部がおなじみだった。ある場所に何がはえており住んでいるか、あとしてだが。けれど何十年来、その回数はとても多かった。フィル るものがどこにはえており住んでいるかを熟知していた。周辺数平がでかけて以来ず「と、その訪れたたくさんの惑星や、乗船した宇 9 方マイルにわたる土地にひそむ秘密をたくさん知っていたが、その宙船のことがわかっていたーーそのすべてをフィルの目を通して見 全部というわけではない。だれだって、すべての秘密を知ることなたし、フィルの頭を通じて理解もし、おとずれた土地の地名を教わ どできない。 、各地でのできごともフィルが理解するとおりに理解したのだっ た。会話というわけでもない。おたがいに話をかわしはしない。話 自分はふたつの世界の最良の部分を手に人れたのだ、と思った。 ふたつの世界のこと、自分とフィルとをむすびつける秘密のきずなす必要などないのだから。フィルのほうから話しかけてくるわけで のことは、アンダースンにもしゃべらなかったし、今までだれにもないのに、フィルが何をしているか、どこにいるか、何を見ている 、。 : はつぎりとわかるのである。フィルが何度か帰郷したおりに しゃべったことがない。小さかったころからすっとなれ親しんでい たから一度も奇妙に感じたことなどない、秘密のきずなだ。離れたも、その件については話が出なかった。おたがいに納得しているこ ところにいても、相手が何をしているのかわかる。ふたりにとってとなのだから、議論にもちだすまでもない。 はべつにおどろくような事実ではなかった。ごく当然のことと受け第午後もなかばになって、おん・ほろ自動車が門の前に止まり、せき 川の上流に住 とめていた。何年も後になって、ある一卵性双生児に関する研究をこむようなモーターの音がどもって消えた。近くの小 学術誌で読んだが、その学問的結論は、そのふたごがなんらかの未むジェイク・ホ。フキンズが小さなかごを手に降りてくる。テラスに 知の方法で、おたがいのあいだだけに通じるテレバシー能力をもっ来てかごを置くと、椅子にすわった。 ているようだ、というものだった。 つまり、まるでふたつの肉「ケイティに。ハンときいちごパイを持たされたんだ。きいちごはこ 体のなかにひとりの人間が住んでいるようだというのである。 れでほとんどおしまいだ。今年はできが悪かったよ。夏に雨が少な 自分とフィルのあいだに通じているのも、きっとそれなのだろすぎたんだ」 う。テレ。 ( シーなのかどうか、たまたまその雑誌を手にとるまで気 「わたしも今年はきいちごっみをほとんどしなかった」とライハ にとめたこともなかったのだが。テレバシーのような感じはぜんぜ トが言った。「一、二度しか行ってない。むこうの尾根のが最高な んしない、と椅子にゆられながら思った。だって、テレ。ハシーとい んだが、あの丘にの・ほるのが年ごとにきつくなってるんだ」 うのは、精神的な通信を意図的に送ったり受信したりすることでは「きつくなってるのは、みんな同じさ。あんたもわしも、この土地 なかったか。こちらのはただ、相手がどこにいて何をしているのかでずいぶん長生きしているんだから」 、 0 0 、 / イづくりにかけては彼女 わかるというだけだ。小さいころそうだったし、そのあともずっと「ケイティによろしく言ってくださし 同じだった。いつもつながっているというものではない。継続的ながいちばんだ。。 ( イは大好きだが、自分ではまずつくらない。多少の 回路の接続とはちがっていたーーーそれが回路の接続のようなものだ料理はもちろんするけれど、パイは時間も手間もかかりすぎるから」
ことができる。造形力にひじように富んだ、完璧に達するまで何度が、そのひとりができるというのは、種族の他の者ができるという でもやりなおしのきく、芸術形式をつくりあげることができるんでのとはちがう。それはおそらく天然の能力であって、二度と出てこ 5 す。そして完成したあかっきには、磨減や盗難のおそれもまったく ないものかもしれない。知るかぎりでは、かって一度も出ていな 。もし出ていたとすれば、エドがその能力を自分自身にさえかく 「ほかの用途については思いついてもいないのかね」とフィルが言していたように、自身に対してすらかくしおおしたんだ。そんな能 力を受けいれない、人類の条件反応のために」 った。「戦争につかったり、泥棒するのに利用したり : : : 」 〈追跡者〉は、猫をかぶった口調で言った。「いわれのない中傷「でも、何十年ものあいだずっと」と〈追跡者〉が言った。「何十 年もずっと、この人はあなたを今見るとおりの人間にしておきつづ を、高貴なわが種族にこうむりますね」 「そうだとしたら申しわけない。無礼な言い草だったかもしれなけました。それを考えれば : : : 」 「それはちがうーとフィルが言った。「・せん・せんちがうんだ。エド 。さて、ご質問については、率直に言って、答えられないんだ。 のほうでは、意識的に努力してはいない。ひとたびつくりあげられ つまり、教えるのは不可能だと思う。エド、きみはどうだ」 ートはかぶりを振った。「きみたちふたりの言い分が正したあとは、わたしは自立しているんだ」 いものとして、フィルがわたしの分身だといわれても、どうしてそ「おっしやるのが本当だと感じます」〈追跡者〉はかなしげに言っ、 た。「あなたは何もかくしだてしていない」 んなことができたのか見当もっかないとしか言いようがない。わた しがしたんだと言うのなら、そうなんだろうが、それ以上は知らよ オ「感じるんだって ? 」とフィル。「心を読んでいるーー人の気持ち 特別に何をしたということもない。特別な手順なんか知らなを読んだんだね。なぜ、銀河のはじからはじまで追ってきたりせ 。やりかたもぜんぜんわからないんだ」 ず、ずっと前にわたしの心を読みとって決着をつけなかったんだ 「そんなばかな」と〈追跡者〉が言った。「ヒントか手がかりぐらね」 いはあるでしよう」 「あなたはしっとしていてくれませんでした」なじるような口ぶり 「よしわかった」とフィル。「やりかたを教えよう。 いくつかの種だった。「わたしと話してくれようとしなかった。この問題を心の をえらんで、二百万年ばかり進化するのを待てば結果に到達できる正面に思いうかべてくれなかったから、わたしには読みとるチャン だろう。できるだろう、というだけだよ。確言はできない。えらぶスがなかったんです」 種をまちがえてはいけないし、それが正しい種類の社会的心理的圧「こんなかたちで真相が明らかになったのは申しわけない。けれ 力を受け、その圧力にまちがいなく反応する頭脳をもっていなけれど、わかってもらわなければならないが、今まできみと話をするわ ばならない。そしてこれらすべてが果たされれば、 いつの日かそけにいかなかったんだ。きみはうまいことゲームをすすめたね。と の種の一員が、エドのやったようなことをおこなえるだろう。だても楽しいゲームだったよ」
ーと同じくらいに愛している妻と、そ が、定期的に稼げるというものではなかった。長い冬には鮭のカンおれの家と、幼い娘と、ビー ヅメ工場の冷凍庫の番人でいることが多かった。飛べない日も、しの腹のなかのまだ見ぬ子と、ようするにおれの愛するすべてのもの 2 2 かしポイドは愛機の整備を怠らなかった。古い旧式のビ ー・ハーはあがあるところだ。そのうちに燃料がっきた。下は荒れはてた砂と岩 ちこちガタがきているとはいえ、ポイドの愛情によくこたえた。ボの世界たったが、降りなければ墜ちてしまう。ソーンはあらんかぎ イドには、モーガンのように愛機の不調で客を他人にまかさなくてりの雑言でおれをなじった。霧のなかから現われたのがミコャンと はならなくなる事態など信じがたく、 パイロットの風上にもおけな かスホーイとかが設計した戦闘機でそれがいきなり発砲してきたと いやつだと軽蔑した。やつはパイロットではないとポイドは思っしても、これほどではなかったろう。ソーンは半ば錯乱していた。 とういうことだ、どう た。モ 1 ガンは狩の案内人であって、飛行機に関してはド素人だ。彼はそのうち言葉がみつからなくなって、・ うことだ、と、ビ ・ハーが砂に突っこむまで叫びつづけた。おれは やつにとっては飛行機も車も同じなのだ。単なる道具にすぎない。 しかし自分は違う。これで飯を食っているプロだ。車でも、。フロのそれほど取り乱しはしなかった。不時着に適当な平面を見つけるの ドライ・ハ ーとなれば車への思い入れは普通の人間とは異なる。たとに忙しかったし、それに、奇妙なことだが、この事態をさほどおそ え愛車がどんなに旧式でもだ。 ろしいとは思わなかった。雲海の上を飛ぶとき、その海の下に人間 が住んでいるのを不思議に感じたことがよくあった。空はいつも別 霧を突き抜けた下には森も湖もなく、砂漠が広がっていた。ソー ンはこの異変にヒステリックに反応したが、 : ホイドがまっさきに考の世界であり、降りたとき世界がそのまま何事もなく存在している えたのは、燃料のことと、不時着のことだった。おかしなところに ことにいつもほとんど感動していたくらいだ。実際、雲の上から見 迷いこんだらしいとおどろくよりもまず、無意識のうちに着陸に適るとその雲の平面こそが大地であり、それより下になにかがあるな 当な地形を探していた。ようするに、とポイドは思った、燃料はまんて思えない。雲の上に宮殿が建っていないなんて信じられないく だたつぶりあるというのに不時着地を探すというのは、自分もまたらいだ。雲の切れ間から降下するとき、おれはときおり沈没してゆ ニックにおちいっていたにちがいない。 く不安を感じたものだ。だから、いっか、雲の下に別の世界がひら けていても不思議ではないと思っていた。それは夢であることを意 ( しかし、いっかこんなことになるという予感はいつも抱いてい た。砂漠の上空を飛びながら、ソーンの、「早くもとの世界へもど識しつつみている夢のようなもので、砂漠に突っこんだときもそん せ」という叫びをききながら、おれは霧を求めていた。もう一度霧な気分だった。夢ならやがて醒めるだろう、いつもそうたったし、 に迷いこめばもとにもどれるのではないかと思ったんた。これはい今回は醒めるのが少しおそいたけだと思った。だが、ビ かにも論理的だとおれは自分の頭のよさに感心したが、頭のよさををとらえそこねてパウンドし、機首を大地にめりこませ、ゾロペラ 証明することはできなかった。飛べど、上昇すれど、霧なんかもはをひん曲げて止まったとき、おれの夢は宙にとんでしまった。おれ ーの。フロペラが回転していることが条件たっ やどこにもなかった。もとの世界は消えてしまった。もとの世界。の夢はいつもビ 1 ・
しかし、 いったい何が僕をそんなに不快な気分にさせたのだろ確かに、びどく疲れているときや、頭痛や歯痛のひどいときに前 衛ジャズや現代音楽は聴けない。体が受け付けないのだ。 音楽は、いつも空しく空間に消えていく。文学のように文字に固 しかし、今日はスタジオの仕事を二本してきたとはいえ、そんな に疲れているとも思えないし、体調が悪いとも思えない。もっとき 定したり、映画や絵画のようにフィルムやキャイ ( スに固定したり できない。 もちろんレコードやカセッ 譜面という形では残せつい日だっていくらでもあるのだ。 よし、明日の朝もう一度聴いてみよう。 る。しかし、演奏という、固定の前提となる行為は一回性のもの それでも駄目だったら断わればいいのだ。 だ。フィルムのようにつなぎ合わせたり、絵や彫刻のように修正し たり、原稿のように消しゴムで消したりできない。一度出してしま った音は取り返しがっかないのた。そこがきびしさでもあり、面白強烈な悪夢に襲われて叫び声をあげ目を覚ました。体じゅうびつ さでもある。そして、音楽は音の並び方や重ね方で、人間の感情をしよりの気味の悪い汗をかいていた。時刻は九時。異例の早起きだ コントロールできる、不思議な存在でもある。 が、シャワーを浴びてさつばりしたかった。 僕らは小学生のとき、短調はもの悲しく沈んだ感し、長調は明る まったく、おそましい夢だった。 く楽しい感し、と教わる。しかし、マイナーの和音を聴いて悲しい 僕は地下鉄の先頭車両に乗っていた。乗客は僕ひとり。運転席の 感じを思い浮かべるのは、人間の勝手にすぎない。い ガラス越しに前方が見える。 人類の無意識の部分に遺伝形質として伝わってきた本能的な生理反地下鉄が走り出すと、ぬめぬめとした湿気つぼい内臓の内壁のよ 応なのだ。だから、民族や国家を超えて、マイナーの旋律が奏でら うなトンネルが蠕動を始めた。電車はしばらくは順調に走っていた。 れれば、誰でもみななんと哀愁を帯びたフレーズだろうと感じる。 大きなカー・フを曲り切ったとき、突然急・フレ 1 キがかかった。 さっきのレコードこよ、占 5 、 - 耳したところ、僕の心の内面をかき乱す電車が止まると、あたりはま「たくの無音状態になってしまっ 要素など、何一つなかった。ただのニュ 1 ーウェーヴ風のロックのレ コードにすぎない。 やがてトンネルの前方がぼうっと明るくなり、何人かの人間を乗 それなのに、なぜあんなおぞましいまでの悪寒に襲われたのだろせたトロッ 0 がゆ「くりと近づいてきた。トロッコが近づくにつれ て微かに音楽が響いてくる。 そのサウンドが耳に飛び込んでくるなり、僕は全身総毛立ってし まった。 あいつらた。あいつらの曲た。 やがてトロッコの上に乗っている人間の顔が見分けられるほどに 26
〈と臥う、だって ? 〉 いと言って、ロをつぐんだ。パロは慰めにはならなかった。 「うるさいな、ロを出さないでくれ。おれは どうすればいいん ポイドは森の住人の一つのグループと接触した。ソ 1 ンが殺した 4 2 だ。ほんとに帰れないのか」 若者の、例のグルー。フだった。彼らの行動範囲はさほど広くはなか パロは黙っていた。行こう、というようにゼリー羊があとずさっ った。グルー。フの外からポイドは様子を観ていた。実にのんびりし た。四つんばいになったポイドのまわりに砂がくずれ、ポイドの半た暮らしだった。朝は夜明けとともに起き、手近かな実をとって食 身を埋めた。 べ、森の中央湖でイルカたちが湖面をたたく音でそちらへ顔を出 し、岸にとびはねる魚をとってむさ・ほり食い、昼寝し、移動して、 ポイドは森にもどった。イルカに保護される身分になったことをまた食べて、眠る。彼らには、きのうもあすもないのだとポイドは ポイドはなさけなく思った。しかしどう感じようと、森の外では生思った。いつも、現在があるだけだ。自動的に動き回る、物体だ。 石ころと同じではないかとポイドはむしように腹が立った。 きられなかった。 そのうちに、ポイドはグループの一員として受け入れられたこと まったくの独りでも生きてゆくのに不便はなかったが、心を慰め に気づいた。二人の壮年の男、三人の女、一人の老人の六人は、ポ てくれる相手を欲した。 イドがグループの輪に入っても、もう警戒することなく、まだ少女 ゼリー羊・パロは話し相手としてはよかった。だがしたいにポイ , 口が自分を研究の対象として観察していることを強く意識らしさののこっている娘が。 ( ンの実をポイドに差し出した。ポイド するようになり、話していると自分がサルになったかのようなみじが「ありがとう」と言ってそれを食べると、みんなは笑った。知ら ないうちにポイドは涙を流した。複雑な心のうちがポイドにもっか めな気分に耐えられなくなった。 ーの燃料をくれないか」とポイドはパロに頼む。「定期的みきれなかった。 ポイドはソーンからぶんどったナイフでったをはらい、集める に飛びたいんだ。こんなところにとじこめられては窒息してしま と、それを編んで、網をつくった。みんなを湖につれていき、湖面 パロは色よい返事をしなかった。ポイドが自殺的行為に出るのでに網をうち、魚をとることを教えた。収穫は多くなかったが、みん 冫ないかとおそれたのであり、逃げられたくなかったし、化石燃料なは食樶をとることよりも、網をうつことを喜んだ。遊びなのだっ は手に入りにくく、ようするにパロはポイドを飛にすことの利益をた。無理もない とポイドは、はしゃいで網を投げては引き寄せて みいだせなかったのだ。 いる森のヒトを見やった。餌の心配がないのたからな。人間は飢え 〈そのうちにね、ポイド〉と・ハロは言った。〈それで、きみの世界を忘れると頭が鈍くなる。 では、一夫一婦制だったのかい ? 〉 その翌日になると、みんなは網が魚をとる道具であることを忘 ポイドはビ ー・ハ 1 の燃料をくれなければもうきみと話すことはなれ、それを不思議そうに手にとり、やがてそれをかぶって遊びはじ
は、結局は同じ距離であって、要するに / モノサシが変わっただけではないか 私は文学的作品につ との疑問を提出しておられる。 いてはまったくの音痴 視点を地球に固定して考えれば、たし なのだが、それでも かにそういうことも一一一口いうるだろうが 『ュリシーズ』は「 n 相対論冫 こおいては、視点が変われば世界 図書解説総目録」に そのものが変わるので、やはり同じモノ 収録してある。 サシで測って距離が変わった と表現 オデッセイと関係し したほうが良いであろう。 ているということと、 現代文学への影響が強 大ーーしたがって現代 まいどおなじみ、福井の田波正氏のア 日本にも影響あり イディアのなかのひとつ。 ということから ~ 負の質量の粒子がもし存在したとする 理ャリねじ入れたので と、外部からカを加えなくとも永遠の加 あるが、まさか『竜の 速が可能だーーーという奇妙な現象がおこ 7 卵』のような作品と関 りうるが ( たとえば拙著『タイムマシン 2 0 係するとは思わなかっ 惑星』参照 ) 、そのときその質量に電荷 LL 0 0 u た ( 怪我の功名である ) 。 を付帯させておけば、電荷の加速がなさ しかし、たとえば れるわけだから、電磁放射によって無か 研 ″意識の流れ〃といっ らいくらでもエネルギーが採取できるで あろう。 た手法の導入とちがって、『電の卵』のう要素がたぶんにあるからである。 の 士ような関係のしかたをなんというのだろ 名案である。 原、つ、カ」ノ・・ 前に佐藤文男氏のご質問にお答えする では順序正しく : 石「文学作品を下敷きにしている」という 形でお話ししたように、電荷が加速され 言い方があるけれども、この場合はそれ れば電磁波が発生する。電磁波はエネル だけでは表現しきれない。 栃木県の大野雅彦氏は、ローレンツ短ギーの流れだから、それによってエネル 「文学作品と科学的に遊んでいる」とい縮でちちんだ距離とちちむ直前の距離とギ 1 が取り出せる。 SCIENCE
ニーはいろいろな点でぼくより利ロだった。抜け目のなさ、という点、たとえば教会のような、かなめとなる建物があって、そのまわ りの一定の範囲に、何らかの作用を及・ほしているのであろう。 点では、ともかく・ほくよりもっと幅広く豊かな知識をそなえてい た。体力は・ほくのほうが上だった。 ( これはよけいなことに思われすばらしい成育環境、温和な気候、身体にも精神にも病気のない ことなど、そこは、ほとんど天国と一一一口ってよかった。・ハイ・フルには るかもしれない。しかし、セロニキは女性だが、その気になれば、 いつでも、・ほくを二つに引きちぎることができただろう ) ぼくた人のよわいは七十年とあるが、このぶんだと・ほくたちは、好むと好 ちは、徐々に恋におちていった。そのためにかえって、ふたりの結まざるとにかかわらず、天寿をまっとうしそうだった。もちろん機 びつぎは強かった。 械仕掛けの殺人がないとしてだが、何千年もの歳月に耐えるよう異 町は、ぼくたちみんなに対して、じつに不思議な影響をあたえ星人独特のやり方で石を組んだ花崗岩作りの町を、植民者の粗末な た。それは消極的な影響であり、神や運命のせいにするもの、ある道具でばらばらにひき剥がすことは不可能なのだ。 いは、われわれの文化のなかにある神秘性からくる、とするものも ( 今にして振り返れば、先住民たちの作ったからくりの背後に、ど いたが、たいていのものは、この町のせいだと受けとめていた。 んなロジックがひそんでいたのか、多少は見えてくるように思え る。じっさい、老人たちは天寿を過ぎてもなおりつばに生き続け、 一年たっても、だれも病気にならない 、という事実がそれだった。 ふつう、これくらいの人口があれば、かならずだれか病気で寝つくしかも、体調がよく健康なのだ。われわれの間に起こった早死にー ものがでる。どの時期をとっても、ぼくたちはたいてい二十人を越ーそれに関節炎などの慢性障害・ー・・ーは、以前のわれわれの生活から える病人をかかえていた。ところが、旅の途中で病気になったもの尾をひいたものだった。いまやわれわれは完全であり、死ぬときに が回復するか死ぬかしたあと、もう病人というものはなくなった。 はろうそくの火のように、すうっと燃え尽きてゆくのだ。しだいに 精神に異常をきたすものも見られなくなった。時たま老人たちが身進行する癌に体をむしばまれ、やがて、掻きむしるような苦痛に 体機能の障害で死ぬことはある。そのほとんどは心臓マヒだった。 まれる、というようなこともない。手足のむくみ、悪性の疾患、持 しかし、老人たちでさえ、これまでになく体調のよさを味わってい 続する痛み、などもなくなった。おそましい心の闇をたどる孤独な よ航海者も、姿を消したのだった ) た。関節炎のたぐいに苦しんできた人たちは、全快とまではいかオ しかし、楽園にも、それなりの不都合があった。退屈でやりきれ くても、症状はよほど軽くなっていた。医者たちは、あがったり だ、と・ほゃいていた。骨折でさえ、合併症もなくすぐなおった。早ないのだ。セロニキとペーカーは、うんざりしていた。・ほくも、ふ こりほどではないにしろ、同じだった。 死にとしては、その年、ジョン・フェニックの一例を数えただけだ ・ほくがセロニキやべーカーと一緒にいたときだった。爆発音が町 った。ある婦人が、乾草置場から落ちて頭蓋骨を折り、死ぬと思わ れたのに、短い期間で奇跡的に回復した。谷間から離れて外へ出るの通りをつきぬけた。・ほくらは驚き、何だろうと顔を見合わせた。 と、空気が変わるような感じがするのだった。たぶん、ある中心地 われにかえると、・ほくは、まっ先きにドアの外へとび出た。セロニ 幻 6
全身をひどく重いものに感じながら、僕はペンザの椅子にへたり 僕は生右に首を振った。あり得ない。こいつがーー知的生物 こんだ。僕は少々、神経過敏になっていた。冷静さをとりもどし 8 小さすぎる て、今後の行動計画をたてる必要がある。僕はポケットから、無灰 ふいに、羽音は脅迫的に高まり、小・ハエが目の前を横切った。小 さな冷たい羽根が、まっ毛の先をかすめすぎたので、僕は思わず、タ・ ( コの。 ( ッケージをひつばり出した。火をつけて一本くわえる。 日常的な動作に安らぎを見い出し、僕が充ち足りた気分で深々と煙 小さくわっと叫んで身をのけそらせた。虫は一瞬、視界から消えた が、すぐにもどって来て、顔面から三十センチぐらいのところでホを吸いこんだ時、いまいましい羽音がかえって来た。 ハリングした。羽音のトーンが安定する。 鮮やかなグリーンの紙で巻かれたタ・ハコの先端スレスレを、 ( 工 の畜生がかすめすぎる。ドッ・フラー効果でもおこしたように、。フワ 知性的だ。 かすかに、僕の全身がふるえ出した。一秒、二秒・ー・・。僕は、身アンと変調された羽音が、僕の平和な気分を粉砕した。不安な気持 じろぎもせず、空中の小さな虫とにらめつこを続けた。真紅の羽根で、僕は ( 工の動きを追った。ちつばけな外見にもかかわらず、そ いつが何か邪悪な攻撃をしかけて来そうな感じがしたのだ。 を持った体長五ミリほどのハエは、なかなか飛び去ろうとはしな 。興味をひかれた様子で、じっと宙の一点に静止している。明ら攻撃はなかった。ハエは、僕の頭の回りを三、四度旋回すると、 かに、僕を観察しているのだ。僕は二度、セキ払いをしてみたが、尻下がりの曲線をえがいて端末のキイボードにとまった。そして、 ついに、高まる緊張に耐え僕が緊張をとかずに見守る前で、おかしな真似をはじめた。キイか 相手は動じなかった。七秒、八秒ーー・。 きれなくなった僕の方が、にらめつこに敗北した。このままでは催らキイへと、ノミか何かのように、ひょいひょいとびうつってみせ 眠術にでもかかりそうだったから、体力を総動員して両の眼球を動たのだ。はねまわる。ちょっと休む。またはねまわる。休む。金し かし、視線をそらしたのだ。僕は一所懸命、面白くもない。フラスタばりにあったように、しばらくそれを凝視しているうちに、やつの イルの床をにらみつけ、貴様は虫た。知的生物とは違うんだ、分を動きに規則性があるのがわかって来た。最初にとまるのがのキ イ、それからポードを横切って—のキイの上でしばらく羽をやす 守って、今のうちにどこかへ飛んでっちまえ、と念じた。 。、・、エは、このパターンを何度 祈りが天に通じたのか、数秒とおかず、。フーンという羽音はちよめ、、を中継してにもどる / も反復していた。僕の胃の片すみで、恐怖感がめばえた。 っと低くなり、さらに低くなり、やがて完全に聴こえなくなった。 僕はタイルのつぎ目を見つめたまま、ためていた息を吐いた。大丈偶然ではない。やはり、この ( 工には知性があるのだ。僕に何 夫だ、あいつはやはり、ちつぼけな虫にすぎなかったんだ、と自分か、メッセージを伝えたがっているのではないか ? 、、。—ーーどういう意味たろう。無意識のう に一「ロいきかせながら のろのろと僕の顔が上がり、さっきまで ちに、僕は声に出して唱えていた。 ハ丁がいた空間に、視線をとどかせた。 ビイアムだっ オーケー、やつはいない。 「。ヒイ、アイ、エイ、エム。—— :
人公はそれに手を貸そうとはしない。 「もどってください」声は低く、せまった。 だがこれは機械による支配に反抗する試みが失敗し、人間が敗北 だが、なぜかおれはそこに釘づけになっていた。動けない。長い ートピアなのではない。そうした反抗 するという意味でアンチ・ユ 通廊の奥を見つめる。通廊は数百メートル先でふっと右へ曲がって が組織されたこと自体が、変化を求め、なにか満たされないものを いた。と、そいつが見えた。せいぜい五十メートルぐらいはなれた 感じている人間の心を癒すために、機械があらかじめ仕組んだこと だったのかもしれないという意味でだ。 側廊からいきなりとびだしてきた。ごっい金属バイ・フを振りかざ これはけっして直接的な体制批判ではないが、現代の人類が直面 し、壁をなぐりつける。腹にひびく音。三度めで壁はうめき、破片 している管理社会への警告ととれる。の世界でもソ連の忠実な が地面に落ちた。そいつの叫びは人間のものとも思えず、内容を理 弟子であると見做されていた東独でこうした作品が書かれるように 解するのにしばらくかかた なったところに、重要な意味がある。われわれの世界ではさして珍 しいことではないが、この作家の特徴はいかなるイデオロギーから 「どうだ、このやろう ! スパイやろう ! ぶつこわして : : : 」 も自由な立場に立っているという点にあるだろう。こうした作家は 自分がくたくたになってぶつ倒れる前に、壁の一、二区画でも壊 けっして多くはないが、ことの分野に関する限り、この国でも せたら、たいしたものなのだが。急にそいつはおれを見た。唇に泡 ( 深見弾 ) 今後少しずつだが増えていくにちがいない。 がくつついている。うっと吼えると、おれめがけて走りだした。そ のとたん、おれはまた動けるようになり、あわてて次の角に急ぐ。 式に完全に順応をはたすには、あとまだいく世紀かかかるであろう。 前ではあの声が「ついて来て、ついて来て」とささやく。 たまたまおれが足をとめた居住区画のドアのマークは、そこが ためらうことなく、それについていった。背後で一枚の壁がしま人であることを示していた。変化はこれでもう充分。おれはそこに る。殺人狂をあざむき、おれのあとを追わせないため、おれの足音はいった。 6 号タイ。フ。まるいメインルーム。長円の衛生関係空 に似せたいく十もの音のま・ほろしがそこらを走り回る。苦痛の悲鳴 壁にうめこまれたターミナル。六角形のサイドルーム。汗まみ が通廊にひびいた。殺人狂がカつきて倒れたのではなかろうか。それのオーヴァオールをはぎとると、ダストシ、ートに投げこむ。シ のとおりだった。通廊の天井を、救急ロポット車が左から右に飛びャワーをあびる。思ったとおり空腹をお・ほえた。「テー・フル ! 」と すぎた。本人はよろこんでるだろうな、発作が過ぎてーーーと、おれ命じるや、食卓が目の前にやってきた。たいへんな旅だったので食 は考えた。きっと何かの蜂起に加わり、人間たちと緊密なコンタク欲は旺盛。命令ュニットに豪勢なメニ、ーとそれにふさわしい舞台 ト下にあった時間が長すぎたのだろう。そういう場合、おかしくな装置を打ちこむ。テー・フルせましとならんだ金の皿には、エキゾテ ィックな果物、肉の山。肉は七面鳥、オオシカの腿、小ヒッジの股 る者が多い。しかし、まだときどき、他人のあいだ、大衆のなかに いるという感じが、われわれには必要なのだ。このおれでさえ、二肉。シャンデリアの灯が・ ( ロック風の鏡に反射し、みやびな音楽が 百日ほど前、ある集会を訪ねて、人びととともに叫び、肘を他人のかひびいた。ヴィヴァルディ。 らだでこすってきたではないか。人間が原子化社会の新しい生活様すぐ手をつけた。やわらかな肉をかぐわしいソースに浸し、スラ
神の意志なのか。勝て、と沖は言っているようだ : ・ : ・戦場で現地ののように細くなったかと思うと、タンクの内へとすべりこんでいっ 人間のらく書きを見たことがあった。なるようになる、アメ公は無た。 〈大丈夫さ。しばらくすると溶けるよ。へえ、これが空飛ふ機械 駄なことをやっている、出ていけ、おまえたちは絶対に勝てない。 か。あそこに乗るのかい〉 そのわきに、別のらく書きがあった。お帰りはパンナムでどうそ。 「そうだ。これがプロペラさ。曲がってる」 そうなんだ。東洋人はよく眠る。眠りは死の一部だというのを聞い たことがある。死んで生きよ、という思想は理解しがたい。勝たね〈こっちの、曲がっていない翼と同じ格好にすればいいんだね〉 ばならない、生きているうちに欲望のすべてを手に入れなければ負ゼリー羊は曲がった。フロペラにとりつき、。ヘラを包みこんだ。音 け大たという考えをもっている人間には、のんびりと眠っている暇はしなかった。ゼリー羊がはなれたとき、ペラはまっすぐになって はないだろう。らく書きにまで、それがよくあらわれている。しか し勝利とはなんだろう。目的が欲望充足にあるとしたら、だれも勝「奇跡を見ているみたいだ。ありがとう。感謝するよ」 利者にはなれないだろう。笑うのは死神だ。彼は確実に人間の生命〈ポイド、ロポットをつれてってくれないかな。空を見てみたいん だよ〉 を手に入れるのだから ) ポイドは手帳を見て方角を測った。目印にしておいた岩を探す。 ポイドはゼリー羊を見た。イルカの黒い瞳が輝いているように感 手帳の字に目をおとし、読みにくい字だとポイドはふと思った。自じられた。 分の字を読みにくいと思ったのははじめてたったがそのことにポイ「いいとも。無事飛べるかどうかわからないが、乗れよ」 キャビンにつく。快い緊張感。いつも同じだ。無感動ではいられ ドは気がっかなかった。 白いビ ー・ハ 1 が金色の砂の上に見えたとき、ポイドは全身の緊張ない。何度飛んでも、いつもなにかしら新しい経験をする。それが たまらない魅力だった。操縦には慣れても、飛ぶこと自体には決し がほぐれてゆく幸福感を味わった。ポイドは息をはずませて駈けよ ると、さっそくフロート周りにおしよせた砂を掻きはじめた。もこて慣れないたろうとポイドは思っていた。飛ぶのにあきるときは、 ーバーはすぐにで生きるのに惓むときだろう。そう思った。 もことゼリー羊がやっと追いついてきたとき、ビ ハリとけたたましい プロペラがぶるんと回った。つづいて、 も飛べるようになっていた。燃料とペラの問題を別にすればだが。 「。ハロ、燃料ィモムシは ? あいつの体内に石油でも入ってるのか音とともに機体が震え、排気口から大量の青い煙が吐き出された。 そして、ペラが力強く回転しはじめた。 い」 「こいつはいい燃料のようだ」 〈あれが燃料なんたよ〉。ハロが言った。〈どこに入れるんだ ? 〉 もう煙は出ていない。フルスロットル。ビ ー・、ーは砂地でぐるり ポイドは翼の給油蓋を外した。「ここさ。でもどうやってーーー・」 ィモムシが体を伸び縮みさせて機体をよじのぼった。そして、蛇と向きをかえる。そして滑走しはじめた。離陸速度を得るには通常 242