二人 - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1983年7月号
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1. SFマガジン 1983年7月号

こ 0 ジェーンは、背中あわせのレイクに、囁いた。 「市警の応援部隊が、たった今、到着したわ。入場門は全部封鎖さ 警官たちの背後にあった鉄格子の門扉が、はじけとんだ。」 れて、もうすぐここにも押し寄せてくるはずよ」 「なんてこった。霊柩車だそ」 「そいつは、まずいな」 地面にひざをついたままで、フクダ警部が呟いた。 「ますくしたのは誰よ ! 」 霊柩車は、激しくテールをふりながら、警官たちを蹴ちらして、 「反省してるよ。で、どうすればいいんだ」 レイクたちの前に横向きに急停車した。 「あんたの正面に、鉄格子でふさがれてるゲートが見えるでしよ」 「早く ! 」 「ああ」 ジムが運転席から怒鳴った。二人がドアにとびついた。車が発進 「グラウンド補修車用の出入口よ。地下を通って、裏手のガレージした。 まで続いてるわ。あたしが合図したら、あそこまでつつ走るのよ。 「撃て ! 」 フクダ警部が叫んだ。 「わかった」 走り去る霊柩車めがけて、警官たちがいっせいに発砲した。 「そいつらを逃がすな ! 」 リアゲートの窓ガラスがくだけ散り、ボディに点々と弾痕が刻ま それまで、どうにも手が出せすにいたフクダ警部が、コートを横れた。飛び交う火線の中を、霊柩車は、あっという間に地下道へと 切ってかけつけてきた。 姿を消した。 ジェーンは、人垣の間から、警部の足元めがけて、ショットガン 「くそっ ! 」 をぶっ放した。警部がひっくり返った。選手たちが、あわてて身を警部が銃を地面に叩きつけた。 伏せた。 「おけがはありませんでしたか、警部」 「今よ ! 」 ワトキンス巡査部長が、かけよってきて言った。 二人は、選手たちの体をふんづけて、走り出した。 「ない ! 」 しかし、今一歩のところで間にあわなかった。 フクダ警部が、かみつくように言った。コートについた砂を、じ スタンドに現われた警官たちが、続々とグラウンドにとびおり、 やけんに払いながら、「表の連中に連絡しろ ! やつらは黒塗りの 二人の行手をさえぎったのだ。二人は立ち止まって、まわりを見回霊柩車で逃げた。すぐに追うんだ ! 」 した。どこもかしこも警官でいつばいだった。完全に包囲されてい 「はつ。 しかし、霊柩車ですって ? 」 た。レイクが、ギリッと奥歯をかみしめた。次の瞬間 「あいつらだったんだよ ! 《キング》ネロの霊柩車をかつばらいや どーん、という腹にひびく大音響が、スタジアム中に轟きわたっ がった馬鹿は ! 」 2

2. SFマガジン 1983年7月号

0 0 穿 受けた警察が、どんなに急いでやって来たとしても、十五 分やそこらはかかるはずだった。 手まわしがよすぎ る。レイクは、混乱しきった頭で考えた。 その時だ。 まるで悪魔に囁かれたみたいに、フクダ警部が、ほん とに何気なく、ひょいとこっちをふり返ったのだ。二人の 視線が、三十メートルほどの距離をおいて、・ハッチリ合っ 驚いたのは、フクダ警部も同様だろう。しばらくは、二 人ともその場に凝然と立ちすくんだまま、ポカンと口をあ けてお互いを見つめあっていた。息をすることさえも忘れ ていた。 ちょうどロのあたりへ持ってきていた、フクダ警部の指 先から、煙草がポロリと落ちた。 「きっ : ・ : ・貴様は : : : 」 異様にしわがれた声が、警部の口から洩れた。レイクの 頭の中で、赤ランプが点減した。ーー逃げろ , レイクは、くるりと背中を向けると、スタジアムの中 へ、一目散にかけこんだ。 「待て、この野郎 ! 」 フクダ警部は、コート の下から。ハワーガンを引っこぬく と、ゲートめがけて二、三発ぶつばなした。 「いたそ ! やつだ ! ワトキンスⅡ」 大声で叫ぶのと同時に、フクダ警部もかけ出した。 スタジアムの警備主任に、事情を訊いていたワトキンス 巡査部長が、事務所をとび出してきた時には、二人の姿 こ 0

3. SFマガジン 1983年7月号

は、サルガッソーにふさわしくない。 力 / ノーには、相かわらずかすかな空電雑音ーー人間には何の 「いやな感じだ」 ことかわからぬ星々の囁きしか入らなかった。 方向を変えながら、タキオはつぶやいた。 船腹には、何列かの舷窓が並んでいた。あたりの暗さのために、 「人間がこわいのか ? 」 そこからもれる光はまばゆく見えたが、それは青白く、暖かさが感「人間がいないことが、こわいんだ」 じられなかった。 「それには慣れてる筈じゃないか」 「船たーーー」 「そのつもりだった」 まるで、ここ数年の間、船など一隻も見たことがないというよう百メートル級の宇宙船の船腹が、視野いつばいにふくれあがって に、タキオはつぶやいた。 来た。『一九二五ネルソン』という船名が、小さなオレンジ色の 「未来人の船なのか ? 」 発光体でふちどられている。ぼんやりと赤紫色に見える船体には、 と、僕は、その方面では僕よりマシな知識を持っている筈のタキ損傷を受けた形跡はなかった。 オに尋ねた。僕たちの声は、なぜか、おびえたような低いささやき「止まれ」 になっていた。 かすれた声で、タキオが命令した。僕はびくっとして、つばをの 「さあーー」 みこみ、前方噴射をかけた。」 、船名不詳の停止船。返事をしてくれーーー」 「どうした ? 」 しゃべりながら、僕は送信器の出力を上げ、周波数を救難用の二 「予感だ。この船は、撃たれていない」 二二にセットした。 僕は鼻を鳴らした。 「こちら、漂流中の地球人二名。救助もとむ。どうぞ」 「そこが、気に入らない」 僕はその呼びかけを二度繰りかえし、周波数を変えてさらに三度と、タキオは続けた。 試みた。 「つまり、例の仮説上の未来人じゃないのか。味方の船なら、砲搭 「こら、あんた、あんただよ。返事をしろ。口がないのか ? 」 も攻撃しない」 返事はなかった。 「それにしても、おれたちを見たら、仮説上の未来人は、何か行動 「幽霊船だ」 を起こす筈だ」 と、タキオは陰気な裁定をドす。 「起こしつつあるのかも知れない。あるいは、眠っているか、誰も いないか」 「結論を出すのは早い。もっとそばへ寄ってみよう」 僕は、コントローラーを握り、コンマ五秒ほど、スラスターをふ「死んでいるのか、だ。こんなところに、一隻だけ生きた船がころ ー 02

4. SFマガジン 1983年7月号

三人の人物が古・ほけた家へ続く小径に姿を現わしたのは、うららざる借家人どもを追い出すつもりなのだから、あのように自信たっ かな五月の明け方が訪れた頃だった。パジャマ姿で二階の窓から見ぶりな様子をしていられては困るのだ。二階の窓ごしにうかがった おろしていたオリヴァ】 ・ウイルスンは、腹立ちを始めとする様々限りでは、どうやら見通しはかなり暗そうだ。 な感情に心をかき乱された。来てはほしくない相手がついに来たわ先頭の人物は男だった。背が高くて肌は浅黒く、自分のありとあ らゆる面に完全な自信を抱いている独特な尊大さが、服の着こなし にもからだの動きにもみなぎっている。そのあとから、二人の女が 彼らは外国人だった。オリヴァーにはその程度しかわかっていな 。全員がサンシスコという風変わりな姓を名乗り、賃貸契約書に笑いながら歩いてきた。軽やかな感じの良い声で、ともに異国情緒 クのある美しい顔立ちをしていたが、何よりもまず、オリヴァーはむ 丸っこい文字で殴り書きされたファースト・ネイムはオメリー レフ、クリアとなっていたものの、こうして実物をまのあたりにしのなかでこう叫んだ。こいつは金がかかってるそ ! ても、誰が誰なのやら、とても見分けはつかなかった。名前からは信じがたいまでに非のうちどころのない衣服の隅々にまで、完璧 男女の区別もさだかではないし、予想をいくぶん越えるほど国籍不なものが自然と漂わせるあの風情が感じられるだけではない。富ん でいること自体もはや何の意味もなさない段階へ達した富が、その 明な連中が現われたものだ。 タクシーの運転手を先に立てて小径を歩いてくる彼らを見守るう威力を発揮しているのだ。高価な靴の下の大地などは気まぐれしだ いでどうにでも動かせる、といわんばかりのこうした自信のほど ちに、オリヴァーはちょっぴり気勢をそがれた。できれば歓迎され く巻末ノウ土ラ > 〃 ge S so 〃 ↓れ、・ 刀 5

5. SFマガジン 1983年7月号

「それは認めるわ。だけど、ずいぶん危ない橋を渡ることになるわ言った : 「例の物を、持ってきてくれない ? 」 「この世に、安全確実な強盗なんてありえないよ」 レイクは、無一言で立ちあがると、霊柩車から、荷物をとり出して こしカたまりか きた。小さな鞄の中に、にぎりこぶしほどの、黒っ。ま、 「ところがあるのよ」 五つ入っていた。粘土をにぎりかためたみたいな物体だった。 「なんだって ? 」 ジムはひとつ手にとって、首をひねった。 レイクが顔をあげた。二人の目が合った。ジェーンは妙にうろた 「なんなんだ、こりや」 えて、レイクの碁盤目顔から視線をそらし、もつばらジムに向かっ 「わからない ? 水性の成型発泡スチロールよ。会社のレスキュー て喋った。 「その発煙弾は使わせてもらうわ。だけど、あたしの狙いは、現金隊が、水難の救命具なんかに使うやつ。ちょっとくすねて、あたし が細工したの」 輸送車なんかじゃないのよ」 し / し どお ? って顔で、二人を見回す。レイクも、ひとつ手にとりな 「そいつは意外だったな。現金輸送車じゃないとすると、 がら言った。 何なんだ ? 」 ジェーンはすまして答えた。 「成型発泡スチロールって、水に触れると急激に活性化して膨張を 「現金よ。ーー輸送車ぬきの、ね D 」 始め、あらかじめ決めておいた形になるって、例のやつだろ ? だ 二人はちょっとの間、ポカンとした表情になった。やがてジムがけど、 いったい何の形になるんだ」 言った。 ジェーンは、ほれぼれするような笑顔を作って、答えた。 「わかったよ」 「ジュラルミン・ケースよ」 二、三度うなずく。 「つまり、あんたは、金が輸送車に積み込まれる、その前に、 だこうってんだな ? 」 「強盗た。手をあげろ」 「そういうことね」 拳銃を手にした三人を見て、その宿直のおやじは、持っていたモ 「だけど、スタジアム内でやるとなると、かえってやばいんじゃな ツ。フを、パタンと床に落っことした。目がまん丸になる。 いか ? 場内整理の警官がうじゃうじゃいやがる上に、のガ 「なにかのまちがいじゃねえのか ? 」 1 ドマンも加えたら、おそらく千人をこえるはすだ」 ゴマ塩頭を短く刈った、初老の用務員は、とても信じられないと 「だから、そのための準備をしてきたんじゃない。 レイク ? 」 いう風に、茫然と首をふりながら言った。 ジ = ーンは、できるだけレイクの方を見ないように努力しながら「ここにや、金目のものなんそ、ひとつもねえそ」 8

6. SFマガジン 1983年7月号

「ホリアがあきらめるものですか」クリアがきつばりといった。 動きが感しられた。 ォメリーは肩をすくめた。「残された時間はごくわずカた。 / : 彼女訪問客が予定されているのはあきらかなのに、夕食の時間に決め っ 4 がさらに手を打っ気なら、事を起こすのは今夜だろう。警戒を怠っられた九時を過ぎても、誰一人、姿を見せない。食事が終り、使用 てはならない」 人は帰宅した。サンシスコ家の三人は、高まる緊張のなかで、着替 「まさか、今夜のはずは ! 」クレフは恐慌をきたした声でいった。 えをするために部屋にひきとった。 「いくらホリアでも、そんな真似はしないわよ」 オリヴァーはポーチへ出て、これほどの極みにまで家じゅうに期 「ホリアはね、やりかたこそ違うが、きみと同じくらい無節操なの待をあふれさせた原因を探そうと、むなしく思いをめぐらした。お だ」ォメリーは彼女に笑いかけた。 ・ほろげな弦月が地平線の上に見えはするものの、五月の夜ごとに半 「でもーー自分がここにいられないというだけで、わたしたちのひ透明なまばゆさをもたらしてきた星が、今夜はひどくかすんでい とときを台無しにしたりするかしら ? 」 る。日没とともに空が曇り始め、ひと月のあいだ続いた晴れやかな 「あなたならどうする ? 」クリアが訊きただした。 天候がようやく崩れようとしていた。 オリヴァーは耳をそばだてるのをやめた。彼らがやりとりする一 = 〔背後でドアがわずかに開き、そして閉まった。ふりかえるまでも 葉はさつばり要領を得ないが、今夜には、何であれ隠されていた秘なく、クレフの匂いと、彼女が度はずれに好んでいる陶酔剤のほの 密がついにあかるみに出るのだ。気長にそれまで待ってもいいでは かな香りが、オリヴァーの鼻先に流れた。彼女は彼のそばに歩み寄 / し、刀 、そっと手に手を重ね、暗闇を通して顔を見上げた。 この二日間、家のなかにはただならぬ雰囲気が漂い、オリヴァー 「オリヴァー」彼女は囁いた。「ひとっ約東をしてほしいの。今夜 は彼ら三人と興奮をわかち合っていた。使用人たちでさえその雰囲は家を離れないと約束してちょうだい」 気を嗅ぎつけて、神経を昻らせ、落ち着きをなくしている。オリヴ 「その約東なら、とっくにしてるじゃないか」彼はいくぶん苛立ち アーは質問を思いとどまりーー借家人を当惑させる結果にしかならを覚えた。 ないので ひたすら観察に励んだ。 「そうね。でも、今夜はーーー特別なわけがあって、今夜はどうして ありとあらゆる椅子が家の正面の三つの寝室に集められた。椅子も家にいてもらいたいのよ」彼女は一瞬、彼の肩にもたれ、彼は思 を置く余地を作るために家具の配置が変わり、何ダースもの蓋つきわず苛立ちを和らげた。彼女があの告白をした夜以来、二人きりに カツ。フが盆に用意された。クレフの薔薇石英のカツ。フも混じってい なったのは初めてだった。これから先も、二人きりになれるのはほ るのにオリヴァーは気がついた。三日月形の細い穴からは湯気が出んの数分に限られるだろう。だが、彼は心をかき乱された二晩の出 ていないが、なかみはいつばいになっている。カツ。フのひとつを持来事をいつまでも憶えているに違いない。彼女がとても弱々しくて とはいえ、彼女はや ち上げてみると、凝固しかけているような重い液体のゆったりした愚かであるのが、今ではよくわかっていた

7. SFマガジン 1983年7月号

も。 サチコは地球人の子どものカゾセルを指差した。 「みたい、 というのは修辞的な言いまわしです」 「まるでおサルさん」 サチコがきっちり答えた。だいたいサチコの性格の基本路線とい うのま、 ぼくものそきこんだ。 ーしいかげんで事なかれ主義でウソつきでかっこわるいこと したくない というところなのだが、ときおり、気が狂ったみた「まあ、生まれたばっかなんだし」 マスターはもっと崇高なことを言ったような気がするのだけれ いに自己主張をはじめる。ものすごくカッコワルイのに。 赤ん坊たちは小さな卵型のカプセルに入っていた。外からはよくど。まあいいだろう。 見えるが、内側からは暗くて何も見えないはずだ。それに、連中は赤ん坊は、まだ赤ん坊というより、胎児という感じだった。グニ ョグニョしていて、しわだらけで、濡れていて、大きな眼球がまぶ 生まれたばかりの時のままに冷凍 ( ことばが悪いな、時間凍結 ? ) されているから、静かなもんである。 たの上からもはっきりわかった。 「そこのサラダとイチゴ、ちゃんとさらえてちょうだいね」 ラジェンドラ人は、うがいを終えた水割りをそのまんまグビグビ サチコがダンポールをたたみながら、命令する。 飲みほした。 ラジェンドラ人が、ぼんやりした目つきで、木をくり抜いただけ おふくろの眉間に深いたてしわが二本入る。ゴルゴみたいに。 のサラダボールを見つめ、突然、中身をぜんぶ、ロの中へ流し込ん 「やれやれー ぼくはため息をつき、みんなのへやのわりふりを発表した。 結局、・ほくとサチコが二階のひとへや、ラジェンドラ人も二階、 「まるでパキューム・カーだね」 こおふくろが一階のダイニングのとなりのへやを使うことになった。 おふくろが腰に手をあててうなった。おそろしく姿勢がいし 「出発はあしたの朝だからね」 の世代の女の人がこういうポーズをとると、おそろしくたくましい ぼくは宣言して、ヘルダといっしょにらせん階段をのぼっていっ 感じがする。たしか、ウルトラマンが空へ飛びたっ寸前のポーズな んだ、これは。 ・ほくはあわててイチゴの皿を確保した。 ・ほくが最後にふり返ったとき、ダンポールをすてるかどうかで、 ヘルダなら、鼻息だけでイチゴをぼんぼん吸いこんでしまうかサチコとおふくろが口論をはじめた。・ほくは能面のような顏をつく 階段をのぼるという作業に没頭した。 彼女は水割りでうがいをはじめた。 その雷鳴のような音のあい間に、サチコが言った。 「マスターの言ったとおりね」 「なにが ? 」とぼく。 こ 0 次の日の朝、ラジェンドラ人のあくびの震動で目がさめた。 8 6

8. SFマガジン 1983年7月号

は、オリヴァーもまれには見かけた憶えがあった。 ただし、この場合は、三人が自信たつぶりに身につけている美し い服が、ふだん着慣れたものではなさそうに見受けられて、彼はい ささか首をひねった。動作が妙にわざとらしいのだ。時代物の衣装 をつけた女を連想させる。きやしゃなハイヒールを履いた足の運び は小刻みだし、片腕を上げて袖の裁ちかたを調べたり、服のなかで 時おり身をくねらせているところをみると、着心地がもうひとっし つくりとはしないらしく、日頃はまったく種類の異なった衣類を着 一九四〇ー五〇年代の英米 の定評ある名作短篇は、ほと ているのではないかと思われた。 んど翻訳されつくした感がある また、服がびったりとからだに合うさまはあまりにも優雅で、オ が、こと中篇に関しては、まだ リヴァーの眼にさえひどく異様に映った。これがスクリーンのなか かなり目・ほしいところが未訳の の女優であれば、時間とフィルムを止めて乱れたひだなどを整え、 ままで残っている。この『ヴィ ンテージ・シーズン』も、名の すばらしい外観を保っているかのごとくに装えるわけだから、着こ なしが優雅に見えても不思議ではない。 ところが、この二人の女が 1 み高くして未紹介だ 0 た作品 だ。アスタウンディング誌一九 好き勝手な動きを示すと、ひだのひとつひとつはみごとにその動き カットナーと O ・»-ä・ムーアの夫妻の 四六年九月号に、ヘンリー・ を追い、みごとにもとの位置へおさまるではないか。そんなありさ 合作ペンネ 1 ムの一つ、ロレンス・オダネル名義で発表されたが、 まを見るにつけ、材料はなみの布地ではあるまいとか、けたはずれ 実際は奥さんのム 1 アひとりの手になったものといわれる。名作 『シャン・フロウ』でおなじみの、あのムーア独特の濃密な官能的ム に腕の立っ仕立て屋が、たくさんの縫い目を上手に隠してつけると ード、美と恐怖の巧みな混合は圧倒的で、その後多くの作家がこの 一般には知られていない巧みな技術を駆使したのだろう、と テーマに挑戦したが、まだお手本を超えるものは現われていない。 いった印象が湧いてくる。 ・ハリイ・マルツ。ハーグなどは、「一九四〇年代に書かれたすべての 二人は興奮している様子だった。曙がくつきりとビンクの名残り ( 浅倉久志 ) 中短篇のベスト・ワン」と絶讃している。 をとどめた澄みわたる青空を仰ぎ、高くて明かるい、ほれぼれさせ る声で喋り合っている。二人は芝生に植わった樹木のほうへ視線を女たちが幸福感とときめきにあふれた声で男に話しかけると、そ 投げかけた。木々は金色を底に潜ませた半透明の新緑に覆われてい れに答える声のリズムが申し分なく溶け合って、まるで三人の合唱 た。ついこのあいだまで新芽だった若葉の縁には、まだ波形のしわを聞いているようだ。彼らの声には衣服と同じく並大抵ではない優 が残っていた。 雅さがあり、この朝までオリヴァー ・ウイルスンには思いも寄らな O ・ -J ・ムーア C. L. 旨 00 、第作ー 2

9. SFマガジン 1983年7月号

・エコノミー・クラス どなたでもお気軽にご利用していただ ける、団体旅行のコースです。目的地・ 時間・期間・ご予算に応じて、いろいろ なコースがございます ◇夏への扉 7 日間コース◇ 目的地 ( 時間 ) ・加年前までの任意の 過去。 人数・ 4 人、人 料金・お 1 人万クレジット お帰りは、コールドスリープコース をご利用になると割安です。サービス 期間中、参加者にネコ 1 匹プレセント。 ◇タイムトンネル 7 日間コース◇ 目的地 ( 時間 ) ・お好みの時間、お好 みの場所へ。 人数・ 2 人、鬨人 料金・お 1 人 8 万 5 千クレジット チックタック計画初期のムードを再 現する、目的地不明のミステリー アーもございます 他に、エンタープライズ号による宇 宙旅行を含む、異星人のタイムマシン を使った「永遠の淵に立っ都市」コー スなどもございます。 化 0 0 0 0 0

10. SFマガジン 1983年7月号

に近かった。二人の女の視線がぶつかり、つかのま火花を散らした 「なりゆき次第です。それほど長くはかかりませんが。ところで、 ミスター・ウイルスン、お話ししておくことがあります。あなたも 果てしなく続く瞬間だった。異様な沈黙が流れ、ほんの短いあ いだに内容のたっぷりした無言劇が演じられた。 ここで暮らしているのでしたね ? あなたのために忠告を、ー・ー」 この奇妙 オリヴァーはスーにむけられたクレフの微笑のなかに、 家のなかでドアが閉まる音がして、澄んだ高い声が言葉をつけ ず、なめらかに音階を歌った。階段を降りる足音がそれに続き、歌な人々がたびたび示す穏やかな自信を読み取った。すばやく相手を 品定めしたスーが、肩をいからし、背筋を伸ばし、夏物のフロック の一節が聞こえた。「いとしい人よ、わがもとへ の平らなヒッ。フのあたりをなでつけて、一瞬、意識してポーズを作 ハラははっとした様子で、赤革の箱を取り落としそうになった。 り、クレフを見おろしたのに気がついた。これは故意の動作だっ 「クレフだ ! 」彼は小声で言った。「それとも、クリアかな。二人 ともカンタベリーからこちらへ着いたばかりなのはわかっている。 た。彼はうろたえて、クレフに視線を戻した。 クレフの肩はなだらかな線を描き、ほっそりしたウエストをベル でも、てつきりーーー」 「静かに」マダム・ホリアはとっさに尊大な何食わぬ風を装った。 トで締めたロー・フの深いひだがヒッ。フの丸みをあらわにしている。 勢いこんで鼻から息を吸い、胸をそらして、堂々たるからだを玄関スーのは最新流行の服装だーーところが、先に屈服したのはスーの のほうに向きなおらせた。 ほうだった。 クレフはオリヴァーが前に見たのと同じ種類のダウンのロー・フを クレフはひたすらほほえみ続けている。だが、彼女の身に備わっ 着ていたが、今日のは白ではなくて、日焼けした肌に杏子の色合い た自信の測り知れなさ、揺るぎのない静かな微笑ゆえに、急激な価 値の逆転が沈黙のうちに起こったのだ。そのとたんにあきらかにな を与える明かるい水色だった。顔には微笑が浮かんでいる。 「まあ、ホリア ! 」声音が一段と音楽的だ。「あなたの声が聞こえ ったのは、流行は定数ではないということだった。流行からはずれ たような気がしたのよ。お目にかかれてうれしいわ。まさかあなた たクレフの曲線が、出し抜けにすべてを決定する基準となって、そ がここのーー」彼女は言葉を切ってオリヴァーに眼をやり、すぐにれに照らし合わせると、スーは骨ばって女らしさに欠けた妙な生き 視線をそらした。「それに、 ハラも。本当に思いがけないことね」ものでしかなくなった。 ス】が不愛想な口調でいった。「いっ戻っていらしたのかしら、 どのような具合でこうした変化が起きたのやら、オリヴァーには さつばりわからなかった。なぜか、一人の女から別の女へと、また ノいフ・」 クレフは彼女にほほえみかけた。「あなたがミス・ジョンスンでたくまに権力が移ったのだ。美とは十中八、九、流行の問題であ すね。わたしは外出しなかったのですよ。見物には飽きてしまつる。現在は美しいと思われているものも、二世代前にはグロテスク だったのだし、百年後にはやはりグロテスクとみなされるだろう。 て。部屋でお昼寝をしていましたの」 スーは息を吸ったものの、その仕草は疑いをこめて鼻を鳴らすのグロテスクよりもひどい形容がっきそうだ。時代遅れとなるわけだ 2 引