がっているのは妙だよ。もし彼らが死んでいるのならーー他の船と「しばらく ? 何年もかかるよ」 は違って、灯りがついてるんだから、彼らが死んだのは最近のこと「正確には、一時間二十分だ」 「それを待って、様子を見ようってのかい。近接信管か何かがない かどうか ? いささか馬鹿馬鹿しいような気がするけどーー」 「最近といっても、百年前かも知れない」 「命を大事にすることは 、別に馬鹿馬鹿しいことじゃないさ」 「ということはーーー」 そこで、僕らは待った。 彼は、僕の反論をまるで無視して結論にとびついた。 「彼らを殺した原因が、まだそこらに残っている可能性がある」 意に反して、僕の四肢にはふるえが来た。 宇宙に出る者は、 ( 例え、休の度にわずかばかりの航宙を楽し 「おどかすなよ。急に慎重になったもんだな」 むだけの人間でも ) 二通りの時間の使い方を学ばなければならな あれが見える 「予感だよ。理屈よりも。おっと、ちょうどいし 。三十分間に一時間分の仕事をする技術と、数十時間を何の建設 か」 的な仕事もしないで、ぼんやり過ごす能力が、ともに要求されるの タキオは、僕のフェイス。フレートを軽くたたき、視界の左すみの だ。この場合、必要なのは後者だった。相手の精神状態に悪影響を 空間に注意を促した。 与えない程度の軽口をたたき合い、無秩序に並ぶ船の列を数え、ロ 「見える」 笛を吹き、歌を歌い ( 調子っ外れなほど効果的だ。むきだしの真空 ノーカ中にあって、音痴の歌声ほど、人間らしく、心暖まるものはない ) 、 それは、サルガッソー・ コンポイのひとつ、船長十メートレま、 円周率を百ケタまで暗唱する。僕たちは、楽々と問題の一時間半を りの、死んだ宇宙艇だった。 「レーザー・センサを持ってるか ? 」 やりすごした。このテクニックに関しては、タキオの方に三年の長 タキオの問いに答える前に、僕は念のため、ヘルメット内部の、 があった。八十分のうち何分の一かは、彼は眠っていたのではない あまり使ったことのない舌スイッチの列をながめわたした。 かと田う。 「ない」 ″ネルソンんにぶつかる寸前まで接近し それから、宇宙艇は、 「それじゃあ、おれの言葉を信じてもらうしかないな。あの艇は、 た。僕は、百二ケタ目で、円周率の暗唱を中止した。何かが 少しずつだが動いている。しばらくしたら、″ネルソンみと軌道交キオの漠然とした不安を立証する何かが起こるとしたら、今だ。 ″ネルソン〃の周囲に、何らかの物理的危険がころがっているとし 差ーーっまり、ぶつかる」 ″ネルソンをおとりとして、機雷が敷設してあるか、 二つの宇宙船は、大星雲を背景にして黒い影のように見える。二たら 隻の相対位置が変化しているかどうか、僕には判断する術がなかっ″敵〃の。 ( トロール艇がひそんでいるか、あるいは 爆発も砲撃もなかった。宇宙艇はただ、のんびりと進んで行っ こ 0 ー 03
レヒッウ 理学体系の正しい適用」がねらいである。し直面することを避けた。ホイルの「川月 1 日ちがえなければ、界のメイン = ンジンに たが「て人間が移動することによる無用の混では遅すぎる」では、さまざまな可能な状況なるはすである。 ( 『未来からのホ〉トライ 乱を避けるため、ここでは時間通信のみに話の一つにスポ〉トライトが当たるという比喩ン』 / 著者。ジ = イムズ・・ホーガン / 訳 で現在を説明したため、いかなる ( チャメチ者Ⅱ小隅黎 / 四三九頁 / 五〇〇 / 文庫 / 東 が絞られる。 素粒子物理学の要請によ「て、時間を超越ャも許されることになてしま「た。明らか京創元社 ) にこの二作を参考にしたホーガンは、超時間 するタウ波が発生するというメカニズムが、 あまりにもっともらしいので感心したが、驚と。 ( ラレルワールドを独自なより洗練された キングズリイ・エイミス著 いたことには、一九六〇年、我が国の田中正形で使用したが、これによって。 ( ラドックス 博士が、素粒子内における本質的な矛盾を解が回避されたかどうかは疑問である。 さらに厳しい批判をすると、ホーガンに限 決するため、超光速の概念を導入しておられ たのだ。超光速が現実のものならば、過去へ ったことではないが、時間そのものに対する『去勢』 の通信も可能となる。 ( 都筑卓司『タイムマ考察が甘すぎるという欠点がある。時間とい うと、反射的に時間線となり、過去から未来 シンの話』 ) 情報が過去に伝達されると、典型的なタイへ向かう矢印のイメージが出てくる。待っ時 水鏡子 ムパラドックスが発生する。すなわち、情報間が長く感じられたり、楽しい時が短く感じ を受け取った過去の人間が未来を改変するこられるといった心理的時間が物理的に無意味 とによ「て、その情報自体を無意味化するとであることは誰にでもわかるが、時間の方向宗教改革の時点を契機にしてもうひとつの いうものである。アシモフの『永遠の終り』性が心理的なものだとは誰も考えない。実際歴史を積み重ねてきたもうひとつの一九七六 では、通常の時間とは異なる超時間と永遠人には、時間に方向があるかないかというのは年 ( 原書出版年 ) のもうひとつのイギリス。 を導入することによ 0 て未来改変を日常化さ物理学上の大問題であり、いまだに結論が出「ルチン・ルターが 0 ー「教皇にな 0 てしま イギリスで国教が生まれることもなく、 せたが、「現実は常に。 ( ラドックスを回避すていない。 2 中間子の時間反転非対称や熱カ るよう自動的に変化する」としてこの問題と学の第二法則でも方向性は出ないらしい。時逆に現教皇はイギリス出身であるほどで、 ーマ・カソリック世界は一枚岩の団結を誇っ 間をテーマにする以上、時間の定義からはじ てトルコのイスラム世界と対立している。 めるべきだと思うのだが。 ( ード界の中枢 ( , 、ド研究学は神の名のもとに禁圧され、宗教制度のコ 日本の 所では、これまでホ , 、ガンというと苦笑するントロールから逸脱できない程度の発展しか 許されていない。飛行機のかわりに飛行船が しかないといった雰囲気だったようだが、前 作の「未来の二つの顔」あたりから評価が上運行し、ディーゼル自動車にまじってまだ多 ハード研の例会くの馬車が行きかっていた。 がってきたようだ。 ( 正直なところ、作品にはいりこむのにかな に参加して感動した。あんな美人が。なぜ りてこずった。たぶん問題は、書き手や訳者 9 だ ! ) ホーガンの評価は今後ますます高まっ 8 ていくと考えられる。むろん懸念がないでもの側よりも読み手の側にあるのだろう。 イギリス国王の壮麗な葬儀の巻頭シーンに ないが、正しい姿勢と歩いていく方向さえま
ビルは何を考えてるのだろうと、私は思った。私は少なくとも、 「今日は、予定がないのかな」 地球に関してはいやが上にも楽しい予想をふくらませるだけ、何の 「ばかな。おれたちが出発した当時だって、毎日十便や二十便はー 心配もしていなかった。酒、女、べっぴんさん、青い海 ! 私が心 ーまして、その後、よけい便はふえてるはずだそ」 配していたのは、ひたすら自分自身だった。 「時間がたまたまあいてるときなんだ」 「おれは、さっきから三時間もずっと見てた。 それに、もう全 部のデータ計算は向うに伝えてあるのに、ここでぐるぐるまわって 「さあ、いよいよだそ ! 」 ろってのは : : : 要するに、宙港がこみあってるから順番待ちしろっ インタフォンから、おやじのでかい声がとび出して来た。われわてわけだろ ? だのにさ」 れは着陸体勢に入っていた。 ロイは、不安にかられているように見えた。ロイがこんなに神経 「キャプテン、地球の主管制局からのメッセージが入りました。読質とは思わなかったと、私は思った。それも、地球にもどってきた みあげますか ? 」 から 「頼む」 「それにーーおい、坊や、見ろよ」 ええと、『おでっせい 7 ノ無事帰還ヲ心力ラ歓迎ス ロイはスクリーンに指をつきつけた。私は見た。ふいにスクリー 貴船ノ着陸誘導 = デキウルカギリノ協力ヲスル。ソノマ「現在ンの上に、あざやかな白い光点がパッとひらめき、次の瞬間消え こ 0 ノ軌道上デで 1 たノ投入ヲ待テ』」 「また、コンビュータ野郎だ」 「何だい、それは」 私はビルがののしるのをきいた。 「知らん。さっきから、一時間おきにいくつか、こうやって光って 「何かこう 心がこもってね = な。管制局め気がきかねえ。こちるんだ」 とら、十年ぶりの、人間の声がききたくて苛々してんのに」 「人工衛星かな」 「ジェイ」 「ハ力な。こんな一瞬で消えちまう人工衛星があるか」 ロイが身をのり出していう。その青い目が、気のせいか少しくもそれでは何だと思っているのかと、私はロイにきいてみた。しか っていた。 し、ロイは答えなかった。妙に考えに沈むような目で、じっと光占 「妙じゃないか ? 」 が消えた、何本もの白い線がうかび出ているスクリーンを見つめな 「何が ? 」 がら、それきりもう、ロをきこうともしなかった。 「スクリーンをみろよ。全然ーーー宙港からとびたっ船の光跡がない 6 3
・エコノミー・クラス どなたでもお気軽にご利用していただ ける、団体旅行のコースです。目的地・ 時間・期間・ご予算に応じて、いろいろ なコースがございます ◇夏への扉 7 日間コース◇ 目的地 ( 時間 ) ・加年前までの任意の 過去。 人数・ 4 人、人 料金・お 1 人万クレジット お帰りは、コールドスリープコース をご利用になると割安です。サービス 期間中、参加者にネコ 1 匹プレセント。 ◇タイムトンネル 7 日間コース◇ 目的地 ( 時間 ) ・お好みの時間、お好 みの場所へ。 人数・ 2 人、鬨人 料金・お 1 人 8 万 5 千クレジット チックタック計画初期のムードを再 現する、目的地不明のミステリー アーもございます 他に、エンタープライズ号による宇 宙旅行を含む、異星人のタイムマシン を使った「永遠の淵に立っ都市」コー スなどもございます。 化 0 0 0 0 0
「うまくやってよ。チャンスは一度だけなんだから。まちがっても両チームが登場。お互い、敵チームのメン・ハーの似顔絵が描いてあ 居眠りなんかしちやダメよ。マスクは持ってる ? 」 る、うすいブラスチックポードをつき破って、グラウンドに駆けこ 5 レイクは、上着のポケットから、 d' マスクをひつばり出してみせむと、盛りあがりは最高頂に達した。 キッタオフ こ 0 午後一時、、試合開始ー リンカーン・スタジアムは、これから約二時間、やむことのない 「発煙弾は、そうねえ : 。この端末機の後ろに入れておくわ。オ 喊声に包まれるのだ。 ーケイ ? 」 「オーケイ」 その模様を、五つのネットワークが、八つの星系に宇宙中継して ジェーンは腕時計を見て言った。 いた。推定三億以上の人々が、 e セットの前で、野次をとばしな 「そろそろ開場だわ」 がら試合を愉しむことになる。もちろん、地元ニューシカゴでは、 キャビネットの原を閉めかけて、また開けると、レイクをこわ いおそらく市民の八割以上が、この時間、画面にへばりついているこ 目で睨んで、言った。 とだろう。市長も、知事も、肉屋も、パン屋も、先生も、生徒も。 「ドジなんかしたら、承知しないわよ ! 」 そして、もちろん警官も。 そして、細いすき間を残して扉を閉めると、集計室を出ていっ 「何をやっとるか・ ~ くー つ、貴様ら た。キャビネットの中に、レイクが一人残された。 フクダ警部の怒鳴り声に、受付の e> の前に集まっていた十人ば そうして、全ての準備が完了した。 かりの警官たちが、はじかれたようにとびあがった。 「はつ、あっ、これは、フクダ警部」 7 襲撃 「ワートキンス」 フクダ警部は、怒った顔よりも三十倍おっかないとされる、兇 ・べアーズの悪な笑顔をみせて言った。 今年のアストロ・ボウルは、五年ぶりに地元シカゴ 「お前も、なのか ? 」 登場とあって、スタジアムは開場一時間にして、すでに超満員とな なにか、楽しんでいるような口調である。 っていた。 「はつ、 グラウンドでは、・フラス・ハンドやチアガールたちによるアトラク いえ、これは、その、たまたま通りかかると、この者たち が e なそにうつつをぬかしておりましたので、少し説教なそを、 ションが、華やかに、くりひろげられ、試合が始まってもいないと いうのに、スタンドのあちこちでは、ビールのカンが乱れ飛ぶとい と思いまして、つまり : ・ : ・」 う有様だ。 「一時間ほど、姿が見えないと思ったら、こんなところで、フット ポール観戦とは、しし 、ご身分だな、え ? ワ やがて『ミネソタ・ヴァイキングス』、 『シカゴ・ペアーズ』の くくく ( トキンス」
分を見守っているかを理解した。二人のあいだには、時間にして測んやりと気づいていたものの、クレフの接近で警戒心が消え、識別 ると広大な距離があいている。センビーは作曲家であり、天才であ力を失ってしまったのだ。純粋に逃避の手段としての時間旅行など 2 いうまでもなく強烈な人格の持ち主だ。だが、その精神の活動は冒濱に近い行動ではないかと思われる。それだけの力を持った種 の中心は、時間線のはるかかなたにあるのだった。外で死にかけて族が いる街、今の世界全体は、時間線のなかでその基本的な隔りのため クレフはーー・千年前のローマで行われた荒けずりで派手やかな戴 に、センビーにとっては現実味に乏しく、さして実感をともなわな冠式へ行くために、彼のもとを離れていったが どんな眼で彼を いものなのだ。謎に包まれてうかがい知れない恐るべき未来におい見ていたのだろう ? 息をしている生身の男、という見かたではな て、センビーの文化の殿堂を支えるのに用いられた、建築用・フロッ い。彼はその点を確信した。間違いなく、クレフの種族は傍観者な クのひとつに過ぎないのだ。 のだ。 今となっては、未来はオリヴァーに恐るべきところだという感し だが、ここにいるセンビーの眼には、行きあたりばったりの興味 を抱かせた。クレフでさえそうなのたがーー未来の人々はあのホリ を越えた何かが読み取れる。渇望が、旺盛な探求心がある。彼は再 アが大気圏に隕石が突入する際のかぶりつきの席を手に入れようとびヘッドフォンをつけていた この男はほかの人々とは異なって して、意地悪でさもしい企てに熱中したのでもわかるとおり、だれ いる。まことの鑑識眼の持ち主だ。ヴィンテージ・シーズンが過ぎ去 にも性根の腐ったところがある。クレフやオメリーを含めて、彼られば、あとには余波が残るーーそして、センビーが乗り出してくる。 は揃って道楽者なのだ。時を旅してまわっているとはいっても、あ センビーは柔かな光が明減する半透明の・フロックを前にして、ノ くまで見物人にとどまっている。自分たちの日常生活に退屈してー ートの上に指を構え、眼を凝らして待ち受ける。食通以外の人は見む ー飽きがきて いるのだろうか ? ぎもしない珍味が味わえる瞬間を、究極の鑑定家は待ちわびている。 根本のところでは、変化を望むほど飽きてはいない。彼らの時間 遠くの火事の音にかぶさって、音楽に近い音のリズムがまたして 世界はさながら満ちたりた胎内、すべての望みが眼に見える形で実もかすかに聞こえてきた。耳を澄まし、記憶をたどる。オリヴァー 現した世界なのだ。彼らには敢えて過去を変える気はない 自分は前に聞いた交響曲のパターンをもうちょっとでつかみかけた。ひ たちの現在にひびがはいる危険を冒すのがいやなのだ。 らめいては消えるたくさんの顔が混ざり合う。続々と現われる死に オリヴァーの心には嫌悪がこみあげてきた。クレフのくちびるの瀕した顔が 感触がよみがえり、舌に不快な感じが生まれた。娃力のある女だっ 彼はべッドに横たわったまま、部屋がまわり出して闇に沈んでい たのは確かだ。それはわかりすぎるくらいわか「ている。ところくのを、閉じた痛い目蓋のむこうに感じていた。痛みは全身の細胞 が、その後味は に潜み、第二の自分が誕生して、彼を彼のなかから追い出そうとし 未来から訪れた種族にはある共通点があ「た。はじめのうちは。ほている。力強い、揺るぎのない自我が、彼が降服する隙をうかがっ
の , : ガルフ・ はるメリ・クリフ ( こ 私に向かってほんとに手を振ったのだ ) / ) する 1 イ、 ) きなスケッチブックをさし出した。あとでわかっ たのだが、この人はケー。フ・カナベラルのローカ ル紙〈トウディ〉の記者で、毎回、発射のエ。ヒソ ードを絵で紹介しているのだが、なんと、彼女が さし出したそのスケッチにあたしやガッくり来た ね、まるで栄養過多の狸が、マイク片手にテレビカ メラへ語りかけているーーという図なのだ : 私の雄姿 ( ! ) も、毛唐の娘にはこんな・フザマ な姿にしかうつらないらしい。私があんまり悲し そうな顔をしたせいでもないのだろうが、結局そ の絵は新聞に載らず、私のコメントだけが紹介さ れ、その日の夕方から、私は滞在しているモーテ ルの名士になってしまった。 一分主エンジンの首を振らせるジン・ハル ・システムの最終チェックが完了し、このジンバ ルや舵面、ぶルプなどを動かすヘリウムがいよい よ離昇時のレベルまで加圧される。 一分ここでまた非常脱出時の手順の再確 認。そして、滑走路に待機している例のーが エンジンを始動する。支援チーム各部門のが 一確認される。 一Ⅱ分マイナス九分以後の段取りをすべて とりしきるランチ・シーケンサーという大型コン ビューターの作動が再確認される。このランチ・ シーケンサ 1 が導入されてから、発射寸前の作業 を人間がやる必要がなくなり、この結果、ロケッ トの打ちあげは面白さ、サスペンスが半減してし まった。 一川分打ち上け準備の総責任者 ・テスト・ディレクター ) が″打ち上げは 0 ″ を宣言する。 ここで時間読みはいよいよ最後の一〇分のホー ( つづく ) ノ一カ、カ・カっ SENSE 〇 F W 〇 NDERLAND
のだ。わたし以外の人々はディレッタントでね。ここへ来たのは五られたっていっていた。みんなが約東をしなくちゃならなかったん 災害の余波などはーー彼らがそだ。それは要するに、あんたがたの過去をーー・ほくらの現在を 月の気候と壮大な見世物のためだ。く . 本当は変えられるってことじゃないか ? 」 んなものを気長に待ったりすると思うかね ? わたしの場合は センビーはまたもやノートを置いた。濃い眉毛の下の黒い眼で、 どうやらこの道の通なのではないかな。どちらかといえば余波にこ そ魅力を感じるよ。しかも、それが必要なのだ。目的を実現させる考え深げにオリヴァーを見つめた。「そのとおりだ。確かに過去を 冫。しかない。しかも、当然のな 変えるのは可能だが、決して簡単こよ、 には、じかに研究する必要があるのだ」 りゆきで、未来までが変わってくる。可能性の連鎖が、新しいパタ 一瞬、センビーは患者を冷静に観察する医者の眼つきでオリヴァ だが、これはきわめてむずかしいし、 ーンに切り替わるわけだ ーを鋭く見守った。そして、何気なくべンとノートに手を伸ばし た。その動作で褐色の太い手首の内側が見え、なじみのあるしるしこうした試みが許されたためしはない。物理的な時間の流れには、 いかなる場合も、ずれを補正して標準の状態を保とうとする力がひ がオリヴァーの眠にはいっこ。 とりでに働いている。そのために、何らかの変更を実際に加えるの 「ほ、か 「クレフにもそんな傷あとがあったな」彼は思わず呟いた。 は非常に困難なのだ」彼は肩をすくめた。「純理科学の領分だな。 の連中にも」 センビーはうなずいた。「予防接種のあとだ。このような事情のわれわれは歴史を変えたりはしないのだよ、ウイルスン。過去を変 もとでは必要な措置だった。われわれの時間世界に病気がひろがるえると、現在もまた様相を変える。われわれは自分たちの時間世界 を完全に気に入っているのでね。不満分子も少しは存在するだろう のは好ましくないのでね」 が、そういった輩は時間旅行の特権を与えられない」 「病気 ? 」 オリヴァーは窓のむこうから響いてくる駁音と張り合って、声を センビーは肩をすくめた。「病名をいってもきみにはわかるま 高めた。「でも、あんたがたにはそれだけの力があるんだ ! その いっさいの苦しみや痛みや悲劇をな 「でも、病気の予防ができるんならーー、」オリヴァーは痛みのある気になれば、歴史を変えて 腕の片方を突き、からだを起こした。ある考えをなかばっかみかけくしてーーこ て、それを手離したくなかった。努力のかいがあって、しだいにつ「すべては遠い昔に過ぎ去ったことだ」 このときは ! 」 のる混乱のなかで、その考えが明確になってくる。彼は莫大な努力「そうじゃないーー今はー センビーは謎めいた眼つきでしばらく彼を見つめていた。それか を払い、言葉を続けた。 「わかりかけてきたそ。待ってくれ。ずっとこの点をはっきりさせら、ロを開いた。「このときもおなしだ」 たかったんだ。あんたがたは歴史を変えられるんだな ? 変えられ るともー オリヴァーは突如として、どれほどの距離を隔ててセンビーが自 ぼくにはわかってる。クレフは干渉をしない約東をさせ 25 ー
タキオは、大箱から漂い出した雑多な生活必需品の中から、透明 ます薄くなるな。線形時間記録上は、おれのほうがあとから、ここ なドリンク・チュ 1 プを二つ選り出し、一つを僕のほうへ押してよ に迷い込んで来たことになるから。おれの時代にも、こんなサルガ こした。 ッソー海は知られていなかったんだ」 「ここで、戦争してるのか ? 」 「未来人 ? しかし、時間がーー」 「時間のことは忘れろ。ファイ次元から蹴り出された時はな。時と、僕は念を押した。ウォッカのチ、ープが、軽く肩のところに ぶつかった。 、空間、物質、全部ゴッタ煮にして、ぐるぐるかきまぜたのが、 タキオは、深く溜息をついた。 ファイ次元なんだそ」 コウ、命びろいに乾 「やってる奴がいるとしても、おれじゃない。 「わかった」 いささか乱暴な表現ではあるが、彼の言うことは正しい。ファイ杯だ」 次元で舵をとりそこなうことは、空間とともに、時間的な指標をも僕たちは、しかつめらしくチー・フを触れあわせた。ボクンとい う、間の抜けた音がした。 失うことを意味する。僕は、帰還の望みが、小さくしぼんで行くの を感じた。腐るほどころがっている船の山から、何とか航行できる「やってる奴がいるとしてもってのは、どういう意味だ ? それに のを一隻見つけるか、つぎはぎででっち上げるかして、ここから脱 僕は、ガソリンじみた液体を飲み下した。 、。ドロツ。ファウト解析は、 出するという。フランも、実現は難しし 「この酒、どこで手に入れた ? 」 ″レッド・ターキイ″とともに失われてしまった。 「ひとつずつ、ひとつずつ。そう。ここでは、戦争がーーあるいは 「気をおとすな。一人ぼっちじゃないだけ、おれの時よりはマシ さ。長期単独飛行訓練を受けていなかったら、気が狂ってたところその名残りが、続いているらしい。長い長い戦争だ。この酒につい ては、あちこちの船からかき集めたガラクタのひとつだ。主として だ。さあ、あらためて握手といこう。それに、乾杯だ。そうそう、 この船から、だが」 あんたの名は ? 」 タキオは、部屋の四方にゴムパンドで固定してあった、傷だらけ「どうしてだ ? 」 「なぜなら、おれが第三軍三佐、クレイ級貨物輸送船のパイロット のスチロールの大箱をひとつひつばり出した。 だったからだよ。運がよかった。エンジンに穴をあけられたたけ 「コウと呼んでくれ。そうだ。さっき僕の船を撃ったのは誰だ」 で、輸送中の兵站物資は黒こげにならずにすんだ」 「おれじゃないよ。シェリーとウォッカ、どっちにする ? 」 「そのことしゃない」 「ウォッカだ。タキオ、三佐と言ったな。ここで戦争してるのか ? 」 「いけるロだな。ただし、ゲロは吐くなよ。ゼロた。ひどいこと僕は、食料品に関する彼の長広舌をさえ切った。 になるそ」 「長い長い戦争について訊いてるんた」 7
は意味がないよ。大体、そんなに長い戦争があるもんか」 「人類は、これと似たような形をしたナイフを、十万年にわたって 「埋論 . 日 勺には考えられる。近代戦は兵器のパワー ・・ ( ランスだ。相使「て来た。石、木、金属、ガラス、。フラスティ ' ク , ーー材質は違 8 互の防御力と攻撃力がある種の均衡を保ち、戦争の理由が一定期間 っても、基本形は同じだ。安くて便利で故障が少ない道具はほろび 存続するならば、五千万年の長期戦だってあり得ないことしゃな ない。技術の進歩を求める圧力がかからないからだ。最新鋭の火砲 が甲板にネジどめされていたって、それほどおかしな事じゃない さ」 「包囲戦だとしたら、補給の問題があるだろう」 「補給は必要ない。戦争に必要なものはただ一つ、エネルギーだ。 彼の話は、一応筋が通っているようだった。 物質は、エネルギーから作り出せる。エネルギーは、物質から作り「なるほど。それじゃあ、このサルガッソーを戦場に、未来人たち 出せる。変換の。フロセスに無駄がなければ、小惑星ひとつで一億年が戦っているというんだな」 だってねばることができるんだ。人的資源も問題ない。子孫に軍務「残念ながら、望み薄だな、それは」 をひきついだっていいし、転記憶クロー ニングをくりかえせば、理 タキオは、片手で壁を押して反動をつけ、酒のチュしフをもう二 論上、人間の寿命は無限だ」 本とって来た。 「あんたがここにとびこんで来た時、何というか、そのーーー人の気 「ちょっと待てよ。それにしたっておかしいぜ。おたくが言いたし 配を感したかい ? 」 のは、その、包囲戦をやっているのが、人類たってことだろ」 「そう、あんたの言ったとおり、スパナ虫には、メーカー名まで入僕は、初めて船の列を見た時の、異様なほどの活気の欠如を思い ってるからな」 出して、首を横に振った。ここは、墓場にしか見えなかった。 「時間的問題については、、、 ししとしよう。ファイ次一兀から落っこっ 「でも、タキオ、誰かが僕の船を撃ったんだ」 て来たんだ。ここが一千万年の宇宙で、一万歳の寿命を持つ人類「あるいは、何かが、だ。侵入者にいきなり撃ちかかって来て、ア が、百万年の包囲戦をやっている。あり得ないことじゃない。しか フターケアなしってのは、人間のやり口じゃない。人間なら、最後 し、その時代の人類が、ポルトやス。ハナなんて原始的な道具を使うまでめんどうを見る。確実に殺すか、助けるか、少なくとも調べに だろうか」 来るかだ。しかし機械ならーー自動砲台の類なら、そういうふうに タキオは、肩をすくめた。 プログラムされるかも知れない。見慣れないタイプの宇宙船ーー , ・撃 「使うかも知れん。シン。フルな道具は息が長い。あんた、ナイフをて。宇宙船は活動を停止したーーー砲撃中止、索敵を続行。三メート 持ってるな ? 」 ルに満たない小さな標的ーー無視せよ。あるいは、気密服を着た人 彼は、僕が肩ベルトに差している一体成形の。フラスティック・ナ影ーー・撃つな、味方た。機械砲台なら、そういうふうに判断すると イフを指差した。 思わないか ? 」