男 - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1983年9月号
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1. SFマガジン 1983年9月号

僕がここの 石油採掘塔勤務を 志願したことを まだ怒ってるのかい 怒ってないわ 友達と 会えなくなったのが 寂しいたーよ 友達か 知ってたの ? 君の言ってるのは あの男の ことたろ , フ ? ・ あの詩を書く男 あの男のことは 忘れてくれ そしてここで お互いのことを 考えなおそう そのために 僕はこの アケロン勤務を 志願したんだから

2. SFマガジン 1983年9月号

ては、金持ちの家の、広い庭の中を走り廻るということは、きわあ キタが育ったウイスボア州立西北養育院は、ウイスボア市西北区て新鮮で自由なたのしみだったのだ。 のケズベ通りの一角を占めていたが、同じ通りに、トレックスとい テゴは、そういう子供たちに親切だった。親切ではあるが、子供 う家があった。の家系で、事業をおこした先代の時分にはなからのいたずらが度を過ぎると、。イ ( オヌ特有の浅黒い顔をさらに充 なかはぶりがよかったそうだが、彼がものごころついたころには、血させ、あるかないかわからぬほど薄い唇を裂けるほどひらいて、 おだやかでお人よしの当主の代になっており、それまでに蓄えた資わめき立て、追いかけて来て、説教したのである。他人がよろこぶ 産を少しずつ食い潰していたようである。 のを好むプ・ハオヌとしては、随分きついおばさんだ と、当時の テゴはそのトレックス家で使われていた。フパオヌの女なのだ。 彼は考えたりしたものだけれども、今思うとそれは、トレックス家 ゾ・ハオヌの使用人といえば、よほどの例外は別として、ますたい の。フ ' ハオスの使用人としての義務感がそうさせたのであろう。それ ていは女である。というのも。フ・ ( オヌの女は男よりもずっと体格がに、そのころはおばさんと思っていたが、二十二、三の年ではなか 良く、働きものなのに、男のほうは身を飾りおしゃれをして女の気っただろうか。平均寿命が五十歳かそこいらのプ・ハオヌとしては、 に入られ、女の庇護を受けるのが生きる目的のようなところがあっ青春のまっ盛りとはいえないにしても、まだまだ若い年齢だったは て、労働力としては全く期待出来ないからだ。だから。イハオヌを雇ずである。 うということは、その本人である女はむろんのこと、そこに通って トレックス家の最年長のプ・ハオスは別として、他のプパオヌたち 来る男のプ・ハオスの面倒も見なければならないのを意味する。そのが、あるいは何年も、あるいは短期間で次々と相手を変えながら、 男の衣食住を保障出来なければ、女のプパオヌがひまを取って、別男の。フ・ ( オヌを邸内の自分の住居に住ませている中で、テゴだけ の家へ行ってしまうのを覚悟しなければならない。金持ちでなけれは、ずっとひとりだった。 ばプ・ハオヌを雇えない理由のひとつが、ここにあるのだった。 彼は一、二度、 「テゴ、どうして男、来ないの ? 」 そうしたプバオスの女としても、テゴは大柄で、働き者であっ と、説いたことがある。 た。身長も二メートル十センチはあったろう。おとろえたとはいし ながらもトレックス家には五人のプ・ハオヌの女がおり、その最年長するとテゴは、腹を立てたような、困ったような顔をして、 「変な男は嫌いだからね」 のプ・ハオヌは話によればすでに五十歳を超えて、あまり身体が動か と、答えたものだ。 なくなっていたが : : : まだ若いテゴがよく補佐をして、実質的には ブ ' ハオヌの使用人のリーダーの役をしていたのである。 そのテゴが、とうとう男を引き人れた。小柄で貧弱な男だったが トレックス家の当主が開放的で気がいいところから、養育院の子 : テゴは、その男にいろんなものを買ってやり、身を飾らせたり 供たちは、よくその屋敷へ遊びに行った。養育院の子供たちにとっした。 こ 0 2 2

3. SFマガジン 1983年9月号

白衣の男が人ってきた。四十過ぎの黒縁の眠鏡をかけた四角い顔秀克も、つられてうなづくしかなかった。 「私は、いま新薬の開発をやっているのです。信じられないかもし 7 の目の細い男たった。 れないが、万病に効果のある薬なのですよ。海水から抽出した奇跡 「五堂です」 ャニウム の薬品です。私は仮に、この物質を大和石と呼んでいますがね。細 男は頭を下げた。 これが、今までの 「広崎といいます。電話では詳しく話して頂けなかったのですが」胞組織自体を活性化する働きを持っている : そのとおりだった。電話ロで秀克は、男に一方的に質問されたの動物実験のデータなのです」 五堂の話が、単なる音声として秀克の耳に入り、そして抜けてい だった。年齢、家族構成、経歴、応募理由。それから、男は住所を 告げ、そこへ訪ねてくるようにと強い口調で指示したのだった。そった。秀克は全然別のことを考えていた。 五回目の転職先で何故か知らぬ間に押しつけられていた使途不明 れは、ほぼ命令に近いものといえた。電話中に秀克は何度も受話器 を、ほうり投げたい衝動に駆られていた。しかし、できなかった。金の責任。その返済に利用した五百万円の市中高利金融。負債額は もう、他に秀克は、すがるものを何一つ持たなかったのだ。こんな九百万円を超えたはずだ。 頼りない電話の赤コ 1 ドの先の、得体の知れない声に総てを賭ける妻であった郁江は、秀克をとうに見放していた。秀克は、その人 の良さをいつも郁江に罵られていたが、それには耐えていく自信が しかない自分が情けなかった。 「もう一度、うかがいますが、この募集用紙で、うたってある内容あった。一粒種の佑一がいたからだ。 しかし、郁江が家を出る前日、五歳の佑一は父親に言ったのだっ は充分、御承知ですね」 五堂という男は、そう言った。その同じ質問が電話でも発されて 「もう 、パパと話したらダメだって。ママが言ったよ いたのだった。 たら、、ハ力になっちゃうって。メチャメチャな人間になっちゃうつ て。だから、もう、・まくよ・、く ′と話さないよ」 頼りなげに秀克は、そう答えたにすぎない。 ″死んだ気にな 「よく理解しておいて頂かないとますいんですね。 郁江は、無言で家を出た。秀克は、それを見守っていたが、何も って〃という表現と″独身者に限る″という注意事項をつけていた言えなかった。どんな言葉を弄しても、妻を説得することが不可能 でしよう。つまり、こう いいたいわけなのですよ、私は。この仕事と思えたからだ。佑一は、何度か父親の表情を寂しそうに盗み見て に対しての生命の保証はできかねるということ。これです。こんな イラシ こと、募集用紙には書けませんからね。汲みとっておいて頂かなく「もちろん、あなたに投与する薬品には不定期に偽薬も混ぜておき ます。効果を客観的に測定したいですからな。 ては困る」 あなた、それ何をやってるんですかね」 しかつめらしく五堂という男は、自分の言葉にうなづいていた。

4. SFマガジン 1983年9月号

もしれない。しかし、誰も気づかなかった。 訪問者もチェスができた。 訪問者は、男が彼のこれまでに戦ったおそらく最良のゲームをや り直すのを見つめた。七年前に世界大会での予選で戦ったゲームで ロジャー・ゼラズ一一イ ある。そのあと、彼は緊張しすぎて失敗したのだーー自分がそこま 0 erZe ぶいさ で戦えたのがむしろ意外なほどーー・あれだけの。フレッシャーのもと で、あんなにうまく戦えたことはなかったのである。しかし、彼は ー「チェスと幻想小説との熱烈な いつもそのゲームだけを誇りに思い、それを追体験しているのだっ 出会いは、すくなくともルイス た。すべての感受性の強い生物が自分の一生の転回点をふたたび生 ・キャロルの昔にさかの・ほるこ 、とができ、その交流はいまもな きるように。おそらく、二十分ばかりのあいだ、誰も彼を邪魔でき お連綿とつづいている」 なかったろう。あのときの彼は輝き、純粋で、厳然とし、澄みわた 〈・ハーサーカー〉や〈東の帝 っていた。訪問者は最高の気分だった。 国〉のシリーズで有名なフレッ 訪問者は盤の反対側に位置をとり、じっと見つめた。男はゲーム ド・セイ・ハーへーゲンは、 . 最近 を終わったところで、微笑していた。やがて彼は駒をまた並べた。 彼の編んだ "Pawn to lnfini ・ ty" というアンソロジーの序文で、そういっている。これはチェス 立ちあがり 、・ ( ックから缶ビールをとりだした。ポンとふたをあけ を扱った新旧のとファンタジイの名作を集めたものだが、ゼラ ズニイのこの中篇がそこに収録されていることはいうまでもない。 テー・フルに戻ると、白のキングの前の歩がの 4 に進んでいるの もともとはアシモフズ・マガジンの八一年四月号に掲載されたも に気づいた。男は眉をよせた。彼は頭をまわした。カウンターのな の。ヒュ ーゴ 1 中篇賞を獲得したほか、玄人筋の投票するローカス 賞中篇部門でも、僅差でマーティンの "Guardians" に敗れたもの かを見たが、汚れた鏡に不思議そうな自分の顔があるばかりだっ の、三位以下に大きく水をあけて堂々の二位。この洗練されたユー た。テー・フルの下を見た。ビールをごくりと飲み、椅子に坐った。 モラスな味わいは、ゼラズニイ独特のものだ。 彼は手をのばし、自分のポーンをの 4 にもっていった。と、白 ( 浅倉久志 ) のキング側の騎士がゆっくりと宙にもちあがり、前に漂っていって に置かれるのを見た。男は長いこと盤のむこうのなにもない相手がいないことをほとんど忘れていた。彼は手をとめて、ビ】ル 空間を見つめてから、自分のナイトをに置いた。 を飲んだ。 が、ビールをテー・フルに置くやいなや、缶はまた宙に浮 白のナイトが男のポーンをとった。男は異常な事態を忘れて、ポき、盤のむこうに行って底を上に向けた。すぐに喉をならす音がし 1 ンをに進めた。白のナイトがに戻ったときには、男は た。缶は床に落ち、はずんで空虚な音をたてた。 こ 0 ナイト 4 3

5. SFマガジン 1983年9月号

コン。ヒュータ・コントロールの無人トラ ラックをはさみ込むように接近する。二匹かに機械的な記憶操作の痕跡があるのだ。 ックが、ハイウェイの自動走行レーンを猛の象が傷ついた仲間を助けるように、巨大明日来るようにといったその医者は、とこ ス。ヒードで走っている。その中に男が一なトラックは彼のトラックとスビードを合ろが次の日、突然の心臓まひで急死する。 万 人。彼は追われている。地平線の向こうかわせる。一台のドアがすっと開く。無人のそしてコーラはホテルの部屋のコン。ヒュー らへリコ。フターが現われ、旋回しながら急運転席。もう一台がうながすように軽く接タ・スクリーンに別れのメッセージを残し 速に接近して来る。敵だ。銃声が轟き、何触する。男はドアを開け、走るトラックかて消える。しかしこれは本物なのか ? 見 大 えない敵の手に彼女は捕えられたのではな 発もの弾丸がトラックを貫く。焼けたオイらトラックへと飛び移る し、刀 2 ・ ルの臭い。エンジンがおかしな音を立ては そもそもの発端はフロリダのリゾート・こ った。男はそこで知り合った女に、自分の じめる。男は運転席から空を見上げる。へ ドナルドの背後に敵の手が迫る。それに リは再び旋回し、今度はとどめをさそうと故郷を見せようと思い立ったのだった。とつれて、彼の記憶の断片も少しづっ舞い戻 って来る。彼は全米のエネルギーを独占す 近づいて来る。男は思考を飛 るコングロマリット、アングラ・オイル社 ばす。上へ、上へ、ヘリの自 に雇われた、特別なチームのメン・ハ 動操縦装置の中へ。彼の思考 たとわかる。仕事は一種の産業ス。ハイだっ はヘリの小さなコン。ヒュータ たが、チームのメン・ハーがみんな、超能力 & の中〈と " 0 イル。し、その 〃・フログラムを、データの流れ の持ち主だったのだ。 人の心に現実としか思えない幻影をもた を見る。〈リが空中で揺らぎ にノ はじめる。操縦席で、見知ら簽 . 、らす、黒髪の美女ーーアン。ある時は手も ぬ。 / イロット : 、 カ当にい、つこ 触れず頭痛を直し、その同じ力で心臓をま びさせて人を殺す、もと宣教師のウィリ t.TQ とをきかなくな 0 た〈リ = 。フ ンターを相手に苦闘する。ヘリ 1 。テレキネシスで物体を動かすことので きる中年の女性ーーマリ 。そして彼は、 が大きく傾き、・ ( ラスを崩鞣 ( い第、、ド す。トラックの背後で炎と轟 コンピュ 1 タ相手のテレ。ハス。コン・ヒュー 音が上がる。男はトラックの中へと思考をころが、飛行機と車を乗りついでやっと着タの中に思考を送り込み、データを読み、 ・、戻す。トラックのコン。ヒュータは″死ん いた田舎町は、彼の記億にあるものと似て・フログラムと会話し、それを変更すること イでいる。自動レーンをはずれ、坂道を下も似つかなかった。他にもおかしな記憶のができるのだ。 セ 0 て行くトラ〉ク。・フレ】キもきかない。 欠落がある。どうやら、彼の記憶は一度消かっての仲間たちを敵にまわし、ドナル 0 LL 坂道の正面には大きな岩がむき出して いきれ、偽の記憶が植えづけられているらし、ドは自分の能力に頼りつつ、コーラを捜し 「その時、すぐそばに、エンジンの高な 求める。息づまるチ→ェイ・、ス。そして彼がコ 々ィアミへ戻らた彼ーードナルドは、彼ン。ヒュータ・ネットワークの中に見たもの レ】一 ) 《きと、生きたコンピ = 1 タ・システム ・スの存在を男は感じる。一一台の無人トラ ' ク女ーー「ーラのすすめに従い、カウンセラはーー。 イラ が、自動レーンをはずれて、彼を助けに来 1 を訪れる。医者は彼の脳をコン。ヒ = ータ ゼラズニイとセイ・ハーへ 1 ゲンの合作に 8 たのだ。二台のトラックは両側から彼のト で調べ、ドナルドの疑問を裏づける。明らよる、アクション。フロの味がある。 ーイ 0

6. SFマガジン 1983年9月号

ノスフィッツへンリーなど足元にも及ばないほど真にせまってい おれは震えていた。声は近かった。からだの中から聞こえてき た。歌声の催眠的なくりかえしに頭が・ほけたのか、長いあいだ、おた。おれはあわてて手をはなした。 れはうっとりと見つめていた。 「おい、彼らにはたくさんの博士がいるというのは知ってるかい ? 歌声がやみ、おれは瞑想から引きもどされた。ひょろりとした男色で年齢に応じた地位をあらわすなんていうのは知ってるかい、 がやってきて、秘密めかした口調で熱心にささやきだした。「あのえ ? それから五億歳ぐらいになるまで集合意識には加わらないと 生物がほんの数ミクロンの厚さしかないのを知ってるかい ? 名前か、こうした学習センターを全銀河系にはりめぐらしているとか、 かト・タットだというのを知ってるかい ? 彼らの共有意識が、途彼らがもともとはアンドロメダ大星雲からわたってきたことなんか 方もない時空的広がりを持っているのを知ってるかい ? 彼らが信 は ? 嘘じゃないったら ! 」 え じられないくらい高度な進化の階梯にあるのを知ってるかい、 おれは目を白黒するだけだった。 「ほら、もう一度さわってみろ。二度目はそんなに気持わるくない 「クリシュナ教徒らしくない話し方をするんだね」 から」男は全身をひくつかせている。さしずめ神経のかたまりとい 「よせやい : ・ああ、この衣装のことか。ほんとはで士ったところ。「すまないな、こんな応対しかできなくて。これが唯 号をとってるんだ。ぼくはあの生物と話をするんだぜ」 一ノーマルにふるまえる時間なんでね。つまり、一日のほかの時間 「そんなばかな ! 」 は、台本によれば、クスリでのびているか眠っているだけだものた 「嘘なもんか ! ほら、来てみろよ」男はおれを乱暴に柱のほうに から。ああ、待ちどおしいなあ、みんなが目をさますのが ! 」 引っぱっていった。柱の輝きは消えている。「ここに坐るだけでい おれは手をのばした。 ( ゃあ ) い。からだを楽にして柱にさわるんだ。トーテム・ポール、神のア 「やつらに抵抗する手段というのはないのかね ? 」 ンテナ、何だか知らんが。聞こえないか : 「そんなことして何の益がある ? 永遠に生きたくはないのか ? ( ゃあ ) これは煉獄みたいなものなんだろう ? みんな天国へ行くのさ」 「たけどもし、そうだな、いまとは反対のことをしたいとか、そん な風に思ったとしたら : : : 」 「さあね。もちろん、彼らはすべてを支配してるわけじゃないと思 う」男はすこしのあいだ口をつぐんだが、やがてコインがころがり こんだように、また情報を流しはじめた。 「一般方程式はたててあるんだ」男はおれの顔のまえで紙きれをち らっかせ、またポケットにつつこんだ 「しかし、これには統一 6 6

7. SFマガジン 1983年9月号

みがおれをおぼえていてくれるだろうということだった。な・せつ そっちを見やったイアンは、二十代後半の女性と視線が合った。 て、そうすれば : : : 」彼の目には、観望窓に大きく近づいた地球の彼女の向かい側にはイアンとおなじ年格好の男性が坐っており、い 姿がありありと浮かんだ。これほど長い長い年数の隔たりが、わずまその男もふりかえって、イアンをながめた。その目にはいくらか か六カ月のあとだとは。この惑星は見知らぬ人たちでいつま、・こ。 ーしナ疑惑はこもっていたが、積極的な敵意はなかった。女のほうはニッ アミティが見知らぬ人たちでいつばいでも、それはかまわない。しコリした。男のほうは判断を保留していた。 かし、地球はふるさとなのだ。もし、その言葉にまだ意味があると レイディアントに妻がいるとはな。ま、時代は変わるものだ。 するならば。 「あそこにいる赤いスカートをはいたふたりは警官よ」レイディア 「おれはだれか自分とおなじ年格好の話し相手がほしかった」彼はントがしゃべっていた。「あの壁ぎわにいる男もそう。それからパ いった。「それだけだよ。友だちがほしかっただけなんだ」 ーの端にいる男もね」 彼女はその気持を理解しようとっとめているようすだった。しょ 「そのふたりには気がついてたよ」イアンはいった。彼女の驚いた せん、彼女に理解できはしない。しかし、自分で理解したと思いこようすを見て、説明をつけたした。「おまわりはなんとなく態度で むところまではいくだろう。 わかる。時が経っても変わらないものの一つだ」 「たぶん、それがひとり見つかったかもしれなくてよ」彼女はそう「あなたはずいぶん長生きをしてるんでしよう ? きっと、いろい いって、ニッコリした。「すくなくとも、あなたと近づきになりたろ面白い話がありそうね」 い気持はあるわ。このことにあなたがつぎこんだ努力を考えても ィアンはちょっと考えてからうなずいた。「うん、あるかもしれ ない」 「たいした努力じゃなかった。きみには気の長い話に思えるかもし「もう帰ってもいいと、警官たちに知らせてやらないと。わたした れないが、おれにはそうじゃない。きみをこの膝の上で抱いたのちが警察を呼んだことに、気を悪くしないでほしいんだけど」 は、たった六カ月前のことなんだ」 「もちろん、しないさ」 「こんどの休暇はどのぐらい ? 」彼女はたずねた。 「じゃ、そういってくるわ。それからでかけましよう。あ、そう だ。子供たちにも電話して、まもなくみんなで帰ると伝えなくち 「二カ月」 や」彼女は笑い出し、テー・フルの上に手をのばして、彼の手にふれ 「しばらくわたしたちといっしょに暮らしてみない ? 部屋ならう た。「六カ月のあいだにどれだけのことが起こったか、想像がっ ちにあるわよ」 わたしは三人の子持ちょ。そしてギリアンが二人」 「だんなが気にしないか ? 」 「気にしないわよ、わたしの夫も、妻も。ふたりともあそこに坐っ彼は興味をそそられたように目を上げた。 てるわ。そ知らぬふりをしてね」 「その中に、女の子はいる ? 」 2

8. SFマガジン 1983年9月号

異形の炎とも見えるそれは、すばやい、優雅な身のこなしで移動知るだろうように、それもまたそれらのことを知っていた。 それは凍りついたように立ちどまった。左前方から予期せぬ小さ した。嵐に吹き飛ばされた夜の雲のように存在をあらわにしたり、 消したりした。あるいは、炎と炎のあいだの闇のほうが、それの真な音が聞こえてきたのだ。そのとき、それはふたたび存在をあらわ にしつつあるところだったのだが、そこで輪郭を解放した。輪郭は の性質に近いかもしれない 黒い灰が渦を巻き、読まれなかった 本のページのように、あるいはまた歌の音と音のあいだの静寂のよ地獄の虹のようにすみやかに消えていった。しかし、姿を消して、 うに空虚だが充たされた建物の背後の涸れ谷に吹く風にのり、踊るも、むきだしの存在感だけは残った。 見えなくなったが、存在し、力強いそれはまた移動した。手引き ようなリズムで集まってきた。 されるように。前方。左。風雨にさらされた板にかすれかけた文字 また去り、また来たり、また 力、というべきか ? そう、おのれの時代の前あるいは後に ( あで″酒場″と記された奥。スイング・ドアを抜けて ( ドアの片方は るいは、前後ともに ) 出現しようとするとき、そこには途方もない蝶番がはずれて斜めにぶらさがっていた ) 。 力が必要になる。 止まり、見回す。 消え、あらわれながら、それは、暖かい午後を進んでいく。 ーのカウンター。埃だらけだ。カウンターの奥に割れた 足跡右手に。 ( は風にかき消されるーーーっまり、足跡がある場合は、・こ ; 。 鏡。空瓶。割れた瓶。真鍮の手すり。黒く錆がこびりついている。 理由は いつでもひとつは理由があるものだ。あるいは複数の左とうしろにテーブル。修理の程度はさまざまだ。 理由が。 一人の男がいちばんいい席に坐っていた。背中をドアに向けてい だが、な・せそこ それは、なぜ存在しているかを知っていた る丿ーヴァイスのジーンズ。ハイキング・プーツ。色褪せた青い に、その場所に存在しているかは知らない。 シャツ。左手の壁に緑の・ハックパック。 それは間もなく理由を知ることができるものと期待して、荒れ果男の前のテー・フルの上は、色あせたチ = ス盤になっている。染み てた古い街路に近づいた。しかし、前からあるいは後から理由がわ がっき、掻き傷だらけで、市松模様はほとんどかすれてしまってい かることがあるのも知っていた。だが、たしかにそこには吸引力がる。 あり、それを存在させている力が、いやおうなくそこに近づかせ 男が駒を出した引出しはまだすこし開いたままだ。 息をせず、血液が循環せず、ある程度一定の体温を維持できなけ 建物はすり切れ、荒廃し、いくつかは倒壊していた。どれにも隙れば、死んでしまう。それとおなじで、男はかって戦ったいい試合 間があり、埃つぼく、空虚だった。床板のあいだから雑草がのびてを並べなおしたり、チ = スの問題を解いたりせずにはいられないの ・こっこ 0 いた。垂木のうえには小鳥が巣をつくっていた。野性の獣の糞がい たるところにあった。もし顔を会わせれば、それらがそれのことを訪問者はさらに近づいた。埃のうえに新しい足跡をつけているか 3 3

9. SFマガジン 1983年9月号

人生に絶望しきった男の志願した実験とは ? 悲しく、しかもさわやかな物語 女を ? " もう一人のチャー リイ・ゴドン 梶尾真治 イラストレ→ョン新井苑子 72

10. SFマガジン 1983年9月号

の 。。奇啻学入門講 筑終回狼男ジャパニーズ會津信吾 ・トー ~ 〉の『孤児』がなくから神聖な獣としてその霊性が奉な人間を妬み嫉み恨み憎むのが得意物もを、 ) 総、一 カュはカョしー 、。まくは、基本的に、変じられ、さらに年を経た狼が人間に中の得意というとんでもないネジケ 身という現象が大好きだ。昆虫の羽化ける「千匹オオカミ」なる説話も者だった。ある日、柴六は領主の す 化のように、見慣れた姿が突如とし残されている。 洲男爵の狩の獲物を横取りしよと て別のものに変化してしまうのは、 して、こっぴどく折檻された。、。 人狼テーマの日本作品というと、 驚きを通り越して感動的ですらあすぐ頭に浮かぶのが平井和正氏のウさえひねくれた柴六のこと、あ る。たとえそれが『 ( ウリング』みルフガイ・シリーズ。井上靖にも爵を恨むこと恨むこと。っしにそ , 2- - 、た毛皮が、 , たいに人間から狼へのメタモルフォ 「狼災記」という短篇があるが、こ 一顰髷。、意。 = を人。にに。知。 0 」 シスであっても。 れたるが顕はれ出た、 れは秦末の中国が舞台になってい を不幸にしたり森中のを ヨーロッパには、古来、人狼伝説る。 魔力をさずか 0 た。「よ「め , 、男『ヤ、足下は黒と思ひの外、 があり、それを題材にした民間伝承珍し」と = ろでは羽化仙史 = と渋て勝手放題に暴れ回、 = 一 ) 子分 ~ 柴六だな』 や小説も数多い。わが国では長繩・江保の『怪奇小説奇人の魔法』の黒狼と魂をしこが 男爵柴一ハは、・・苦しき息を吐きっゝ、『へ あく ! 一かずかずかさ 1 鄙夫は「悪事の数々を重ねまし おさき狐・大神統・猿神統などの信 ( 明治三十九年・大学館 ) 。狼を自由に狩り立て 仰が一般に強いようだが、狼もまた自在にあやつる怪人を主人公にした。ー「此の途端に一猟人 「大口真神」の別称があるごとく古小説だが、完全な創作ではな 、を厖部を " でた、 0 。しレはをみで ) ック / \ と前非を お、 - .. と言はぬドかに、各々歯と途切れ / \ に述べて、段々に死相 トミ斗、・という作品を日本風に焼 あら い - ひを、・こ むき うなりごえはっ 発して、跳び掛っ , を呈はし、遂に息を引取って仕舞っ 法直した翻案だそうだ。 加賀と能登の国境、山墹 ねら の たねんねら てな具合に、ダース・べイダーみ に、浦戸柴六なる男が住んでいた。 ( ・ 人 甥爵は、是れそ多年狙ひに狙った黒 たく改心したのであった。 奇この男、顔も頭も悪くないのだけれ、狼と、ツト突進んで一刀を浴せた、 しばろく くろおはかみ やはり、素直な心はこの上ない財 『キャッ ! 』と言って、柴六の黒狼 ど、性格が陰険で、何よりも他人の 幸福を嫌い、少しでも自分より幸せは斃れたが、斃れると同時に、上に産のようだ。 を )