レイク - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1983年6月号
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1. SFマガジン 1983年6月号

あの、はねつかえりが、 ろしく、うろうろと歩き回り始めた。 になる。 「あら。覚えてて下さったの。うれしいわ。〈エリノア〉では、ずどうやっておれたちの居所をつきとめたのかは知らないが、とにか 3 3 いぶんお世話になったわねえ、レイク。今のは、あたしからの、ほ く、これは一大事だ。あんなぶっそうな女と同じ町に、いや、同じ 惑星上にいることすら、災いのもとだ。まったく、あいつってば : んの心ばかりの。フレゼント。気に入っていただけた ? うふワ」 受話器の向うで、ジェーンが艶然と微笑む様子が、手にとるよう だった。レイクは、背すじをはいあがってくる寒気に、ぞくりと体レイクは、髪の毛をかきむしりながら叫んだ。 をふるわせた。不吉な予感がした。 「厄病神ジェーンだぜ ! 」 「ど、どういうつもりなんだ ? 」 その時、ドアに軽いノックの音がした。 「さあ。どういうつもりかしら ? 」 レイクは。ハワーガンを握り直すと、慎重な足どりで、ドアに近づ 猫が鼠をいたぶるように、ジェーンは楽しげな声で応えた。 いた。壁に背中をつけて、押し殺した声で言った。 「オーケイ、ジェーン。話し合おうじゃないか。君は何か誤解して「合言葉は : るんだ。今どこにいる ? 会って話し合えば、きっとわかる : : : 」 ドアの向うから、相棒ジム・ケースの、のんびりした声が聞こえ 「なにが、わかるっていうの ? レイク。あたしの三十五万クレジてきた。 ットを持ち逃げした上、あたしを〈エリノア〉に置き去りにしたっ 「なーに言ってんだ、レイク。合言葉なんて一度も決めたことない てこと ? 」 くせに。ふざけてないで、さっさとここ開けろよ」 ジェーンの口調が、とたんに冷たいものに変わった。レイクはあ レイクは、ほっと肩の力を抜き、ドアを開けた。 わてて口ごもった。 ジムはレイクの顔を見るなり、満面に喜色をたたえて、いきなり 「あ、いや。だから、それは、つまり : : : 」 喋り始めた。 ガッチャーン ! 「準備完了だ、レイク。輸送経路がわかった。乗り換え用の車の手 受話器を叩きつける音が、レイクの鼓膜をつぎさした。耳がキー配もすんだ。それから、こいつが : : : 」 ンと鳴った。接続の切れた受話器を、レイクは渋い顔で見おろし と、ジムはポケットから、鉛筆くらいの大さの金属棒を取り出し て、 「現金輸送車に仕掛ける、例の装置だ。警備会社のガレージっての それが、レイクの正直な感想だった。 が、どれくらいお粗末なガードシステムを使ってるか、驚くほどだ むちゃくちゃ、やばい ぜ。お宅なら、忍び込むのは簡単だ。現金を積んでない現金輸送車 レイクは受話器を戻すと、真っ暗い部屋の中を、動物園のくまよってのは、要するに、ただのトラックだからな。誰も注意してない カラミティ

2. SFマガジン 1983年6月号

に、羽毛が雪のように音もなくふりそそいだ。銃弾を浴び、針金一 っちゃい鉛の弾を、ご丁寧にも、おれの部屋に配達して下さってい る : : : 、要するに、おれはさっきから射的のマトになってたんだ。本でかろうじてぶら下がっているナイトラン。フの残骸が、壁際でゆ らゆらと揺れていた。 ははは」 レイクは動かなかった。 レイクは乾いた声で笑った。そして叫んだ。 自分自身の鼓動の音だけが空ろに響いた。ーー銃声が全く聞こえ 「冗談じゃねえ ! 」 なかったところをみると、かなりの距離から射ったのだろう。おそ 急にあわてふためいて、床に身を伏せる。 らく、四、五百メートル。横風もけっこうあるし、尋常の腕ではな ( ばりん : : : ) 。ットにめりこん 赤外線スコー。フを使っているとしたら、灯りを消しただけで その上窓を、銃弾がびゅんと通りすぎ、カーへ は、まだまだ油断できなかった。 五分間がじりじりとすぎていった。 レイクは、そうっと手を伸ばして、枕の下をさぐった。指先に、 レイクは、ほんのわずかずつ、ドアの方へ移動しはじめた。 ・ハワーガンの銃把が触れる。 その時、 ( ばりん : ・ : ・ ) 枕がはねた。激しい着弾のショックで、中につまっていた羽毛 : 電話のベルが、たまげるほどの大きな音で鳴りだした。レイクは が、ぶわ ~ 、・っと天井近くまで、まいあがった。レイクは夢中で。ハ ギクリと動きを止めた。心臓が、喉元までせりあがった。 ワーガンをつかむと、床の上をごろごろところがった。 ベルは執拗に鳴り続けた。 ( ばりん : : : ) レイクは芋虫のように、ずりずりとはいずって、受話器を取りあ 銃弾はレイクを追うように、次々と射ちこまれた。そのたびに、 げた。ヴォイス・オンリーで、映像は出ていない。しかし、その声 部屋の調度類に穴があき、見るも無惨に破壊されていった。 を聞いたとたん、レイクには相手が誰なのか、すぐにわかった。 「くぬやろ ! 」 レイクは歯をくいしばり、天井の・に向けて、。 ( ワーガンの声の主は、ふくみ笑いをしながら、言った。 「さあ、レイク。やっと見つけたわよ」 トリガーをひきしぼった。 青白いスパークがとび散り、螢光ガラスの破片が、ばらばらと頭 上に落ちてくる。 2 追ってきた女 室内がまっ暗になり、同時に、射撃もやんだ。 さっきまでの騒ぎが、まるで嘘だったように、部屋がしんと静ま「ジェ、ジェーン : レイクがひきつった声で叫んだ。思わず受話器をとりおとしそう り返った。べたっと床に伏せて、目だけを光らせているレイクの上 3 引

3. SFマガジン 1983年6月号

ゃないんだから」 不意に、レイクが立ち停まった。 つんと、おすましして、ジェーンが言った。 茫然とした表情が、その顔に浮かぶ。 ガレージの最奥部に、装甲車に似た現金輸送車が、二台並んで停「あんたたちを見つけたのは、単なるぐーぜん。あのホテルの警備 も、うちの会社でやってるのよ」 まっていた。 「なんてこったい」 「二台 : ・ 半開きになったレイクの唇の間から、ほとんど声にならない声レイクは思わず天を仰いだ。 「さあ、レイク」 が、洩れ出た。 さり気なく銃口を動かしながら、ジェーンが言った。 二台あるなんて : 「あなたを、どうすればいいのかしらねえ ? 」 「インチキだー」 レイクの眼底で、ジェーンの天使のような笑顔が、ぐるぐる回り レイクは輸送車の前で、立ちすくんでいた。 始めた。足元が、がらがらと崩れていくようだった。 その時 1 ホールに出ちゃうから」 「右側の車よ。左側のは、今日オー ゼンマイのこわれた人形みたいな感じで、レイクがぎこちなく首 「遅せえなあ」 を回した。目が大きく見開かれる。 ジムは、待ち合わせ場所に停めた車のそばで、腕時計をしきりと O の制服に身を固めた、ジェーン・・フラックモアが、大口径気にしていた。 そろそろ街に現われ始めた通行人が、ジロジロと見ていくので、 のショットガンを構えて立っていた。 きまり悪くてしようがないのだ。 「こんなとこで会うなんて、意外ねえ、レイク ? 」 「なにやってんだ、レイクのやっ」 いたずらつぼく徴笑んだ。 ブツ・フッ言いながら、ジムは、また腕時計をのそきこんだ。 「ま、まさか : : : 」 若い 0 *-Äの三人連れが、道端で停まっている、でつかい霊柩車 不吉な予感がした。 と、そのそばで、イライラしている大男を、不思議そうに見て通り 「き、君も、今日のアストロ・ポールを狙って : すぎていった。 「うふ D 」 ジムは気にしないふりをしながら、ひとり呟いた。 「そうか。それで、おれたちを追っぱらおうとしたんだな。だけ 「しつかし、おせえなあ」 ど、どうしておれたちがシカゴに来てることがわかったんだ ? 」 「自惚れないでね、レイク。なにも、あんたたちを追って来たんし 345

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レイクは、両手をジェスチュアたつぶりにふり回しながら、言っ た。ポケットから小銭をつかみ出し、掌の上で数えてみる。 「これじゃ、レンタカーも借りれやしない」 「じゃあ、今夜は知るチャンスだぜ。数えてみるといし じゃ、一台のこらず集まってきてるにちがいないからな。 なさけなさそーな表情だ。 「まあ、当面の問題を片づけてから、対策をねるしかないだろう」ら、まず一台 ! 」 ジムが言った。レイクは小銭から顔をあげて、訊き返した。 けたたましいサイレンの音をわめかせながら、パトカーが裏通り 「当面の問題 ? 」 につつこんできた。建物の角にボディがこすれて、夜目にも鮮やか な火花を散らす。 「このカードの裏側、読んでみたかい ? 」 ジムが、カードをひらひらさせながら訊ねた。レイクは、きよと「さあ、どうしますかね」 おそろしく緊張 んとして、首をふった。 ジムが、面白がっているような声で言った。 このあたりは、もうすぐ警官の海になるしている証拠だった。レイクもまた、同じような口調で、 「追伸が書いてある。 そうだ」 「車がない以上、方法はひとっしかないだろうな。ーーー鬼さんこち レイクは、ジムの手からカードをひったくった。には、そのら作戦」 レイクは、ニャッと笑って、片目を閉じながら、 情報と共に、 「だな」 『早く逃げた方がいいわよ』 ジムが、ニャリと笑ってうなずいた。 とあった。ジェーンの皮肉つぼい微笑が、目に浮かぶようだっ こ 0 道の反対側からも 、パトカーが次々と現われる。へ。 二人をとらえた。 「走れつ ! 」 レイクは頭に血をの・ほらせて、カードをこなごなに引きちぎつ レイクが叫び、二人は狭い路地に夢中でかけこんだ。路地の前 に、無数の。ハトカーが、ひしめき合うようにして停車した。要員搬 「〈エリノア〉のお返しってわけか。たいした女だぜ」 送車も数台まじっていた。 ジムが言った。 サイレンの音が、急速に接近してきた。それも、おびただしい数そのプロック一帯は、たちまち警官たちの大群で、埋めつくさ れ、レイクたちは完全に包囲されてしまった。 の蝟集を感じさせる、凶々しい響きだった。 レイクが口をゆがめて言った。 「ジム。ニューシカゴに、どれくらいパトカーがあるか知ってるか ドライトか 。あの様子 336

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「あそこです。あの茶色いビルの : : : 」 ジムが、いかにも何気なさそうなそぶりで、肩をすくめる。レイ 「それつ」 クは吹き出す寸前の顔をして、言った。 どどどどどっ、というような擬音がびったりくるほどの勢いで、 「お宅のズボンだけどな、ジム、尻のとこがやぶれてるぜ」 いや、正確には、二人をのそ「レイク ! 」 全員がいっせいに進路をとった。 く全員が、だ。その内の一人は、たしかに、さっきまで道案内を務 ジムが思わず大声を出した。レイクは立ちあがって言った。 めていた、あの警官だった。 「さあ、行こうぜ、ジム。これから、もうひと芝居打たなきゃなら 「走れ走れ走れえく ~ / つ。今度こそとつつかまえるんだ ! 」 フクダ警部の声を遠くに聞きながら、レイクとジムの二人の偽警「気が重いぜ」 「堂々としてりや大丈夫さ。だけど、 官は、そっと列を離れて、一目散に反対方向へと逃げ出した。 「旦那」 けは、見られるんじゃないそ」 走りながらレイクが呼びかけた。 「ハレるからか ? 」 「なんだ」 「いや。みつともないからさ」 「こんな時に、こんなことを言うのは、どうかと思うんだが : : : 」 「レーイク ! 」 「だったら、言わなきゃい レイクはゲラゲラ笑い出した。そのまま表通りにかけ出してい 「だけど気になるんだ」 く。ジムも、あわててあとを追った。 「走りながら喋ってると、舌をかむそ、レイク。 あ痛つ」 検問の警官たちがふり向いた。レイクは、とたんに表情をとりつ ジムが顔をしかめた。舌をかんだのだ。 くろった。 しばらく二人は無言で走り続けた。前方に検問が見えてきた。シ 「とまれ ! どうしたんだ」 カゴ市警の大包囲網だ。 レイクは、肩で息をしながら、悲痛な声をしぼり出して答えた。 二人は物影から、様子をうかがった。不意にジムが口を開いた。 「フクダ警部が射たれた ! 」 「レイク」 「なんだと」 「なんだ」 警官たちが、ざわっいた。 「さっき何を言おうとしてたんだ ? 」 「犯人たちは、この先の廃ビルにたてこもっている。。 ( トカーを貸 レイクが、おもしろがってるような視線を向けた。 してくれ。の応援を呼ぶんだ。州兵にも出動を要請する。 「聞きたいかい」 長官と州知事にも連絡しなきゃならんし、おまけに、こいつのかみ 「いや、まあ、なんていうか : ちょっと、な」 さんが産気づいてる。急いでるんだ」 ん」 いいか、ジム。その後ろ姿だ 342

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ってわけさ。 それで、明日の段取りだが : : : 」 「ジェーンが、来た」 「とりやめだ」 二人の心理的背景に、『鬱』という文字がどーんと大写しになっ こ 0 いきなり、レイクが言った。口元に笑いを凍りつかせたまま、ジ ムが訊き返した。 ジムはどこか空ろな視線を、荒れはてた室内にさまよわせ、窓ガ ラスにあいた、十数個の弾痕を認めた。ジムの脳裏に、自分自身の 「なんだって ? 」 「とりやめだって言ったんだよ、ジム。明日の襲撃計画は、御破算射殺体のイメージがオー ーラツ。フした。かすれ声で囁く。 だ。すぐに、ホテルを出るんだ」 「どうする ? 」 「おいおい、レイク。そいつはいっこ、、・ とういう冗談なんだ ? 」 「逃げよう」 レイクは無言で、ジムを部屋の中に引っぱりこんだ。うす闇の中 レイクが即座に答えた。 に、めちやめちゃになった室内の様子が、・ほんやりと浮かんでい 「この町から ? 」 る。ジムの顎が、だらりと垂れ下がった。 「この星からさ」 「これが冗談だと思うかい ジム ? 」 「ちょっと待てよ、レイク。 いくらなんでもそいつは無茶だぜ。せ 「レイク : : : 」 つかく準備した仕事の方はどうなるんだ ? 」 半ば茫然とジムがふり向いて言った。 「お宅、この部屋で何をやってたんだ ? 牛と相撲でもとってたの半ばため息まじりの声で、レイクが静かに言った。 か ? 」 「金と命と、どっちが大事だ ? 」 「まあ、似たようなもんだな。実際は牛じゃなくて、馬が相手だっ うす暗い部屋の中央で、二人はしばし無言で見つめ合った。唐突 たが」 にジムが口を開いた。 「馬って : 「仔牛のステーキ」 「じゃしゃ馬さ」 「そうさ」 「『ヴィリエ ・ド・リラダン』の鴨のオレンジ煮」 ジムの頬が、びくっとひきつった。 「あれは絶品だったな」 「おい、まさか、レイク : : : 」 レイクがうなずいた。ジムは熱つぼく続けた。 パテ・ド・フォアグラ。 レイクは、何か重い定めを背負った殉教者さながらの、厳粛な面「キャヴィアをたっふりのせたトースト。 っ 0 持ちで、ジムの瞳をまっすぐに見つめたまま、ゆっくりとうなずい舌平目のムニエル・。フロヴァンス風。ベキンダック。うすらのワイ 3 た。そして、とどめをさすような感じで言った。 ン蒸し、マクドナルドのハンく

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今度は、奥の壁にかかっていた、安つぼい複製画が、ガシャンと 3 3 床に落っこちた。額縁のガラスがこなごなになって、べッドの上に 散らばった。 「な、なん : ・ シャン・ハングラスの柄が折れるような、小さな乾いた音だった。 レイクは、はじかれたようにソフアから腰を浮かせ、きよろきょ 安ホテルの一室で、湯あがりのビールを愉しんでいたレイクは、 ろとあたりを見回した。なにがどうなっているのか、さつばりわか 音のした方を、チラリとふり返った。 らなかったが、とにかく、この部屋の中で何か異常な事が起こって 窓の外には、ニューシカゴの夜景が美しく広がっているだけだ。 いるのは確かだった。 林立する高層ビルの窓の灯りが、闇を背景に無数にきらめいてい る。 左手の罐ビールが、激しい衝撃と共に吹っとばされ、レイクの顔 空耳かな ? レイクは軽く肩をすくめて、今時珍らしい白黒のポータ・フルを泡だらけにした。 に、視線を戻した。横縞の / イズが走る画面の中で、敵チーム レイクは反射的に、窓の方をふり返った。 ックが、三十ャードを一 はじめの時は気づかなかったが、ぶ厚い強化ガラスに、点々と白 『テキサス・。ハイレーツ』のクオーター。ハ い四つの穴があいているのが見えた。 気にゲインして、タッチダウンに成功していた。逆転だ。ぶつこわ 「穴があいてる : : : 」 れかけたスビーカーから、ひずんだ喊声がとび出してくる。 「ふん」 レイクは、淡々とした口調で、事実をありのままに表現した。そ レイクが鼻を鳴らした。手にしたビールの罐を、投げつけてやりれから、不意に眉を寄せると、首をかしげながら、言った。 たい心境だった。 「だけど、なんで穴なんかあいてるんだ ? 」 とたんに、 。、リノ・ とたんに、 e セットが、ばんといって爆発した。残骸から白い 煙が立ちのぼった。 窓ガラスに、もう一つ白い点が増え、テー・フルの上の花瓶が、く レイクは二、三度、目をパチ・ ( チさせ、手の中の罐ビールと、こ だけ散った。 われたセットを、交互に見つめた。 「なるほど」 レイクは、妙に冷静にうなずいた。 「まだ投げてないのに : ・ レイクは、つぶやいた。 「つまり、こういうことだ。どっかの誰かが、窓の外から熱くてち

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レイクは、ニャッと笑って首を振った。 「手がかりなら、あるさ」 「なんだって ? 」 「ジム。まだ例のアレ、持ってるか ? 」 シカゴ・セキュリティ・サービスは、市内警備会社の最大手だ。 もう、いらなくなっちまったけどな」 「ああ。ここに : レイクは、その地下ガレージにいた。 ジムは、ポケットから、あの時の金属棒を取り出した。それを、 シカゴ市警の検問手前で、パトカーと制服を捨て、ジムとは、そ レイクがひょいと奪いとる。 レイクは A 」い、つ A 」 こで別れた。ジムは新しい車の確保に向かい、 「これが、手がかりさ」 ジムは、とうとう車を停めてしまった。体ごとレイクに向き直っ朝早いミルク屋のトラックの屋根に便乗して、市内までやってきた のである。 て訊ねる。 レイクは、ガレージの入口で、少しの間、様子をうかがった。明 「どういうことだ ? 」 「いいか、ジム。おれたちは、なにもこっちからジェーンを探す必るくて広いガレージに、車輛は三分の一程度入っているだけだ。小 異常反 要はないんだ。その逆さ。ジェーンにおれたちを探させればいいん型のスキャナー・グラスで、ひとわたり見回してみる。 応ナシ。 これを使ってね」 「これで最大手かね」 ジムは、びくっと眉をあげた。わかりかけてきたらしい レイクは、肩をすくめた。 「ぼくたちは、これから現金輸送車を襲いにいきます。明日の朝刊 ガレージの出入口にいる、管理人の爺さんは居眠りしてるし、あ に、一面トツ。フで出るでしよう。ジェーンがそれを見ます。さあ とは、天井のところどころに付いている、閉回路だが、これは て、彼女は一体どうするでしよう ? 」 「でかい餌だな。 だが、食いついてこなかったらどうする」 エレクトロニクスの。フロ、ジム・〈マイクロハンド〉・ケースお手製 「おいおい、ジム」 の、で白痴になっている。を作動させた瞬間の映像信 レイクがニャニヤ笑った。 号だけが、回路をぐるぐる回り続けているはずだった。 「それならば、こっちも願ったりかなったりじゃないか。ディスト レイクは、周囲の気配をさぐり、ガレージ内に足をふみ入れた。 ーション・コイルなんざ、何十本だって買える。なにしろ、年に一影から影へと走るような真似はしない。足早に、目的の現金輸送車 まで一直線に近づいていく。 回のアストロ・ポールだ」 し J ジムも、大きな笑顔を作って言った。 「オーケイ。そうと決まれば : : : 」 ックスビンターンを鮮やかに 4 ジムはギアをリ・ハー スに入れて、 3 決め、ニ、ーシカゴに向けて一気に加速した。

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レイクは、ジムが茫然と見つめている場所に、目をやった。夜露 「オーケイ。決まったようだな」 ーキングメーターの灯りが、淡く反射してい 3 に濡れた石畳みに、 レイクが一一一口った。 二人は、早速にそのホテルを引き払うことにした。幸い、他の部る。 こんな時「いったい、なにがないってんだ、ジム」 屋の客は、寝静まっていて、騒ぎに気づいた様子はない。 間だ。フロントも無人だったが、レイクはちゃんと正規の料金を「車だ : : : 」 途方にくれたような表情で、ジムが呟いた。 ( チッ。フまで含めて ) 置いていくのを、忘れなかった。 「たしかに、 ここに置いておいたのに」 「妙なところに律義なんだよな、お宅は」 ジムが一一一一口った。 「なんだって」 「タダ逃げは、悪いことだもんな」 レイクは愕然と、ジムの横顔を見あげた。 レイクは、大真面目に答えた。 シャレや冗談じゃなく、本気「盗まれちまった」 でそう思っているのだ。そのかわり、銀行や現金輸送車を襲うこと ジムは、信じられないという風に、カなく首をふりながら言っ は、ちっとも悪いことだとは思っていないのだから、不思議な道徳こ。 「おれたちの車が : : : 」 感覚をしていると言えるだろう。 「本当に、ここなのか、ジム。どこか別の場所と勘ちがいしてるん 「そっちはどうだ ? 」 「人影はないようだな」 じゃないだろうな」 二人は、目くばせを交し合って、ホテルの裏口から、素早く駆け「まちがいない。あの壁の落書きを、はっきり覚えてる」 ジムは、カラース・フレーで汚されたレンガ塀を指さした。あらゆ 出した。ビルとビルの間の、暗い裏通りを通り抜ける。二人ともラ ブオーレ々 . ーワード る種類の四文字言葉が書きなぐられている。 ーソールの靴をはいているから、足音はほとんどしない。 いくつ目かの角を曲がったところで、先頭を走っていたジムが、 「くそ ! 」 いきなり立ち止まった。勢いあまったレイクが、ジムの背中にぶつ さっそく、レイクがその内の一つを口にした。 かって、文句を言った。 「なんて世の中だ ! 油断もすきもあったもんじゃない。乱れきっ 「痛えなあ。どうしたってんだよ、旦那」 とるぜ、ったく ! 」 でくのぼうみたいにつっ立っているジムが、どこからか空気の洩「おい、ちょっと」 れているような声で言った。 さかんに憤慨しているレイクを制して、ジムはパーキングメータ 1 に顔を近づけた。 「ない : 「なんだ、こりや」

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ウ レイクは一気にまくしたてた。あきらかに動揺しているらしいそ圏を出たところで、とつつかまるのがオチだ。第一、〈メリー・ の警官は、つりこまれたように、うなずいて言った。 イドウ〉の隠し場所まで、ここから直線でもゆうに、七百キロは離 れてるからな、まともな車なししや、そこまでたどりつけるかどう 「わかった」 かすら、あやしいってもんだ」 レイクたちは、包囲網からの脱出に成功した。 「手づまりだな」 9 ホーイ・ミーツ・カ】レ 「お手あげだ」 ジムがステアリングから両手を離して、・ハンザイをしてみせた。 道路にペイントされた白いマーカーが、流れるように、車体の下 夜が明けはじめていた。 道路には、車一台走っていない。大都会ニーシカゴが、この時にすいこまれていく。その様子を、襟に顎をうずめ、じっと見つめ ていたレイクが、突然、がばと身を起こして叫んだ。 間にだけ見せる、安息に満ちた素顔だった。 十車線道路のど真ン中を、レイクたちは無言で、パトカーを走ら「これだ ! 」 せていた。 「どれだ ? 」 「カラミテ 道は郊外へと伸びていたが、二人には行くあても何もなかった。 「ふう : : : 」 「まあ、たしかに、厄病神だってことは認めるがね。それがどうし 助手席のレイクが、これでもう数十ペんめのため息を吐き出したっていうんだ ? 」 こ 0 「おれたちに今必要なものは何だ、ジム ? 」 「疲れたのか ? 」 「多くは望まないね。車とディストーション・コイル。それに少々 ステアリングを握っているジムが訊ねた。 のお金と、わずかばかりの希望ってとこかな」 「ああ。それもあるがな : : : 」 「車とコイル。二つとも、ジェーンが握っている。ちがうか ? 」 、っちょうサイレンでも鳴らすか ? 」 「景気づけに、し 「いいや。それにお宅の言いたいことも、よくわかるよ。つまり、 「どうするかな」 ジェ 1 ンを捕えようっていうんだろ ? 」 レイクは呟いた。もちろんサイレンのことなんかじゃない。 これ「ああ。そして、お尻を百回ばかし、ひつばたいてやるんだ。単純 明快だろ ? 」 から、どうするかというのだ。 「たしかにね。だけど、どうやって ? ワシントンポストのたずね 、冫、し、刀 / し もうそろそ 「いつまでも、この車に乗ってるわナこよ 3 人欄に、広告でも出すつもりか ? 手がかりは何ひとつないんだ 4 ろ、トリックがばれてるころだからな」 「船に帰ったところで、ディス トーション・コイルなしじゃ、大気そ」 あし