時間 - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1983年9月号
123件見つかりました。

1. SFマガジン 1983年9月号

かりに無理だとしても、何とか自分なりに司政島を、タトラデンずれも現地か現地に近い場所に駐在している保守係員によって、本 日中に復旧される見込みです。今夜には通行可能になります。地上 を把握しなければならないのだ。 彼を乗せた司政官機と他の三機は、ペイズ・フ山脈の南端に屹立す走行をしないのは、司政官の時間を無駄にしないためです」 る主峰ペイズ・フ山の南方を迂回して飛び、下降しつつあった。「わかった」 1 のいった通り、雨なのた。それも大粒の雨が窓を叩くので、外は彼は応じた。 シートにもたれる。 よく見えないのである。 「当初の予定では、周回道路を走行するはすでしたが、この雨で、 あと一時間で、南分庁か。 一部道路事情が良くないとの連絡が入っていますので、飛行によっ て南湾の南分庁に到着するよう、から指示がありました。あ気のせいか、彼には、タトラデンへ来てから、時間がどんどん経 と一時間で到着します」 過して行くように思える。ことに、昨晩。フラワリ地帯の宿泊所で n O がいう。 の報告を聴いて以来、それがまた加速された感じなのだ。 が、司政官による選択を求めず一方的に予定を変更して来気のせい とはいったけれども、実際にタトラデンでは、これ たというのは、周回道路が事実上走行不能か、でなければ走行が危までより時間が早く経つのは事実なのである。タトラデンの自転は 険ということかも知れない。 約三十時間で、ここではプ。ハオヌの言葉による一ティで呼ばれてい 「道各よ、・こ : オしふひどいことになっているのか ? 」 るが、三十時間にはいささか足りないのだ。それを三十で割って一 時間ということにしているので : : : ここでの一時間は、連邦経営機 彼はたずねてみた。 「崖崩れが二か所と、崖崩れのおそれのあるところが三か所、それ構での五十九分あまりなのであった。一時間をそのまま一時間とし てしまうと、端数が出て複雑な処理をしなければならない。それで に路肩が弱くなった個所が三つ、とのことです」 平均太陽日をそのまま三十で割るということをしているのだ。 は、打てば響くといった感じで応答した。 たた、そうなると ( 連邦経営機構で使っている一時間ではないに 「周回道路といっても、案外弱いものだな」 彼は、つい呟いた。何気ない感想のつもりだったのだが : : : そんしても ) タトラデンの一日は三十時間たから、午前、午後、どちら も十五時まであることになる。午前十五時が正午であり、午後零時 なことはいうべきではなかったらしい 「道路は、けさから四時間つづいている異例の豪雨のため、一時的なのであった。ためにタトラデンでは午前午後通しの呼びかたは、 に機能を失ったのです」 あまり使われない。植民者たちは午前午後各十五時制に馴れている が、たちまちいいだしたのだ。「雨はまもなく小降りにのだ。人間と混住しているプ・ハオヌたちも、それに順応していた。 なり、み方までにはやむと思われます。たた今報告した個所は、 い元来は。フ・ハオヌたちも自分たちの時間単位を持っていたので、一テ 7

2. SFマガジン 1983年9月号

イを九つに分けるのだが、不定時法であり、住む場所の緯度が違えの世界にすっと住みつづける者にとっては、そんなうるさいことを ば時間も違って来るために、い つの間にかすたれてしまった。熱帯するより、一時間が多少短くても長くてもいいから、一日が何時間 地方にいる人間とは関係のない。フ・ ( オヌたちの中には、今でもそのと明快に決められるほうが便利なはずである。 時間を使っている者がすくなくないというが : : : すくなくとも、人 だから : ・ : ・彼がタトラデンに来てから、 ( 一日そのものは長いに 間と混住しているプ・ハオヌは、使用していないのだった。 しても ) 時間が迅く過ぎて行くように感じるのは、無理のない話か これは、いってみればタトラデンだけで通用する時間単位である。 も知れない。彼はタトラデンで生れ育ったとはいい条、連邦職員と しかし、タトラデンの人々には、それでいいのであった。タトラしての歳月を何年も何年も送って来た。連邦経営機構での一時間の デンはそれ自体が独立世界である・ーーと考え、タトラデンとしてう感覚が今では身についていて、タトラデンの土を踏んでも、すぐに まくやって行けば良いと信じる者には、 かえって好都合なのであは元に戻らないのは、やむを得ない仕儀なのである。 る。タトラデンの人々の大多数にとっては、連邦経営機構の時間単だが。 位など生活に直接かかわりがあるわけではなく、もしあるとして これまでの六十分が五十九分になったからといって、そんなに明 も、六十分と五十九分の差は、実感的にほとんど差がないから、不確に差異を感知出来るものであろうか ? 彼はなるほど時間経過の 自由しないのだ。 感覚について、それなりの訓練を受けて来たから、相当に敏感には そして、タトラデンだけでなく、こういう時間単位を使っているなっているけれども、そこまでこまかくは感じ取れないのではある 世界は、結構多いのである。一日が二十三時間だったり二十七時間まいか ? だったり、その数は自転周期によってまちまちながら、連邦経営機 だから、やはりこれは、自分の心理のなせるわざなのた。 構で使っている一時間に近い時間になるようにして、一日を整数で タトラデンにおける任務を、どういう方法で果すか、ということ 割っているのだ。 への焦りが、そう思わせているはずなのである。しかも、きのうの 考えようによっては、このほうが連邦経営機構で決めているやり の報告によって、いわば日限を切られたということが、拍車 かたよりも、合理的かも知れない。 連邦経営様構の中心部やその周をかけているに相違ないのである。三十日後の第二回星間交流会議 辺では、いまだにゼロ星系の一時間を固守している。各世界の一日とやらに、どういう手を打つべきか : : : 六十日後の巡察官の定期巡 をその一時間で割って行き、端数を閏時間としているのだ。たとえ察に、どれにけのことをなしとげておくべきか : : : その方針もまだ ばョゼテンでは一日は二十五時間と九分十四秒で、その九分十四秒決めかねている、何からどうはじめるかも不明のままーー・という現 は真夜中の、前日と翌日の間にはさまれる短い閏時間として置かれ状が、どんどん時間が経過して行くとの気持ちを強めることになっ ていた。これは連邦経営機構連営のためには一時間の長さをどこでているのだ。そうとしか、考えられないのであった。 も同じにしなければならぬ必要上そうなっているのだが : : : ひとっ し力し何カら : : : ?

3. SFマガジン 1983年9月号

かってもらうのか。だが一体、何をわかれというのかそれさえもわ からない。い やそもそも、自分が何かをだれかに、ほんとうにわか ってほしいとーーー・あるいはわかってもらえると、思っているのかど 峠をこえると、目の下に見わたすかぎりの灯りの海がひろがる。 うかーー考えるほどに、それさえも、さだかではなくなってくる。 それはすでに、何十回も見馴れた、平和でささやかな人々のくらし たしかなことなどしかし、この世にあるものかーー自分自身でさ 広大な分譲住宅と団地、そして町々のネオンだ。昨日と同じよえ。そう、えま、 しをいったいおれは何ものなのだろう。灯の海を、峠 ・ダビッドソンのハンド うに今日が、そして今日と同じに明日が、いつまでもいつまでもつの見晴し台から見おろして、手をハーレー づいてゆくだろうとしつかりと信じこんでいる人びと、常識ゆたか ルにかけ、けわしい横顔を仲間の単車のライトにうかびあがらせて で平凡な人びとの街。ーー・そこに住む人たちは、何も知らない。世立っ若いライダー、凶獣の騎手の胸をあやしいまどいが浸してい 界の皮一枚うら側に、ばっくりと口をあけている、深い亀裂、暗いた。だがそれも一瞬のことだ。そうとはっきり、自ら意識したわけ 夜のふかさ、忍びやかな恐怖と苛立ちも知らない。まっくらな夜のでさえない。 底を、爆音をつんざいてかけぬけてゆく凶々しい巨大なひとつ目の 「 : : : 峠まで一時間ちょっきりなら、まあまあの線だな」 獣と若くたけだけしいその騎手たちーーライダースーツに身をつつ「今夜はマッ求も出てねえようだしな。帰りは、一時間を切りてえ んだ凶悪な目つきの若者たちの苛立ちをも、わかろうはずはない。 な」 何度見ても、やはりその灯の海の安らかさとたしかさ、あるいは「けどよう、朝んなると、四輪のイモどもが出てくつからなあ」 たしかだと自ら信じきっている疑いのなさが、激しい苛立ちともど 何にそう苛立つのか、なにゆえにそんなにもいそぎつづけ、疾駆 かしさを呼びさます。かれらにはわかりつこないーーどうやってわしつづけるのか

4. SFマガジン 1983年9月号

まばゆい夏の朝が、おれの目にとびこんできた。前の晩は秋だっ とばには何の変化もなかった。 たのだ。何もかもが新鮮だった。そよ風にふかれて歩道を舞う紙く 「フランシス・フィッツへンリーがいっしょに暮らさないかといっ ず、空気のさわやかさ、日ざしの明るさ : ・ てくれたのーー。フラザの続き部屋で ! 」 おれはゲイルの顔を平手打ちした。だしぬけに光のヴ = ールが現最初に行きあたった異星の柱には、二人の浮浪者がよりかかって いた。目をとじ、気持よさそうに眠っているので、おれは忍び足で われた。光はかびくさい、よどんだ空気をつつみこみ、部屋の中を 舞う埃にふれて、黄金の雪のようにきらめいた。やがて光は薄れ通りすぎた。マンホールからは蒸気が吹きだし、通行人は押しあい へしあいし、何もかもがびつくりするほど正常に見えた。ただ一つ た。おれたちは監視されていたのだ。これでは銀河系版ペイトン・ よけいなのは、しつこい例の唸りだけ。 ・フレースではないか。 また一本の柱には、おんぼろの三つ揃いにどぎついオレンジのネ 「しみったれた人ね。だから、あなたは一生ギルデンスターンでし かないのよ」といって、おれの人生から立ち去るゲイル。くりかえクタイの男が立ち、「フォン・デニケンは不減だ ! 」となぐり書き すたびに、痛みは大きくなる。この芝居の中でも、おれはギルデンしたプラカードをかかげていた。それでも男のまわりには、なさく スターン役を割りあてられているらしい。年配女性向けにギルデンるしい見物客が集まっている。で、おれもちょっとのあいた仲間入 りをした。 スターン、光のヴェールのためにもギルデンスターン。地獄だね。 ひげを剃り、のろのろと劇場にむかう。芝居は大入り。異星人が「 : : : そう、ビラミッドをぶったてたのは連中なのです ! エンパ ・フランシスはあっけなく人気をさらわれて、相当に ィア・ステート・ビルだってそうだ ! あの連中こそ神なのです ! 登場し、サー ー・リチャード・ 気落ちして見えた。ひっくりかえった車と、どこからともなく現わアレグザンダー大王はそのかたわれだった : である クソンもそうだった ! 主も例外ではあらせられないー れた巨大なパーキング・メーターをわきに見て、家に帰った。 眠りにおちょうとする真夜中直前、一つの考えがうかんだ。そう この懺悔の祭壇に からして、あなたもきっと救われるでしようー いえば、毎朝二時間の自由時間があったんじゃなかったつけ ? も二十五セントを投じられるならば。ハレルャ ! ありがとう、奥さ う何カ月も、その時間を寝すごしてしまっている。 六時に起きようと、おれは決心した。 おれは歩きだした。 ノレ・クリシュナ風の一 つぎのパーキング・メーターでは、、 っ 0 団が、宣教師を釜ゆでにしたとでもいったようすで、ぐるぐる踊り まわっていた。まん中では、ひげ剃りあとも青々とした、やせこけ 六時半、全力をふりしぼって起きだし、見ばえのしないジーンズたメガネの男が柱を抱きしめており、柱はにぶい赤に輝いている。 ・フラン と e シャツに着替えると、階段をおりた。 恍惚状態にあるのだろう、その姿は美しくさえ見え、サー 5 6

5. SFマガジン 1983年9月号

ゴミカンの上でそれは一度二度羽ばたいた。雨がしぶきとなって 「ここは地球さ」 散り、少年の顔にとんだ。それはまばたかぬ紅い眠で少年を見つめ〈球だって ? 〉それはかん高い笑い声をあげる。〈ばかなことを、 4 た。この世のものではなかった。浮遊都市制御体がこんなものを創球なんかじゃない。丸くなんかない。そう見えるだけなんだ。おま るはずがないと少年は思った。なによりも、制御体が少年に対しえが上というところにはおれの世界があり、下にはおれたちが植民 て、こんなものを創って相手をしてくれるわけがなかった。少年はした世界がある。おれたちはこの翼で上から下へと舞いおりて、植 制御体からずっと無視されてきたのだった。おまえなど必要ない、 民世界から糧を得ているんだ。おまえの住んでいるこの世界は、そ というようこ。 生きている価値がない、おまえは存在しない、 の狭間にある。憎むべき、邪悪な、ただよう雲のような世界だ。神 少年は一歩あとずさった。それがはねとばした雨の雫をよけるたの法を無視するうじ虫が這いまわっている中間空間だ。おれはここ めに。恐怖はなかった。怖れを感ずることができないほど少年は無に落とされた。おれは堕ちた〉 邪気でも幼くもなかったのだが、理解できない現象や夜の闇や怪物「あなたは天使だと思う」 はこわかったのだが、それに対しては危険は感じなかった。それは 〈おまえよりは広い視野をもっているのはたしかだろうよ。しか いかにも弱弱しかった。 し、おれにはおまえこそ天使に見える。その瞳はこの世界を見るよ 〈わたしは悪魔さ〉 うにはできていない〉 「ちがうと思うな」 「・ほくには翼はないよ」 〈なんでもいいんだ。おまえの世界とは相入れぬところから来たん 〈形など無意味だ。重要なのは、おれたちがこうして話あえること だ。わたしはその世界を追われた。もう帰れない〉 だ。おれは何度もこの世界のやつらと話しあおうとしてきた。だが 「天国 ? 」 だめだった。やつらには、おれが見えないんだ〉 〈わたしの世界さ〉とそれはいって、ふたたびカンの上にうずくま「帰りたい ? 」 ると、翼のマントを身にまとった。〈おまえとは無縁の世界だ。少〈もちろんさ。だが無理だろう。ここに落とされて帰った仲間はい なくとも、おまえ以外の住人とは無縁のところだ。おまえ以外には ない。ここは大渦巻のようなところだ。すべてを吸い込む竜巻のよ 感しとれない世界だ。しかし、なぜ ? なぜ、おまえが ? これは うな力をもっている。おれたちはここをさけて上と下を行き来して 神の導きかもしれん〉 いる。ここの場の力に捕まったら自力では出られない。おれはもう 「あなたの世界に神さまがいるの ? 」 すぐ死ぬだろう。腹が減っている〉 〈いいや〉それは首を横にふった。〈そうじゃない。おれは神を信「どのくらい食べてないの ? 」 じたために追い出されたんだ。ひどいところに落とされたものだ。 〈おまえの時間で、そう、一万年というところだ〉 ここはリンボウだ。天国でも地獄でもない。中途半端な世界だ〉 「一万年も ? 」

6. SFマガジン 1983年9月号

くり出した。引いてはくり出し、引いてはくり出しするうちに、菱せたものが塗ってある。私はそれを自分で調合した。規則では二度 形の凧は風に乗り、上昇を開始した。ちらっとケンを盗み見る。彼塗りしてもよいことになっている。乾くと上下どっちからでも敵の 7 の凧は落葉よろしくヒラヒラと地面に落ちた。私は彼の視線を捉え糸を切ることができるようにするためだ。いちばんたくさんの相手 てにつこりした。ケンは私をねめつけておいて、もう一度揚げるたの凧を切り離した者がこの竸技の優勝者となる。 めに凧を拾い上げた。 ケンは猛然と、そして無器用に戦闘の火蓋を切った。まず凧を私 私の凧はこゆるぎもせず空に浮んでいる。最初に送り揚げた時のの糸に向かってに突っこませたのだ。私は自分の凧を急降下させ リズムを保つようにした。いまでは糸をくり出す手の動きは、なめてよけた。私の方がちょっぴり速かった。ケンはその戦術を放棄し らかで、もっと間のあいた、ゆっくりしたものになっていた。糸巻た。それが二つめの間違いだった。彼の凧がほんの一瞬、勢いを失 きの一方のハンドルを足もとに固定しておいて、九ポンドの制御糸ってぐらっくのを見て取った私は糸をくり出して高度を揚げ、彼の との間に一定の角度を取って立った。肩の高さに上げた左手の親指糸に私の糸を下から交差させた。糸が触れ合うかすかな振動を人差 と人差し指との間で、糸がビ、ンビ、ン唸る。右腰の位置で、右手し指がキャッチする。ぐいと糸を引くと私の凧は揚がり、私の糸を でプレーキをかける。凧は上昇する。私の魂もいっしょこ。、 冫しっとケンのそれに引きつけた。ケンの凧は切断され、ケンが切れた糸を き、私は地上を見下ろして、私がはるか下にいるのを目に捉えた。巻き取る一方でくるくると風にきりもみしながら落下した。交替す ジャケットの色で、見分けられる。 るためにつぎの相手が進み出た時のケンの顔は険悪そのものだっ ケンはようやく凧を送り揚げ、いまでは徴妙な操作よりも腕力でた。 なにがなんでも高度を得ようとしていた。私は糸をあと百フィート 「よく飛んだねえ」と、弗が言った。それがケンに対するあてこす くり出し、凧が所定の高さに到達したことを示す結び目を手に感じりか私への皮肉か、どっちかよくわからない。 取った。風の流れで凧の方向を変えるように持っていくと、もうすつぎの相手は七年生の女の子だった。まだほんの駆け出しで、見 ることがなくなった。ケンが私を見ているのは知っていたが、わざ込みはあるものの場数を踏んでいない。彼女の凧は戦闘高度に達し と知らんぶりをしていた。 た後、長くは飛んでいなかった。 「ようし」レフェリー の声がした。「二人とも所定の高度に達した こうして試合はつづいた。最初の一時間に五人をやつつけた。っ 力な ? はじめ」 ぎの一時間では六人。敗れた凧は、見つかればめいめいに引き取っ フライング・ライ / 作戦は簡単明瞭。私たちはめいめい五百フィート の凧糸を持てもらった。全部を私の部屋のどこにとっておくというのだ ? カッティング・ライ / っている。ほかにその糸と凧との間に百フィ トの切断糸がっ 一時間ごとに十五分間のタイムアウトが許された。私はこの時間 ながれている。この切断糸のことをマンジャといし 、ふつう四筋のを利用して糸を取り変えた。誰かの糸を切るたびに私の切断糸は表 糸をより合わせて、表面にタマゴとデン。フンと粉ガラスをまぜ合わ面のザラザラを少しずつ失って行く。それに風がどんどん強まって

7. SFマガジン 1983年9月号

どり、・フン・フンいう唸りはしつこいささやきにまで衰えていた。表光景が目にとびこんできた。異星人が姿をあらわしたのだ。ほのか な、ほのかな光のヴェールが、視野の中をただよい踊っている。感 面的にはいっさいが正常にかえったわけだが、なにかぎごちなく、 わざとらしかった。場内照明に照らされて坐る男女は、みんな高価覚にもとらえがたい小型のオーロラが、きらめき消えてゆく : : : サ ・フランシスの顔は、ゆらめく青い光の薄ぎぬのむこうにかすん な服に身をつつんた、目のうつろなマネキン人形なのだ。そして、 でいた。おれは無性にその光にさわりたくなった。のばした片手は だれもかもが心の中にひびく一つの声を聞いているのだった。 われわれは不死の贈り物をたずさえてやってきた、と異星人たち何の感触もなく光の中をすりぬけた。つぎの瞬間には、もう彼らの はいった。われわれは銀河連邦みたいなものである。いや、われわ姿はなかった。 れが何者であるか、正確なところは、きみたちに理解できないだろ おれたちは場内照明を消しーー真夜中まで時間はあるーーー芝居を う。この贈り物のお返しに、きみたちに一つ、ささやかな頼みごとつづけた。・フーンという唸りは、耳に入らないほど後退したが、い がある。きみたちのことばで説明するように努力する。何というのつもそこにあることはまちがいなく、そのためだれもが早ロでしゃ か、一種の超時空的ジュニア・ハイスクールとでもいったものが、 へり、ノイズを目立たせまいとあわてて次の科白に人った。拍手は ・フランシ 未開惑星を実習課題にとりあげることになった。つまり、〈野蛮なおざなりで、他所者にあっけなく人気をさらわれたサー 世界のある一日〉というようなものだ。太陽系はいま、ある種の時スは、相当に気落ちして見えた。 間ルー。フの中に入っている。というわけで、子供たちがやってきて もうすぐ午前 0 時というころ、おれは歩いて家に帰った。プロー 見学するあいだ、しばらく同じ日を何回も何回もくりかえしてい ドウェイ一帯には、二・フロックごとに、色のついたこぶのある変て ただけまいか。ただし、毎朝六時から八時までの二時間は体みとすこな柱が立ち並んでいた。まるで巨大なパーキング・メーターとい る。きみたちはたいへん幸運である、と異星人たちはつけ加えた。 ったところ。街路はほとんど人けがなく、イエロー・キャ・フが二台 すばらしい取引ではないか。いや、きみたちには何も打つ手はな腹を見せてひっくりかえり、中古のシポレーが店のウインドウから 尻を突きだしていた。これが大ショックだった人間もいたらしい おれの心に疑問がわいた。「しばらく同じ日を何回も何回も」と だが事情がのみこめないおれは、今朝ゲイルとのあいだに起こった は、どれくらいの長さなのかっ・ 気まずい行きちがいのことばかりを考えようとしていた。 おれにむかって答が返ってきた。「ああ、そんなでもない。きみきたない階段をの・ほり、インド食料雑貨店の二階にある安アパ たちの時間にしておよそ七百万年だ」なにか一杯食わされた気もしトに入ると、ゲイルのことをまだいじいじと考えながら、服を着た ないではないが、不死に比べれば屁みたいな年月だということはわままべッドにとびこんだ。と真夜中、とっ・せんおれは。 ( ジャマを着 っこ 0 ているのに気づいた。となりにはゲイルが寝ており、ぐいと引っぱ 3 , 刀ュ / られる転位の感覚があり、そのときにはもう、いまは今日ではなく 何も考えっかないまま、棒のように立っていたとき、すばらしい

8. SFマガジン 1983年9月号

こういうコラムのあることは知っていたか て読んでない本がいつばいある」という感じ だ。間がぬけた話だが、じつはトルストイの ら、いっかこっちにも回ってくるんじゃない 『アンナ・カレーニナ』も未読である。読み かとひやひやしていたところ、はたして編集 なおしてみたいのも多い。こういうのもやは 部から電話。かんべんしてくれませんかとい き セ りとしかもしれぬ。 ちおうお願いしたが、編集者にとってはそれ や もうひとつある。精神の食欲とでもいえば を説得して書かせるのが商売のひとつだか 物 こ、うい、つことに いいか。昔、四半世紀も前、の好きな連 ら、所詮かなうはずがない。 よっこ 0 ピイこ黻、 つ中は始終飢えていた。食物があればがつがっ と食いっき、何を食ってもすこぶるうまかっ ・ほくの場合、しんどいなと思うのは、〈ペ の ズの『あとがきにか た。食物の絶対量が少ないから貪欲だった。 ローダン〉シリー レ - ス プ 。 : 食物には旬の味がした。調味料過剰というこ えて』というのを年に十点書かなくてはな とはあまりなかったのではないかと記億して らず、けっこうふうふういっているからであ 継 いる。それにひきかえ、いまはどうだろう。 る。もともとこの方面にはあまり器用なたち ではない。ま、とにかく「近況でけっこうで ヒ読むものを手に入れるのに苦労するなど、も はや考えられない。ちょこちょこつまみ食い すから」とのお一一 = ロ葉に甘んじて : : : ( しめし LL 、 するだけで、・ほくなどは腹いつばいになって め、これでそろそろ予定枚数の四分の一をこ しまう。メニューを一見して満腹感というと 年 ころだ。これだけは盛んになったのだ。 ・ほくの近況・ : ・ : それもに関してのとい 「、がんばれ ! 」と応援する必要もなく えば、をあまり読まなくなったことだ。 なった。もちろん、めでたいことに違いない この雑誌にこういうことを書くのは不謹慎 が、やはり原始的食欲をもってかぶりついた ( ! ) かもしれないけれども、根が正直だか あの時代のことをなっかしく思わぬわけにい 《 " ら事実に反することは書けない。しかし、な かない。これも時代そのものを云々するとい ・・せこうな「たのだろう ? としをと「たから うより、おのれの若きときをなっかしむので か ? それもたしかにあるが、すべてではな あれば、これまたとしのなせるところ。要す ( と考えたい ) 。少々穏当ならざる表現だ るに何をいっても人間はとしからはなれられ が、道楽は商売になると同時に道楽ではなく ないのかもしれない。当然といえば当然だ。 なる、といったところかもしれない。ここに もそのうちとしをとり、という旗印 は時間の問題もからむ。翻訳家としてに 第、を必要としなくなるのではないかと思う。人 ( ~ 接している時間が圧倒的に多いから、本能的 間は分類することが好きだけれども。 平衡感覚がそうさせるとも考えられる。とに かく、いまのところ「いかんな、読むべくし しゅん

9. SFマガジン 1983年9月号

4 ーときよ 4- 一場理論が完成していなくちゃいけないし、かりに完成しているにし たとえ ても、動力源の問題がある。二つ三つ理論があってね。 つまり、時空をくぐっ ま、 かりに彼らに手軽なミニ・クエーサ 1 て超次元宇宙に通じる小型のホワイト・ホールみたいなものだな、 そういうのがあれば = ネルギーは供給できるわけで、だからーー・・、」 ちんぶんかんぶんだ。柱にさわると、男の声は遠のき、聞こえな くなった。ブーンという唸りが大きくなる。 ( ゃあ ) 「そっちから見れば、おれたちはしがない実験動物なんだろうな」 と、おれは苦々しくいった。「むかしに戻りたいよー ( 下等なものは下等なんだから仕方がないさ。これはおたがい、ど うにもならないことだ ) 「じゃ、一つ教えてくれないか ? 」まわりに人影はなくなってい 一レ・クリシ、ナの一行は、踊りながら、手をとりあってどこ かへ行ってしまったらしい ( いいとも ) 「この経験は価値があるものなのかね、つまり、おれたちにとって 七百万年といえば、おそろしく長い時間だ。実際問題として永 遠と変わらない」 なんにも知らんくせに ) ( はっー 「質問に答えてない・せ」 ( そのうち教えてやるよ。しかし、もうそろそろ八時だ。しやきん としろ。あと数秒で昨日に転位するそ。いいか、おたくは幸運なん だぜ。世界のほかの土地では、二時間の恵みがとんでもない時間帯 に来るんで、起きるやつなんかいないところもある ) 「わかった。それじゃ」 ( じゃあな ) 7 6

10. SFマガジン 1983年9月号

させるようなことはできないそ」 「それは自分でできると思う んの時間をもらえればね」 「わかった」 「たくさんの時間って言ってるんだ・せ」 「どのくらいを考えているのだね ? 」 「心を落ち着かせ、リラックスし、この試合が単なる詰め将棋の問 題だと考えられるようになるくらいの時間がほしいんだ」 「つまり、一手を指す前にここから出て行きたいと言うのか ? 」 「そうだ」 「わかった。どのくらい ? 」 「わからない。二、三週間かかるかもしれない」 「一カ月あげよう。専門家に相談し、コン。ヒュータに計算させるが 。それで少しはおもしろいゲームになるだろう」 「そんなつもりじゃなかったんだ」 「では、君は時間稼ぎをしようとしているわけだ」 「それは否定できないな。しかし、時間は絶対に必要なんだ」 「それなら、こちらにも条件がある。ここを掃除し、修理し、もっ と居心地よくしてほしい。これではゴミ箱だ。それにビールもちゃ んと用意してほしいな」 「わかった。手配しておく」 「それなら、わたしも承諾した。先手を決めよう」 マーティンはテーブルの下で黒と白のポーンを左右の手に移しか えた。拳に握りこみ、両手をだした。トリンゲルは前かがみにな り、こッんと叩いた。黒い角がマーティンの左手に触れた。 「これはわたしのなめらかな毛皮にびったりの色だな」 一手と一手の間に普通よりたくさ SF の本 ◎第 3 号別増大号 580 旦 0 新鋭作家の活躍がめざましい。本号は彼 オら日本の新しい波について考えてみた。 どこに行こうとしてい 誌て彼らは何を思」 中るのだろうか、興味津々。そして、 " 年 雑 ~ 3 映画回顧録 ~ も登場する。乞御期待 / よ発 2 年映画にちょ「と一言 / レビ 加、ら一評ュー / 荒巻義雄論 / スタニスラフ・レム 知好論 ( 第 2 回 ) / 諸星大一一 、郎論 / 他 を で 0 、フ一 Q く ( た号 / っ 3 / こ◎バッワナンバー案内。 丸いし創刊号・判 124 真・定価 480 円・送 《ま料 200 円〈特集〉・・ディックにくびつ 過しオけ / / レ一ー / 連作・フォトジ = = ック・シティ第 1 話 / 他コラム満載 / させ マ第 2 号・ <'0 判 136 頁・定価 480 円・送 ろた料 200 円〈特集〉 1982 年の。 ( ース し寸ペクテイプ / 村上春樹論 / スタ = スラフ・レム も待侖第 1 回 / 」ピ「一ー / 他「ラム満載 ,. おお株式会社新時代社 1 。 1 東京都千代田区衲保町ー 2 容 0 3 ( 2 3 4 ) 0131 振替・東京 0 ー 13 5 81 0 4 0 4 9 3