こし。オックスー 2 、 3 は降下を続け、二機そろって引き起こし、 をとめる鍵をつかんではいなかった。勝利をかちとる戦略はなく、 追跡のため左へターン。ジャムはオックスー 2 、 3 の後方占位をかジャムが仕掛けてくる執拗な攻撃から地球を守るのがに与え 2 わすために六旋回上昇を始める。三秒で千メートル以上上昇、右られた任務だった。それは戦術面にも影響をおよぼした。一つの戦 急旋回、オックスー 4 の後方につく。オックスー 4 の後方警戒レー 術的勝利は、勝利というよりも、負けなかった。というのにすぎな よ、つこ 0 カ負けるわけこよ、 冫 ( ℃、刀 / カー ダーが警報を発している。 絶望的な戦いだった。・ : そこへ、フリーになっていたオックスーリーダー機が最大 0 402 の連中はうまくやっていると雪風の機上で零は思う。絶 、機首を七・四で引き起こし。それに気づいたジャムは左へ切対に負けない戦法をとっている : り返し、・ハレル・ロール、百八十度旋回開始。オックスーリーダー 「様子がおかしい」 もローリング、互いに後方に回り込もうと機動する。 後席の電子戦オペレータ、・ハーガディシュ少尉が零に、長距離索 オックスーリーダー機、ジャムに食らいつく。上に表示、敵レーダーを見ろ、と言った。 「ジャムの二波だーー深井中尉、いま 4 0 2 と戦っているのは囮 短距離ミサイルのシーカーがジャムをとらえる。機内の火器管制だ : : : 来るそ、中尉、見ろ、ミサイルだ。対地ミサイル、 Ⅱに急速接近中」 装置からジャムの飛行方位、相対高度、速度のデーターがミサイル 「迎撃態勢は。 e ーⅡは気づいているかー にイン。フットされる。距離が縮まる。六千メートル。射程内。ミサ 「まにあいそうにない」 イル・シーカーから射程に入ったことを知らせる発信音がヘルメッ トに響く。すかさず発射レリーズを引く。ミサイルのロケット・モ雪風は増速、ーの上空へ。零は接近してくる敵ミサイル ーター作動、ガス発電機作動、母機から発射。目標到達まで四秒。の種類を雪風の戦術データンクから割り出そうとしたが、 ミサイルを回避しようと急旋回するジャムに後方から回り込んだミ の返答は″未知″だった。零はマルチ・ディス。フレイを移動目標指 サイルが突っ込む。目標、撃破。 モードに切り換える。 オックス隊は態勢をととのえる。 敵ミサイル十八、接近中。 にグファイト この空中戦を戦術空軍・戦術戦闘航空団・特殊戦・第五飛行戦隊「おそろしく速いーー・超高速ミサイルだぞ、中尉。ジャムの新型ミ サイルだ」 の五番機、雪風は単独で監視していた。 「 t-o ( 戦術航空偵察ポッドシステム ) 作動。撮れ」 雪風の。ハイロット、 深井零中尉はマルチ・ディス。フレイ上の敵の シンポルが消減してゆくのを無表情に見る。フ = アリイ空軍の戦術「作動」 思想は、勝つのは二の次、まず第一に絶対に負けるな、というもの そのミサイル群は二百数十キロを三十秒弱で飛来。零は・ハンクさ だった。ジャムは依然として正体不明で、はジャムの息の根せた雪風機上から、それがーに襲いかかるのを肉眼でとら
「死にたくはないさ」 てくれ、という気分だ」 「。ハイロットとして飛べるのは、、、 ししところあと二年だ。身体がも「ジャムの相手は機械にまかせてしまえ、というのか」 たん」 「それもまた危険な気がする。地球型戦闘機械もジャム同様、なに 「お払い箱か」 を考えているのかわからん。おれたちょ、つこ ( ーナいこの戦場でなにを 「おれの仕事を手伝うか、零。戦技アドバイザーになれるように取やっているんだろう」 り計らってやってもいい」 「戦争さ」 「まだ飛べる。雪風にはおれが必要だ」 「ジャムはもう地球侵略を完了しつつあるのかもしれない。 「片想いだ。雪風はもはや独立した意識体になりつつある。いっか リイでの戦闘は注意をひきつけるための囮作戦で、すでにジャムは ふられるそ」 地球各地に入り込んでいて、やがて地球とフェアリイ星を結ぶ超空 「ジャック : : : 年をとったな。以前のあんたはそんなに弱気じゃな間通路が閉じ : : : おれたちはここにとり残される。そんな妄想にか かった」 られるんだ」 「そうだな」ジ = イムズ・ブッカー少佐はため息をついた。「毎日「そうかもしれない。しかし、それがどうだというんだ ? 地球な 毎日、空軍。 ( イロットが戦死してゆく。出撃してゆくおまえや、わどどうなろうとおれには関心はない」 がブーメラン戦士たちを、おれがどんな気持で待っているか、おま「おまえはかわらんな。だが心の準備はしておいたほうがいいそ」 えにはわかるま 、。ジャムがなにを狙っているのかわからなくなっ 「いっかジャムに殺られると ? 」 てきたんだ。人間など相手にしていないのかもしれん。だとしたら「ジャムなら、おどろくことはない。おれがいいたいのは、零、 戦士たちの死は無意味だ。たまらないよ。なんでもいし 、もうやめつの日か、雪風がおまえの、人間の、敵になるかもしれないという 兵士として、またはやむなき事情によ って地球からく離れた外惑星界へ流 房宇宙兵物語 れ着いた男たち、そして女たち。彼ら 八「日田亜蘭はこのよるべない世界に精一杯の生を 送るのだったーー宇宙に生きる男女の 裳歓を、ヴェテランが絶妙な筆致で描 早 きあげる ! 単行本・定価 1500 円 好評発売中 ! 243
撃に向かう。 ジャムにもない」 「でも、故障してはなにもならない」とクーリ イ准将。「あれでフ 「ミンクス」ブッカー少佐。「リアタックするな。上昇しろ。電 アーンⅡが攻撃すれば雪風は負ける。ファーンⅡは素晴しい」 偵察任務につけ」 突如、司令室に警報が響いた。大きな情報スクリーンに赤い文「了解」 字。敵機発見。 雑音が人る。ジャムの大出力 O 。ジャムはファ 1 、ンⅡと雪風 「ジャムだ」・フッカー少佐は緊張する。 の後方三百キロに迫る。二発の超高速ミサイル発射。 ミンクスから警告が発信される。 「対地ミサイルなみの速さだーー零、零、聞こえるか。ジャムはフ 「どこからきた ? 」管制機のレーダー・オペレータ。「見えなかっ アーンⅡがこのミサイルをどう回避するのかを偵察するつもりだ」 たそ」 ブッカー少佐の声はジャムに妨害されて零の耳にはとどかなかっ 「距離四百キロ」三万メートル以上の高度からミンクス。「超低空 た。管倒機、 O O 作動。レーダー・スクリーンに、接近してく を這うように接近中。まちがいない。ジャムだ。機数二。戦闘偵察る敵ミサイルが映る。ミサイルはファーンⅡと雪風後方百キロまで タイ。フ。敵機増速」 二十秒で飛んだあと、四つに分離する。速度はぐっとおちるが、高 「警戒網にひっかからずにここまで来るとはな」司令室でブッカー速のミサイルだった。ミンクスが高高度からそれをとらえている。 少佐。「ミンクス、迎撃しろ。ー、 5 01 、スク冷ややかに。 ライフル。ファーンⅡ、もどれ。緊急退避。 雪風、レディーガン。 「了解」 「雪風 : : : おまえは敵機動できないんだそ」 オドンネル大尉は返答しながら、兵装スイッチをオン。 零は雪風を守りたいと思った。リモート・スティックを握る。 ーしかし、まず、ファーンⅡを守らなければならない。そのために 本物の武装だ。ガンと四発の短距離高速ミサイル。ファーンⅡと はーー零はふとオドンネル大尉とその恋人の顔を思い浮べたーーー雪 ミンクスよりジャムに近い仰にいた 雪風は、 ミンクスが最大推カ風を楯にするのもやむをえまい。味方が全減しようとも必ず帰還す で。 ( ワーダイ・フを開始。二発の長距離通常ミサイルを放つ。ること。いまその任務はミンクスが負っている。おかしいなと零は にキュー。敵、上昇中。ミサイル到達時間の数字が減ってゆく。 さめた心で思う。雪風を捨てる気になるなんて。おれは、おれを裏 ・ 9 ス 8 スー ジャムから高速ミサイル発射ーー 5 、 4 、切った雪風に嫉妬しているのか ? 3 。数字が消える。 零は自分の心を整理する瑕もなく、スティックを動かす。が、雪 「だめだ。ミサイルを撃墜された」 風は反応しなかった。 ー新を緊急発進した 501 機が二十一機、最大速度で迎「どうなってるんだーー・雪風 ! 」 25 ー
敵機多数、接近中。 つわけだった。 フェアリイ空軍最前線基地ーの周辺を空中戦闘哨戒中の このような近接格闘戦ではレーダーなどのんびり見ているはな 戦術機から警報が発っせられる。早期警戒機がその情報を確認。 。自分の眼と、僚機からの情報、それ以外に頼れるものはなかっ ーから二十四機の迎撃機がスクラン・フル。単座の格闘戦た。とっさの判断でつねに自機を有利な態勢に保つこと。ハンター パイロットは勘が悪くてはっとまらない。 闘機、ファーン。戦術空軍第一四〇二戦術戦闘飛行隊ー 402 「オックスー 2 、 3 、行くぞ」 トナーシップ隊形僚機に伝えて、スロットルを押す。敵は上昇するものと下降して 4 0 2 は横一線のタクティカル ゆくグループの二派に分かれた。オックス隊は急速上昇。 をとってジャムの攻撃機と相対した。 そのはるか上空を航跡雲を引いて飛びすぎてゆく戦術機を、 40 「敵機、視認。二時」 のリーダー ・パイロットは妬みに似た苛立ちで見つめる。特殊オックスー 2 からの声。鋭い視力でジャムのかすかな航跡雲をと 丿ーダーは見おとさない。上に敵をキャ 戦の戦術戦闘電子偵察機、雪風だ。戦闘のある場所にはかならず現らえる。オックスー ッチ。 e Q ポックスが敵影を囲む。近接戦闘スイッチを素早く、オ われて、味方が全減しようとも戦闘には加わらずに帰投してゆく。 ン。敵編隊のウイング側の一機が遅れている。 双発のス 1 ーフ = = ックスから発生する圧倒的大推力はジャ 「いただき」 ムを相手にしない。い つも逃げてばかりいる。おれたちの死を確認 オックスーリ ーダー機、ダッシュ。速度を殺してはならない。ス しにくるかのようだ、とリーダーは田 5 う。 。ヒードは命だ。オックスー 2 、 3 が続く。 「オックスー ジャム接近中。敵、増速、一・四、ヘッ 「オックスーリーダー、エンゲージ、エンゲージ。・フレイク、スタ ドオン」 「了解」 早期警戒機のタクティカル・データ・リンクに誘導されて、 4 0 「了解」 2 は四編隊に分かれる。一編隊六機が横一直線に並んで飛上方から敵の別編隊が襲いかかってくるそ、と守備にまわったオ ぶ。そのうちの三機がトリプル・アタックをかけ、三機は監視と防ックスー 4 からの警告でリーダー・グルー。フは右へ旋回。ジャムが 護にまわる。攻撃役と守備役はとくに決まってはおらず、時と場合追尾してくる。うんと引きつけた後方から、ジャムをはさむように によって異なる。重要なのは敵を分散させて、かならず三対一で攻オックスー 4 、 5 、 6 が攻撃を加える。ジャムが気づく。三をか ーリーダー、アングル・オ・フ・アタ 撃を仕掛けることだ。この条件が成立しないときーーたとえば後ろけて左旋回にうつる。オックス から敵の二機目が接近してくるような場合は ただちに攻撃を中ック・二十度で三・五旋回を開始。ジャム、半転して五旋回降 3 止、守備態勢に入る。その間に他の味方の三機が猛然と攻撃側に立下。オックスーリーダー、追尾、背面降下。ジャム、急激な引き起
・ハーガディシュ少尉が冷ややかに告げる。 えた。ミサイルはまるで赤い彗星か隕石のようだった。赤い尾を引 モーターの炎「了解」と零。「長居は無用た。帰投する」 いて e ーⅡに吸い込まれる。赤い尾はロケット・ ミサイリアーらしき母 「ジャム、なおも接近中。距離百二十キロ。 ではない。弾頭部が空気摩擦で輝いているのだ。 一瞬にして (---*<n ーⅡは壊減した。滑走路上でホットフ、エリン機が三、護衛戦闘機なしで悠然と侵攻してくる」 グ中の 401 は全減。地上施設は影もない。滑走路には大「ミサイルを射ちつくせばただの空飛ぶ機械にすぎない はなにを考えてるんだ ? 」 穴があく。雪風のがこれらをカメラに収める。 「あれだけのスビードなら炸薬など必要ないな。衝撃波でみんな吹「まだミサイルを持っているのか、それともあの母機自体が大きな 巡航核ミサイルだとも考えられるな。 402 の生き残りが迎 き飛ばされた」 「中尉、第二波ミサイル群接近中。対空ミサイルだ。速度は対地ミ撃態勢」 サイルよりずっと遅いがーー通常の三倍速度。 402 が危ない」 402 の五機は編隊を組み直し、百キロ前方の三機のジャムに 「回避しろと伝えろ。コード」 向かって、中距離ミサイルを発射。発射一・五秒後、ジャムからミ 「了解。こちら雪風、 4 0 2 リーダー、応答しろ。 << Z 、サイル迎撃ミサイル発射。 4 0 2 の放ったミサイルはジャムの高 Z 、 << Z 。コード、ユニフォーム、ユニフォ 1 ム」 速ミサイルにより、三十キロも飛ばないうちにことごとく撃破され 402 、オックスーリーダーは、雪風の緊急警告と自機る。 402 は退避を開始。その後方から狙い撃たれる。大空に閃 の警戒システムの警告音で素早く回避機動を開始。だが接近してく光と黒煙。 る脅威がどんなものなのかはわからなかった。 「全機撃墜された」 「ジャムの対空ミサイルか ? 」 「ファーンは旧式だ。あの敵をたたくにはもっと身軽でパワーのあ オックス ーリーダーはヘッドアツ。フ、ミサイルを肉眼で捕捉しよる戦闘機が必要だ。フリツ。フ・ナイト・システムが有効かもしれな うとした。困難だが、ジャムのミサイルはかすかな白煙を引くので 注意すればわかる。見ることができれば回避する自信はあった。 「無人戦闘機か。無人機をあの高速ミサイルの目標にさせ、敵がミ なんサイルを射ちつくしたところで攻撃するーー中尉、ロック・オンさ 見えた。後下方から突っ込んでくる。しかし、これは れた。エンゲージ」 警戒レーダーが敵の照準レーダー波をキャッチ。雪風、最大推カ 回避する時間はなかった。ミサイルというよりも、オックスーリ ーダーの眼には、それはレーザービームのように映った。その一瞬で加速。離脱を試みる。 「高速ミサイル二、急速接近中。秒速五キロ弱だ。距離四十キロ。 後、彼の肉体は機もろとも爆散している。 こ二弾目」 第二弾はその後方、六キロ。命中まで約十秒。三秒後冫 「 402n 、十九機が撃墜された」 239
正体不明のジャムに対し、超高性能機く雪風〉は意思を持っかのごとく戦いを挑む 雪風シリーズⅥ 全系統異常なし 神林長平 イラストレ→ョン横山宏 236
ことだ」 ファーンⅡのフライトに雪風を随伴させること。ただし、雪風は 「ばかな」 完全無人飛行させ、飛行中のファーンⅡプロトタイ。フの光電子シス 2 「可能性はある。雪風は恋人なんかじゃない。娘だ。彼女は成長しテムの挙動をモニターさせる。 ゲーメラン・プアイターズ た。いつまでもおまえのいうなりになっていないそ。覚悟してお雪風は同じ第五飛行戦隊機のなかでも、もっとも危険な戦闘を経 け。おまえはいずれ、雪風にとって邪魔者になる。無理解で馬鹿な験し、ジャムの罠をかいくぐって生き残り、帰ってきている。ファ 父親など無用だ」 ーンⅡのテストフライトはジャムも興味をもっているにちがいな 「ジャック、少佐、あなたはおれに雪風から降りろとーーー」 く、雪風なら、ジャムの戦闘偵察を察知し、ファーンⅡを守ること 「もう戦死者名簿に名を追加する作業はやりたくないんだ。おれは ができるだろうと少佐は判断した。そして同時に、雪風が無人でも そんな仕事をするためにここにいるんじゃない」 任務を遂行できることが証明されるだろう。そうなれば、と少佐は ブッカー少佐は情報ファイルを整理して、零を見ずに言った。 思った。戦隊機が帰還するのを待っ緊張感から解放される。 「深井中尉、もう行っていいぞ。空軍医療センターで精密検査をし 三日がかりで・フッカー少佐は雪風のフライト・プログラムを組 み、戦技フライト・。フランを練った。 「おれは大丈夫だ。手当ても受けた」 少佐は零に雪風無人化の計画をうちあけた。 「診断書の提出を命ずる。退室してよし」 零は不敵な笑みをうかべて、いった。 零は立ちあがり、少佐に敬礼した。整備場に出て、巨大な戦闘偵「無理だよ、少佐。雪風はおれなしでは飛べん」 察機を見つめる。 「やってみせるさ」 「おまえは : : : おれを裏切らない : そうはいってみたものの、限られた時間で雪風を完全な無人機に 愛機のレドームに触れる。雪風は冷たかった。 改装するのはソフト、 トの両面から不可能だとブッカー少佐も 認めさるを得なかった。 深井零中尉は全治二週間と診断された。もちろん、その間は飛べ 結局、戦技フライトは次のようなものになった。 ファーンⅡプロトタイ・フの。ハイロットは、戦術空軍・戦術開発軍 戦術空軍作戦参謀会議では、新しい格闘戦闘機ファーンⅡを早急団・実験航空師団のエース。 ( イロット、ヒー・オドンネル大尉。 に実戦配備すべく、戦技フライトを行なうことが決定された。 随伴する雪風は無人。 会議に出席したジェイムズ・。フッカー少佐が戦技フライトの責任その雪風を、電子戦闘管制機が・ハックアツ。フする。深井中尉は管 者に任命された。少佐はこの席で一つの提案をし、そのアイデアは制機に乗りこみ、雪風が支援を必要とする場合に指示を出す。 認可された。 これを聞いた零は、ようするに、と・フッカー少佐にいう。 てこい」
エメリー中尉はその任務を十分にこなしている有能な技士たった「妬いてるのか、エメリー ? 」 が、それ以外のこまごまとした大尉の雜用もひきうけていて、実質「あなたのことが心配なのよ、ヒー いつもいつも」 的には個人秘書だった。 「ぼくの瞳にはきみしか映らない。きみ以外の女に触れたならば、 = メリー中尉は、陽気なジョークをとばすオドンネル大尉の後ろその女は氷の柱となって砕けるだろう」 にひかえて、メモをとった。大尉が陽気でいられるのはこの女のせ 「わたしは真面目よ。茶化さないで」 いだろうとブッカー少佐は思った。エメリー中尉は人前ではオドン 「おれはいつも真面目なつもりだ」 ネル大尉を「大尉」と呼んだ。オドンネル大尉。それ以外の呼び方ヒ、ーは = イヴァを抱きよせる。 など思いっかないというように、そっけなく。 「あなたって、新しい物が好きなんだわ。だからテスト ' ハイロット だがブッカー少佐は、・フリーフィングのあと、人気のなくなったをやっているのね。わたしもテストされてるの ? 」 薄暗い整備場、ファーンⅡのわきで、二人が恋人同士の甘いささや「きみと飛行機とは別さ。どうしてわからないんだ」 きを交わしているのを聞いた。 「帰りたいわ。地球へ。あなたといっしょに」 「ねえ、ヒー」とエメリー中尉は一人の女の声でいった。「わた「逃げ帰ろうというのかい ? ジャムは今日も地球を狙っているん し、心配だわ」 だ。おれはーー」 「なにが ? ファーンⅡはいい戦闘機だよ」 「やめて。お願いだから」 「セントラル・コン・ヒュータのテストは完全とはいえないし : : : 」 「 : : : そうだな」ヒューは恋人の髪をなでながらうなずく。「そろ 「そのときはこっちのシルフィード が支援してくれる。シルフも素そろ落ち着くか。任期がもうじき切れる。きみのためなら、フ = ア 晴しい。こいつの大推力は魅力だな。この機体はブーメラン戦隊の リイ空軍をやめても、 しい。たが、飛べるかぎりは、この仕事をつづ なかでももっとも優秀な機だという。ファ , 、ンⅡに比べるとエビオけたいんだ」 ニクスのハ ード面ではもはや旧式になりつつあるが、それでもいま「テスト。 ( イロットは危ないわ。機械なんか信じちゃだめ。お願い ・こファーンⅡより強力だ。ハ トを換装すればより高性能になる。 よ、お願い、 こいつのパイロットがうらやましい。最強の戦闘機に仕上げたやっ 「考えてみるよ : : : 任期はあと二カ月だ。二カ月たったらーーー結婚 しよう。愛してるよ、エイヴァ」 「わたしには、あなたがなぜこんな飛行機にそんなに思い入れるの 熱いくちづけをかわそうとする大尉からエメリー中尉は逃がれ か、わからない。たかが機械じゃないの」 て、今日のスケジュールはすべて消化しました、といった。オドン 「ジャムと戦うには優秀な戦闘機が必要なんた」 ネル大尉は中尉の目くばせで振り返った。 ) 意味じゃないのよ。わかってるくせに」 雪風のレドームドに一人の男が立っていた。 が」 246
「まったく信じがたい機動をしたものだ、雪風は。よく空中分解し 「腹に弾をぶちこまれた気分だ : : : 」 よ、つこよ。ンルフィ】ド・ 雪風がこれほど強い機体構造だったと 長距離を駆けたランナーのような激しい息づかいで少尉が言っ はね。零、身体は大丈夫か。マックス・スイッチを切ったらリ ミッタも働かないんだぞ」 雪風、高度を下げてフェアリイ基地へ。 「死ぬよりはましさ。肋骨にひびが入っただけだ。相棒はどんな具 ーⅡは消減した。 合だ」 高速ミサイルを放ったジャムの母機は雪風の電子戦オペレータの「脾臓破裂。命はとりとめるだろう。おまえは以前脾臓を摘出して いたつけ」 ーガディシュ少尉が予想したとおり、自らーⅡに突入して 「ああ。それで助かったのかもしれない」 爆発し、 e ーⅡにとどめを刺した。 (--*<<ga ーⅡは地下施設も破壊されて生存者は皆無だった。上空を「ブッカー少佐」クーリイ准将。「この情報を至急まとめなさい。 緊急戦術空軍参謀会議に提出する。会議は二時間後。以上」 哨戒していた機や早期警戒機もことごとく撃墜された。 ただ一機、雪風だけが帰遠。雪風はは投棄しており、そ「わかりました、准将」 少佐は特殊戦・フリーフィング・ルームを出てゆく准将に敬礼。零 のカメラによる情報などは失ったが、母機内の—ファイルは無事だ っこ 0 は腰をおろしたまま見送る。准将は後ろに眼をつけてはいない。 ・フリーフィング・ルームとガラス壁で仕切られた整備場で、雪風 深井零中尉は、雪風の持ち帰った戦闘情報分析の場に立ち合う。 が機体を調べられている。超音波や >< 線による探傷システムのセン 「信じられないわ」 と特殊戦・副司令官クーリイ准将がコン。ヒュータ・ディス。フレイサが自動スキャン。 「雪風はもう少しで分解するところだった。翼についている歪ゲー から目をあげて言った。 ジを見せようか、零」 「たしかにね」 シューティング・グラスをかけた、頬に傷跡のある・フッカー少佐「けっこうだ」 ートの両面からだ。 「戦術を変更しなくてはならない。ソフと がうなずく。 「これほど完璧にジャムにしてやられた例はない。雪風のこの情報まず戦法を見なおす必要がある。のんびりと空中戦をやっていては だめだ」 は貴重ですよ、准将」 「対抗手段を早急に立てないと、フェアリイ基地も危ない。深井中「ファーンでは無理だ。雪風でも危うかった」 「高速ミサイルの開発は << でもやっている。問題は弾頭部に発 4 尉、よくやりました」 生する高熱と、それによる熱雑音なんだ。ジムのミサイルはそれ 「やったのは雪風だ。おれは失神していた」
のキヤノビをオー。フン、コクビットにつき、オート・マニュ 尉は大尉のヘルメット、マスクをとる。エメリー中尉の悲鳴。マス スイッチをオフ。雪風はファーンⅡとの接続を解除。それから雪風 クと口から血があふれだしてエメリー中尉の手を濡らした。大尉の は夢から醒めたように、少佐にディスプレイを通じて ( ーネスや耐 一ががノ \ りと傾く。 スーツのホースやマスクが正しくセットされていないことを警告 オドンネル大尉は息をしていなかった。 した。少佐は飛ぶ意志のないことを示すために油圧系統分離スイツ : なにかいって : : : お願いだから」 チを操作、動翼の作動油圧系統を切る。雪風は警告を解除、今度 ・フッカー少佐は救急隊員に合図する。 雪風に零を乗せていれば、こんなことにはならなかったかもしれは、飛行不能のサインを出す。この状態で六十キロ以上の速度を出 少佐はエメリー中尉が思いもかけぬ行動にでるのを見る。すと自動ブレーキが作動する : エメリー中尉は腰の軍用自動拳銃を抜き、そしてそれを、オドン特殊戦の地下格納エレベータ前までタキシングして、ブッカー少 佐は雪風を整備員に渡した。 ネル大尉の死体に向けた。少佐は目を疑う。なにをする気だ ? 「なにをする ! 」 深井中尉が着陸した管制機から降りて、担荷で運ばれるオドンネ ル大尉と彼にとりすがるエメリー中尉を無言で見送っていた。」 ・フッカー少佐は叫ぶ。エメリー中尉は恋人の胸に弾を射ち込んだ。 そして銃を投げ捨てて、物言わぬ身体にしがみつき、泣き叫んだ。 「ファーンに殺されるなんて、機械に殺されるなんて、いや、ヒュ 少佐の声に零は振り返る。 1 はわたしが殺したのよ、わたしが : : ファーンに心をうっした男「ジャック。雪風の具合はどうだ」 なんか死んでしまえばいい」 「機械は修理できる : : : 雪風は大尉ではなくファーン旺を守ったん ・フッカー少佐は錯乱するエイヴァを抱きかかえて、死体から引き だ。おれのプランはまちがっていた。雪風を無人で飛ばしたのは」 はなそうとする。 「あんたの責任じゃない。雪風がファーンⅡを動かさなかったら、 「なによ、この飛行機、ヒ = ーは死んでいるのよ、ヒ = ーが大変な大尉は機体ごとジャムにやられていたよ。結果は同じだ。大尉の運 いや、いや、いやよ」 なぜ黙っているの 命は」 「しかし意味はちがう。大尉は機械にもてあそばれてーーー」 ブッカー少佐は血で染ったファーンⅡの計器に目をやる。コーシ 「ここは戦場だ。ここでの死 「どうちがう ? 」零は静かにいった。 ョン・ライトーオールクリア。全システム異常なし。 は戦死さ。それ以外にどんな死があるというんだ」 オドンネル大尉を殺したのはジャムでもエメリー中尉でもない。 。フッカー少佐はこたえなかった。 ファーンⅡと雪風だった。その二機はしかし、オドンネル大尉の死 〇八〇七時、戦技フライト終了。ファーンⅡの実戦配備が決定さ 5 にはまったく注意をはらっていない。 ・フッカー少佐はエメリー中尉の身柄を救急隊員にあずけて、雪風れる。