・作家ニュース ・フィリップ・・ディック記念賞ノミネー・マック・レナルズ逝く ション ーラン・エリスンが、ノーマン・スビン レナルズは酒好き女好きな、威勢のい ・、ロン』の脚 当欄で既にお知らせした新しい賞、フィリ いざっくばらんな男で、彼がもし地球を離れラッドの『・ハッグ・ジャック・ / ツ。フ・・ディック記念賞の第一回候補作がるとしたら、その理由は火星の政治情勢を取本を完成した。 ート・ンルヴ . アーく ーグの四月に出版 発表された。顔ぶれは次の通り。 材すること ( そして、彼が旅行欄を担当して いる〈ローグ〉誌に原稿を書き送ること ) ぐされる新作はではなく、十六世紀のアフ / まミ・、 ~ ・、 ~ g for ミ・ ba こミ・・コ ーツィー (Coetzee) らいしか思いつけない。 ( 中略 ) しかし、彼リカを舞台にした歴史小説だとのこと。タイ に、・ミ・ << ・ラフアティ もわたしのいう自由な人間である。そして、 トルはトミミ 0 、・し、 * 、ミである。 The P きミミ h ミ冫ン I ミ ~ レイ・ファラデ彼は世界中のビールと政治情勢にくわしい ・ホールドマンが何者かに銃で撃た イ・ネルスン ( ジュディス・メリル「年刊傑作選れ、負した。彼がフロリダの自宅近くで自 Sof 、ミ、 e ル一アイ・ラッカ】 5 』より ) 転車に乗っていたところ、車の窓から何者か Ro ミ、 c ジョン・スラデック アメリカの作家マック・レナルズ ( 本に二二口径のビストルで撃たれたのである。 The Umbral ミ h 。 ~ 。。ト、 ~ 名ダラス・マッコード・レナルズ ) が、一月弾丸は大臀筋に命中したが、貫通はしなかっ F ご・ 0 、、 PO ミ、スティ 1 ヴ・ラスニック・ 三十日ガンのためテキサスの病院でこの世をた。医師の判断で弾は摘出しなかったため、 テム編 去った。六十五歳。昨年の十一月に食道ガンホールドマンはベトナムの傷のうえにもう一 以上六作品だが、ラフアティとネルスンのの手術をして、術後の経過は良好だったが、 つ新たな傷をふやしたことになる。 0 、 ラリイ・ニ 1 ヴンは、ジェリー しハックである。また今年の一月に再び悪化したため入院し、まも スラデックの作品とラッカーのものは本誌 なく亡くなったわけである。 との共作長篇 F 。。ミミ、を完成した。また スキャナ 1 で紹介されているのでそちらも ダグラス・マッコード・レナルズは一九一この二人はディヴィッド・ジェロルドと共作 参照願いたい。最後の詩アンソロジーは七年十一月十二日にアメリカのカリフォルニで F ミ、、 ~ をという長篇を執筆する / 編者の自費出版である。 ア州で生まれた。ハイスクールを卒業後、編予定である。この長篇は「ファンダムが非合 候補作の選考委員は既報の通り、アーシュ集者を経て、第二次大戦中は海兵隊に入り、 法化され、地下組織になっている」時代、二 ラ・・ル・グイン、トマス・・ディッシ終戦後一九四六年にフルタイム作家となる。〇一〇年の話だそうだ ( 何のことやら ) 。ニ ュ、ノーマン・スピンラッドの三人で受賞作最初は r.n を書いていなかったが、フレデリ ーヴン単独の新作 The 7 ミき、 T 、ミ もこの三人が決定し、四月のネ・ヒュラ賞授賞ック・・フラウンの勧めでを書き始めた。 は一九八四年に出版予定。また、彼の『リン 式までには発表される。現在スポンサーにな彼の作品は六十冊以上も出版されており、グワールド』は、ケイオシアム社の手によっ ってくれる出版社を捜しているもようであのほかにゴシック物やポルノ、ロマンスなてゲーム化が進行中で、同時に長篇アニメー ート・マンデルによ ション映画の製作もロ・ハ / / る。選考委員の顔ぶれにふさわしいなかなかどを執筆して収入の足しにしていた。また、 味のあるノミネーションとなったようで、な冒頭のメリルの言にもあるように〈ローグ〉り行なわれている。なお、この製作には日本 じみのない名前もあればスラデックやラファ 誌の旅行欄を十年間にわたって担当し、七五のアニメプロが使われているそうである。 ティといった「通好み」の作家もあり、おまカ国を訪問した。なお、長篇の邦訳作品はな ・フライアン・オールディスが、自分の短篇 けに詩まである。どの作品が受賞作に選 く、短篇が翻訳されているのみで、わが国で "Supertoys Last AII Summer Long" の キュ 1 ・フリックと共に ばれるのかが注目されるところである。 はなじみの薄い作家だったようだ。 映画化にスタンリー・ ( 島田武 ) 取り組んでいる。 3
ープロを使ってみるが、ゼロックスを選んだのは ためにと、もう一度呼びだそうとしたら、″文書そんなものは登録されていません、と同じ返事な 正解らしくて、こっちの眼力をひそかに自賛して が登録されていません〃という返事である。何度のである。何十回聞いても木で鼻をくくったよう に同じ返事しか返ってこない。 やっても同じである。 このへんが、機械を好きになれない原困なの 私は謙虚だから、ああ、そそっかしい俺の事 第 ( 」 0 とは言うものの : ・・ : だ。私はこの仕掛でちょい だ、この機械の取扱いについてはまだ未熟だし、 言いかたもあるじゃないかなあ。 としたパラレル・スペース体験を味わう羽目となきっとどこかでなにかキーを押し間違えて消して 〃アラ ? そんなに疑るンならいいわよ、あたい ったのである : ・ しまったのだろう : : : と、健気にももう一度はじ 二百字詰原稿用紙で三十枚ほどの量をワー。フロめからまる二晩かかって同じものをコッコッとやを素ッ裸にして捜してみるかい鰄とかサ、がお で書いたとき、ちょっと調子を見るためプリント り直し、あたらしく作ったその原稿を、今度は慎許し下さいませ ! 旦那様、わたくし、間違いを 起こしてしまッたンです ! とか言ってみやがれ アウトしてみようかと、一旦それを登録した。そ重にマニ = アルと首っぴきで登録したところが、 というのだ。 して向うが登録しましたと言うから、では印刷の又もや登録しましたと返事をしてきた一瞬後に、 真面目な話がこんな時に、 〃ああッ ! お願いよッ ! そんなにあたしを責 めないで頂戴 ! 悪いのはメーカーなンです ! とくれば、私だって鼻下長はかなりのものだか ら、このワープロに対し四十日の間に三回も殺意 を覚えることもなかったに違いない : それはさておき、ここまで機械にコケにされて いながら、私は謙虚だから、多分またこっちがな にかトチって消えてしまったのだろうと考え、こ れも練習代りだと、いささかゲンナリの気分を引 きたててもう一回やり直そうととりかかった。 ところが折も折、別の用があって、すでに。フリ ントして渡し済みの原稿が登録されたままになっ ているのを呼びだそうとしたところが、何度やっ ても、またもやその″登録されていませんみと言 う返事しか返ってこないのだ : ・ どうやら、これは俺のミスではないぞ ! その途端、私は、まさに的とも言いた 、異様な空しさに襲われのである。 こんな事を言うと、またオーバーな奴とお笑い でしようが、とっさに思い浮んだのは、西遊記の 金角と銀角のくだり、なんでもかんでも吸い込ん 9
ーズに進むかも知れないと考えたのだ。 びただしい背中と尻の連なりをにらんでいた。背中のほうが、体の 前面よりよく日に焼けているように見えた。足音は、既に遠ざかり「訊いてみろ」 答えた男の言葉は、ひどく無愛想だった。 つつある。 「何をしてるのかね ? 」 それから、わしは、追いかけ始めた。 わしは、徴笑みをうかべながら、修辞的疑問を直接的なものに切 を奪われたとは言え、追いつくのに時間はかからりかえた ? 何分かのリード 「ごらんの通りさ」 わしは、少なからずむっとしたが、過激な台詞を言いかえすのは ニケーターのカタログに全幅の信頼をひとまずさしひかえ、 ( ひょっとしたら、コミュニケーターの調整 両腕をふりまわし、コミ が悪いのかも知れない ) もっとよくごらんになることにした。 よせつつ、わしは叫んだ。 わしの話を聞かないのか ? わたしに興味がない 見守るうちに、直方体の前後左右にとりついて、その重さをささ 「どこへ行く ? える八人の背後から、両手に何か金属性の道具を持った二人の原住 のか ? 」 民が進み出た。 一人の″すれ違い〃人がふり返った。 「読むそ ! 」 「気違いみたいなマネはよせ」 うちひとりが、いきなり叫んだ。わしは、とっさに自分の装置の というのが、そいつの返事だった。 「死にたくなかったら、ちゃんと歩け ( 生きろ ) 」 故障かと思い、そっとコントロ 1 ラーの具合を確かめた。それほど メーカーが主張するほど万能ではなかったコミ ュニケーターが、大きな声だったのだ。 赤ラン。フを瞬かせながら二重翻訳をやってのけた。してみると、こ 「読む ! 」 の星では、″歩く″と、″生きる″は同義語なのだ。よろしい。な十人ほど間をおいた列の両わきで、別のふたりがその台詞をくり かなかに哲学的な連中だ。『生きることは歩くことである』 返した。これまたとんでもない大声だ。 郷に入っては郷に従え、古くからの調停官の掟どおり、わしは素「読む ! 」 さらに遠くで、他のふたりが復唱した。そして 直に、連中に交じって同じペースで歩き始めた。 「読む」 「何をしてるのか、訊いてもいいかね ? 」 「読む」 と、わしはまず、石碑をかついでいる連中に声をかけた。どいっ 「読むーー」 から始めても大した差はありそうにないし、カ仕事をしている奴に 次第に遠ざかりつつ、こだまのような復唱が続いた。わしはよう ちょっとばかり肩を貸してやる機会でもあれば、会話も比較的スム 6
「スクリーヤ ! 」ウィ , ーナの声は心配そうだった。「あんた、もし かして : : : 」 「まちがいない。ステレットは変わり種と宣告するだろう」 「でも・ : ・ : 」 「だめだ。どうにもならないーウィ 1 ナには、夫が身震いするのが わかった。そのために、夫の体毛がかすかな柔らかい音を立てるの が聞こえた。「この頭 ! 巨人そっくりだ ! 」 母親はため息をついた。つらいことだが、彼女は掟をわきまえて いた。これが四度目の出産だが、ひょっとすると自分は一生あの経 験を味わえないかもしれない、と思ったーー自分の息子がほかの若 者と連れ立って、巨人の領域を略奪に行き、食べ物の洞穴や緑の生 える場所から食料を持ち帰ったり、ときには生き物でない生き物の 場所から貴重なびかびか光る金属片をさらって引き揚げてくるの を、誇りと恐れの混じった気持で待っ経験だ。 彼女は一抹の希望にすがろうとした。 「この子の頭が巨人そっくり ? ひょっとすると、それは巨人たち が変わり種だからじゃない ? そんな尊も聞いたことがあるわ」 「だとしたら、どうだというんだ ? 」 「この子は、もしかすると、大きくなって巨人になるかも知れない ってこと。ただそれだけよ。たぶん、わたしたちのために、仲間の ために、あの巨人たちと戦ってくれるかもね。たぶん : : : 」 「ステレット が生かしておいてくれるだろう、ってことかい」スク リーヤは、ちょっとした耳ざわりな音をたてた。その音は、彼の種 族のあいだでは、笑いとして受けとられていた。「そうよ、 ~ ーし、刀 / し よ、ウィーナ。この子は死ななくちゃならないんだ。それにご馳走 とも、ずいぶん、ごぶさただし : : : 」 < ・・ハートラム・チャンドラー A. Bertram Chandler この作家については、あらた めて紹介するまでもないだろ う。野田大元帥訳の《銀河辺境 シリーズ》の原作者として、日 本の読者にはすっかりおなじみ だからだ。彼が住んでいるオー ストラリアは別としても、もし かしたら英米でより日本でのほ うが有名かもしれない。今夏大 阪で開かれる大会に合わせて、再度来日するという話もある。 しかし、・ほくにとっては、初期のマガジンに訳された『限界 角度』「檻』「投荷』などの短篇が、いまなお心に残っている。ど れも着想のいい、 スマートな作品だった。くわしくはエンサ イクロペディア』のチャンドラーの項 ( 本誌八一年十二月号 ) を参 照ねがいたいが、とにかくこの時期のチャンドラーの最高傑作が、 アスタウンディング誌一九四五年十月号に発表されたこの中篇であ るのは、衆目の一致するところだ。なにぶん、いまから四十年近く 前に書かれた作品なので、やや古風な感じがするのは否めないが、 この作品に賭けた新人作家 ( デ・ヒューの翌年の ) チャンドラーの意 気込みが、年月を超えた迫力となって伝わってくる。 ( 浅倉久志 ) 幻 4
お互いの対抗意識も強い。これが宮廷で皇帝の寵を竸うのなら優雅キタは返事をした。 「だろうね。タトラテンでの植民者たちも、他の多くの世界のよう で血みどろな勢力争いとなるだろうし、独立国家どうしなら駈け引 きと戦争が日常茶飯事となっているだろう。が : : : 今いったかたちに、かれらのミドルネ】ムから植民者符号のを取り去っているよ うだ。連邦経営機構は正式にそれを認めたのではなく、黙過してい なものだから、上部階層は各分野に分極化して勢力を張りつつも、 いや失礼、あなたのるだけだが」 全体としては妥協して、どこか田舎つぼい 、冫いたときの・ほくは、キタ・ O ・カノー 「そうです。タトラデノこ 出身世界なのにな」 ビアでした。連邦の学校の予備試験を受けるとなってはじめて、キ 「いいですよ」 「そうかね。どこか田舎つぼい連合体を形成して : ・ : ・強引に自己をタ・・カ / 日ビアとしるすようになったんです」 「なるほど」 主張するのは差し控えるようにしている。それが地図の使いかたに 端的に表われているんだな。自分のカの及ぶ地域や分野を中心とし情報官はかすかに苦笑した。「そうした使いわけがどこでも定着 ついでにもうひとつ、植民者の態度につ たものを押し出したりはせず、それぞれとしては多少不満でも、全して来ているんだな。 体としては合意し得る伝統的な : : : 司政庁中心の世界地図が、すっ いていっておくと : : : われわれが得た情報によれば、最近 : : : ま、 と使われているわけだ。内部で私的にどんなものが採用されているこれもわれわれが入手した範囲の最近だから、これもきみが知って のかは知る由もないし、それは表面には出てこないからこっちには いるかもわからないが : : : タトラデンの植民者の中には、司政島と 資料もないが : : : 公的にはそういう状況になっている。タトラデン ミンガッ島を、連邦島と呼ぶ人間が増えているそうだよ」 のどこでもこの世界地図が使用されていることは、つまりタトラデ 「それは : : : 初耳です」 ンの植民者社会のありようを示しているわけなのだ」 「ほう ? 司政島を大連邦島、ミンガッ島を小連邦島というんだそ うだ」 その指摘はあたっている、と、キタは思った。そして、情報官の「妙な名前ですね。大きい連邦島と小さな連邦島という意味でしょ まくにはどうも大連邦の島と小連邦の島という風に聞えま そういう発想は、やはりタトラデンの内部にいるだけでは出て来なうが、。 いだろう、とも考えた。 「でも、司政庁をまん中にしたこの地図が使われているからといっ 「それはきみがすでに連邦職員の感覚を当然としているからさ」 て、司政官や司政機構が現在でも中心的存在だと解釈しないでもら 情報官はいう。「こういう名称は、連邦というものを、自分たち いたい。現在は、もはやそんな時代ではないんだ」 の外の、いわば対立する存在として認識するところから出ていると と、情報官。 しか考えられない。ま、これもあとの話と関係して来るはずだが、 「それは、・よくわかっているつもりです」 タトラデンの植民者は : : : すくなくともそうした呼びかたをする人 っ ~
ることができた。 ) は会わないことにしていたの。 クラス会なんかにも一度も出た 荒くなる息と争いながら、無心に走るいくつもの影ーーメイはこ ことなかった。多くの人を忘れたことを認めたくなかったのね」 こからトラックを見つめるのが好きだった。その光景は、彼女にと彼女は自分に笑顔を強いてそう言った。 っていつも現実と理想を調和させる接点のようなものだったのだ。 「感謝してるのよ : ・ 。自己嫌悪に陥ってたんだから」 舗道を歩きながら、ニールはタオルをメイに返した。片手で無造メイはニールの腕を取った。彼の腕は意外なほど柔らかく、トレ ーニングウェアを通して弾力が伝わった。 作にぼんと彼女の肩にのせただけだった。 トレーニングウェアを着たときのニールは本当にぶつきら・ほう だ。しかしそれは、彼が走り、跳ぶ自分に誇りを持っていることの まだ薄暗いべッドの中で、メイは目を開けた。 証だ。それはメイにとっても好ましい 「夢を見てた : : : 」 「わたし、来週から研究室に行くわ。罰が当たるけど、やっとこれ ニールは既に目を醒ましていた。彼は右手で優しくメイの髪に手 で自分の勉強ができそうな気がする : : : 」 を触れる。彼女はちょっと横を向いて、その掌にキスをした。 ニールは横目で彼女の方を見た。 「わたしが地球に堕ちてきた宇宙人で、わたしだけがそれを知らな 「昨日の馬鹿騒ぎは楽しかった。やつばりああいうのが最高よ。 いの。まわりのみんなは、薄々気づいているのね。でもそれはわた : ママのお葬式もあんなふうにしてあげられればよかったと思ってしに言ってはいけないと親たちに口止めされている。わたしは孤独 殊に論理の孤独に耐えかねて、ある日自殺してしまうの。ナイ フを自分のからだに当てた瞬間に、からだからいろんなものが飛び ニ , ールはちょっと困ったような顔をして、両肩をすくめた。 もうキャン・ ( スの中には、あまり人影がない。歩いているのは白出したわ。おそましい虫の形をしたもの、植物の蔓のようなもの、 衣を着た研究者と、トレーニングウェアを着た運動部の連中だ。敷可愛い猫のような動物ーーーみんなわたしのからだに寄生してたのね 石の舗道がいつもよりずっと長く感しられた。 メイの唇は青ざめていた。口調は落ちついているが、まだ夢の中 「さっきはごめんなさいね。わたしなんか、お昼過ぎまで宿酔いだ の気分がからだを支配しているようだ。 ったのよ。まさか練習に出てるなんて、思ってもいなかった。 ニールは、その長い腕で彼女の華奢な肩を抱いた。 強いわね」 そう言ってから、メイは後悔した。自分の弱さを棚に上げて 8 他人の善意に全面的に依存しておいてーーそんな言い方はない。 「お葬式に出て、いろんな人と会ったわ。駅では幼なじみや昔の友 スタフォード少尉は、暗いべッ 達に出迎えられた。それまでわたし、一度別れ別れになった人達と る」 トの上に上体を起こした。 2 8
と口をきいてはならない。ひとっ 策をねった。奴らは歩き、歩き、歩き、そして破減に向かってい る。とすると 何も思いっかなかった。 数日後、わしは、数百万台の人造人間を連れて、モンのもとを訪 エン・フラドのロポットどれた。何しろ、小惑星の鉱物資源は殆ど手つかずのままだったし、 わしが、ひとりで思い悩んでいる間に、 もは、一人ふえ、二人ふえ、やがて、十数人にもなって、船中をわロポットどもは大の好き者、等比級数的にふえるタチときている。 「モ , ーニング・ウォーカーのみなさん」 がもの顔でのし歩くようになった。 と、わしは話しかけた。 「いいかげんにしろ ! 」 人造人間と四回連続で正面衝突し、いやというほど右足の親指を「イヴニング・ウォーカーを退治するための軍勢をお貸ししましょ ふんづけられて、わしはとうとう、怒り、い頭に発した。 う。みなさんはもう、石を投げる必要はありません。この連中にお 「少しは、自分たちの身分をわきまえろ。人質なんだそ ! 頼かまかせ下さい」 ら、おとなしくしてくれ ! 」 「こいつらは、フェトフェを食いあらさないか ? 」 モンは、兵士たちを疑わしげにながめた。 無表情な十三対の光電眼が、冷たくわしに向けられた。 「心配ありません。このものたちは、太陽の光で生きております。 「わからないのか ? 考えごとをしてるんだそ。邪魔をするな。さ また、フェトフェを踏みあらすこともありません。ごらんの通り もないと、さもないとーーー」 その時、わしの頭の中で、何かがカチリと音をたてて、おさまるこの者たちの歩幅は長く、足の先はごく細く加工してあります。た べきところにおさまった。 だし、この者たちをお貸しするにあたっては条件があります。この 「さもないと , ・・ーーおまえたち、地球に連れて行かれるのはいやか者たちに話しかけてはなりません。また、この者たちが星をひとま わりしてもどって来ても、歩みをとめようとしてはなりません。こ の者たちもまた、走り続けなければ死んでしまうのですーー」 十三の首が、一せいにうなずいた。 だいぶ説得に苦労しながら、わしはモーニング・ウォーカーにい 「この星で暮らしたくはないか」 再び、肯定の返事。 ポットを貸与し、アンドロイドどもを、太陽に向かって進軍させ 「子供をふやしたいか ? 」 た。これで、連中はイヴニング・ウォーカーのほうへ行くことにな 十三人は、熱狂的に首をたてにふった。 る。小惑星人と反対方向に歩き続けて、だ。 「よし。たたし、条件がある。よく聞け。ひとつ、わたしがこれか それから、わしはもう数百万台を連れてマンのもとへとおもむ ら言う人数以上に繁殖してはいけない。ひとつ、諸君は常に、一定き、同様の提案を行なった。こちらの陣営からも、太陽に背を向け の方向に走り続けなければならない。ひとつ、絶対に、 この星の者たロポットが進軍を開始した。両軍のロ求ットが敵に達したら、モ 0 7
やく合点した。これが奴らの伝達手段なのだ。果てしなく左右に広誰かの置き手紙 ( ? ) から目を放して、朗読者の一人が吐き捨て た。たちまち、やかましい同意の声があがる。 がる大集団の、中央の発言を末端に伝えるための技術なのだ。しか 「どうしますか」 しこれでは、とわしは思った。端まで伝わるには、何日もかかるそ。 と、もう一人の朗読者が質問した。 「われわれはーーー」 石碑のそばのふたりは、声をそろえて読んだ。さざ波のような復「どうもこうもない。やると言うなら、こっちもうけて立つまで 唱のこだまが左右に広がって行く。 「しかし、どうやってーー」 「厳重に抗議する。前回の貴方の主張及び提案は、全く根拠のない 「手はいくらでもある。返事を彫るそ」 ものである」 「ーー、ないものである」 指導的立場にあるらしい朗読者が、うやうやしく金属製の道具を ささげて石碑に近づくと、あたりの話し声がやんだ。 「ないものである」 「返事を ! 」 復唱と同時に、怒りのうなり声と、あざけるような笑いが、列の と、彼は叫んだ。伝令の声が波紋となって両側へ別れて行き、あ 左右に伝わって行った。共通の利益のもとに、このコメントを批判 しているらしい。 たりが静かになるのを待ってから、やおら彼は左手の金属棒を石碑 「従って、われわれの主張も変わらない。すなわち、明らかに、必にあて、右手の金属球をそれにたたきつけ始めた。何のことはな 要以上の資源略奪を行っているのは貴方であり、われわれとして い。ノミと金づちを使って、墓石を彫っている図だ。ただ、岩がよ は、強い遺憾の意を表明せざるを得ない」 ほどやわらかいのか、それとも叩きつける力がおそろしく強いの 再び、怒りとあざけりの声。 か、彫りつけていく速さはまさしく驚嘆に値した。石碑が地面に据 「再三の申し出事項をくりかえす。すみやかに、自然破壊と略奪行えられている訳ではなく、八人の人間がそれをかついで歩いて行く 為を中止せよ。さもなければ、当方としても、何らかの対抗策を講 間に行われたことを思えば、なおさらだった。 じざるを得ないだろう」 指導者は、うずまきの外へ外へと彫り進んでいき、ふた回り半ほ 「講じざるを得ないだろう」 どしたところで作業を終え、道具をそばにいた者に手わたした。 今度は、おおっぴらな笑い声。 それから、次席にあたるらしいもう一人の朗読者が進み出て墓石 イヴニノグ・ウォーカーズ 「敬意をこめて。夕暮歩行人」 彫りをひきついだ。どうやら彼の役目は、文面を変えずに、きざま 最後のは、発信人の名前らしい。それが左右に伝わるにつれて、 れた文字を美しく整えることにあるようだった。このため、彼はそ あたりは少しずつ、静かになって行った。 れほど目ざましいス。ヒードは発揮せず、わしは少しばかりがっかり 「とんでもない大嘘つきめ ! 」 っ ~ 6
読者のつくるべーシ まったのでは、物足りないのです 皆さんお待ち兼ね、 ーダーズよる退行現象は、秀逸でした。 ストーリイの頁ですよー。あ埼玉県の平松誠治さんの「真夜ね。 ゅめのたびびと あ、しんど。 中のタクシー・ドライ・ハー」。平京都府の夢旅人さんの「・ハード ー展開、文章と ・ウォッチング」、地球は荒廃し、 今回は、思いのほか下読みに時松さん、スト丿 間がかかってしまいました。応募もだいぶうまくなってきました小鳥すら一羽として生き残ってい 作品が全体的に短篇型の作品が多ね。 ない未来。コン・ヒュータの指示 かったためと、オチを読みとるの残念ながら、今回の作品はアイで、あたかも生きているかのごと にたいへん苦労させられる作品がデアが今一つ。アンドロイドの幽き小鳥の映像を眺める一組の父 選 霊とドライ・ハーの幽霊の関係を明子。子供がしゃべる「本物のイカ 多かったためです。 ルだよ、父さん」というセリフに 八枚の短い作品なのですから、確にしてみて下さい 余分な描写は極力避けて、ストレ福岡県の生成順次さんの「ゲー物悲しさが漂う一篇です。 さて、今月の入選作となった作 ートにオチをつけるよう心がけて ト」、文章は大変にお上手です。 ストーリ ー展開、アイデアともに品、三重県の真秀伸夫さんの「受 下さい さて、いつものように個々の作大変面白いものがあります。です験生の日々」。この作品は、願望 品の短評を始めることにしましょ がこの物語、短篇向きなのではあ充足を逆手にとったアイデアの勝 利といえましよう。共通一次まで りませんか。 そあと五日にせまった一人の受験生 先ずは、東京都の琲田一行さん 前半の戦闘シーンとケート、 の「黒い箱」という作品から。こしてオチの関係を掘り下げていけが陥ったジレンマ。その時、目の よくま の作品は、本物の自我が目覚めなば、長めの作品になると思えるの前に現れた未来人は : : : 。 とまった一篇でした。 い七歳の少年を題材としていまですが。 す。 東京都の深夜吾一さんの「自我以上の作品以外では、滋賀県の 物語のアイデアそのものは、大のめざめ」、深夜さん、今回の作荒木正純さん、三重県の長谷川術 変面白いのですが、作品に不気味品、設定は面白いのですが、オチさん、栃木県の岩上益久さん、大 さを持たせるには、この文章でに意外性がないと思いませんか。阪府の小川真司さんの作品がもう は、合わないのではありません小説のネタを考える一人の男、彼一歩というところでした。 が説冫 . こ熱中する間に世界は、地 すべての行動、思考がすべて他球人類は次々と消えていく。 人のモノマネという少年がたどっそれに気づいた時、男は : : た末路とは。ラストの精神操作にただ、他の人類と同じに消してし 0 ◇ 8 2
してみた。 , ーーすると、ドアは上へスライドして開いた。 夜が明けはじめたらしく、空は薄っすらと明るくなっていて、ま だ寝静まっている家々の屋根が、かなり先まで見渡せた。 そうっと外に頭をだす。 前方に街灯の明りに照らされた金網が見える。大きな石がころが彼女も物体の中からでてきて、膝までの高さの金網の前におれと り、出口のすぐ下にさきほどの巨大マッチ棒がころがっている。 並んだ。眼球をめいつばいに見開き、顎がはずれたように口を開け おれは頭を引っこめた。ーーするとドアは再び閉まる。外は今とている。 同じだ。 「お、おれたち巨人になっちまった : ・ 「どうするの ? 」 「こんなうそよ ! 」 彼女がおれの左腕をぎゅっとっかんでくる。 彼女は大声をだし、あわてて自分でロを押さえる。ラウド・スビ カーからの声のように明け方の街に響き渡る。 「この下にさげてしまったレ・ハーを上にあげてみるんすよ : : : 」 おれは膝までの高さの金網を跨いで、幅一メートルほどに感じら おれはレ・ハーをつまみ、上へあげた。 また震動が起きた。さきほどより大きい。くらりと眩暈も感じられる道を地響きをたてて歩きだした。 れる。 道の両側に、おれの腰までの高さしかない、おもちゃみたいな二 唾を呑み込み、彼女の不安そうな顔をちょっと見てから、おれは階建ての家が建ち並んでいる。 ハーの下のボタンを押した。 しばらく行って振りかえると、高さ十五メートルほどの大きさに ・トア、刀日レノ、 なった白い ドーム状の物体と、その入口の傍に八メートルほどの身 そうっと頭をだす。 「ぎやっ ! 」 長の巨人になってしまった彼女が、放心状態で立っているのが見え た。電柱や木や家々がおもちゃに見える。夜が明けはじめたのでよ おれは思わず声をだした。彼女も外を見て声をだした。 く見えた。 「な、なんだこれは : : : 」 そして、すぐ おれは彼女に、やつほうと手を振ってみせた。 おれは彼女の手を振りはらい外へ足を踏みだした。グラウンドへ 踏みだして二、三歩歩いたとたん、膝までの高さの金網につまずき足もとにある二階建ての家のペランダのテラス窓を、身を屈めて覗 き込んでみた。 そうになり、あわてた。 レースのカーテンを通して部屋の中が見えた。べッドの上で、 おれは遙かな高さから、街灯や金網、そして道路や家々の屋根を 見おろしていた。 人みたいな若い女性がすやすやと眠っている。なかなかの美人だ。 今、おれはこの家を押し潰そうと思えば、簡単にできてしまうの 振りかえると、ドーム状の物体が、ほとんどグラウンドいつばい の大きさにふくれあがっているのが判った。それの中にいたおれだ。おれは部屋の中を覗くのをやめて身を起こそうとした。家の塀 も、身長十メートルほどの巨人にふくれあがっていたのである。 あたりから虫みたいな物が何匹も逃げて行った。すばやく右手を伸 2