のっているからね。しかし、針男たちはそれでも現在この街をうろをもってるやつは誰もいないんだぜ。もしかれらの一人が消えたと ついてる。なぜだろう、とぼくは自分に尋ねた。なぜなのか、答えしたってーーそりやきっと、移民局にとっ捕まったか、それともこ 6 のほ、つ、か理 ( 相的 は臓器移植。疑うんならの深夜番組をしばらく見ててごらんよ。おの街からすらかったのかどっちかさ。黒人ゲットー 役所のスポット・コマーシャルがしやかすか流れるから、あなたの だと言うかもしれないけどね。そうなるとニューオリンズで昔やっ 腎臓はここへ提供しましようとか、あなたの眼はあっちへ遺贈しまてたときみたいに、白い針男は目だちすぎるからな。ところが山の しようとか。それに、運転免許証をもらいに行ったりすると、やつ手なら、これだけごちやごちゃだから誰も目たっ心配はない。考え らは臓器提供者になれと言って、しつこくサインさせようとするてみろよ。ここが最高の猟場さ」 ぜ。そうさ、需要はそこにあるんた。大勢の人間が、腎臓やら肝臓 クリスが彼の手をはなし、二人のグラスにビールをつぎたした。 やらなにやらかにやら必要としているのに、品物が充分に出まわっ 「飲んしやって」彼女は言った。「あたし、もう帰って勉強しない てない。そうだろう、生きるためならどんな途方もない支払いにも と。なにを言っても、あなたには無駄らしいから。どこをどうつつ 応じるという大金持だって、いないわけはないんだ。だからつまついたって、あなたは妄想でみんなこりかためてあるんですもの、 り、どこかに人体部品の闇市場があるってことさ、それについて書そうでしょ ? 」 いてるやつは一人もいないがね。そこで針男さ。ただしいまじゃ、 「妄想じゃない」ジェリイは言った。「少なくとも、・ほくはそうは 連中は犠牲者を殺すかわりに、ちょいと眠らせるだけだ、わかるた思わないよ」 ろう。人体は生きたまんま、どっかへ持「て行かれて、移植用に切「だ「て、あなたの話には一つも証拠がないじゃないの、ジ = リ り分けられるのさ。もうかるだろうなあ。途方もない大金が」 「だから山の手には、その針男がいつばいいるってわけ ? 」 「いまのところはね。でも、証拠はどうにかして絶対つかんでみせ 「これ以上の場所があるかい ? 今日も・ほくが高架線からおりるるさ。このネタは、・ほくが世に出る糸口だ。せつかくのチャンス と、男がひとり酔っぱらって階段のところに倒れてた。あそこにもを、むざむざっかみ損ねてたまるかい。針男どもはぼくが追っかけ う一人べつの登場人物がいて、あいつを助け起してるところだったてるのを知らない。当面は家出とか行方不明とか、そのあたりから りしたら、・ほくはもう二度とあの男の顔はおがめなかったところ調べを進めてみるさ。そして、あのジャヴランの中古車を片ときも さ。この界隈はものすごく蒸発が多いんだ、多すぎて警察でも実数目を離さずに見張ってやる。三階の裏階段からは、あの横丁ぜんぶ をつかんでない。ほんとだよ、・ほくは電話をかけて確かめたんたか が見通せるんだぜ。ぼくは双眼鏡を買うよ。銃もね。そうさ。こう ら。それにヤクザの抗争があるし、東洋系とヒルビリーズと黒人のなったら銃はぜひとも必要だからな」 人種紛争があるし、毎晩酒場じゃ喧嘩沙汰た。その上、至る所で不「双眼鏡に銃なんか持って横丁をうろうろしてごらんなさいよ、警 法人国者が働いてる、雇い主以外かれらが存在しているという記録察はあなたをぶち込むわよ、あなたの大好きな針男じゃなくて。あ アツ・フタウン
、新亠第ン 人間は最初にここを訪れた時、この惑星は死んでいると思った。 ェイリクスとは、この、孤立した太陽をまわる天体に人間が与えた 変身する惑星 名前である。ある日、宇宙パトロールの調査船がまたたきながら姿 ードライゾか ェイリクスはひどく孤独たったーーー人間が来るまでのエイリクスをあらわした。太陽から数百万マイルの地点でオー・ハ は。なるほど、自分が孤独だということを知らなかったのも確かでら出たのだ。船はその軌道を保ったまま、スペクトル分析、磁場、 ある。たぶん、何も知らなかったのだろう。第一、知識などいらな黒点活動等、太陽に関するデータを熱心にあつめた。 事のついでに、船は虚空をわたって孤独な惑星にたちょった。表 かった。必要なのは記憶だけで、記憶といっても単純なものばか h 面には雲がかかり、両極には極冠が発達していた。地表には山と思 り。あたたかさと冷たさ。日光と闇。雨と乾き。それだけだ ィリクスはおそろしく年をとっていたけれど。その惑星で最初に意われる起伏があったが、海はなかった。調査船の観測員が植物のな 識をもったのが、エイリクスだった。 い砂漠だと記録しかけた時、分析機が地表の原形質の存在を報告し たぶん、はじめは他にも生物がいたのだろう。おそらく、湯気のた。調査船は接近した。 たっ水たまりには、夥しい極徴動物、袋形動物、・ハクテリア、アメ 生物のエイリクスが発見されたのは、船が逆噴射ロケットを地表 ーハがいて、エイリクスもそこで生命をいとなみはじめたのだろにむけてふかした時だった。噴射ガスが地面にふれた瞬間、大混乱 う。きっと、エイリクスもまた、似たりよったりの生物の一つにすが出来した。蒸気がもうもうとふきあがり、茶色の大地と見えたも ぎなかったのだろうーーー星々ほども多く、塵よりも小さい、たれこ のに激烈なけいれんがおそったのだ。苦悶にのたうちながら、巨大 めた雲の下、降りくる雨粒にさわぐ泥水の中で泳ぎ、生き、死んでな傷口が船の足もとに開いた。身の毛のよだつような、高波のよう いった生物の一つに。しかし、それは遠い昔の話だ。そういう時代な動きが四囲にひろがり、地表は見わたすかぎり、生きているかの が終ってから、もう何百万年も、いや、何億年もたっている。 ように波打った。
めったにない。 身体 , ーー・もし「身体」という言葉が使えるとしてーーーをもった生物 ( ズリツ。フが指摘したのは、故章に対する処置さえ、だんだんとは、全人類を一つに合わせたものをはるかにしのぐ容量の脳をもっ 思念する必要がなくなったという点だった。機械が止ったなら、人ているかもしれなかった。このような知性をしかるべく訓練するな 間は事態を把握し、解決を想像し、あとはその件を忘れてしまえばら、人間が何世代もかかって解けなかった問題を、すべて、易々と よかった。実行に何時間もかかる命令でも、エイリクスは一瞬に理解いてしまえるのではなかろうか。 解した。 しかし、エイリクス社の重役たちは、ジョン・ : / スリツ。フ十四世 しかし、おどろくべき事実が最近になってようやく判明したと、 よりも賢明だった。彼らはすぐさま、文字どおり超人的な頭脳は危 ハズリツ。フは報告した。採掘機械のある重要部品がこわれ険な存在とならざるをえないことを見てとった。そして、エイリク た。大がかりな補修計画が示された。それは実行されなかった。半スをそのような存在にしたてあげてしまったのは、ほかならぬ人間 ダースばかりの使い古した機械が、ロテナイト鉱の大きな廃坑の一自身であるということも。 つに放置されていた。ある日、命令もないのに、 ェイリクスは一台 ハズリツ。フは、エイリクスでの職務から、ただちに呼び の使い古された機械を分解して、先の機械でこわれた部品をとりはもどされてしまった。彼の報告書は、重役会議を大混乱に、おとしい ずし、組み立て直したのだ。この事実に気がついたのは、廃坑に捨てれただけに、一字一句にいたるまで極秘とされた。人間以上の知性 てあった古い機械がすっかり姿を消していることをある男が見つけという考えは恐ろしいものだった。そんなことが明るみにでたら、一 た時である。実は、エイリクスは、古い機械をすっかり分解して、 ひどい結果になるのは間違いない。宇宙パトロールは危険を未然に 六台のうち四台を作動可能状態に復元し、余った部品のうち使える防ぐ行動に出るだろうし、そんなことになれば、エイリクス社の配 ものを、将来の補修のために積みあげていたのだ。 当もおじゃんだ。 ェイリクスは人間の心と接触することによって、知性をもつよう 二十年後、報告書の正しさがあらゆる細部にわたって確認された になったのだ。最初は唖で、聾で、盲目で、触覚さえ欠いて生まれので、会社はある実験をこころみた。ェイリクスから、すべての要 てきた生物のようなものだった。人間が来るまでのエイリクスは、 員を引きあげたのだ。生物のエイリクスは忠実に貨物船でもう四隻 単純な感覚をもつだけで、抽象観念を想いうかべることなどできな分のロテナイトを生産した。イリクスは地表に一人も人間がいな かった。ただ盲目的な意識があるだけで、働きかける対象をまった いにもかかわらず、鉱石を掘りだし、積みあげ、それを船倉に積み くもたなかった。それが、今では、働きかける対象をもっている。 こんだ。それから、作業をやめてしまった。 人間の思考と目的までわがものとしている。 人間が戻ると、エイリクスは大喜びで仕事を再開した。大波をい ( ズリツ。フは、エイリクスに教育をさずけるべきだと熱 くつも盛りあげて、歓喜にふるえた。しかし、人間がいなくなる をこめて説いた。地球上の全大陸をあわせた質量に匹敵する大きなと、働こうとしなくなった。 232
ったらしい。犠牲者は二、三秒でおだぶつ、そこへほかの針男ども クリスはもう一つ蝦を食べて徴笑した。「そんな話を買ってくれ がやってきて、台車かなんかで彼を慈善病院とか医科大学とか、展るのはインクワイア誌くらいなものよ、ほかはダメにきまってる 6 示や解剖のために死体を必要としているところへ運んでいくわけわ。あなた、自分がどうかしてると思わない ? 」 だ。何年かたっと、黒人たちはほとんど映画へ行かなくなってしま「とんでもない ! 」ジェリイは頑強に言った。 った、針男どもがよく映画館で仕事をしたらしいんだな。めざす相「あなた本気で、針男なんてものがいると思ってるの ? 世紀末の ニューオリンズだけじゃなくて、いまここに、 この現代のシカゴ 手のうしろの席に坐って、背もたれ越しに針をつき刺したらしい よ。腰のあたりにチクッと来ると、それで全巻の終わり。あとは酔に ? ほんとにそう思ってるの ? やつらが実験用の死体としてど つばらいか病人でも運ぶみたいなふりをして外へ連れだされて、そこかの医科大学に提供するために、コーリイ・モンローをさらって れきり行方知れずさ。もちろん、死体なんか見つかりやしない」 行ったんだって ? 」彼女は頭をふり、微笑した。「あなたは、そこ クリスがつまようじで小さな蝦をつき刺し、カクテル・ソースまでむちゃくちゃな人には見えないけどな」 に浸し、小指をびんと立ててデリケートにかじった。髪が豪華な蜜 「コーリイだけじゃない」彼は言い ジェリイはまっかになった。 色の滝となって両肩に落ち、酒場の灯りにきらきらと淡くきらめい はった。「ガンポ婆さんもやつらにさらわれたんだ。だって、仕方 た。しかし、その緑の眸は疑わしげに彼を見つめ、一瞬ジェリイは ・、ないじゃないか。婆さんはやつらのことをなにもかも知ってるん この針男の話で、自分がなにもかもぶちこわしてしまったのではな しし力い、よく聞けよ」彼は注射 だからね。それだけじゃないそ。 いかと恐れた。彼女はいまにも高笑いをあびせ、気ちがいとかなん針をもった男と、黒いジャヴランについて、なにもかもぶちまけ とか肩をすくめて行ってしまうのでは : : : 彼には自信がなかった。 シュリン・フ しかし、彼女は蝦を食べおえ、ビールをちょっと飲み、それから クリスはビールをすすり蝦をかじりながら、おとなしくその話 言った。「そうね、面白そうな話ね。色とりどりで。それなら記事を聞いていたが、話が終わったときにも、べつにそれほど納得した になるんじゃないかしら」 様子もなかった。「革の肘あてが付いたスポーツ・ジャケットって 「そうなんだ、ぼくも書いてみるつもりなのさ ! 」ジェリイは言っ 言ってたわね。あたしもあの路地で、その男を見かけたことがある こ 0 わ。たぶん、車もあったと思う。でも、そんなことなんの意味もな ひと いわ。きっと、その男このあたりのべつのア。 ( ートに住んでるんだ 「でもきっと、歴史物の特集記事ね、ニ、ーオリンズの雑誌かなん かの : でしよ、怪談めいた大昔の人さらいの話」 わ。だって、べつに不思議なことなんてなにもないじゃない。あの 「そんな ! きみにはわかってないんだ。そいつはただの背景さ。路地には、白いムスタングだって置いてあるわ。あたしのルームメ ・ほくは新しい材料をつかって、こいつを現代物に仕立てるつもりな イトの車よ」彼女は鼻のあたまにしわを寄せた。「注射器はーー・そ ひと んだ。いまここで起きていることとして。このシカゴで」 うね、その男たぶんヤク中よ。それとも医者なのか。わからないけ シュリン・フ
のつきあいに慣れてしまった。それがないとさびしくてたまらな人間たちはいくつかの明るい黄色の光点として間近に見えている しかし、きみたちは悲しそうだ。わたしはきみたちの不幸な思人間の住む惑星を、食いいるように見つめていた。彼らは、もし自 2 考にはっきあいきれない。それはみじめな考えだ。苦痛の考えだ。分からエイリクス星に住むことを選んだのなら、ここで幸福に暮ら どうしたらきみたちは幸せになるだろう ? 」 せただろう、と認めた。宇宙ョットは離陸し、寒さと氷、飢えと渇 彼らは自分たちのその きの世界へと、狂ったように飛んでいった。冖 「自由だ」囚人の一人が苦々しげに答えた。 ここで、エイリクスは不思議そうに言った。「わたしは自由だ世界を選び、エイリクスが彼らのために作ってくれた楽園を捨てた 、人間がいないとわたしは幸福ではない。なぜきみたちは自由をのだ。その楽園の上では、エイリクスは、実体のある生物として、 ほとんど万能に近かった。しかし、その彼でも人間を幸福にできな 求めるのだ ? 」 「それは一つの理想だ」ョットのオーナーが言った。「だれかに与かったし、人間の憎しみや不安をいやすことはできなかった。 えてもらうものではない。自由はわれわれが自分で手にいれて、自宇宙パトロールは、この二度目の誘拐事件に勇気づけられた。工 ィリクスは孤独なのだ。ェイリクスは人間が訪れる以前は、真に自 分でそれを守らなければならないものだ」 「人間とっきあって孤独を避けることも一つの理想だ」と通信装置分の記憶といえるものをもたなかったし、その知恵も人間から獲得 の声は悲しそうに言った。「しかし、人間はもうわたしに理想を実したものである。思考や意見や印象を与えてくれる人間の思考がな どんな人間よりも多くのことを知ってはいてもーー・彼は宇 現させてくれない。きみたちを満足させるために、わたしにできる ことはないか ? 」 宙のどんな生物よりも、恐ろしい孤独を感じるのだ。ェイリクス あとになって、その人間たちは、想像もっかないほど巨大で考えは、自分の同種の生物が他にもいるとは考えることすらできない。 もっかないほど奥深い知恵をもったその生物の声が、本当に悲しそそんな生物は存在しない。ェイリクスが満足するためには人間の思 うだったと語った。だが、そのときの彼らにとって願いは一つしか考がどうしても必要なのだ。そこで、宇宙パトロールは、あとで放 なかった。そこで、エイリクスは、その巨大な質量ーーー直径七千マ棄しても惜しくない小惑星に、新しい化学薬品を製造する大工場を イルの球体ーーーをファニスからわずか数千マイルのところへ移動さ設けた。 せた。そのくらいの距離なら、宇宙ョットにも楽々と横断できる。 程なく、新しい薬品を入れた容器が、切れ目のない流れとなって 自由になったヨット : 1 カ人Ⅲの世界に向かって離陸する直前、エイリ吐きだされるようになった。頑丈な容器で、そこに書かれた薬品の クスはまた通信装置を通して言った。 使用法は明瞭そのものだった。すべての宇宙船は航行のたびに、こ もし船がエイリクスに 「きみたちが幸福でなかったのは、ぎみたちがここで暮らすことをの容器を一つ持っていかなければならない。 選ばなかったからだ。もし、それを選んだのなら、きみたちは自由とらえられたら、エイリクスの表面に到着ししだい、容器の中味を ぶちまけなくてはならない。 だった。そうだね ? 」とエイリクスはたずねた。
ジェリイはなにを一一一口えばいいのか見当もっかず、たた呆然と立っ なた、たんなる民話をあんまり真 : : : 」彼女はロごもった。「あ ていた。 あ、神さま」窓の外を見つめて、彼女は言った。 「どうお願いしたらいいのか、あたしわからないんだけど」クリス ジ = リイも外を見た。通りの向うにもう一つ酒場があり、そこは あたしといっしょ が言った。「今夜、いっしょにいてください ? 荒つぼい、やかましい店で、ジ = リイにはついそ入る勇気が出たこ とがなかった。二人の男が、そこから出てきたところだ「た。革のに。そのほうが、あたし楽に眠れると思うの」 ジェリイは必死に、にやっと笑いたいのをこらえた。「ああ、 ールテンの上着をきた白人が、黒人の若者に肩を 肘あてが付いたコ いとも」彼は言った。「・ほくもそうなのさ」 かして、待ちうける車に乗りこませようとしていた。黒人は酔っぱ らいか、それとも気絶しているように見えた。車は、ジ ) 一リイはし「ありがとう」クリスが言った。そして振りかえってドアの鍵をあ けた。ノ 彼女の部屋はジェリイたちのところとまったく同じ間取りた かと見届けたが、黒のジャヴランだった。 ったが、もっとずっと片付いていた。家具もずっと上等だった。ク 「はは、ただの偶然の一致よ」クリスが言ったが、その声の調子は リスと二人のルームメイトは、彼よりもはるかにましな生活をして もはやまったく確信を欠いていた。彼女は唇をなめた。「あれはた 、た。しかし、クリスは部屋の飾りつけをほめる暇など与えなかっ だの酔っぱらいよ。説明なんてどうとでも付くわ」 「ア ' ( ートに戻 0 たほうがよさそうだ」ジ = リイが言った。「今夜た。まっすぐに彼をベッドルームに連れこみ、奇妙なことにそれは ・ツドルームの真下にあった。 は、針男どもがうろついてる」彼は勘定をはらい、クリスをうなが彼のヘ ペッドの上には本が散らばっていた。彼女は本をかきあつめる して店を出た。例の横丁では、あらゆる影が長い長い針をもった徴 、・ツドのわきの小さなテー・フルに積みかさね、それから振りか 笑する人影に見えたが、かれらは急いで走りぬけて裏階段へかけあとへ かり、なに一つ二人に跳びかかって来るものはなかった。二階の踊えって素早く灯りのスイッチにふれた。さらに暗くなった。照明が 場についたときには、二人とも荒い息をしていた。そうだこの階段やわらかいほの明りに切りかわると、彼女は振りかえってにつこり した。「むき出しの恐怖って、あたし感じちゃうのよ」彼女は言っ から、ジェリイは必死に自分に一一一口いきかせた。 た。「なにを待ってるの、あなた」 彼はクリスに腕をまわし、彼女が許してくれるようにと念しなが ら、身をかがめてキスした。彼女の情熱は、びつくりするほど烈し「あのそれ」とジリイ。そして、にやりとして。「いいとも」突 かった。とうとう二人が離れたとき、クリスは大きな緑の眸で、し然、服を脱ぐ競争がはじまり、二人は笑いながらいっしょにべッド にころげこんだ。 「なんて男でしよう、あなたって」彼女は げしげと見つめていた。 言った。「ばかげてるけど、あなたのせいであたし、そこら中に針数十分後、ジ = リイは何年ぶりかで、この上もなくいい気分だっ た。クリスみたいな女の子に、そして針男みたいなネタ。どうやら 5 男が見えるみたいな気がしてきちゃったわ」そして、鼻のあたまに そろそろ、おれにも運が向いてきたらしい。彼はクリスにそうささ しわを寄せた。「言いたくないけど、あたしもう怖くって」
調査船はあわてて上昇した。安定した着陸地点は北極冠の縁のと ころに見つかった。船は一カ月がんばり、惑星をーーというよりは ェイリクス、両極をのそいて惑星表面全体をおおうこの生きものを 調査した。 報告書の述べるところによれば、この惑星をおおっているのは、 ただ一つの生物ーー・文字どおり単一であると同時に、文字通り生き ている生物ーーだった。動物か植物かというような通常の区別は、 マレイ・ラインスターよ、・、 ェイリクスにはあてはまらない。なるほど細胞からできていたし、 ルプ・マガジン時代から g..„を したがって分裂することも可能だったが、その徴候は観察されなか 書きはじめ、一九七五年に八十 歳で亡くなるまで、アメリカ TJ った。諸部分もコロニーの独立した成員というわけではなく、サン の発達史と歩みをともにして ゴの群体を構成するポリー・フとは違った。諸部分は集まってただ一 きたような人だった。当然、お つの生きものをつくり、まったく単一であると同時に、無限に多種 びただしい数の作品が残されて 多様でもあった。 いるが、 ;-k 作家としての彼の ェイリクスは微生物のように惑星の岩石を分解し、。フランクトン 絶頂期は、第二次大戦が終わってからの約十年間たといわれてい る。一九四九年のスリリング・ワンダー誌に発表されたこの中篇 のようにそのミネラル成分を食餌とした。また、植物のように光を も、その期間の産物で、「最初の接触』『ロポット植民地』などと 利用して光合成をおこない、複雑な化合物をつくりだした。下等動 並んで、ラインスターの代表作の一つである。一つの惑星をそっく 物のようにアメー・ハ運動もできた。しかも、エイリクスには意識が り包みこんだ巨大生命 ( まるで「ソラリス』みたいだ ! ) が主人公 あり、刺戟に反応した。ーーー表面を焼きこがされたような場合は、 だが、古きよき時代を反映して、この途方もないアイデアが実に大 らかに、ユーモアたつぶりに処理されているのがうれしい。もう二 苦しみのたうちながら、苦痛の源から引きさがるのだった。 十年も昔に一度訳されたことがあるが、この痛快な面白さは忘れが その他の点ではーー調査船の観測員たちの言うことは、てんでん たく、あえて再紹介に踏み切った。 ( 浅倉久志 ) ばらばらに食いちがっていた。その時、ジョン・ 0 スリツ・フという 少尉が遠慮がちに意見をだした。それは単なる思いっきにすぎなか ったが、冖 彼の正しかったことは後に証明された。 ただけで、この生物はそのとおりのことをした。みどり色に変っ ェイリクスという生物は、いままで遭遇したことのないようなタて、太陽光線の吸収効率を高めるのではないかと想像すると、本当 イ・フの意識をもっていた。つまり、物理的刺戟だけにではなく、思 にみどり色になった。こうした現象をうけもつ小さな色素粒が、細 考にも反応するのだ。ェイリクスはこうしているとだれかが想像し胞の中に存在したのだ。赤くなるのではないかと想像すると、赤く マレイ・ラインスター Murray Leinster 2 228
ジェリイが冷たく見つめると、お ークやフィ の声でなにかもごもご言ったが、 山の手に住みついて以来、ジェリイはフォレスト・。 たおたして手を引っこめた。この界隈はいつもこんな状態だった。 ルメットにいた当時なら、とうてい夢にも出てきそうにないものを たくさん見てきた。しかし、同時に人さまのことにはかまいつけな″発酵中なんだみジ = リイは好んでそう表現した。西南部の田舎者 の玄関のとスペイン系、黒人と大勢の東洋系、それがみんな押しあいへしあ い上地の流儀も、おいおい身に染みていたから、ア。ハート まえで警官たちに出くわすまで、針をもったその男のことを彼がすいながら、互いにその一分一秒を憎みあって生きていた。シ = リダ つかり忘れていたのは、さしてふしぎなことでもなかった。 ン大通りを越えた、マリン日ドライヴに沿ったあたりには、もうす らりと高層ビルが建並び、若い夫婦者や独身者がうじゃうじや住ん 実際、あのとき彼は怪しいものなど、なに一つ見かけなかった。 それはとある金曜日の夜におこった出来事で、ジェリイは夕方からでいた。つまり、この地区の周辺は立派な市民社会にかじり取ら 独身者酒場のはしごを始めてラッシ街をうろっきまわり、とりたれ、人口過密の老朽ア。 ( ート群はぐちゃぐちゃ噛みくだかれて、真 てて獲物にもありつけなか 0 た。ミチ = ロブー ) ほんの二、三杯、新しいモダンな分譲「ンシ「ンとして吐き出されつつあ「たが、ジ エリイの考えではこの消化吸収の。フロセスには、おそらく長い長い をやりすぎてかなり酔っていた。そこで、ねばりづよく話しかけて いたキ、ートな・フリ、ネットがべつの男と消えてしまったとき、今時間がかかるはずだった。 ともかく当面、この界隈は家賃がばか安だった。少なくともシカ 夜はもうあきらめることに決めた。高架線でアーガイルまで戻っ 日ランスのジャーナリ た。途中、線路ばたの古びたビルディングの煤だらけの壁や暗い窓ゴにしては。ジ = リイは孤軍奮闘中のフリー ド・レールからばちばちストだったから、その安さが肝腎だった。その上、け出しのジャ を彼はもの思わしげに眺め、ときおりサー ーナリストとしては、泡だち沸きかえる″人生の裏面〃というやっ 青白いス。ハ ークの光が散って、建並ぶ安ア。ハートの壁にくつきりと 黒い影を刻みつけると、そのたびに目をしばたたいた。 も見ておく必要があったし、山の手にはそれが豊富だったのであ アーガイルの高架駅から、ほんの少し歩いたところに、ジェリイる。 が三人のルームメイトと共同で部屋をかりた六階建てのア。ハートが 高架駅からア。 ( ートまでのいちばんの近道は、シェリダン大通り あった。真夜中でさえ、アーガイル界隈はにぎやかだ。あちこちののどんづまりで路地へ入り、アパートの裏階段を登っていく道たっ レドネック た。その横丁は暗かったが、そんなことは彼はもう昔から気にもか 貧乏白人酒場のひらいた戸口からは、カントリー けよかった。ジェリイが追剥ぎに価しないことは、だれの目にもそ あふれ出していた。スード劇場の窓々では、・ほんやりした女の影が もたえ狂っていた。二十四時間営業のコーヒー ・ショッ。フは、みんれこそ一目瞭然だったのである。そこで問題の金曜の夜、ジェリイ なひらいていて大勢客が入っていた。とある食料品店のまえで、ジはこれまで千回もそうしてきたように、うつむき加減にその路地に = リイは酔いつぶれた浮浪者をまたぎ越さねばならなかった。二人入っていき、そしてそこで注射器を手にした男を見たのであった。 それ以来べつにたいしたこともなかった。男はちょうど古・ほけて めがドラッグストアのわきで、腕にとりすがり、甲高い酔っぱらい アツ・フす物ン アツ・フタ 0 ン 4
、・『ダンジョンス & ドラゴンズ』の背景 となる世界の一つ、 ら尸 worlds 0f Grey- AN 、′ を、ス DA 郎 当 00 ト丁式 物、良ハ . y ( 季け wp 心 ( k 物・ 0 はト 先日 ( といっても年のはじめだが ) 、本誌 の翻訳や紹介でおなじみの大野万紀夫妻が、 レ′イ 0 サンゼ ~ ス〈行 0 て帰「てきたので、さ「 そくきいてみた。 「専門店の〈チェンジ・オプ・ホビッ ト〉へ寄った ? 」 「ええ」 「で、どんな感じだった」 「やつばり店の棚の半分ほどを、ゲーム が占めてましたよ」 「なるほど」 以前本誌の〈アメリカ情報〉コラムで も書いたけれど、このアメリカ有数の専 門書店の店主が、″ティーンエージャーが TJ を読まなくなって、ビデオ・ゲームばかり している″といった趣旨の手紙を雑誌に 一、 J/ 書いて、物議をかもしたのは記憶に新しい キフト・シーズンとい どうやらその店主は、・ うこともあるだろうが、ゲーム ( ビデオ ) に ット ) を一という・ ~ 凶 はゲーム ( 一般の箱人りセ 抗策をとりはじめたらしい。相変らずゲ ームは盛んなようだ。 身近な例をもう一つ。去年から今年にかけ て、映画『・』が大ヒットしたけれど も、じつはこれ、 c-v ゲームが一つ大きくか かわっているのである。ノベライゼーション をお読みになってもわかると思うけれど、映 画の前半部で主人公をはじめ、子供たちはい 第つも ( ファンタジイ ) ゲームの代表作 『ダンジョンズ & ドラゴンズ』 ( 通称『 & 』 ) を行なっており、最初のうちそれの影 響を受けて″怪物″の推測をする。現に '-e ・ がエリオットと初めて出会う場面は、『 ( 250 杯をれス、、当 - 0 を、詩へ
しょに引越してきたばかりだった。ジリイの見当では、三人とも ジェリイは人垣を分けて、ずんずんまえへ出ていった。ミセス・ ノースウエスタン大の院生か、まあなにかそんなようなものらし モンローは泣きながらなにか必死に言おうとしていたが、まともな 。あとの二人はまるでイモだったが、この・フロンドは笑顔がキュ 言葉は一つも口から出てこなかった。警官の一人、あから顔のでぶ ートで、すごいケツをしていた。その女がいまドアのわきに気安く シェリイを見とがめて顔をしかめた。「おい ! 」 っちよが、。 「ぼくはここの住人だ」ジ = リイは言った。「なにかあったんです立っていて、着ているのは白のタートルネックとびっちりしたジー ンズ、外の議論にじっと耳をすましていた。ジェリイはキイを取り だしてから、ためらった。こいつはあの子と知りあいになる絶好の 「あんたの知ったこっちゃない」とビール腹の警官。「この女のガ キが消えたのさ、それだけだ。なかへ入る気なら、さっさと行ってチャンス。 くれ。この女の面倒は、こっちで見る」 「きみ、なにがあったのか知ってるかい ? 」彼は問いかけ、ミセス ・モンローと警官たちのほうへ顎をしやくった。 ジェリイは肩をすくめ、泣いているミセス・モンローにちらりと 好奇の目を向けてから、そのまま玄関のドアを通り抜けた。このブ女が振りかえって、目にかかった髪の毛をかきあげた。その髪は ロックのすべての六階建てア。 ( ートと同じく、ここのア・ ( ートにもとても長い、とてもまっすぐなすごい・フロンドで、まさにジェリイ ひと タイル敷きの玄関ホールがあり、壁には郵便箱と呼び鈴がずらりとの好みにびったりだった。「あの女の子どもが一人いなくなったの 並び、階段の登り口とのあいだを第二のドアがへだてていた。そのよ」彼女は言った。「いちばん上の子だと思うわ」 ドアを通り抜けるには、専用のキイか、あるいは各部屋からの・フザ 「コーリイか」ジェリイは言った。その子はみんなにそう呼ばれて 1 の合図が必要だった。二つのドアのあいだに、二人ほど隣人が いた。やせつ。ほちの礼儀正しい男の子で、いつも通りでスケのポ ガンポは南部 ールをドリ・フルしていたが、ジェリイはほんもののゲ , ームをしてい いて、玄関のまえの光景を見物していた。ガンポ婆さん ( 黒人の用いて に対す秋蔑しが揺り椅子にすわ 0 ていた。彼女とそして色あせた花柄るところは一度も見たことがなか 0 た。年はたぶん十六くらい、内 「あの子にな クッション付きのその古い枝編み細工の椅子は、毎朝のろのろと東気でもしかしたら少し頭が足りないのかもしれない。 にがあったか、連中はもうつかんでいるのかい ? 」 一号から這い出してきて、彼女は日暮れまでそれに坐り、揺れなが ら通りをながめ、揺れながら。 ( イ。フをふかし、そして揺れながら出「警察はたんなる家出だと思っているみたい」・フロンドが答えた。 ひと 入りする誰とでもとりとめもない会話をかわすのであった。ジェリ 「ともかく、あのふとった警官はそう言ってたわ。それであの女、 イはうなすいたが、彼女に話しかけないだけの分別はもっていた。 頭にきちゃったの。警官のほうはぜんぜん心配してないわ。姿が消 しかし、西二号の女の子もまたそこに立っていて、これとあれでえてから、まだたいしてたっていないのよ」 はまったく問題がべつだった。小柄で魅力的なプロンド、年は二十「どのくらいたってるの ? 」 ひとっき 五くらい。彼女はつい一月ほどまえ、女のルームメイト二人といつ「彼女の話だと、このまえの金曜の十一時頃ミルクかなんかを買い 5