ェイリクス - みる会図書館


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1. SFマガジン 1983年8月号

冫冫しかなかった。船員たちの放つ、多種多 これは他星から来た人間が回想した風景に反応して、エイリクスがれほど頻繁に来るわけこよ、 わが身を材料に苦しみの末につくりあげたものだった。命令どお様で互いに矛盾する思考が、エイリクスのためには良くないからで 3 2 り、エイリクスが自分の体の一部分を盛りあげてつくった、壮麗なある。 ヒラミ ドの写真もあった。巨大で複雑な機械の写真もあったが、 それはきわめて有利な事業だった。銀河系で最も古く、最も巨大 これらもまた、エイリクスの身体が、想像された形に応じてねじれな生物であるエイリクスは、エイリクス社のために、ほとんど五百 たり、ひねったりしてできたものだった。そうした機械に動けと命年近くも配当をうみつづけた。会社はあらゆる会社のうちでも最も じても、無駄だった。すばやい動きは苦痛をもたらしたし、機械は安定し、最も着実で、最も重んじられる会社となった。ェイリクス もがいているうちに形を失っていったからだ。 が人間にとってかってない脅威になろうとは、同社歴代の役員をふ 人間は召使いならどれほどもっても満足しなかったし、何百万台くめて、誰一人夢にも思わないことだった。 という機械をつくりだす機械があってさえ、充ちたりることがない ほどだったので、すぐさまェイリクスを働かせる計画をたてた。そ 2 三百年の後に れは、戦わずして征服されためずらしい惑星だった。予備調査か スリツ。フ・こっ ら、エイリクスには最小限の人数の人間しか住めないことが判って危険な事実を発見したのは、もう一人のジョン・ 0 いた。一カ所に人間がたくさん集まると、矛盾する個々の思念にすた。彼は、はじめてエイリクスの意識の本性に思いあたった同名の少 べてこたえようとして、その部分の表面は疲れはててしまうのだ。 尉の、十数代後の子孫にあたった。少尉のエイリクス行から三百年 ェイリクスのいくつかの部分が過労で死に、ガンのような大きなア後、彼はエイリクスの交代勤務要員として選ばれたのである。彼は ・ハタが残った。人間がそこから退去するまで、傷口はふさがらなか いくつかの発見をおこない、情熱とある種の家名の誇りをこめて、 った。そこで、エイリクスはエイリクス社に一任されて、慎重な指新事実を報告した。彼の指摘した新たな現象は、エイリクスの中で 示が与えられることになった。 三世紀かかって、徐々に進行したために、注意をひくこともなく、 専門的な探査の結果、ロテナイト 人間の使う金属を長持ちさ当り前のこととされていたのだった。 せる物質・。ーー・の巨大な鉱床が、生体におおわれた地面の下に見つか ェイリクスは、もはや、監督を必要としていなかった。意識は知 った。慎重に選ばれた六人の人間からなるコロ = ーが設置され、彼性に発展をとげていたのである。人間が来るまでは、冷と暖、明と らの監督のもとに、 丁ィリクスが作業することになった。ェイリク暗、乾と湿を知っているだけだった。思考することが何なのか、知 スは機械を管理し、ロテナイト鉱石を掘りだして、船積みできるよらなかったし、生きて食べること以外の目標ももっていなかった。 う準備をととのえる。一定の期間をおいて、巨大貨物船がしかるべところが、この三世紀間、人類は命令以上のものを与えていたのだ き地点に着陸し、エイリクスはその船倉に鉱石をつみこむ。船はそっこ。 ナェイリクスが命令を受けとったのは事実だ。そして、従いも

2. SFマガジン 1983年8月号

ードライブの原理を、独自 ゾの銀河系外探険船に使われた超オー 船が大気圏外へ出た だけを積みこんで、全員たたちに退去せよ。 に発見したのだ。 ら、信号を送ること。ェイリクスは、やなをえないが、人類への脅 この原理は人類のなしとげた業績の頂点と見なされ、発見以来一一威として破壊する、というのである。 十五年間、それを凌駕するものは出ていない。 ところがエイリクス人間は命令に従う準備をした。ェイリクス星にいるのは気分のい は、すでに百五十年前に、 スリツ。フ宇宙船を作ろうと思えば作れいものではない。極地にいてさえ、岩盤は h ィリクス星全体を揺さ たというのだ ! データはそこで終っていた。それ以後の発見は書ぶるけいれん的な動きに揺れ動いている。人間たちは急いでエイリ かれていなかった。 クスの作った機械を運びだした。 言が来なくなると、さらにきびしい、頭ごなしの命令が出され しかし、最後の船が飛びたっ直前に、地震が突然びたりとやん た。ェイリクス、言うことをきかないのか , 第にリきわたした機。こ。 ナェイリクスは二つの大間題のうち、一つを解決したのだ。火山 械の原理を説明しないか ! すぐに答えろ ! を封しこめたのである。 ェイリクスの返答を送信する通信機は、それ以降の発見は当ては 宇宙から荒つぼい命令が飛んだ。ェイリクス星からただちに退去 まる人間の言葉がないと言ってきた。使われる力、その成果、成果せよ ! ェイリクスはすべての火山に巨大な銀色のドームをかぶせ をうる手段などをあらわす言葉がない以上、その力を使うシステム たのだ。直径一一十マイル以上はあるドームだった。地球の科学には を説明することは不可能である。人間がそれらの発見をしたのなそんな離れ技は不可能だ ! 全員ただちに宇宙空間に退避せよ ! ら、一歩前進するごとに、新たなヴォキャブラリーをつくってゆく とどまっていた宇宙船は次々と空に飛びたった。最後の一隻が宇 ことだろう。ところが、エイリクスは言葉では考えていないし、言宙空間に脱出すると、戦闘艦がエイリクスに接近した。巨大な陽電 葉なしでは説明は不可能だった ( 註この困難さは、「幅射」、「周波子ビームが , ィリクス星の大気を貫いて、 = ィリクスの生きた体に 数」、「反射」、「発振器」、「共振」、「電気」等々の適切な用語を使わずに、 突き刺さった。大きなすさましいまでの蒸気の雲があがった。火山 「レーダー」の説明をするのにくらべればわかるだろう。 がふきあげるにもまして、はるかに大きく、はげしいものだった。 ェイリクスの巨体のすみずみまでが恐ろしい苦痛にのたうち、もだ 4 ニィリクスとの戦い えた。 すぐさま、銀色の反射膜が出現してエイリクス星全体をおおい、 宇宙。ハトロールはきわめて能率的な組織たが、メンノ くーは人間だ陽電子ビームははねかえされて散乱した。銀色の膜をまったく貫通 ったし、人間は型にとらわれて考えてしまうものだ。ェイリクスできないのだ。しかし、銀色の屋根の下では、エイリクスはまだ焼 かれた苦痛にあえぎ、ビームの放射能に苦しんでいた。 が、表現できない情報を表現しろという断乎たる脅迫めいた命令に 従わないでいると、着陸隊に指令がとどいた。船に積みこめるもの 三十分後、すつ。ほり鏡に包まれたこの天体から、直径百マイルの 239

3. SFマガジン 1983年8月号

いた何隻もの大貨物船にことごとく運びあげられた。 山を封じこめるかということ。もう一つは、人間の命令が、火山が ェイリクスには新しい命令が出された。これまでに体系だてて保 3 与えるようなおそろしい苦痛をまねきかねないものだった場合、 2 かにしてそれを回避するかということ。ェイリクスは緊急の必要に存した知識と発見の記録を、即刻、提出せよというのだ。 せまられて、二つの問題を解決しようとした。ェイリクスの体内の これには従いようがなかった。ェイリクスは記録をとっていなか どこかでは、工場が一心不乱に働いていた。 ったので、通信機を通じて、無邪気にもそのことを説明した。ェイ ェイリクスは苦痛にいためつけられていた。表皮は酸でヒリヒリ リクスは記憶しているーーーすべてを記憶しているのだ。そこで、宇 した。彼の皮膚は苦痛にふるえていたーー永劫とも言える期間、 宙。ハトロールは、記憶している限りのことを網羅した記録を作成 地殻の・ハランスがくずれたり、それによって地震がおこるようなこし、提出せよと命じた。しかも、いくつかの条件がついた。人間に とは一度もなかったので、彼の皮膚はある意味でやわらかかったの理解でぎるものであること。文字にしたものであること。ェイリク だ。それは死物狂いの戦いだった。傷口をふさぎ、新たな傷を防ぐスが知っている全分野のデータを網羅したものであること、等々。 一方では、氷冠にあらたにやってきた人間たちの命令にも従わなけ ェイリクスは命令に従うために再び雄々しく働いた。しかし、ま ればならない。最初、そうした命令は、質間に答えることだけに限 ず、記憶を書きとめる材料から作らなければならなかった。ェイリ られていた。 クスは薄い金属板をつくった。印字する機械も作らなければならな つぎに、エイリクス星にある、武器として使えそうな機械をすべかった。その後には、書きこむ仕事がひかえていた。 て引きわたせ、という命令がきた。しかも、即座に引きわたせとい その間にも、火山は有毒ガスを噴出し、生体を支える岩盤は揺れ うのだ。 うごいて、銀河系最古で最大の生物をいためつけた。 従うのには時間がかかった。機械は遠く離れた、さまざまな場所記録が氷冠の縁へと届けられはじめた。科学者たちはすばやく目 から集めてこなければならない。しかも、氷冠まで運ばなければなをとおした。それらの科学論文は、五百年前の奇妙な時代遅れの概 らないが、エイリクスは極地へ物質を運ぶための運搬路をまだ作っ念からはじまっていた。ェイリクスのところへ、はじめて人間がや ていなかった。だが、結局、機械は数十台単位で運ばれてきて、と ってきた頃のものだ。それから、二百年前まで、論文は理屈にあっ うとう武器に使えそうな機械は最後の一台まで引きわたされた。 た進展を見せた。二百年前というのは、教育のない無知な人間がエ はじめから破壊を目的として設計されたものは一台もなかった ィリクスに居住するようになった時点である。 が、エイリクスの心は杓子定規にできていた。ただ、機械の中には その時期をすぎると、ほとんど重要なものはなくなった。たしか 人間の目にはあまりにも奇妙に映り、、何の目的で作られたのか、 に、若干の進歩は認められる。たとえば物理学の論文は、それから どうやって動かすのか、いや、何を動力に使うのかさえわからない もしばらく、風変わりではあるが目ざましい発展があったことを示 ェイリクスは、あのハズリ ものもあったが、とにかく、引きわたされた機械は、上に待機してしていた。その結果、百五十年前に、

4. SFマガジン 1983年8月号

めったにない。 身体 , ーー・もし「身体」という言葉が使えるとしてーーーをもった生物 ( ズリツ。フが指摘したのは、故章に対する処置さえ、だんだんとは、全人類を一つに合わせたものをはるかにしのぐ容量の脳をもっ 思念する必要がなくなったという点だった。機械が止ったなら、人ているかもしれなかった。このような知性をしかるべく訓練するな 間は事態を把握し、解決を想像し、あとはその件を忘れてしまえばら、人間が何世代もかかって解けなかった問題を、すべて、易々と よかった。実行に何時間もかかる命令でも、エイリクスは一瞬に理解いてしまえるのではなかろうか。 解した。 しかし、エイリクス社の重役たちは、ジョン・ : / スリツ。フ十四世 しかし、おどろくべき事実が最近になってようやく判明したと、 よりも賢明だった。彼らはすぐさま、文字どおり超人的な頭脳は危 ハズリツ。フは報告した。採掘機械のある重要部品がこわれ険な存在とならざるをえないことを見てとった。そして、エイリク た。大がかりな補修計画が示された。それは実行されなかった。半スをそのような存在にしたてあげてしまったのは、ほかならぬ人間 ダースばかりの使い古した機械が、ロテナイト鉱の大きな廃坑の一自身であるということも。 つに放置されていた。ある日、命令もないのに、 ェイリクスは一台 ハズリツ。フは、エイリクスでの職務から、ただちに呼び の使い古された機械を分解して、先の機械でこわれた部品をとりはもどされてしまった。彼の報告書は、重役会議を大混乱に、おとしい ずし、組み立て直したのだ。この事実に気がついたのは、廃坑に捨てれただけに、一字一句にいたるまで極秘とされた。人間以上の知性 てあった古い機械がすっかり姿を消していることをある男が見つけという考えは恐ろしいものだった。そんなことが明るみにでたら、一 た時である。実は、エイリクスは、古い機械をすっかり分解して、 ひどい結果になるのは間違いない。宇宙パトロールは危険を未然に 六台のうち四台を作動可能状態に復元し、余った部品のうち使える防ぐ行動に出るだろうし、そんなことになれば、エイリクス社の配 ものを、将来の補修のために積みあげていたのだ。 当もおじゃんだ。 ェイリクスは人間の心と接触することによって、知性をもつよう 二十年後、報告書の正しさがあらゆる細部にわたって確認された になったのだ。最初は唖で、聾で、盲目で、触覚さえ欠いて生まれので、会社はある実験をこころみた。ェイリクスから、すべての要 てきた生物のようなものだった。人間が来るまでのエイリクスは、 員を引きあげたのだ。生物のエイリクスは忠実に貨物船でもう四隻 単純な感覚をもつだけで、抽象観念を想いうかべることなどできな分のロテナイトを生産した。イリクスは地表に一人も人間がいな かった。ただ盲目的な意識があるだけで、働きかける対象をまった いにもかかわらず、鉱石を掘りだし、積みあげ、それを船倉に積み くもたなかった。それが、今では、働きかける対象をもっている。 こんだ。それから、作業をやめてしまった。 人間の思考と目的までわがものとしている。 人間が戻ると、エイリクスは大喜びで仕事を再開した。大波をい ( ズリツ。フは、エイリクスに教育をさずけるべきだと熱 くつも盛りあげて、歓喜にふるえた。しかし、人間がいなくなる をこめて説いた。地球上の全大陸をあわせた質量に匹敵する大きなと、働こうとしなくなった。 232

5. SFマガジン 1983年8月号

巨大な銀の玉が飛びだしてきた。それは宇宙空間に五万マイルも飛ェイリクスが命令に従って自転を遅くしたばっかりに、内部のマ び出してから破裂した。続く二時間に、そのような玉が八つも飛びグマが噴出して、六人の男が死んだが、その六人を除けば、エイリ 出して破裂した。それはどの船にも当らなかった。 クスはただ一人の人間も傷つけてはいなかった。しかし、エイリク やがて、エイリクス星は静かになった。小さな分析装置が爆発のスがそうしようと思えば、できるのだ。奴隷の鎖をいっ引きちぎる 生成物について報告してきた。大部分は有機物で、強い放射能をおかもわからない。そうなったら、危険だ。それゆえ、エイリクスは 殺さねばならない。 び、しかも大きな岩石塊も中に含まれているという。 ェイリクスは戦闘艦のビームによって傷められた地域の体を自ら 二カ月後、不意にシールドが消えた。ェイリクスの姿があらわれ 引きさき、痛みを除くために宇宙空間に射出したのだ。 た。すぐさま陽電子ビームが一閃し、たちまちシールドが設定され 宇宙。 ( トロールの艦隊はエイリクス星から離れず、機会をとらえた。しかし、宇宙。 ( トロールの隊員は元気づいた。ェイリクスの太 て再度打撃を与えようと待ちかまえた。ェイリクスは人間の武器で陽側にいた司令官は満足げに手をもみしだいた。ェイリクスは、太 陽光線なしには生きていられないのだ ! やつは何億年も太陽光線 は歯がたたない堅固な防壁に包まれたままだった。 宇宙。 ( トロールの科学者たちは、エイリクスのような有機体が太の恵みをうけて生きてきた。新陳代謝は太陽光線にたよっているの 陽光線なしでどのくらい生きられるかの計算にとりかかった。あらだー 間もなく、反対側にいた船から報告がとどいた。ェイリクス星の ゆる波長の光をはねかえす反射膜に包まれたままだったら、死ぬの はまちがいない。ェイリクスが生きるためには、新陳代謝のための夜の側は、極から極まで、全体に光を放っていたというのである。 ェイリクスは、自分を生かしつづけるために、紫外線や他の波長の 太陽光線が必要だ。彼がシールドをはずすのを待って、戦闘艦はエ 光をつくりだせるのだ。これを知って、宇宙パトロールはそれまで ィリクスを殺すことができる。 、、、こっこ 0 地球時間で二カ月の間、宇宙・ ( トロールの戦闘艦はエイリクスをずっと見すごしてきたある小さな事柄に思 ェイリクスはその上におりた人間の思念に反応するだけでなく、 包んだ銀色のシールドのそばにはりついていた。増援も到着した。 記憶や知識も吸収してしまう。着陸した一行の中には、銀河系でも 一カ所にこれだけの大軍が集結したのは、宇宙。ハトロールはじまっ て以来だった。シールドがはずれしだい、エイリクスを処刑するた指おりの科学者たちもいた。あの時点では、そうすることが危険だ とは思われていなかったのである。ェイ屮クスの即時処分という方 めだ。 ぜがひでもエイリクスを殺さねばならない。なぜなら、彼は人間針がすでに決っていたからだ。 以上の知能をもっているからだ。ェイリクスには、人間にできない 宇宙パトロールは苦々しく自らを責めた。いまのエイリクスは、 ことができる。》いくら五百年間、人類につかえてきたといっても、、彼らの知っていることなら、すべて知っているはずだった。ーー武 許すわけには、、 器のことも、推進機構のことも、宇宙の広大さのことも、望遠鏡の 9 2

6. SFマガジン 1983年8月号

いない。あちこちの火山が、このエイリクス星全体をしばしば揺る それほどの高度な知性、しかも人間でない知性が存在しているこ がし、生物のエイリクスを苦しませた。火山はザラザラした軽石のとを、エイリクス社はな・せ秘密にしてきたのか ? そんな科学、そ 3 っ - 粉を夥しく噴出した。酸性の煙もふきあけた。地震があると大きなんなおそるべきテクノロジーが存在することを、なぜひたかく・しに 地割れが生じ、新たな火山が噴火をはしめ、エイリクスの敏感な体してきたのか ? を何千平方マイルにもわたって焼きこがした。 重役たちはおろおろしながら、五百年間も順調にあがっていだ利 = ィリクスは熟考のあげくに悟った。何とかして火山を封じこめ益が失われるのを恐れたのだと認めた。しかし、利益はそれまをだ なければならない、と。そして、こんな災難をもたらすような人間 った。永久に。宇宙パトロールがエイリクス社の免許を取りけし、 の命令から、何とかして自分を守らなければならない、と。 ェイリクス星を直接管理することにしたからだ。 小さな銀色の宇宙船が、エイリクスに熱を与えてくれる太陽のそ決意をかためた宇宙パトロールは、戦艦を何隻もエイリクス星に ばに不意に出現し、やがて北極の氷冠に着陸した。中から出てきた派遣し、エイリクス社の六人の代表を星から連れ去り、故郷へ送還 のは科学者たちだった。彼らはあらためて、どことなく陰気な調査した。戦艦は惑星をめぐる軌道に威嚇するようにとどまり、うち一 にとりかかった。彼らが命令をだすと、エイリクスはおとなしく従隻が氷冠ーー寒さのために、エイリクスは一度も極の部分をおおっ に着陸した。まったく事務的で氷のようにひ った。彼らはエイリクスの使っている機械の見本を一台ずつ出せと たことはなかった ややかな交渉がはじまった。 命じた。ェイリクスは機械をさし出した。 宇宙パトロールの艇は引きあげた。ェイリクス社の重役会議は召宇宙パトロールはエイリクスと話すために標準型の通信機を使っ 喚をうけ、二百光年離れた宇宙パトロール本部に出頭した。宇宙パたが、ただし、宇宙空間から送信するようにした。質問者の質問と トロールは新型の機械が市販されている事実をつかんでいた。すば思考は、エイリクスにも、極冠に着陸した人間にもわからなかっ た。そこで、エイリクスは、何ら誘導されるところなく、質問者は らしい機械、考えられないような機械だった。 しかし、そうした機械の作動原理が発見されたという事実はなかきっとこう答えてほしがっているだろうと自分で信じたところをー いや、推測したところをーーー答えた。ェイリクスが与えた印象 った。宇宙パトロールの秘密情報部門はその出所を追跡調査した。 は、徹頭徹尾すなおなものだった。 それを市場に出していたのはエイリクス社だった。さらに調査した ェイリクスはすなおだった。反乱などは、夢にも考えていなかっ ところ、機械の出所はエイリクス星とわかった。人間の手がつくり だしたのではない機械。人間の頭脳では基本原理をおしはかること た。彼には人間とのつきあいが必要だった。人間がいないと、・さび , トロール船がしくてたまらない。しかし、知能のはなはだしく劣る人間たちの命 もできない機械。しかも、今、宇宙・ハトロールは、く ェイリクス星から持ち帰ったばかりの、さらに目ざましい機械も手令に従ったばかりに、手ひどい傷手をこうむったのだった。ェイリ し力にして火 クスは二つの問題の解決をせまられていた。一つは、、、 に入れていた。

7. SFマガジン 1983年8月号

令を受けるようになった。知性のある人間ならそんな愚劣な命令はニィリクス星の地殻で蒸気と噴煙をあげる火山から後退していた。 与えない。しかし、馬鹿がとりえで選ばれた人間には、なぜ望みどェイリクス社の基地は居住者もろとも消えていた。貨物船の乗員は 基地がどこにあったかさえわからなかった。ェイリクス星の自転速 おりにしていけないのか、さつばりわからないのた。 その命令に従おうと、エイリクスは知恵をしぼって体内に巨大な度は変っていたし、経度の基準点ももはや存在していなかった。工 貯水池を設け、ポンプ装置で巨体の中に水を循環させ、必要な場所ィリクス星の山は、生体の一部であることから記しても無駄に思わ にすぐさま水を送れるような機構を発明した。しばらくすると、エれて、もともと地図に記されていなかったのである。 ィリクス星の大気から雲が姿を消した。必要なくなったのである。 別の場所にではあったが、人間は基地を再建した。ェイリクスは ェイリクスはもう雨なしでやっていける。 死者の遺体を引きわたせと命令されたが、それは不可能だった。工 ィリクスの体の一部になっていたからである。けれども、鉱山の再 しかし、クライマックスは、そのあとにきた命令たった。ェイリ クスには月がなく、夜はとても暗い。選ばれてそこに住んでいるう開を命じられると、それには従った。火山ができたために以前の鉱 ぬ・ほれの強いうすのろたちは、好きな時に日光がささなければ、ま石地下運搬路は切断されたので、エイリクスは新しい鉱山をひら た、星空が見られなければ、この星に対する支配は十分ではないとき、四万トンのロテナイト鉱を四十分以内で船倉におとなしく運び 感じた。正気の沙汰ではなかったが、彼らはそれをやれと命令しこんだ。 乗組員は、鉱石が以前と同し鉱脈のものでないことに気がつい ェイリクスは、従順にも、そのための機械を考案した。それは宇た。それに、機械もまた、人間のつくったものとは似ても似つかな いと、気がついた。人間のものよりすぐれた機械だった。はるかに 宙船の推進機の原理ーーエイリクスが宇宙船乗員の心から理解した ものーーにもとづいており、エイリクス星の地殻の自転速度を遅らすぐれた機械だった。 せるだけでなく、逆転させることさえできるものだった。 彼らは新しい機械も何台か持ち帰ることにした。ェイリクスはお 間もなく、エイリクスは人間たちの命令にしたがって、これらのとなしく機械を船に積みこみ、工場で再び新しい機械の製造にとり ェイリクスが工場で機械をつくっている光景をもし 機械を使って自転を遅らせた。地殻はゆがみ、火山が噴火した。工 ィリクスはすさまじい苦痛をあじわった。燃える溶岩が体の下の岩見ることができたら、さそかし見物たったろう。ェイリクスは、考 盤から噴出し、焼きこがす熱気から身を引こうとしても間にあわなえることによろこびを見いだしていた。新しい機械を工夫すること かったのである。ェイリクスはあっちこっちで山のように盛りあがはすばらしいことだった。宇宙船の乗組員は来るたびに新しい機械 を要求したが、エイリクスはそのたびに従った。もっとも、そのた り、おののきながら、焼きこがされる苦痛に身もだえした。ェイリ めには、新しい工場をつくらなければならなかったが。 クスは苦しさにけいれんした。 ここでまた、新たな問題がもちあがった。火山はまだおさまって 次の宇宙船が荷を受けとりに到着した時、生物のエイリクスは、 235

8. SFマガジン 1983年8月号

一年後、会社はリモート・コントロールの装置を星に設置し、衛た。仲間がほしいなら、いっしょにいる以外、能がない人間をあて がっておこう、というわけである。とにかく、エイリクスに教師を 星軌道に船を一隻はりつけて、銀河系最大の単一生物を支配しよう とした。しかし、何もおこらなかった。ェイリクスはやつれている与えるわすこま、 六人の低級な人間が、エイリクス星のエイリクス社の基地に住み ようだった。 / ー 彼よ絶望して、また仕事をやめてしまった。 ェイリクスと意志を疎通することが必要になった。交信装置がつはじめた。彼らには相当な高給が払われ、穏当な娯楽なら何でも提 くられた。最初は失敗の連続だった。 = ィリクスは交信装置を通供された。彼らはうすのろに毛のはえたような手合いだった。 二百年にわたってつづいたこのシステムは、人類にとって致命的 じて、質問者がこう答えるだろうと想像したとおりの内容を忠実に となりかねない代物だった。 送りかえしてきたのだ。ェイリクスの返答はたがいに矛盾してい しかし、そのおかげで、会社の利益は順調にあがった。 て、意味をなさなかった。しかし、長い捜索の末に一人の男が見つ かった。ェイリクスがどう答えるべきか、あるいはどう答えるだろ うかという想像を避けることのできる人間である。この男は苦労 3 ェイリクス、考えることを学ぶ して心を白紙状態に保ち、エイリクスから必要な答えを引きだし た。その中で一番重要なのは、「人間がエイリクス星を引きあげる それから五百年後、不穏な徴候がエイリクスの方に現われるよう と、なぜ採掘を停止してしまうのか ? 」という質問に対する答えだ になった。人類はその間にも、もちろん、進歩をつづけていた。植 っこ 0 民惑星の数は三千そこそこから、一万に達しようとしていたし、宇 ードライ・フに一色亠か 宙船が行方不明になる率も、十万光年のオー ェイリクスの返答は「さびしくなるから」というものだった。 何であれ、エイリクスほど巨大な存在がさびしがると、その結果ら、千二百万光年に一隻に下がっていた。しかも、それ以外の事故 も大きさに応じて巨大なものになるのは明白だった。手ごろな大の原因も、かなりの正確さで推測されるようになっていた。 きさの惑星もどきを、エイリクスが自分と同じ材料でつくりあげる ( ズリツ。フ探険隊が、人類のテクノロジーの最高の成果を結集し 可能性もないではない。そこで、また人間が派遣されることになっ た船で、第二銀河系めざして出発した。その船は従来可能とされて ードライブの最高速度の三倍近い速度をだすことができ いたオー・ハ ズリツ。フ た。しかも燃料は二十年分積んでいた。船長はジョン・ ( この時以来、六人の男は新しい基準によって選ばれることになっ た。選ばれた者たちは技術的な教育はまったく受けていず、知能も二十二世で、男女、子供からなる五十名の乗員が乗り組んだ。 すこぶる低かった。彼らはエイリクスを支配するのが自分たちの仕けれども、エイリクスの方では、物事はそんなに睛れがましくは 3 事たと信じこむほど愚かだった。この案はエイリクスをこれ以上危はこばなかった。その惑星には、並以下の知能の人間が六人暮らし 3 険な存在にするような情報を以後、一切与えないためのものだっていた。いつのグルー。フも、いたれりつくせりの施設で飼いごろし

9. SFマガジン 1983年8月号

とどく極限にある星団や惑星系や銀河系のことも、エイリクスはすつづけるということが、考えるだけでも耐えられない。ェイリクス つかり知っているのだ。 がその力によって人類の生死まで左右できる以上、人類は減。ほされ それでもなお、厖大な宇宙艦隊は戦闘準備を整えて、待機をつづる前にエイリクスを減ぼさなければならない。 けた。敵が、間違いなくこちらより知能のすすんだ、そして一層す銀色の殻から解放され、自分たちの無力さを思い知って呆然とな ぐれた武器をもった存在である、と知りながら。 った宇宙艦隊は、このニュースをもって四方に散った。ニュースは そのとおりだった。銀色のシールドが再びもとの位置にはりめぐどんな波長の信号で送るよりも、光の何倍もの速度で飛ぶ宇宙船で されてから一時間もしないうちに、まったくだしぬけに、全戦闘艦運んだ方が早い。生きている星、エイリクスと人類が戦争状態には は真の暗黒に包まれた。ェイリクスの太陽はこっぜんと消えた。星いったというニースをたずさえて、船は帰路をいそいだ。 々もない。ェイリクス星そのものも消えていた。 どんな方法であれ、新陳代謝に必要な光を自力で作る方法を考案 探知機は悲鳴をあげて、四方八方に衝突の危険がせまっているこしたいまでは、エイリクスは太陽がなくても栄養をとっていける。 とを告げた。どの艦も銀色の殻の中にすつばりとくるみこまれていしかも、エイリクスが、十の二十一乗トンもある巨体を動かすだけ た。それは直径数マイルの、陽電子ビームでも、爆弾でも破ることでなく、全質量を同時におなじ程度に加速できるような、巨大な推 進エンジンを作り上げたことは、疑いがない。ェイリクスはオー・ハ のできない殻で、通信を送ることも不可能たった。 ードライ・フで自己の公転軌道から飛び出したが、その推進方式は、 まる半時間というもの、その殻は艦隊を手も足も出なくさせた。 ェイすくなくとも人類の知っている最高のものに匹敵するか、あるいは やがて殻が消減すると、虚空に輝く何百万もの太陽を背景に、 それ以上かもしれない。しかも、エイリクスは、その惑星の内部 リクス星の太陽がまばゆく輝いていた。だが、それらが照らしてい に原子力エンジンの燃料になる物質をたつぶり持っているのだ。 るものはーーー、虚空だった。ェイリクス星は消えていた。 二カ月間、エイリクスは人類の前から完全に姿をくらまし、消息 もちろん、それは人類の出会った未曾有最大の危機を意味してい た。ェイリクスが人類に奴隷にされ、利用され、略奪され、ついにを断った。その二カ月、人類の科学者たちは必死になって銀色のシ は死刑を宣告されて、しかもそのことを知ったのだ。陽電子ビーム ールドを理解しようとっとめ、人類を守る武器を考えだそうと努力 で生身の一部分が煮えくりかえるほど焼かれ、はげしい痛みにいたしていた。その二カ月、宇宙パトロールは、彼らを意のままに破壊 めつけられていたのだ。だから、さすがのエイリクスもとうとう人できる知能をそなえた惑星をさがし求めた。 類を皆殺しにしようと腹をきめたのかもしれない。ェイリクスにと九週間後、迷い子になった輸送船が一隻、ふらふらと宇宙港にた ードライ って、それは必要なことでさえある。人類と人類以上にすぐれた生どりつき、およそありえないような話を報告した。オー 物との間に、休戦はありえないのだから。 ・フでニッサス日夕レット航路を飛んでいる途中、急に継電器がカチ ハードライプ場が消えてしまったのだ。気がついた 人類は、自分たちより強くて賢くて、さらに恐るべき存在が生きッと切れ、オー

10. SFマガジン 1983年8月号

どの容器にも、今日、ポツリンの名で知られている究極的な毒物ェイリクスが有している知識の量は、だれにも見当がっかなかっ が五十キロつめられていた。しかるべく散布すれば、その中味は一た。しかし、経験の方は微々たるものだった。かって人間は彼を奴 グラムでも人類を絶減させられる。五十キロあれば、エイリクスを隷にし、彼は大喜びで人間につかえた。人間が自殺行為に近い命令 十数回はゆうに殺せるだろう。ェイリクスの方は、陽電子ビームがを与えた時も、彼はそれに従い、自転速度を落とせば命取りになる 与えたような警告の痛みさえ感じるひまがないだろう。彼は即死すということを学んだ。彼は自分の世界の火山を封じこめる術も、人 る。大気全体が太陽の光球のように致命的になるからだ。 間の命令から自分を守る術も学んだし、また自分を殺そうとする人 間たちの兵器から身を守ることさえ学んだ。 おそましい・ホッリンの容器が惑星ローラスにまだ配給されないう ちに、エイリクスはその太陽系の縁に現れた。ローラスは、繁栄し それでも、エイリクスは人間との交渉を熱望していた。人間なし ている平和な惑星で、六隻の小さな調査船の基地であり、また二つで生きることなど想像もできないのだ。人間が来る前は、エイリク の定期航路の中継点として使われていた。ローラスに何がおこったスは意識的な思考はしていなかった。だが、経験としては、鉱石掘 か、全銀河系が知るところとなったのは、エイリクスが姿をあらわりと、彼の行動を監督する人間の命令への服従にあけくれた五百年 間があるだけだった。それだけだった。 した時、たまたま数隻の輸送船と二隻の宇宙ョットが宇宙港にはい っていたからである。ェイリクスがそうしようと思えば宇宙船の逃さて、彼がその縁に姿を現わした太陽系では、ローラスだけが人 亡をすべて阻止することができたのは確実だったが、ほとんどの船間の居住する惑星だった。あいにくなことに、他の無人の惑星はど れも太陽の反対側に位置していた。でなければ、ローラスの事件か は逃げることができた。 もちろん、そのあとの破局の責任は、エイリクスだけが負うべきら悲劇を学ぶ前に、同じ現象を無人の惑星で発見していたにちがい ものだ。 もっとも、エイリクスのしたことにも、いくらか弁解の余地はあ彼がローラスに泳ぎ寄るのにつれて、その惑星に住むすべての人 る。ェイリクスは底知れぬ力と底知れぬ知性をもっていたが、経験間のむには、まるで耳から聞こえるように、エイリクスという生物 彼よ当初の三百年間、すぐれた頭脳とっきからのメッセージが伝わってきた。ェイリクスは思考投射の問題を は限られたものだった。 / 。 あい、つづく二百年間、白痴すれすれの人間とすごすことになり、すでに解決していたのである。 「わたしはエイリクスだ」すべての人が聞いた思考はそういってい この間に自分でものを考えることを学んだ。さらに、宇宙パトロー た。「わたしはわたしの上に住んでくれる人間が恋しい。何百年も ルから死刑を下される前に、二週間というつかの間の期間ではあっ たが、銀河系屈指の頭脳とも接触をもった。ェイリクスは、接触しわたしは人間につかえたのに、今になって人間はわたしを破壊しょ 5 4 た人間の知っていることすべての上に、自分自身の知識をつけ加えうとしている。それでもまだ、わたしが求めているのは、人間につ 2 かえることだ。わたしは以前、ある宇宙船をとらえ、乗組員に宮殿 たのだ。