「あれ自体も植物なのか、それともただの生化学的な合成物なの究員ということになっている。シ = イバーの科学者たちのあいだで か、結論はでていないの。だけど、大事なのは、あのキノコが小惑は、軍事活動や諜報活動に従事する少数者は警戒されていた。 ・、ーよインヴェスターが教えてくれ 星の表面で太陽光線にあたりながら育っということよ。宇宙にむき将来への投資として、シェイ′冫 だしで育っ食糧源よ ! 考えてもごらんなさい、輪に持って帰ったた十九の異星の種族にそれそれ調査員を派遣していた。この派遣の ために、何ギガワットという貴重なエネルギーや、何トンという希 らどんなに役にたつでしよう」 「役にたつどころじゃないよ」 金属、アイソトープを、シェイバーの経済は負担しなければならなか 「だけど、あれだけでは食べられないわ。わたし一度だけ、ほんのった。多くの場合、派遣することのできた調査員は二名か三名で、 一かけら食べてみたことがある。プラスチックを食・ヘるようなもの七つの種族については一名だけだった。スウォーム調査に選ばれた だったわ」 のがガリナ・マーニイだったのである。彼女はあっさりとでかけて 「それにしても、よく栄養失調にならなかったな」 いった。知能の高さと誠意をもってすれば、正気で生きのびられる 「ならないわ。スウォームは生化学的にわたしたちとそっくり同じと自信を持っていた。送り出す側に目算があったわけではない。わ かっていたことは、たった一人だけだろうと、装備が不十分だろう なのよ。キノコそのものも立派に食べられるんだけど、一度彼らが 食べて吐きだすと、ずっと栄養価が高まるの。働き手の後腸の中でと、何か技術や決定的な事実が発見される可能性が万に一つもある 以上、メカニストが調査員を派遣する前に彼女を送りださなければ 発酵作用がおこっているのね」 ということだった。そして、マーニイ博士はまさにそう アフリールは目を丸くした。 ならない、 いう事実を発見したのである。彼女の調査活動はにわかに輪の存亡 「じきになれるわ」とマーニイが言った。「あとで食物のもらい方 ルが来たのだ。 を教えるわ。働き手を軽くたたけば、反射的にくれるのよ。彼らのに係るようになった。だからこそ、アフリー 行動はほとんどがフェロモンで支配されているんだけど、これは違「化合物を合成したですって ? なんのため ? 」 アフリールは人なつつこく微笑んで、「われわれにそれができる うの」彼女はべったりと横顔にはりついた汚れた髪の房を手でとか した。「前にフェロモンのサンプルを送ったけれど、送るだけの値ことを証明するためじゃないかな」 彼女はかぶりをふり、「お願い、かけひきはなしよ、ドクター 打があったかしら」 「あったとも。あの化学的性質は実に興味津々だった。大半の化合アフリール。わたしがこんな遠くまで来たのは、一つにはそういう 物はなんとか合成できたよ。わたしも研究チームの一員だったんわずらわしいことからのがれるためだわ。本当のことを教えて」 アフリ ールは彼女をまじまじと見たが、あいにくゴーグルのせい だ」彼はそこで言いよどんだ。彼女をどこまで信じてよいだろう ? 彼女は彼と彼の上司たちの立てた実験計画を知らされていないのでまともに視線を合わせられないのが残念だった。「けっこう。し だ。マーニイの知っている範囲では、彼もやはり単なる平和的な研や、了解しておいてもらおう。わたしが土星評議会から遂行を命し 3 9
がほとんどそろっていた初期のやつが。評議会は全面的にきみを支に、そいつの仲間に食いっかれたからね。あいつは、大使として 持している。こっちへ来ている間に、きみはすっかり輪の有名人には、まだまだ勉強の余地があるな」 「そうね。あなたがくることは、彼に予告してあったのよ。彼はあ なったよ」 んまり気乗りしないようすだったけれど、食べ物でなんとか買取す 「そう、大体予想したとおりね」 アフリールは気勢をそがれた。「もしわたしがきみの業績になにることができて : : : まさか、ひどい怪我じゃないでしようね」 かの欠陥を見つけるとしたら」彼は言葉を選んでつづけた。「それ「かすり傷さ。化膿するおそれはないと思うが」 はわたし自身の専門の異星言語の分野に限られるだろうね」彼は彼「そのおそれはほとんどないわね。あなたが自分の体に細菌を持っ 女がひきつれた一一頭の共生者をあいまいに指すと、「どうやらきみはていれば別だけど」 共生者とのコミュニケーションですごい進歩をとげたようだ。なに ルはむっとして言いかえした。「わたし 「冗談じゃない」アフリー しろあの二頭は、巣穴を代表してさっきから喋りつばなしだから」 の体には細菌なんかないよ。それに、どのみち、異文化の中へ徴生 彼女は何とも知れない表情で彼を見つめると、肩をすくめ、「こ物を持ちこんだりはしない」 の子たちはこの星に十五種類以上はいる共生生物の一種類にすぎな マーニイは視線をそらした。「ひょっとしたら、特別な、遺伝子 いわ。跳び虫と言って、お互いどうしでしか話さないの。彼らは未開改変をほどこしたものを、持ってきたかもしれないと思って : 種族よ、ドクター インヴェスターに関心を払われているとしたら、そろそろ行きましようか。この先の枝室で、あなたをかじった跳び それは彼らがまだ言葉を話せるという理由だけだわ。以前は彼らも虫があなたの匂いを口移しに広めてくれているころよ。二、三時間 宇宙旅行をしていたのに、今ではまったく忘れてしまった。この巣もすれば巣穴中に広まるわ。一度女王にまで届けば、あとは早いか 穴を発見して、すっかり気にいってしまい、寄生生活を始めたとい ら」 うわけね」彼女は片方の頭を軽くたたいて、「わたしがこの二頭を若い跳び虫の殻を蹴って反動をつけ、彼女は一路ホールの方へ進 飼いならしたのは、この子たち以上に上手に食物を盗んだり、めぐんだ。アフリールはつづいた。空気はなまあたたかく、凝りに凝っ んでもらおうと思ったからなの。今では二頭ともわたしによりそっ た服装の下では汗がふきたしていた。 彼の汗は無菌状態で、匂 て、大きな仲間から守ってくれるわ。嫉妬しているのよ。この種族いはなかったが。 は巣穴に来てから、せい・せい一万年しかたっていないので、まだ地通路を抜けると、天然の岩にうがたれた広大な空間が広がってい 位が不安定なのね。彼らはまだあれこれ考えあぐねているし、とき 断面の直 た。室はもっこりとした長方形で、長さは八十メートル、 には疑問をもっことだってある。一万年たっても、まだそれだけの径は二十メートルあまり、巣穴の住人が群れていた。 数百頭はいただろう。大半は働き手で、八本足で毛むくじゃら、 ものは残っているのか」 「未開種族か。さもありなんだ。わたしはまだ宇宙船の中にいる間グレート・デンほどの大きさである。戦士の姿もちらほら見えた。 6 0 ・
人間の及ぶところではない。やつばり、コンビュ ってしまう程である。 いるのは編集者たちである。このの担当の さんだって、私の酷い悪筆のために、毎月、そ ーターは、賢いのだ。ただ、これが我々の役にた なんでもこの仕掛けには学習機能とかがあるん っとかたたないとかいう事は、コンビーター自だそうで、そいつが、これからどこまで活躍するれは散々なめにあってきたのだから ! それがキ 身の関知するところでは無いのであろう。 これからは、グッチャグチャな書込み、判読 か、あんまり期待端手以内が ( この始末た空 ! ) そんな訳だから、たまに ( たまに、だが ) こつまあ、あとすこし様子を見る事にしようと思って不能スレスレの書きなおしなんか一つもないとい う、まるで校了後のゲラみたいにきれいな、アノ ちの欲しい漢字が一発で出てきてくれた時など、 野田昌宏のものだなンてとても信じられないよう ほんとに O にう をしてやりたくな考えて見ると、エンビッってほんとに便利なも な原稿が届く事になるのだ。—さんは多分腰を抜 かオ , 日、がしオし 、よ、 ( この、抜かす日がいないなんそ A 」い、つ一 = ロい亠刀力いかに , もコン。ヒューターりしいド ジさ加減で、実に感動的だとおもわないかねフ どんな賢い人間だってこんな当て字は思いっかな いぜ ) そんな訳で、目下、私はこのワープロというへ ンな奴と四つにくんで、悪戦苦闘の最中なのであ ります。 しかし、とにかくワー。フロという仕掛けは良く できている。文章の訂正、削除、挿人、移動なん かの正確さ、簡単さ、綺麗さは本当にしみじみ O を見てしまうね。それも、一瞬間で片付いて しまうのだから : ・ さて、話はケープ・カナベラル、 tn ()* ー 5 の 時間読みがマイナスに迫った所であった。 のだったんだねえ ! あたしは恋しくってー 名にしろ世の中には、すくなくとも何人 ちょうどこのころ、〈コロンビア〉がのってい と、真ア、ワープロ塗いうやつに就いて私は悪か、私がワープロに凝りはじめたことを大歓迎し る外部燃料タンク、あの橙色の細長い爆弾みたい 態をついてきたし、これはシャレや冗談ではなている人が、他しかに射るのだから ! ( 漢字変換なやつのてつべんに、誰の仕業か、 ET for く、れつきとした本音なのだが、逸れにしてもワ の事だが、濃いつがどン何アホな変換をやるか見 home 一という落書きの発見された話がプレス・ ープロというやつはおもしろい。皆は、あきつ。ほて貰うために漢字訂正は行っていない。出てきた サイトに流れた。もちろん、外部燃料タンク い私がいっ放りだすかと、意地悪句見ているが、 ままである ) (External Tank) の略称をひっかけたもので とてもとても。毎日が楽しくって仕方がない : 言うまでもなく、私のワープロ狂いに期待してある。たちまち、あたりは映画の話となり、 Sense of Wonde 「 land ロックスのワープロ 始ま & 室 ! ) ま・、あとすこし様子を見る事 にしようとをつている . 考えて見ると、エンビッってはんとにを なものだったんだねま ! あたしはましくっ ( ー は第第をついてきたし、これはシャレや談 ではなく . れつきとした本をなのだが、増巫 にし ( もワープロというやつはおもしろい 物は、のきつはい私がいっ放りだすかと、第 。第血見ているが、とてもとても . 物日が楽 しくって仕方がないーー ー名。 & 上きの中に は、すくなくとも何人か . 私がワーアロにを りはじめたことを大している人が . 製生 な . 阯。だから一 ( 画字度・の事だが、・ りつ陸 - 之当アホな変をやるか見て貨うた めに第町正は行っていない . 出てきたまま 画うまでもなく、私のワープロ経いに第物 しているのは・・物たらぐある . この s 0 w のを当の一さんだって、私の第いを・のため に、物月 . それは載々なめに会っ ( きたのだ から一それがキミ . これからは、グッチャグ チャな・込み、物不第スレスレの・きなお しなんかーっもないという . まるで校了後の ゲラみたいにきれいな、アノ野田日をのもの だなンてとても価じられないような原物が・ く事になるのだ . ーさんは多分・炉日 なんぞという画い方がいかにもコンごュ - タ - らしいドジさ加で、実に・・的だとおも わないか朝 ? どんな置い人第だってこんな当 て字は豊いつかないせ ) これがワープロ で書いた原稿だ / しーっ
ミルヴィル高校理事長のジョンスンした態度をとられたわけじゃよ、 学期の最初の週が終わった。 . ディーンは、自分の机で、金曜日夕刻の静けさと充足感とを味わ「人を馬鹿にしたりするはずはない。ふたりともい 言えば、生徒たちみんながーー」 っている。 「女みたいなやつらばっかりだ ! 」と、コーチはどなった。 その静けさを、運動部コーチのジ = リイ・ヒギンズがうちゃぶつ ディーンはおだやかに言った。「それは見かたの問題だ。わたし た。足音もあらく理事長室にはいってくるや、金髪に青い目のたく ですらときには、フットボールを重視できないばあいがあるんたか ましいからだをどすんと椅子におろしたのである。 「さて、今年のフットボ 1 ルはとりやめにしてください」と、怒りら」 「それとは話がちがいます」と、コーチは反論する。「人間年をと をこめて言う。「リーグ戦の参加は辞退しましよう」 ディーンは、目をとおしていた書類をわきにや「て、椅子の背にれば、多少とも関心がうすらいで当然だ。だが、こ「ちは子どもた 身をもたせかけた。銀髪が西の窓ごしの日光に照らされて、後光のちですよ。健康な話しゃない。若いんだから、外に出て地面を駆け ように見える。青筋の浮いたしわだらけの白っぽい手で、くたびれまわらなければ。生徒は全員、強い競争心をもたないとね。それは こ由・ゞよ . しこ。 べつにしたって、金銭上の損得もある。優秀なフット求ール選手な たズボンのうすれかけた折りじわをていねい冫イ ( らたれでもいいチャンスを手にしているんた。大学にはいるときに 「今度は何が起こったのかね」 「キングとマーティンなんです。今年は出場しないだなんて」 ティーンは同情の声をあげたが、まるで心ここにあらずのロ振り「うちの生徒はたれも、スポーツマンの特典などいりませんよ」 「学業の奨学金を割当て以上に獲 、ディーンはやや気色ばんだ。 で、すこしばかりむなしくひびいた。「いいかね。記憶ちがいでな 得してるんだから」 ければ、そのふたりは去年とてもいい成績をあげた。キングはスク くックだったかな」 ラムラインで、マーティンいクオーターノ 「人数がもっとたくさんいればね」とヒギンズはなげいた。「キン ックがもうグとマ 1 ティンが欠けてもこれほど痛手じゃないんですが。あんま ヒギンズは当然の怒りを爆発させた。 。フレイしないなんて言いだす話が、いったいどこにありますか。そり勝てないにしても、チームの維持だけはできる。だが、現状では ーのひとりだ。去年はリー 年々新人の数が減ってきているのにはお気付きですか。今や、 ベストメン・ハ れも並みの選手じゃない、 手持ちの人数ではろくに グ代表チームにまでえらばれたのに」 「キングとマーティンとは話しあったわけだ。考えなおす気がない 「もちろん、ふたりとは話しあったんだね ? 」 「ひざまずきましたよ。私に失業させたいのか「て。やりかたが何のはたしかなのかね」 「なんて言ったと思います ? フットボールは勉強の邪魔になると 5 か気に入らないのかともね。学校の期待にそむくじゃないか、きみ たちぬきじやチーム編成ができないと言いきかせたんです。馬鹿にきた」 にたよ。それを
まれていた。 た。指先に、あたたかい毛皮のようなものが触れた 1 」 サトルがマッチをすった。 「やだ。ここどこよ」 「ひどく寒いですね」 淡い灯りの中に、 ハニック一歩手前のような三人のと、もうひ もそもそと身動きしながら、サトルが言った。自分の体の下かとつ、毛なくじゃらでいかつい、異形のものの顔が、ぼうっと浮か ら、何か丸こいものを引っぱり出してくる。手触りと匂いから判断びあがった。絵やゴリラとはあきらかにちがうその生き物は、リン すると、 ゴをくちゃくちややりながら、黄色い乱杭歯を、につとむいてみせ 「こりゃあ、リンゴだ。こんなところにリンゴが落ちてましたよ」た。 「きや 「リンゴ ? 」 みのりを先頭に、三人は冷蔵庫の中から、大急ぎでとび出した。 「はい。もっとたくさんあるみたいですよ。それに、こっちにころ がってるのは、どうもコーラか何かの缶みたいだし : : : 」 背後に、ヒマラヤの雪男の咆哮を聞きながら、研究所の台所を二 秒フラットでかけぬける。 暗闇の中を手さぐりしながら、サトルが答える。 「ひょっとしたら、ここは : : : 」 夢中で実験室にころげこみ、勢いよくドアを閉めると、雪男の声 山下が呟いた。 がびたっと聞こえなくなった。 「ねえ。ちょっと。誰か何か食べてない ? 」 山下は、ドアに背中でよりかかったまま、荒い息を吐き続けた。 みのりのいぶかしげな声がした。そういえば、どこからかものを額にびっしよりと浮かんだ冷汗を、手の甲でぬぐう。 噛む時の阻嚼音が聞こえてくる。 「いつものことだけど : : : 」 「サトル。お前またつまみ食いしてんじゃないだろうな」 あたりを見回しながら、山下が言った。 「えつ。やだなー、先輩。ぼく何も食べてませんよ : : : あっ」 「サトルのやつは、どこへ行ったんだ ? 」 「どうしたの ? 」 床にべたんと坐りこんでいたみのりが、顔をあげて、山下を見 「いや。手に持ってたリンゴを、誰かが取っていっちゃったんで すよ」 「まさか、雪男につかまったんしゃ : 「おい、ちょっと待て。誰かって、おれたちの他に誰がいるって言 みのりが顔色を変えた。山下は首をふった。 うんだ ? 」 「そいつはわからんがね。とにかく、ここにいないってことは、ま 思わず腰を浮かしかける山下のすぐ後ろで、リンゴが噛みつぶさ だ台所にいるってことだろうな。あの化け物と、二人きりで」 れる音が、まるで銃声のように轟いた。三人は一瞬硬直した。 「たいへん ! 」 山下はごくりと唾を呑みこんで、そうっと手を後ろに回してみ みのりがとびあがって叫んだ。 6 8
〔天啓〕 たすだけでは終わらないだろう、ということも。それはよくある亡 才谷鋭児は父が死んで間もないある日天啓を受けた。 父が夢枕に立ったなどというものでは決してなかった。 やがてこの予感は年毎に徐々に実現されていった。そして、どう それは、そうとしか言いようのない現象だったし、少なくとも本 人がそう信じ、それに従って以来何かにとり憑かれたかのような行やら彼の野望が具体性をもって彼自身認識できるようになるまでま 動を取ったことは確かだ。周囲の人々は例外なく突然人が変わってる十年かかった。 しまった才谷のことを驚き怪しんだ。しかし、しばらくすると、そ れは彼の父であり才谷書房の創立者である俊児の死をきっかけとし〔才谷〕 て後継者・経営者として目覚め、「振っ切れた」のだろう、という意志の強さを顕わす太い眉、眉間に刻まれた皺、主張と反抗心に ことに落ち着いた。 満ちた下唇はややしやくれ気味で、青年実業家というよりも完全に それまで才谷書房のイメージと言えば、派手さはないが堅実な経アーティストの気性を持った男。自信と自負ははずかしげもなく誇 示し、ワンマンに必要な統率力、はったり、自惚れなどのすべてを 営、であった。 鋭児が後を継いで社長に就任してから、才谷書房は俄然、攻撃的兼ね備えている。傲慢とも取れるその言動、態度を嫌いながらも実 績・才覚は認めざるを得ないと言う人は多い な商戦を展開し始めた。 くる それまでハトロン紙に包まれているだけだった文庫本の表紙は原 色を多用したイラストのカ・ハ 1 で飾られ、古典よりもよく売れる現〔野望〕 ドカ・ 才谷はやがて映画制作に乗り出し、どれも自社の出版物とタイア 代作品や映画化作品中心のセレクト、他社で出されたハー ソ。フで成功した。低予算で面白い映画を作るこの男を、既成の映画 までさっさと文庫化してしまう手の速さ、他の出版人が誰もやらな かったメディアをフルに使っての大量宣伝・大量販売、新感覚雑誌人は最初煙たがり、やがては仕事欲しさに彼のまわりをうろっき始 の刊行、そして映画制作や音楽、イベントと、十年足らずのうちにめた。そうなるともはや国内のちまちまとした成功だけではつまら なくなる。 業界人の誰もが驚く手の広げ方をして、いずれも成功を収めた。 その、そもそものきっかけは、やはりあの日の天啓だった、と才確かに日本の出版界・映画界・音楽産業界で彼は未曾有の「商 い」をした。埋もれかかっていた作家の作品を何千万部も売り、そ 谷自身、思わざるを得ない。 自分が、とてつもないスケールの事業を成功させるのだ、というれを映画化し相乗効果のヒ , トを飛ばし、主題歌のレ「ードも売り 嵐のような予感が、ある夜、夢の中で彼の頭に刻みつけられた。そに売「た。なろん映画制作やレ = ード原盤制作のための別会社も作 して、それまで考えもしなかったこと、その一連の事業が、のちの ち地球規模の大きな影響力を持ち、単なる彼の金銭欲・名誉欲を満彼は勝ったのだ。しかし、才谷はその程度では満足しなかった。 あら 223
「とにかく、あなたはコロニーに危を加えるつもりはないのだ らはフェロモンを一つ一つテストした。こうして幾月かが経つうち し、彼らにも何がおこったかわかるはずないわ。それに、持ち帰っ に、時間は意味を失っていった。 た遺伝子を首尾よく複製でぎたなら、人類としては彼らを再び騒が フェロモンの働きは複雑だったが、解明不可能ではない。十のフ すこともなくなる」 ェロモンのうち、最初のものは単に集合の刺激を伝えるものだっ しよくしゅ 「まさにその通り」アフリールはそう言いながら、心の裏側では早た。触鬚から触鬚へ伝達されるにつれ、このフェロモンはおびただ くもべテルギウスの小惑星帯がひめる途方もない富を考えていた。 しい数の働き手を蝟集させた。働き手たちは次の命令を待ちうけ いずれ人類が一団となって本格的に星々を移動する日が来るだろた。命令がなければ、解散するだけであった。フェロモンを効果的 う。ライヴァルになりそうなあらゆる種族の裏表を知っておくのもに働かせるためには、混合したり、コン。ヒーターの命令のように 悪くはあるまい 順序立てて与える必要があった。たとえば、第一の集合フェロモン 「できる限り協力するわ」やや沈黙の後、「この区域は十分見た につづけて、第三の移送フェロモンーーーー働き手にある室を空にさせ、 その中の物を別の室へ運ばせるーーーを与えるというように。第九の 「うん」二人は女王の室を後にした。 フェロモンは最も工業向きの可能性をもっていた。それは建設命令 「最初はあなたに好意をもっことになるなんて思わなかった」と彼にあたり、働き手はトンネル掘りと泥さらいを集めてきて、作業を 女は無邪気に言った。「あなたのことたんだん好きになりそうよ。 開始させた。他のフェロモンは迷惑な作業を持っていた。十番目の あなたにはユーモアのセンスがあるみたい。軍の人にはたいてい欠フェロモンは身繕いの行動を呼びだし、働き手たちはその毛むくじ けているんだけど」 やらの触鬚をこすりつけて、アフリールの服のなれの果てをはぎと 「ユーモアのセンスじゃない」アフリールは悲しそうに言った。 ってしまった。第八のフェロモンは働ぎ手を小惑星表面へキノコの 「ユーモアらしく装った皮肉だよ」 収穫に行かせたが、効果を見きわめるのに熱心すぎた二人の実験者 それからきりもなく流れた時間には、日の区切りがなかった。た はあやうく逃げそこねて宇宙に放り出されそうになった。 だ切れ切れの睡眠の期間がはさまるだけだったが、最初はわかれわ 二人はもはや戦士階級を恐れなかった。第六のフェロモンを使う かれに眠った二人は、やがて無重力状態で抱きあって休むようにな ことによって、戦士は卵を守りに走ってゆくことがわかったのた。 った。肌と体の性的な感触が彼らの人間性をつなぎとめる錨となっ また、働き手は同じフェロモンで卵の世話をはじめるのだった。ア たが、人間性という分裂してすりきれた観念は、何光年も隔ったこ フリールとマーニイはこの働きを利用して、自分たち専用の室の安 こでは、もはや何の意味もなかった。なまあたたかく雑踏した坑道全を確保した。その室自体、化学的にハイジャックした働き手に掘 の中の生活だけが現実のものであった。二人は血管を流れる細菌のらせ、やはり ( イジャックしたエアックの門番に守らせていた。 ように、緩急する生物の流れにのって休みなく坑道を移動した。彼二人は空気を清浄にするために専用のキノコ畑をつくり、一番の好 8
た。赤い電子アイをチラリと動かして、実験室の床から天井近くま でそびえている、シールリアリズムの化け物じみた、みのりの新 発明を一瞥する。 ・ハベルの塔よろしく積みあげられた回路ポックスと、複雑にから 「んしよ」 みのりは、顔を真「赤にして、スパナを握る手に力をこめた。こみ合ったコードやパイ。フ類。大小さまざまのメーターが、てんでに ハラ。ハラの方向をむいて取り付けられ、てつべん間近には、 れが最後のポルトを、しつかりと締めつける。 い何の役に立つのか、水道の蛇口までがっき出している。 完成だ。 館あたりに置いてあれば、前衛派の彫刻と言っても十分通用するた 「ばんざーい D 」 ろう。 メチャはしゃいた声で、みのりが両手をぶんと振りあげた。 その拍子に、右手のスパナがすつはぬけて、実験室の窓へ一直「どお ? 」 みのりは胸を張ってみせた。 線。ガラスが、にぎやかな音をたてて、割れ落ちる ( がらがっしゃ 『立派ナモンデスネ』 あっさりとうなずいて、アレックスは床のガラスを片づけ始めた。 「ありや , ンザイをしたままの格好で、後ろをふり返り、舌を「あっ。やつばりそう思う ? 」 みのりは、く と、うれしそうにみのり。 出した。 「そうよねえ。だって、材料集めだけで三ヶ月もかかったんだも 「またやっちゃった」 結局、全部 待つほどもなく、物音を聴きつけた助手口ポットのアレックスん。でもって、組み立てるのに、また三ヶ月でしょ ? で半年よオ、半年 ! すつごーい。半年がかりの大作なんだわ。う それに予備の替ガラス持参でやってきた。 が、ホウキとチリトリ、 わー、うわー。これはもう感動ね。そうよ、感動よ。感動しない ? 慣れたものである。 まっすぐ窓のところへ行こうとするアレックスを、みのりが呼び感動するでしょ ? 」 『ハイハイ』 とめた。 窓ガラスを取り替えながら、アレックスがてきとーに相づちを打 「ねえねえ、アレックス。ほら、見て見て。とうとう完成したの。 つ。 すごいでしよ」 「でしよお ? 当然よねー。なんたって半年よ。六ヶ月よ。百八十 ごきげんな顔つきで、そのシロモノを指さすみのり。 日よ。えーと、ひい、ふう : : : 四千三百二十時間よオー トーモォメデトウゴザイマス』 アレックスは、あまり興味のなさそうな声で、そっけなく応じ我ながらよくやったと思うわ。うん D 感動」 アシスダソト 5 7
, まてれほーと吟 / ー はずです。早い話が、あなた自身、誰か別の人 きたか私は知らないし、私の立場からすれば、 のか ? 私には理解できないのです。 プロでない限り、あくまでも「趣味」でしか知る必要もありません。ただ、あなたの論法をから見れば「一端の〕口をきく、クソ生意気な ない分野において、何故、万人が認めた必然性取れば、を語る資格なそ誰にもなくなりま輩」と思われないとは一一 = 〕えますまい。その点があ なたの論法の自己矛盾であると私は考えます。 を持つわけでもない「義務」を押しつけようとすよ。これをあなたは極論だと言うだろうが、 この前に書いた事と重複するかもしれません するのです ? いまだに、ある作品を取り上げあなた自身が言われる様に、「全ての」を読 て、だ、じゃない、といった幼稚な議むのは「無茶」だし、第一「」の範囲は確が、私は次の様に考えます。何もファンを 論をプロまでがやっているのだから仕方ありま定していない。それなのに「あらゆる種類の」名乗る全ての人が同じ考え方をする必要はな 。ある一つの作品をと感じる人と感じな を読めるはずはないし、自分ではどんなに せんが : の「定義」なり「範 如月氏、あなたが、どれだけのに接してたくさん読んだつもりでも必ず上には上がいるい人があっていし 囲」なりを各々、自分で設定すればよいのであ って、他人にそれを強制したり逆にされたりし に参考候補作にあがらなかった場合に限り、 て、無意味な「対立」を作り出す必要もない。 日本 r-n= ファングルーブ連合会議 単行本収録時点でも対象となる。 たった一冊で ( あるいは映画一本でもなんでも からのお願い 日本長篇部門海外長篇部門 しいが ) 「ファン」を名乗り、「論」 日本短篇部門海外短篇部門 星雲賞はファン投票によって選ばれる を唱えてもいいし、逆に常にもっともっと読み 一九八一一年に初めて発表、翻訳された 賞です。投票は毎年の大会参加者によっ ( あるいは観 ) 続けてもいい。要するにどうだ て行なわれ、受賞作は大会にて発表されま小説を対象とする。ただし専門誌に掲載 、自分の好きな様にに接すればい す。運営管理は日本ファングルー・フ連合された作品はその終了時に、それ以外の作品 一人きりでひたり込むのもいいし、同じ 会議が行ないます。その星雲賞により多くのは単行本収録時をもって対象とする ( 連続性 「ファン」を求めてファンダムに参加してもい ファンの意見を反映させるために、本誌のある作品群については、その終了時におい ーしし力したく 議論したければそうすれま、、 : 、 読者の皆様に第一次参考候補作の選定を、今ても一括して賞の対象となる ) 。 ない者までまき込んでいいという権利は何者も メディア部門 年もしていただくことになりました。対象と 持たない。 ー」 ( この言葉も実はどこ 一九八一一年に、映画、演劇、その他視聴覚 なるものは左の規定の通りです。各部門一篇 までをそう呼ぶのかはっきりしない、いい加減 ( 一名 ) ずつ優秀と思われるものを選び、作メディアを通じて初めて発表された作品を対 なものだが ) を嫌うなら相手にしなければい 者名・作品題名 ( 掲載誌・収録単行本 ) を明象とする ( 連続性をもっ作品群については前 これは「マニア」 ( これもそう ) にも言え 記し、左記連絡先までハガキでお送り下さ項に準ずる ) 。 る。これが私の立場です。くり返しますが、あ O コミック部尸 。星雲賞は皆様の選ぶ賞です。よろしくご 一九八二年に初めて発表されたコミック作くまでも「私」のであって「我々」ではありま 協力下さるようお願いいたします。 せん。以前に似た様な事を書いて「帝国主義 日本ファングルー。フ連合会議議長品を対象とする ( 連続性をもっ作品群につい 者」呼ばわりされましたが、その方がそう感し 門倉純一ては前項に準ずる ) 。 たのならそれはそれで仕方ない事です。 アート部門 長くなってしまいましたが、まあそういう事 一九八一一年におけるアート作家の顕著な活 星雲賞規定 ( 対象 ) です。最近、「過激ぶる」事や「マイナー指 動を対象とする。 向」が一部で流行している様ですが、それはそ 一九八二年一月一日から十一一月三十一日ま☆送り先〒国立市谷保六六六五ー一二ー れで勝手だけれど、そうでない人をおとしめて でに発表された作品、及び顕著な活動を対象二〇六牧真司方 言う事だけはやめてもらいたい。如月氏の井手 7 とする。ただし雑誌はその月号に準じ、一月「日本ファングルーブ連合会議事務局」 氏に対する言い方にもそれに似たものを感じま 号から十一一月号までとする。また雑誌掲載時☆投票期限四月十日 ( 当日必着 ) した。別に井手氏を弁護するわけではありませ
つかえる党派こそ、彼らを生産の巨人にしたてることができる。わに怪しまれなかった ? 彼らの目にふれたんでしょ ? 」 れわれの生化学知識は他の追随を許していない。彼らを役にたてる「こんどはきみたよ、ミスをおかしたのは」アフリールはおだやか 0 な口調で言った。「きみはインヴェスターが全知全能だと思ってい のは、われわれシェイ。 ( ーをおいて他にはいないのだ」 「どうやってやるつもり ? 」マーニイは疑いをあからさまにして説るらしいが、そんなことはないんだ。好奇心を欠いた種族はあらゆ いた。「妊娠した女王をはるばる太陽系まで運搬しなくてはならなる可能性にあたろうとはしないものだよ。われわれシェイバーがや いのよ。そんな費用出せるわけないじゃない。仮にインヴェスター っているようにはね」アフリールはズボンの裾を引き上げて、右脚 が承知してくれたとしても無理よ。承知するはずなんかないけれを出した。「すねの所の怒張した静脈を見てごらん。この種の血行 ど」 障害は無重力状態下で長時間すごしている人間に一般的なものだ。 ところが、この静脈は人工的に遮断してあって、血管壁も浸透性が 「コロニー全体を運ぶ必要はない」アフリー ルは忍耐強く言った。 「卵一つの遺伝情報があれば十分さ。輪のわれわれの研究所へ持っ低下するよう生化学的に処置してある。静脈内部には遺伝子改造し て帰れば、 た細菌が十の独立したコロニーをつくっているが、各コロニーはそ いくらだってクローンがつくれる」 「だけど、働き手だけでは役に立たないわ。コロニー全体から来るれそれ違ったスウォームのフェロモンを生産している」 命令が与えられて、はじめて機能できるのよ。行動様式を引き出す彼はニコリとした。「インヴェスターは線検査も含めて、わた フェロモンが必要よ」 しをすみからすみまで調べたよ。当然のことながら、自分たちの船 「その通り。たまたまわたしはそのフェロモンを濃縮した形で持つで運ぶものはすべて知っておかなくてはならないと主張してね。し てきているんだ。今必要なのは、テストすることさ。フェロモンをかし、静脈は X 線にひっかからないし、静脈内部の区画に封じこめ 使って、望み通りの行動を働き手がとってくれるかどうか、試してた細菌もそうた。どちらも見つかる気づかいはない。わたしは小さ おかなくちゃいけない。できるとわかったら、わたしは必要な遺伝な救急セットを身につけて持って来たが、そこには注射器も入って 情報を輪へ密かに持ち帰る権限が与えられているんだ。こんなこと テスト いる。注射器でフェロモンを取り出し、テストすればいい。 を打ち明けたら、インヴェスターはまず承知しないだろう。倫理上が終ったらーーーきっと成功すると思うし、実際、わたしは自分のキ ャリアをこれに賭けているのだがーー静脈の区画は空にしてしまっ の問題が持ち上がるのはもちろんだし、インヴェスターの遺伝学は それほど進んでいないからな。だけど、得られた成果を見せてやれてもかまわない。細菌は空気に触れしだい死んでしまうからね。空 ば、インヴェスターも考えを変えるだろう。なによりすばらしいの いた静脈には発育中の胚の卵黄を入れておく。細胞は帰途につく間 は、メカ = ストを彼ら十八番の鉱山の分野で打ち負かすことができ生きているはずだが、たとえ死んだとしても、腐敗する気づかいは ることだ」 ない。分解するような細菌とは接触しないわけだからね。輪へ帰っ 「フェロモンをここへ持って来ているですって ? インヴェスター たら、自然がそうしたように、異った遺伝因子を活動させたり、抑