スミザースがその家を出たのは日が昇りかけた頃だった。彼は幅 は見せなかった。「するとあんたがこいつらを呼び出したんだね」 の広い石段を降りて臆面もないガソリン食いの大型車に乗りこみ、 「おれが呼び出したんだ」ゴードンは答えた。「だが出そうと思っ こいつらを ? 邸内の長い車道を走りだした。道の両側の土地はいまは不動産の投 たのはこれじゃないんだ。いったいどうしたらいい そもそも何物なんだ ? おれの犬を殺しやがった」 機家連中のものだ。かってのアルフレッド・エヴァンズ屋敷で残っ ているのは、スミザースがたったいま後にしたばかりの家と二エー 「食っちまったんだよ」とデニス。 スミースは歯と鉤爪を調べていたが、「ふむ、これはネーダケカーの土地、それにハイウェイからの道路の通行権だけだった。 ひどく大きくまたひどく醜いその家は、世紀の変わり目にある金 ーネーケヴィスというやつらしい。少なくとも祖父さまが話してく 持ちが自分の財産を誇示するために建てたものだった。エヴァンズ れたやつにわりと似ているな。もちろん祖父さまも、言い伝えで知 っているだけたったがね。それにしてもこの大きさ、底意地の悪そ兄弟のアルフレッドとフランクは、坑道から身をおこし十年足らす うなやつじゃないか」 で富を築いた石炭王だったが、出世の道筋には失敗した事業や破産 ゴードンは身ぶるいした。「ああ、まったくだ、まったくだ。だした人々をボタ山のように残し、その名は慈悲を知らぬ欲望の代名 がいったい何なんだ ? 」 詞にまでなったのだった。百万長者となってのちもふたりは長いこ 「名前の意味は、″魂の去った者たちを食らうもの″というのだ。 と薄ぎたない生家で質素な独身生活をつづけたが、ついに炭鉱から 死肉を食う鬼の基本的なものだな。僕らの民族は昔からこの連中をは適度に離れた広大な地所にそれそれ、けばけばしいよく似た造り よく思っていない。・ とこから現われたんだね ? 」 の屋敷を建てたのである。アルフレッドのほうは結婚しなかった 「地下室からあがって来たんだ」 が、フランクには息子があり、やがて孫息子と孫娘が、そして最後 「なるほど、辻褄はあう。聞くところによると、その昔まじない師に曾孫ができた。それがゴードンたった。ゴードンは跡継ぎがなく たちはこの地域への立人りを禁していたそうだ。この辺に住むなん明らかに家系の最後のひとりとなる運命にあった。成年に達してア ルフレッド・ て白人どもは大馬鹿たと思われたもんだよ。あんたに起こされたも エヴァンズ屋敷を相続して以来、彼は土地を細切れに のだから、連中、穴掘りを始めてあんたの地下室に出て来てしまっ売り払っては食いつないできたが、とうとう残るは家ばかりとなっ たわけだな」 てしまったのだ。 もう一軒のフランク・エヴァンズ屋敷は、いまはゴードンの叔母 「とにかく、ここには置いとけないんだ , とゴードンがいナ で故フランクの孫娘、ヘレナ・スレイドの所有物だった。この家の 「どうやって始末したらいい ? 」 前でスミザースは車を停めると、ついさっき降りてきたのとそっく 「ゴードン」とスミザースはいった。「健らは少し話し合ったほう りの石段を登った。彼は呼び鈴を鳴らした。長いこと待たされたす がよさそうだ。飲みものを出してくれる気はないかねー え、ドアがわずかに開いた。スミザースは元気よく声をかけた。 9
すれば、かりに司政官本人にはそのつもりがなくても、結果としてろうな。その先は : : : きみの出身世界での背景と、それに運だ」 特定の人間が権力を持ち利益をむさぼることになるに違いない。そ「 : うでなくても司政官の動向について神経質な連邦経営組織は、巡察「とはいっても、私が、こういう状況をよろこんでいるとは思わな 官制度を設け、巡察官に司政官のやりかたを監視させるようにした いで欲しい」 のだ。 ハイドーランは大きな息をついた。「私自身の感覚では、司政言 それを : ・ が出身世界を担当するなんて、やはり不自然だし、無理がある。そ 「驚いたかも知れないな」 れが、こういうことになって来たのは、連邦のほうに、それだけの ハイドーランは、ややあって、ロを開いた。「出身世界を担当させさし迫った事情が生じて来ているからだろう。おそらく、というよ るというのは、きみにはにわかには信じられないかもわからん。しり、 疑いもなくそうなのた」 かし、これまでに例がないわけではないのたよ。むろん近年になっ 「そうでしようね」 てからのことだが : : : 何人かの司政官が、出身世界の担当を命じら「それと、もうひとつ、理由がある」 れている。ふつう公示される司政官の異動は簡単な紋切り型のもの 「 A は ?. で、その司政官の出身世界までは出していないため、それだけでは 「あまり認めたくないことだが、こういうことが行なわれるのは、 つかめないが : : リストを詳しく調べれば、わかることはわかるんそれだけ、司政官というものの地位が低下した、ということだよ」 ・こ。だからこれは、きみがはじめてではない」 ハイドーランは、視線を宙に漂わせた。「司政官がその世界で大 「ー・ーーそうですか」 きな権力を持っていたときには、たとえどんなに成果が見込めよう 彼は呟いたものの、また相手を見た。「でも、それで不都合がな と、出身世界を担当させるようなことは出来なかったろう。一部の いのならいいでしようが : : : そうなのですか ? 」 人々との結託や癒着によって生じる実損はむろんのこと、人心に与 「全く問題がないわけじゃないさ」 える悪影響も、甚大たったに相違ないからだ。しかし、今は違う。 ( イドーラン。「今いった司政官たちの中には、巡察官に告現代の司政官は、もう絶対的存在ではない。絶対的存在どころか、 発されて解任された者もいる。が、そうなる危険をおかしてでも出連邦の権威の代弁者としても弱いのだ。私のようこ、 冫かっては担当 身世界を担当させるのが妥当だという事情が、どのケースについて司政官を志した者にはよくわかるよ。往時、私などがなってみたい もあるようだね。私はその詳細までは知らないし、きみの場合も、 と思った司政官は、仰ぎ見る存在だった。今とは比較にならないほ 一五星系第一惑星へ行って情報官から説明を受けるまではわからなど強力なものだった」 いわけだが : : : 不都合な事態になるかどうかは、ある部分まではき「 : み自身の心の持ちかたと、身の処しかたにかかっているといえるた「そして、そうなったのは、植民世界の多くが自立し司政官を歓迎 3 2
ったエクレル・ 3 ・セイトなのだ。 ここはどこだろう。 昔会ったときと、あまり変っていないな、と彼は考えた。髪が幾見渡す限り、荒野がひろがっていた。樹も草もなく、湖も沼もな 2 分白くなった位で、ほとんど変化はない。それなのに自分のほうはい荒野である。 こんな年になり、司政官になっている。この惑星へ司政官としてや そうでもなかった。 って来たことを、彼は知っていた。あれからあまり年月は経ってい 前方遠くに、何か構築物がある。 ないのたろうか ? それとも、随分久しい時間が流れ去ったのだろ彼は、そちらへと飛んだ。司政官たから飛べるのだ、と、彼は感 じていた。司政官としてこの世界を知らなければならない彼は、自 「それは、。 とちらもその通りなのだ」 由に飛べるのである。 ェクレル・・セイトは、彼の内心の声に応じていっ構築物は、近づいてみるとビルだとわかった。目もくらむほど高 た。「経っていないといえば経っていない。経ったといえば経った い、たが古びたビルである。外壁は・ほろ・ほろになっており、窓には のさ。ほら。私はこうしてここにいるが、私は何もはま「ていない。ただの穴なのであった。このビルは死んでい の次にまだ << とかとかの符号がついていた時代の司政官なんたるのだ。死んでいるというより、これ自体が墓なのである。 よ。きみたちには、もうそんなものはない。から何の墓なのか、彼はもう悟っていた。 までの、あたらしい司政官なんだな。そして今、きみはここにい これは、ここにあった都市の墓なのである。ここには無数のビル る。これからは、きみたちの時代なんだ」 がひしめいていたけれども、ことごとく崩壊し、残っているのはこ 彼は、 = クレル・・セイトが、自分を同じ司政官としれひとつなのだ。これは墓であるのを示すために、特に頑丈に作ら て遇してくれるのがうれしかった。それでもなお、昔の畏怖は残っれたビルなのであった。 ている。彼はていねいにたすねた。 間違いない。 「ここは、どこなのでしようか ? 」 これは都市の墓た。 「どこなのかは、きみが決めればよい」 その証拠に、ほら・ ・このビルのかなたには、崩れ去った建物 ェクレルは答えた。「どうするかも、きみが決めればよし 、。私はの、その破片が至るところで山をなしているではないか。 たたの案内者で、きみやこの世界には関知しないのだ」 だが、これが都市の墓だとすれば : : : 住民はどうしたのだろう。 それは、そういうことかも知れないな、と、彼は思った。 自分は司政官た。住民を捜さなければならない。 』がつくと、もうェクレレよ、よ、つこ。 ノ冫しオカナェクレルは自分の時代振り返ってみると、彼の予感は的中していた。今しがた越えて来 と自分の世界へ帰って行ったのである。 た荒野は、実は墓場なのである。墓 : : : 立派なのや粗末なのやがび 彼はひとりだった。ひとりで丘に立っている。 っしりと : : : 一面に野を埋めつくしているのである。立派であろう
るそ、だろう ? 」 道はなさそうだな。ポカテワに助けてもらわなきゃなるまい」 デニスも用心しいしい彼の横に来ていたが、「″計画どおり″か 「それこそまったく計画外だぜ。今だって奴はもう知りすぎてる。 と馬鹿にしたようこ 冫いった。「″計画どおり″ね。よくいうよ、あんばれたら、警察につかまっちゃうよ。きっとっかまっちゃう」 た。計画ってのは、あんたの叔母さんを殺してくれるやつを呼び出「まだ法律を破ったわけじゃない。それに、おれたちが何か企んで このー すことだったんだぜ。いったいどうやってやらせる気だい、 いることぐらい奴はもう知ってるんた。とにかくだ、ほかに助けに , ー化けものどもに こいつらに命令できると思うのか ? 」 なりそうな奴がいるか」ゴ ードンは電話に近づき、ダイヤルを回し 「おれはこいつらを操れるんだ、見ただろう」弁解がましくゴード た。ややあって、「出ない」 受話器を置いたとたん、呼び鈴が鳴った。ふたりはぎよっとして 「操れるだって ? こいつらを呼び起こして、また眠らせる、それ顔を見あわせた。「なんだ ? 」とゴードン。「だれだ だけじゃよ、 オしか。その中間は、あんたもレックスと同しで手も足も「ちえつ。もうだめだ ! 」とデニス。 出なかったのに」 「窓だ。出窓から玄関が見える。誰だかのそいて見ろ」 ゴードンはたじたじとなった。「まあ、そうだ。多分そのとおり デニスはカーテンの隙間から覗いてみて、ほっとした顔で振り向 だろうよ。何か考えなきゃなるまいな。だが、さしあたってどうす いた。「奴だ。インディアンだ、スミザースだよ」 る ? こいつらをここに置いてはおけまい」 「アメリカ原住民だ」ゴードンが機械的に訂正した。「それから奴 「隠さなくちゃだめだよ」とデニスはいった。 「こいつらは地下室の白人名は使うな、ポカテワといえ」 から上がってきた。どこか地下に埋まってたんだ。穴を見つけてそ「何とでも」とデ = スはいって部屋から出て行った。ドアが開き、 こに戻さなきや」 閉まる音がした。戻って来たときには連れがいた。ずんぐりした男 「いったいどうやってそうするつもりなんだ ? この大きさを見で、時に″フル・クリーヴランド″と呼ばれる装いをしていた ろ。おまけにこの堅さときたら材木なみだそ。一匹だけでも百ポン えび茶のポリエステルのズボンに同素材のグリーンのプレザー、黒 ドはある。地下室にしろどこにしろ、これを運ぶなんてできっこな いシャツにネクタイは締めず、靴とベルトは白のエナメル革。男は いね」 片手を手のひらを外にして肩の高さに挙げると、皮肉な様子は見せ 「それしや、 しいさ、ここに置いたらどうだい。装飾に使えば。市 ずに、「ハウ」といっこ。 りつけの仕上げにちょうどいいや。ホースで泥を洗い流せば色もび よく来 「スミザース ! 」ゴードンがいた。「いや、ポカテワ , ったりだしさ」なるほどその部屋のインテリアは、白に近い色の徴てくれた ! ちょうど電話しようとしてたんだ」 妙な濃淡で統一されていた。 「はて、はて、はて、何だね、この連中は」スミザースの目は怪物 「ちつ、黙らんか、デニス」とゴードンよ、つこ。 : しナ「どうやら逃げどもを見て一瞬大きく見ひらかれたが、 ほかには驚き慌てたそぶり 0 9
目を見ても、世の中が《彼》の革命以前よりは、確実によくなって やろ」 いるはずだーーーそれだけは、ついに一度も、疑ったことがなかった 3 っ△ マックスは黙ってうなだれた。しかし再び口をひらいたとき、このである。だのにーー・おお、テレサ , れまでとはちがう熱気が、その声にも、顔にも、こもっていた。 「そんなに。ーーひどいのか ? 地球でさえも ? 」 「そんな悲惨なことももうなくなるんだ。おれたちは、そういうこ ャンはおずおずとたずねた。 とをなくすためにこそ戦っている。恐怖政治、弾圧、密告、洗脳ー 「地球 ! 地球がいちばんひどいさ。お話にならんよ」 ーもう沢山さ ! それじゃ、あんたは、ここ十年、中央がどんなに マックスは無情に断言した。 ひどいことになってるか知らないんだね」 「どうひどいって、とにかく、《彼》は、経済政策をまったく誤っ ャンはうなづいた。 たんだ。月、金星、火星、のそれそれの独立、地球との対等、補助 《彼》は年々、狷介さの度を増しつづけてきた。だんだん、どんなを認める、といったが、しかし地球のほうが何十倍も、それらの全 ささいな批判も、皮肉もゆるされなくなり、密告が奨励され、人々部をあわせたよりもっと人口が多いんだぜ ! 三惑星連合は、地球 をたがいにたがいを罪におとすことで自分の身の保全をはかり、そへの輸出品に巨額の関税をかけた。地球はインフレのどん底にあえ うかうかと気をゆるせばおしまい して、誰ひとり信じられない いでいる。しかも、地球の補助をうけながら、三惑星連合は、人口 だ、という空気が世界じゅうにみちみちている。 コントロールを理由に地球からの移民、就職を拒否した。地球じゃ これでは何ひとつ、大統領時代とかわらないばかりか、もっとわ いま、大学を出てもっとめ口がない。食いものもきるものもないー るくなっているーーというのが、われわれのひそかな考えだ。大統ー誰もが、これならまだ、大統領時代ーー地球独裁政権だったころ 領時代には、少なくとも、密告者は政府のイヌだった。しかしいまの方がマシだ、といっている。しかし《彼》は、決して政策をかえ は、ふつうの、あたりまえのーーーどこにでもいる、ふつうの人間、 ようとしない、外惑星開発に・ハカげた金をつぎこんでいる。そして それが全員、そろいもそろって密告者ときてるんだ ! 」 《彼》に批判がましいことを云ったり、少しでも事態をよくしよう おのれのことばにたかぶって、マックスは絶句した。 と考えるものは、即座に密告され、キャン。フ送りだ ! 」 しかし、ヤンの心配は別のところにあった。かれは、地球がかわ マックスの目からも、顔からも、声からも、若々しい憤りと情 っているだろうとは、むろんうっすらと予期していた。しかしかれ熱、やみがたい理想の火が、まばゆいばかりにほとばしってきて、 はそれでもなお《彼》の掲げた理想をーーせめてその精神だけでも老ャンを圧倒した。 どこかで信じていたのだ。何といっても、《彼》のもった理 かれはまだ、ほんとに若いのだ。このように憤れるということは 想、それこそは、ヤン・ラーセンもまた胸に抱いた、同じ理想では かれの若さをみるにつけ、老ャンは、おのれがいかに年老いて おんる なかったか ? それある限り、たとえ彼自身は不幸にして遠流の憂しまったかを知らぬわけこよ、 . 冫、ー . し、刀 / し
「ロイ、大丈夫か ? 気分がすぐれないのなら、すぐ帰還するんを調べてみたい。そうすれば、フィルの行き先もわかるかもしれな いぜ。もちろん、その間もずっと巡回は続けるさ」 ロイは返事をしなかった。そのかわりに、多くのスイッチを操作アールは、自分が今、青ざめた顔をしているに違いないと思っ た。どうしようもなく不安なのだ。なぜ自分もロイの探査機に乗っ する音、ガラスや金属器具のカチャカチャ触れ合う音が聞こえてき て行かなかったのか た。テレビには彼は映っていない。 「アール、こいつはすごい。どうやら : : : おれたちは大発見をして 生き物たちの生まれてきた目的が、時間と空間の中を旅すること るらしいぜ ! 」 であるならーーーその中で様々な軌跡を描き出すことであるなら アールは身をのり出して画面を凝視した。 目的が達せられたかどうかは、その生き物が一体どれほど感動した 「ロイ、落ちつけ、大発見もいいが、今はフィルの捜索中だという かによって判断することができるだろう。地球上の生物たちは、誕 ことを忘れるな」 生から何十億年の歳月の果てに、神と出会った。そして、少なくと ロイは、聞こえなかったように言った。 フェイズ いや、中というのは正も今のところ、人類にとっても神にとっても幸福な″相″を管理し 「この砂の中には情報がつまってるんだ 。とにかく、この砂の音が、おれの精神てもらっている。そのことを我々は喜ばなくてはならない。毎日同 確かどうかわからんが : に何らかの作用を及。ほしているんだ。これが大発見でなくて何だ ? じタ陽を眺めても、その度に感動が新たなのはなぜだろう ? , ーー理 論的な情報値にどれほどの差があろうか ? 実のところ我々は、多 これは一種のレコーダーだ。この中に、おそらくは異星からのメッ セージが録音されているんだ。戻るのは少し遅れるぜ。今、電磁波大な情報を日夜受け取ってはいるが、論理的情報値においてそれほ ちくしよう、正しいアクセスのど変化に富むものを受け取っているわけではない。ただそこには、 や放射能の方もチェックする。 方法がわかればなあ。ランダムに音を出して、コンビ = ーターに解毎回毎回異なった感動があるだけである。それが、神が管理する フェイズ ″相″なのだ。我々は、この神の″比喩〃によって、ものと出会 析させるが、時間がかかりそうだな」 、感動する。 「ロイ、遅れるのはかまわん。だが、フィルの捜索を最優先にして 神に騙されることを、嫌う人もいるだろう。それは理性の強い人 くれ」 アールは、ロイの興奮ぶりに、気がかりなものを感じ取って言っ だ。しかし、一度感動してしまえば、それに勝る論理を持ち合わせ ている人はいないだろう。人は、自分たちを騙すように神を創り上 た。ロイは、テレビカメラの方に向きなおって答える。 「アール、聞いてるか ? おそらく いや、絶対に フィルのげたのだし、結局のところそれは成功、失敗といった価値判断の埒 やつもこれを見つけたに違いないんだ。あいつには鉱物学の知識も外にある。種としての″了解″なのだ。 その種としての″了解を、外側から崩された生物がここには、 ある。こいつの秘密について、何かっかんたんだろう。おれもこれ 9 6
ショウ・ウインドウや暗い商店をながめていた。どこか山の手の方ッジへ行っていないとしたら、あそこであいつを捕まえられるかも これがキャノーのはかない唯一の希望だった。 角から、錯乱した怒鳴り声がきこえていたが、ひとりふたり通りをしれない。 行きかう人は無言で、当惑しきっていた。 四十一番街を南へわたった八番街で、かれは道ばたにイエロウ・ 七番街との角に無残な事故車があり、八番街との交差点もまたまキャ・フがとまっているのを見つけた。運転手は「 zi-Zy 「 (i) 標識 あ似たように悲惨だった。ということは、かれは気づいてほっとしのしたでレンガ塀にもたれ、身ぶりでひとりごとを言っていた。 キャ・ハノーは相手の袖にとりすがり、必死に南のほうを指さし たのだが、このプロックにまったく車の往来がないのはそのせいだ ィートほど塀 た。男はぼんやりとかれを見つめ、咳ばらいして二フ ったのだ。片手で頭を抱きかかえ、かれは小走りに通りをわたり、 ぎわを移動し、中断された講義を再開した。 まっくらな—地下鉄の入口に飛びこんだ。 むかっと来て、キャスノーは一瞬どうしようか迷ったが、それか 地下街も駅そのものもからつぼで、よく音がひびいた。たちなら ぶ新聞スタンドに売子の姿はなく、ビンポール・マシンで遊ぶものらポケットに手をつつこみ書くものと紙を捜した。そして、例の世 もなく、両替所にも駅員の姿はなかった。吐気をぐっとこらえてキ界を救うアルファベット表が記された封筒を見つけだし、やぶいて ャスノーはひらきつばなしのゲートを通り抜け、足音をひびかせて内側の白いところをひろげ、大急ぎでそこに絵をかいた。 階段をくだり、ダウンタウン行きのホームへ入っていった。 快速ホームに電車がとまっていた。ドアがみんなひらき、こうこ うとライトがともり、モーターが低くうなっていた。キャ。ハノーは 先頭車両まで走っていき、連結部の通路をとおって運転士室に入っ 制御レ、、ハーがなくなっていた。 呪いの言葉をつぶやきながら、キャ・ハノーはまた街路へもどっ た。なんとしても、フーリガンを見つける必要がある。見つかるか運転手が疲れた顔で見ていたが、やがてかすかに知性のきらめき 日ーしカけるように どうかチャンスは百万に一つ、いまむだにした一分がそれこそ命と があらわれた。キャパノーは最初の絵を指さし、、、 りの一分になるかもしれないのだ。 相手を見つめた。 あの小男はたぶんまだ、この惑星上にいるだろう。しかし、キャ 「おうえへ ? 」と運ちゃん。 ・ハノーのアパート で、あいつが興味を示した品物の産地は世界各「ご名答」キャパノーは熱烈にうなすきながら言った。「では、そ 国。フィリビン、マラヤ、スウェーデン、インド そして、グリ のつぎはーー」 ニッチ・ビレッジ。まさかとは思うが、もしかしてやつがまだビレ 運転手は考えこんだ。「むとしえる ? 」 こ 0 0 ロ 8 4
ったところでここには買うべきものが何もない。 ーセントほどもない 「再教育キャン。フ」から、生きて地球へ もし、夢のような話だが、テレサの婚礼に出席できればーー・そん いないわけではないが。 もどってきたものはほとんどないのだ もうこれで、十年以上になるだろう。しかし、送られてくる宇宙なことはありえない。しかしもしできれば、テレサの花嫁姿をひと 目見られれば、その場で石になってもいいし、翌日死刑になっても 便で、そのようすを知ることがかれのいちばん幸せなときであっ 、、。自分は、幸福な、夢ごこちのままで死んでゆけるだろう。何 ひとっ希望のないこんな辺境での日々を、この年とった、不具の自 ひとり娘のノラとその婿のエイジには、会いたいとも思わない。 二人とも、ばりばりの党員だ「た。《彼》に心酔し、ヤンのような分がそれでも絶望のため自殺しもせずーーそうしたものもずいぶん 父をも「たことをはじる、と彼に云った。再教育キャン。フはたてまいたーーー十年も生きながらえてきたのも、すべてこの日のためだっ 「なんびとも自由をもたと、心から思いつつ死んでゆけるだろう。 え上は拘東でもなければ、刑罰でもない ( 《彼》は病気らしいよ ! ) にもかかわらず、娘夫婦は っ権利がある」が《彼》の第一条だ ふいに、整備士のことばを、ヤンは思い出し、老いの胸に、にぶ ャンに一回の手紙も、ヴィジフォーンも、よこさなかった。ェイジ い血がようやくたぎりはじめるのを感じた。 はだいぶ出世したとうわさにきいている。 《彼》が死ねばーーー《彼》が死に、恩赦があったら、そうしたらか ばかなやつだーーしかしそのおかげでテレサが幸せに、ゆたかに くらしているなら、それだけは感謝せねばならない。テレサは小されも、地球へもどるーーーずっとそこでくらすとは云わない、すでに いときから、親に似ぬ、やさしい、おじいちゃん思いの娘で、かれずいぶんかれの知っている地球とは違ってしま「たときいている たった一回、孫娘の婚礼のために地球へゆくことができるかも がウラニア・キャン。フに配属になったときは泣いた。それから、か かさずたよりをよこしている。小さな、巻毛のきやしゃな子供だっしれないではないか ? かってはあれほど勇名をはせた、巨艦《ギガンテス》をひきいて た彼女も、すでに年頃の美しい娘で、、しかももうじき結婚するのだ 宇宙をかけたヤン・ラーセンのさいごの、文字どおりさいごの願い 誰が独裁者になろうと、女の子が年ごろになれば結婚する、こ が、これほどっつましく、いじましいものであったとはー・ - ーー老ャン このまえの手紙でそのニュースをよ れだけは永遠にかわらない は自分をわらった。独裁者の死をねがうのが、孫の結婚式をみたい んで以来、老ャンは、そのことばかり考えている。 ためか だがしかし、人間というものは、もしかしたらしよせ テレサが結婚するのだ。十八の美しい花嫁ーーこういう時世だか ら、たいした結婚式もできないだろう。むかしは、ほんとうにはでん、そのていどのものにすぎないのかもしれない。かってはかれも 人間を偉大な可能性を秘めていると信じた。しかし、何もかもが夢 に、豪勢にやったものだ。しかし、こんなところにいては、かわい いテレサに祝いの品ひとつおくれない。再教育キャン。フの労働者のようにすぎていま、かれにのこるそんなもっともささやかな、い もっとも信じられるもの は、衣食住は支給されるが、給料はもらえないのだ。第一、金があじましい、人間的な幸福へのねがい こ 0 2 引
ロしソ , てよよのる トっえさて数の男どま れた中夫 モれっししド し介れも型「 ン イ 一ささ識待ンらつの典 かこ紹ぎ篇離作にて ( アもデ版ぶ認期ョかかそ藤 のにま長距表う見 ) ・ ナ・ ・まよ はらの出お再をビ た率本に。短代よに まらで つ日まうだのる 彼ち初が少を果誌ー もなイ ン , ざろん期あ斜 , こ ~ 邦 , 多事結妹 うてデ 後 本社に仕 はだ富初で も のりてう心判の まオ人のとに , う そなれと青評彼 のもの波こ神はそン あイ。楽る 。にわう ( の シたてあ るう奪と』ムえ 、一ア訳そのう精味が っクれくるが くよを年オルいり ラさしす評 てる目昨イへは まナく , とん月工 ャ表楽懐批 ュな誌あた誌かの派れ介じすにくデルと いる刺ば 5 、ß=a イる 高ギ発て述明 ぜ明ン , あ諷ち年チ的がイでし同た風 " べ紹生躍ちカ , 比もが活たに集ウあが な説モのでろいシ質彼シりうがっ乍 」号てそる がう一家しの誌な本。クとそスだイ家にて利て家と篇・が 篇合デ作むそ本刻のるラひ , ンり。作家し不し作 , 短トろ動 2 月いが光 深風あヤのもセたう作うにといしトイこるル 7 書身と 短の者外たが ど序トしかイケとすべ年 , 自リ のま作海つるで」に作にギ形の的つろ ・、ど者ラ こっ , るまあ家女な , み代花た会びだ重な , 順ス新しナ人ると 「四ほ作キ 夫いうう じばれし点作とんう軽年のつ都にら " 手ばのジか 1 が、三脚の上のなにかにかがみ込んでいる姿があった。両手がめ くり返しくり返しうなずいて見せた。 ハッセルプラツ まぐるしく動き、たちまち部品を組みたてた。それから、人物はう キャノーが最初に思いついたのは、写真機を守ることだっ た。かれは三脚ごとそっくりぜんぶ抱きかかえて、カ = 歩きで安楽しろにさがり、三脚にとりつけられた長四角の箱を、満足そうにじ 椅子後方の安全地帯まで運び、それから部屋をよこぎって煖炉に近っと見つめた。箱の前面には、クロム・メッキの円筒がっきだして 、こ。、ツセルフラツ・ト・こ 0 づくとラックから火かき棒をとった。そして、しつかりと武器をに キャ・ハノーは火かき棒をしたに下げた。そして、ぽかんと口をあ ぎり、妖怪に近づいていった。 フーリガンも薄笑いをうかべ、うなずきながら近づいてきた。あけていまや空白となったディスクを凝視し、それから紫のフーリガ ンの顔と、その上に生えた銀色のなにかをしげしげと見つめた。そ とほんの二歩まで近づいて立ちどまり、不器用なおじぎをしてか ら、革帯で肩からつるした白いディスクを差しあげた。てつべんをれは毛でも羽毛でもなく、しかもそのどちらにも似ていた : 片手でつかみ、キャ・ハノーに平らな面を突きつけた。 「いまのは、どういう仕かけなんだい ? 」かれは尋ねた。 ディスクには絵が浮かんでいた。 「すずうすざあ」フーリガンが鋭く言った。そして、キャ・ ( ノーに そこには総天然色立体映像で、身の丈わずか十インチのキャパノ向かってディスクをゆらゆら揺らし、自分の頭を指さし、ディスク 解説人と作品 6 っ 1
のを思いのままに動かせる。 ( メルンの笛吹きの伝説の起こりも、 たしたちどうやってゴードンを殺すの ? 」 「僕らじゃない。ネーダケーネーケヴィスどもさ。あいつらが彼をこれと似たような物だったんじゃないかと思うね。 ( メルンの笛吹 殺す。それも目撃者の目の前で、あんたにーーー僕にもだーー・・嫌疑がきがネズミや子供たちを誘い出したようにしてゴードンの鬼どもを かからんようにやってくれる。場所は選択すみだ、目撃者も」 操ってやれると思う。もちろんまた遊びにしか使ったことはないが 「どこで、エディ 誰なの ? 」 ね。鵞鳥や野生の七面鳥にはよく効くよ」 「なに、ちょっとした妙案をひねり出したんだ。いいかね、ゴード ヘレナは椅子から立ちあがり、窓のところに歩み寄ると、しばし こんなこととても信じられないわ。あた ンには、目撃者をおくのは彼のためなんだと信じさせなくちゃなら外を眺めた。「エディ ない。あんたが死ぬはずになっている時刻のアリ・ ( イを作るためなしたちが何をしようとしているのか気がついてる ? わたしたち、 んだとね。また、正確なタイミングで計画をたてることはとうてい無人殺しを企んでるのよ」 理だから、いっ何どき事が起こってもそばに目撃者がいるような場「さあ、どうかね」スミザースはいった。「むしろ正当防衛ではな 所でなければだめだ。それに加えて、ゴードンとあんたの両方の家いかな、実際は。害虫退治みたいなものかもしれない。煎じつめれ にある程度近いことが必要だ。そうなると場所はひとっしかない。 ば、ゴードンは全くの性悪者だよ。僕が二つ三つの取引きのために ゴアズ・サヴ = イのヒッビー・キャン・フに近いどこかだ。位置も申殺しの手伝いをすると本気で考えるような奴だ。だが、どうしても し分ないし、つねに人がうろついているからね。ゴードンが、つやらなきゃいかんというわけじゃない」 まりその、あんたとも僕とも似ても似つかない何者かに殺されるの 「それが問題なのよ」とヘレナはいった。「やるしかないと思う が、必ず誰かの目にとまる。だが念のために今夜はお客を呼んでおくの」 といい。殺人犯の人相は、警察の連中にはさそかし突拍子もなく聞 こえるだろう。目撃者が何やら吸ったか飲んだかしていたせいだと ゴードンもこれと同じようなことを言った。彼とスミザースが食 考えて、ひょっとすると証言を本気で取り上げないかもしれない」 堂にすわって紅茶を飲んでいたときである。ゴードンはいった。 「頭がいいのね」とヘレナはいっこ。 「だけど、あなたの言うその「議論するだけ無駄さ、スミザース。おれはやる。手を貸すのか貸 ″何者か″が肝心な時に肝心な場所に来てくれると、どうしてわかさないのか、どっちなんだ。これには多額の金がかかってるんだ ぞ。それにあんたはもう相当深入りしちまってるんだぜ」 るの」 「そりや、ゴードン、もちろん手伝うとも」とスミザースはいっ 「あんたの専属まじない師には方法があるのさ。僕は祖父さんのフ ースを持ってる。楽器の一種だ。ごく原始的なリコーダー、とでた。「ただあんたの気が変わったかもしれんと思ってね。肝心なの はだ、できるだけ手つとり早く片づけちまわなきゃならんてこと 7 もいうんだろうな。そいつが出すのは厳密に言うと音楽じゃないー だがそいつを吹くと、あらゆる生きもだ。どうしてもやむを得ないのでないかぎり、この怪物を一分たっ ー音が三つしかないんだ