ″ゴリラ″はたくましい男だった。力で枝を折り、高いところの実に、このロをきかない少女はアリスによく似ているーーだがもちろ 〃はそのん別人だーー・・人生はやりなおしがきかない。アンと出会ったのは田 をとった。それだけが取り得のようだった。″チャーリー 舎を捨ててからだ。どこだったろう ) 反対に、高い果実に手がとどかなければ、あれはすつばいにちがい アンのことならなんでも知っているはずだった。ポイドは、妻の ないという顔をしてあきらめるタイ・フだった。三人の女は年齢にひ らきがあった。いちばん年上の″ふくろう″は頭のいい、初老の女ことを忘れかけている自分に気づいて愕然とした。枝を切りとる と、ポイドはアンの顔を刻みはじめた : 主人といったところだった。このグループの主人と思われた。″レ ディ″はつんとすました冷たい感じの女だった。金ふちの眼鏡が似久しぶりにゼリー羊と出会った。パロだった。湖で網を投げてい るとパロが水面から顔をのそかせた。 合うな、とポイドは思った。 そしてグループのなかでいちばん若い″アリス″は好奇心の宿る〈燃料をあげてもいいよ〉 ポイドは網を引き寄せる。二匹の銀の魚がはねる。アリスが楽し 4 黒い物でポイドをいつも見ていた。ポイドのわきで、ポイドのやる ことを黙って見つめた。パンの実をナイフで裂くときも、その繊細そうにそれをつかまえた。
は言った。あくまでも重傷を演じたいらしく、包帯を巻けと言いは食をおえるころ、夜になった。あたりは完全な闇にはならなかっ った。着陸のやり方がいかにへただったかをポイドに思い知らせるた。空には薄い黄緑色の螢光雲がいく筋も出ていた。ときおり高空 2 2 ためにも、絆創膏ではためなのだった。ポイドは逆らわす、おおげに白い雷光が走った。逆立ちしたビー ーの尾翼が風に吹かれて、 さに包帯をつかった。熊と格闘したかのような怪我人が出現した。 音の出ない口笛のような音をたてた。熱い風だった。むし暑く、夜 ソーンはビー ーの窓ガラスに自分の顔を映してうなずいた。そしになっても冷たい風は吹かなかった。 て、顔に傷をつけたのは、子供のころに階段からおちて以米たと言 った。ソーンは包帯姿の自分を見つづけた。やがて、血は止ま「た夜中にひどい砂嵐がテントを襲った。ソーンは一晩中、生きた心 らしいとつぶやいた。白い包帯に赤い血がにじんできやしないかと地もなく、テントが吹きとばされないよう支柱にしがみついてい 心配したのだった。 た。ポイドは、自分が立てたテントが簡単に倒れるはずがないと言 ( あれはいつのことだったろう ) ソーンは包帯にそっと手を触れ い、二度三度支柱を強くゆさぶってみて、眠りにおちた。 た。 ( 階段からおちたのは。子供のことだからさほど痛みは感じな 朝、昨夕と同じ景色のなかでタ食と同じメニューの食事をとっ かったはずだ。身体はやわらかいし。しかしだれも助けにとんでき た。ソーンはあきらめきれない様子でビー ーのキャ・ヒンに乗りこ てくれなかった。たしか黒人の女中がいたはずだ。泣きわめいてい み、無線をいじった。ポイドは重い荷をかついだ。ソーンはサ・フザ るわたしを助けたのはその女だったか。そうた、その女が階段からッ クとライフルを肩にした。ポイドは手帳を出し、コンパスで方角 突きおとした、とわたしは言った。だれも助けにきてくれなかったをはかり、記した。ビー ーの機体をなでて、それから歩き出し 腹いせだ。まだ五つか六つのころた。ママは怒って、その女を首に こ 0 ノーンよビ ーをふりかえり、ふりかえり、ポイドの後につ しようとした。親父だ、反対したのは。女中がそんなことするはすづいた。ビ ーぶーはすぐに砂の大きな起伏のかげに見えなくなっ 、刀十 / 【し ジュリアンは自分で転げおちたのだ、階段からおちるなん て、馬鹿なんだ、放っておけ、と親父は言った : : : 。親父には泣い 奇跡のように森があらわれたのは、歩きはじめて二時間とたって ても通じなかった。あの男はわたしを憎んでいるようだった。いま いなカった。岩のごろごろしている小高い丘で二人は休息をとっ でも、わたしの会社のやり方が気にいらないらしい。負けるもの た。ソーンはひどく汗をかいていた。水は、水筒一個と、ポットに か。いっか、おまえは正しかった、と言わせてやるんだ ) いれたコーヒーがあるだけだった。酒はーポンが一本。ソーンは 「もう夜だ。今夜はここでテントを張ろう」 それをがぶ飲みしようとしてポイドにとめられた。 ポイドが言った。 「のどが渇くそ。水を無駄にする真似はやめろ」 空は赤黒く変わっていき、楕円にひきのばされた血の色の太陽が 「水ならあそこにあるさ」 沈む。ポイドがテントを張り、ソーンは豆のカンヅメを開けた。タ ソーンは森の方を指した。ポイドはソーンの荷から双眼鏡を出し
阯レヒウ こう。出しおしみすることなく、次々と場面「あなたがそんな卑劣な男だとは思わなかつを折りこんたようなこの堂々たるロマンス ーゴー賞を ・、、幾多の強敵を押しのけてヒュ を変え、シチュエーションを変えていく物語たわ」 を読むだけで、価値がある。 ( 色褪せた太陽 と吐き出すように言う。男は二、三分間相得たことがそのことを証明しているだろう。 そして、本書の楽しさを十分に認めつつも、 ①『ケスリス』②『ションジル』③『クタ手の言うことに耐えているが、やがて、 日本ではまだまだ真のウケ方をしないだろう ス』 / 著者日・・チェリイ / 訳者Ⅱ宇佐「もうわかった。それがきみの本心なんだ 川品子 / 『ケスリス』 ・三六〇頁・ \ 四一一〇な。今夜は最初からそうやって・ほくを侮辱すとも思う。日本の読者がロマンスを嫌いなわ けではない。ただ欧米人の歴史的な、″感情 / 『ションジル』 ・三八二頁・ \ 四四〇 / るためにそこに坐っていたんだ ! 」 『クタス』・四二二頁・ \ 四八〇 / 文庫 / 早 などとわめきちらして決然と席を立ってしの起伏の激しいスト 1 リイ〃に身をまかせら 川書房 まう。二人とも自分の肩ごしになおも悪態をれないのだ。 つきながら、男は両手をふりまわし、大きな 日本人の〃伝統的な〃感情表現は、それを 足音を立ててドアに歩みより、女は一層かん表現しないことを基本としている。だから、 高い声を上げてテー・フルの上の食器をなぎ払五分前まで仲の良かった友人たちは、急に相 う。激しくドアのしまる音。わっとテープル手をののしり合ったりしない。そしてそれは ストーリイにも反映される。 に泣きふす女。 『雪の女王』は、骨格をアンデルセンの同名 と、こういう場面を見てしまうと我々はお 手上げである。だって彼らはつい五分前に再の童話に材を取っている。ぼくは最近、脚本 というものに興味を持っているので、「脚 会の涙にくれ、仲直りをしたばかりではなか 色」という観点からこの話を眺めてみた。前 伊沢昭 日本人の感情表現は、かくも見事にエキセ半は、みんな不幸になってゆく。ひたすら不 ントリックではないだろう。そんなことは比幸に向かって邁進してゆく。ここらへんの色 づけというのは、例えば早坂暁の一連のシナ 外国の映画を観ることは、もうとうに・ほく較文学論などという以前にとうにわかってい リオ作品と比較してみると大変おもしろい らの日常生活の一部になっているけれど、そることなのだが、映画を観るたびに、なるほ れでもときどき飲みくだせない違和感に出くどなあと実感する。そして、こうした ( 理性 わすことがある。それは、な・せ欧米の人間はではなく ) 感情の培地が異なることが、スト 1 リイというものの捉え方をかなり違ったも ああ急に烈火のごとく怒りだすのか、という ことである。生まれたときから洋画で育ってのにしてもいるだろうなあと想像するのであ しまった・ほくより若い人には、一種の〃映画る。 的文法みとしてすんなり受けとめられている『雪の女王』を読んでいても、そんな感想を第 かもしれないが、意識して観てもらえば、少禁じえなかった。著者は女性である。アメリ なくとも我々日本人の日常とはかけ離れた世カ界に女性が台頭しはじめて、アメリカ 界がそこにあることに気づくだろう。なごやはどんどんファンタジイの色を濃くして かに食事をしながら談笑していた二人が、あ いった。科学的知識の影響から離れてみる るほんの一言をきっかけに顔色を変える。女と、合理主義の権化のようなアメリカ人も結 はナプキンでロをぬぐいながら、嫌悪の情を構古典的なロマンスを好んでいるのだなあと あらわにし、 思う。恋愛譚に様々な騎士物語のエピンード ジョーン・・ヴィンジ著 『雪の女王』 雪の女王 、 = : ををを 0 イを第 ヒューコ賞受賞作品 アンデ外・センの 0 イネ品に※け み・な燐を台に、一人少のを なる秋をる S ドファンタジす 必 : 投校占 / ネ噎ま 円 5