惑星 - みる会図書館


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1. SFマガジン 1984年10月号

繁本書はミステリの形式はとって いるが、アシモフなどのそれとは風 田 ことなっている。〈整態〉とい - フ生物 工学、かって木星と火星の間に存在し、 いまは小惑星とその他の彗星群となっ ス文 て太陽系をさまよっている古代惑星ロ ウ ージとその住民、そして医療技術の進 歩ゆえに壊滅的なまての人口増加とい し」、つ、、し」 ロ う事態に直面する地球 フ錦ころがその構造を支えるバック・ホーン 一読して受けた印象は、ニーヴンの 「フロテクター」を想起させるストー リイ展開だということた。小説として は、ニーヴンの方にやはり一日の長が あるが、本職が科学者ならばそれも仕 まして、これはシェフィ あるまい ド博士の処女長篇だ。実は筆者は 星ばしに架ける橋』を買ったまま、 レ まだ読んていないのだが、噂てはこち らよりも出来力い ( 、とい - フことなのて ャ楽しみにしている。 てはいささか切れ味が悪く、アシモフ やニーヴンの方が筆達者てあることを らためて認識した。やはり、よくも 、くもシェフィールドは科学者なのだ。 イラストは、本書の中て重要な鍵を 惑星ロージの住民の姿。未読の読 対してタネ明かしになるとい ( オ くわしい説明はここては書か 闇の聖母てはクレームがついた ) こしても、筆者が生きている間に こ態のような技術が開発されな こと祈りたい気分てある。 宀 フトレー ロージ人 出身地 : 地球 ( く整態〉技術によって土求 人ジョン・ラーセンが変身して いる ) 標準身長 : 描写はないが、体重 300 キロと ( いう点から考えて、かなり大き いと思われる とくい技 : やたらと頭がいい 弱点 : 基本的にはガス惑星に適応して いるので、地球の大気内では 窒息してしまう ネー 0 ①の一 0 . ! 疆睡町

2. SFマガジン 1984年10月号

ⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅧⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅧⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅧⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢ & のア 4 れ d 〃尾 Rings 可・ S ″ ( ポー ル・フレンチ名義 1958 ; 圜 T ん Rings 可、 英 ) でも同じ場所に還ってきてい る。もうひとつの注目すべき児童 S F は、 土星には生命が存在するのではないかとい う大胆な仮説に基づいたフィリッフ。・レイ ザムの石切 g れ 0 ア S 4 ( 1953 ) である。しかしながら、主舞台として扱わ れることでは、母惑星よりタイタンのほう がはるかに回数が多い。アラン・ E ・ナー わたって木星の外まで遠征する。ただし彼 女は並外れて豪胆な女性であった。外惑星 まで手を広げたパルフ。作家たちの中で多少 とも重きを占めているただひとりの存在は スタンリー・ G ・ワインポームである。彼 はまず "Flight on Titan" ( 1935 ) におい てタイタンを扱い、続いては天王星を舞台 にした数少ない小説の一つ "The Planet of Doubt ” ( 1935 ) を発表、舞台の一部とし て冥王星を扱ったスペース・オペラ "The Red Peri ” ( 1935 ) も発表した。辺境に舞 台を取った他のパルフ。小説には、 J ・ M ・ ウォルシュの "The Vanguard tO Neptune ” ( 1932 ) やウオレス・ウェスト の「冥王星への道」 "En Route to Pluto" ( 1936 ) やレイモンド・ Z ・ギャランの "Raiders of Saturn's Rings" ( 1941 ) 、 マレイ・ラインスターの "Pipeline to PIuto ” ( 1945 ) などがある。スタントン・ A ・コフ・レンツの諷刺 S F のひとつ ん知襯・ 4 Depths ( 1931 ; 1950 ) は、題 名通り冥王星の奥深くに舞台を設定してい る。クリフォード・ D ・シマックの『大宇 宙の守護者』 Co ”な E れ g ( 1939 ; 國 1950 ) は、冥王星の近くから物語がはじ まる。しかしながら、戦前の思弁小説にお いて、外惑星に与えられたもっとも重要な 役割というのは、オラフ・ステーブルドン のん 4 立 4 れ d 窺 r 立〃 ( 1930 ) とん 4 立 れ切切れ〃 ( 1932 ) における海王星 にとどめをさす。その中では、遙かな未 来、人類の究極の子孫が、太陽の膨張にと もなって新しい住み家を海王星に求めなけ ればならなくなる。 戦後は、もっとシリアスな思弁小説に外 惑星がひんばんに登場するようになる。ア イザック・アジモフの中篇「火星人の方 法」 "The Martian Way" ( 1952 ) では、 土星の輪が重要な役割を演じる。彼はまた 児童 S F の『太陽系の侵入者』加 y 煢の亠ま 短篇集『火星人の方法』アイザック・アジモフ スの『タイタンの反乱』 7 ' 4 みん 0 れ T / 地〃 ( 1954 ) は、この衛星の植民を扱った児童 S F である ( 宇宙植民 ) 。カート・ヴォ ネガットの『タイタンの妖女』 T ん & ・ T / 〃 ( 1959 ) はクライマックスをこ の地で迎える。もっと最近の例を挙げるな ら、タイタンは、べン・ポーヴァの As 0 〃 “ D の・んツ g ~ / の・れ ( 1972 ) では巨大な異 星人の装置のありかとなり、アーサー・ C ・クラークの『地球帝国』わゆ夜・ / 記 Ea ん ( 1976 ) では優雅に描き出された植民地の 260 XII

3. SFマガジン 1984年10月号

ⅢⅢⅢ日ⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅧⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅧⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢ 人″ーーー - ではゲリー・カーライルは二度に な筆力と熱意をこめて ( それがきわめて激 烈な調子であるため、多くの批評家たち は、本書には主観的な不安定さがあると一 ー不当にも、非難した ) 語られる『 1984 年』が迫真的に描き出しているのは、汚く 根本的にサディスティックな全体主義社会 である。というのも、 ( ビッグ・フ・ラザー のイメージで象徴されている ) 支配者たち は、苦痛を与えることによって自分たちの 権力の現実を大衆に叩き込むし、また大衆 の生活は無慈悲な型にはめられ、その思考 ュースピーク ( 新語法 ) で支配されて はニ いる。その言語に関しては、作者自身が克 明な付録の中で次のように痛烈に述べてい る。「ニュースビークがひとたび、そして 全面的に採用され、オールドスヒ。ークが忘 れられたら、異端の思想は・・・・・・文字通り考 えることもできなくなる」本書のプロット は、ウインストン・スミスが自分を解放し ようとし、遂には拷問に屈し、この恐るべ き世界のやり方を受け入れるようになる悲 惨な物語である。政治的色あいはどうであ れ、テクノロジーの発達した現代の政府 が、圧政とダフ・ルシンク″ ( 二重思考 ) によって支配するという根本的な傾向に対 する告発として、本書は比類ないものであ る。その悲観主義は目をおおいたくなるも のであり、また同時に有益でもある。オー ウェルの精神の品位と活力、そして筆力と は時とともにますます明瞭になってくる。 〔 J C 〕 外惑星 23 ーで、アタナシウス・キルハーやエマヌエ 1846 年に、冥王星は 1930 年に発見された一 土星だけーーー天王星は 1781 年に、海王星は 払われなかった。昔から知られていたのは 対して、これまで比較的わずかな関心しか SF の世界では、木星より外側の惑星に OUTER PLANETS ル・スウェーデンポリの惑星間旅行に登場 する外惑星はこれだけである。しかし、作者 不詳のノ 04r eys 〃尾イ 00 , & ~ な 4 d the S ″ : 〃な地な 記 e & 襯れ a 襯ろ / 立 ( 1837 ) では天王 星に触れている。木星以遠では、魅惑的な 土星の輪も大いに興味をそそるが、思弁小 説の作家に強くアビールしたのは、なんと いっても生命を育んでいる可能性のある唯 ーの天体、土星の最大の衛星のひとつタイ タンであった。冥王星は太陽系のさい果て の地という意味でかなりの特別な関心が向 けられてきたが、そのさらに外側になにか が存在する可能性は、それに勝るとも劣ら ない興味の対象となった。 土星は『ミクロメガス』石げ 0 加なゞ ( 1750 ベルリン ; 1752 仏 ) において、ヴォ ルテールの描くシリウスからの訪問者が地 球へ行く途中に立ち寄り、土星人の一人も 物語の主人公に同行して観光旅行に出かけ ている。またこの星は J ・ B ・ファイエッ トが匿名で発表した The E ュ盟 / c お Eon れ d E 。 4 ( 1886 ) における主な 舞台のひとつでもある。さらにジョン・ジ ェイコブ・アスターのみ 70 れ切 0 WorIds ( 1894 ) では、土星は霊た ちの住みかとなり、未来の地球からきた旅 人の神学的信念に裏付けを与える。しかし ながら、初期の科学ロマンスの作者たち は、だいたい手近な場所で充分にエキサイ ティングな冒険を見つけられたので、 まで遠出することは稀だった。ロイ・ロッ クウッドは召ッ S, 第 4 化訪ゆ知 Sa ( 1935 ) で、彼のジュヴナイル宇宙小説の 舞台をこの惑星にまで押し広げた。だが、 その例にならったパルプ雑誌作家は数少な い。アーサー・ K ・バーンズの『惑星間の 狩人』ゆ I の肥地丑 4 厩 ( 1937 ー 46 TWS ; 統 1956 ) XI より正確には、、女狩

4. SFマガジン 1984年10月号

ⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅡⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢ聞ⅢⅢⅢⅢ日ⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢ日ⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢ川 所在地となり、グレゴリイ・ペンフォード とゴードン・エクランドの『もし星が神な らば』 the & 4 G0ds ( 統 1977 ) ではクライマックスを盛りあげる奇妙な生 命体の故郷にもなる。 冥王星はアルジス・パドリスの〃 E 。ん ( 1958 ) に現われるし、ウイルスン ・タッカーの TO 住 TO 襯″ g ん S 地た・ 0 れ ( 1960 ) における登場人物たちの目的地で あるが、これは例外であって、誰もがこの 惑星をまったく退屈で、きわめて低温の岩 の塊としか見ていない。海王星の衛星トリ トンは、マーガレット・セント・クレアの ふしぎな小説「枕」 "The Pillows ” ( 195 のとサミュエル・ディレイニーの 、、両義的へテロトビア″ T だ″ 0 れ ( 1976 ) などで舞台になっているが、天王星と海王 星が登場する小説はほとんどない。アルフ レッド・ベスターの『虎よ、虎よ ! 』 The & の・ s 3' の立 4 〃 0 ( 1956 ; 図 T な ! Tiger! 英 ) では、、、外衛星同盟″が内惑 星連合と交戦するが、読者はその地を訪れ るどころか、それに含まれている衛星のリ ストすら見ることもない。同様な、しかし もっと克明に描写される紛争が、セシリア ・ホランドの窺 0 切 g Worlds ( 1976 ) においても発生する。この物語では、題名 にもなっている浮かぶ都市群が土星と天王 星の上空を根拠地にしている。 何十年にもわたって、天王星の軌道上の 摂動を説明するために、十番目の惑星が求 められてきた。それは海王星と冥王星の存 在が知られたあとですら続いた。 SF 作家 たちは折にふれその可能性に取り組んでき た。ジョン・ W ・キャンベル・ジュニアの T ん ~ la の・ 5 ( 1936 ー 8 ; 関連作品團 1966 ) では、主人公たちは最終的に第十番 クの『偶然世界』 & だ ( 1955 ; 圜ル。 r C ん 4 れ c のでは、小規模な宗 教団体が、第十番惑星が存在することを願 って、地球を逃れる。ェドマンド・クーハ ーの The T 厩ん ~ れ ( 1973 ) では、 そこは高度な文明の故郷になっている。ラ リイ・ ーヴンとジェリー ーネル共作 の『悪魔のハンマー』 ' s 丑の〃加 ( 1977 ) では、第十番惑星は、他の惑星の 戦道面から 90 度傾斜した軟道を回るガス・ ジャイアントとして描かれている。その重 力が彗星の軌道を歪ませ、そのため彗星が 遂には地球と衝突することになる。 冥王星の外側になにが存在するかという 考えで、もう少し興味深い仮説はおそら く、惑星ではなくなにか別のもの一一第二 のアステロイド・ベルトではないか、とい うものだろう。この種の発想のひとつを途 方もなく発展させたものには、フレデリッ ク・ポールとジャック・ウィリアムスンの The ルイ 5 S 化 ( 1964 ) があり、そ こでは宇宙礁脈の生命システムがきわめて 想像力ゆたかに描きだされている。クラー クの『地球帝国』でも、冥王星以遠での生 命の可能性が重視されるが、問題は推測の 域を出ないものだ。 人口過剰 OVERPOPULATION 〔 B S 〕 惑星に向かう。 カットナーの "We Guard the Black Planet" ( 1942 ) もそこが舞台た。フィリッフ。・ K ・ディッ 259 1798 年に T ・ R ・マルサスは、平和で物 資が豊富なユートピア状況は達成不可能だ という点を論理的に証明しようと、『人 口論』刃 0 〃 the ~ 加ゆ ~ 02 ″ I の〃 4 5 お〃尾 〃第襯劭ま & の第一版を出版 した。その論拠は、戦争や、飢餓や、疫病 などによる歯止めがなくなると人口は加速 度的に増える傾向があり、そのため社会は 絶えず資源を追いこすかたちで成長すると いうものである。第二版 ( 1803 ) では批判 XIII

5. SFマガジン 1984年10月号

高温有機超伝導物質が、惑星〈ヴァイス〉の内部に、永久電流をそそぐ。フラズマの重みにたえかねて、一〇億年も以前に超新星と化 生じさせていたことは疑いない。そして、それが〈ヴァイス〉の磁してしまっていただろう。 場を形成していたことも、トネガワの予想していたことだった。 むろん、この磁場システムも恒星の進化のすべてをコントロール 永久電流による惑星の磁場ーーーそれは、地球磁場の研究においてできるわけではない。 も、ダイナモ理論の提唱以前から検討されていたことだったから 白色矮星に降りつもる水素の。フラズマ・ガスを完全に除去するこ とが不可能である以上、白色矮星はいつの日かその重力に耐えられ そして、トネガワの理解できぬさらに特殊な機構によって、〈ヴなくなり、巨大な核爆発を起こすであろう。 アイス〉の磁場は連星と見えない糸で結びついていたのだ。 近接連星系における超新星爆発のメカニズムは、白色矮星の質 トネガワは、コンビ = ータと一体化した〈眼〉によって、。フラズ量、降りそそぐ。フラズマの量と時間に密接にかかわっている。それ マ風が連星と〈ヴァイス〉をつなぐ一筋の糸となって、滝のようには単なる新星爆発とちがって、一九八〇年代に明らかとなったいわ ゆる第型のヘリウム爆轟タイ。フ超新星である。 極にふりそそぐ光景を思い起こした。 。ハーノヴ ・フラズマをふりむくすべての運動する荷電粒子は、磁カ線によっ しかし〈ヴァイス〉の磁場によるコントロールは、スー てその運動方向と直角な方向に力を受けるーーすなわちローレンツ ア化の時期をじつに一〇億年以上も遅らせることに成功したのだ。 力が、自然界には存在する。 惑星〈ヴァイス〉がもっていた資源ーー高温有機超伝導物質。そ 本来なら主星のロシ = ・ロー・フからラグランジ、点をこえて白色れが作りだす強力で精巧な磁場システム。そのシステムがコントロ 矮星に流れこむべきプラズマ粒子は、〈ヴァイス〉のはなっ磁カ線ールする連星系のプラズマの流れ。それによって延期されたスー からうけるローレンツカによってらせん運動を強いられ、二億三〇ーノヴァ化の時期。そして、〈ヴァイス〉に降りそそぐ。フラズマに 〇〇万キロメートルの行程の末に《氷河》の上に降りそそいでいたよって繁栄する《氷河》と《プラズマ・ のである。 それらは、自然が創りだした見事なセルフ・コンシステント・シ つまり、〈ヴァイス〉のはなっ磁場は、連星のスー 。ハーノヴァ化ステムだったのだー をじつにたくみに防いでいたのだ。 しかし、人類の無謀な資源開発が、そのシステムを、宇宙の歴史 から見るなら、一瞬のあいだに、ぶちこわしてしまったのだ。 本来なら白色矮星上へ沈下し核爆発を誘発するプラズマ粒子を、 みずからの惑星上へひきずりこむことによってー 超伝導物質の欠乏は、惑星の磁場を急速に弱体化させ、連星の。フ そしてそのことはまた、《氷河》と《プラズマ・ ハード》にゆた ラズマ風は〈ヴァイス〉に大量にふりそそぐことを止めたのだ。 かなエネルギー源を提供することになったのである。 ード》は生命源である。フラズマをもと 9 そのため、《。フラズマ・ もし、このシステムが存在しなかったとしたら、白色矮星はふりめて、連星のそばまでゆかねばならなかった。 : 」 0

6. SFマガジン 1984年10月号

ビルス そして、彼の振り回す腕が、危うくルー・風をかすめた。 ミ 1 ラー・ t--äが、やはり大声で応じた。 「そしてーーそう ! さっき、アイリーンが暗唱したヘルメスの詩ルー・風は、慌てて一歩、後退った。 そして、何気なく視線を上げーー 篇とされるものにすら、はっきりと謳われていたではないか それに、気付いた。 ″かくして、世界は創造されたと : : : 」 それーー 「つまり、それが錬金術の本質だとおっしやるんですね ? 」 それは、岩の裂け目の向こうにいナ 「 : : : かって、地球という世界が、何ものかによって、どのように その陰から、じっと彼等を見下ろしていた。 してか、創り上げられた : ・ : こ ピルス ミーラー・が、ゆっくりとる。 目 : : : そう見えるふたつの光が、なおも腕を振り回しているミ ピルス 「 : : : その様子を、創世の神話が伝え、そして、その世界創造の技ラー・のヘルメットよりもはるか高みに浮かんでいた。 そして : : : そして 術が、やがて錬金術と呼ばれるようになる知識として、極度に卑小 それは、いま、まさに、その岩の割れ目の陰から、得体のしれぬ な姿となりつつも、かろうじて伝えられてきた : : : 」 ピルス その姿を乗り出そうとしていた。 そして、急に、は立ち上がった。 「おまえたちは知るまい。この惑星が、なぜヴィーナスと呼ばれて ヘルメットの中で、ルー・風のロが思いきり開かれた。 ヴィーナスとは、つまり、アッカド人たちがイシュ きたかを・ーーー が、そこから発せられるはずの悲鳴が、喉の奥に引っかかって、 タルと呼んだ惑星の女神であり、さらに古くは、シュメール人によ 出てこない。 ってイナンナと呼ばれていた」 ピルス ミーラー・は、危険なほどの勢いで、金星服の腕を振り回金星服の中で、ルー・風はもがいた その動作をパワード・ トが、より大袈裟な動きに変えた。 し、言った。 ル】・風は、よろめいた。 「何故だーー ? 何故だと思う ? どうして、この惑星がそのよう ただ単に、空にかかる明星を、美神そして、二歩、三歩と下って、坑道側面の岩壁にぶつかった。 に呼ばれてきたと思う アイリーン・が、振り返った。 に見立てて、そう名付けただけだと思うかね ? 違う ! そうじゃ この星は、そう呼ばれるべき惑星だったのだよ。彼等は、そ「どうしたの ? 何を、してるの ? 」 が、恐怖の余りせり上がった心臓に塞がれて、息が詰まったまま れを知っていた。イナンナ、イシュタル : : : あるいは、ヴィーナス とそれぞれの言葉で呼び代えながらも、彼等はつねに、この星に同だ。 じ属性を与えてきた どうしても、声が出ない。 ビルス ミーラー・の喚き声が、痛いほどに鼓膜を連打する。 ー 42

7. SFマガジン 1984年10月号

しく輝く核爆発の炎が見られた。 ・こ ! 通話可能時間内に返事がほしい」 トネガワは、ようやく生命の危機から逃れた反動による虚脱感に トネガワは、驚いた様子の同僚の反応を無視してまくしたてる 8 おそわれながら、シートに深々と身を沈めていた。 と、コロニーに配備された巨大コンピ、ータからの返事を待った。 超光速航法のシステムが作動をはじめるのには、、 しましばらく時気の遠くなるような数分間がすぎ、解析結果が届いた。 間が必要だった。 不審げな同僚の声を最後まで聞くことなく回線を切ったトネガワ は、巨大コン。ヒュータが九九・九九。 ( ーセントの確度で断定してい 無煙シガーの苦い香りがロの中をみたした。 る結論をくいいるように見つめてた。 いま、一つの星系が、終焉をつげたのだ。 そして、そこに生まれ、進化した惑星と生命が : 解析結果は、おどろくべき事実を語っていた。 コンビュータのアウト・。フットが示すその結論は、なかば予期し この星系とそこに棲む生命を制御していたものは何だったのかっ・ ていたことであったにもかかわらず、トネガワを驚愕させた。 そして、それらを破減にみちびいたものは : トネガワの、疲れきってはいたがとぎすまされた頭脳は、ほとん惑星〈ヴァイス〉は、高温有機超伝導物質によって生みだされた どその解答を見出しかけていた。 強い指向性をもった磁カ線を連星系までのばすことによって、連星 しかし、最後の確認がほしかった。そうと断定しきれる、決定的 6 スーパーノヴァ化を防いでいたのだー な解析が必要だった。 つまり、この星系では、母星が惑星をーーではなく、逆に惑星が 探査艇の小型 0 ン。ヒ = ータでは、残念ながらその解析に必要な容母星をコントロールしていたのだリ 量がわずかに足りなかった。 惑星が母星を支配する そのとき、とっ・せんコンソールの上のスピーカ 1 が鳴った。 そんなことが、ありうるのだろうか ? 「即時通話ゾーンに入った。報告せよ」 それは、一見起こりえぬ現象のように思えた。しかし、質量もエ 同僚の間のぬけたような声がトネガワの心を乱した。 ネルギーも巨大だからといって母星が惑星の支配を受けることはな 「〈 *00 六九一〇〉が超新星化した。そちらも八年後の対策をた とは誰も断言できないのだ。 てておくんだな」 しやそれよりもはるかに巧妙に、 人類が地球を支配したように、、 トネガワはそれだけ言うと、無造作に回線を切ろうとした。 このちつぼけな惑星は母なる二つの恒星を操作していたのだ。 しかしそのとき、タッチ・パネルに伸びた指が無意識にとまっ それは、星々の創造主たる大宇宙がやってのける、大いなる奇蹟 のひとつだったのだ。 トネガワは、みずからを納得させるために、いまや疑う余地のな 「ちょっと待て ! やってほしいことがある。連星の観測データを 送るので、そちらのメイン・コン。ヒュ 1 タで解析してくれ。すぐに くなったこの事実をもういちど頭のなかで整理する必要を感じた。 こ 0

8. SFマガジン 1984年10月号

惑星からの撤退の素早さ、事故の放置、そして惑星への立入禁止措今回の探査記録にこの規約違反行為が自動的に記載されることは 置といった事実は、 = コノコー・フ社が何かの不手際を隠そうとして明らかだった。調査報告を見る公団の幹部たちがエコノコー・フ社と の関係悪化をおそれて、トネガワにたいし厳しい処分をくだすこと いることを物語っているのだろうか ? は、当然覚悟せねばならなかった。 探査艇が〈ヴァイス〉に接近するにつれて、《氷河》の表面の様 しかし、トネガワは引き返すつもりなど、毛頭なかった。 子がより詳細に見えてきた。 一面の白銀色の素地の上に、細い縞模様がいく筋もあった。それ舷窓に惑星の昼夜を分かっ赤道付近の光景がクローズ・アツ。フさ は、北極から放射状に延びており、まるで惑星の上に引かれた経線れはじめた。 トネガワは、エコノコー・フ社の採鉱施設の正確な位置をデータ・ のようだった。 北極の上空に微かなビンク色の輝きが、ときおり見られた。それマツ。フで確認すると、艇をその地点にむけて降下させていった。 は大気と磁気をもっ惑星にはおなじみのオーロラの光だったが、 ネガワはその光の弱さに落胆した。 エコノコー・フ社のレポートでは、目のさめるような色とりどりの 天界のカーテンが織りなす光景を、いかにももったいぶった表現で着地した艇から降りて見上けると、天頂から南の空にかけて、希 紹介していたからだ。 薄な大気の上には星空があった。 ふきすさぶ嵐の中で、惑星〈ヴァイス〉はいままさに死のうとし 北の白い地平線には、黄白色の楕円盤がかかっていた。 ているのではないだろうか ? それは、沈みゆくタ日のように見えたが、この地点から見ている トネガワは、ふとそんな思いにとりつかれた。 かぎり、けっして沈むこともなければ、また昇ることもない存在だ 探査艇が惑星の公転軌道に入ると、とっぜんコンソールの上に赤った。 い警告ラン。フが灯った。 地平線に平行な楕円盤の長軸の右がわに、小さなオレンジ色の星 を、かろうじて見分けることができた。 『帰還せよ ! 侵入を禁ず ! 』 はっきり口ポットのものとわかる、金属的な声がした。 この明るい主星と高密度の伴星は、惑星の自転にあわせて位相を 同時に、警告灯が旧式なミサイルの接近をつげた。 ずらせながら、たがいにその周囲を回転するという、複雑な動きを それは、エコノコー。フ社が立入禁止の措置をやぶる侵入者にたい見せるはずだった。 して仕掛けた、監視衛星からの子供だましの威嚇だった。 もしこの惑星上で進化した知的生命がいるとしたら、この二つの トネガワは、その攻撃を簡単にかわすと、探査艇を惑星の大気圏太陽の運行は、かれらの文明にユニークな時間の概念を植えつけた四 へと突入させた。 ことであろう。

9. SFマガジン 1984年10月号

「錬金術の何たるか、だと 下らん ! おまえたちは、儂の ・前回までのあらすじ・ ことを、科学の正道を踏みはすして頭の狂った錬金術師とでも思っ 記録員であるルー・風は金星調査隊の欠員補充のために、金星の ておろうが、え ? まあ、 し そんなことは、どうでもいし 衛星基地《ヴィ 1 ナスター》へと派遣される。だが、到着した彼を かし、だ 待ち受けていたのは無人の発着ルームであった。彼は酷寒の発着ル この儂は、錬金術そのものになそ、まるで興味を持っ ームで内部への通路を探すうち、エレベーターを見つけるが、そこ ておらんのだ。分かるか ? 」 で白衣の女性アイリーン・に出会う。あまりの寒さに意識を失 「しかし、博士ーーー博士は、実際に、錬金術の実験を : : : 」 ったルー・風は彼女の部屋へ連れていかれ介抱され、彼は金星で撮 「いいから、聞きなさい。おまえたちは、そもそも、錬金術につい ったといわれるあきらかに人造物を撮ったと思われる不思議な写真 を見せられる。その後ローヴァー・ (.DO 少佐らと死んだ前任者であ て、頭から誤解している。知能の低い一部の神秘愛好者どもは、錬 るカーリ ・ s--2 のコビー・アンドロイドのところへ、情報の引き 金術を、何か万能の、科学を超越した魔術、秘術の類たと思いたが 継ぎに行く。ルー・風らはカーリー ・の死に関係のある映像記 る。もう少しましな知能の持ち主は、それを″金″を得る手段だと 録を受け取りそれを見るのだが、ミーラー・博士に邪魔をさ 考える。そして、知った風な口をききたがる程度の知能を持っ連中 れる。アイリーン・が博士を衝撃銃で倒し、ルー・風らは金星 ビルス になると、それを、化学をはじめとする自然科学の前時代的な形態 へ降下しようとするが、またしてもミーラー・博士に行く手 をはばまれながらも、説得の末四人で金星へ降下する。降り立った だったなどと解説してみせる : : : しかしーー」 一行は基地の試験坑道へと入り、博士に謎の石盤を見せられ ミーラー・の声は、その時、しごくまともに聞こえた。 るのだった : ・ 彼は、ひと呼吸おいてから、さらに言葉を継いだ。 登場人物 「儂に言わせれば、そいつらは、皆、同じたたの愚か者た。錬金術 を経ることで、化学が発達できただと ふん、確かに、化学 ルー・風 : : : 宇宙開発部隊所属の記録員。 アイリーン・ : : : 国際宇宙連盟所属、中佐。 それ自体は、錬金術を母体にして生まれたものかもしれん。しか ローヴァー・ : : : 部隊の先任士官、少佐。 し、化学を生み出すために、錬金術が存在したわけでは、断じて、 ミーラー・ : : : 連盟の嘱託研究員、惑星地質学者。 ビルス ミーラー・の調子が、次第に熱を帯びてきた。 もが、錬金術に対する誤解を積み上げてきたとも言える : : : 」 「それと反対に、錬金術が、科学を超越した究極の秘術なのだと信ここは、人類文明の最前線、金星タンムーズ基地の地下坑道であ じることも、実に馬鹿げている。世界が、土と水と風と火の四大原る。 素で成り立っているなどという説は、何かを象徴しているわけでは そこで、得体の知れぬ緑色の石盤を前に、錬金術に関する講義を なくて、単なる古代人の無知によるものだ。そうした無知を土台に聞かされている。 している″術″を、何か真理ででもあるかのようにあがめる低能ど ふと我に返って、ルー・風は、その異和のすさまじさに、思わず テー・フマン 9

10. SFマガジン 1984年10月号

惑星の半球をおおう白い物質ー、ー《氷河》は、それ全体がひとった、驚くべき生態系とそのシステムについて語った。 それは、太陽というおだやかな主系列星のもとで進化した地球型 8 の知性をもっ生命体だったのだ ! ド》を生命と認めざるをえない老学者たちの中に生命にとっては、信じがたい、すさまじい苦闘の歴史だった。《氷 《プラズマ・ ード》とは、祖先をともにする同じ進化の系 も、この異質な構造と組織をもっ《氷河》を生命とは認知しない者河》と《。フラズマ・・ハ たちがきっといることだろう。ましてや、人類と同じ知性をもった列に属する生命体だった。 生命体だーーなどと幾人の研究者が信じるだろうか ? 《氷河》が、惑星上に固着し、一つの巨大な神経網を形成し、知性 ード》は身軽な個体を しかし、トネガワははっきりと、《氷河》からの通信を聞いたのだ。を獲得していったのに対し、《プラズマ・・ ( それは、まぐれもなく知性あるものからのメッセージだった。 単位として進化し、連星からの。フラズマを求めて宇宙空間へ進出し はげしい、怒りにも似た《氷河》表面の激動にくらべて、そのメていったのだった。 ッセージは、低く沈んで悲しみをすらたたえていた。 しかし、いまやかれらの母なる惑星〈ヴァイス〉は、トネガワの あの廃坑にいた男は、《氷河》が知性体であることを知っていた直感どおり、死の床にあったのである。 のかもしれない。しかし、あの施設にはニュートリノ・ビームを受 いま《氷河》は、最後の力をふりしぼろうとしていた。 信する設備はなかったし、仮にそれがあったとしても、《氷河》の かれらは、子孫の繁栄を他の星系に求めようとしていたのだ。 難解な思考パターンを解読することは不可能であったろう。 かれらは、その膨大な知識と叡知のエッセンスを、無数の分身ー に移植したのだ。 ーそれは、かれらの子孫と呼んでもよかった 探査艇に装備されたコン・ヒ、ータは、どちらかというと小型では あったが、その任務の性格上、知性体とのコンタクトのための万能連星から得られる最後のプラズマ風を、かれらはその分身たちを創 。うまでもない。 るエネルギーとして、使い果たしたのだった。 言語システム・ソフトが搭載されていたことよ、、 トネガワの脳裏に、あの《氷河》の表面で見た、水品の結品のよ そのため、トネガワは《氷河》の思考パターンをほぼ解明するこ うな角柱が浮かんだ。 とができた。 あの透明な〈結晶〉こそ、《氷河》の分身の一つだったのだ。 しかし、それは一方的なメッセージであった。必死の努力にもか ード》に託した。 《氷河》は、その分身を《。フラズマ・ かわらず、トネガワは《氷河》に一片の単語さえも、伝えることに 成功しなかった。かれらが、トネガワの存在を意識していたのかす天翔ける〈鳥〉たちに命じて、かれらの子孫を広大な恒星間空間 らも、定かではなかった。びよっとすると、かれらはもっとかなたに放っことに、彼らは種族の将来を賭けたのだ。 の《光世紀》の外の世界にむかって信号を送っていたのかも知れな分身たちのほとんどは、無為のまま、永遠に虚空をさまよい続け ることだろう。しかし、なかには。フラズマ粒子の満ちた空間で目覚 《氷河》は、〈惑星〉ヴァイスが長い進化の過程でつくりあげてきめる分身がいるかも知れない。それは、何万年、いや何千万年、何