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検索対象: SFマガジン 1983年3月号
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1. SFマガジン 1983年3月号

かれはのろのろと身をかがめた。 てもらえませんか ? 」 「義足ーーー」 ャンの追億をマックスがさえぎった。 かれはつぶやいた。 その声に、かすかな、苛立たしげなひびきがある。彼は心配して とりはずすあいだ、待ってい 「この義足も、もういらんでな。 いるのだ。燃料の減少が、やりくりできる範囲をこえてしまうこと てくれ。少しでもかるい方が、カ。フセルがとおくへゆける」 彼は、すでにヤンのことを考えてはいない。死んでゆくもの この期に及んで , ーー、と云いたげな表情が、気がっかぬほどかすかは、もう死んでしまったも同しことーー生きつづけるものは、生き に、マックスのおもてをよぎった。しかし彼は神妙に云ったーーそていることの重荷をおわねばならぬ。なぜ ? 生きるために。生 の神妙さのうちに、すでにヤンを死者として扱っているものがあきつづけるために。 る。 ャンの中に何かがっきあげた。 「その義足を、ぼくが記念にいただいてもいいでしようか。いずれ ボクッと、鈍い音がした。 に革命が成功したあかっきに、革命博物館をたてます。そこにおさ めてーーーあなたの崇高な行為について、人々に知らせるように」 ャンは体をぐらぐらさせながら立っていた。 ャンはくすくすと笑い出したくなった。若さーー若いことが、必何がおこったのか そして、自分が何をしたのか。 ずしもいいとは限らない ! 若さとはときとして、おのれの滑稽さ にも、残酷にも、傲慢にも気づかない。おのれの若さに陶酔し、酔しばらく、ヤンは気づかなかった。 いしれ、いっかそれが失われるだろうとさえ、想像もっかずに、 目の焦点があうように、ゆっくりと、心に正気が 「若さの勝利」に満足しきっている。かっては、かれにも、そんなの正気がーー戻ってくる。 ときがあったのだ。はるかな昔に。 かれの足もとに、何ものかがたおれていた。 マックスだ。 ャンは、はずした義足を手にもって、じっと眺めていた。 頭から血が流れている。うつぶせたまま動かな 「こいつは、よう働いてくれた」 ャンは、途方にくれて、自分の手をみた。手には、彼の義足が握 かれは、マックスのさしだした手に体をもたせかけ、老人だけの 知る感慨にみちて云った。 られている。それの先端が、べっとりと、血と、黒いマックスの髪 「もう三十年からわしの一部だった。クーデターも、追放も、何もの毛数本がこびりついている。 かもみてきた この目はちがうがね。これは、やつらが、拷問の誓ってもいい。 そんなつもりは、なかったのだ。 ときくりぬいたのだ。この指はーーー」 ャンは、いたずらをした子どものように、あたりを見まわした。 「燃料をもたせるのに、速度をおとす計算のしかたを、教えておい そして、あわてて、義足をふるえる手で足の切口にとりつけ、その いくぶんか 250

2. SFマガジン 1983年3月号

レヒッウ ホラーもも、その楽しみを知っている いだ気分でひんやりしたシーツの間にもぐりも、作家である以上、子供のころ本をたまに こみ、スタンドの明かりで、眠気を催すまで楽しんだこともあろう。とすれば、ホラーが人間にと「ては、小説スタイルの便宜的な枠 など問題ではないのだ。そのスタイルに固執 好きな筈である。 好きな本を読むことの楽しかったこと ! , ーー つまり、僕はさ 0 きからクドクドと何を言する人、例えば純文学しか認めない人は、結 そして、そんな楽しみ方に一番応えてくれた のは、必ず恐怖小説、幻想小説の類ではなかおうとしているのかというと、ホラーはホラ局純文学のすばらしさを万分の一も味わえず に死ぬのである。我々ファンにとって てあり、が純文学作家の書いたホラー ったろうか。細かな語弊を怖れずに言うな " 作家の書いたホラー。というふうに考は、まさに「今に見ておれでございますよ」 ら、そんな読まれ方をされる小説こそが、良 1 ・ 2 / 編 い小説なのだーーと僕は思う。僕はこの本をえるのはアホのすることだ、ということ。各の世界である。 ( 『闇の展覧会』 ・マッコーリー / 訳者日矢野浩 作品の違いは、属するジャンルの違いではな者日カービー ここ数日、そうした読み方で楽しんだから、 三郎・真野明裕 / 1 Ⅱ四六四頁・ 2 日四六六 くて、作者の持っている資質の違いである。 つまり良い本なのだろう。 個々の作品をどこどこの畑から見つくろつみんな″何か。を表現しようとしてホラーを という注釈は、この際、膩い選んだのだ。そのことにどんな差がある ? てきた云々 下げにしたいものだ、 ( アンソロジストとし純真な読者が勘違いするといけないと思って 言うのだが、純文学やの方からも分けへ ては、そこの部分こそ雄弁に語って、自分の 着眼の妙を誇りたいところだろうが ) 。そしだてなく作品を選択してくるのは、別に大し て重大なことではない。それがあたりまえな て、怪寄小説に限っては、僕は作品の文体、 趣向、その他あらゆる範囲にわたる欠点に目のだ ! 我が界にも、似たような誤解があるよ をつぶろうと思う ( これもまた、多くの本の 紹介者が好んで揚げ足とりをするところであうな気がする。ひと頃はやった「の浸透 ろうが ) 。怪奇小説というのは、それだけでと拡散」の議論ーーあれだって、なんと多く それほどに楽しいものであるし、もちろん怖の人が勘違いしていたことか。 物事をとして楽しむことができるの・・。辮【 ( ~ 第 " 【、ー物、 ( 、・簽ーー・、 いものなのだ。この楽しさは、本を読むとい うことの原点なのである。極論すれば、怪奇は、我々ファンの「能力」あるいは「権 小説の嫌いな人は、本を読むのが好きである利」なのであって、断じて「義務」ではな どうして、あれはだ、いやでは 筈がないと、僕は田いう。 1 この楽しみを知っている人なら、本書の個ないなどと決めねばならないのか ? 「権利」 個の作品をーー純文学作家が書いたとか、を行使するのは、我々フ , ンの側なの霻、 作家が書」たとか」 0 たーー出自で判断すだ。そもそも U)ß@楽しみを知らな」人たち一「黽 は、物事のおもしろさを万分の一も味わえず、ま・・ る人はいないだろう。怪奇小説として編んだ 以上、全作品まぎれもない怪奇小説なのであに死んでゆくだろう。我々は、ファンに り、なんでこれが怪奇小説なんだとイチャモなれたことの幸福を、もっとも「と自覚しな ンをつける読者はいない筈である。各作家ければいけない。

3. SFマガジン 1983年3月号

に逃亡してきた黒人たちゃ、捕鯨船員た念世界とどう関わりを持つかの方が重要 授だった。五十歳で癌で亡くなっている。 ちと、さまざまな海での冒険を経ながらになってくるのではないだろうか。 こうした秀れた作品を読めば、つぎつ成長していく姿が描かれる。この少年に ところで、先月号のゲームを紹介した は、生まれたときから海の変化を感じと ぎと他にも漁りたくなるものだ。ファン タジ】では『リトル・ビッグ』ト ~ ・、、すれる力があるのだ。そしてあるとき、産文章で、日本ではまだロ 1 ル・。フレイイ ( 798 という、ジョン・クロウリ気づいた黒人女性を救ったさい、その女ング・ゲームがないと書いたけれども、 ーの大作が傑作の呼び声高いものの ( そ性に " あなたは偉大な目、海の眼を見つそのちょ「と前に『スペ 1 ス・「ブラ』 して、これもジ = 】ムズ・・フランチ・キけることができる。とっげられ、それが C ( ンダイ社 ) というのが出ていた。た ど、これはほんとにロール・。フレイの入 ャベル風ということで、・ほく好みなのだ彼の固定観念となる。 門形式で、。フレーヤー・キャラクターは やがて、彼は判事の美しい孫娘と知り が ) 、何しろ大判で五百ページを越え、 かなり面倒な代物なので今回はパスさせあい、彼女の愛を得るために、 " 海の予め、マンガを活用した形で決められて いる。そのため、ロ 1 ル・。フレイの大き てもらう。 眼を求めて、大洋〈の捕鯨船隊に加わ な魅力の一つである、自分でプレーヤー で、つぎにとり上げたのが異色の海洋るそして、首尾よく ・キャラクターを作って成長させていく と言った粗筋だが、要するに。フロット ファンタジーの佳作という、ヒル・ハ ・スケンク『海の眼で』、、、ミミラインがほとんど " おとぎ話。型で進んという楽しみはない。 もっとも、ロール・。フレイがどんなも 、 0 ミミ ~ ( 798 、 ) だが、これは正直でしまうのだ。もちろん、後半にひねり 冫 : しし力もしれ いってダメだ 0 た。まあ、好意的に見てはあるものの、そこに到るまでが退屈でのかという感触を得るこま、 】・トレック』 よい。今後も、『スタ 新鋭のカ作ととれなくもないが、結局最感情移入できなかった。 ( ックダ社 ) や『クラッシャー 近のファンタジーの特徴である、不必要じっさい、このストールマンとスケン な部分〈のバカ丁寧な描写がすぎるのクを読み比べると、キャラクタ 1 を生きウ』の。ール・。フレイイング・ゲームが 生き描くのが、いかにファンタジーでは出るということで、 ()n ゲーム・ファン ( と言うわ 物語はストールマンよりさらに百年以重要かわかる。『海の眼で』は、背景のにとっては大いに楽しみだ。 前の、十九世紀の = = ー・イングランドを十九世紀の描写が丁寧でカ作だとか、まけでもないけれど、今年の初夏ごろに 舞台にと「ている。貧しく、家庭内の殺た海の知識が専門的ですぐれている ( 作ゲ 1 ム全般を紹介・研究した『ゲ ームの世界』という本を出す予定です。 人事件から判事の別荘にひきとられた少者は海洋学者 ) とかの評があるが、そう 年が、奴隷廃止論者でもある判事のもとした利点はむしろであ「てこそ生か出版社は、 ( ミルトンやナイトの短篇集 されるべきだろう。ファンタジーではやを出している青心社。興味のある人はど 8 はりわたし ( キャラクタ 1 ) が、その観うそ書店で見て下さい ) ・安田均のアメリカ tOLL 情報

4. SFマガジン 1983年3月号

テー・フルの上に乗っていた冷たいでがらしをうまそうに飲んた。 「・ほくが不満に思っていることがあるんです。それは、マスコミに 「君はあまりにも楽観的すぎるよ」 無視されたことなんです」 「そうでしようか ? 」 「どういうことかね ? 」 「この実験が最初で最後になるかと思うと、私はろくに眠ることも平山は意外な言葉を口にしたので、神田博士はとまどったようだ できん。もし、失敗でもしようものなら : : たとえそれがささいな 、、スが原因だとわかっても、もう二度とこんな機械は与えられんだ「教授には内緒にしていましたが、きのうテレビ局や新聞社に連絡 ろう。わたしが心配しているのはそれなんだよ。取るに足らない、 しておいたんです。今日、取材に来るようにと。しかし、結局は来 下らんミス。それが一番恐いんだ」 ませんでした」 「でも、そんなことは、心配してもどうなるものでもありません平山は、残念そうに自分の膝を叩いた。神田博士は言葉をなくし よ ていた。 「それは、そうだが」 一瞬の沈黙のあと、今まで二人に背を向けていた内藤が、急に振 「教授は、きっとお疲れなんでしよう。このところ徹夜続きでしたり返って、やや詰問するような調子でいった。 から。いずれにしても、教授の理論さえ正しければ、たとえ今回の「平山君、どうしてそんなことをしたんですか ? 」 実験が失敗しても、いっか必ず認められる日も来るでしようし」 平山は、ちょっと面くらった。 「君はそういうが、これまでの二十年間を振り返ってみると、とて「どうしてって : : : 何か、まずいことでもあるんですか ? 」 もそのような甘い期待はもてんよ。なにしろ裏切られ続けたから「ありますよ」 な。事実、理論物理学者の私が、こうして自分で実験しなければな 内藤は誰に対するときも、ていねいな言葉遣いを忘れなかった。 らん ( メに陥っている。誰も振り向いてさえくれなかったからだ」しかし彼が話す内容は、ときには辛らっとさえいえるほど、妥協の 「そんなことはないでしよう。少なくとも、・ほくと内藤の二人は教ないものだった。 授の味方ですから」 「新聞の科学記事をご覧になったことがありますか ? あれは欧米 「そうだ「た。すまないことをいってしまった。君たちには感謝しの科学雑誌に掲載されたものか、学会で発表されたものだけを載せ ているんだ。君たちがいなければ、永久に実験なんてできやせんかるんです。こと科学の分野に限っていえば、新聞の情報機能はゼロ っただろう」 に等しいのです。これがどういう意味かわかりますか ? 一般の事 「そんなことはいいんです。ただーー・」 件に対して週刊誌がそうであるように、科学に対する批判力のない 平山は、瞬時いおうかいうまいか迷ったようだった。やがて告白新聞は、科学をセンセーショナルに書きたてることしかできないの するような調子で彼はいった。 です。テレビときたら、もっとひどいものです。・フラウン管の中に っこ 0 ー 42

5. SFマガジン 1983年3月号

恒志郎は考えた。男はうまく故郷へ辿り着 さえすればあの岩から抜けられるはずなんで ているんです。助けて下さい」 けるであろうか。時を越える航海とは、さそ 恒志郎はしばらくものが言えなかった。そす」 かし困難なことであろう。またどこかに座礁 「げんし ? だいやる ? れほど予期せぬ出来事であり、また信じ難い 事だったからである。そのため妖怪が彼の傍男は妖怪よりも幽霊に近いものらしい。男する恐れが無いとも言えまい。が、それは知 りようのないこと。もはや恒志郎にはあの男 へすっと漂ってきたのにも気づかぬ有様であの、助けを求める強い念が、その強さゆえに 男自身の姿をとって現われたという次第であを助けてやることは出来ぬ。奇妙な出来事で はあった。 る。彼を見て逃げ出さなかったのは恒志郎が 「私は妖怪なんかじゃありません」 恒志郎はにやりとした。この峠にもう妖怪 はっとして刀を振り上げたが、言葉の内容初めてであった。 あやう 男は恒志郎を竹ゃぶのはずれにある奇妙なはいない。恒志郎はそれを自ら触れて回る気 を理解し危く思いとどまった。 は毛頭無かったが、また風評が立つかもしれ 形をした大岩へと導いた。大岩のところどこ 「妖怪ではないとな。ではお主、何者」 「私は : : : 私は時の流れを越えて旅する者でろから白銀の角が突き出ていた。玉がいくっぬ。高野恒志郎の後には妖怪も残らぬ。事の も並んだ翼のようなものや、鋭い剣先のよう成り行きを思い出し、恒志郎はにやりとせず にはいられなかった。 恒志郎にはこの男の言う意味がよく理解でなものが何本も。その中で男は恒志郎にひと この男つの箱を示した。異様な飾りや様々の光り物再び竹ゃぶを抜けると、眼下遙かに小村が きぬ。が、全く解らぬわけでもない。 あった。恒志郎は歩を速めながら、ふふ、ふ が言うには、彼は恒志郎の時代より遙かな未に覆われている。 はははと笑い続けていた。 「これです、これ。このダイヤルを 13 ・ 4 来の者で、時を越える船を操り様々の時代に 78 に合わせ : : : 」 旅するらしい。何時かも、″じゅら紀〃とか いう時代で調べ物をしていたが、妻女の危篤「だいやる ? 何たそれは。それにこの見たーーーー応募規定 ■応募資格一切制限なし。ただし、作 こともない文字は」 を報らせる文が届き、早速帰郷せんとした 品は商業誌に未発表の創作に限りま 男は赤い硯のようなものを、指し示した文 が、狼狽のあまり船の操作を誤った。そして す。 この峠へ座礁した。そこまでは恒志郎にも何字に合わせるよう言った。恒志郎は言われる ■枚数四百字詰原稿用紙八枚。必ずタ カこの座礁の様が奇妙で、恒通りにした。次に青い棒を、五つ数えてから とか解った。・ : テ書きのこと。鉛筆書きは不可。 引けと言う。恒志郎は承知した。 志郎の理解を絶して余りあった。この男は、 ■原稿に住所・電話番号・氏名・年齢・ 「ああ ! 有難うございます。本当に 9 自分 職業を明記し、封筒に「リーダーズ 例の船がこの峠にある大岩にもぐったと言う ・ストーリイ応募」と朱筆の去郵 のである。しかし大岩に穴があいたわけではで動かせないのが梅しくてたまらなかったん 送のこと ( 宛先は奥付参照 ) 。ペン なく、大岩と船が重なりあっているというのです 9 さあ急がなくては。この恩は一生忘れ ネームの場合も本名を併記してくだ 」 0 ません。本当に有難うございました」 さい。なお、応募原稿は一切返却し 。同一空男の姿が忽然と消えた。恒志郎はゆっくり 「これをどう説明したものやら : ・ ません。 間に原子が一一重に存在しているわけで、原子と五つを数え、〃ればあ″を引いた。 ■賞品金一封 は破壊されないのですが、移動できないので 一瞬、大岩が白く輝いた。しゆっという音 ・掲載作品の版権および隣接権は早川書 房に帰属いたします。 す。だから私はまだ死んだわけじゃない。幸と共に輝きは消え、後には何の変哲もない岩 いダイヤルは露出しているし、セットし直し石が残った。竹が風に鳴っていた。 ふみ

6. SFマガジン 1983年3月号

その時は、・ほく 「でも、あれはみんな人間が作ったもの だと思ってくれてもいい。 体が軽くなる。風がぼくを支え、持ち上さ。本当に美しいものは、他にある。上を 2 も諦める」 げる。。ヒアノの音が、透明な空気の階段ごらん」 忱黙。・ほくは不安になった。 彼女は上を見上げた。その唇から、ため を、一段、また一段造り上げていく。 「遙子 ? 」 息のような声がもれた。 「ーーー判ったわ。目を閉じて聴けばいいの 誰かの息遣いを感じた。すぐそばに、 一面の星の海。この高さからだと、 る。・ほくは、空いた手を伸ばした。する と、細く華奢な肩に触れた。それは、ぼく ようやく、彼女は同意した。 地上からは見えない遠い星までがよく見え の腕を待っているようだった。ためらうこ 「ありがとう。じゃ、始めよう」 る。無限の輝く世界が、二人を見降してい ・ほくは、身をかがめて針をレコードに乗となく、抱き寄せる。 せた。ターン・テ】・フルが回り、ヘッドホ 風が、二人のすき間でヒュウと鳴った。 ぼくは、遙子を抱いて夜空を大きく旋回 した。視界の中で、星の海が回転する。 ンから音がし始める。片方のス。ヒーカーをそのすき間も、すぐになくなった。頃合い 受話器のマイクに押しつけ、もう一方を自を見はからって、言った。 「あの光の数だけ、世界があるんだ。そし 分の耳にかぶせた。 てその中には、・ほくらのような生命の住む 「目を開けてごらん」 「聞こえるかい ? 」 世界も沢山ある。信じて、望みさえすれ そして、・ほくも目を開いた。 「ええ」 遙子が、・ほくの腕の中にいた。白い頬ば、そのどこにでも行けるはずなんだ : 「目を閉じて、・ほくがいし 今の・ほくらのようにね」 、と言うまで、そに、ほんのりと赤みがさしている。風が、 のままにして : 。音だけを聴くんだ、い 長い髪をゆらめかせた。彼女は下を見て、 ・ほくは、遙子を見やった。彼女は、心も 息を呑みぼくにしがみついた。 ち首をかしげて ( ぼくを見つめる時の癖 ぼくらは、高みから夜の街を見降ろして だ ) うるんだ瞳を・ほくに向けている。 風の音が、耳の中で渦巻き始める。。ヒア いた。何千、何万という光の粒が、黒々と 「ーーこれが、・ほくの夢だ。遙子、これか ノの音がどんどん大きく強くなっていく。 した大地に散らばり、またたいている。 らも、君を恋人と呼んでいいだろう ? 」 目を閉じて、静かな音に身をゆだねる。 ついさっきまで、ぼくらはその中で、互 彼女は、うなずいた。見開かれた瞳か 前髪が揺れ始めた。つま先からカがすう いに何キロも離れていた。そして、身体と ら、ひとつぶの涙が夜空を写してこぼれ落 っと抜けていく。 大地の奥底から体をとら同じくらい心も離ればなれになっていたのちた。 えていた重力の鎖が、切れていく。もう、 ぼくらは、星空の中で唇を重ねた。さ ・ほくを地面に縛りつけておくことはできな 「きれい あ、これで : : : これで、もう何も問題はな こ 0

7. SFマガジン 1983年3月号

きて有頂天になり、日に八回も回診にやってぎた。だが、・ほくが基ともできなかったでしよう。もしそんなことになっていたら、死ぬ 地にとどまり、最初の便で地球へ送り返されないですんだのは、もまで自分が許せませんからね」 最後のことばを聞くと、ソレムは落着きなく、部屋の中を歩きま つばら彼の努力のお陰であった。 「ロプ、連中は〈長方形〉を基地へ運んでくるために、二時間前にわりはしめた。 「わかってくれるだろうが、まだきみをあの〈長方形〉のそばへ行 発ったそ」医者が興奮してとびこんできた。 かせるわけにはいかんのだ」 「なんですって、彼らは基地をぶちこわす気ですか ? 」 「やはりそんなに悪いんですか、ぼくの病気は ? 」 「ちがう、もちろんそうじゃない。あれに手をつけるなにか頭のい ぼくはおびえたふりをした。 ・ : なにかそんなもののカ いやりかたがあるらしい。電波というか : 「いや、そういうわけじゃないが : : : 」 を消してしまうんだ」 「先生、余計な心配をさせないでくださいよ。自分でもそういった 「だからといってうまくいくとはかぎりませんよ : : : 」 「心配するな。連中はちゃんとそれには手を打っている。地球からじゃありませんか : : : 」 十数人の専門家のグルー。フがやってきたんだ。そうそう、基地は宇 宙会館みたいに活気づいているそ。ヴィデオトロンの記者たちも来「どちらにしろ、・ほくがそこへ出かけることは先生にはわかってい ている。連中はきみに会いたがったが、追っ払ってやってやった」るです。だからって、どうということもないでしよう」 「すると、・ほくの症状は重いんですね ? 」 「とんでもない。もしそうだったらとっくに地球へ送り返している半時間後に〈長方形をしたもの〉が運びこまれた。重い放射能防 さ。そういうふうには考えなくて、て、 ししい。ただ回復に多少時間が御服を着た専門家たちを先頭に、それに続いてロポットたちが〈長 かかっているだけのことだ」 方形〉を運んで到着したときは、基地の人間は一人残らす中央広間 「でも、本当に気分はいいんですよ : : : 」 に集まっていた。もちろんそれは長方形でなくて、触覚のようにア ・ロポットたちは 「いいか、きみをテレビ診断した地球の医学界の大物たちにさからンテナが張りだした大きな平行六面体であった : って、たいしたことはないと丸一時間も頑張ったのはこのわたしなそれを用心深く床の上へ置くと、人間に押されて脇へどいた : : : 頑 んだそ。それがわかったら、おとなしくいうことをきくんだ」 丈な金属のプロックは、微動だにしないでそこにおかれていた。放 「それには感謝しています、ソレム先生。ここに残れたのは先生の射装置は取りはずしてある。外す前にロポットたちはその装置の調 お陰です。さもなければ、今ごろ地球のどこかのサナトリウムに入査を終えていた : れられて、なにもかもテレビのニュースで知ることになっていたで戻ってきた連中は、防御服を脱ぐとふたたび普通の人間の姿にな った。その中に、前にどこかで会ったことのある男がいることに気 しようし、たとえ今日からにしろ、〈長方形〉の調査に立ち会うこ 2 8

8. SFマガジン 1983年3月号

突然カッとしてマックスは叫んだが、また悄然とうなだれた。 ( わしは老いぼれの役立たず、死を待つだけの終身囚だ。この子に しい若者だ ) 結局、彼はほんとうに真摯な愛国者であり、理想主義の青年なのは未来がある。いい若者だ だ。そして、その心は、たしかにまっすぐでやさしい、と老ャンは 「なあ」 思った。もっと性根のわるいやつなら、四の五のいわずにかれに銃ャンは声をかけた。ふいだったので、マックスはびくりととびあ をうちこんでけりをつけていたろう。もっと卑怯な男なら、自分のがった。その目にうかんだ希望の色が、あまりに露骨に甘くはげし 使命、そして老ャンの年と、若いじぶんの生命のことを早速口にし かったので、ヤンは見ていられなくなって、目をそらしたほどだっ こ 0 ていただろう。 しかし、マックスは、長いこと、何かを思いつめているようだっ とのくらいあんなさる ? 」 「あんたは、重さは、・ た。その顔が、しだいに青くなり、目から光が消えた。じっさい 老ャンより重ければ、ヤンが身代りになってやっても同じことで 彼は若かったのだーーー老ャンがそう思うのは、これで何度めだったある。老ャンは大柄ながっしりした骨格だった。いまはやせさらば ろうーー誰が、二十歳のとき、健康で、理想と希望にもえた若者でえているが、義足の重みもある。マックスは、若くてよく肉がつい あるとき、ふいに「お前は死なねばならぬ。と云われることを予期ているが、背は低い しているだろう。 「おれーーーええと、六十キロくらいかな : ・・ : 」 マックスは、ただ、おのが理想にもえてセイ博士を救いにやって ? というように、激しい希望にみちて、マックスは それで きただけだった。かるはずみだったのはたしかだが、しかしそれ老ャンをのそきこむ。おそろしく微妙なところだった。老ャンは、 そ が、こんな突然の死に値するような罪だろうか ? 彼がそう思うのそれよりほんの少し、二、三百グラム、少ないかもしれない もむりはない。地上で、いつだって、人びとはもっとずっとかるは のくらいなら、何をどうしても何とかなる。 ずみにふるまっている。安全な地上で ャンが答えずにいると、マックスの目から吹きけされたように希 彼はたぶん、自分の理想、自分の信念、自分の行為にかかってい望の光が消えた。 る人類と世界の未来のことを考えているにちがいない。それは、一 「 : : : おれのせいだものね」 方に、かるはずみの罪をのせればたちまち、それを。ヒンとはねあげやがて、とうとう、マックスは、のろのろと云った。云いながら てしまうほど重いだろう。 も、そのことばを口からよびもどしたい それが、とりかえしの 老ャンはマックスを見つめた。その若々しいはりきった皮膚に、 つかぬ刻印をおのが運命にきざんでゆくことを知って、ことばをか 汗の玉がうかんでいる。 きけしたい、 というようすでありーーー自分のことばを否定するよう ( この子は、わしの孫と同じくらいの年なんた ) ななにかを老ャンが云ってくれはしないかと、ひそかに全身全霊で 老ャンはあらためて思った。 待ちうけているようでもあった。、

9. SFマガジン 1983年3月号

これは絶対、確認しなくては。 かなり客が入っていた。白服の人物はどこにも見あたらなかった 道路の混雑はどんどんひどくなった。五インチきざみに動いてい が、客の三分の一ほどがカウンターの裏へまわり、あとの人々にサ た。ハスが、六番街まで来てとうとうぜんぜん動かなくなり、やがて 1 ヴィスしていた , ーー一度に一ポトル。 前後のドアががしゃんと景気よくひいた。前方をすかして見ると、 キャ・ハノーは人垣をかきわけて最前列へもぐり込み、しばらく二 運転手が・ ( スから降り、制帽を道ばたにかなぐり捨て、肩を怒らせ本のポトルのどちらにするか迷った。一方のラベルには (CIF05) て群衆のなかへ消えていくのが見えた。 とあり、もう一方には (ZITLFIOTL) とあった。どちらもたいし ドラム キャ・ハノーも道へおりて精神病院のなかを西へ歩きだした。おびてのんべい心をそそる名ではないが、なかみはどちらも勇躍琥珀色 ただしく警笛が鳴りくるい、サイレンの音があちこちから聞こえ にかがやいていた。かれは CZITLFIOTL) に決めた。二杯めをが た。十五ャードごとになぐり合いがあり、内十件に一件は巡査がかぶりと飲みくだし、いくらか気分が落着いたところで、カウンター かわっていた。しばらく歩くと、とうていプロードウェイまで行け後方をながめわたすと、ラジオがあった。 ないことが判明した。かれは押しあいへしあいやっとの思いで六番近づいて見ると、スイッチが入れつばなしのまま、回路雑音だけ 街まで引きかえし、南へ方向を転じた。 が聞こえていた。キャ。ハノーはつまみを、いじくりまわした。選局 ふと気がつくと、レコード店の軒先のラウドス。ヒーカーが、キャ つまみを右端まで回すとーーーダイヤルには七十七から四百八まで、 ・ ( ノーの大嫌いな歌をがなり立てていたが、耳にタコができるほどでたらめに数字が並んでいたーーオーケストラ演奏の『展覧会の 聞かされたいつもの歌詞ではなく、その ( スキーな女性歌手の声は絵』がきこえてきた。ほかは・せんぶなし。 こう歌っていた。 そうか、わかったそ、とキャ・ハノーは思った。ミ ュージック専ド 局 OX だけが放送していて、あとはぜんぶ休みなのだ。という きいいそいいぶ しふ。せぐむりいと ことはつまり、あほだら経を流すしかないのは、ニューヨークやニ ぽどんまうげすおおおあぐうあちゃ ュージャージイの放送局ばかりではなく、ウエスト・コーストから の全国向け番組も事情は変わらないのだろう。いや、ちょっと待て もしかしたら ハリウッドのラジオ出演者にはまともな英語 べつにまえよりひどい歌には聞こえなかった。 が話せるのに、それがマンハッタンの放送技師にぜんぶ通じないの すぐ前方の道路案内板には、こう書いてあった。 (BFR: (F) 数か ? 字までめちゃくちゃだ。 ここから順序よく考えを進めると、かんたんにつぎの問題に行き キャパノーは頭痛がしてきた。そこで、目についた酒場へ飛びこ ついた。そこでかれは (ZITLFIOTL) 片手に店内を歩きまわり、 んだ。 あまり人のいない隅のテープルに慎重に腰を落着け、以下のごとき

10. SFマガジン 1983年3月号

・ド可 ◎ 2 ◎ 9 ◎ 〇 0 MarcBolan 今、何故かま た突然グラム・ ロックが帰って くるんやでえ 難波弘之 ・本邦初紹介 / ボランの「ラーンの子ら」 / 冖 C) みなしゃん。あけましてめでたいな。 そろそろ四枚目のアル・ハムを作って下さい とよく言われるのですが、僕もコンセプ トのアルバムを続けて三枚作り、この辺で転 機にさしかかった ( と思っている ) ので、 きおい慎重にならざるを得ず、目下鋭意準備 中でありますよってに、今しばらくのお待ち を。この次あたりよ、、 。しよいよジャケットに 顔など出して、よりアーティストつ。ほく行っ てみよう、などと考えておりますです。 えー、今でこそ僕の顔は割とふつくらとし ておりますが、学生時代はもっとこけてまし て、おまけに天然パーマの髪の毛は現在より もさらに長くて、ジ、、 ・ペイジに似ている とか、マーク・ボランに似ているとか言われ たもんですが、しかし体重は五十五キロくら 、現在五十六 ~ 七キロですから、そんなに 太ったわけではない。 それなのにみんな僕の頬っぺたばかりみて 太ったと言うんですな。仕事が多忙を極めて 睡眠時間を切りつめたりすると、どうしても げつそりしますよね。そうするとみんな、 「どうしたの ? 痩せたんじゃない ? 」 だけど、体重計に乗っても 五百グラムと変 0