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検索対象: SFマガジン 1983年1月号
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1. SFマガジン 1983年1月号

まったく思いがけないこの運命の急転に、・ほくがいら立ったのはちにとっては、ありがたい場所だった。老人たちのなかには、人通 ほノ、のイメ りの多い歩道に面して気に入った位置を選び、そこの腰掛けを、明 当然だった。ひそかにサリーに会おうと算段した。が、・ 1 ジは光彩を失いつつあったようだ。彼女は大工仕事のほうを面白け方から日暮れまでひとり占めにしているものもいた。人生をすで に通り過ごした老人たちは、他人が通り過ぎてゆくのを、じっと見 がった。孤独な道案内人の話なんかよりましだというのである。セ ているのが好きなのだ。 ロニキは、それでよかったんだ、と言ってくれた。 ジョン・フェニックは、死の当夜、居酒屋で飲んでいたらしい 「あんたはまともな頭をしてるけど、あの娘のおはちにはメンチ肉 が詰まってるんだから。一年もたたないうちに、あんたをうんざりちょうど夜半を過ぎたころ、彼は連れと一緒に、よろよろと家に向 させるわよ。頭に脳みその詰まってるひとを探しなさい。縫いもの くらいしか能がないってのじゃなくってさ」 町の奥まったあたりは、谷間を囲む山の斜面にくい込んでいる。 川にまで降りてゆく舗装道路と、その向 「タイざるみたいな顔をした人かい ? 」と、・ほくは、ひどい言葉でフェニックの屋敷からは、 う側のテラス状の斜面を、ひと目に見おろすことができる。登って 応じた。それは、悪意からというより、困惑とくやしさのせいだっ こ 0 くるのはひどい苦労だった。空積みの石塀には、ところどころに、 ートくらいの人ね」と、彼女は返してきた。少しもおこっ石の板で作った冷たい腰かけがある。腰かけは、足や肺を酷使させ てはいなかった。 ないよう、じつにみごとな配置になっている。ジョン・フェニック は、その一つに腰をおろした。友だちは、フェニックについてこれ こんなやりとりをしたあと、・ほくは馬に乗り、谷間の外れに向っ て懸命に走った。自分の頭を冷やしたかったのだ。二日ほど家をあず、ずっと下のほうで、片手をついて石塀にもたれかかり、息をと とのえていた。この酔っぱらった友だちによると、フェニックは、 け、埃だらけの日焼けした顔で戻ってきた。すると、ジョン・フェ ニックが死んでいた。背なかを壁に截ち割られたというのだ。・ほくとっぜん、途方もない悲鳴をあげ、しばらくもがき回ったあと、 がやったとでも言いたげなものもいた。しかし、殺人の状況は、あ″両手を猿のように足首にまで垂らして″どさっと、前に倒れたと まりにも偶然が重なりすぎていたので、町の住人のおおかたは、・ほ くが魔法使いででもない限り、そんなことはできるはずがない その時点で、まわりの住民が家から出てきた。友だちは、体じゅ わかってくれた。 うをかけ巡るアドレナリンの作用で、どんな合成薬品の効きめより 公園をとり囲む塀に沿って、石の腰掛けが並んでいた。だれでも速く酔いがさめた。見ると、フェニックの体は、刀ほども長さの も、疲れたときは、そこに腰をおろして休むことができる。町にあある刃物で、刺し通されていた。刃物は、腰かけのうしろの塀の割 るほかの人工物の寸法とおなじように、その腰掛けは低かった。それ目から、とび出してきたのだった。刃物の切っ先が、彼の胸か れでも、酔っぱらいや、真昼の太陽に照らされて荷物を運ぶものたら、たつぶり十二インチは突き出ていた。その場の情景を、さらに 2 ー 4

2. SFマガジン 1983年1月号

ととわⅡ彼遭 : 彼あ訓彼控吹驚まぶ背あ慌そお本寝 ド にてすがが遇ーはとでにえきいあつ中ちてれれ当か かもかま見つす も限めさた くがこてとのにしな思美 くそにわたまる人回 らならととさ半ち飛 も毛いとあっし わの張るのり筈地はそす表しいり 一分っぴ 、底りよは だ無どう現 を夢て魔夢 あいは・つ起 つま出う 落、つ用寝思そだてえなかは ' き は返なく法だ たでしなち、たの返っのなこ もすがりらた しんれ使 はた高る、の吹りた光れいはら てだない とだきをに景とはい 孑に彼のい さうちをすんねにてて らつが見いし 何よ ばな めの は つ そ居岸 ぶやけっ動 にとなもんあまた作 し も所ふ なんか なかち ろは か け ろをやい からで で つは かすい っか 目分量でも面倒熨くなるはどの大きさの 切り並った岩璧で 一つの大きな縦穴になっていること 彼がいるのはその途中にある小さなくばみだが よく見るとこの絶擘には それぞれ大きさも深さも異なった横穴が ばこはこと日を開いている からだひとつやっともぐりこめるような 小さくて興行のないものもあれは 何人もの人間が駆け足ですれちがえる 大きな通路のようなものもあって 引かなり大きな島が ーーこりま、つこりしている この巨大な縦穴の出Ⅱまでは さはど遠くはないにしても ど、つやったらこの璧を登ることができるか 見当のつけようかない 光も届かない底無し穴をのぞきこんで こごにえているよ、つなぶさまな真以たけは しないよ、つにむがけることたけが 差しあたっての彼のⅡ標になったというわけだ ところでこの男には もうひとつどうしても合みこめないかあった し記憶かⅱしけれは は行方知れすの弟を追っかけて

3. SFマガジン 1983年1月号

「にんしんは嫌いなんですー 「じゃあこれは、たたの事故たというんだね ? 」 「ええ。たって装置は完全に作動してたんですもの。もう一度、逆馬は首をふった。 あっ、ドレッシングかマヨネー 「できればそっちのレタスを : に電送し直せば、フィルターが夾雑因子をとりのそいて、きっと元 ズ、ありますか ? に戻るはすです , 「よろしい。やりたまえ」 いかなる情況においても、食うことに関しては熱心なサトルであ マクドナルド博士は、チラリと電送装置の方へ視線を走らせて言 大きなザルに山盛りの野菜と、きらいなはすのにんじんまでも一 「あれをなんとかできれば、合格ということにしよう 本残さす、ペろりとたいらげてしまうと、サトルは少し元気をとり 戻した。 部屋のすみつこにかたまって、小声で話し合っていた三人は、 カッカッと床を鳴らしながら、実験室の中を右に左に歩き回る。 っせいにふり向いて元サトルたったものを見つめた。 「気分はどうかね ? ステージの下では″怪奇馬人間″が、よよと泣き崩れていた。 三人が近づいて来る気配に首をあげた丸顔のサラ・フレッドは、茶マクドナルド博士が、専門家の口調で説ねた。 色の大きな瞳を向け、いささか明瞭さを欠く発音で言った。 「上々とは言えませんけどね。でも思ったほど悪くはないです。な んか力がみなぎってる感しで、どこまでも走って行けそうな : : : 」 ぼくは元に戻れるんですか ? 」 「どうなんですか、先輩 サトルは急にさお立ちになると、かき足をしながら、ぶひひひひ 「大丈夫。あたしにまかせといて」 みのりが代わって答えた。どんと胸を叩いてみせる。山下が気楽といなないた。 「どうどうどう」 な調子で言った。 山下が鼻面をおさえる。みのりが何気なさそーに呟いた。 「そんなに心配することはないさ。元に戻れなかったら、ダービー 「そう言えば、あたし前からいっぺん馬に乗ってみたかったのよね で稼げるじゃないか。総大理石張りの豪勢な厩舎に住み、クリスチ ャン・ディオールの鞍をつけ、毎日ワラを腹いつばい食うんだ」 「あっ、 しいですよ。みのりさんなら喜んでお乗せします。そのヘ 「そうなったら、あたしうんと応援するわ。馬券だって、お小遣し んをひとっ走りしてきましようか ? 」 はたいて買っちゃう ! 」 マクドナルド博士が、さりげなくセキ払いをした。 みのりがはしゃいだ声で言った。どうやらサトルをはげまそうと 「えーと : それはやつばり、またこの次にしましよ。今はほら したらしい。馬は大きなため息をつき、よけいにうなたれた。 それを見て、みのりは台所から山ほど野菜をかかえてきた。 博士の方を横目でうかがいながら、みのりが言った。 「元気たしなさいよ。ほら、にんじんあげるから」 っこ 0 6

4. SFマガジン 1983年1月号

劇的にしたものがあった。事件現場の家の住人は、この地に来てす少なくとも、こういった解答のない疑問のおかげで、ぼくはこの ぐ、藤を植えた。むぎ出しの塀を覆うためだった。手入れがよけれ殺人に関係しているのではないかという疑惑を受けずにすんだ。こ ば、この土地の植物の成長は、きわめて早かった。藤は石塀を覆いれだけの殺人装置を作り上げるには、腕ききの細工師が、じっくり つくした。ジョン・フ = = ックは、断末魔の苦しみのなかで、このと構想をねり、細心の注意をはらわなくてはむりだ。しかも、もし ・ほくが、それを作ったのなら、他人の見ている前で、塀の積み石や 藤をつかみ、引き寄せたので、藤の花ぶさが彼のからだにかかり 舗道の敷き石を剥がしたりしなければならなかった理屈である。い ちょうど紫のケ】ブをまとったようになったのだ。 ぼくが町に帰り着いたとき、石塀の中の仕掛けは、もうすでにとずれにしても、そんな事件で、サリーはますます・ほくのそばに寄り つかなくなった。彼女は、取り乱したジョン・フェニックの友人を りはずされて、たいへんな謎を提供していた。殺人具としては凝っ た作りなのだ。犯人内部説はやがて消え ( ぼくはおおいにほっとし慰めて、時を過ごしていた。と、ほどなくして、彼女は、その男と た ) 、町の先住者に非難が向けられた。刃物の長さや、刃物をとび結婚することになった。 出させるばねの力が、相当なものであることからして、この仕掛け「あの娘は、どうせ、あんたのようなおちびさんには、つり合わな いわよ」結婚式の日、セロニキはそう言って鼻をならした。・ほく は、厚みのある、がっしりした肉体を刺し通すように設計されたの は、われながら情けなくて、ふらふらと歩き回っていたのだった。 ではないか、と思われた。 そのメカ = ズムの働きは、かなり複雑だ「た。作動には同時に三そうなるのが理の当然、などと、ペーカーもぼそ・ほそ言「ていた。 が、一方でまた彼は、嗅ぎたばこをやたらに吸って、鼻の穴をおか 点を押すことが必要で、そのうちの二点は、別人が押すようになっ ていた。今回の事件では、フ = = ックの連れが手で押した積み石しくしてしまった。 が、ちょうど仕掛けのしてある石だった。そのとき彼の左足が舗道それからしばらくして、・ほくは、ジ = = イ・レッドベターの父親 の敷き石にのっていた。これが第二の引き金になったのだ。第三に雇われ、町の南にある彼のオレンジ農園で働くことになった。彼 は、・ほくがジェニイに近づくように仕向けることもなかったが、離 は、フェニックの肘がちょうど当たることになった窪みで、それは 凶器のひそんでいた箇所のすぐ近くにあ「た。この装置のからくりれてろ、とも言わなか「た。ジ = = イと・ほくは、農園で肩を並べて は、しつに複雑で、レ・ ( ーや滑車や歯車の手のこんだ仕組み、それ仕事をしていたのだから、近づかせないでおくというのが、どだい に、ややこしい作動過程、などを見ると、もうほとんど殺人の儀式無理なはなしだった。ある種の感情が、ふたりの間に芽生えた。そ かと思えるほどだ「た。殺人の手段としては念が入りすぎているれは、ひと目惚れなどとはちが「ていた。ぼくたちは、やがて、心 し、第一、なぜ死ぬ当人を当てにして彼自身の死に必要な手助けををゆるし合う仲になった。彼女は生き生きした頭の持ち主だった。 させなければならないのか。もし、そういう機械が必要だというの ~ 」ロ = キの言った通りだったーーそれがふたりの結びつきに必要な 要素であることを・ほくは思い知った。しじつ、正直なところ、ジ = なら、ただ一つのレ・ハーで、どうしていけないのだろうか。 5

5. SFマガジン 1983年1月号

ーこよおびただしい 七年経ったところで、じつに劇的な死が訪れた。ある政治家が、 は豊かな収穫があり、家畜の数は殖えていた。月冫。 ュニティは申し分のない状態だった。食選挙演説のさなかに、両の手をばんざいのようにあげたまま、演壇 魚がのぼってきた。コミ 料、衣服、住居ーー困っている者はいなかった。ただひとつの不満から三十フィートもすっ飛んだのだ。奇妙なデザインの矢が、彼の は、退屈で決まりきった日常にあったと一一一口えよう。カチ、カチ、カ胸から突き出ていた。その矢は、タウン・ホールのそばの排水管か チ、カチ : : : まるで時計の歯車のように、規則的な生活のくり返しら発射されたものと思われた。死人にはわるいが、だれもが感嘆し ・こっこ 0 たのは、その矢にほどこされた手のこんだ細工、とりわけ、しなや 「行くわよ」ある日、セロニキは、そう言って駄馬に乗り、去ってかで、折りたたみ式になった、すかし細工の矢羽根だった。それ いった。言ってみれば、彼女の心の中で、何かがぶつんと切れたのは、凶器とはいえ、美しいものだった。 た。べーカーは、すでに、若い男女の一隊に加わって、立ち去って どうやら、そのころまでには、われわれも先住民の意図が読める いた。それは、植民者のなかの分派で、もっと内陸部の奥深くへ足ようになっていたと思う。彼らがその町を作ったのは、やはり彼ら ということである。こ をふみ入れたいというグルー。フだった。たしか、セロニキは、そののためであって、・ほくたちのためではない、 一隊に追いつくつもりだったろうが、そうは言わなかった。彼女んな場所は見限ろう、というものも、なかにはいた。じっさい、ペ 】カーたちのグルー。フを追って去っていったものも、ひとりふたり は、姿が見えなくなるまで、こっちに手を振っていた。彼女がいな くなって、・ほくは、やりきれない淋しさに襲われた。 出た。だが、大多数はものの考え方を変える道をとった。先住民の ぼくは、あとに残った。ジ = = イと結婚していたし、農場にも責文化の断片が、われわれのなかに入りこみ、われわれの文化と融け 合い、われわれの生活様式の一部となるのを容認することにしたの 任があったからだ。ジェニイは、・ほくをひき止める錨だった。が、 だ。じつのところ、・ほくたちはそれを受け容れざるを得なかった ゃんぬるかな、セロニキの去った日、・ほくの鎖は、めいつばいに、 びんと張っていた。もうすこしで、ぶつんと切れるところだった。 し、いやなら、ペーカーのあとを追うしかなかった。この谷間に長 五年目に、ひとっふたっ、先住民に関係のある事件が起こった。 く住んで、・ほくたちは、その欠点にも調子を合わすようになってい 壁の穴から有毒ガスが噴き出したのだ。命に別条はなかったが、ガた。その一大欠点は″完全″ということだった。欠点のないこと、 スを吸った者は、しばらくのあいだ、具合が悪かった。ある家族がそれがただひとつの欠点だったのだ。 一家でタ食をたべているところへ、ふいに暖炉の石から色ぬりの矢この。 ( ラドックスは、・ほくたちに、明らかに異星人とおなじ作用 がとび出してきた。矢は、子どものすぐ前にあったシチュー ・ボウを及・ほした。そのことは、まさに、ある面で、・ほくたちがいかに彼 ルの取っ手に突き刺さった。ドアから刃物がとび出て、ある婦人のらと似かよったものであるか、を示している。変化のないリズムへ ゅびを二本切り落としたこともあった。こうした事件が起こるたびの憎悪という共通の基盤のうえに、両者は立っているのだ。この谷 、町の中はしばらく興奮でわきたった。 間の自然 ( と超自然 ) の力が、われわれの生活に秩序をあたえ、そ 幻 9

6. SFマガジン 1983年1月号

かで、連絡を保てる範囲内にいることにして、それ以上には、けっ してお互いに離れなかった。ぼくが最年少で二十七歳だった。セロ ニキは、ぼくの倍ちかくの年。べーカーは、その中間のどこかに位 している。この三人が、以前ほど重要でなくなるとか、面白いやっギャリー・キルワース Garry Kilworth だが、もう忘れられた過去の人物だ、と見られるときもくるのでは ないカーーそんな思いが、ちらっと、・ほくらの心をよぎることもな ート・ホールドストック、クリ 日本ではこれが初紹介だが、ロく いではなかった。しかし、地平線のかなたを求めて進みつづけるこ ス・モーガンなどとともに、イギリス (-næ期待の新人の一人で、す とで、頭がいつばいだったのだ。それがとっぜん、ここへきて落ち でに三冊の長篇が・ヘンギン・ブックスにおさめられている。一九四 目になった。これならアトキンズといっしょにあの谷へ、それとも 一年生まれ。本職は遠距離通信の技術者。一九七四年にヴィクター ・ゴランツ社がサンデー・タイムズ紙と共同主催したコンテス どこであれ、彼の死体の横たわっているところへ分けいっても、お トに、「ゴルゴダへ行こう ! 」という短篇を応募して入選したのが、 なじことだったかもしれない。 作家になるきっかけだった。タイムマシンで過去へさかのぼる観光 一週間もたたないうちに、みんなは空家に住みつき、家庭生活を 旅行団が、キリスト磔刑の現場を見物するという、皮肉のきいた作 整えはじめた。もう偵察員には用がなかった。必要なのは、商人、 品だった。ちなみにこのときの審査員は、・フライアン・オールディ スとキングズリイ・エイミス、それにゴランツ社のジョン・・フッシ 耕作者、それに家畜の世話をするものたちだった。もちろん、芸術 ュ。そして長篇部門の入選作の一つがクリス・ポイスの『キャッチ 家もしかりである。芸術を鑑賞する時間のゆとりができたのだ。い ワールド』 ( ハヤカワ文庫 ) だった。 まは余般と手仕事の時代だった。放浪の時代ではなかった。山また この短篇は、誌の一九八一一年二月号に発表された新作だ が、いかにもイギリス作家らしい手堅い作風で、好感がもてる。 山、新たな平原、広大な砂漠ーーみんな、うんざりしていた。だれ ( 浅倉久志 ) も、足を休め、手を動かしたがっていた。 ・ほくは、父が植民した例のファースト・シティで、ホログラムを 見たことがある。それは立体写真で、遠い地球の、山ふところに抱っていた。ひと目みて、・ほくは、この町が気に入った。落ちついた かれた町がいくつか写っていた。山々がとりまいているのは、地中白亜のたたずまいで、理にかなったっくりだった。 セロニキ、ペーカー、それに・ほくは、三人で共用している建物の 海と呼ばれる海だった。異星人の手になるこの町も、それらの町と 同じような作り方でできていた。自然のままの岩のへこみに、はめ外に腰をおろし、タ焼けの中に沈んでゆく太陽をみつめていた。あ こなようにして建てられた低い家。家と家とをつなぐ、迷路のようの光の網にかかって、谷間の向うのはるかな見知らぬ土地に、うま 。三人とも、そんな思いだった。 に曲りくねった小道、石段、狭い通り。遠くはなれたところから見く運んでもらえたら : 冫オ「きっと、小びとたちがいたんだ」・ほそっと言って、べーカーは、 ると、この町は不規則な形をした、とらえどころのない構築物こよ 解説人と作品 幻 2

7. SFマガジン 1983年1月号

「大学の者だと名乗る男が来た。心理学の教授だ。しらべたがって「畜生、きみはフィルだよ」 「どうしてもと言いはるのなら、しかたがない。だが言いはってく いたよ。何かの研究をしていたんだ。記録書類をさがしまわった。 わたしには兄弟はないと話していた。それはまちがいだと言ってやれてうれしいよ。わたしはフィルになっていたいんだ。それとはちが うと言ったね。もちろん、ちがう。こちらのは自然の進化の発展過 ったんだ」 「きみはそう信じていたんだね。自分に兄弟があると信じこんでい程で、さっき言ったいろいろな能力以上のものだ。自分の人格をふ たつにわけて、その片方を独立して外におくりだす能力、自分の影 た。防衛機制だよ。そう考えなければきみは生きつづけられなかっ である別の人間をつくりだす能力だ。それも精神だけではなくて、 た。自分が何であるか、事実を受けいれられなかったんだ」 精神以上のものをつくりだす。まるで別の人間ではないが、ほとん 「教えてくれ。わたしは何なんだって ? 」 「きみはひとつの発展段階なんだよ」とフィル。「きみは進化の新ど別の人間と言える分身ができる。その能力があるから、きみは特 別な人間になり、人類の他の人々とはちがうものになっているん しい一歩なんだ。それについて考えるひまはたつぶりあったから、 だ。きみはそれに正面から立ちむかえなかった。だれにもできなか まちがいないと確信している。わたしのほうには事実をおおいかく ったろう。自分に対してすら、自分はばけものなんだと、みとめる したいという衝動なんかないからね。わたしは結果の産物なんだか ・、ら。わたしがやったんじゃない、それをやったのはきみだ。わたしことができなかった」 には罪の意識はない。だが、きみのほうにはあると思う。ないとし「この問題を、ずいぶん深く考えたようだねー たら、愛する兄弟フィルの存在を、なぜそんなにカムフラージュす「たしかに考えたよ。だれかが考えなければならなかった。きみに はできなかったから、わたしがせざるをえなかったんだ」 るのかね」 「進化の新しい一歩だと言ったね。たとえば両生類が恐竜にかわる「だが、わたしはこの能力のことなど何もお・ほえていない。今で も、きみがでかけていったのをまざまざと思い出す。自分がばけも といったものなのか」 「それほど大がかりな進化とはちがう。人格をいくつも持っているのだと思ったことなんかないんだ」 人間の話は聞いたことがあるだろう。ある人格から別の人格へと予「そのとおりだろう。きみは自分で防御用の鎧をとてもすばやくし 告もなしに行きつもどりつする人たちだ。ひとつの体でだよ。小説つかりとっくりあげたもんで、自分自身までをあざむいてしまった からだがふたつなのにんだ。人間の自己欺瞞の能力は、信じがたいほどのものだね」 では、こんなふたごの話も読んだはずだ 人格はひとっというふたごの話。離れた場所へ精神的に移動でき 台所のドアを何かが引っかいていた。犬が部屋に入れてくれとた てる音のようだった。 て、見たものをじつに正確にしゃべれる人々の話もある」 「だが、それとこれとはちがうだろう、フィル」 「〈追跡者〉だ」とフィルが言った。「入れてやってくれ」 「まだわたしをフィルと呼ぶんだね」 「でも、〈追跡者〉といえば : : : 」 7 4

8. SFマガジン 1983年1月号

「この、小心者のくそったれが . しようめ ) ポイドは倒れたソーンに唾を吐き、ソーンの荷から食料を分けは ポイドはカンヅメを数個と干肉をサブザックにいれて口を閉し じめた。 た。ここに人間がいるとわかった以上、食糧や水の心配はなさそう ソーンは薄れる意識で、たたおどろきを感じていた。いったい自 たったが、その食糧を分けてもらえるという保証はなかった。あの 分は、この男に殴り倒される、どんな悪いことをしたというのだ ? 若者の部族に接触して、自分が彼らの仲間を殺した者のつれだとわ とソーンはつぶやいた。 かれば、たたではすまないだろう。別の部族を見つけて仲よくする ( ごめんよ、 そんなに悪いことだなんて、知らなかったんことを考えるべきだ。それには時間がかかりそうだった。・ホイドは た。知らなかったたと ? 。ハ。ハはすごい形相で・ほくをにらんだ : ・森の入口を見やった。折った枝の、道しるべを見とどけ、コン ' ハス くそう、 いつだってそうなんだ、親父はこのわたしの存在そのを見て、森の中心方向を割り出した。奥へ行ってみよう。ポイドは ものが気に人らないんた。新しくのしてきたコン。ヒュータ会社にわ伸びているソ 1 ンに目をやり、「幸運を祈る」とつぶやいた。 たしが 0 をかけて買収を図ったとき、なんてことだ、親父が反それから、歩き出した。背負っていた死神がおちたかのように、 対した。そんな無駄金をつかって、長年の商売敵の & から逆に足は軽かった。 をかけられるそ、おまえはわしが苦労して育ててきた いくらもいかないうちにポイドは森の住人の一グルー。フと出会っ しいというのか、このくそったれが。くそった た。森は密になっていて、樹の種類も変わっている。しなやかな緑 を乗っ取られても、 いの幹が上で無数に分かれてハンモック状の網になっていた。森の住 れ、か。ちくしようめ。親父には、この不況を乗りきるには新し 血を導入する必要があるってことがわかっていないんだ。なにを血人はその空中の足場からポイドを見下ろしていた。ポイドは立ち止 迷ってる、と親父は言った、おまえは個人的な恨みであの会社を乗まって上を仰ぎ、敵意はないというようにてのひらを彼らに見せて っ取ろうとしているんた。聞けばビジネス・スクール時代の同窓生腕を挙げた。男が数人、女が二人ほど見えた。ふざけあいをしてい がやっている会社だという。なげかわしいな。協力しなくてはならる最中らしかったが、 : オイドの姿に静まりかえって、音を立てずに ビジネスは退いた。 ない間柄たというのに、喧嘩をふつかけるとはな : 喧嘩しゃない、あれがうまくいってれば うまくいくはずがある「待ってくれ」 ものかと親父は言い、わたしにあけわたした社長の座を、実力で取ポイドは低い声で呼びかけた。その声に反応したのかどうかわか り返そうとした。親父さえ口を出さなければうまくいったんだ。こらなかったが、一人だけ残った。ポスかもしれないとポイドは思っ のごたごたのおかげでは信用をおとした。回復するのは大変た。ゆれる ( ンモック状枝の上からポイドを見おろしているのはか なりの年の男たった。 だった : : : 親父はわるいことはみんなわたしのせいにする : : : わた しをどうして悪者にしたがるのたろう、どいつもこいつもーー・ちく「おれはポイド・クライン」・ホイドは自分の胸を指して言った。 235

9. SFマガジン 1983年1月号

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10. SFマガジン 1983年1月号

から何か尋ねられたり、写真を送ってくれださったことに、先日のこともあわせて、 文通させていただいていること、が出てく るんだと不思議に思われたんじゃないでしと頼まれたりしたら、できる限りのことはあらためて ( 大きな声で ) ありがとうござ いました。 か。・ほくにはあんなに何度も彼のこと・してきましたが、私の方からの質問やお願 これからも御夫妻との、そして矢野さん いは控えてきました。 を書いておきながらと。実は、矢野さんの 感動しつばなしの二日間でしたが、そのとの出会い ( これが本当の出会いなのだと ことを彼にお便りしたのは、あれが二度目 思って ) を大切にしていこうと思います。 中でも一番うれしかったのは、あの書斎の でした。行 耐に、大会に参加してお会い 矢野さんの新作小説が出るのを楽しみに 写真を見せてもらった時でした。私はずつ したことは書いたことがありましたから。 と、『フライデイ』を贈っていただいた後待っています。 矢野さんともおっきあいしてるんですよ かしこ。 、、 A 」よ田む お元気で。 もずっと、あの方にとって私は「その他大 と伝えれば喜ばれるかもしれなし 柴山裕見子 十月十二日 いました。でもそれでは、私はあなたの友勢」のうちの一人にすぎないのだろうと思 い続けてきました。「写真を壁に貼ってあ 達の友達なんですよと売り込むことにな 矢野徹様 ります」というのは何年か前に教えてもら 返事を催促していることになるような っていたのですが、奥様の写真の隣に私の 気がして、私にはできませんでした。私と ( 註。ハインラインの最新作『フライデ ・、貼ってあるのを見たときは、ものすごい しては、矢野さんの名前のお力を借りるよ ショックでした。もうあれ見ただけで、泣イ』の扉に、その作品を献げた相手の女性 り、あくまでもただの一ファンとして書き き出してしまいそうでした。どうしてこん名がずらりとならんでおり、その最後に柴 続けたかったんです。 なによくしていただけるのか、いまだに不山さんの名前がのっている。この人のすば 二度目のお便りで「お手紙はうれしい らしいファンレターのおかげで、これほど 思議でたまりません。 ・ : 今は手術を受けた後で直りつつあるとこ のレスポンスをおこす翻訳者はと、こちら 矢野さんに対してもファンの域を出ては ろで、本当によくなったら本を書こうと思 の信用も増したわけだ。まこと、読者・フ ならないと思い続けてきました。ただ、お っている : : : そうしたら、返事はできなく アンはお客さま、お客は神さま。お礼の言 会いした時にはもっと気軽にお話がした なるだろう」という意味のことをいわれ、 ファンレタ 1 を出したい方は、 思っていることを口にできるようにな葉もない。 「御返事はいりません。それよりも早くよ くなって、ご本を書いてください」とお答れたらと願っていました。本当は今度の神ぼくの訳書のどれかのあと書きに、かれの えしてからは、もう二度とお手紙はいただ戸行きでそうなったらいいなと、ちょっぴ住所がのっています ) けないものと思ってきました。その後、年り期待していたんです。 これまでいろいろ失礼なことをいった に一、二通ずつ届くようになっても、その たびごとに、ああまたいただけたと大喜びり、してしまったりしてきたような気がし ます。それでもおっき合いを続けてきてく でお礼の手紙を書きました。でも、むこう ◇ ◇ ー 07