ゴードン - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1983年3月号
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1. SFマガジン 1983年3月号

たを。ハラすしかないという結論にいたって、フェスタマティスのこあんたに死んでもらうと決めこんでいる。フェスタマティスを呼び 出そうとしたのは、仕事を安くあげるための最後のあがきだったん 9 とを思い出し、もう一度やってみようと決めたわけだ。 今朝の二時頃、僕はふっと目がさめた。どこかそう遠くない所でだ ( フェスタマティスにはデニスを報酬としてくれてやるつもりだ たったいま呪文が成功したのを感じたんだ。ゴードンのしわざに違ったのさ ) 。しくじればその時は。フロと契約してあんたを狙わせる いないこともわかっていた。正直言って、少しばかりこわかった。気だったが、それには莫大な金がいる。金を工面するために家を売 フェスタマティスなるものが実在してゴードンがそいつを呼び出しらなくちゃならない。それだけはどうあってもしたくなかったの たとなると、狙いは僕かもしれないと思ったんだ。長年の取引きのさ。 あいだには多少仲違いもしたからね。念のため僕はがらがらを用意そこでゴードンは絨毯の上の化け物にあんたを片づけさせる方法 した。 はないかと考えた。何より手近にあるのが好都合だし、フェスタマ 二時間後、自分は安全だと結論が出たところで、調べてみたほうティスよりも安上がりで、デニスをくれてやらなくてもすむと考え たからね。・その怪物をあんたにけしかける方法をひねり出してくれ がよかろうと考えた。そこで着替えをしてゴードンのところに出か けた。案の定ゴードンは何やら呼び出していたんだが、フェスタマとゴードンは言った。いったん金が彼のものになれば素敵な取引き ティスじゃなかった。奴が呼び出したのはこれまでお目にかかったが僕のところにたんと転がりこむことになるんだと、さかんに匂わ こともないような醜い怪物が二匹で、おまけにとんでもなく危険なせていたよ。 やつらだった。だが超自然の生きものではないと思う。恐らく死に僕は、何とか方法を考えるから、それまで居間の眠り姫どもには 絶えて今はそいつらだけになってしまった種の最後の生き残りだ絶対手を出すな、絶対に誰も家に入れるなと言っておいた。どうす な。いつごろからか一種の仮死状態にあった。そいつをゴードンがればいいか今日のうちに教えてやる、とね。その足で、ただちに金 出来損いの呪文で起こしちまったんだが、これがまたとんでもない を渡すようあんたに忠告するためにここへ来たわけなんだ。ところ 幸運中の幸運さ、まじない消しの呪文が奴らを眠りに戻したんだ。 があんたは、それはできないという」 僕が行ってみるとゴードンとお友達は縮みあがっておろおろしてた彼が話しているあいだ、ヘレナは静かにすわっていた。やがて彼 ディー。ほんとのほ つけ , ーー化けものどもはゴードンの犬をプレツツェルよろしく食っ女はいった。「ずいぶん不思議な話なのね、 ちまったんだーーそしてゴードンが後生大事にしている白い絨毯んとに、真実なの ? 」 に、コチコチになって伸びていたよ。 スミザースは真顔で彼女を見た。「真実だ」 ゴードンと僕はしばらく楽しいおしゃべりをした。ゴードンは僕「そう」へレナはいった。「そう、それだったら、何でもあなたの に力を貸せといった。そこで僕はデニスがジーンズを替えに行った言うとおりにするわ。どうでしよう、かわいそうなデニスをそのフ 隙にゴードンに洗いざらいしゃべらせた。ゴードンはどうあってもエスティス何とかに引き渡そうなんて。破廉恥なこと。それで、あ

2. SFマガジン 1983年3月号

おお神さま、こっちを見てるそ、おお、神さら、「効くんだ。おれはやったそ。本当に効きめがあるんだ」そう って逃げたらいい ? いって笑いだした。デニスも加わって、はじめはおずおずと、やが 二匹の怪物にとって、大はほんの前菜にすぎなかった。男ふたて負けずに手放しで笑いだした。恐怖から解放されて安心のあまり りが、格別うまいとはいえぬまでも腹のふくらむ食事になってくれヒステリーの発作にみまわれたふたりが自制心を取り戻すには、し ばらくかかった。やがてクスクス笑いもだんだんおさまると、ふた るはずなのだ。鼻をふんふんさせて怪物たちはふたりに近づいた。 りは動かなくなった怪物どもをみつめ、募る恐ろしさにあらためて 「ゴードン、何とかしてくれ ! 」デニスが叫ぶ。「頼むから何とか 目を見張った。やっとテニスがいった。「もうちょっとで殺される してくれよう ! 」こわさのあまり、笛のように高くかぼそい声にな って、「はやく、はやく何とかしてくれ」かれはズボンをぬらしてとこだった」 「食われちまうとこだった」とゴードン。「レックスの奴もかわい 「ええい、くそっ」ゴードン がいった。「そうとも、何とかしなくそうに」 ちゃ。なんとか 「なんてこった」とデニス。ふたりとも真青な顔だった。 なんとかーー」 ゴードンがいった。「問題はこれからどうするかだ。こいつらを 「呪文だよ、ゴードン ! 呪文 ! 」 「そうだ、呪文だ。わかったーーー呪文だ ! 」 どうする ? 」 「そんなことは先に考えとくべきだよ。「ためしてみよう、ためし ゴードンは恐怖の麻痺状態からいくぶん脱け出したようだった。 彼はテー・フルの上から二個の色を塗ったヒョウタンをひつつかんてみよう」とあんたが言うから、やってみたらこのざまだ。ちえ だ。それはがらがらだった。ゴードンは奇妙なリズムにあわせてそっ、見てくれ、こいつらを」 ふたりは不安と嫌悪の目で昏睡状態の怪物を見やった。ゴードン れを振りながら、短調のふしで呪文を唱えはじめた。 怪物たちは前進をやめた。ふんふんという音もやんだ。じっと立は立ちあがると恐る恐るそちらへにじり寄っていった。生き返る気 ったまま動かない。・ コードンはがらがらを振り続け、その声はしだ配でもあればすぐに逃げ出す構えだった。二匹とも完全に生気がな いに高く自信をおびてきた。怪物たちは不意にぶるっと身をふるわかった。目は閉じ、残忍な口はだらりと開いて、おそましい歯には せ、石のように硬直した。それからゆっくりと、ほとんど荘重な感犬の肉片がまだこびりついている。ゴードンは手を伸ばすと、何回 かためらってひっこめたあげく、人差し指の先で怪物の片方にさわ じで傾いていき、・ハタンと床にひっくりかえると、そのまま倒れた ってみた。反応はなかった。 偶像さながらに横たわった。 男たちは椅子にくずおれ、しばらくわなわなと震えつづけた。よ「大丈夫、のびてるぜ。もとの仮死状態か何だかにもどったんだ。 うやくゴードンがいった。「おい、効いたそ。おれはこいつらを呼呪文はちゃんと効いてるぞ」ゴードンはそう言って、しばしそのこ 9 び出して、それから眠らせたんだ」しばしそれについて考えてかとを思案した。「どっちの呪文も効くんだ。万事計画どおり運んで

3. SFマガジン 1983年3月号

「お早う、シグニー ヘレナはいるかね」 「につちもさっちもいかなくなったのさ。彼にはもう売るものは家 「気でも狂ったのかね」年配の女はいった。 「いま何時だと思ってしか残っていないんだ」 「あなたがいうんだからまちがいないわね、エテ んですかね。ヘレナさんは寝んでますよ。あたしだって寝んでたん 。ィー。あの子が土 だ、あんたが呼ぶまではね。まともな時間に出なおしといでな。人地を売るたびに周旋をしたのはあなただった」 のうちの呼び鈴を鳴らすような時間じゃないんですよ」 「ビジネスマンだからね」とスミザース。「ゴードンは売りたがっ 遠くで呼びかける声がした。「何なの、シグニー ? 」 た。買い手もいた。誰かが手数料をいただく理屈さ。とにかく今や 「エディ ・スミザースですよ」女が怒鳴り返す。「入れてくれつ ゴードンは無一文なんだ。そして無論、あんたが死ねばあんたが受 て。いま何時だかもわかっちゃないんですよ」 託者として預かっている金がゴードンのものになる。そこのところ 「はいってもらって、シグニー」と声よ、つこ。 。しナ「コーヒーをお出であんたは大きな過ちをおかしたと思うね、ヘレナ。あんたはびた 一文ゴードンにやろうとしなかった ゴードンが年収として金を ししてね。すぐ下りて行きますから」 どれだけ受け取れるかは、あんたの裁量ひとつにかかっていたのに 「はいはい」と答えて女はスミザースに、「そんじゃ、おはいり、 だーーーおかげで今じやゴードンは、金を手に入れるにはあんたが死 アイー。あの人もあんたと同じくらい狂ってるのよ」 女はスミザースを居間に残し、しばらくたってからコーヒーを運ぬしかないと信じきってる。それに結局のところあれはゴードンの んで来た。スミザースが二杯めを飲み終えた頃、ヘレナ・スレイド金なんだ。奴さんは真剣だ、大まじめだよ。かりに今すぐ金を渡し たとしても、あんたが無事でいられる保証はないね。彼は心底あん が入って来た。ツイン・セーターにツィードのスカート姿のこざっ たを憎んでる。金をくれといってくるのを、いつもいつも無下に撥 ばりした白髪の婦人だった。「お早いのね、エディー。時間のこと ねつけすぎたからね。だが金はすぐにでも渡してやったほうがい はシグニーが注意してくれたと思うけど」 今日にもだ」 「お早うへレナ、してくれたとも。この件は待つわけにいかないと 思ったものでね」 「でもゴードンだってそんなことをして無事ではすまないでしよう 「そう。、、 ししわ、話してちょうだい」へレナは腰掛けてコーヒーをに。もしあの子が , ーーもしあたしに何かあれば、動機があるのはあ 手に取った。 の子だけなのよ。それに現にあなたがあの子の企みを知っている 「ゴードンがあんたを殺そうと企んでる」とスミザースはいった。 し」 カツ・フをあげようとした手がほんの一瞬、止まったかにみえた。 「やっちまったあとで奴さんが捕まっても、あんたには何の助けに それ以外に目に見える反応はなかった。ヘレナはコーヒーを飲み、もなるまいよ。金を渡してやりたまえ」 普段と変わらぬ声でいった。「いっ思いつくかと思っていたわ。例「エディ ー」と彼女はいった。「できないわ」 の阿呆らしい遺言のせいね」 「どうして ? 」 2 9

4. SFマガジン 1983年3月号

のを思いのままに動かせる。 ( メルンの笛吹きの伝説の起こりも、 たしたちどうやってゴードンを殺すの ? 」 「僕らじゃない。ネーダケーネーケヴィスどもさ。あいつらが彼をこれと似たような物だったんじゃないかと思うね。 ( メルンの笛吹 殺す。それも目撃者の目の前で、あんたにーーー僕にもだーー・・嫌疑がきがネズミや子供たちを誘い出したようにしてゴードンの鬼どもを かからんようにやってくれる。場所は選択すみだ、目撃者も」 操ってやれると思う。もちろんまた遊びにしか使ったことはないが 「どこで、エディ 誰なの ? 」 ね。鵞鳥や野生の七面鳥にはよく効くよ」 「なに、ちょっとした妙案をひねり出したんだ。いいかね、ゴード ヘレナは椅子から立ちあがり、窓のところに歩み寄ると、しばし こんなこととても信じられないわ。あた ンには、目撃者をおくのは彼のためなんだと信じさせなくちゃなら外を眺めた。「エディ ない。あんたが死ぬはずになっている時刻のアリ・ ( イを作るためなしたちが何をしようとしているのか気がついてる ? わたしたち、 んだとね。また、正確なタイミングで計画をたてることはとうてい無人殺しを企んでるのよ」 理だから、いっ何どき事が起こってもそばに目撃者がいるような場「さあ、どうかね」スミザースはいった。「むしろ正当防衛ではな 所でなければだめだ。それに加えて、ゴードンとあんたの両方の家いかな、実際は。害虫退治みたいなものかもしれない。煎じつめれ にある程度近いことが必要だ。そうなると場所はひとっしかない。 ば、ゴードンは全くの性悪者だよ。僕が二つ三つの取引きのために ゴアズ・サヴ = イのヒッビー・キャン・フに近いどこかだ。位置も申殺しの手伝いをすると本気で考えるような奴だ。だが、どうしても し分ないし、つねに人がうろついているからね。ゴードンが、つやらなきゃいかんというわけじゃない」 まりその、あんたとも僕とも似ても似つかない何者かに殺されるの 「それが問題なのよ」とヘレナはいった。「やるしかないと思う が、必ず誰かの目にとまる。だが念のために今夜はお客を呼んでおくの」 といい。殺人犯の人相は、警察の連中にはさそかし突拍子もなく聞 こえるだろう。目撃者が何やら吸ったか飲んだかしていたせいだと ゴードンもこれと同じようなことを言った。彼とスミザースが食 考えて、ひょっとすると証言を本気で取り上げないかもしれない」 堂にすわって紅茶を飲んでいたときである。ゴードンはいった。 「頭がいいのね」とヘレナはいっこ。 「だけど、あなたの言うその「議論するだけ無駄さ、スミザース。おれはやる。手を貸すのか貸 ″何者か″が肝心な時に肝心な場所に来てくれると、どうしてわかさないのか、どっちなんだ。これには多額の金がかかってるんだ ぞ。それにあんたはもう相当深入りしちまってるんだぜ」 るの」 「そりや、ゴードン、もちろん手伝うとも」とスミザースはいっ 「あんたの専属まじない師には方法があるのさ。僕は祖父さんのフ ースを持ってる。楽器の一種だ。ごく原始的なリコーダー、とでた。「ただあんたの気が変わったかもしれんと思ってね。肝心なの はだ、できるだけ手つとり早く片づけちまわなきゃならんてこと 7 もいうんだろうな。そいつが出すのは厳密に言うと音楽じゃないー だがそいつを吹くと、あらゆる生きもだ。どうしてもやむを得ないのでないかぎり、この怪物を一分たっ ー音が三つしかないんだ

5. SFマガジン 1983年3月号

爿ないのよ」 「なに、ゴードンの策略をちょいとひねって、あんたでなくやつが 「ああ。わかったそ。すると、スレイドにすっからかんにされちま被害者になるように仕向けてやれると思うんだ。まあ、とにかくや 9 ったんだな」へレナは若い頃に結婚したが、相手は魅力的な情知らってみるさ。きわどい仕事だがね。ゴードンは自分が何をおもちゃ ずのペテン師で、〈レナを捨ててリヴィエラに高跳びする前にエヴにしているかまるでわかっていない。正直言って僕にもわかっちゃ アンズ家の財産でたっぷりふところを肥やしていたことは、周知の いないんだが。ただ僕の方がゴ ードンよりはるかによく知 . ってい 事実だった。「それでずっとゴードンの金を使いこんでいたわける」 か。それにしても全部使い果たしちまったとはどういうわけなん「何なの、エディー、 あの子が何をしているというの ? 」 だ。百万ドルはあったはずだろう」 「インディアンのちょいとした遺物でね。魔法、とでもいうんだろ 「二百万ちかかったわ。スレイドがいくらか持って行ったのと、あうが、ただ、インディアンについてその言葉を使うのは聞いたこと 、カ - 子 / し たしが欠けた分を補おうとして下手な投機に手を出したのがいけな ゴードンは超自然の生きものを呼び出してあんたを殺させ かったの。きれいになくなったわ、エディ 一セント残らず。証ようとしていたんだ」 明できるものもひとつもないわ。あたし刑務所に行くことになるわ ヘレナは笑った。「そんな、まさか」 ね。でなけりやゴードンに殺されるか。いずれこうなるのはわかっ 「いや、僕は大まじめだ。事実彼はもうやってのけたよ、生きもの ていたのよ」 を呼び出すことの方だがね。無論、お目当てのものとはいささか違 「ヘレナ」とスミザースはいった。「僕があんたをそんな目にあわったんだが」 せると思うのかね。僕らは四十年来の友達だ。それに一時はただの ヘレナは笑うのをやめた。「じゃ、真剣な話なのね」 友達以上の仲だったことだってあるんだからね。心配することはな 「そうだとも。実を言うと、きっかけは僕にあるんだが」 僕が何とかするさ」 「どういう意味 ? 」 「何とかなるなんて思えないわ。お金がなくなっていると知ったら「ヘレナ、僕はサンギミー族のインディアンだ。言 唯でも知ってるこ ゴードンは訴訟を起こすでしようし、知らなければあたしを殺してとた。だが誰もそのことを改めて考えてみようとしない。皆が見て 信託を終わらせようとするわ。あの子はそれに頑固よ。あきらめさ いるのは根っからの遣り手の不動産業者で市会議員でロータリー せるなんて無理ね、あの子が生きてるかぎりはね」 クラゾの会員だからさ。僕自身忘れちまうこともある。それでも僕 「そのとおり ! 」スミザースは熱をこめていった。 はサンギミーだ。子供の頃、祖父さんにサンギミーの呪術を教えこ ヘレナは彼を見た。「そう」とヘレナよ、つこ。 ーしナ「ええ、そうまれた。ドンリー・ストリート の祖父さんの家を覚えているかい」 ね、それでいいのね、ゴードンが死ねば ? でもどうやってあたし「ええ」と〈レナ。 たち・・ーーーあなたはどうやるつもり ? 」 「あの頃は家の裏はまたぜんぶ林だった。僕が五歳の頃から、祖父

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スミザースがその家を出たのは日が昇りかけた頃だった。彼は幅 は見せなかった。「するとあんたがこいつらを呼び出したんだね」 の広い石段を降りて臆面もないガソリン食いの大型車に乗りこみ、 「おれが呼び出したんだ」ゴードンは答えた。「だが出そうと思っ こいつらを ? 邸内の長い車道を走りだした。道の両側の土地はいまは不動産の投 たのはこれじゃないんだ。いったいどうしたらいい そもそも何物なんだ ? おれの犬を殺しやがった」 機家連中のものだ。かってのアルフレッド・エヴァンズ屋敷で残っ ているのは、スミザースがたったいま後にしたばかりの家と二エー 「食っちまったんだよ」とデニス。 スミースは歯と鉤爪を調べていたが、「ふむ、これはネーダケカーの土地、それにハイウェイからの道路の通行権だけだった。 ひどく大きくまたひどく醜いその家は、世紀の変わり目にある金 ーネーケヴィスというやつらしい。少なくとも祖父さまが話してく 持ちが自分の財産を誇示するために建てたものだった。エヴァンズ れたやつにわりと似ているな。もちろん祖父さまも、言い伝えで知 っているだけたったがね。それにしてもこの大きさ、底意地の悪そ兄弟のアルフレッドとフランクは、坑道から身をおこし十年足らす うなやつじゃないか」 で富を築いた石炭王だったが、出世の道筋には失敗した事業や破産 ゴードンは身ぶるいした。「ああ、まったくだ、まったくだ。だした人々をボタ山のように残し、その名は慈悲を知らぬ欲望の代名 がいったい何なんだ ? 」 詞にまでなったのだった。百万長者となってのちもふたりは長いこ 「名前の意味は、″魂の去った者たちを食らうもの″というのだ。 と薄ぎたない生家で質素な独身生活をつづけたが、ついに炭鉱から 死肉を食う鬼の基本的なものだな。僕らの民族は昔からこの連中をは適度に離れた広大な地所にそれそれ、けばけばしいよく似た造り よく思っていない。・ とこから現われたんだね ? 」 の屋敷を建てたのである。アルフレッドのほうは結婚しなかった 「地下室からあがって来たんだ」 が、フランクには息子があり、やがて孫息子と孫娘が、そして最後 「なるほど、辻褄はあう。聞くところによると、その昔まじない師に曾孫ができた。それがゴードンたった。ゴードンは跡継ぎがなく たちはこの地域への立人りを禁していたそうだ。この辺に住むなん明らかに家系の最後のひとりとなる運命にあった。成年に達してア ルフレッド・ て白人どもは大馬鹿たと思われたもんだよ。あんたに起こされたも エヴァンズ屋敷を相続して以来、彼は土地を細切れに のだから、連中、穴掘りを始めてあんたの地下室に出て来てしまっ売り払っては食いつないできたが、とうとう残るは家ばかりとなっ たわけだな」 てしまったのだ。 もう一軒のフランク・エヴァンズ屋敷は、いまはゴードンの叔母 「とにかく、ここには置いとけないんだ , とゴードンがいナ で故フランクの孫娘、ヘレナ・スレイドの所有物だった。この家の 「どうやって始末したらいい ? 」 前でスミザースは車を停めると、ついさっき降りてきたのとそっく 「ゴードン」とスミザースはいった。「健らは少し話し合ったほう りの石段を登った。彼は呼び鈴を鳴らした。長いこと待たされたす がよさそうだ。飲みものを出してくれる気はないかねー え、ドアがわずかに開いた。スミザースは元気よく声をかけた。 9

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るそ、だろう ? 」 道はなさそうだな。ポカテワに助けてもらわなきゃなるまい」 デニスも用心しいしい彼の横に来ていたが、「″計画どおり″か 「それこそまったく計画外だぜ。今だって奴はもう知りすぎてる。 と馬鹿にしたようこ 冫いった。「″計画どおり″ね。よくいうよ、あんばれたら、警察につかまっちゃうよ。きっとっかまっちゃう」 た。計画ってのは、あんたの叔母さんを殺してくれるやつを呼び出「まだ法律を破ったわけじゃない。それに、おれたちが何か企んで このー すことだったんだぜ。いったいどうやってやらせる気だい、 いることぐらい奴はもう知ってるんた。とにかくだ、ほかに助けに , ー化けものどもに こいつらに命令できると思うのか ? 」 なりそうな奴がいるか」ゴ ードンは電話に近づき、ダイヤルを回し 「おれはこいつらを操れるんだ、見ただろう」弁解がましくゴード た。ややあって、「出ない」 受話器を置いたとたん、呼び鈴が鳴った。ふたりはぎよっとして 「操れるだって ? こいつらを呼び起こして、また眠らせる、それ顔を見あわせた。「なんだ ? 」とゴードン。「だれだ だけじゃよ、 オしか。その中間は、あんたもレックスと同しで手も足も「ちえつ。もうだめだ ! 」とデニス。 出なかったのに」 「窓だ。出窓から玄関が見える。誰だかのそいて見ろ」 ゴードンはたじたじとなった。「まあ、そうだ。多分そのとおり デニスはカーテンの隙間から覗いてみて、ほっとした顔で振り向 だろうよ。何か考えなきゃなるまいな。だが、さしあたってどうす いた。「奴だ。インディアンだ、スミザースだよ」 る ? こいつらをここに置いてはおけまい」 「アメリカ原住民だ」ゴードンが機械的に訂正した。「それから奴 「隠さなくちゃだめだよ」とデニスはいった。 「こいつらは地下室の白人名は使うな、ポカテワといえ」 から上がってきた。どこか地下に埋まってたんだ。穴を見つけてそ「何とでも」とデ = スはいって部屋から出て行った。ドアが開き、 こに戻さなきや」 閉まる音がした。戻って来たときには連れがいた。ずんぐりした男 「いったいどうやってそうするつもりなんだ ? この大きさを見で、時に″フル・クリーヴランド″と呼ばれる装いをしていた ろ。おまけにこの堅さときたら材木なみだそ。一匹だけでも百ポン えび茶のポリエステルのズボンに同素材のグリーンのプレザー、黒 ドはある。地下室にしろどこにしろ、これを運ぶなんてできっこな いシャツにネクタイは締めず、靴とベルトは白のエナメル革。男は いね」 片手を手のひらを外にして肩の高さに挙げると、皮肉な様子は見せ 「それしや、 しいさ、ここに置いたらどうだい。装飾に使えば。市 ずに、「ハウ」といっこ。 りつけの仕上げにちょうどいいや。ホースで泥を洗い流せば色もび よく来 「スミザース ! 」ゴードンがいた。「いや、ポカテワ , ったりだしさ」なるほどその部屋のインテリアは、白に近い色の徴てくれた ! ちょうど電話しようとしてたんだ」 妙な濃淡で統一されていた。 「はて、はて、はて、何だね、この連中は」スミザースの目は怪物 「ちつ、黙らんか、デニス」とゴードンよ、つこ。 : しナ「どうやら逃げどもを見て一瞬大きく見ひらかれたが、 ほかには驚き慌てたそぶり 0 9

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さんは僕を林のなかの秘密の場所に連れて行くようになった。そしエスタマティスの話をしてやった」 て術を伝授した。そういう仕組なのさーーまじない師はつねに自分「フェスタマティス ? 」 の息子ではなく孫に教えるんだ。よかれあしかれ、サンギミー族は「伝説によると、枯木に棲む悪霊のことた。適切な呪文を唱えれば 勝てないとわかった相手と他のどの部族より先に手を組み、二百五呼び出すことができ、代価を払えば汚ない仕事をかわりにやってく 十年の間、白人たちと隣人同様に暮らしてきた。だがその間もずつれるんだ。代価は人間ひとりの命ということになっている。ひどく とまじない師たちは、孫や、とくにその目的で孫養子にした子供たつめたく黒い霧のような奴で、犠牲者をつつみこみ、去ったあとに は石のように冷たい死骸が残る。だが、そいつが請負って殺した人 ちに術を伝え続けたんだ。これは単なる迷信じゃない。サンギミー 間の命では、報酬にはならない。もうひとり必要なんだ。話の結末 の呪術は多少とも現実の力をもっている。伝承には、おとぎ話じみ ちゃいるがまぎれもない確かな真実を述べたものがどっさり語られはたいていどうなるか想像がつくだろう。フェスタマティスを呼び ているのだよ、僕は知っている。 出した当人が代価替わりに殺されるのさ。無論、話によってはフェ スタマティスがだしぬかれることもある。 ここ十年ばかりの間、僕は土地を売却してやるためにしよっちゅ うゴ ードンはあのとおりの男だ。はやりの ードンに会っていた。ゴ ゴードンがあまりうるさくせがむので、僕はとうとうその呪文を ものには、とりわけ若い者の気まぐれには何でもとびつく。しばら教えてやった。害もなかろうと思ったんだ。僕自身何回か試してみ く熱をあげて、そのうち別のものに気を惹かれる。ディスコ、徴兵 たが、うまくいったためしがなかったからね。ああ、一度、宙を飛 制反対、コカイン、反核 ″ナウい″ものには何でもちょっぴりぶ目のないちつぼけな毛の玉をごっそり出したことがあった。薄気 狂ってみるのさ。たいていは僕に言わせりや我慢のならんものばか味悪いが無害なやつだった。この手の呪文はひどく複雑でね、単語 りだが、まあ、僕はプルジョワの旗振りだからね」 の発音ひとつ、声の高低ひとっ違えば、全部が台無しになるか、さ 「あの子、あたしをファシストだって言ってるわ」 もなければ全く別の呪文になってしまう。この僕に正しく言えない 「そうだろうとも。僕が被圧迫少数民族じゃなかったら、僕のこと としたら、まずゴ 1 ドンに言えるわけがない。そこで僕はゴードン もそう言うだろうよ。ゴードンは僕がやつの固定観念どおりに動か にがらがらを一組やって、呪文とまじない消しの呪文を教えてやっ ないのが気にいらないんだ。インディアンの人権問題が最先端の連た。ちょうど取引きのほうでもう一点あげたいところだったから、 中に受けたころには、彼ももちろんさっそく飛びこんださ。まだそゴードンを喜ばせてやろうと思ったのさ。 ゴードンは実際ためしてみたと言っていたよ。何も起こらなかっ れに夢中だった時に、礼はたっぷりするから彼のいわゆるアメリカ 原住民の部族風習というやつについて教えろと言ってきてね。僕が たが彼は驚きもしなかったーーー本気で信しちゃいなかったんだと思 うつかりまじない師の教育を受けたことをしゃべると、そこに照準うねーーーそれで、がらがらを引出しにしまいこんだきり忘れてしま 5 った。ところが最近になって、窮状を切り抜けるにはヘレナ、あん を合わせてきた。ひどく興味をそそられていたよ。僕はしまいにフ

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待った。ややあって、「ドン」そして吹いた。怪物どもはズシノズ 一九二五年に、そんな楽天的な事業家のひとりがこの区画に家をシンと繁みから踏みだし、ゴードンの焚火めがけて重たげに進んで 8 一軒建てた。その変哲もない木造農家は、やがて見捨てられたの行った。 ゴアズ・サヴェイに霧がかかった。呪文が始まるまではなかった ち、時折やってくる流れ者のすみかになった。目下の住人は麻薬と 暴力の時代の落とし子たち、時勢のあらしの中で年老いつつある漂霧だ。霧は地表づたいにゆるゆると渦を巻き、呪文が進むにつれて 流者たちだった。彼らは過去に生き、そして今なお、薬で頭をそこ少しずつ濃くなっていったが、人の腰より高くなることはなかっ ないむさ苦しい生活をすることが、彼らの横を知らん顔で通り過ぎた。死んだ土地の境界線で霧はふつつり切れていた。スミザースは スを口もとに構えたまま。 ていった世間に対する復讐になるという、漠然とした信念をもちっ不安げにそれを見つめた。フリー づけていた。生計のみなもとは謎の財源から定期的に送られてくる ゴードンの呪文は断ち切れたような短調の低音と念入りに打ち振 現金で、それは荒れ狂う過去が残していったひとりの逃亡者をかくられるがらがらの音で終わった。完全な静寂の一瞬があった。つづ まう謝礼として彼らに支払われているものだった。その逃亡者とい いて地中から何かが現われた。 うのは、かって大学の史学科の書庫に爆弾をしかけ、初老の夜警を乾いた灰色の土が動き、もりあがり、割れた。裂目から人影が立 ちあがった。鹿皮をまとったインディアンの戦士だった。ふたつに 本ともども吹っ飛ばすことに成功した過激派の男だ。 スミザースのいう目撃者とはこんな連中だった。信頼度が高いと体を折った姿勢から身を起こし、ゆっくりと全身を伸ばそうとして はいえないが、肝心なときに肝心な場所にいたわけである。スミザ いるようだ。そのあいだにも、時折まっかに燃え上がる焚火の明り ースと彼の奇怪な操り人形たちが森のはずれにさしかかったとき、 で、男の腕がかたく両脇にくくりつけられているのが見てとれた。 彼らは家の前の朽ちかけたポーチに集合していた。戦さ踊りがまん顔には言うに言われぬ苦痛、どんな悪夢のような苦悶もおよばぬ苦 まと注目を惹いたのだ。デニスの打ち鳴らす一組のポンゴの気まぐ 悶の表情があった。男はしばし、首をのけぞらせ、真黒な空を仰ぐ 力やがて、炎のまたたきとつぎのまたた れなリズムにあわせて、ゴードンが燃えさかる焚火の周囲を跳ねまかのように立っていた。・ : わるさまを、一同、とろんとした好意のまなざしで見守っていた。 きの間に、男の顔が変わった。声にならない叫びをあげて開いてい スミザースはひと吹き、雁の鳴くような音を鳴らして二匹の怪物た真黒な穴は消え、苦しげにひきつった顔の筋肉が弛み、やわらい をあつい繁みの陰に凍りつかせると、もっとよく見るために用心深だ。古い苦悩は終わったのだ。そのしるしは拭い去られた。解放の く影をぬって近づいた。ゴードンがデニスに話しかけていた。デニその瞬間、男の顔には穏やかなやすらぎの表情があった。 スはポンゴを打つのをやめた。ゴードンががらがらを取る。呪文を が、その一瞬だけのことだった。すぐに顔は消え、戦士も消えて 唱えはじめた。 いた。こまかい塵だけがしばし静かにただよいうねって、霧の渦に 「定刻きっかりだな」スミザースはいった。「者ども、用意」彼はさらわれていった。 っこ 0

10. SFマガジン 1983年3月号

力いいわ。いらっしゃいな」スミザースは瓶をいっしょに抱えて行おくには殺させてやるしかない。だから殺すものをあてがってやっ っこ 0 ーケ・マニトーに仕えていた悪いまじない師たち たわけなのさ。 風がそよぎ陽のあたるダイニング・ルームでは、籠のカナリヤがをつかまえて、″齧り屋″の巣ごとにひとりずつ一緒に埋めたんだ ーコン・エッグをたいらげ、瓶のな。″齧り屋″に殺させるために、生きながら埋めた。以来、まし さえずっていた。スミザースはべ 中身を数インチ減らしたところだった。目つきの荒々しさもいくぶない師たちは日ごと、一日に一万たびずつ″齧り屋どもに殺され て、果てしなく繰り返される死の苦しみをなめている。それでいて ん消え、顔の緊張は和らいで、ただ疲労の色があるだけだった。 「ゴードンの奴、またちょいと呪文をまちがえやがった。かりにそ死ぬこともできないんだ。かれらが生きているかぎり″齧り屋〃は うしても支障はないはずだった。死肉食らいどもは僕が生き返らせ殺しつづけることができ、殺戮の欲求が多少はなだめられるから、 てあったからだ。ゴードンのやることは , ・ーー本人はそうとは知らなおとなしく閉じこめられたままでいる。 ーマのひとりを解き放って ところがゴードンの呪文がそのティ ほんの体裁にすぎなかった。ところがその呪文が効いちま ーマを解放してしまった。テしまった。彼はついに死んで、長い苦しみから解放されたんだ。テ った。それも効き方を誤って、ティ ーマは、その 、と思うんだ ″齧り屋とでも訳すのがいし ーマが死ぬと″齧り屋んどもはそれ以上墓にとどまることなく が、そいつの巣を守るために置かれていたんだ。そいつらがどんな外に出てきた。奴らは出てきて殺しをやった。食欲がにぶるまで存 ースでまがりなりにも奴らを ものか説明したほうがいいだろうね。 分に殺した。そのおかげで僕は、フリ ″齧り屋〃というのは、伝説に出てくるなかでも一番と言ってい 手なずけられたわけなんだ。僕は奴らをゴードンの家まで率いて行 いほど始末の悪いしろものだ。小さい化けものなんだが、あんまり って鬼どもがあらわれた地下のトンネルに誘い込み、穴をれんがで 邪悪なものだから、最も悪どい霊どもにまで忌み嫌われている。神塞いできたよ。それからあんたが見たこともないようなひどい悪寒 ーが敵であるハ 話によると、昔、偉大なる善き精霊ギッチ・マニト にぶるぶる震えてここへやって来たというわけさ。恐ろしいものた ーケ・マニトーを一対一の戦いで打ち負かし、烈しい一撃をあびせちだよ、ヘレナ。どんなに恐ろしいかあんたには想像もっくまい たので、 ーケ・マニトーはこなごなに砕けて何万何億のかけらと なった。だがかけらのひとつひとつはそれでも生き続け、それそれ僕はここへ戻る途中でゴアズ・サヴェイに寄ってみた。あそこが がたったひとつの目的を持った。殺すこと。何でもかでも、けもの荒れ果てた原因も、何ひとっ育たなかったわけもこれではっきりし 、もんじ も植物も魚も鳥も穀物も、殺すことだ。ギッチ・マニトーはそいっ た。これからは変わっていくだろう。だが今朝の眺めはいし らを世界中のあちこちにうずめた。だがもちろん、ただ埋めたぐらやない。ちょっとした戦場なみに死体がころがってる。ただ、トン いで抑えておけるような奴らじゃない。そこで埋めた場所にいち いネルから来た化けものはいなかった。地面にぬれた個所がふたつあ 8 ち護衛役をたてた、それがティ ーマだ。″齧り屋訂を閉じこめてるきりなんだ。骨からなにから完全に分解してしまったらしい。奇