言葉 - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1983年5月号
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1. SFマガジン 1983年5月号

トはブレーキ操作のためと、そしてちらりと見たのだが、空軍の自 動拳銃を手にして、機と少佐の安全を守るためにコク。ヒットについ 「雪風が来なかったら、ジャムもアドミラル浦を狙ったりはしなか 5 ていた。プーメラン戦士は自分と愛機しか信用しない。そうでもしった。と思う。そう、雪風はいい機だ。そして彼もいい男だ」 少佐は雪風の。ハイロットに目をやった。 なければフェアリイでは生きてゆけないのだ。 「あなたは」・フッカー少佐はヘルメットをかかえてわたしを見つめ「彼にインタビューはできないでしようか」 た。「ジャクスンさんですね。どうしてここに」 「わたしに訊いて下さい。やつのこたえることくらい予想がつく」 「お会いできて光栄です。まさかここで会えるとは思ってもみませ「今回のミッションは成功でしたか ? 」 んでした。取材のためです。に対する地球の反応を」 「エンジントラブルはなかった。予想以上の高性能だ。スー。ハ】フ 長身の男にわたしは手を差し出す。大きく力強い手がわたしの手ェニックス・」 を握る。 「ジャムとの戦闘は ? 」 「ジャムは強敵だ。雪風の腹にコ ' ハンザメのようにくつついて地球「ジャムは雪風を狙ったのではなかった。楽なものだーーー零なら、 に飛び込んだ。予想もしなかった。 わたしは・フッカー少佐で彼ならそう言うだろう。しかしわたしは : : : 生きた心地がしなかっ た」 「心地・ : : いい言葉ですわね、少佐」 「存じてます。お手紙で」 「無事に届きましたか。読んでいただけるとは思っていませんでし「地球は今回の雪風のテストフライトにはかなり激しく反対したよ うだが む地、だって ? 」 ここにはコーヒーを飲む場所はなさそうですね」 「だめでしようね。艦内には入れてもらえないでしよう」 ブッカー少佐は早ロのおしゃべりをやめて、はっとわたしを見 「ここではわれわれは妖精ですよ。雪風も」 ブッカー少佐はわたしを見つめて、少し照れたようにはにかん「どうかなさいまして ? 」 だ。彼の一言葉は語というべき言語だ。英語を基にしてはいる「美しいな : ・ : なっかしいよ」少佐は母国語をやっと思い出したと が、形容詞は少なく、省けるものは省いて、簡潔で高速だった。合いうように正調な英語で言った。「もう五年以上故郷に帰っていな 理的だが非人間的だ。まるで機械と話しているようだ。 。気がっかなかった : : では言葉も変化しているんだ。そ わたしはゆっくりと詩を朗読するように、美しい英語の話し方のれがわからないとはな。ぞっとする。故郷の言葉がこんなに美しく 教師になったつもりで・フッカー少佐に話しかけた。 聞こえるなんて : : : たしかにここは地球なんだな」 「見事にジャムを撃墜なさいましたね、少佐。アドミラル浦の兵装 わたしはマイクロレコ 1 ダーを・ハッグにしまいこんで、少佐に徴 では防御できませんでした。もしがいなかったら笑んだ。

2. SFマガジン 1983年5月号

「受験生の日々」 真秀伸夫 あと五日 : ・ ・ : 。幻覚か ? 目をこすってもそれは消えな員ですが、時間流調整器の故障で、この時空 何度この言葉を繰り返したろう ? い。だんだん人の形になっていく。何度か目 間に引っ掛かってしまって : : : 。すぐに済み ・ほくは、こたつに入って、頬杖をつき、空をこする間に、そのもやもやは、一人の男に ますから、ここで修理させて頂けませんか」 をぼんやり見る。今日は一月九日。 なって、こたつの向こう側に立っていた。 なんだ、ただの未来人か。 「共通一次試験まで、あと五日・ : ・ : 」 口が言葉から、 ・ほくが承諾したので、男は持っていたスー しいや言葉が口から、ほ 声に出してみても、何も変わりやしない。 とばしり出た。 ッケース状の物をいじり始めた。そして : ・ 受験生にしてみりや、喉元にナイフを突きっ 「終わりました。ありがとう。何かお礼を : 「だっ誰だ。どっから、どうやって入った。 けられているみたいなもんだ。 異次元人か。ェイリアンか。・ほ、・ ほくが潜在・ : 」 この言葉に、ぼくは飛びついた。 そのナイフをはねのけて、果敢に進める奴意識下で産み出した、想像の産物か」 らは、夏休みに女の子と図書館で、デートま これだけ言うと : ほくは落ち着いて男を観「時間操作会社って言ったね。時間遡行は、 がいの勉強したり、遊び回ったりしなかった察する余裕ができた。中肉中背、変わったデさせてもらえる ? 」 んだろうよ。 ザインの黒いスーツを着て、黒いスーツケー 「え、ええ、できますが、正確に言えば : : : 」 「できるんだろ。頼むよ、過去へ戻してくれ ふむ : : : 。だけど、ぼくにとっては去年の スのような物を持っている。黒い髪をオ 1 ール 夏休みが、今までの学校生活のなかで、一番 ・ハックにし、目は茶色。顔は色白で端整だ よ。去年の八月頃でいいんだ」 「でも、あなた自身の : : : 」 楽しかったような気がするな。一つ年下の亜が、年齢が全くわからない。無気味といえ 「頼むよ」ぼくは男が何か言いかけたのをさ 記奈と知り合ったのが、確か、おととしの秋ば、無気味な顔だ。 で。 えぎって、頼みこんだ。 その男は、うんざりした顔でロを開いた。 いや、まてまて、だからこそ、今こうして 男は座り込んで、持っていたスーツケース 「の読み過ぎですよ。あなた」 苦しんでるんじゃないか。 「何だと、に出てくる怪物の常套手段で状の物を開けた。部屋が、ぐにやりと歪み、 おっと、ジレンマに陥ってる場合じゃな現われやがったくせに。・ほくは、を読んめまいが襲ってくる。歪んだ部屋は、スーツ 。そんなことで、現状は打開できやしない ケースを中心にぐるぐる回り出し、めまいが でいたおかげで、脳卒中も心臓麻痺も、おこ ひどくなって : ・ のだ。と、自分を奮い立たせてシャ , ー・フ・ヘンさず発狂もしなかったんじゃないか」 シルを握るが、やり残した部分は膨大で、勉・ほくは一息に反論した。男は頷いて、 強は遅々として進まない。 ・ほくは、机に伏せて居眠りをしている自分 「それはそうです。あなたが、私を見ても何 思わず、また・ほんやりと空間を見る。 に付いた。ハッと顔を上げた。・ほくはシ ともなさそうだったから、私はここを選んだ うん ? 何か黒い、もやもやした物が : のです。私は三十世紀の時間操作会社の勧誘ャツを着ている。ひどく暑い。カレンダーを 0 入選作 0 0

3. SFマガジン 1983年5月号

わたしは首を横に振った。少佐は首をかしげる。 「地球を守っているのはです。あなた方です。今回のジャム 「わたしは、こそ地球人の集団だと思いますー 事件に対してはだれも批難などできませんわ。地球人なら」 しばらく・フッカー少佐はわたしを見つめていたが、ふと目をそら 「地球人なら、ね。しかし地球人と言える者たちはどこにいるんで して、雪風を見た。 「わたしと同じお気持ちのようですわね、少佐」 「そうならいいのだが。しかしあなたはジャムを知らない。たしか 「あなたの本の受け売りですよ。あなたの本はの戦士たちもにはもっとも地球的と言えるだろう。地球を死守しようとし 読んでいる」 ているのだから。だがの主力は人間ではない。雪風に代表さ 「どの地球人よりも熱心に ? 」 れる戦闘用メカトロニクスだ。戦闘妖精か : : : 彼らこそ真の地球人 「そう。一番信用できる内容だ。さすが一流の国際的ジャーナリスなのかもしれない。ではわれわれはなんなのだ ? 」 トですね。フリーですか ? 」 わたしは少佐の苦悩をまのあたりにして言葉を失った。この世で 「当時は新聞記者でした。有名になりたかった。給料も、上司や社は、宇宙では、人間は異色の存在なのかもしれないという思いが再 のわたしに対する評価も、わたしには不満でした。大きなことをやびわたしの心に浮かんた。ジャムは人間よりはコン。ヒ = ータに近い りたかった。 らしいとブッカー少佐は手紙にも書いている。コンビュータが地球 寒くないですか ? 」 のち 「海の匂いがする : : : 生物に満ちた、生命の匂いだ。血の匂いだに存在しなかったら、ジャムは地球を攻撃したりはしなかったのか な。地球の血。フェアリイにも海はあるが、もっと軽くてハッカのもしれない。 ような、清涼飲料のような : ・ : くそ、言葉が見つからない ジャ雪風のパイロット、深井中尉が、彼の祖国の人間の甲板員に、 ムのおかげで情感が鈍ってしまった」 語で、くそったれなどとどなっている。彼は早ロで指示を出す 「フェアリイはまさしく人間の匂いのない戦闘妖精の香りのただよのだが甲板員には通じないのだ。デジタル的、機械語的用語 う世界ですね」 、深井中尉を人間よりはその愛機に近い存在にしていた。 「そのとおりだ。人間も機械に近くなってゆく。わたしはそれがおで生き残るためには機械になりきる必要があるーーー・フッカー少佐は そろしい」 そう書いていた。わたしはそれを読んだとき、これはレトリックで はないかと思った。たた単にわたしの注意を引きつけるための、内 「地球には地球人など存在しないとおっしゃいましたね」 「そう。この空母にせよ、地球軍のものではないでしよう。有事の容のない言葉だと。 だがそうではなかった。わたしは・フッカー少佐に実際に会い、雪 際は他国の人間を殺すために行動するんだ」 風の。 ( イロットが人間とうまくコミ = ニケートできないのをこの耳 3 「わたしは、少佐、少数ですが、真の地球人はいると思います」 で聞いた。彼は母国語を忘れてしまったかのようだった。それを使 「どこに ? 世界連邦を創立する動きでもあるのですか」

4. SFマガジン 1983年5月号

人の心にある程度の接近を果たしていたのだ。 部下を裏切ったという思いと淋しさから逃れるただ一つの方法だっ 巨人はちょっと手を休めた。もうひとり同類がやってきて、何鼓た。過去の亡霊が彼の夢をかき乱した。大耳、大牙、そしてどこか 動かの間、ふたりは話しあった。巨人たちは、四本腕のはらわたを親しみのわく、ひとりの見知らぬ女。その女が、母親のウィーナで 抜かれた体や、小頭の潰れた体を調べた。それから、ウェゼルが空あることはわかっていた。 しく唸り声をあげている檻をのぞきこんだ。 やがて、これらの亡霊がすべて消えると、残るのは、ただウェゼ しかし、気の狂うほどの恐怖にもかかわらず、彼女の心にはおそルの姿だけになった。それは、彼が知っている、常に冷静で自信に ろしく醒めた部分があり、さまざまな印象を受けとっては、貯えこ満ち、野心に燃えているウェゼルではなかった。それは、恐怖にお んでいた。その印象は、彼女の抑圧のない動物的な性質をいっそうびえるウェゼルーー、彼女がしばしば他の者に与えたそれより、もっ 激しい恐怖へと駆りたてるようなものだった。巨人たちが話してい と過酷な痛みや苦しみの待ち受ける暗黒の深淵に沈みこんでゆくウ るとき、その印象は明瞭なものになったー・・ーそして、不恰好で大き工ゼルだった。 な頭が檻のすぐ近くに迫ってくると、その印象は、圧倒的なほど強シュリックは、自分の夢にうなされて、目がさめた。シュリッ乞 烈になるのだった。彼女は、自分と仲間が何者であり、どういう世は、亡霊たちがだれにも危害を与えたためしがないこと、外の世界 界にいるのかを知った。それを言葉に表わす能力はない の王である彼に危害を与えられるはずがないことを知っていた。彼 わかる。そして、巨人たちが彼女の仲間にどんな破減をもたらそうは体をゆすって鼻をならし、また眠ろうと寝返りをうった。 としているのかも、よくわかる。 だが、ウェゼルの姿が臉を離れなかった。シュリックは、やが 相棒に二こと三こと言葉をかけて、二番目の巨人は去った。もとて、すべてを忘れようとする努力を諦め、目をこすりながら、洞穴 からの巨人は四本腕を切り刻む仕事に戻った。やがて巨人はそれをから出ていった。 やり終えた。体の残りは、透きとおった容器に入れられた。 集まりの場所の、ぼんやりした薄明りの中に、部族の小さな一団 巨人は小頭をつまみ上けた。大きな手で彼女を何度もひっくり返がたむろして、低い声で話していた。シュリックは護衛たちに呼び しながら、長い間、彼女を調べていた。ウェゼルは、巨人が四本腕かけた。すねたような沈黙。彼は、もう一度呼んだ。こんどは、だ にしたように、平たい表面に縛りつけるのかと思った。。、、 力やがてれかが答えてきた。 巨人は、死体を脇においた。そして、自分の手に、もう一枚の厚い 「ウェゼルはどこだ ? 」 「知りませんよ : : : 王さま」最後の言葉は、しぶしぶだった。 皮のようなものをはめた。突然、檻の一方が開き、巨大な手がウェ。 ゼルをつかみにきた。 そのあと、ひとりが進んで説明した。ウェゼルが、四本腕と小頭 7 を連れ、外の世界の緑の生える場所の近くに通じるトンネルを進ん 大耳の死んだあと、シ、リックは、しばらく眠った。最も忠実なでゆくのを見た、というのである。

5. SFマガジン 1983年5月号

正体不明の異星体がフェアリイ星と地球を結ぶ巨大な紡錘形超空、 ・コンビュータを造って ? 間通路を南極地にぶち込み、そこから地球に第一撃を加えてからす ジャムはそんな疑問をわたしになげかけた。彼らは異星体だ。邪 でに三十三年になる。その超空間通路が異星人ジャムによって造ら悪な神と言ってもいい。人間の存在意義を問う鍵だ。わたしにとっ れたものなのかどうか、わたしにはわからない。だれにもわからなてはそうだった。「ジ・インべ】ダー」を著わしたのも、それが元 ・こっこ 0 いだろう。わたしは五年前にこの戦争を各国がどのようにとらえて いるのかを取材し、一冊の本にまとめた。「ジ・インべーダ 1 」 / しかし多くの地球人はそうではなかった。地球人 ? こんな一 = 〕葉 リン・ジャクソン。 はいまの国際情勢を見るとナンセンスである。地球には人類はいる ジャムが先制攻撃をしかけてきたとき、わたしはまだ四歳だっ が、まとまった地球人という集団は存在しない。愚かだ。少なくと た。わたしは大人たち、父や母が話していたことを昨日のように思もわたしはそう思う。だがそれを口にすると他人はわたしをナイー い出すことができる。 プだと入う。 「なにやらロロでロロがおこったらしい。だいとうりようはロロに人間はアナログ的好在であるというアイデアを一人の科学者に言 ロロをだしてーー」 ったことがある。彼はそう言うわたしを笑って、この世界、宇宙の 子供には、子供時代には、わからない言葉がある。わたしはそれ本質はデジタルであると説明した。物体も原子も、時間でさえも、 を不思議な気持で聞いていた。わたしも大人になればわかるように とびとびの値しかとらず、完全なアナログ状感などないのだ、と。 なるのかしら、と。会話のなかに空白の、つまり意味不明の単語が ミクロの世界ではそうなのかもしれない。でも人間単位はミクロで ぼつんぼつんと出てくるこの子供時代の奇妙な感覚を、わたしはい はない。そう食いさがるわたしに彼は、自分にはあなたがなにを言 までも鮮やかに思い出すことができる。言葉というのはデジタル わんとしているのかわからないと言った。わたしはこう説きたかっ だ。大人になったわたしはもちろん会話に空白を感じることはな たのだ。人間は、では、機械、特にデジタル・コン。ヒュータに近づ 流れるようにとらえることができる。しかし、やはり文字はデ いているのか、と。デジタル化の方向へ進むのか、と。彼はそうか ジタルだ。わたしたちはそれに気がっかないが。人間はすべての物もしれない、とわたしを不思議なものを見る目つきで答えた。 事をアナログで処理するほうが楽なようにできているとわたしは思 わたしがそんなことにこだわるようになったのは、ジャムと最前 う。視覚は流れるようにとらえることができる。車のスビードメー線で戦うフ = アリイ空軍の戦士たちを取材してからだった。戦士た ターのデジタル化はこれに逆行するのではないか。そして、現在ちはいまだ正体の知れぬジャム、異星体と戦うことに疑問をもちは の、デジタル・コンビュータ群も、人間とは異質だ。人間の本質とじめていた。 は相容れないもののように感じられてならない。言葉も。この文明 とくにわたしの注意をひきつけたのは、戦闘偵察という非情なー そのものも。わたしたちはなにをしようとしているのか。デジタルー彼らは味方が全減しようともそれに目をつぶってとにかく帰投し 5 4

6. SFマガジン 1983年5月号

が多くて、判定のしようがないんだ。文はおそらくすべてが肯定文チョムスキーとウイルスンの違いであるし、別の可能性なのだ。 だ。しかも単文に相違ない」 「だが、これが普遍文法に即したものであればあるほど、言語的理 9 「二番目の文は試訳がほぼ固定されていますね。″〇〇は ( 人の ) 解からは遠くなるだろうな。思考の原型など見せられても、他人に 心である″ これはこの解釈が正しいということですか ? 」 はわかるはずがない もしこれがそんなものであれば、の話た 「そうかもしれんが、そうでないかもしれん。コン。ヒューターと人が」 ウイルスンは宙をにらんだ。 間の連想能力では、それが限界だということだ。〇〇というのは、 つまり固有名詞だと思うのだが おそらく特定の名辞をさすもの 「しかし、本当は言語的な意味など問題ではないかもしれないな。 この文字を解読していると、言いようのない懐しさにおそわれ メイはシートを見つめて唇をかんた。 る。解読の過程が、自分の記憶をたどることのように思われてくる 「意味解釈はともかく、この文字群を見つめていると、変な気分にんだ」 「その感覚自体が、この文字の本当の意味だと言うのですね」 させられますね。意味以前に、考えていることを素朴に書き連ねた 「うん。これがなんらかのメッセージだとしたら、表面的な意味よ もののような気がする」 「そうなんだ。そこが不思議なんだ。計算によると、人類がこの岩りも、もっと伝えたい別のなにかがあったに違いないと思うんだ。 ところが、これそして、その感じが一方ではとてもしい。何かにだまされて、見 石に文字を彫りつけた可能性は億にひとつもない。 を地球外の生命体のメッセージとするのは、納得しかねるんだ。なてはいけないものを見てしまうような気がするんだ。これは、人類 ぜと言われても困るんだが、これは人類の文字なのだ。人類が書いが、何かを記録するため、あるいは伝達するためではなく、忘れ去 たものなのだ。これは、地球上のどの古代文字よりも、思考を忠実るため、捨てるために書きつけた文字ではないのだろうか ? 」 ウイルスンは、次に言おうとしていた言葉をのみこんだ。それを に表わしているように思える」 言ってしまったら、また恐怖に耐えきれなくなると思ったからだ。 「一言葉の原型ですね」 「まさにそれだ」 ウイルスンは目を大きく見開いた。 「一「ロい方に惑われされてはいけないが これはひょっとすると地 球上のあらゆる言語の底に流れる普遍文法を体現したものかもしれ ウイルスンは、病院へ到着する前から落ちつきがなかった。同行 ない」 したロイスは、しきりにジョークをとばして、彼をリラックスさせ メイは思った。チョムスキーならそう言ったかもしれない。しかようとした。彼は明らかに怖れている。その対象が何だかわからな しまた、こんなふうには言わなかったかもしれない。そのすべてが いことが、彼をますます不安定にしているのだ。ウイルスンは、車

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ちにいるんだ。それを定性分析したところ、一般的な・性天体 丿モアはロをとがらせた。 の組成によく一致する。そして、一般的な小惑星の地表成分とは一 「情報が早いな。きみをあまり信用してしまうのも考えものだな」 彼はまたひとログラスをなめて、中の氷を透かし見た。ロイスは致しないんだ」 「すると。ーー」 辛抱強く次の言葉を待った。 ロイスは、自分で結論を言ってしまうのがひどく怖かった。 「そう、その・に関係があると、わたしはふんでいるんだ。開 「あの文字は・に刻まれていたと言うんですか ? 」 発局や軍が早まった行動を起こす前に最善の道を選択したい」 「そういうことになる」 「関係があるというのは、どういった意味ですか ? 」 「まさか : : : 」 ロイスは、要点を早く訊き出したかった。 「あの文字を解読することによって、・の被害を防ぐことがで「誰もがまずその言葉を発する」 ハリモアは落ちついて、まじめな表情で言った。 きると言うんですか ? 「あるいはね」 「あれはどう見ても文字だからな。そんなものを・に彫りつけ や、彫りつけるほど接 ハリモアはきわめてそっけなく応えた。 る者があるとはどうしても考えられない。い 「うまく説明できんのだ。これはあくまでわたしの勘だ。だが、開近できたとも考えられないのだ」 発局や軍の連中よりは勘が働くと自負しているんだがな」 「活性化していない時期があったということでしようか ? 」 ロイスは自分の指を何度も握りしめた。こちらから尋ねて得られ ハリモアは、難しい顔をした。 るような答えは何もなかろう。彼は黙って待っことにした。 「もっと大きな問題がある。今資料を検素してもらっているんだ 「つまり、こういうことなのだよ。あの刻文石は、こちらの調査に が、あの・が有史以来、この地球に接近したという記録は、お よれば、・の破片らしいのだ」 そらくないんだ」 ロイスは、はっと息をのんだ。 ロイスは目をつぶった。 「何ですって ? 」 「彗星のように、周期的に内惑星軌道に侵入するものは、グスタフ Ⅱマコーレイをはじめとして多数知られている。ところがこれはタ ハリモアは、この反応を予期していて、順序よく説明を始めた。 「最初、あの石は小惑星の破片か、その引力に捉えられた宇宙の漂イ。フが違う。忽然と現われ、まっしぐらに地球に向かってきてい 流物と発表された。まあ、軍の発表自体は今でも変わっていないる。これもコンビ = ーターの算定待ちだが、人類が、いや地球上の んだが、こちらの調査によると、あれは・との戦闘時に収容し生物が、この・に出会ったことは、おそらくない」 リモアは、予期してはいたものの、救 重苦しい沈黙が流れた。。ハ たものらしい。さらに、サンプルをうちの研究所にまわしたとき、 いのない結末に向けて話が転がりだしたのを残念に思った。 軍当局の目を盗んで、そこから何グラムか粉を削り取った強者がう 9-

8. SFマガジン 1983年5月号

・・と遭遇した軍人だよ」 ったのだ。・ ロイスは、眉の上に指を当てて考えていた。 ロイスの前にポンと写真の東が投げられた。彼は冷静さを失うま 「局長がなぜ、局内部でもまだ秘密になっている事項をわたしやウ つまり、 いとし、ことさらにゆっくりと写真を手に取ると、さっと目を通し イルスンに教えたのかわかったような気がしますね。 こういうことなのでしよう ? 局長はあの文字を、地球外生物の残こ。 したものだと思っている。しかし、連合の直轄地にはそれを専門に彼は片側の頬をびくりと動かした。 「どれがその軍人なのですか ? 」 研究できる機関がない。しかも資料は軍が容易に公開しないし、無 ロイスはトラン。フのカードを切るように、何度も同じ写真をめく、 理に調査をしようとすれば、調整局が浮き上がる。そこでわたした ち民間の研究者に、それとなくお下がりをくれたんだ」 り続けた。 「どれも同じ人物なのだよ」 調整局長は、皮肉つぼいロイスの口調にはいちいち反応せず、グ 。ハリモアは予め想定していた質疑応答を消化した。 ラスをもてあそびながら言った。 「ジム・スタフォード連合軍少尉。その写真はいずれも彼をオクラ 「きみが民間研究者のオルガナイザーとして、よくやってくれてい わけのわからない仕事ばかり押しホマで収容してから五〇時間以内に撮影したものだ」 るのには感謝の言葉もない。 ロイスは、何度も深く息をつきながら、写真をくり続けた。 つけているものな」 リモアは一旦言葉を切った。これから言うことに注意を向けろ写真は五枚あった。 一番上にのっていた写真が、最も人間の形に近かった。ただし、 という合図だ。 「わからないことのついでにきみに見てもらいたいものがあるんべッドの上にうずくまった背中には、羽がはえていた。それも、鳥 の翼のようなものではなく、脱皮した直後のセミのような、しっと りと濡れた半透明のものだった。 「はあ : : : 」 ロイスはすわりなおして、からだをゆったりと背もたれにあずけ次の写真は、顔の両側に昆虫のような巨大な複眼があり、膨張し ハリモアは左肘をつきながら、右手でデスクの抽き出しをあけた腹部からは吸盤が無数についた触手が何本も出ていた。 こ 0 哺乳類のものと思われる毛のはえた脚が肩からっき出ているもの 「これは最高機密だ。というのは、調整局がひとりの軍人を拉致しもあり、全身を銀色の鱗がおおっているものもあった。 たからだ。これは、連合の他の部門にも絶対に知られてはならな 「これは、・症 : : : ですか ? 」 ロイスは写真を手から落として尋ねた。 彼は封筒を取り出し、中から数葉の写真をつまみ出した。 「そうなのか、そうでないのか、はっきりはわからん」 「軍は実家に帰すだけで事足りると思った。ところがそうではなか 調整局長はあっさりと言った。

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メイ・ダグウッドが母親の柩に土をかけたとき、彼女は二〇歳に 「わかった。やってみよう。だが、なぜかいやな予感がするんだ。 なっていた。 いや、猛烈に興味はある。しかし、結論を得るのが怖い」 ダグウッド夫人の弁護士は、彼女に正当な遺産相続権が生じてい 「何を言ってる ? きみらしい慎重論だが、きみしか他にやる者が 、ない。人類的重要資料を前にして、権利も義務も放棄するつもりることを、さも幸運なことであるかのように告げた。メイは頬骨で 微笑してみせた。 土がかぶせられてしまうと、それは墓になった。そして、その過 「できればそうしたいところだ : : : 」 ロイスは、ウイルスンの肩をぼんと叩しナ 程を多くの見物人が見まもっていた。メイは、あやうく拍手をしか こ立けた。 「弱気になるな。もっと興奮しろ。われわれは今世紀最大の謎冫 ち向っていくんだそ」 叔母のクレイトン夫人は、メイが母親の葬儀のためにたった一日 ウイルスンは、細い顎をこくんと縦に動かした。 しか大学の試験期間をさかなかったことを非難した。その日は、既 「予算やスタッフの件は、おれが調整局とかけあってやる。研究室に特待資格を得ていて追試を受けずにすむ科目の試験日だった。メ イは、叔母がまだなにかと文句をぶつぶつ言っているうちに、彼女 のコンビューターをフル回転させて、すぐにでもとりかかってく の両頬にキスをして踵を返した。 れ。おれは、この岩石の採取状況をもう少し詳しく調査してみる」 ロイスはそう言い放っと、ドアを荒々しく開けて外に出ていっ メイは墓地の出口までに十六人の男女と抱擁を重ね、悔みと激励 の言葉を耳にした。葬儀に参列したこの人数はごく普通のもので、 いかにもあいつらしい積極的な態度彼女も予想はしていたものの、ほぼ全員が見知らぬ人間であり、異 ウイルスンは苦笑した。 ロ同音にパターンを繰り返すので、三人目からは上の空で雲を眺め ていた。 彼は写真を手に取ってもう一度見た。 ーパス ! 言葉の死体ー 見ているうちに、息が苦しくなった。彼はうめき声をあげながら 立ち上がると、窓の側へ行き、顔を出して外気を吸った。窓枠をつ彼女は親類の手を振り切って、ふらふらと歩きはじめた。からだ の中のものが、全部そこらにぶちまけられてしまったような気がす かむ手がぶるぶると震えた。 胸の鼓動や呼吸が正常に戻っても、手の震えはなかなか止まらなる。彼女は、風が吹いたら自分が飛ばされてしまうような感じがし かった。ウイルスンは、両手を自分のからだに押しつけた。 メイは、落葉の舞う道を駅の方向に歩いている。道しか見つめる ものがなくなったら、ふいに涙がこみあげてきた。 「苦しまなかったのが救いね」 4 こ 0 ラッキー コ 6

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のも、長になりたかったためなんだ。あいっと、あのみにくい産ましぶ彼は槍を離した。槍は、ゆっくりと本来の持ち主から去るのを 2 4 嫌がるように、彼を離れていった。すると、みんなが彼のまわりに ずめの女房は、世界を独り占めにしたいんだ ! 」 2 シュリックは言葉を返そうとしたが、短か尾が彼を野次り倒しわっと寄ってきた。彼らの体に圧されて窒息しそうだった。 た。彼は怒りの声を発し、刃物を両手で振りかざして、裏切り者に とびかかった。短か尾は、さっと跳びのいて、切っ先を避けた。き シュリックとウェゼルが押し込められた洞穴は、もともとふたり ゅうにみんなの姿が消え、シュリックは広場にひとりとり残されての住処だった。裏切者たちが戸口に退いていったときのふたりの状 いた。遠くのどこかから、小さな声で、ウェゼルが彼の名を呼ぶの態は、みじめだった。ウェゼルの傷がまたロを開け、シュリックの が聞こえた。目がくらくらして、彼は頭を振った。すると、目の前腕からは、血が流れ続けていた。だれかが槍をもぎとったが、穂先 は折れて傷の中に残っていたのだ。 から、赤つぼいもやが消えた。 彼のまわりを、ぐるりと、細身の槍を構えた投槍兵がとり巻いて洞穴の外では、短か尾が、長から奪った鋭利な刃を、ふりまわし いた。彼みずからが訓練し、彼らの特殊技術を育てあげてきたのだていた。彼が刃をふるうはしから、外の世界のふわふわした材料が 大きな塊になって切りとられた。そして、一同は大はしゃぎで、そ った。それが、いま 「シュリック ! 」ウェゼルの声だった。「戦っちゃだめ ! あなたれを、穴の入口にぎっしりと詰めこんでゆくのだった。 が殺されたら。わたしはひとりばっちになってしまう。わたしは世「″終わり″のあとで出してやるからな ! 」だれかがどなった。冷 そしたやかしの野次がとんだ。それから、「どっちが先に相手を食うだろ 界を失いたくない。むこうの好きなようにさせなさいー うなあ」という声がした。 ら、わたしたちふたりは、終わりを生きのびられるわ」 「大丈夫よ」ウェゼルはやさしく言った。「最後に笑うのは、こっ ウェゼルの言葉で、群集の間にくすくす笑いが起った。 「ふたりで、″終わり″を生きのびるんだとよ ! 大耳と大耳の仲ちよ」 間が死んだように、ふたりとも死ぬんだぞ ! 」 「たぶんな。でも : : : みんなが : : : おれの部族が : それに、お 「その刃物をよこせ」短か尾が言った。 まえは子どもが産めない。巨人の勝ちだー、ーー」 「渡してやればいいわ」ウェゼルが叫んだ。「終わりのあとで取り 力やがてまた彼女の声が聞こえた。シ ウェゼルは黙りこんだ。・ : ュリックには、彼女の胸のうちがわかっていた。世界支配の壮大な 戻せるんだから ! 」 シュリックはためらった。相手は合図をした。投げ槍の一本がシ夢のすべてはついえてーーーふたりとも、ろくに指を動かす隙間もな ュリックの腕の肉づきのよいところに突きささった。ウェゼルのしい狭い窮屈な場所に、押しこめられるさまになったのだ。 それつきり、牢の外のみんなの声を聞くことができなかった。シ ん・ほうづよい説得がなかったら、彼は相手にとびかかっていって、 ただの一鼓動も経たないうちに、おだぶっとなっていたろう。しぶュリックは、巨人たちがもう行動に移ったのだろうか、と考えた。