「けさは、気分どう ? 」聞き馴れた声がした。 てきた折も、電灯の明かりの下でそう見えた。 . 。ししかね ? 」ロ トの声は、ずっと前の事故でぶつつり 「用意よ、 「少しでも休めた ? 」と、別のやはり聞き馴れた声。 振り返ってヘイリーとラ】クに挨拶した。「元気よ、少し眠ったと切れた繋留綱が笞のように首に巻きついていらい、永久にしわが し」昨日のことはあれこれ説明しないことにした。 れつばなしになっている。 「じゃ、グラウンドで」ラ】クが言った。 「いいわよ」私は軽量の丈夫な綱を調べた。これが私のドラゴン > ヘイリーは数秒間私を見つめた。それよりずっと長い時間のよう世をニグウエンニヤの下に吊してくれる綱だ。そしてニグウエンニ に思えたけれど。最後にヘイリーは私を引きよせて言った。「気をヤは私たちを高度一万二千フィ 1 トまでつれて上がってくれる。綱 つけて。よい飛行を祈ってるわ」彼女のひんやりとした唇が私の頬の端は、ニグウエンニヤのゴンドラと、私のクラフトのキール・チ プレッシャー・キャッチ をかすめた。 ュー・フとウイング・・フレイセスとについている安全留め具につなが ートなり私なりがいつでも好きな時 ラークと彼女はチェシャーと命名された気球に向かって歩き出しっている。この留め具は、ロ・、 た。切れぎれの言葉がポータ・フルの拡声器から聞える。全出場者はに外すことができる。いったんそこを外せば、ニグウエンニヤは勝 機体を各自の気球につなぐようにと言っている。私は草原を横切っ手に飛んで行き、私は大きく螺旋を描きながら降下して最終的に地 てニグウエンニヤに向かった。ニグウエンニヤとは、ドラゴンとい面に帰りつくというわけだ。 う意味のズール ー語だ。ニグウエンニヤはすばらしく大きい黒と赤さらに指令が拡声器を通してグラウンドに響き渡った。しゃべっ の気球で、持主はロ こもわからなくても問題はない。みんな、つぎにな ート・シムズという男性。彼の八代前の先祖ている内容が誰冫 がズール】族だった。ロ・、 ートはこれら怪物気球がそなえる神秘性にが起るか知っているからだ。 の熱烈な信者で、ニグウエンニヤと、彼が空まで引っぱり上げるド ートが一一一口った。 「連結しようぜ」ロ・、 ラゴン世のフライヤーとの間にオカルト的な類似点が存在すると私はうなすいて、ロく トの助手が支持台の上でウイングをじっ 考えている。 と支えてくれている間にドラゴン世の下のハ 1 ネスを装着した。 私はニグウエンニヤのヘビ然とした脚の間を歩いていて、突然影なにも 7 6 7 を飛ばそうというわけしゃない。二、三カ所、カチャ に冫いった寒さを感じた。ニグウエンニヤの綱を掴まえているのは ッと留めさえすれば必要なストラツ。フは固定される。私はヘルメッ ほとんどが土地の有志の人たちで、彼らは私に挨拶し、私も挨拶を トをきちんとかぶり、器機を点検した。ヘルメットのライナーに装 返した。 備されているマイクロ。フロセッサ】 べースト・ユニットは対気速 1 ートは、そこから、よく来た度、対地速度、高度を記録する。数字は透明な。ハイザーの内側にあ ドラゴン世の横で待っていたロ、、ハ というように大きな手を上げた。金色と黒のグライダ 1 は、濡れたる細いバンドに表れる。失速警報が聞える仕組になっているのだけ 6 しらじらあ 草の上でいかにも華奢に見える。先刻、夜の白々明けを見ようと出れど、私はめったに作動させない。むしろ、直接に、翼部のフラッ
から下向きに突出しているウインチボストにしつかりつながってい縮が起るからだ。厄介なのは、雲が風といっしょに移動すること で、ふつう雲はサーマルがあった場所を示すにすぎない。したがっ 7 るか確かめた。この戦闘凧は、ポリエステル製の長いへビみたいなド 工ャストラレーション ささかのカンを働かせることによってサー ラゴン・カイトで、私の色に塗ってあり、ドラゴン・カイト特有のて、推定と、い マルに乗ることができる。 楕円形の顔と、引きずるように長いへビ状の胴体とを持っている。 ふつうのドラゴン・カイトとの唯一の相違点は、揚カ面と垂直安定高度一万二千五百フ ィートで安定留め具をはずした。ドラゴン > 板がついているということだ。 世はニグウエンニヤを離れ、降下する。私はツルみたいに首を伸ば 飛行はまさに開始されようとしている。私は向こうの方にいるチして、ラークも降下したのを見届けた。輻射熱の関係で、サーマル ェシャーに視線を向けた。ラークが親指を立ててのサインをよは翳の多い草原や森の上よりもボタ山の上か町の屋根の上に見つか こし、ヘイリ 1 が手を振った。ニグウエンニヤでは、ロく トが晴る公算が大きい。ラークはボタ山に向かうらしい。私は、ぐっと伸 プレイク・ア・レッグ れやかな微笑と例の挨拶を贈ってくれた。「うまくやれよ、お嬢さびをし、筋肉がゆるむのを感じてからドラゴンを町の中心部に向け ん」そして私たちは離陸した。 て方向転換させた。 深紅の日没が、つかのま、私の目をくらませた。私のカンはあた 高度一万二千フィートでニグウエンニヤは休山中のパンドラ鉱山っていた。左翼がわずかに持ち上がったのだ。これはサーマルの縁 の巨大なボタ山のほ・ほ真上を通過した。小川と木立との間に積み上に沿って飛んでいることを意味する。ノーズを下に向けてその中に げられた輝く白のボタ山は、なにか不吉なもののように見える。風はいって行った。ついで、まちがいなくサーマルの中心に向かって が巻き起こって、ボタ山から白い埃を町の上空に吹き下ろした時、 いるという証拠の軽い衝撃を感した。目下の仕事は、サーマル内に 化学記号を暗記するために調子をつけて歌う子供たちが頭に浮んとどまったまま、穏やかに螺旋上昇して所定の高度に到達すること ヘクナヘクサへグサヴァレソト 六価クロミウム ! 」 だ。この場合、所定の高度とは一万五千フィート。ラークも私も、 谷のけわしい斜面に生えているポプラが早くも色づいている。二今日は高度記録を作ろうと試みるつもりはない。もっとも、当地の 十四時間のうちに、そこに幅広い黄金色の縞模様が突如として出現力イト・ パイロットたちは、酸素を持たずに一万八千を越えたけれ したのだ。ポ。フラは一本では存在しない。 木立の根の組織は地中でど。 相互に連結している。秋に、ある一本の木で葉緑素が分解すると、 リードアウトにつぎつぎと数字が表われ 上へ、上へ。・ハイザーの 広範囲にわたる一族にもそれが波及するのだ。 ては消える。サーマルの中を上昇しながら、コントロール・・ハー 先刻、ニグウエンニヤと連結した折、谷の上空にばらばらになっボタンに触れた。戦闘凧の引き綱をくり出すボタンだ。黒と金色の た積雲を見かけた。ちらばるフワフワの雲の断片はサーマルの明白ドラゴン・カイトが世の下部後方にハラリと垂れた。垂直安定板 なしるしだ。というのは、暖められた空気の柱の頂きでは水分の凝を持ったカイトの上昇率は抜群。ものの二、三分でドラゴン > 世の
、、パッチワークだ。ちらと目を上げてバイ 谷あいの町は配色のし ィート。昔な ザーに並ぶ赤い数字を見る。現在、草原の上空二千フ がらの町の、住み心地のよさそうなレンガ造りの家並みから、木造 のビクトリア朝もどきの家々がつらなる、山裾から上の新開地に目 を移す。すでに私は樹木と露岩の境界線に達していた。旧パンドラ 鉱山の彼方、東に視線を向けると、太陽がイングラム滝とブライダ ル・ヴェールの水しぶきを捉えているのが見える。滝はまだ冬涸れ になっていないのだ。 渓谷の頂きにさしかかると、果たして気球は弱い横風に見舞われ た。ニグウエンニヤはゆっくりと回転し、私は目まいを起さないよ う神経を集中した。岩山の表面を通過した時、色とりどりのビーズ みたいにロー。フにつながった登山隊の一行が手を振り、声援を送っ てくれた。気球の。ハイロットたちが大声でそれに応えた。 私は、頭ではロック・クライミングの魅力は理解できるけれど、 どうもガッツの方でついて行けない。ためしたことはある。たぶん 登山と私の間に一脈通じるものがあるとすれば、「それがそこにあ ーが、もっと もしかしてヘイリ るから」という占だろう。ヘイリー。 容易に手にはいる存在なら、これほど激しく彼女を恋い求めただろ うか。目前に迫りつつある長時間の飛行に対する期待すら、彼女の つめたさと熱さを私の心から消し去ることはできなかった。 「メイリン ! 」 ートの大声が聞 突風にも似た。ハーナーの轟音をさらにしのぐロバ こえた。 「メイリン、計器を見ているか ? 」 見ていなかった。ニグウエンニヤの高度は一万二千七百フィ いくばくもなく私たちは海抜一万三千フィートに達するだろ 5
1 マルに乗るのだ。ヘイリーは今日は私と並んで会場の草原を歩い かっていたこ ラークですって ? 私は彼といっしょに成長したのではない。二ていた。 「知ってる ? 」応答な 「あなた、寝言をいうのね」と、ヘイリー。 人は大陸の反対側からやってきたのだ。子供時代に凧合戦をしたこ ともない。自己喪失感が私の指を動かし、そっと私の頬を撫でさせしに彼女はつづけた。「言ってることがはっきりしている時もある し、ただムニャムニヤ言って身体を動かすだけの時もあるわ。あな た。私がいまでも私が考えている私かどうか確めるために。 私はいくらかでも夢を思い出そうとした。そこには私が見落としたの眠り方って落ちつかないのね。あたしったら、熱い岩の上で眠 っているトカゲみたいだったのよ」と、笑い声を立てて、「気がっ ている捉えどころのない真実があった。 いてた ? 」 私はうなすいた。 空の戦士。 ヘイリーの表情が真剣になった。「ゆうべがあなたにとって大事 私たちはサーマルに乗って一生を過す。あの巨大な熱せられた空 気の柱は私たちのマシーンと魂を高揚させる。サーマルは周囲の空だったってこと、あたしにはわかるーー、少なくともゆうべの前まで 「いまはなにか頼みご はそうだった」彼女の微笑は不可解だった。 気より暖かいために上昇する。私たちは手がかりを探し、サーマル とをするような時じゃないとは思うけど」彼女はロごもった。私と をつきとめ、空へのエレ・ヘーターとして利用する。 最高条件のサーマルは、この谷間に、正午から午後遅くにかけてつないだ手がぎゅっと固く縮まる。「あなたにとって人間は人生の 目的の役を果さないのね。そういうのはあたしの領分なんだわ」彼 発生する。今回のドラゴン大会には二人の選手が残っていたので、 その時間帯はその二人のために確保しておかれた。すでに太陽は谷女の顔に悲しみの色がにしむ。「あなたには空の方がいいのよ」 ート・シムズは助 ニグウエンニヤのところにたどりついた。ロく の西端の切れ間に沈みかかっていた。空の色は例によって絢爛たる もので、幾筋もの緋色の舌が積雲をなめている。 手といっしょにドラゴン > 世の横で待っていてくれた。ヘイリーは 残った選手の一人はラーク。一人は私。すでに私たちを除く全員私を抱き、唇に長い間キスをした。「がんばってね」そうささやく は、引き綱につながれていた彼らのドラゴン凧がきりきり舞いをしと踵を返し、チェシャーに向かって草原を横切って行った。 ながらゆるやかに落ちて行くのを目のあたりにしたあとだった。山気がつくと私は泣いていた。それでもまだその理由ははっきりし 腹や森や町に落下したそれらの色さまざまな凧を子供たちは先を争なかった。 】トが言った。しわがれた、ロー。フの修 「そろそろつなげよ」ロ・ハ って探し出し、ズタズタに切り裂いた。 私たちの決闘は大会を最高潮に盛り上げるだろう。 跡のある声がいつもよりやさしく私の耳に響いた。私はドラゴン ハーネスをしつかりと装着した。それから、戦闘凧の・フライド ニグウエンニヤとチェシャーは私たちを最低戦闘高度まで運び上世の げるべく待機している。そこまで引き揚げてもらって、それからサルが、キール・チュー・フの、ちょうど私が脚を伸ばす点のすぐ後ろ
ターの具合から安定性を判断する。 「オーケイ、あと、二、三分だ」と、ロバ 突風と轟音とともに、空気のように軽い二十機は離陸した。矛盾 ドラゴン > 世が支持台の上にのつかっていてくれてよかったと思しているのは、これだけのすさまじい前ぶれにもかかわらず、気球 う。クラフトの自重はせいぜい六十ポンドだけれど、それでも私の がじつにゆるゆると昇って行くことだ。私たちの上昇ぶりは堂々た 体重の半分。腰のく・ほみのあたりでフライトスーツがべとべとしてるものだった。 いる。汗をかいているのだ。大会のディレクターのアナウンスする いつものことながらこの光景にわくわくしながら私は地上にある 声が引きつづき山腹にこだまして、断片となった言葉が私の耳に飛ものが小さくなって行くのを見守った。離陸場にビデオ・カメラを びこんできた。 持った人々がひしめいている。カメラの昆虫めいた目がキラキラし トが声をかけた。彼は発進ラダーを上っ 「ようし、時間だ」ロ。、 ている。張りめぐらしたロー・フの外側でずっとつづいていた群衆の てゴンドラに乗りこんだ。それからゴンドラの縁から振り返ってー ざわめきは、気球群の離陸上昇とともにひときわ高まった。 ふくら トが映っているーー・・にやりとし ー私の・ハイザーの膨みに、ロく ハル・ヒュイア、魔人、復讐の女神等々、みないっせいに、巻雲の プレイク・ た。「気をつけてな、お嬢さん」と、親指を立てて見せ、「うまく ほかはなに一つない朝の空さして舞い上がった。私はひんやりと澄 ア・レッゲ やれよ」 んだ空気を肺いつばいに吸いこみ、フライヤーたちがめいめい気球 とのつながりを断ち切って自由な飛行に移るあの瞬間を思い浮かべ て、いやが上にもつのる期待に胸をはずませた。 自由、それがもっとも適切な表現、それが合言葉だ。ロもとがほ ころんでくるのがわかる。とめどなく、にやにや笑えてくる。寒さ のために歯がうずくけれど、気にならない。大口を開けてばか笑い をしたかったけれども、この高度では貴重な酸素を無駄にできない ということを知っているばっかりにこらえた。 すばらしい快睛 ! チェシャ 1 がニグウエンニヤを追い抜いてゆったりと昇って行 く。私はラークに向かって手袋をはめた手を振った。ラークが手を 振り返すと、彼の褐色と黄のウイングがかすかに揺れた。チェシャ ・ネコのにやにや笑いも、私のそれとはくらべものにならなかっ
トラックのコハク色のヘッドライトがいくつも見える。こんな時間 私は笑った。「コンドルは崖から飛び立つんですよ」 まで、すぼんだ気球を運んで来ては降ろしているのだ。先刻、ロ・、 「鳥ってあんまりりこうじゃないからねえ」 ート・シムズとニグウエンニヤが優勝したと聞いた。これはさいさ「でも飛びますわ」 キ、力いし そう私はきめこんだ。 「まあね . と、彼女は私を真顔で検分して、「あなたもあのお仲間 「お嬢さん、ちょっと。ちょっと待って、お嬢さん」 私は声のした方を振り返った。町で唯一のほんもののデ。ハ 「飛ぶかってことですか ? 」私はうなすいた。「でも、正確にいえ ハウス〉の前だ。ショ ーウインドーに目をやると、くたば凧に乗ってじゃありませんけど」 びれた風情の初老の女性の等身大の映像がこっちを見つめている。 彼女の声は飢えていた。「そのお話、聞かせてちょうだいよ」 ・スクリーンだーー・アールジーという名称は、七十年代なぜか彼女の声ににじむ切迫感を無視することができず、私は飛 末にこういう同時ビデオ装置を最初に組み立てた人たちの頭文字をぶことについて話した。ドラゴン世のことを高翼単葉機とコウモ 組み合わせたものだ。電子芸術の一つの巨大な集合体アールジー リのあいのこだと説明した。明日の競技大会のことにも触れた。ド スクリーンは、地球上のあちこちの都市や街角に設置されている。 ラゴン > 世の後ろにくつつけて引っ張ることになっているドラゴン 各スクリーンは、世界のどこか別の場所のなまの街頭風景を実物大凧の色どりを言葉で伝えた。それにマンジャという、剃刃のように カッティング・ライン で映し出す。それと同時に、サウンド / ビデオ装置が、私の声と映よく切れる切断綱のこと、それをあやつって敵の凧の引き綱を 像を、連結するスクリーンに返送する。連結はコンビ「一ータが無作切断しようとするのだということ、また相手も同じように私の凧の 為に変更する。 引き綱を切ろうとするのだということ。けれども、総じて飛ぶこと さしあたって私を見、私の声を聞くのはこの老婦人だ。私には彼について描写説明した。空での戦闘技術に関しては敬虔な態度で語 っこ 0 女が見え、彼女の声が聞える。実際に彼女がどこにいるのかはわか らないが、背景は暗くて、しかもそこが都会だということは容易に 私が息をつぐために話を切ったところで彼女は言った。「お嬢さ わかる。どこかの夜の都市であることはたしかだ。 ん、神さまのお恵みがありますように」そして映像はゆらめいた。 「あたしがいまいるのはポルチモアよ」相手が言った。「あなたは ・スクリーンが別のところと連結した。その光に私は どこにいるの ? 」 目をしばたたいた。太陽がさんさんと照る昼間の光景。背景に、ど 私が彼女に伝える。 ことなくタジ・マ ハールに似た建物が映っていて、白い麻のスーツ 「そういえば、あなたたちのこと、聞ぎましたよ。 = 、ースでも見を着た男性がスクリーンの中から私を見ている。彼は私を仔細に見 たわ。凧に乗って崖つぶちから飛び降りるお・ハ力さんたちの集まりてジャケットの色どりに目をまるくした。 - やがて彼は、ははーん、 でしよ」 わかったそとでもいうようにおもむろに首を縦に振った。「ウォ 8
うことを思い出した。気球群が、いま東に向かって緩慢な巨体の う。私がズ・フの素人みたいにサファイア色のを思い浮かべているい レースを展開しているのと同じように、フライヤーたちも、ワイド 間に、他のフライヤーたちは気球から離れていたのだ。私の下に スクリーンに映し出されるスペクタクルの生のシミュレーションよ は、ルー。フを描き、群がって飛行するドラゴンたちの姿があった。 、ートは私の風向きろしく、全員がほぼ同時にランディングしなくてはならないことに もう一度、ちらりとリードアウトを見る。ロ・ なっている。撮影カメラは音を立てて回り、短波送信塔は放送をふ を確認してくれていた。降下だ。 りまき、見物人たちは見守っているのだ。 ドラゴン > 世はゴンドラを離れた。ニグウエンニヤの咆哮はしだ けれども私はこの状態をつづかせたかった。 いにかすかになり、やがて消えた。飛行の静寂が私を包む。私はハ ふと、ヘイリーのイメージを思い浮べてからいったい何分たった ーネスに抱かれてうつ伏せに横たわる。私と谷との間には空気のほ ろう、と考えた。我れに返ってドキっとしたが、そのうち可笑しく かはなにもない。 なってきた。 この瞬間のために私は飛ぶ。 マイクロプロセッサーの電子探知器が伝える情報はきびしいもの私はドラゴン世を集って、カモメのように音もなく優雅に螺旋 上空にいる。対気速降下させた。他のドラゴンたちに追いついた時、風がウイングのト だった。私は谷底から二千九百六十二フィート 度は時速二十二マイル。対地速度よりごくわずかに落ちる。現在、レイリング・エッジを波立たせるかすかな音を聞きつけた。失速が 水平飛行近いことをさとった私は、ワーベロンの角度をわずかに調節した。 ト落下するごとに約十二フィート ドラゴン世は一フィ ィート失うだろ時々、いちばんきつい螺旋下降にすんなりと、しかも決定的には している。一分とたたないうちに、私は約二百フ う。熱上昇気流をさがし出さなければ、約十五分以内に私は地面にまりこんで、空のどまんなかに意地悪く自分をほうり出したいと思 うことがある。そのぎりぎりの境界を体験したことがこれまでに何 着いてしまう。 リードアウトには注意を払わなかった。このひととき、静寂と果回あったか知れない。私はいつも自制してきた。 風が、頬骨に触れる。ヘイリーのふわふわした髪の、あのやわら てしないひろがり、顔を心地よくなでる空気、すべてが私の心身に 複雑な反応を呼びさます。ずっと奥の方で、あのときめきがはじまかでくすぐったい感触。 るのを感じる。 身体の位置をわずかにシフトしてフライトの姿勢に変化を与え トロスフィア クラ・フ対流圏のカウンターで、私と並んで立っているのは死神の こ。ドラゴン世は反応し、私は大きく、浅く旋回した。 男性も女性も、空ほどこの感覚をたつぶりと味わわせてくれはし三人組。フードつきの黒い長衣をまとった背の高いその三人はさき ほど真鍮の手摺りに近づいてきたのだった。入念に彫刻されたとわ ない。私は螺旋下降しながら、これがいつまでもつづけばいし 、と思 どくろ の暗い影の中からニタリと笑った。なにも った。重力は私の恋の敵だ。同時に私は自分が大会の一部なのだと かる髑髏の面が、フード 6