考え - みる会図書館


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1. SFマガジン 1983年10月号

あろう。それまでにまたここへ来ることがあるのだろうか。来られ考えたのである。 なければ、また来年ということになる。それでも彼は、相手の言葉ああいうボタュトの花壇は、司政官の目をたのしませるだけでな 2 く、司政官の自尊心をもくすぐるのではあるまいか ? タトラデン に素直に応じた。 の名家の連中も及ばぬことをしているのだ、と、いい気分にさせる 「そうしたいものだね」 のではあるまいか ? それから、彼はソフアに背中をあずけ、考えたのた。 そういえば : : : そうした意味では、この部屋も同じだ。こんな部 あのボタュトは、ここのロポット官僚たちが育てたという。ホ ットにそんな真似が出来るかと疑う者もいるだろうが、事実そうな屋を使「ていることで司政官は、タトラデンの上層の人々と対抗し ここの : : : 司政機構のロポット官僚たちているという自己満足を得られるのではあるまいか ? のだから、仕方がない。 その想像が的を得ているのか否かは、彼にはわからない。 は、それたけの能力を持っているのだった。人間でもむつかしいポ いささかつまらない気が しかしながら、もしそうだとしたら : タュトの栽培に成功するのは、ロポットには困難な作業であったか も知れない。それでも長年月のうちに少しずつノウ ( ウを覚え、研する。 なぜそんな、格好をつけるようなことを、司政官がしなければな 究することで、毎年咲かせることが可能になったのであろう。ひょ っとするとボタュトは、その厄介な特性ゆえに、人間には栽培はむらないのだ ? 司政官は、タトラデンの名家の人々と対抗する必要なんてないの つかしいものの、ロポットには合っているのではあるまいか ? だ だ。司政官は司政官なのである。 がそれは彼の空想的仮説であり、思いっきに過ぎなかった。 それとも : : : 歴代司政官がそんなことをしたのは、そうせずには それよりも : そう。それよりも : : : 彼には、ロポットたちがボタュトを換金すいられなかった事情があるのだろうか。 るつもりもなく、ただ司政官をよろこばせるために育てたという事たとえば : たとえば : : : そう、 いくら担当司政官といっても、その地位は連 実が、どうにも奇妙で信じられず、皮肉でおかしい感じがしたので いったん担当司政官でなくなれ ある。あれだけあれば何クレジット、何タットになるか、すぐには邦から任命されたものであって、 ば、何の力もない。いーイ わま昔りものの地位の空しさを、この世界の とても見当がっかないのだ。それを咲かせ、そのままで散るにまか 上層の人々と同じかそれ以上のレベルの生活をすることで、まぎら せているというのは : : : 呆れるばかりの無駄ではないか。 わそうとしたのではないだろうか。 彼は、そこですわり直した。 そういうことをやるについては : そんな考えかたは、先輩の歴代司政官をおとしめるものである。 : ロポット官僚たちは、という より 01 は、それなりの必然性を持っているのではないか、と、司政官がそういう人間であるとは、彼は思いたくなかった。

2. SFマガジン 1983年10月号

合い、意志を通じ合い、それによって司政の実をあげようとしたは 冫しい聞かせた。ずである。 彼は、自分がタトラデンの出身であるのをおのれこ、 そして、タトラデンを実質的に動かしているのは、植民者の、有 自分のこんな思考は、タトラデン出身によるのではないか 2 これまでの司政官だとし力な名家のリーダーたちである。かれらだけを知ればいし もしも自分がタトラデンの出身でない、 たら : : : その見方をしなければ、こうした部屋の造りやボタ「一トのけではないものの、かれらの生きかたや生活のしかた、考えかたや 感覚をつかまなければ、どうにもならないのは事実なのだ。 件は、理解出来ないのではないか ? ラデンにいた彼にはよくわかるのだが ) タトラデンとは、そういう 自分がよその世界の出身だとしたら : : : あるいは、自分がタトラ 世界なのた。 デンではない別の世界に赴任したのだとしたら・ : で、あるならば : : : 彼の前に来た司政官たちが、名家のリーダー 自分は多分、担当した世界を知ろうとし、その世界でやって行く ために、その世界での感覚や考えかたを学び取ろうとするに違いならと通じる生活様式や感覚をマスターすることも、また不可欠たっ たといえる。 それをやるためだったのだ。 ここへ来た司政官たちは、名家の連中ーーータトラデンの生活様式 彼の頭に、光明が射し込んだようであった。 や感覚を唯一無二と信じている名家の連中から異物視されないよう そうなのた。 ここへ赴任して来た司政官たちは、タトラデンという世界を、何に、妙な優越感や劣等感をかれらに持たせないようにと、こういうも のを作りあげたのではないだろうか。ときどきここへ来て、名家の とかして把握しようと努めたであろう。 また、ここの世界の人たち、植民者や。イ ( オヌたちと円滑につき連中と共通性のある暮らしをし、そこで得た感覚をひっさげて、名 眉い 官始がた海 シめ内司洋 リ、包政惑 ー著す官星 ズ者るのミ の諸姿ロ のラ問を一 傑イ題とゼ 作フをおン 三ワ描しの 篇くて調 をク表組査 収″題織に 録司作社赴 ! 政を会い ノ、ヤカワ文庫 JA 、早川書房 定価 400 円 9 2

3. SFマガジン 1983年10月号

ん」ここで彼は、ちょっと上を見上げると、ウィリアム・・ギル いのです」 ートの霊に無言の謝罪をした。「まるで手品のようなもんでして「恐ろしいこと」思いやり深いアリスが小さな声でいった。 ね。劇の中であらかじめ適切な伏線が敷かれてはおらんのですよ。 「もちろん」とナイトリ 1 。 「毎日のように犯罪を思いつける者な 罰を受けるいわれのない人物が罰を受けています。つまり、残念などはおりません。そこで、我が主人公は創意を発揮して、この呪い がら、ギル・ハ トの偉大な天才にふさわしい出来ではないのです」 の裏をかかざるをえませんでした」 ートのもので 「どうやって ? 」 ジョ 1 ンズ教授がいった。「ことによると、ギル・ハ はないかもしれませんそ。あるいは、誰かが押し込み強盗に入って 「こういう推論をしたのです。罪を犯すことを故意に拒否すれば、 中味をいじくり、めちやめちゃにしたのかもしれん」 彼らは自ら求めて死を招くことになります。いいかえれば、自殺を 「そういう記録はないのですがね」 くわだてているわけであり、自殺を企てることはもちろん罪ですー だが、未解決の謎によって科学的頭脳を強く刺激されたジョーン ーそこで呪いの条件を満たすことになります」 ズ教授は、即座にいった。「確かめることはできますよ。その ートは、明ら 「なるほど、なるほど」とジョーンズ教授。「ギル ギル・ハ ートとかいう人物の頭脳を調べてみましよう。彼はほかの劇 かに、物事はその論理的帰結にまで押し進めることによって解決さ も書いているのでしような ? 」 れると、信しているのです」彼が目を閉じると、気品のある額が、 「サリヴァンとの合作で、一四作あります」 その奥に詰った無数の強烈な思考波のために、はっきりとふくれあ 「同様な事態をもっと適切な形で解決した結末のものがありますかがった。 な」 彼は目を開いた。「ねえ、ナイトリー 『魔法使い』が初めて上 ナイトリーはうなずいた。「確かに一つあります。『ラデイゴ演されたのは、いつのことですか」 ア』です」 「一八七七年です」 「それは誰です ? 」 「じゃ、解決た。一八七七年といえばヴィクトリア時代の真最中で 「ラデイゴアは場所の名です。主要人物はラデイゴアの悪い準男爵すよ。結婚の制度は舞台で冗談のたねにするようなものではなかっ であることが明らかにされ、もちろん呪いがかけられています」 冫冫しかなかったんで た。筋書のためだといって喜劇的に扱うわけこよ、 「そうでしような」そういう運命がしばしば悪い準男爵を襲い、彼すよ。結婚は神聖であり、霊的なものであり、誓約 , ーー」 「演説はそのくらいにしましよう。お らに当然の罰を下す傾向さえあることを認識しているジョーンズ教「わかった」とナイトリー 授は、低い声でいった。 考えを聞かせてくださらんか」 「その呪いは、彼に日に一つ以上の犯罪を犯させずにはおきませ「結婚です。その子と結婚しなさい。あのカツ。フルたちをみんな結 トの本来の意図であ ん。一日を犯罪なしに過ごせば、悶え苦しみながら死ぬのを免れな婚させる、それもすぐにです。それがギル・ハ ] 6

4. SFマガジン 1983年10月号

℃やすいからた。 に関することた。べたべたした、例えば「大」や「猫」の依存状態 鉤型の脚をした産業ロポットたちがポリカーポン繊維の上をすば がゴキブリの経済性・効率性に劣るものではないという考えを嘲笑 クラン・フ やく走って、締め具と磁気触鬚を使い、マスコットの力。フセルをつ ったのを、彼女は思い出した。自尊心をもつ人間ならどうして、ま かんた。ス。ハイダー ・ローズみずから先頭のロボットを動かし、そとわりついてくる明らかに自分より劣る生命形態などに愛情をもて のグリツ。フとカメラを通じて感触を得たりながめたりした。ロポッ るというのか ? そうした対象への正しい反応というのは、相手が トたちは貨物機をェアロックに押しこみ、中味をあけると、小型装自力でやっていけるよう、手術ないし遺伝的方法で相手を変えてや いかなる存在でもーーー這いつくばら 着ロケットをとりつけて〈投資者〉の母船に送り返した。小型ロケることた。何らかの存在を トが戻り、〈投資者〉の船が去ったあと、ロポットたちはそろそせ、たえす感謝させておくというのは、病的行為た。昆虫が相手な ろと涙滴型の格納庫にもどって、みずから作動を切り、網に次の震ら、そうした感情的結びつきはない。 動がくるのを待ちうけた。 〈投資者〉のマスコットは落着きをとり戻し、藻の絨緞の上に膝を ス。ハイタ 1 ー ・ローズは自分の接続をはずして、〒アロックをあけまげてうずくまると、ひとりごとをさえすった。その竜のミニチュ た。マスコット ; カ室内にとびこんできた。〈投資者〉の少尉と並んアのような顔にいたすらつぼい笑みのようなものが浮かんだ。半ば でいるときはとても小さく見えたが、〈投資者〉がどれだけ大きい 糸のように細められた眼は油断なく、マッチ棒のような肋骨は呼吸 ー・ロース ものかつい忘れがちである。マスコットの背は彼女の膝ぐらいまでのたびに上下した。瞳は大きく見開かれ、ふとス。 ( イダ あり、体重も二十ポンド近くありそうだった。それはなじみのない は、この生きものにここの照明はとても暗いにちがいないというこ 空気を吸ってヒューヒ】と音楽的に息をたてながら、室内をあちとに思いあたった。〈投資者〉の船内照明は目もくらむ青のア 1 ーク こちお・ほっかなげに忙しく飛びまわった。 灯で、たっぷり紫外線がまじっているのだ。 壁から一匹のゴキプリがばたばたと大きな羽音をたてて飛びだし「おまえに新しい名前をつけてあげないとね」とス。 ( イダー・ロ た朝マスコットはキーキーと恐怖の声をあげて甲板にぶつかると、 ズは言った。彼女はよく。ヘットに話しかけた。ひとり暮らしで心が そこにじっとしたまま、怪我はなかったかとひょろ長い手足をコミ鈍ってしまうのを防ぐ助けになるから。「〈投資者〉語は喋れない カルな動きでまさぐった。ざらざらしたまぶたは半ば閉じている。 から、彼らのつけた名前は使えないんだよ」 〈投資者〉の赤ちゃんの眼みたいだわ、という考えがだしぬけにス マスコットは親しげなまなざしで彼女をみすえ、半透明の小さな ハイタ ・ローズの頭に浮かんだ。といって彼女は〈投資者〉の幼たれぶたを針穴状の耳の上にたてた・ほんものの〈投資者〉にはこ 児をみたことなどなかったし、見た人間がいるとも思えなかった・ のようなたれぶたはなく、彼女はこの標準からのさらなる逸脱に魅 だいぶ前に聞いた何とかいう説のことが、・ほんやりと思いだされる了された。じっさい、羽をべつにすれば、それはあまりにも〈投資 9 ペットと赤ん坊、その大きな頭、大きな眼、柔かさ、依存状態者〉に似かよいすぎていた。おかげでぞっとするような感じがして

5. SFマガジン 1983年10月号

「家からだと思うが、レーナン」 「その異星人とやらに、もうこの星は尚員だからとーー・・・待て ! 」 警視は、不作法な溜息をついた。 ノバが本気で、警視の声明を伝えに行きかけるのを見て、レナ 「で、何者なんだ ? 」 ンはあわてて制止した。 「何者とは、レーナン ? 」 「わかった。どこにいる ? 」 「どこの星の者だ ? 」 「は ? 」 ジャックは、地球人の動作を真似て、肩をすくめた。 「は、じゃない。そいつだ。その異星人はどこだ」 「この星。他にあるのか、レーナン」 「外に。あちこちにいますよ」 警視は再びうめいた。 警視は、あきらめて着がえをはじめた。二人は、外に出た。 スタンード 確かに、異星人はあちこちにいた。つけ加えれば、彼らは一種類「共通語が通しるのか ? 」 ″。ヒンク″の何人かは、明らかにジャックどもと立ち話をしていた。 ではなかった。 ます、平らな顔面と、二つの目、漏斗状の耳と、つぶれた鼻を持警視の相手のジャックは、異星人の顔を指さした。 った、くすんだビンク色のやつらがいる。この連中が、ざっと数十「あれは、耳だ、レーナン」 人。もう一種類は、耳も鼻もない、 目玉ばかり大きな、黒い小人「ありがとう」 だ。こちらは、。ヒンク色の連中の半数ぐらい。 言葉は通じるということだろう、と、カスガ警視は解釈した。 ″異星人″は、悶着を起こしている様子もなく、ジャックどもに立 その解釈は正しかった。しかし、警視が行なった尋問は、ジャッ ち交じって、あたりをうろっき回っている。 クどもを相手にした場合と同様、不調に終わった。 カスガ警視は、うめき声をあげた。 「どこから来た ? 」 「どこからわいたんだろう」 「家からだ、レーナン」 「は ? 」 「つまり、あんたは、どこの星の人間なんだ ? わたしが訊きたい 「何でもない。ゃあ、ジャック」 「この星のものだ、レーナン」 「ハイ、レーナン」 手近なキーヴ人をつかまえると、警視は質問を開始した。 レナンは黙った。さきほど、かすかに見えたと思った光明ーーー犯 「こいつらは何者だ、ジャック」 罪のおこる筈のないキーヴⅡで、おかしな動きが始まったのは、異 「こいつらとは ? レーナン」 星人がやってきた影響ではないかという、好ましい考えーーは、つ ジャックは、無表情に小首をかしげた。 ぶれようとしていた。こいつの言っていることが真実だとしたらー キーヴⅡに ーこの連中も、やはりキーヴ人なのだとしたら 「この、・ヒンクと黒の連中だよ。どこから来たんだ ? 」

6. SFマガジン 1983年10月号

味を調査してからーーー」 「異星人です、警視 ! 」 助手の破壊工作を防止するために、カスガ警視が業者に特注した 「ミズです」 / カ叫んだ。不夬な眠りからの ジャヴウ博士は、そっけなくビッパの用語上の誤りを打正した。超高速自動ドアのところから、ビッ。、・、 「ミズ・トキコ、あなたは、警察の権限がどうこうおっしやったろのろと這いあがりつつある警視の意識は、ビッパの声に拒絶反応 が、あなたにも、惑星ひとつの文化をひっくり返す権利はない。違を示した。レナンはモゴモゴとわけのわからないことをつぶやき、 ベガン人がそのまま立ち去ってくれることを望んだ。 いますか ? 」 「異星人です、警視」 カスガ警視は、大きく息をすいこんだ。 ビッ。、は、容赦なく、くり返した。 「われわれはーー」 「それがどうした ! 」 ジャヴウ博士は、につこりと徴笑んだ。 「そんなつもりはありませんわ。御心配なく。そろそろ、この話合半覚醒状態のまま癇をおこして、レナン・カスガ警視はわめい こ 0 いもうちきりにしませんか、警視」 「ここは異星だ。異星人なんか、めずらしくもない。おれから見れ 「話は、まだ全然終わっていない ば、おまえとジャックは異星人だし、おまえから見れば、おれとジ 「でも、わたしは、調査することもありますので」 ャックは異星人だ。ジャックから見ればーーおやすみ」 「博士 ! 」 レナンは、空しく寝返りをうち、ビッパの巨体が足音高くべッ レナンとビッ。、 : 、 , カ見事なユニゾンで声をかけたが、ミズ・トキ に接近して来るのを、背中できいた。 コ・ジャヴウは、平気で二人に背を向けた。 「警視、異星人です」 「これで失礼します。またのちほどーーー」 ビッパはなおも主張する。そして、文章の順序を変えただけでは 派出警察署の半透明なドアが、かすかなきしみ音とともに閉まっ こ 0 説明不充分だと気がついたらしく、一言台詞をつけ加えた。 「わからないのか ! キーヴ人の遣伝子は固定してる。連中の文化「地球人でもベガン人でもジャックでもありません。別の異星人で - はもろいんだ。どんな小さな″変化″に対しても、連中はーー」 防音ドアは、警視の投げつけたわめき声を、百パーセントはね返「なに ? 」 した。 四つの種属が入り乱れるには、この星は狭すぎる、という考え が、警視の意識をゆさぶった。地球人二人でも多い。もう沢山た。 「勝手にしろ ! 」 「そいつに、出て行けと伝えろ」 レナンは、誰が何と言おうと、やせた栗毛の女は嫌いだった。 警視は、べッドの上で半身を起こした。

7. SFマガジン 1983年10月号

ということた。マイダスというのは、どのような場所にも、自分たるが、おれたちは北に向かっているんだ、何とも言えないな」 「でも、あなたは、生きて抜けてきたんじゃなかった ? 」 ちの日常を持ち込んでくる者たちのことにちがいない。 ジ = イスンは、寝袋をたたみ、シ = ンとマークのところに歩み寄「生命はあった。だが、意識はまるでなかった。何日、歩いたの った。悪習というものは簡単に伝染するものだ。ジ = イスンは、自か、覚えがない」 分の手の中のコーヒーカツ。フに、にやりと笑いかけた。テセウスた実際、自分のカで脱出できたのだとは、思っていなかった。 「少なくとも、ここから数日のところに出口があるっていうことに ちに見られたら、殺されかねない。 なるわね」 「悪いものじゃあるまい ? 」 前と同じことを望む方が間違っているとい 「どうかね。メイズに、」 シェンが、珍らしくからかうように声をかけてきた。 の出口までは、数千キロあってもおかしく うものだ。だいたい、北 「こいつが永遠に続くならな」 はない」 ジェイスンが答える。 「これで酒が解禁になっていれば、言うことはないな」 「わかっている。でも、あなたは出てきたのよ、しかも歩いて」 メディアは、意味ありげに笑みを見せると、自分のメイズランナ マークが、コーヒーをもう一度注ぎながら言った。 ーに向かって、歩み去った。それを見送りながらジェイスンは考え 「そのとおりた。酒があったら、あんたは今頃、何も言えなくなっ る。何を言いたいのだ。メイズに、もう一つ、別の出口があると言 ているさ。サムのかわりにな」 いたいのか。誰も知らなかった出口が。 マークが、凄まじい目付きで、にらみつけてくる。ジェイスン は、それを無視して、シ = ンの方を見る。シェンは、微笑を浮かべ 日々がゆっくりと過ぎていった。メディアは、マークだけではな ていた。 く、ダンとも寝た。シェンは、無口になり、ますます無表情になっ ていた。ジェイスンは、メディアが自分のところにやってこないの ジェイスンは、その徴笑だけで充分だと思った。シェンは、マー クの奴をぶち殺してやりたいと思っているに決まっている。たとを、ありがたく思った。シェンを敵に回したくはない。 え、言葉だけでも、マークをやつつけてくれる人間を歓迎するとい メイズが、自分たちにとっておきの罠をしかけてくるのは、確実 うわけだ。 のように思えた。メイズの中ではタ・フーになっていることばかり 冫いたっては、ど メイズランナーの点検をはじめたジェイスンのところに、メディ を、自分たちはやっているように思えた。マークこ アが近付いてきた。 こに隠していたのか、夜になると酒を持ち出し、これ見よがしにジ ェイスンの前で呑んでみせる始末だ。 「もうどれ位、来たことになるのかしら ? 」 マークやダンが相手ならば、それほど問題にしないでもい 油で汚れた手を、布で拭きながら、ジェイスンは答える。 シェンとなると話はちがう。彼がその気になれば、ジェイスンを 「西か東に向かっているのなら、ます半分を越えたところたと言えが 8 っ )

8. SFマガジン 1983年10月号

しかし、それでも発明家は納得しなかった。 加藤の神経質そうな細長い顔は、そんな言い方をしたとき、決ま 「それ . はタイムマシンが存在しないと仮定した場合の常識でしょ ってキツネに似てきた。 う ? タイムマシンができてしまったら、そんな常識は根底からひ 発明家は、空になった銚子を横に倒しながら言った。 つくり返ってしまうかもしれませんよ」 「たとえば、タイムマシンで過去の世界へ行って、過去の自分自身 加藤は、しだいにわけがわからなくなって、腹が立ってきた。発 を殺したらどうなるのか。これが典型的なパラドックスですね」 加藤は、話に耳を傾けながら、銚子の数を数えていた。横になっ明家の反論がしつこすぎるのだ。言い負かされそうな気配があるだ たのが十本で、立っているのが二本。十本のうち八本は、加藤ひとけに、よけいイラつく。 「あなたの言ってることは、・ とこか変ですよ。これは単なる常識で りで飲んだようなものだった。 加藤は、また時計を見た。針はほんのわずかしか動いていなかつはなくて、真理なんですからね」 「真理 ? 誰が真理を決めるんです ? あなたですか ? 」 た。が、もうこれ以上うだうだしているわけには、、よかっこ。 「そう。たしかに、そのパラドックスがあるために、時間旅行が否露骨に侮辱され、加藤はとうとう本気で腹を立てはじめた。声が 甲高くなった。 定されてしまう。つまり、タイムマシンも永遠に作れやしないとい 「わかりました。それじゃ、あなたの考えをきかせて下さいよ」 うことなんだ。残念ながら」 加藤は、タイムマシン論議に終止符を打っため、こんな話を持ち発明家は、待ってましたとばかり余裕たつぶりの笑顔を見せた。 「いいですよ。しかし、その前にあなたのご意見をおうかがいした 出したのだったが、決めつけるような口調がかえってわざわいして いのですがね」 か、発明家の強い反発を受けた。 目を血走らせている加藤に、肩すかしをくわせるような、気軽な 「どうしてそう断言できるのですか」 急に人が変わったような厳しい口調で発明家はそう言ったのだっ調子だった。 「何ですか ? 」 加藤は固い表情でたずねた。 加藤は、とまどいを覚えた。ムキになるほどの問題ではなかった 発明家は、目もとにうすい笑いを浮かべた。 し、どうしてと反論されるような話でもない。 「あたりまえのことでしよう。過去の自分を殺すことができない以「私がタイムマシンを発明したと言ったら、あなたはどうしますか 上、過去へ行くこと自体に問題があると言わざるを得ない」 「なぜです ? 」 「吹き出すでしようね」 加藤は鼻を鳴らした。 発明家は顔色ひとっ変えなかった。 「それから ? 」 「なぜって、過去の自分を殺したら、現在の自分が消えてしまう」 こ 0 ー 03

9. SFマガジン 1983年10月号

ジャックの人数が、店にふえた。 トキコ・ジャヴウ博士は、胸許で・フルーデンスの座像を握りしめ 7 墓を掘っていたジャックと、同数のジャックの幽霊は、互いに顔 こ 0 を見あわせた。 「わたしは、彼らと話すつもりです」 どっちがどっちだか、もう、レナンには区別がっかなかった。 それこそ、レナンが避けようとしていることだった。考えように それから、彼らは、互いに歩み寄った。 そのあとで展開した場面は、霧とメデューサの木と、黒く湿ったよっては、この宣教師はビッ。 ( よりたちが悪い。 墓穴という、いささか見当違いの舞台装を除けば、レナンが今ま「博士、あなたは民間人であり、あなたの行動は法の下に規制され るのだということをお忘れなく」 でにさんざん見あきて来たものだった。 「そして、ここではおれが法律なんだと言うつもりですか ? 」 何度か参加したり、警官として踏みこんだことのある、乱交パ 「ここでは、わたしが法律なのです」 。細部はよく見えなかったし、見ようとも思わな ティーの現場 「あなたの命令に従うつもりはありません。派出警察署には、わた かったが、連中の行為の目的は、正確に見当がつく。今の今まで、 ジャックどもが自己生殖以外の方法を知っているとは、夢にも思わしの生物学的研究を妨害する権利はないでしよう」 よ、つこ・、 / 、カュノ・カ・ レナンは、唇の端をゆがめた。 「あなたの宗教的活動を妨害する権限は、あると思いますがね」 少なくとも、こっちの方法のほうがなじみ深い、風の音と、ジャ ジャヴウ″宣教師は、自信たつぶりの笑顔をつくった。 ックどもの静かなうなり声を聞きながら、レナンはそう思った。 「さあ、どうかしら ? 」 ? なぜ彼らは、そんなことを ? 」 「それで、どうするんですか 「いいですか、異星での布教活動は、一般条項で禁止されていま ジャヴウ博士は、何が面白いのか、自分の中指の爪をながめた。 す。文化局と法務局の特別認可証がない限りーーこ 「なぜかは、わかりません」 「あなたにわかるでしようか ? 私が、比較生物学のアンケート調 、・ツ。 ( は重々しくうなずいて、同意を与えた。 警視の言葉にヒ 「これからどうするかはーーーそう、待っことです。事態を静観し、査を実施しているか、それとも、。フルーデンスの教えを説いている 情報を集める。この星に対する判断は、一旦保留すべきでしようのか、区別することができますか ? 」 「マダム ね。荷物をまとめるのは、中止しなくちゃならんようだ」 「待っ ? 待っている場合じゃありません。彼らには、救いが必要警視の殺気立った顔を見て、事態が容易ならざる方向に推移して なのです」 / カロをはさんだ。 しることに気づいたビッ。、 : ″屍姦の二文字が、″宣教師″の理性を奪っていた。カスガ警視「お願いですから、警視の言うことを聞いて下さい。冷静に考えて は、ぼんやりと、この女は性的に抑圧されているのだろうか、と思みれば、わかる筈です。ここはひとまず、ジャックたちの行動の意

10. SFマガジン 1983年10月号

◎ 〇 ンカフェやカルチャー 弾き」。 ・クラブやキッド・ク沢山聴いてるかだけで判断する評論家ども。 、い ・に贈りえた僕のアル この三作のみが、 オールや、そういうスノップ受けのする知らなければ教えてやろう。 ハムになってしうもしれない。 俺ははやっている音楽なんか聴かなくった しいもの″ ( それはすぐに古くなってい ばかり追いかけているような連中に、俺って自分の音楽を作ることができるのだ。 しかし、身が墓碑銘に名を刻まれよう・ が、俺の音楽が、俺の考えがわかるはす君たちはいつも " 新しいもの。を聴いていなとも、この作は絶対に廃盤にしたくない。 いと不安かもしれないが、俺はそうではない。 幸い番危ぶまれていた「センス・オヴ・ なぜならば、私作る人、君たちはたたの聴ワンダ會」が昨年四百枚も売れた。 だ新たら、放 0 といてくれ。 く人だからだ。 い、と笑う人はまったくの事情知らずー 俺んたらが大嫌いなんだよ。 ろう。 君たちは、僕の音楽を身銭を切って聴きに 特に 4 もいう " 新しいもの。をいかに早く 来てくれるお客さんと同等ではない。 ◆昨今アイドル歌手のヒットと一言えども十万 何故ならば君たちはただでレコードをもら◆枚どまりというお寒い実数なのだ。 が出せない状 うことを当然とし、コンサートは招待され、◆ ジャズの人などは、レコード そして単なる好き嫌いを言うたけで金をもら態が続いている。 ◆ 何かやらないと生き残れない。 っているからだ。 プレイヤーやアレン もちろんキーポード・ 僕は君たちのために音楽を作っているわけ ◆ ではない。 ジャーとしての仕事は沢山ある。 しかし、ソロ・アーティストとして生き残 行文がだんだん亀和田武か、、島正実して るためには、それ以上に何かやらなくては駄 きたので、閃話体題。 目なのだ。 もう二度と、をテマにしたアル・ハム 一生を黒子で終われるような性格ではない は作れないかもしれない。◆◆ に固執することによっつ 4 アーティスとやっとわかった今、僕は絶対これから何か トとしての僕の立場は、ますます◆鋓になるやるに違いない。やってみせる。 からだ。 月並みだが、援護射撃をお願いして、この 商業楽に身をやっしながらアイデン◆イ連載の締めとしたい。。 こ愛読有難うございま ティを保っていかなければならない僕に にて、センス・オヴ・ワンダーというパンドよ◆ 3. イスコグラフィ 大切な″場″だ。 ン ・オヴ・ワンダー」 その場を守り、そして次の攻撃をかけてい フ 景レくために、僕は敢えてを書いていくこと キ寺一レコード 風スエ 「ハーティー◆トウナイト」 と、自分の音楽を分離させる決心をした。 ルウ一 TJ ;-> ファン諸氏よ。 レ . ド RAL8503 「センス・オヴ・ワンダー」「。ハ 「飛行船の上の、イ , ′イザー弾き」 レコード トウナイト」「飛行船の上のシンセサイザー AL8802 にこム ◆ ◆ 5