れを見たとたん、全身が恥すかしさでかっと熱くなり、手の指から「水 ? しかしーー雨というものが降らないんだぜ。むかし使われ 力が抜けた。スチールの箱が大きな音を立てて地面に落ちた。彼はていたような言葉の意味では」 「溝を掘るんだよ。水はまだあるが、それにはまず土地を掘らなき ぼんやりとその箱を拾いあげると、なすすべもなく立ちつくした。 ゃならない」 やみくもに、あてどなく、どこかへ駆けだしていきたかった。どこ ここではないところへ。この居住地の外にある、沈黙と でもいい ドーズは貧弱な火をおこすのに成功したーーまだライターにオイ 闇と動きまわる影の中へ。死んだ天に覆われた荒野へ。 ルが残っていたのだ。ドーズはポンとライターを返してよこすと、 ビルトングは、群集がおそいかかってくるのを見て、自分のためたきぎをつぎたすのに専念した。 ファーゲスンは坐ってライタ - ーをいじりながら、ずばりとたずね に防御シールドを、天の保護壁を模造しようとしているのだった : こ 0 「こんな品物をどうやって作れる ? 」 二時間ほど歩いたところで、ドーズは足をとめ、どこまでもひろ「作れないさ」ドーズは上着のふところに手をつつこんで、平べっ たい食べ物の包みをとりだしたーーー干した塩漬けの肉と、干したト がる黒い灰の上に腰をおろした。 ウモロコシ。「複雑な品物をいきなりは作れない。段階をふんで、 「すこし休んでいこう」彼はファーゲスンにいった。「煮ればいし だけの食い物もあるんだ。そこに持ってるロンソンのライターを貸ゆっくりやらなきやむりだ」 してくれないか。まだオイルが残ってるなら」 「健康なビルトングなら、これを見てすぐに模造できる。ビッツ・ハ 1 グのビルトングなら、このライターと寸分ちがわない複製を作れ ファーゲスンはスチールの箱をあけて、彼にライターを手渡し た。冷たく臭い風が二人のまわりに吹きすさび、舞い上がった灰るよ」 「わかってる」ドーズはいった。「それがわれわれの障害なんだ。 は、荒れ果てた惑星の表面を黒い雲のように横切っていく。遠くに いくつかの建物のぎざぎざした壁が、骨の破片さながら、に彼らがあきらめるまで、待たなくちゃならない。いずれはそうなる ゆっと突っ立っている。あっちこっちに、黒っぽい、不気味な雑草よ。彼らだって、自分たちの星系へ帰っていくしかなくなるーーこ こに長居をすれば、種族自殺だからね」 が茎を伸ばしている。 ファーゲスンは発作的にライターを握りしめた。 「見かけほど死にたえた世界でもないよ」ドーズはまわりの灰の中 から枯枝や紙屑を集めながら、ばつりとそういった。「犬やウサギ「じゃ、われわれの文明も、彼らといっしょになくなるのか ? 」 ドーズはニャリと笑った。「ああ、 がいることは、あんたも知ってるだろう。それに、たくさんの植物「そのライターのことかい ? 」 の種も埋もれているー この天に水さえやれば、芽ぶいてくるんそれはなくなるーーーすくなくとも、かなりの期間。しかし、あんた刀 の物の見方が正しいとは思えないな。われわれは自分自身を再教育
てこみあげる欲望を無視し、黙っている。もし思うがままに行動し通りへ山たカーツマンはプロックの先で二本の映画が上映されて たら、推敲を重ねた完璧な生活を築くことの意義はどうなるのだ ? いるのを見つける。切符をすでに買ってから、二本とも前に観たこ と考える。アンジェラ・レポザが自発的に彼の生活に侵入したり、 とがあるのを思いだす。実際のところ、ゆうべだ。これは同じ出し 生活の流れを牛耳ったりするのをほうっておいたら、たとえそれが物であるーーー「クインテット」と「三人の女」 , ーーこの映画館で、 ほんの一時期でも、ウイトゲンシ = タインの一撃の瞬間以来、彼が彼はあの女の子、名前は忘れたが、蝶の形のあざのある女の子に会 生きるきまりとしてきたすべての教訓が、無意味になってしまう。 ったのだ。もう一度やってみようと決心するあいだに、しかし、か その日遅くドアにもう一度ノックがあったとき、カーツマンは不動なりの主観的時間が経過した。いったんなかへはいると、一本めの の決意をしている。彼は胸の上で腕を組み、よくやったといわんば最初の三十分は終わづたあとで、彼はそわそわしてくる。思わず時 かりに自分に向かって目くばせする。今や身体すら、むすむずするをさかのぼり、いつのまにかまた。ヒッツア店の外にいる。彼は通り のをやめていた。彼は再び自分の運命は自分で決める男となる。 を横断しはじめる。半分までさしかかったとき、怪鳥の断末魔の叫 ッという音がして、彼の注意を惹きつけ びのような甲高いキイ 0 る。ハッと顔をあげると、最新モデルの車のフロント・グリルがわ ずか数インチのところに迫っている。フロント・ガラスのなかのド 日が暮れたとき、カーツマンは動きだすことにする。足音を忍ばライヴァーの歪んだ顔が恐ろしそうに口をあける。一瞬ののち、カ せて廊下を歩き、階段をおりて、外へとびだす。アパ 1 トからは徒 1 ツマンは逆戻りして、かろうじて確実な死を避ける。ふるえなが 歩でも繁華街のヴェンチュラ・アヴェニュ 1 までは比較的近い。一ら、彼は再び。ヒッツア店の前に立っている。通行人たちが血の気の 日中何も食べなかったので、胃がーーー身体はそうでなくともーーか ないこわばった顔をしろじろ見る。ふるえをおさえようと、両腕を っえている。。ヒッツアの店がさし招いている。薄暗い店内にはいる抱きかかえる。通りでは彼をあやうくひくところだった車が、さっ と、赤々とした。フラスチックの暖炉で電気の薪がちらちら光って いと走りすぎていく。それを見ながら、死なずにすんだ幸運をカーツ る。ペ。 ハロニ・ビッツアの小さいのを注文する。運ばれてきたピッ マンは痛感する。ちらりともふり返らずに、彼は回れ右をして家路 ツアは、彼の好みにはちょっとスパイスがききすぎている。時間ををたどる。廊下をへだてた部屋のドアの下から、青白い光が漏れて さかのぼって、。 へパロニの代わりにソーセージ・ビッツアを注文すいる。自分のア・ハートにはいったカーツマンはさんざん物音をたて る。今度のほうが好みに合う。背の高いグラスに数杯ビールを飲みる。しかしアンジェラ・レポザはあらわれない。一晩中彼女のこと ながら、食事を流しこむ。出ようとして立ちあがると、膝頭が危つを考え、翌朝は彼女が新聞を失敬するのにまにあうように起きる。 かしくガクガクする。ビール一瓶は多すぎたのだと考えて、ひょい 彼女は徴笑して彼を見上げ、コーヒーは大好きよと認める。彼らは 5 と逆戻りし、最後の一杯を慎しな。 部屋に消える。
て重大な第四五星区プロック化の阻止という大命題にもとづくものするか、聞きたいものだと考えた。ダノン・ eo ・セク日ビアは、 たカタノンは、と 3 であっても : : : 彼がどこかで何らかの意味で、好むと好まざるにか今の院長の方針に追随しているのだろうか ? かわらず、しかも一度や二度ではなく、おのれの出身世界を、おのうとうおしまいまで、説明役としての登場はしなかった。 れの故郷を、おのれを生み育ててくれたものを、裏切り叩かねばな 説明のあと、彼はチャム・ハト・・ディルと、・ タノンを含む数 らぬときが、必ず到来する。彼はそのことを覚悟していた。やむを名について、養育院の内部を見学した。見学といったらいいのだろ 得ないことだとも思っていた。その自分に唯一のなぐさめがあるとうか : : ・。職務による訪問ではないのだから、やはり見学であろう するならば、自分以外の誰がこの仕事にあたっても、何らかのかた が、自分が暮らしていた場所を眺めて廻るのが見学とは、いかにも ちでタトラデン世界に打撃を与えるであろう、自分ならその打撃を妙なものであった。 最小にとどめ得るのではないか、自分はタトラデンを知っているか彼は、かって学んだ教室や、走り廻った運動場、暮らした部屋な らそれが出来るのではないかーーとの自負があり、そのために自分どへ、次々と案内された。チャム・ ( ト院長は、司政官がいっ到着し は努めているのだ、との気慨があったからである。 いっ養育院をあとにするかをあらかじめ告げられ、それによってき その手はじめが、これだというのかっ・ ちんとスケジュールを作らせていたようである。彼の″見学″は、 ガレャン・ rno ・ビアの作りあげた西北養育院の姿が、後任の院機械のように正確に行われた。自分の好きなペ 1 スで見て廻るのな 長によってねじ曲げられて行くのを許す、ということなのか ? ら、もっと感慨の持ちょうもあったろう。しかし、こういうやりか とはいえ。 たで、しかもおのおのの場所には院生が整列して出迎え、いちいち 彼は、おのれを抑えつけた。 声をかけなければならないのでは : : : その上、報道陣がずっとっき : どうにも中途半端であった。 チャム・ハト・ TJ ・ディルが絶対的な間違いをしているとは、必まとっているのでは : ずしも断言し得ないのである。自分は、自分の信条と感覚でそう判そんなわけで、院内をひとわたり廻り、今度の訪問についての記 断しているだけなので、別の見方からすれば、チャム・ハト院長は、 者会見の準備が整うまでチャム・ハト院長やダノンとほかふたり、そ 西北養育院を望ましい方向に持って行こうとしているのかも知れなれにロポットたちと院長室に戻って来て休息かたがた待っことにな いのだ。そういう考えかたも一方であるかもわからないのである。 ったとき、彼は、自分の期待が予想以上に満たされなかった不完全 それを、今にわかに、 ここまで深刻に考えることはないのかも知燃焼の感覚と、養育院自体が変りつつあるとのかすかな焦りと不満 のために、顔には出さないものの、ほとんど怒りに近いものさえお れぬ。 ぼえていた。 そう思い直しつつ : : : 彼は、ガレャン・・ビア時代の西北養 ( 以下次号 ) 育院の出身であり、彼と同じく養育院入りするにあたって、慣習的 に本名の下に院長の名ーーービアをもらったダノンが、どんな説明を
送ってくれるファンジンなどに載っているスペ は、そうしなければいけない文章だ : ・ 。それにているのに、その舞台作りに関してひどく無関心 ース・オペラの中には、この辺りを通り一遍の設 なのではないだろうか ? しても、妬ける : ・ 自分の創造したキャラをなんとか面白く活躍さ定でごまかしているために、ディテールがちっと ーを展開もはっきりしてこなかったり、全然リアリティー ートラム・チャンド せ、自分ならではのユニークなストーリ さて、こうして、私の〈・ハ ラー〉のファイルはひとまず閉じられた。 ( 明日させようとしているというのに、その舞台が一体が出てこなかったりして、あたら退屈で月並な作 品になっている例によくぶつかる。 は楽しい QNOOOZ 、本当なら昨夜、東京の歓どんな世界 ( 空間、社会、設定 : : : ) なのかにつ それは、当然の約束事だから : : : というつもり いてはひどくお座なりなのではあるまいか ? 迎。ハーティーを終って彼を北海道へ送りだした頃 なのだ ) しかしこうして、私のような、自分もなんとか を書きたいと思っている人間が、これまで縁 もゆかりもなかった一人の男の書いたを一〇 年以上にわたって十数冊も訳してくると、それは、 単なる読者のレベルとは桁の違う形で大きな影響 を受けていることに改めて気がつくのである。 私が・ハ ートラム・チャンドラーの作品を訳すこ とになったのは伊藤典夫の勧めによるもので、と くに自分との相性 ( ? ) みたいなものを考えて始 めたわけではなかったのだが、今から振り返って みて、この仕事が自分に与えてくれたものの大き さ、自分に欠落していたものを埋めてくれた部分 の大きさに改めて気がつくのである。それについ てはいずれくわしく 白状する。 さてそこで、ス。へ ース・オペラを書こ うというキミへのお 話である。 最近、気がついた 事なのだが、君は自 分しか書けない、面 ラを書こうと苦心し S 籠 〇 P 籠ー SENSE 〇 F W 〇 NDERLAND 9
株式相場を一瞥して時間をさかの・ほり、賢い投資をしたこともある し、午後テレビでケンタッキー・ダービーを見、前の週に戻って、 / イレ 近所のノミ屋を訪ねたこともある。七九年のシリーズでは、。、 ーツがオリオールズを四勝三敗でくだした。だが、それが何にな大学を中退したあとはしめた彼の作家業はまずまずだった。はじ る ? カーツマンの小説は、彼の控えめな習慣を支えるのに充分すめ、彼をかかえる出版社は本一冊につき、たったの二百五十ドルし ぎるほどの金をもたらしている。力については、まあ、彼のみるとか払わなかったが、今や原稿料はかなりの額になっている。彼はた ころ、すでにある。自分の運命をあやつる力。どれだけの人が ったのひとことも書き直さないし、本名は絶対使わなかった。世界 どんなに金持でもーーーそう言いきれるだろう ? そのうえ、巨万の文学の広大な池にかすかなさざ波すらたてることなく、カーツマン 富やカを築くには、 かなりの時間を投資する必要がある。わずかはゆうに百冊をこえる本を書いてきた。ただ一つの例外は、二年前 二、三日で株価が劇的にはねあがることはめったにない。本当の財にイリノイ州ビッカム郡の悪書撲減運動にたすさわる検事が、彼の 産を築くためには、何週間も何カ月も延々とかかって、まったく同著書の一つを読んでワイセッだと言明したことである。事件は裁判 じろくでもない過去を生き直さねばならないだろう。といっても、 にはいたらず、唯一の派生物は、本名が漏れて、ローカル・ラジオ 、り、トークショウの出演を依頼されたことだ 彼がときおりの賭けをしなかったというわけではない。しかしそれの放送局から声がかカ に取り憑かれることはなかった。カーツマンは若者ーーー一九七〇年った。その十五分の放送時間が、結局生涯で一番長い時間になっ ーク」は彼の 代のーーの典型である。「タイム」や「ニューズウィ た。カーツマンは自分が金持にも有力者にもなりたがらなかった事 ( しくらでも 物事の考え方をもとにカバーストーリーが組めるだろう。カーツマ実に、あらためて感謝した。金持や有力者というのよ、、 ンにとって本当に興味があって , ーーなおかつ大事なのは、自分のこしゃべりまくると思われているからだ。十五分からタイムをさ とだけだ。 / 彼の人生の唯一の目的は、変動するおのれの個性の境界っぴいた時間を埋めるのに、彼はまる三カ月を費した。トム・ドラ 内で、できるだけ完璧な、満ち足りた生活を送ることなのである。 モンド・ショウはぶつつけ本番の生放送なのである。なんとついに そして、そうしてきたと彼は固く信じている。とはいうものの、比は、一部の答えを二十回、三十回と手直しする始末だった。それで 較する対象があるわけではない。手直しをする才能に恵まれていなもまだ満足できず、とうとう音をあげて、一日逆戻りし、局からの かったら、どういうことになったか知るよしもない。今頃死んでい電話に出なかった。彼は人生が異様に複雑であることに気づくよう になった。長時間の緊張にとうてい対処できない。 るかもしれない。落下した隕石に押し潰されて。金持の有名人にな る見込みもある。カーツマンはさしたる理由もなく、急にひどく気 が減人ってくる。今までの人生の台本はうっちゃって、再びやり直 とうしてなのだ ? す時期なのかもしれない。だが、・ っ 4 5
嚇だ ~ け ) と・思〔 ~ プんだい 一れ 0 ぽおちので 、昔の気持ぢはク 。はだ ~ にて入フ : 今は誰かの手を 借りたい 助けてほしい そんな事しか = = 0 えないけど 誰にも影響されない 「自分のカで自分を 信じて進んでいける」 っ - ーを いっかそんな風に なりたいんだ ど , っした】 どうしたんた スティッグー
たかもわからない。だが、今のような状況下で司政官がそんな真似 をしようとしても、まず無理なのである。それを可能にしようとエ 夫し強権を発動して強引に押せば、ひょっとすると、あるいは可能 にすることもあり得るだろう。しかし、それが植民者たちの反感を 招き寄せるのは確実であり、彼が連邦から与えられた使命を遂行す るさまたげになるのでは : : : 正に、木を見て森を見ず、ということ になるのだ。 といって、彼がチャムパト・・ディルに今の方針を考え直す ように進言したり勧告したりしても : : : 何の効果もないであろう。 チャム・ハト院長は、自己の信念によって、わざわざこれまでの前任 者の方針を転換して来たのだ。直接チャム・ ( ト院長とはかかわりの ない司政官の言に耳を傾けたりする位なら、はじめからそんなこと はしていないはずなのである。 とうしようもないのだ、と、彼は思った 1 自分 . には、・ すくなくとも今のところは、自分にはチャム・ハト院長の行き方を 変えさせることは出来ない。そしてまた、そういうチャム・ハト院長 の職を免じさせる方法もない。無理算段をすればあるいは可能かも 知れなくても、それが自分の使命遂行を困難にさせるのなら : : : そ う、たかが ( この言葉を、彼は苦い気分で反芻した ) 西北養育院の ために : ・ : ・自分がそこで育てられ教えられたとはいえ、たかが一養 育院のために、司政官として与えられた使命を遂行困難にするよう な真似は、してはならないのだ。 そして。 これは、手はじめなのかも知れなかった。 彼が与えられた使命とは、彼の出身世界の活力を失わせる : : : そ のために内争をおこさせるというものである。それが、連邦にとっ カート・ヴォネガットの世界 幵ンピオンたちの朝食 浅倉久志訳定価 1600 円 モン←・ハウスへようこそジェイルバード 伊藤典夫・他訳定価 1700 円 浅倉久志訳定価 1200 円 ハヤカワ文庫 SF 猫のゆりガご プレイヤー・ビアノ 伊藤典夫訳定価 360 円 浅倉久志訳定価 580 円 ロースウォーターさん、 タイタンの妖女 あなたに神のお恵みを 浅倉久志訳定価 420 円 浅倉久志訳定価 380 円 スラップスティック スローターハウス 5 浅倉久志訳定価 340 円 伊藤典夫訳定価 340 円 早川書房 単行本 9- 2
もうつぶれたあとだった。あとに残ったのは、すつばだかで凍えなけ出来がいいかわかるだろう ? オリジナルとほとんど変わりがな いぐらいだ。二つ並べてよく見比べなきや、ちがいがわからない」 6 がら、腹をすかせてさまよっているわずかな生存者と、それをとっ ニャリと笑って、使い古されたジョークをつけたした。「ひょっと て食おうとする野犬の群れだけだ。あのいまいましい野大どもは、 いしたら、オリジナルとすりかえてくれたのかも」 あっちこっちから集まってきて、めったにないごちそうにありつ 「いますぐ決めなくてもいいでしよ。まだ、しばらく時間はあるも てやがったんだ・せ ! 」 四人はむしばまれた歩道の上にたたずんで、不安な顔を寄せあつの」シャーロットは・ヒ = ィックの座席の上からスチールの箱をとり の階段のほうに歩きだした。「いっしょにきなさ た。ジョン・ドーズのやせこけた顔さえもが、さむざむとした恐あげて、アパート いよ、べン」ドーズのほうにもあごをしやくってーーー「あなたもど 怖、骨身にこたえる不安を示していた。ファーゲスンは、十八キロ 東にある自分の集落のことを、憧れをこめて思いかえした。繁栄とうぞ。ウイスキーでも飲んでいって。そうまずくもないわよーーーち よっぴり不凍液みたいな味がするし、ラベルの字は読めないけど、 活気ーーー。ヒッツ・ハーグ集落のビルトングは、まだ若く、働きざかり で、種族特有の模造力をたつぶり持ちあわせている。ここのようなそれさえがまんすれば、たいしておしやかにはなってないわ」 ことはないー 彼女が階段の一段目に足をかけたとき、職人がひきとめた。 ビッツ・ハーグ集落の建物は、どれも丈夫だし、汚れもない。歩道「あんた、上がっちゃだめだよ」 シャーロットは驚きに青ざめた顔で、荒々しくむこうの手をふり は清潔で、しつかり足もとを支えてくれる。商店のウインドーに トースターや、自動車や、。ヒアノや、 はらった。 は、テレビや、ミキサーや、 服や、ウイスキーや、冷凍の桃が並び、どれもが原型と寸分のちが「わたしの部屋はこの上なの ! 家財道具だってーーーわたしはここ いもない模造品だーーー細かいところまで真にせまったそれらの複製に住んでるのよ ! 」 は、地下シ = ルターに真空包装で保存されているオリジナルと、ま「この建物はあぶない」職人はくりかえした。彼はもとからの職人 ではなかった。老朽化してきた建物を守ろうとしている、有志の町 ったく区別がっかない。 「もし、この集落が消えたときには」とファーゲスンが言いにくそ民の一人だった。「あの亀裂を見てみなさい」 「あんなものは何週間も前からあったわ」 うにいった。「何人かはうちの集落でひきうけるよ」 シャ 1 ロットはじれったそうにファ 1 ゲスンを手招きした。 ジョン・ドーズが物やわらかにたずねた。 「あんたのとこのビルトングは、百人以上の人間をかかえていける「さあ、早く」 彼女は身軽にポーチを駆け上がり、玄関の大きなガラスとクロー のか ? 」 「いまのところはね」ファ 1 ゲスンは誇らしげに自分のビィックムのドアをあけようとした。 ドアが蝶番からはずれて、破裂した。あっちこっちのガラスがい だから、どれだ を指さした。「きみはいまこいつに乗ってきた
を見ていることは、眠の様子でわかった。彼らは薄暗い午後、敷地れば、問題は言語学的なものだ」 「翻訳機では駄目ですね」わたしは決めつけるように言った。「機 6 をうろうろ歩きまわっている。 彼はわたしに向きなお 0 て、「このサナトリウムはフヌケのため械にまかせるには、デリケートすぎる仕事です。人間の通訳をつけ に造ったのに、逆に、救援に来たスタッフでいつばいだ。みんな考ていただけないでしようか ? 」 結局、彼自身が来てくれることになった。彼としては一枚かみた えすぎて、頭をかかえている」 この原因くもあり、かみたくもなしというところだった。おっと、こんな言 「わかります。わたしだって仲間入りするかもしれない。 い方をしたら、機械はついてこれるだろうか ? 君とわたしの間で がっかめなければ、みんなのお荷物になりかねない」 なら、まったくわかりやすい言い方だが。 彼は手を上げて、 「みんな、そんな風に言うよ。しかし、つきとめることのできるよ うな原因なんかありはしないんだ。あるいは、われわれに理解でき外へ出ると、ちょうどフスケの女性が一人、ゆるゆると中庭を歩 いていた。彼女がさっき話した老女と同一人物だったのかどうか、 ないのか、われわれ自身が原因に一枚かんでいたかのどっちかだ。 フヌケの失敗を分類できさえしたら、宗教的とか、精神的とか、経わたしにはわからない。彼女の顔におぼえはなかったし、彼女の方 でもわたしに気づいたそぶりはなかった。とにかく、わたしたちは 済的とか何とかに落ちつくんだろうが : : : 」 彼女を呼びとめて、一か八かやってみることにした。 「あなただって御同病じゃないですか」とわたしは言った。 「そうだ」わたしは唐突に言った。「航時船があるじゃないです「まず、なぜ自分で自分を埋葬したのか、訊いてみてください」 ポ 1 ルルが通訳すると、彼女はか細い声で短く答えた。 か。時代をすこしさかのぼって、何が問題だったのか、見て来れば 「彼女によれば、そうすることが必要だと考えられていたのだそう いいんですよ」 あんまり簡単な解決法だったので、いままで、な・せ見のがされてだ。計画の開始にあたり、融合の助けになるのだと言っている」 きたのか、わからないくらいだった。しかし、もちろん、見のがさ「どんな融合か訊いてください」 陰気な声の応酬。 れていたわけではなかった。 「彼らが計画していた融合のための融合だ。よくわからないが」 「やったさ」指揮官はあっさりと言った。「しかし、心の問題はー ー精神上の問題だとすればだがーー外からはうかがいしれないもの「最初の″融合″と後の″融合″は、原語では同じに聞こえます だ。われわれにわかったのは、六百万人のフヌケたちが例の浅い墓か ? 」 穴の中に、自分で自分を埋めたということだけだよ。全員がすむま「一方が語尾変化しているみたいだな。所有格だろうか。その点を でには百年かかっている。救出するまで、三百年間埋っていた者ものそけばどっちも同じようでもある」 「では -—ーそう、こう訊いてください。その計画というのは、人間 いるわけさ。時間を後戻りしただけじゃ駄目だ。われわれに言わせ
んか」 「私のように、神経の繊細なものには、ちょっとした悪口や中傷で 「要するに、使いこみが・ハレそうになったんで、その穴の言い訳も、こたえるものです。ーー・フラッド、後のことは頼んだよ。自分 4 に、狂言誘拐を仕組んだんでしよ。きれいごと言うんじゃないわよの可愛い姪が、兇悪な誘拐犯に殺される光景など、私には耐えられ ない」 「そういうものの見方も、あるのでしような」 サミュエルは、くるりと踵を返すと、倉庫の出口に向けて歩き出 サミュエルは、動じる様子もなく、平然として言った。 した。 「うまくいくと思っていたのですよ。身代金は無条件に経費として「そういうこと ? 」 認められますからね。あなたたちが、つまらぬ邪魔をしなければ後ろから、ジェ 1 ンが叫んだ。 いたましい ね。おかげで、狂言が狂言でなくなってしまった。 「後見人じゃあきたらなくなって、ペイカー家を完全に自分のもの ことです」 に、しようってわけ ? ご立派な叔父さんだこと ! 」 「あたしは、あんたをぶつ殺したくなってきたわ」 サミュエルは、顔だけふり向かして、にたりと笑った。 ジェーンは、くいしばった歯の間から、言葉をし・ほり出すように 「感謝してますよ。きっかけを作って下すって」 して、言った。 見張り役の男が、倉庫の扉を開けた。うやうやしく頭を下げる。 サミュ ) 一ルは、軽くうなずいて、出ていった。 「狂言であろうがなかろうが、そんなことして、ジンジャーが傷つ かないとでも思ったの ? 」 鉄製の巨大な扉が、重い金属音を響かせて、再び閉じられた。 「幼いころの記憶など、すぐ忘れてしまうものです」 ・フラッドが、三人をふり返り、サメのような笑いを浮かべて、言 サミュエルは、うすく笑った。 「それに、私が刑務所へ行ったら、ジンジャーはひとりぼっちです「さて : : : 」 よ ? 早くに両親をなくし、肉親と呼べるものは、私しかいない。 こんな小さな女の子を、ひとりぼっちにできますか ? 」 「偽善者 ! 」 ジェーンが、鋭く叫んだ。 「あんたなんかと一緒にいる方が、ジンジャーは、よっ。ほどひとり ・ほっちだわ ! 」 「やれやれ」 サミュエルは、ゆっくりと首をふった。 「出てきやがったぜ。サミュエル・ペイカ 1 だ」 「やつばり、ここだったな」 向いの建物の影で 1 , フクダとレイクが、互いの顔を見合わせて、 うなずきあった。 サミュエルは、倉庫の前に停めてあった、 > 仕様の白いべン ツ・ O を、自分で運転して、どこかへ走り去った。 っこ 0