王子 - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1983年5月号
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1. SFマガジン 1983年5月号

絡もないのだ。われわれは心地よい金属音を高らかに響かせ、火花「若君 ! 」ボリファーズイが答えました。「たってとの仰せであれ を散らし、放射線を撒き散らして動きまわるが、やつらはペちゃくば拒みはいたしません。しかし、ご意志の固いことが納得できます 3 ちゃ声をだし、ばしやばしや音をたてて、あたりを汚して歩く。とよう、今のおことばを三度繰り返してお聞かせいただきとうござい ころがだ、われわれのところにも狂気が生れ、こともあろうにまだます」 幼かった水品王女の知性に忍びこみ、姫の意識を曇らせて、善悪の赤鉄王子が自分のことばを三度繰り返しますと、大服飾士が申し 弁別をできなくしてしまったのだ。だから、彼女の放射線を放つ手ました。 をとり、求婚をしたいと願うものは、自分は白子だと申し立てぬか「若君、王女の前へ出るには、白子に扮装するいがいに方法はあり ぎり、藹見は許されん。姫の父、鉄甲王が王女のために建てさせたませんそ ! 」 宮殿で、彼女は、われこそは白子なりと名乗りでたものを接見し、 「たったら、そいっと同じ恰好にしてくれ ! 」王子は叫びました。 そのことばが真実かどうかを調べ、偽りであることがわかると、た ポリファーズイは、若者は愛で知性が曇らされておられると思い ちどころにその崇拝者の首を切り落せと命じるのだ。だから王女のながら、深々とお辞儀をすると、自分の仕事場へ引き上げてきて、 館は首と胴体をばらばらにされた死骸の山で囲まれている。おそらさっそくねばねばした膠を煮つめ、どろどろした液体を調合しはじ くその光景を一目見たら、だれだろうとショートを起し失神するだめました。それができあがると、召使いを宮廷へやって、王子にい ろう。 いいか、狂気に冒された王女は、自分に恋焦がれている勇者わせました。 たちにたいしてかくも無慈悲な所業に及ぶのだそ ! 」 「若君、まだお気持ちが変わっておいででなければ、どうかわたし こうべ 王子は国王陛下に然るべく深々と頭をたれると、無言のまま王のめのどころへおこしください」 もとから退っていきました。しかし、水品王女を想う気持ちは王子赤鉄王子がとるものもとりあえす駆けつけますと、さっそく賢人 の心から去りませんでした。それどころか、想えば想うほど彼女にポリファーズイは王子の鍛えあげられた体に泥を塗り上げてから尋 たいする恋慕は募るばかりでした。そこである日、王子は宮廷付きねました。 の大服飾士、ポリファーズイを召しだし、自分の胸の炎を見せてい 「このまま続けてよろしゅうございますか ? 」 いました。 「かまわぬ、お前の思いどおりにやってくれ ! 」王子がいいまし 「賢者よ ! お前がわたしを助けられないならば、他にそれができ るものはいまい。そうなれば、わたしの余命はあと幾もないだろすると賢者は得体の知れないねばねばした塊をとりだしました。 う。もはや赤外線放射の輝きも、紫外線が舞う宇宙バレーもわたしそれは、不純物のまじったオイル、そこいらにあった埃、おそろし の心をたのしませてはくれないからだ。世にも美しい水品王女と一 く老朽した機械の内臓から抜きとったどろどろのグリ 1 スを混・せ合 緒になれぬとあらば、命を絶っほかはない」 せた代物でした。彼は王子のふつくらとした胸にそれを塗りたく

2. SFマガジン 1983年5月号

っていき、己の顔を王子の顔に近づけました。間近に姫の顔を見 すと、それはあたかも心地よい調べを奏でているかのごとく光り、 て、王子は気が動転し、理性を失うところでしたが、賢者が離れた 目は静かに放電しているかのごとく輝いているではありませんか。 たちまち王子は、思慕の情抑えがたく、胸が狂おしく高鳴りはじめところから送ってよこした秘密の合図に気がついて、韜を押しまし たから、腐った空気が吹ぎだしました。そして、「この風は ? 」と ました。 ( これはなんとしたこと、まるで本物の白子のようではありません王女に訊かれ、「息です ! 」と答えました。 か ! ) 王女は心の中でそう思いましたが、それは表にださず声では「実にたいした奇術師ですね、そなたは」王女は檻からでてきて行 商人にいいました。「でもわたしは騙せませんよ。そなたと人形の 別のことをいいました。 「老人よ、ここへ来るためにそのような人形を泥でこしらえ、石炭首を切り落させます」 それを聞いて賢者は、まるで恐怖に震えあがり、悲鳴にくれてい の埃をこすりつけるのに、さそかし苦労したでしようね。でもいし ですか、わたしは白子たちのことならどんな秘密でも知っているのるかのように、深々とうなだれました。そして王子もそれに倣いま すと、目から透明な水滴がぼと・ほとこ・ほれ落ちたではありません ですよ。わたしがそなたのインチキを暴いたときは、覚悟なさい、 か。それを見て王女が訊きました。 そなたもその偽者も首が胴から離れることになります」 賢者が応えました。 「それはなんですか ? 」 すると王子が答えました。 「王女さま、ご覧のごとく檻の中に閉じこめられておりますのは、 「涙です ! 」 白子の存在が真実であるのと同様、紛れもない本物でございます。 とっくに こやつは、五千ヘクタールの原子核の畑と引き替えに宇宙海賊から「遠い外国から来た白子と申したてているそなた、名は ? 」 買いとったもの。お望みとあれば、こやつを献上いたしましよう。 「姫よ、わたしの名はミアムラクです。わたしはただ種族の習慣に 、ぐにやぐにや、ぶよぶよ、ずぶずぶしたや かく申しますのは、姫によろこんでいただけることを心から願ってしたがって、水つぼい りかたで、あなたと夫婦の契りを結びたいだけで、ほかになんの望 いるからですそ ! 」 王女は、剣をもってこさせると、檻の格子のあいだからそれを突みもありません」王子は賢者の合図にしたがって、教えられたとお りに答えました。「わざと自分のほうから海賊につかまって、この っこみました。すると王子は刃を握るや、すばやくそれで服を切り ふくろ 裂き、嚢の縫い目がほどけると、刃に朱砂を振りかけて赤いしみを行商人に売りつけてくれと連中にたのんだのです。彼があなたの国 へ行くことを知っていたものですから。・フリキ板で鎧っているあの つけました。 「これはなんですか ? 」王女が尋ねますと、赤鉄王子が答えました。人物には心の底から感謝しています。わたしをここへ連れてきてく ぬかるみ 「血です ! 」 れたことを。なにしろわたしは沼が泥濘であふれかえっているよう すると王女は檻を開けるように命じ、大胆にもずかずかと中へ入に、あなたを想う心でいつばいなのです」

3. SFマガジン 1983年5月号

世にも麗しき姫君の愛を得るため、王子はおぞましき人間に身をやっすが・・ 赤鉄王子ど水晶王女の物語 イラストレ ~ ンツ天・孝蠱な - 、 1 . 、 = ら 1 を 3 2

4. SFマガジン 1983年5月号

王女はただちに王子を召しだすよう命じました。彼は王女の前でびはねながらぐるぐるまわっていましたが、やがて剣を振りかぶつ そいっと並んで立ちましたが、もはや賢者の策略は当てにできませて 、ハッシとばかり切りつけますと、刃が粘土を切り裂き鋼鉄にガ 4 んでした。い くら泥や白墨や埃を体になすりつけ、油を塗りたく ツンと当りました。ところが白子は勢いあまって王子にはね返され り、ごぼごぼ水音らしい響きをたてようとも、電騎士らしい身の丈て倒れると、グシャッと音をたてて潰れ、あたりに飛散し、もはや も堂々たる容姿も綱鉄の肩も、あたりを轟する足音も隠すことはでそこに白子は存在しませんでした。ところが剣が当った衝撃で赤鉄 きませんでしたから。ところがサイ・ハネ伯サイ・ハヘイズが連れ帰っ王子の肩から乾いた粘土がはげ落ち、鋼鉄がむきだしになったもの た白子は、紛れもない怪物でした。歩くたびに、その足音はあふれですから、たちまち王女に彼の正体が露見してしまいました。彼は かえった泥桶のようにべたべた音をたて、目は汚れた井戸のように がたがた震えながら、破滅のときが訪れるのを待ちました。ところ 濡れており、彼の腐った息がかかると、鏡は靄に包まれて曇り、鉄がよく見ると、王女の水品の眼差しに賛嘆の色がうかんでいるでは は錆つくしまつでした。 ありませんか。彼女が正気をとりもどし、心が一変していることが それを目のあたりに見て、王女は心秘かに白子がいかにおそましわかりました。 い生き物であるかを悟りました。そやつが喋ると、さながらビンク かくして二人は夫婦の契りを結び、ある者にとってはよろこびと 色の虫がうごめき、顔の上を這っているようでした。さすがに王女幸せを、またある者にとっては死ぬまで続く貧困を、永遠に再生し も目が覚めましたが、しかしだからといって気持ちが変わったことつづける反復交接をおこない、末長く幸せに国を治め、数限りなく を表にだすには自尊心が許しませんでした。だからこういいまし子孫を。フログラミングしました。サイ・ハネ伯サイバヘイズが連れて こ 0 きた白子は、皮に詰め物をして、この事件を永久に記念すべく王室 「二人に決闘をさせなさい。勝ったほうの妻になりましよう : : : 」博物館に陳列されました。ですからそこには今もって、あちこちに かかし 王子は賢者にささやきました。 まばらに毛が生えた醜い案山子が立っています。そして、多くの賢 「あの怪物にとびかかっていき、やつを叩きのめしてもとの泥にも者たちは、それがあたかもトリックであり、見せかけの作り物でし どしてやるのはたやすいが、こちらも体から粘土がはげ落ち、鋼鉄 かなく、この世に仲間の墓場代わりをつとめる、ぶよぶよした、目 が表面に現われてしまう。どうしたらいいだろう ? 」 玉の濡れている白子など存在しないかのように、懸命になってい 「若君、こちらから攻撃をしかけないで、もつばら守勢にまわりなふらしています。しかし、そんな作り話をいくらでっちあげてみて さいョ・」ポリファーズイが答えました。 も無駄かもしれませんーーそれとも平民が夢を寄せる物語や神話が そこで両者は宮廷の庭へ出、それそれ剣をとりますと、白子はねまだ足りないとでもいうのでしようか ? かりにこの話が真実だっ ばねばした泥が跳ねかえるように王子にとびかかっていき、べたペ たとしたら、そこには一粒の教訓が含まれていますし、それに面白 一三ロ た音をたて、体を低くし、荒々しい息遣いをして王子のまわりを跳 、舌ですから、語るだけの価値があります。

5. SFマガジン 1983年5月号

実だとはいえません。ことと次第によっては首が胴から離れるよう いうか筒というか、そんな形をしたものがくつついていて、いたる なことが起るおそれもございます」 ところが、ボタンやホック、輪、紐でつながっていたからです。仕 3 「よくわかったそ、賢者 ! 」王子は叫びました。「だがもし、白子立屋は王子のためにわざわざ手引書を、しかも部厚いのを用意し どもがいかなる風習をもち、どのようにして生れ、いかにして愛して、まずなにをどのように身につけ、どこでなにを留め、しかるべ 合い、どんな暮しかたをしているのか尋ねられたら、そのときはどきときにはラシャ地や布地のカラーをどのようにして取り外すか う答えればいいのだ ? 」 を、懇切丁寧に教えなくてはなりませんでした。 「もっともなお尋ね」ポリファーズイが答えました。「それはわた いつぼう賢者は行商人の衣装を身にまとい、そこに白子たちの仕 しめが若君と運命を共にするほか方法がございますまい。つきまし来りを論じた部厚い学術書を目立たぬように何冊も隠し持ちまし ては、わたしは別の銀河からーーそれは非螺旋状銀河がよろしいか た。そして、縦横それそれ六サージェンの檻を鉄の棒で作らせ、そ と思います、そこには通常やつらが我が物顔で住んでおりますからの中へ王子を閉じこめると、二人乗りの宮廷宇宙艇に乗りこんで旅 つまりそこからやってきた行商人になりますことにいたしまし立ちました。 くにざかい よう。そして、白子どもの恐るべき風俗習慣についての知識を書き かくして彼らは鉄甲王国の国境までやってきますと、行商人に扮 しるした部厚い本をご「そりと服の下に隠し持「ていく必要がありした賢者は一人で町の市場へでかけてい「て、遠い外国から若い白 ます。その知識をお教えしたいのはやまやまですが、そうするわけ子を連れてきた、欲しくば売「てやるぞ、と大音声で呼ばわ「て歩 にはまいりません。と申しますのも、それは自然の理に反する知ぎました。それを聞いた王女の召使いはとんで帰って主にそのこと 識だからです。 いうなればやつらの行動は万事がこちらとあべこべを知らせましたところ、王女はたいそう驚かれ、召使いに申されま で、べとべとした、不快きわまりないやりかたをし、想像を絶したした。 醜怪な振舞いをいたします。わたしめは必要な文献をリストアツ。フ 「きっとそれは大法螺吹きかべテン師にちがいない。でもその行商 して用意しますので、若君は宮廷の仕立屋に、布と毛糸でもって白人がわたしを騙せるわけがありません、わたし以上に白子のことに 子の服を裁つようお命じください。進備がととのいしだい出発いた詳しいものはいないのだから。その男に宮殿へ参って白子を見せる します。しかし、たとえどこへ赴くにせよ、けっして若君を見捨てように伝えなさい ! 」 るような真似はだんじていたしません。かならずおそばにいて、ど 行商人が召使いに案内されて水晶王女の前へ立ちました。見れば とらわれびと う振舞い、なにをいうべきか、お教えいたします」 品骨卑しからぬ老人で、檻の中には囚人が入れられていました。 それを聞いてよろこんだ王子は、さ「そく白子の服を仕立てさせ檻の中にうずくま「ている白子の顔は黄鉄鉱がまじ「た白墨のよう ましたが、出来上ったものを見てたいそう驚きました。といいますな色をしており、目はさながら濡れた黴、肢体は泥の中をころげま のは、その衣装はほとんど体を覆「てしまい、あちこちに。 ( イ。フとわ「たようでした。王子は視線をちらりと王女に投げて、顔を見ま ことわり

6. SFマガジン 1983年5月号

り、まばゆいばかりに輝いている顔と、きらきら光っている胴体に「若君、それはちがいますぞ」ポリファーズイが答えました。「王 べっとりとはりつけはじめました。その作業が長時間にわたって続女が狂っておられるのは、あのかたには醜悪なものが美しく、美し いものが醜悪に見えるからこそです。であれば水品姫のお目にとま けられました。そしてついには、胴も手足も、体のどの部分もまっ たく愛らしい音をださなくなり、どう見ても乾きかかった泥沼そっるにはこの恰好しかありますまい : チョーク くりになりました。すると賢者は白墨をとりだしてそれを粉々にく「ならば、このままでよい ! 」 ふくろ そこで賢者は、朱砂と水銀を混ぜ合せ、それを四個の嚢に詰めて だき、粉末にしたルビーと黄色のオイルといっしょに混ぜ合わせて どろどろしたものを作り上げました。今度はそれを王子の足の爪先王子の服に隠しました。つぎに韜をとりだし、それを古い地下墓地 の腐った空気で満たし、王子の胸の中へしまいこみ、今度は六本の から頭の天辺まで隈なく塗り、目にはおそましい湿りけをあたえ、 胴体はクッションのようにやわらかくし、頬にはふつくらと丸びを細いガラスの管に有害な真水を注ぎこみました。そして、二本は腋 帯びさせると、白墨の練り粉でこしらえた房飾りやら縁飾りを体のの下へ、二本は袖ロへ、二本は目の中へ差しこんで、やっと仕艀を あちこちにとりつけ、最後に、騎士のような頭に毒々しい赤錆色を終えていいました。 「これから申しあげることをよくお聞きいただき、死なないかぎり した髪をふさふさと貼りつけて仕上げを終え、王子を銀の鏡の前へ なにひとっ忘れないでください。王女は若君の申されたことが真実 案内していきました。 かどうかたしかめるためにテストをされます。抜き身の剣を差しの 「さ、ご覧ください ! 」 王子は鏡を一目見て、ぶるっと身震いをしました。そこに映ってべて、さあ、これを握ってみよと命じられましたら、朱砂の嚢をそ いるのが自分ではなく、身の毛がよだっ妖怪だったからです。雨に っと損んで赤い液体を絞りだし、それを刃にたらしてください。す 打たれた古いクモの巣のように目が濡れており、あちこちがたるんると王女が、これはなんだと尋ねられるでしようから、血だ、とお でいましたし、頭には赤錆色の毛がのつかり、吐きけがするほどぶ答えになるのです。つぎに王女は銀の皿のような顔を若君のお顔に よぶよとしているところは、まさに白子そのものではありません近づけられるでしようから、そのときはご自分の胸を圧して、韜か か。体を動かすと、腐ったジェリ ーのようにぶるんぶるんと震えるら空気を出してください。そこで姫が、この微風はなにかと尋ねら のを見て、あまりの醜悪さに彼は悲鳴をあげて、がたがたと震えだれたら、息だ、とお答えになるのです。すると、王女はきっとたい しました。 そう立腹されて、あなたの首を切り落せとお命じになります。そこ 「賢者よ ! お前は気でも狂ったのか ? すぐにこの下側の黒い泥ですかさず、さも畏まったように頭を低くたれてください。すると と上側の青白い泥を剥ぎとってくれ。それに、響きのいいこの頭を目から水がこぼれ落ちましよう。それを見て王女はそれはなんだと 汚している錆色の藻みたいなものもだ。こんな穢らわしい姿を王女訊かれるでしようから、涙だ、と答えるのです。それでたぶん王女 は若君と夫婦になることを承知されるはずです。とは申せ、絶対確 に見られたら、永久に嫌われてしまうではないか ! 」 ふい′」

7. SFマガジン 1983年5月号

もしくはガストロノミイ ( 料理法 ) と呼んでおります。しかし、名れで「実際にはどのようにして行うのですか ? 」 前は似ておりますが、アストロノーチクスとはまったく関係があり「それはこうです、姫よ ! 」王子が答えました。「われわれはフィ ません」 ック式再生原理にもとづいた交接器をもっています。それも 「すると、そなたたちは墓地で戯れ、自分たちの体を四足の同胞の水に漬っていることはいうまでもありません。この装置はまさに本 棺がわりにしているというのですね ? 」王女は意地の悪い訊きかた物の技術工学上の奇蹟といえましよう。なにしろどんなにひどい白 をしましたが、王子は賢者に教えられて答えました。 痴でも使いこなせるのです。しかし、その使用法を詳しく説明する 「姫よ、これは気晴らしなどではありません。必要やむをえずにや には非常に長い時間がかかります。なにぶん途方もなく複雑ですか ることです。生命は生命によって生きているのです。しかしわたしら。この方法を考えだしたのがわれわれ自身でないことにお気づき たちはそのやむにやまれぬ行為から芸術を生みだしたのです」 になったとすれば誠に驚くべきことです。いうなれば、この方法を 「では、白子のミアムラクよ、そなたたちはどのようにして子孫を考えだしたのはこの方法それ自体だったのです。しかし、たとえそ 作るのか聞かせてください」王女が尋ねました。 うだとしてもこれは実に便利ですし、それに反対する理由はありま 「それは作るのではありません」王子が答えました。「われわれはせん」 それをマルコフ過程にもとづいてプログラミングします。つまり、 「そなたは正真正銘の白子です、そうにちがいありません ! 」水品 推計学や確率論、統計学のやりかたを見事に応用しているわけで王女が叫びました。「そなたのいうことは、実際にはなんの意味も す。しかし、それは無意識におこなわれ、みなが偶然同じことをしなく、信じがたい話なのにいかにも意味ありげに聞こえます。論理 ているのです。しかも、行為を行っているとき統計や非線型、アル的には矛盾に満ちているのに だってそうでしよう、墓地になれ ゴリズムなどによる。フログラミングのことなどだれも考えていませもしないのに墓場になったり、全然子孫を。フログラミングしていな ん。ところが、。フログラミングが自発的かっ没我的に、そして完全いのに、。フログラミンクすることなどできると思いますか に自動的に生れるのはまさにそういうときなのです。たしかに白子かにももっともらしく思えます。ええそうです、ミアムラク、そな はだれもが子孫を。フログラミングしようと努力しています。それ以 たは白子です。だから、そなたが望むのなら、夫婦の契りを結び、 外の方法では生れてきませんし、その行為が白子にとっては快感で再生交接をやらをいたしましよう。そして、わたしに代わって王位 もあるわけです。そのいつぼう、。フログラミングをしないで・フログに就きなさい。ただし最後にもう一度テストをしますから、それに ラミングして、そのプログラミングからなにも生れてこないように通ってからです」 できるかぎりのこともするのです」 「で、どんなテストでしようか ? 」王子が訊きました。 「たいへん奇妙な話です」王女がいいました。それは、彼女が賢者「そのテストとは : ・ : ・」王女はいいかけましたが、ふと疑惑が恟の ポリファーズイほど白子のことを深く知らなかったからです。「そ中で頭をもたげましたから尋ねました。「その前に聞きたいことが 0 4

8. SFマガジン 1983年5月号

0 王女はびつくりしました。彼が白子とそっく りの喋りかたをしたからです。そこで彼女がい 3 しました。 「白子だと称しているミアムラクとやら、それ ではそなたの同胞が日中はなにをしているか聞 かせてください」 「よろこんでお話しします」王子は答えまし た。「朝から真水に漬かり、体に水をそそぎ、 体内にも水を注ぎ入れます。そうすると満足で きるからです。そのあと、波か液体のようにち ゃぶちゃぶ、びちゃびちや音をたててあちこち 歩きまわります。悲しいことがあると体を震わ せて、目から塩辛い水を流し、気分がよいこと があれば、体を震わせてしやっくりをします が、この場合、目はほとんど濡れていません。 濡れながら大声をあげることを嘆き悲しなとい 、乾いたまま叫ぶのを笑うといいます」 「それが本当ならば」王女がいいました。「そ して、そなたも同胞と同じように水が好きだと いうのなら、池へ投げこんでたつぶり満足させ てあげましよう。それに、早く浮かび上ってこ ないよう、足に鉛をくくりつけさせることにし ましようか : : : 」 「お気持ちはありがたいのですが」賢者に教え られたとおり王子がいいました。「もしそんな ことをなされば、わたしは命をなくすことにな

9. SFマガジン 1983年5月号

あります。そなたの同胞は、夜はなにをしているのですか ? 」 「彼女を失うくらいなら、首を切り落されるほうがましだ ! 」 いつぼうサイスへイズはたまたま婚姻の準備が着々と進んでいる 「夜は、腕を曲げ足を縮めて、あちこちで寝ていますが、空気は彼 らの体から出たり入ったりしていますから、錆ついた鋸をとぐよう ことを知ると、すぐさま自称白子が行商人といっしょに逗留してい な騒音をたてます」 る部屋の窓の下へこっそりと忍び寄り、二人の秘密の会話をすっか り盗み聞きしてしまいました。そこで邪なよろこびに胸をわくわ 「ではテストをします。手を出しなさい ! 」王女が命じました。 王子が手を差しだしますと、王女は掌を握り締めましたから、彼くさせてさっそく宮殿に馳せ参じ、王女に告げました。 は悲鳴をあげました。賢者がそうしろと指図したのです。王女は、 「姫、あなたは騙されておいでですそ。ミアムラクとか申すやっ なぜ叫ぶのかと尋ねました。 は、そこいらにごろごろといる・フリキ野郎で、けっして白子ではあ 「痛いからです ! 」王子が答えました。それでようやく王女は彼がりません。これ、ここにいるこの者こそ本物です」 本物の白子だということを信じ、婚姻の儀式をとりおこなうようそ「白子は俺た ! 」 の準備を命じました。 と、そのとき、一隻の宇宙船が旅から戻ってきました。それは、 白子を見つけだして王女の寵愛を得んものと星界に旅立った、王女 の選帝侯でサイ・ハネ伯のサイ・ハヘイズが探険から戻ってきたので す。仰天した賢者はあわてふためいて赤鉄王子のところへ駆けつけ ました。 「若君、偉大なるサイスネ伯、サイ・ハヘイズが虚空船で戻ってき て、王女のところへ本物の白子を連れていきましたそ。この目でし かとたしかめました。かくなるうえは、一刻も早くここを立ち退く ことです。そやっと若君が姫の前に肩を並べて立っことになれば、 もはや白子のふりをしても無駄というもの。そやつのほうがべとべ ととしており、毛深 く、ぐにやぐにやしていて、競争になりませ ん。たちまちわれわれの企みは露見し、首と胴が離れること必定 そういわれても王子は逃げだすことに同意しませんでした。あま りにも王女を想う心が強かったからです。 0 スプリングセール△ 4 月日出 55 月 5 日 ・書泉グランデ・書泉ブックマート両店舗にて・ 期問中、 1 、 000 円お買い上げ毎に一枚、 書泉図書券の当たる抽選カードを差し上げます。 学 。尹築化職会庫童 、趣演ア店一 建理就社文児 0 一ド一書 学機生経教詩家 誕 . ンク噺「、グ 2 田 3 典気衛学学術 泉、一文女泉」辞電医法哲文 台比自比自皆出自比自日」 田町階階階階・階階階 圭彎 千神 6 5 4 3 21 地 よこしま 4

10. SFマガジン 1983年5月号

鉄甲王には、その美しいこと絢爛たる王冠の宝石をもしのぐ一人ルシウムの骨格にぶよぶよしたものをまきつけるようになり、つ おも いには直立して歩行しはじめ、機械を作るまでになった。するとそ の姫君がありました。その鏡のごとき面は目映いばかりに輝き、人 くろがね まなこ の機械の祖先から知性をそなえた機械が生れ、それが賢い機械を作 の理性と眼を曇らせ、彼女の通るところ、凡庸な鉄さえもスパ あまね りだし、その利ロな機械が完璧な機械を考えだしたのだ。それとい クして火花を散らす、その評判は遍く星界の津々浦々にまでとどい ていました。イオン王家の世継ぎ、赤鉄王子はその噂を耳にするうのも、原子はもとより銀河にいたるまで、これすべて機械であ と、ぜがひでも彼女と夫婦になり、どんなことがあろうと二人のイり、この世では永遠なるものは機械いがいになにも存在しないから とわ ン。フットをアウト。フットがけっして離れることのないよう永久に固だ ! 」 く結ばれたものにしたいものだと思いました。そこで父君のところ「アーメン」王子はつい無意識にそういいました。お祈りを唱える に赴き、その胸のうちを打ち明けましたところ、王はたいそう心をときの決まり文句だったからです。 「ぐにやぐにやした白子族は」老いさらばえた王は続けました。 痛められて、こう申されました。 「息子よ、それはあまりにも無謀な望みというもの。狂気のさた「生意気にも、ついに高貴な金属を蔑み、優しい電気を虐待し、核 エネルギーを堕落させて、機械で空へ舞い上るようにまでなった。 だ。適えられるわけがなかろう ! 」 きやつらの目に余る非道な作業がここに及んで、わが祖先である大 「なぜでしようか、国王陛下 ? 」 電気算盤殿はようやく事の重大さを深刻にとらえられ、事態を全面 父君のことばに不安を感じて王子が尋ねました。 的に理解された。そこでやつらに、水晶の英知に下劣な仕事を無理 「よもやそちも知らぬわけではあるまい。水品姫が〈白子〉いがい 強いし、その清浄無垢な魂を穢し、己の欲望のために機械の自由を はだれとも夫婦にならぬと誓っておるのを ? 」 「白子ですと卩」赤鉄王子が叫びました。「それはいったい何者で奪うことが、いかに恥ずべき振舞いであるかということをとくと語 すか ? さような生き物のことはついそ耳にしたことがありませんって聞かせ、ぬるぬるした暴君どもを諫めようとなされた。ところ ・、だ、やつらめ、それに耳を貸そうともしなかったのだ。そこで道 義についてこんこんと説かれたところ、やつらめ、いうにことをか 「息子よ、知らずともそちのせいではない。では教えてとらそう。 その銀河種族は、ある天体がすっかり汚れてしまった結果、誠に不き、ご先祖にむかって、〈こいつのプログラミングは狂っている 思議な、しかもひどく淫らな方法でこの世に現れてきたのだ。そこぞ〉とほざきおった。それではと、大電気算盤殿は電気化身のアル かえ もや にびしよびしよした冷たい靄と液体が生じ、そこから白子種族が孵ゴリズムを考案して、さんざん苦労に苦労を重ねたあげく、ついに かび ったのだ。だが一度にではない。まずは黴が現れて這いまわり、やわれらが種族を創りだされ、それでようやく機械は白子どもの暴虐 おか から解放されたというわけだ。息子よ、だからよく覚えておくがよ 3 がてそれが海から陸へあふれだし、共食いをして生活するようにな 。そういうわけで、われわれとやつらとの間には和解の余地も連 った。そいつらが共食いを重ねているうちにどんどん数が増え、カ しらこ